§C1.7一次近似とテイラー展開入門

最終更新

関数のある点の近くでの値は、その点における関数値と傾きから近似できます。この記事では、この一次近似を高い次数の多項式へ拡張し、中心における微分係数が近似式を一意に決めることを確かめます。

1 接線による一次近似

定理 1.1.ffがaaで微分可能であるとする。x≠ax\ne aに対して

r(x)=f(x)−f(a)−f′(a)(x−a)r(x)=f(x)-f(a)-f'(a)(x-a)

とおくと、

lim⁡x→ar(x)x−a=0\lim_{x\to a}\frac{r(x)}{x-a}=0

が成り立つ。

証明.x≠ax\ne aに対して定義を展開すると、

r(x)x−a=f(x)−f(a)x−a−f′(a)\frac{r(x)}{x-a} =\frac{f(x)-f(a)}{x-a}-f'(a)

となる。ffがaaで微分可能であることから、右辺はx→ax\to aのとき00に近づく。▨

したがって、xxがaaに近いとき、

f(x)≈f(a)+f′(a)(x−a)f(x)\approx f(a)+f'(a)(x-a)

と近似します。右辺は点(a,f(a))(a,f(a))における接線を表す一次式です。

2 有限次数のテイラー多項式

定義 2.1 (テイラー多項式).nnを00以上の整数とし、ffがaaでnn階まで微分可能であるとする。このとき

Tn,a(x)=∑k=0nf(k)(a)k!(x−a)kT_{n,a}(x)=\sum_{k=0}^n\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k

で定まるnn次以下の多項式を、aaを中心とするffのnn次テイラー多項式という。ただし、f(0)=ff^{(0)}=f、0!=10!=1とする。

Tn,aT_{n,a}は有限個の項からなる多項式です。これに対して、

∑k=0∞f(k)(a)k!(x−a)k\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k

はテイラー級数と呼ばれる無限級数です。テイラー級数が収束することと、その和がf(x)f(x)に等しいことは別の主張であり、有限多項式の定義からは従いません。

定理 2.2.nnを00以上の整数とし、ffがaaでnn階まで微分可能であるとする。PPがnn次以下の多項式であり、すべての整数kk、0≤k≤n0\le k\le nに対して

P(k)(a)=f(k)(a)P^{(k)}(a)=f^{(k)}(a)

を満たすならば、P=Tn,aP=T_{n,a}である。

証明.P(x)=∑j=0ncj(x−a)jP(x)=\sum_{j=0}^n c_j(x-a)^jと書く。各整数kk、0≤k≤n0\le k\le nに対して、PPをkk回微分してx=ax=aを代入すると、j≠kj\ne kの項はすべて00になり、

P(k)(a)=k!ckP^{(k)}(a)=k!c_k

となる。仮定によりk!ck=f(k)(a)k!c_k=f^{(k)}(a)であるから、

ck=f(k)(a)k!c_k=\frac{f^{(k)}(a)}{k!}

である。したがってPPのすべての係数は定義 2.1の係数に一致し、P=Tn,aP=T_{n,a}となる。▨

例 2.3.f(x)=exf(x)=e^xはすべての階の導関数がexe^xであり、f(k)(0)=1f^{(k)}(0)=1である。したがって、たとえば0を中心とする3次テイラー多項式は

T3,0(x)=1+x+x22!+x33!T_{3,0}(x)=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}

である。一般の有限次数nnでは

Tn,0(x)=∑k=0nxkk!T_{n,0}(x)=\sum_{k=0}^n\frac{x^k}{k!}

となる。

f(x)=sin⁡xf(x)=\sin xの導関数はsin⁡x,cos⁡x,−sin⁡x,−cos⁡x\sin x,\cos x,-\sin x,-\cos xの順に繰り返す。したがって、0を中心とする1次、3次、5次のテイラー多項式はそれぞれ

x,x−x33!,x−x33!+x55!x,\qquad x-\frac{x^3}{3!},\qquad x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}

