§C5.6競技数学:関数方程式

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競技数学の関数方程式では、関数がすべての変数の組について満たす等式から、関数の値や形を決定します。そのためには、求める性質に応じて代入を選び、得られた等式を既知の性質と結び付けなければなりません。本記事では、全単射性や不動点を得る代入と、連続性・広義単調性が解を決定する条件を説明します。

1 定義域と終域を先に固定する

関数方程式では、解の集合は定義域と終域によって変わります。問題文がどの集合からどの集合への関数を求めているのかを、式を書き写す前に確かめます。等式そのものが同じでも、定義域が変われば答えが変わるためです。

注意 1.1 (定義域を取り替えると解が変わること). 加法性f(x+y)=f(x)+f(y)f(x+y)=f(x)+f(y)を考える。

  • f:Q→Qf:\mathbb{Q}\to\mathbb{Q}の場合、解はf(x)=cxf(x)=cx(c=f(1)c=f(1))に限る。正則性の仮定は要らない。
  • f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}の場合、f(x)=cxf(x)=cxの形でない解が存在する。解をf(x)=cxf(x)=cxに限るには、連続性、広義単調性、ある区間での有界性のような仮定を追加しなければならない。

Q\mathbb{Q}上で正則性の仮定が要らないのは、加法的な関数についてすべての有理数qqと定義域の点xxでf(qx)=qf(x)f(qx)=qf(x)が成り立つからです。この事実は関数方程式入門 が示しています。定義域がQ\mathbb{Q}であればx=1x=1と取ることによってすべての点で値が定まりますが、定義域がR\mathbb{R}であれば、有理数でない点の値はこの等式からは定まりません。

終域も同じように効きます。終域が正の実数全体であればffの値が00にならないので、f(a)=0f(a)=0となるaaを取り出す道すじは使うことができません。

2 代入は目的から選ぶ

代入する値は、数を当てるのではなく、何を得たいのかから選びます。得たいものと、そのために作るべき等式の形の対応は、次のとおりです。P(x,y)P(x,y)は、与えられた等式にxxとyyを代入したものを表します。

得たいもの 作るべき等式の形 なぜそれで得られるか
単射性 片側にyyが単独で現れる形f(A(y))=y+Bf(A(y))=y+B(BBはyyを含まない) 左辺の値が等しければ右辺も等しく、そこからyyが定まる
全射性 同じ形。yyを動かすと右辺が終域全体を動く 左辺はffの値なので、ffの値域が終域全体を含む
特別な値 全射性からf(a)=0f(a)=0となるaaを取り、aaをもとの等式へ代入する f(a)f(a)が現れる項が消え、等式が短くなる
不動点 f(f(x))=xf(f(x))=xの形。全射性と単射性からffの逆の対応を作る 二回合成が恒等になる関数の形は、広義単調性と組み合わせると強く制限される
正則性を用いる段 稠密な部分集合の上で値が定まったあと 連続性と広義単調性は、定まった値を残りの点へ延ばすために用いる

表の最後の行は、代入と正則性の役割の分担を述べたものです。連続性や広義単調性は、はじめから使うものではありません。代入だけで進むところまで進み、残った点の値を決める段で用います。問題文に正則性の仮定が書かれているのに一度も使わずに解が決まったときは、どこかで仮定されていない性質を使っている可能性があります。

3 二回合成の形から全単射性を取り出す

代入によって最初に得たいのは、多くの場合、ffが単射であることと全射であることです。次の定理は、代入の結果が二回合成の形になったときに、その両方を一度に与えます。

定理 3.1 (二回合成が平行移動になる関数の全単射性).f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}と実数ccについて、すべての実数yyでf(f(y))=y+cf(f(y))=y+cが成り立つとする。このときffは単射であり、かつ全射である。

証明. 単射性を示す。f(y1)=f(y2)f(y_{1})=f(y_{2})とすると、両辺へffを施してf(f(y1))=f(f(y2))f(f(y_{1}))=f(f(y_{2}))となり、仮定からy1+c=y2+cy_{1}+c=y_{2}+c、すなわちy1=y2y_{1}=y_{2}が従う。

