§A3.3集合の記法と演算

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条件を「それを満たすものの集まり」として扱うと、論理の演算がそのまま集まりの演算になります。そのための言葉を先に定めます。

定義 1 (集合と要素). ものの集まりのうち、あるものがその集まりに属するかどうかが一意に定まるものを集合という。集合を作る一つひとつのものを要素といい、aaが集合AAの要素であることをa∈Aa \in A、要素でないことをa∉Aa \notin Aと書く。

1 集合を書き表す二つの記法

集合の表し方には、次の二通りがあります。

  • 外延的記法は、要素を書き並べます。A={1,2,3,6}A = \{1, 2, 3, 6\}のように書きます。
  • 内包的記法は、要素が満たす条件を書きます。A={ x∣x は 6 の正の約数 }A = \{\, x \mid x \text{ は } 6 \text{ の正の約数} \,\}のように書き、縦線の左に要素の形を、右に条件を置きます。

同じ集合を、どちらの記法でも書くことができます。要素が有限個で少なければ外延的記法が読みやすく、要素が多い場合や無限にある場合には内包的記法を使います。{ x∣x は実数で x>3 }\{\, x \mid x \text{ は実数で } x > 3 \,\}のように、要素を書き並べることができない集合は、内包的記法でしか表すことができません。

内包的記法は、条件と集合とを直接に結び付ける書き方です。この対応そのものは、次の記事「条件と集合の対応」で扱います。

2 要素であることと、部分集合であること

定義 2.1 (部分集合).AAのすべての要素がBBの要素でもあるとき、AAはBBの部分集合であるといい、A⊂BA \subset Bと書く。

A⊂BA \subset Bは、条件についての「p⇒qp \Rightarrow q」に対応します。∈\inと⊂\subsetは別の記号です。∈\inの左に来るのは要素であり、⊂\subsetの左に来るのは集合です。A={1,2}A = \{1, 2\}について、1∈A1 \in Aは正しく、{1}⊂A\{1\} \subset Aも正しい一方、1⊂A1 \subset Aと{1}∈A\{1\} \in Aはいずれも誤りです。

3 四つの演算

定義 3.1 (和集合・共通部分・補集合・差集合). 全体集合をUUとし、AA、BBをその部分集合とする。

  • 和集合A∪BA \cup Bは、AAまたはBBの少なくとも一方に属する要素の全体である。
  • 共通部分A∩BA \cap Bは、AAとBBの両方に属する要素の全体である。
  • 補集合A‾\overline{A}は、UUに属してAAに属さない要素の全体である。
  • 差集合A∖BA \setminus Bは、AAに属してBBに属さない要素の全体である。

和集合、共通部分、補集合は、それぞれ「または」「かつ」「でない」に一対一で対応します。差集合はA∖B=A∩B‾A \setminus B = A \cap \overline{B}と書き換えることができるので、新しい演算というよりも、共通部分と補集合を組み合わせた記法です。補集合はA‾=U∖A\overline{A} = U \setminus Aにあたります。

例 3.2 (四つの演算を計算する).U={1,2,3,4,5,6}U = \{1,2,3,4,5,6\}、A={1,2,3,6}A = \{1,2,3,6\}、B={2,4,6}B = \{2,4,6\}とすると、A∪B={1,2,3,4,6}A \cup B = \{1,2,3,4,6\}、A∩B={2,6}A \cap B = \{2,6\}、A‾={4,5}\overline{A} = \{4,5\}、A∖B={1,3}A \setminus B = \{1,3\}である。

4 空集合と全体集合

要素を一つも持たない集合を空集合と呼び、∅\varnothingと書きます。空集合は、どの集合の部分集合でもあります。「∅\varnothingのすべての要素がAAの要素である」という条件は、確かめるべき要素が一つも無いので、AAが何であっても成り立つからです。A∩A‾=∅A \cap \overline{A} = \varnothingであり、共通部分が空集合であることは、二つの集合が共通の要素を持たないことを意味します。

全体集合は、その議論で考える対象の範囲を定める集合です。全体集合を決めなければ、補集合を定めることができません。「AAに属さないもの」だけでは、どこまでを候補にするのかが決まらないからです。A={1,2,3,6}A = \{1,2,3,6\}の補集合は、U={1,2,…,6}U = \{1,2,\dots,6\}とすれば{4,5}\{4,5\}ですが、UUを正の整数全体とすれば4,5,7,8,…4,5,7,8,\dotsを要素にもつ無限集合になります。補集合を書く場面では、全体集合が何であるかを先に決めておきます。A∪A‾=UA \cup \overline{A} = Uであり、U‾=∅\overline{U} = \varnothing、∅‾=U\overline{\varnothing} = Uです。

