1 マッチング
定義 1.1 (マッチング・増加道). グラフG=(V,E)において、辺集合M⊆Eがマッチングであるとは、Mの相異なる二辺が端点を共有しないことをいう。Mに属する辺の端点を M-飽和、そうでない頂点を M-非飽和という。
- 要素の個数∣M∣が最大のマッチングを最大マッチングという。
- すべての頂点がM-飽和であるマッチングを完全マッチングという。
- M-非飽和頂点から始めて、Mの辺とMに属さない辺を交互に通る道を M-交互道という。相異なる二つのM-非飽和頂点を結ぶ正の奇数長のM-交互道を M-増加道という。
増加道Pに沿って辺の所属を反転させる操作を、対称差M△E(P):=(M∖E(P))∪(E(P)∖M)で表す。Pの長さは奇数(非マッチング辺が一つ多い)なので、この操作でマッチングの大きさが1増える。これがベルジュの定理の核心である。
定理 1.2 (ベルジュの定理). マッチングMが最大であることと、M-増加道が存在しないことは同値である。
証明. (増加道があれば最大でない)M-増加道Pをu0e1u1e2⋯e2k+1u2k+1とする。両端u0,u2k+1はM-非飽和で、e1,e3,…,e2k+1が非マッチング辺、e2,e4,…,e2kがマッチング辺である。M′:=M△E(P)とおくと、M′はP上でマッチング辺と非マッチング辺を入れ替えたものである。Pの内部の各頂点ui(1≤i≤2k)は、Mでちょうど一本のマッチング辺(P上の)に接していたのが、M′でもちょうど一本(P上の隣の辺)に接する。両端u0,u2k+1はMで非飽和、M′でちょうど一本に接する。P外の頂点の接続は不変。ゆえにM′でも各頂点は高々一本の辺に接し、M′はマッチングである。Pは非マッチング辺k+1本・マッチング辺k本を含むので∣M′∣=∣M∣−k+(k+1)=∣M∣+1。よってMは最大でない。
(最大でなければ増加道がある)Mが最大でないとし、∣M∗∣>∣M∣なるマッチングM∗をとる。対称差H:=M△M∗を辺集合とする部分グラフを考える。各頂点はMの辺に高々一本、M∗の辺に高々一本しか接しないから、Hにおける次数は高々2である。ゆえにHの各連結成分は道または閉路であり、Hの辺はMとM∗に交互に属する(同じマッチングの二辺は端点を共有しないため隣り合えない)。閉路成分は交互だから長さが偶数で、Mの辺とM∗の辺を同数含む。いま∣M∗∣>∣M∣、すなわちH全体でM∗の辺がMの辺より多いから、M∗の辺をMの辺より多く含む成分が存在する。それは閉路ではありえず、両端がM∗の辺で終わる道Qである。Qの両端点はM∗の辺に接するがMの辺には接しない(Q内で端点に隣接するM辺がない)からM-非飽和であり、Qの辺はMとM∗に交互に属するのでQはM-増加道である。▨
定理 1.3 (ホールの結婚定理). 二部グラフGの部集合をX,Yとする。Xのすべての頂点を飽和するマッチングが存在することと、次のホールの条件が成り立つことは同値である。∀S⊆X,∣N(S)∣≥∣S∣.
証明. (必要性)Xを飽和するマッチングMがあるとする。各x∈Xをその相手M(x)∈Yに写す対応はS⊆X上で単射であり(相異なる頂点は相異なる相手をもつ)、像はN(S)に含まれる。ゆえに∣N(S)∣≥∣S∣。
(十分性)∣X∣に関する帰納法で示す。∣X∣=0のときは空マッチングがXを飽和する。∣X∣=1のとき、ホールの条件∣N({x})∣≥1よりxに隣接するyがあり、{xy}がXを飽和する。∣X∣≥2とし、より小さい部集合に対して主張が成り立つと仮定する。次の二つの場合に分ける。
場合 1: すべての空でない真部分集合S⊊Xで∣N(S)∣≥∣S∣+1(余裕がある). 任意のx∈Xをとり、N({x})=∅よりy∈N({x})を一つ選んで辺xyをマッチングに入れる。Gからx,yを除いたグラフでX′:=X∖{x}を考える。任意のS⊆X′について、Gでの近傍N(S)からyを除いた高々一つ分しか減らないから∣NG−y(S)∣≥∣NG(S)∣−1≥(∣S∣+1)−1=∣S∣.ホールの条件が保たれるので、帰納法の仮定によりX′を飽和するマッチングがとれる。これにxyを加えればXを飽和する。