全射性を示す。任意の実数zzに対してy=z−cy=z-cとおくとf(f(y))=y+c=zf(f(y))=y+c=zとなるので、zzはffの値である。▨

4 不動点と広義単調性を組み合わせる

ffが全単射であることが分かっても、それだけでは解は定まりません。次の定理は、二回合成が恒等の対応になる関数について、広義単調性を加えると解が一つに定まることを述べます。証明は、不動点でない点があると仮定して矛盾を導くものです。

定理 4.1 (広義単調増加で二回合成が恒等になる関数).f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が広義単調増加であり、すべての実数xxについてf(f(x))=xf(f(x))=xを満たすとする。このとき、すべての実数xxについてf(x)=xf(x)=xである。

証明. ある実数x0x_{0}についてf(x0)>x0f(x_{0})>x_{0}であるとする。ffは広義単調増加なので、両辺へffを施すとf(f(x0))≥f(x0)f(f(x_{0}))\ge f(x_{0})となる。左辺はx0x_{0}なのでx0≥f(x0)>x0x_{0}\ge f(x_{0})>x_{0}となり、矛盾する。

ある実数x0x_{0}についてf(x0)<x0f(x_{0})<x_{0}であるとしても、同じようにx0≤f(x0)<x0x_{0}\le f(x_{0})<x_{0}となって矛盾する。

したがって、どの実数xxについてもf(x)=xf(x)=xである。▨

5 例1:平方と合成を含む関数方程式

次の関数方程式では、いま述べた二つの定理を続けて用います。

例 5.1 (平方と合成を含む関数方程式). 関数f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が、すべての実数x,yx,yについて

f(x2+f(y))=y+f(x)2f(x^{2}+f(y))=y+f(x)^{2}

を満たすとする。このとき、すべての実数xxについてf(x)=xf(x)=xである。逆にf(x)=xf(x)=xはこの等式を満たす。

方針を先に決めます。右辺にyyが単独で現れているので、xxを消す代入によって二回合成の形を作ることができ、全単射性が得られます。全射性からf(a)=0f(a)=0となるaaを取り、それをもとの等式へ戻すとaaとf(0)f(0)についての二つの関係式が出るので、a=0a=0とf(0)=0f(0)=0が定まります。そこまで進むとf(f(y))=yf(f(y))=yになるので、あとは広義単調性を示せば定理 4.1が結論を与えます。広義単調性は、右辺に現れるf(x)2f(x)^{2}が00以上であることから出ます。

証明. 与えられた等式にxxとyyを代入したものをP(x,y)P(x,y)と書き、c=f(0)c=f(0)とおく。

第1段:全単射性。P(0,y)P(0,y)はf(f(y))=y+c2f(f(y))=y+c^{2}である。定理 3.1により、ffは単射であり、かつ全射である。

第2段:f(a)=0f(a)=0となるaaを取る。全射性から、f(a)=0f(a)=0を満たす実数aaが存在する。P(a,y)P(a,y)はf(a)2=0f(a)^{2}=0に注意すると

f(a2+f(y))=y(1)f(a^{2}+f(y))=y \tag{1}

であり、P(x,a)P(x,a)はf(a)=0f(a)=0に注意すると

f(x2)=a+f(x)2(2)f(x^{2})=a+f(x)^{2} \tag{2}

である。(2) でx=0x=0とすると

c=a+c2(3)c=a+c^{2} \tag{3}

を得る。(1) でy=0y=0とするとf(a2+c)=0f(a^{2}+c)=0となり、ffは単射でf(a)=0f(a)=0なので

a2+c=a(4)a^{2}+c=a \tag{4}

である。

第3段:a=0a=0とc=0c=0。(4) からc=a−a2c=a-a^{2}であり、これを (3) へ代入すると

a−a2=a+(a−a2)2,すなわち−a2=a2(1−a)2a-a^{2}=a+(a-a^{2})^{2},\qquad \text{すなわち}\qquad -a^{2}=a^{2}(1-a)^{2}

