認識器は言語に属する入力に対して有限時間で受理するが、属さない入力では停止しないことがある。決定器は、属さない入力を含む全入力に対して有限時間で結論を返す。この停止条件の差を明確にすると、停止問題が認識可能でありながら決定可能ではないという二つの結論を区別することができる。
1 三つの言語クラス
定義 1.1. アルファベット上の言語について、次のように定める。
- が決定可能 (decidable) であるとは、全入力で停止し、の要素を受理し、それ以外を拒否する TM が存在することをいう。
- が認識可能 (recognizable) であるとは、の場合に限ってを受理する TM が存在することをいう。では拒否しても停止しなくてもよい。
- が余認識可能 (corecognizable) であるとは、が認識可能であることをいう。
例 1.2 (決定器と停止しない認識器).とし、とする。
機械は、ヘッドを右へ動かしながらテープを走査し、を読んだら受理し、空白を読んだら拒否する。入力では、位置のを読んで右へ動き、位置のを読んで受理する。入力では、二つのに続いて位置の空白を読み、拒否する。任意の入力では高々回の読取りで停止するため、はの決定器であり、は決定可能である。
機械は、を読んだら受理し、または空白を読んだ場合には書き換えずに右へ動き続けるとする。が受理することとは同値なので、はの認識器である。しかしは、のようなに属さない入力では右へ動き続けて停止しない。決定可能性の定義が要求するのは、全入力で停止する機械が一つ存在することであり、の全ての認識器が停止することではない。
さらに、の受理状態と拒否状態を交換した機械は、全入力で停止し、の要素だけを受理する。したがっては認識可能であり、は決定可能、認識可能、かつ余認識可能である。
決定可能性から二つの認識可能性を得る方向では、決定器の受理と拒否を交換する。逆方向では、との認識器を同時に進め、先に受理した側から所属を決定する。
定理 1.3. 言語が決定可能であるための必要十分条件は、が認識可能かつ余認識可能であることである。
証明. まずが決定可能であり、がその決定器であるとする。同じ機械はの認識器である。さらに、の受理状態と拒否状態を交換した機械を考える。は全入力で停止するため、も全入力で停止する。の場合に限っては受理するので、はの認識器である。したがっては認識可能かつ余認識可能である。
逆に、をの認識器、をの認識器とする。入力に対して、との配置を別々に保存し、を一段、を一段という順序で交互に模倣する機械を構成する。が受理した時点では受理し、が受理した時点では拒否する。片方が拒否状態で停止しても、もう片方の模倣を継続する。
各はとのちょうど一方に属する。ならばが有限時間で受理し、ならばが有限時間で受理する。したがっては全入力で停止する。また、二つの認識器の定義により、が受理する場合はであり、拒否する場合はである。ゆえにはの決定器である。▨
2 機械の符号化と万能機械
各 TM の状態、テープ文字、および移動方向へ非負整数の番号を付ける。有限個の遷移を区切り付き二進文字列として並べれば、機械全体を有限文字列に符号化することができる。区切りの整合性、状態番号の範囲、および停止状態からの遷移がないことを有限回の走査で検査することができる。さらに、全ての
について、左辺がである遷移がちょうど一つ存在することを検査する。この検査により、遷移表が全域かつ一価であることが保証される。機械と入力の組もとして符号化する。
定理 2.1. 符号化された決定性 TM と入力の組を受け取る TMで、任意の TMと任意の入力について次を満たすものが存在する。
- は、が受理する場合に限って受理する。
- は、が拒否する場合に限って拒否する。
- は、が停止しない場合には停止しない。
不正な符号を入力された場合、は拒否する。
証明. 最初に多テープ機械を構成する。第1テープにはの遷移表を保存し、第2テープにはから作ったのテープ内容を保存する。第3テープにはの現在状態とヘッド位置を二進表記で保存する。不正な符号は有限の構文検査で拒否する。