場合 2: ある空でない真部分集合S0⊊Xで∣N(S0)∣=∣S0∣(等号がぎりぎり成立). まずS0∪N(S0)が張る部分グラフG0を考える。任意のT⊆S0について、G0でのTの近傍はGでのそれと一致しN(T)⊆N(S0)、かつ∣N(T)∣≥∣T∣。∣S0∣<∣X∣だから帰納法の仮定によりS0を飽和するマッチングM1がとれる。
次に、残りの頂点が張る部分グラフG1(部集合X∖S0とY∖N(S0))を考える。任意のT⊆X∖S0に対し、G1での近傍はNG1(T)=NG(T)∖N(S0)である。ここでホールの条件をS0∪Tに適用すると、NG(S0∪T)=NG(S0)∪NG(T)かつ∣NG(S0)∣=∣S0∣より∣NG1(T)∣=∣NG(S0∪T)∖NG(S0)∣≥∣S0∪T∣−∣S0∣=(∣S0∣+∣T∣)−∣S0∣=∣T∣.(S0とTは互いに素なので∣S0∪T∣=∣S0∣+∣T∣。)よってG1でホールの条件が成り立ち、∣X∖S0∣<∣X∣だから帰納法の仮定によりX∖S0を飽和するマッチングM2がとれる。M1とM2は頂点集合が互いに素なのでM1∪M2はマッチングであり、X=S0∪(X∖S0)全体を飽和する。▨
定理 1.4 (ケーニヒの定理). 二部グラフGにおいて、最大マッチングの大きさと最小頂点被覆(すべての辺の少なくとも一方の端点を含む頂点集合)の大きさは等しい。
証明. 部集合をX,Yとする。弱い向き(最小頂点被覆≥最大マッチング)はすぐわかる:マッチングMの辺は互いに端点を共有しないから、それらを覆うにはマッチング辺ごとに相異なる頂点が少なくとも一つ要り、任意の頂点被覆は≥∣M∣個の頂点をもつ。したがって最小頂点被覆≥最大マッチング。
等号を示すため、最大マッチングM(∣M∣=m)から大きさmの頂点被覆を構成する。XのM-非飽和頂点全体をUとし、Uの頂点からM-交互道で到達できる頂点全体をZとする(交互道はUの頂点から非マッチング辺で出発し、以後マッチング辺・非マッチング辺を交互にたどる)。定義により、Z∩Xの頂点はマッチング辺で(または始点として)到達され、Z∩Yの頂点は非マッチング辺で到達される。ここでK:=(X∖Z)∪(Y∩Z)とおく。
Kは頂点被覆である. 辺xy(x∈X, y∈Y)がKに覆われないと仮定すると、x∈/X∖Zすなわちx∈Z、かつy∈/Y∩Zすなわちy∈/Zである。
- xy∈Mの場合:x∈Z∩Xが始点Uに属せばxは非飽和なのでxy∈Mに反する。x∈Z∩X∖Uなら、xはマッチング辺で到達されているから、xの唯一のマッチング相手はZに属する。その相手はy(xy∈M)だからy∈Z、矛盾。
- xy∈/Mの場合:x∈Z∩Xから非マッチング辺xyに沿って交互道を延長できy∈Z、矛盾。
いずれも矛盾するので、すべての辺はKに覆われる。
∣K∣=m. 二つの観察を用いる。
(i)Y∩Zの各頂点はM-飽和である。もしy∈Y∩Zが非飽和なら、U(非飽和)からy(非飽和)へのM-交互道はM-増加道となり、Mの最大性(定理 1.2)に反する。ゆえにyはマッチング相手M(y)∈Xをもち、y∈Zからマッチング辺でM(y)に到達できるのでM(y)∈X∩Z、したがってM(y)∈/K。
(ii)X∖Zの各頂点xはM-飽和である(非飽和ならx∈U⊆Zとなりx∈/Zに反する)。相手M(x)∈Yについて、もしM(x)∈Y∩Zなら、そのマッチング辺によりx∈Zとなって矛盾。ゆえにM(x)∈Y∖Z、したがってM(x)∈/K。
(i)(ii) により、Kの各頂点をそのマッチング辺に対応させる写像を定める。X∖Zの頂点はX-側端点がX∖Zにあるマッチング辺へ、Y∩Zの頂点はX-側端点がX∩Zにあるマッチング辺へ移る。これら二種のマッチング辺はX-側端点が別(X∖ZとX∩Z)だから相異なり、Kの相異なる頂点は相異なるMの辺へ単射に写る。ゆえに∣K∣≤∣M∣=m。
以上より、頂点被覆Kが存在して∣K∣≤m。弱い向きから任意の頂点被覆は≥mなので、最小頂点被覆はmに等しく、=∣K∣=最大マッチングである。▨
2 彩色
定義 2.1 (頂点彩色・彩色数). グラフG=(V,E)の(真の)頂点彩色とは、写像c:V→{1,…,k}で、隣接する任意の二頂点u,v(uv∈E)に対しc(u)=c(v)を満たすものをいう。このときcを k-彩色という。Gがk-彩色をもつ最小のkを Gの彩色数といいχ(G)で表す。同値に、χ(G)はVを独立集合(辺をもたない頂点集合)に分割する最小の分割数である。