である。

次の図は、sin⁡x\sin xと二つの有限多項式の値を比較したものです。図から読み取れる一致は近似の観察であり、誤差の大きさの証明ではありません。

3 中心から離れた点での挙動

例 3.1.f(x)=1/(1+x2)f(x)=1/(1+x^2)とし、0を中心とするテイラー多項式を考える。このとき

T2m,0(x)=T2m+1,0(x)=∑j=0m(−1)jx2jT_{2m,0}(x)=T_{2m+1,0}(x)=\sum_{j=0}^m(-1)^jx^{2j}

である。x=2x=2では

T2m,0(2)=∑j=0m(−4)j=1−(−4)m+15T_{2m,0}(2)=\sum_{j=0}^m(-4)^j=\frac{1-(-4)^{m+1}}5

となるため、その絶対値はmmとともに増加する。たとえばm=2,4,10m=2,4,10の値はそれぞれ

13,205,83886113,\qquad205,\qquad838861

であるが、f(2)=1/5f(2)=1/5である。

証明.Qm(x)=∑j=0m(−1)jx2jQ_m(x)=\sum_{j=0}^m(-1)^jx^{2j}とおく。有限等比和を計算すると

(1+x2)Qm(x)=1+(−1)mx2m+2(1+x^2)Q_m(x)=1+(-1)^mx^{2m+2}

である。したがって

f(x)−Qm(x)=(−1)m+1x2m+21+x2f(x)-Q_m(x)=\frac{(-1)^{m+1}x^{2m+2}}{1+x^2}

となる。右辺はx=0x=0で2m+12m+1階までの微分係数がすべて00であるから、QmQ_mとffは0で2m+12m+1階までの微分係数が一致する。定理 2.2により、Qm=T2m,0=T2m+1,0Q_m=T_{2m,0}=T_{2m+1,0}である。

x=2x=2を代入した有限等比和は

Qm(2)=1−(−4)m+15Q_m(2)=\frac{1-(-4)^{m+1}}5

である。mmが1増えるたびに4m+14^{m+1}は4倍になるので、∣Qm(2)∣|Q_m(2)|は増加して限りなく大きくなる。したがって、この点では次数を上げてもf(2)f(2)への近似は改善しない。▨

この例は、中心で多くの微分係数を一致させることだけでは、中心から離れた点での誤差を保証しないことを示しています。Lagrange の剰余項、誤差上界、テイラー級数が関数に一致する条件は、後続の解析学で扱います。

注意 3.2. 関数ggを

g(x)={e−1/x2(x≠0),0(x=0)g(x)= \begin{cases} e^{-1/x^2} & (x\ne0),\\ 0 & (x=0) \end{cases}

と定めると、ggの0におけるすべての階の微分係数は00である。一方、x≠0x\ne0ではg(x)>0g(x)>0である。したがって、0を中心とするテイラー級数は恒等的に00へ収束するが、ggとは一致しない。この事実の証明と、関数とテイラー級数が一致するための条件は、後続の解析学で扱う。

4 演習

問題 4.1.f(x)=exf(x)=e^xの0を中心とする3次テイラー多項式を作り、その多項式を用いてe0.1e^{0.1}の近似値を求めよ。

解答.

f(k)(0)=1f^{(k)}(0)=1であるから、定義 2.1により

T3,0(x)=1+x+x22+x36T_{3,0}(x)=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}

である。したがって

e0.1≈T3,0(0.1)=1+0.1+0.122+0.136=1.105166…e^{0.1}\approx T_{3,0}(0.1) =1+0.1+\frac{0.1^2}{2}+\frac{0.1^3}{6} =1.105166\ldots

となる。この計算は有限多項式を近似に用いたものであり、誤差の上界は与えていない。▨

問題 4.2.f(x)=sin⁡xf(x)=\sin xのa=π/2a=\pi/2を中心とする2次テイラー多項式を作り、その多項式を用いてsin⁡1.5\sin 1.5の近似値を求めよ。

解答.

