1 定理の設定
X1,X2,…を独立同分布な実数値確率変数列とし、
μ=E[X1],σ2=Var(X1)
と書く。0<σ2<∞のとき、
Yk=σXk−μ
と標準化すれば、E[Yk]=0かつE[Yk2]=1である。部分和Sn=X1+⋯+Xnの標準化は
σnSn−nμ=nY1+⋯+Yn
となる。
証明は次の三段階からなる。第一に、標準化した一項の特性関数を原点で二次まで展開する。第二に、独立性を用いてn項の特性関数をn乗として表し、その極限を計算する。第三に、極限e−t2/2を標準正規分布の特性関数と同定し、Lévy の連続性定理を適用する。
極限分布の同定に用いる特性関数を先に計算する。
命題 1.1.Z∼N(0,1)ならば、
φZ(t)=e−t2/2(t∈R)である。
証明. 標準正規密度をg(x)=(2π)−1/2e−x2/2とする。§E11.5 定義 2.4と§E11.5 命題 2.5により、gは確率密度であり∫∣x∣g(x)dx<∞である。したがって、優収束定理により
φZ′(t)=i∫Rxeitxg(x)dxである。g′(x)=−xg(x)とg(x)→0を用い、[−R,R]上で部分積分してからR→∞とすると、
∫Rxeitxg(x)dx=−∫Reitxg′(x)dx=it∫Reitxg(x)dxを得る。ゆえにφZ′(t)=−tφZ(t)である。φZ(0)=1と合わせてこの微分方程式を解くと、φZ(t)=e−t2/2となる。▨
複素数列のn乗に移る箇所を独立した補題として示す。
補題 1.2. 複素数列znと複素数zが
nzn⟶zを満たすならば、
(1+zn)n⟶ezである。
証明.nzn→zからzn=O(1/n)であり、特にzn→0かつn∣zn∣2→0である。十分大きいnについて∣zn∣<1/2なので、絶対収束する冪級数
Ln=m=1∑∞m(−1)m+1znmを用いることができる。この級数はeLn=1+znを満たし、
∣Ln−zn∣≤m=2∑∞∣zn∣m≤2∣zn∣2である。したがって、nLn→zであり、
(1+zn)n=enLn⟶ezを得る。▨
2 Lindeberg–Lévy 型中心極限定理
定理 2.1 (中心極限定理).X1,X2,…を独立同分布な実数値確率変数列とし、
E[X1]=μ,Var(X1)=σ2,0<σ2<∞とする。Sn=X1+⋯+Xnとおけば、
σnSn−nμ⇒N(0,1)である。すなわち、Φを標準正規分布の分布関数とすると、すべてのx∈Rについて
n→∞limP(σnSn−nμ≤x)=Φ(x)が成り立つ。
証明.Yk=(Xk−μ)/σとおくと、Y1,Y2,…も独立同分布であり、
E[Y1]=0,E[Y12]=1である。Y1の特性関数をφと書く。積率による原点展開§E11.14 定理 2.2から、s→0のとき
φ(s)=1−2s2+o(s2)である。
標準化和を
Tn=nY1+⋯+Ynとおく。独立な和に対する積公式§E11.14 命題 1.3により、Tnの特性関数は
φTn(t)={φ(nt)}nである。t∈Rを固定し、
zn=φ(nt)−1とおくと、二次展開から
zn=−2nt2+o(n1),nzn⟶−2t2である。補題 1.2を適用すると、
φTn(t)=(1+zn)n⟶e−t2/2を得る。
命題 1.1により、e−t2/2は標準正規分布の特性関数であり、原点で連続である。Lévy の連続性定理§E11.14 定理 4.3によりTn⇒N(0,1)である。Tn=(Sn−nμ)/(σn)なので、第一の結論を得る。標準正規分布は密度をもつため、その分布関数Φはすべての点で連続である。分布収束の定義から第二の表示もすべてのx∈Rについて成り立つ。▨
分散が正であるという仮定は、σで標準化するために必要である。σ2=0ならばX1=μがほとんど確実に成り立ち、Sn−nμ=0であるため、同じ規格化は定義されない。
3 de Moivre–Laplace の定理
Bernoulli 試行の成功回数に中心極限定理を適用する。
系 3.1 (de Moivre–Laplace の定理).0<p<1とし、X1,X2,…を独立同分布でXk∼Bern(p)とする。Sn=X1+⋯+Xnとおけば、すべてのx∈Rに対して
n→∞limP(np(1−p)Sn−np≤x)=Φ(x)である。特に、Sn∼Bin(n,p)であるため、標準化した二項分布は標準正規分布へ分布収束する。
証明. Bernoulli 分布の積率§E11.5 命題 1.3により、
E[Xk]=p,Var(Xk)=p(1−p)>0である。したがって、定理 2.1をμ=p、σ2=p(1−p)として適用すると、表示した極限を得る。
Snの分布を確認する。0≤j≤nに対してSn=jとなるのは、n回のうちちょうどj回が成功する場合である。各成功位置の確率は独立性からpj(1−p)n−jであり、成功位置の選び方は(jn)通りである。ゆえに
P(Sn=j)=(jn)pj(1−p)n−jであり、§E11.5 定義 1.2によってSn∼Bin(n,p)である。▨
例 3.2 (対称 Bernoulli 和).p=1/2のとき、E[Sn]=n/2かつVar(Sn)=n/4である。したがって、
n2Sn−n⇒N(0,1)となる。各nでは左辺は離散分布であるが、その分布関数は標準正規分布の連続な分布関数へ各点で収束する。
4 演習
問題 4.1 (問題 1:中心化を省いた場合).定理 2.1の仮定のもとでμ=0とする。Sn/(σn)が標準正規分布へ分布収束しないことを示せ。必要ならば、
σnSn=σnSn−nμ+σμnを用いてよい。
問題 4.2 (問題 2:Rademacher 変数への適用).P(Xk=1)=P(Xk=−1)=1/2である独立同分布列を考える。n−1/2∑k=1nXk⇒N(0,1)を、期待値と分散を計算したうえで定理 2.1から導け。
5 扱った範囲
本記事では、独立同分布で有限かつ正の分散をもつ場合の中心極限定理を、特性関数の二次展開と
Lévy の連続性定理によって証明し、de Moivre–Laplace の定理を導いた。独立だが同分布ではない確率変数の三角配列を扱う Lindeberg–Feller の定理、収束率を評価する Berry–Esseen の定理、および正規分布以外を極限に含む安定分布は扱っていない。