命題 2.2 (貪欲彩色の上界). 任意のグラフGに対しχ(G)≤Δ(G)+1が成り立つ。
証明. 頂点に任意の順序v1,v2,…,vnを与え、i=1,2,…,nの順に、viに対して「すでに彩色済みの隣接頂点が使っていない最小の色」を割り当てる(貪欲彩色)。viを塗る時点で、その隣接頂点は高々deg(vi)≤Δ(G)個であり、それらが使う色は高々Δ(G)種類である。ゆえに色の集合{1,2,…,Δ(G)+1}には必ず未使用の色があり、viを塗れる。各頂点は塗る時点で隣接済み頂点と異なる色をもつので、得られる彩色は真の彩色である。使う色はΔ(G)+1種以下だからχ(G)≤Δ(G)+1。▨
命題 2.3 (2彩色可能性と二部性). グラフGについて次は同値である。(a)χ(G)≤2、(b)Gは二部グラフ、(c)Gは奇数長の閉路をもたない。
証明. (a)⇔(b).χ(G)≤2なら2-彩色c:V→{1,2}があり、V1:=c−1(1),V2:=c−1(2)はともに独立集合で、すべての辺はV1とV2をまたぐからGは二部(辺が無いならχ(G)=1でも二部)。逆に二部分割V=X⊔Yがあれば、Xに色1、Yに色2を与えると真の2-彩色になりχ(G)≤2。
§D2.7 定理 5.3により、(b) と (c) は同値です。▨
3 平面グラフ
定義 3.1 (平面グラフ・面). 抽象グラフGの平面埋め込みとは、頂点を平面R2の相異なる点へ写し、各辺をその端点を結ぶ曲線へ写して、辺同士が端点以外で交わらないようにすることである。抽象グラフと、その平面埋め込みを一つ選んだものとの組を平面グラフという。平面埋め込みを少なくとも一つもつ抽象グラフを平面的グラフという。
平面グラフの選択済み埋め込みの像をR2から除いた集合の連結成分を面といい、非有界な面を外面という。
証明. 辺数Eに関する帰納法で示します。位相的入力として、ジョルダン曲線定理(平面上の単純閉曲線は平面を二つの連結成分に分けること)と、その平面埋め込みへの帰結である「閉路上の辺を削除すると、その辺に接する相異なる二面が一つに併合され、それ以外の面は変わらないこと」を認めて用います。
Gが閉路をもたない場合、連結だからGは木でありE=V−1である。木の平面埋め込みは平面を分割せず面はただ一つ(外面のみ)でF=1。ゆえにV−E+F=V−(V−1)+1=2。
Gが閉路をもつ場合、その閉路上の辺eを一つとる。選択済み埋め込みにおける閉路の像は単純閉曲線であり、上で認めた位相的入力により、eは相異なる二面に接し、eを除くとこの二面だけが一つに併合される。したがって面数は1減る。また、eは閉路上の辺だから除いても連結性は保たれる。G−eは連結な平面グラフで、辺数E−1、面数F−1、頂点数Vである。帰納法の仮定によりV−(E−1)+(F−1)=2⟹V−E+F=2.▨
系 3.4 (平面グラフの辺数評価).V≥3の単純平面的グラフではE≤3V−6が成り立つ。とくに二部かつV≥3ならより強くE≤2V−4が成り立つ。これによりK5とK3,3は平面的でない。
証明. まずGが連結な場合を示す。平面埋め込みをとり、E≤2ならば3V−6≥3>Eかつ2V−4≥2≥Eなので両方の評価が成立する。以下ではE≥3とする。各面fの境界の長さ(境界を一周する閉じた歩道でたどる辺の延べ本数、橋は二回数える)をℓ(f)とする。各辺はちょうど二つの面の境界に一回ずつ(橋なら同じ面に二回)現れるので∑fℓ(f)=2E.Gは単純でV≥3,E≥3だから、各面の境界の長さはℓ(f)≥3である(ループ・多重辺がないため長さ1,2の面境界は生じない)。ゆえに3F≤∑fℓ(f)=2E、すなわちF≤32E。オイラーの公式(定理 3.2)F=2−V+Eを代入して2−V+E≤32E ⟹ 6−3V+3E≤2E ⟹ E≤3V−6.二部の場合は奇閉路がない(命題 2.3)ので最短閉路長が4以上、各面の境界の長さはℓ(f)≥4。同様に4F≤2E、F≤21E、2−V+E≤21EからE≤2V−4。
Gが非連結で、連結成分がc個あるとする。各成分の平面描画を互いに交わらない小円板内に配置し、それぞれ一つの頂点が円板の外周に接するようにとる。隣り合う円板の選んだ頂点を外側から曲線で結べば、既存辺と交差せずにc−1本の辺を加えられる。端点は異なる成分に属していたので既存辺はなく、単純性も保たれる。こうして得たG′はGと同じV頂点をもち、E′=E+c−1辺の連結単純平面グラフである。したがって一般には