初期状態では、第2テープにとそれに続く空白を置き、第3テープにとヘッド位置を置く。現在状態がならは受理し、なら拒否する。それ以外の場合には、第2テープ上の現在位置から走査記号を読み、第1テープを左端から走査して左辺がである唯一の遷移を探す。符号が決定性 TM の遷移表として正しいため、その遷移は一意に存在する。は第2テープへを書き、に従って模倣ヘッドを動かし、第3テープの状態をへ更新する。以上の書込み、ヘッド移動、および状態更新によって、の一段の模倣が完了する。
に関する帰納法により、が模倣を回終えた時点の第2、第3テープは、の段後の配置を表す。基底は初期化から従う。帰納段階は、保存した遷移表から同じ遷移を一意に選び、同じ書込み、移動、および状態変更を行う構成から従う。したがって、が受理または拒否に到達する場合にはも同じ結論へ到達し、が停止状態へ到達しない場合にはも模倣を続ける。
最後に§E15.4 定理 2.2によってを単テープ決定性 TMへ変換する。同定理は受理、拒否、および停止を全て保存するので、は主張された三条件を満たす。▨
3 停止言語
定義 3.1. 停止言語 (halting language) を
と定める。受理状態と拒否状態のどちらに到達した場合も停止に含め、不正な符号はに含めない。
命題 3.2.は認識可能である。
証明. 入力を有限時間で構文解析し、不正な符号なら拒否する。ならば、定理 2.1の万能機械によってを一段ずつ模倣する。が受理または拒否に到達した時点で受理する。が停止する場合には有限時間で受理し、停止しない場合には模倣も継続して受理しない。したがって、この機械はを認識する。▨
4 対角線論法
停止問題を決定する機械があると仮定し、その判定と反対の停止動作をする機械を構成する。その機械へ自身の符号を入力すると、停止することと停止しないことが同値になるため、仮定を棄却することができる。
定理 4.1.は決定可能ではない。
証明.の決定器が存在すると仮定する。は全ての文字列で停止し、入力がという正しい符号である場合、
を満たす。
を部品として TMを構成する。入力が TM の符号でなければは直ちに停止する。正しい符号なら、はを実行する。が受理した場合にはは永久に同じ二配置を往復して停止せず、が拒否した場合にはは受理して停止する。は決定器なので、のこの分岐は必ず有限時間で決まる。
も有限の遷移表をもつ TM なので、その符号が存在する。へを入力する。
- が受理するならば、の正しさによりは停止する。しかし、の構成により、が受理した場合のは停止しない。
- が拒否するならば、の正しさによりは停止しない。しかし、の構成により、が拒否した場合のは受理して停止する。
の二つの出力のどちらについても矛盾が生じる。したがって、そのような決定器は存在せず、は決定可能ではない。▨
決定不能性は、特定の入力について停止の証明が常に不可能であるという主張ではない。全てのに対して正しく答え、しかも必ず停止する一つの TM が存在しないという主張である。
系 4.2.は認識可能ではない。したがって、は認識可能であるが余認識可能ではない。
5 演習
問題 5.1.
- の認識器の受理状態と拒否状態を交換するだけでは、一般にの認識器を得られない理由を説明せよ。
- 定理 1.3の逆向きの証明で、を終了まで実行してからを実行する方法が正しくない理由を説明せよ。
- の認識器は、が拒否した場合にも入力を受理する。この動作が必要である理由を定義から説明せよ。
- 対角線論法のについて、が停止するための必要十分条件をの停止性を用いて書け。
解答 (演習の要点).
- でが停止しない場合、状態を交換してもその計算は停止せず、入力を受理しない。
- の場合にはが停止しない可能性があり、を認識するの実行へ到達することができない。
- 停止言語は受理停止と拒否停止の両方を要素に含むためである。
- が停止することとが停止しないことが同値である。と置くと矛盾が生じる。
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