5 ド・モルガン則

論理と同じ形の規則が、集合についても成り立ちます。

公式 5.1 (集合のド・モルガン則).A∪B‾=A‾∩B‾,A∩B‾=A‾∪B‾\overline{A \cup B} = \overline{A} \cap \overline{B}, \qquad \overline{A \cap B} = \overline{A} \cup \overline{B}

「かつ・または・否定」の§A3.2 定理 2.1を、条件と集合の対応を通して書き直したものです。補集合を分配すると∪\cupと∩\capが入れ替わります。論理の¬(p∨q)≡¬p∧¬q\lnot(p \lor q) \equiv \lnot p \land \lnot qと同じ規則であり、一方を確かめれば他方も同じ手順で確かめることができます。

6 ベン図で見ることと、証明すること

集合の関係は、ベン図に描くと見通しがよくなります。ただし、ベン図から見て取れることは、一般の集合について証明したことにはなりません。ベン図は、いくつかの集合が特定の位置関係にある場合を1枚描いたものであって、起こりうるすべての配置を尽くしてはいないからです。

一般の集合について等式X=YX = Yを証明する手順は、要素を取ることです。x∈Xx \in Xである任意のxxについてx∈Yx \in Yを示し、次にx∈Yx \in Yである任意のxxについてx∈Xx \in Xを示します。この二つを示せばX⊂YX \subset YとY⊂XY \subset Xが得られ、X=YX = Yが従います。たとえばA∪B‾=A‾∩B‾\overline{A \cup B} = \overline{A} \cap \overline{B}は、「xxがA∪BA \cup Bに属さない」ことが「xxがAAにもBBにも属さない」ことと同じである、という一文から両方の向きが同時に得られます。ベン図は、この証明の見通しを立てるために使い、証明そのものの代わりには使いません。

閑話休題:「集まり」を素朴に定義したために、数学の基礎が揺らいだ ものの集まりのうち、属するかどうかが定まるもの——この定義は、素朴に運用すると破綻します。19021902年、ラッセルは次の集合を考えました。自分自身を要素として含まない集合の全体R={ x∣x∉x }R = \{\, x \mid x \notin x \,\}です。さて、RR自身はRRに属するでしょうか。属するとすると、RRの定義(自分自身を含まないものの集まり)からR∉RR \notin Rが従います。属さないとすると、定義の条件を満たすのでR∈RR \in Rが従います。どちらの場合にも矛盾が出ます。有名な言い換えが床屋のパラドックスです。「自分でひげを剃らない村人全員の、そして彼らだけのひげを剃る」床屋は、自分のひげを剃るのでしょうか。

このパラドックスは、集合論によって数学全体を基礎づけようとしていたフレーゲの大著の第2巻が印刷中であったときに、ラッセルからの手紙で届きました。フレーゲは後に付録を加えてこの問題に触れています。以後、数学者たちは、どんな条件からでも集合を作ってよいという素朴な運用を放棄し、すでにある集合から、決められた操作によってだけ新しい集合を作るという公理的集合論を整備して危機を収拾しました(「公理的集合論」が扱います)。本記事で使っている∈\inや{x∣… }\{x \mid \dots\}の記法は、一度数学を壊しかけたうえで修理された道具です。高等学校で扱う範囲では安全に使うことができますが、どんな集まりでも集合にすることができるわけではない、という但し書きが背後に付いています。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

全体集合を U == {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8} とする。次の集合を、要素を並べる形で答えよ(A の補集合は U に関する補集合)。

解法の型和は「または」、共通部分は「かつ」、補集合は「でない」。ド・モルガン: (A∪B)(A\cup B) の補集合 == Ā∩B\cap B̄、(A∩B)(A\cap B) の補集合 == Ā∪B\cup B̄