E≤E′=E+c−1≤3V−6となる。
Gが二部である場合には、各成分の二部配色を独立に選べる。成分を一本の新しい辺で結ぶたびに、必要なら一方の成分の二色を入れ替えて、新しい辺の両端が異なる色になるようにする。この操作は既存辺の配色も平面描画も変えないので、上で得るG′は二部グラフのままである。連結な二部グラフに対する評価をG′に適用すると
E+c−1=E′≤2V−4,したがってE≤2V−4を得る。
応用.K5はV=5,E=(25)=10で、3V−6=9<10。ゆえにE≤3V−6を破り平面的でない。K3,3は二部でV=6,E=9、2V−4=8<9。ゆえに二部版の評価を破り平面的でない。▨
定理 3.6 (平面グラフの6彩色定理). すべての平面的グラフは6-彩色可能である。すなわちχ(G)≤6。
証明. 頂点数Vに関する強帰納法で「頂点数nの平面的グラフは6-彩色可能」を示す。n≤6のときは各頂点に相異なる色を与えれば高々6色で真に塗れる。
n≥7とし、n未満で主張が成り立つと仮定する。Gを頂点数nの単純平面的グラフとする。V≥3だから系 3.4よりE≤3V−6。握手補題∑vdeg(v)=2E(辺一本が両端点で二回数えられる、既習)を使うと∑vdeg(v)=2E≤6V−12<6V,よって平均次数は6未満であり、deg(v)≤5なる頂点vが少なくとも一つ存在する(全頂点が次数≥6なら∑deg≥6Vに反する)。このvを除いたG−vは頂点数n−1の平面的グラフだから、帰納法の仮定により6-彩色できる。vの隣接頂点は高々5個で、それらが使う色は高々5種類なので、6色のうち少なくとも一色がvに使える。その色をvに与えればGの6-彩色が得られる。▨
同じ「次数5以下の頂点の存在」を出発点に、ケンペ鎖と呼ばれる色の交換を丁寧に行うと五色定理(平面的グラフはχ≤5)が初等的に証明できる。さらに強い四色定理(χ≤4)は Appel と Haken が1976年に大量の場合分けを計算機で検証して証明したもので、初等的な手計算による証明は現在も知られていない。本記事ではこの二つは主張の紹介にとどめる。
4 検算例
例 4.1 (ケーニヒの定理の数値検算). 部集合X={x1,x2,x3},Y={y1,y2,y3}、辺集合E={x1y1, x1y2, x2y1, x2y2, x3y3}の二部グラフを考える。近傍はN(x1)=N(x2)={y1,y2},N(x3)={y3}。
ホールの条件.S={x1,x2}で∣N(S)∣=∣{y1,y2}∣=2=∣S∣、S=Xで∣N(S)∣=3=∣S∣、各単元集合でも≥1。すべてのS⊆Xで∣N(S)∣≥∣S∣が成り立つので、定理 1.3によりXを飽和するマッチングが存在する。実際M={x1y1, x2y2, x3y3}は∣M∣=3の完全マッチングで、全頂点が飽和されているから増加道はなく、定理 1.2より最大である。
最小頂点被覆.K={y1,y2,x3}はx1y1,x2y1をy1が、x1y2,x2y2をy2が、x3y3をx3が覆い、∣K∣=3。より小さい被覆は存在しない:辺x1y1,x1y2,x2y1,x2y2は{x1,x2,y1,y2}上のK2,2をなし、これを覆うには2頂点が必要、さらにx3y3はこの4頂点と交わらないので追加で1頂点が要り、合計≥3。ゆえに最小頂点被覆=3。
最大マッチング3= 最小頂点被覆3となり、定理 1.4が数値的に確かめられた。
例 4.2 (オイラーの公式と非平面性の数値検算). 立方体グラフQ3. 頂点8、辺12、面6(6つの正方形面)。V−E+F=8−12+6=2で定理 3.2を満たす。また3V−6=18≥12=E、二部なので2V−4=12≥12=E(等号)も成立し、系 3.4と整合する。
K5.V=5,E=10。3V−6=9<10なので辺数評価を破り平面的でない。
K3,3.V=6,E=9。二部だから2V−4=8<9を破り平面的でない。単純な3V−6=12≥9の評価だけでは非平面性を検出できず、二部(奇閉路なし)ゆえの強い評価E≤2V−4を用いなければならない点に注意する。