f(π/2)=1f(\pi/2)=1、f′(π/2)=0f'(\pi/2)=0、f′′(π/2)=−1f''(\pi/2)=-1であるから、

T2,π/2(x)=1−12(x−π2)2T_{2,\pi/2}(x)=1-\frac12\left(x-\frac\pi2\right)^2

である。したがって

sin⁡1.5≈1−12(1.5−π2)2=0.99749…\sin1.5\approx1-\frac12\left(1.5-\frac\pi2\right)^2=0.99749\ldots

となる。▨

閑話休題:テイラー級数とeeの無理性 後続のテイラーの定理によって

e=∑k=0∞1k!e=\sum_{k=0}^{\infty}\frac1{k!}

が正当化されたとする。この等式から、eeが有理数でないことを示すことができる。

e=p/qe=p/qと書くことができると仮定する。分母と分子を同じ正の整数倍にすることにより、q≥2q\ge2としてよい。等式にq!q!を掛け、k=qk=qまでとその後に分けると、

q!e=∑k=0qq!k!+∑k=q+1∞q!k!q!e=\sum_{k=0}^{q}\frac{q!}{k!} +\sum_{k=q+1}^{\infty}\frac{q!}{k!}

となる。左辺はp(q−1)!p(q-1)!であり整数である。右辺の有限和も、各k≤qk\le qについてq!/k!q!/k!が整数であるため、整数である。

残りをRRとおくと、

R=1q+1+1(q+1)(q+2)+⋯>0R=\frac1{q+1}+\frac1{(q+1)(q+2)}+\cdots>0

である。また、第rr項の分母は(q+1)r(q+1)^r以上であるから、

R≤∑r=1∞1(q+1)r=1q<1R\le\sum_{r=1}^{\infty}\frac1{(q+1)^r}=\frac1q<1

となる。したがって、整数から整数を引いた値が0<R<10<R<1を満たすことになり、両者は両立しない。ゆえにeeは有理数でない。

指数関数や正弦関数の数値計算では、引数を狭い範囲へ移してから有限多項式を評価する方法が用いられる。有限テイラー多項式は、そのような計算法を設計する出発点にもなる。

参考文献

  1. Tom M. Apostol, Calculus, 2nd ed., vol. I, Wiley, New York, 1967.テイラー多項式、テイラー級数および有限多項式による近似の標準的な定式化を参考にしました。
  2. G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 6th ed., Oxford University Press, 2008.指数関数の級数表示から e の無理性を導く議論を参考にしました。
  3. Sun Microsystems, fdlibm 5.3.初等関数の数値計算で引数を狭い範囲へ移して多項式を評価する実装例を参考にしました。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h、またはマクローリン展開を用いて答えよ。

解法の型一次近似は接線で置き換える近似。マクローリン展開の k 次の係数は f^(k)(0)/k!(階乗を忘れない)

  1. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=11+xf(x) = \dfrac{1}{1+x}
  2. 一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h を用いて、次の値の近似値を求めよ。

    sin⁡0.01(ラジアン)\sin 0.01 \quad (\text{ラジアン})
  3. 一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h を用いて、次の値の近似値を求めよ。

    25.5\sqrt{25.5}
  4. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=e−xf(x) = e^{-x}
  5. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=cos⁡xf(x) = \cos x
  6. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=sin⁡xf(x) = \sin x
  7. 一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h を用いて、次の値の近似値を求めよ。

    log⁡1.02(自然対数)\log 1.02 \quad (\text{自然対数})
  8. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=1+xf(x) = \sqrt{1+x}
  9. 次の関数のマクローリン展開(x == 0 のまわりのテイラー展開)を、3次の項まで求めよ。

    f(x)=log⁡(1+x)f(x) = \log(1+x)
  10. 一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h を用いて、次の値の近似値を求めよ。

    12.01\dfrac{1}{2.01}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

一次近似 f(a+h) ≈\approx f(a) + f′(a)h、またはマクローリン展開を用いて答えよ。

演習を読み込み中…

前提記事