  1. 差集合 A ∖ B と B ∖ A を求めよ(A ∖ B は A に属し B に属さない要素の集合)。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={1, 2, 6, 8},B={1, 4, 7, 8}求めるもの: A∖B,B∖A\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{1,\ 2,\ 6,\ 8\},\quad B = \{1,\ 4,\ 7,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ A \setminus B,\quad B \setminus A \end{aligned}
  2. 対称差 (A ∖ B) ∪\cup (B ∖ A) を求めよ(ちょうど一方だけに属する要素の集合)。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={4, 5, 8},B={2, 3, 4, 6, 8}求めるもの: (A∖B)∪(B∖A)\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{4,\ 5,\ 8\},\quad B = \{2,\ 3,\ 4,\ 6,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ (A \setminus B) \cup (B \setminus A) \end{aligned}
  3. (A∪B)(A\cup B) の補集合を求め、それが Ā ∩\cap B̄ と一致することを確かめよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={3, 6, 7, 8},B={1, 2, 6, 7, 8}求めるもの: A∪B‾ と A‾∩B‾\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{3,\ 6,\ 7,\ 8\},\quad B = \{1,\ 2,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ \overline{A \cup B}\ \text{と}\ \overline{A} \cap \overline{B} \end{aligned}
  4. ちょうど1つの集合だけに属する要素の集合、A∩B∩CA\cap B\cap C、および n(A∪B∪C)n(A\cup B\cup C) を求めよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={2, 4, 5},B={4, 5, 6, 7},C={3, 4, 6, 8}求めるもの: (1つだけに属する要素),A∩B∩C,n(A∪B∪C)\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{2,\ 4,\ 5\},\quad B = \{4,\ 5,\ 6,\ 7\},\quad C = \{3,\ 4,\ 6,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ \text{(1つだけに属する要素)},\quad A \cap B \cap C,\quad n(A \cup B \cup C) \end{aligned}
  5. A∪BA\cup B と A∩BA\cap B を求めよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={1, 5, 8},B={1, 4, 5, 7}求めるもの: A∪B,A∩B\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{1,\ 5,\ 8\},\quad B = \{1,\ 4,\ 5,\ 7\} \\ &\text{求めるもの}:\ A \cup B,\quad A \cap B \end{aligned}
  6. A の補集合と B の補集合を求めよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={4, 5, 6},B={2, 3, 4, 5, 8}求めるもの: A‾,B‾\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{4,\ 5,\ 6\},\quad B = \{2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ \overline{A},\quad \overline{B} \end{aligned}
  7. 差集合 A ∖ B と B ∖ A を求めよ(A ∖ B は A に属し B に属さない要素の集合)。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={1, 3, 5, 7},B={1, 2, 3, 8}求めるもの: A∖B,B∖A\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{1,\ 3,\ 5,\ 7\},\quad B = \{1,\ 2,\ 3,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ A \setminus B,\quad B \setminus A \end{aligned}
  8. 対称差 (A ∖ B) ∪\cup (B ∖ A) を求めよ(ちょうど一方だけに属する要素の集合)。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={2, 3, 7, 8},B={1, 3, 5, 7, 8}求めるもの: (A∖B)∪(B∖A)\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{2,\ 3,\ 7,\ 8\},\quad B = \{1,\ 3,\ 5,\ 7,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ (A \setminus B) \cup (B \setminus A) \end{aligned}
  9. (A∪B)(A\cup B) の補集合を求め、それが Ā ∩\cap B̄ と一致することを確かめよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={3, 5, 7, 8},B={2, 3, 4, 7, 8}求めるもの: A∪B‾ と A‾∩B‾\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{3,\ 5,\ 7,\ 8\},\quad B = \{2,\ 3,\ 4,\ 7,\ 8\} \\ &\text{求めるもの}:\ \overline{A \cup B}\ \text{と}\ \overline{A} \cap \overline{B} \end{aligned}
  10. ちょうど1つの集合だけに属する要素の集合、A∩B∩CA\cap B\cap C、および n(A∪B∪C)n(A\cup B\cup C) を求めよ。

    U={1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8}A={4, 6, 7},B={1, 2, 3, 4, 6},C={1, 2, 5, 6}求めるもの: (1つだけに属する要素),A∩B∩C,n(A∪B∪C)\begin{aligned} &U = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 7,\ 8\} \\ &A = \{4,\ 6,\ 7\},\quad B = \{1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 6\},\quad C = \{1,\ 2,\ 5,\ 6\} \\ &\text{求めるもの}:\ \text{(1つだけに属する要素)},\quad A \cap B \cap C,\quad n(A \cup B \cup C) \end{aligned}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

全体集合を U == {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8} とする。次の集合を、要素を並べる形で答えよ(A の補集合は U に関する補集合)。

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