となる。a≠0a\ne0とすると、両辺を正の数a2a^{2}で割って−1=(1−a)2-1=(1-a)^{2}となるが、実数の平方は00以上なので矛盾する。よってa=0a=0であり、(4) からc=0c=0である。したがってf(0)=0f(0)=0であり、第1段の式は

f(f(y))=y(5)f(f(y))=y \tag{5}

となる。

第4段:広義単調性。任意の実数ssに対してy=f(s)y=f(s)と取る。(5) からf(y)=f(f(s))=sf(y)=f(f(s))=sなので、P(x,f(s))P(x,f(s))の左辺はf(x2+s)f(x^{2}+s)、右辺はf(s)+f(x)2f(s)+f(x)^{2}である。すなわち、すべての実数x,sx,sについて

f(x2+s)=f(s)+f(x)2f(x^{2}+s)=f(s)+f(x)^{2}

が成り立つ。u≥0u\ge0に対してx=ux=\sqrt{u}と取ることができるので、

f(u+s)=f(s)+f(u)2≥f(s)f(u+s)=f(s)+f(\sqrt{u})^{2}\ge f(s)

が成り立つ。よってs≤ts\le tならばu=t−s≥0u=t-s\ge0としてf(t)≥f(s)f(t)\ge f(s)となり、ffは広義単調増加である。

第5段:結論。ffは広義単調増加で (5) を満たすので、定理 4.1によりf(x)=xf(x)=xである。

十分性。f(x)=xf(x)=xのとき、左辺はx2+yx^{2}+y、右辺はy+x2y+x^{2}となって一致する。▨

第4段では、広義単調性を仮定から得たのではなく、等式そのものから導きました。仮定として与えられていない正則性でも、等式が平方の項を含むときには、このように取り出すことができる場合があります。

注意 5.2 (加法性を経由する別の道すじ). 第3段で得たa=0a=0を (2) へ入れるとf(x2)=f(x)2f(x^{2})=f(x)^{2}なので、第4段の等式はu≥0u\ge0とすべての実数ssについてf(u+s)=f(s)+f(u)f(u+s)=f(s)+f(u)と書き直すことができる。ここでs=−us=-uとするとf(−u)=−f(u)f(-u)=-f(u)が従い、u<0u<0の場合もこれを用いて、すべての実数u,su,sについてf(u+s)=f(u)+f(s)f(u+s)=f(u)+f(s)が成り立つ。この道すじでは、次に述べる定理 6.1によってf(x)=kxf(x)=kxを得て、 (5) からk2=1k^{2}=1とk≥0k\ge0、すなわちk=1k=1を決める。どちらの道すじでも、最後の決め手になるのは広義単調性である。

6 加法的な関数を広義単調性で決定する

関数方程式入門 は、加法的で連続な関数がf(x)=cxf(x)=cxの形になることを、有理数の上で値を決めてから連続性で実数全体へ延ばす、という順序で示しました。同記事は、連続性を広義単調性に置き換えても同じ結論が得られることに触れていますが、その証明は扱っていません。次の定理がその証明にあたります。

定理 6.1 (加法的で広義単調な関数).f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が、すべての実数x,yx,yについてf(x+y)=f(x)+f(y)f(x+y)=f(x)+f(y)を満たし、かつ広義単調増加であるとする。このとき、k=f(1)k=f(1)とおくと、すべての実数xxについてf(x)=kxf(x)=kxである。

証明. まずf(0)=f(0)+f(0)f(0)=f(0)+f(0)からf(0)=0f(0)=0である。加法的な関数については、すべての有理数qqと実数xxについてf(qx)=qf(x)f(qx)=qf(x)が成り立つ(関数方程式入門)。x=1x=1と取ると、すべての有理数qqについてf(q)=kqf(q)=kqである。また、ffは広義単調増加で0≤10\le1なのでk=f(1)≥f(0)=0k=f(1)\ge f(0)=0である。

実数xxと正の実数ε\varepsilonを任意に取る。有理数は実数の中に稠密なので、

x−ε<p≤x≤q<x+εx-\varepsilon<p\le x\le q<x+\varepsilon

を満たす有理数p,qp,qが存在する。広義単調性からf(p)≤f(x)≤f(q)f(p)\le f(x)\le f(q)、すなわちkp≤f(x)≤kqkp\le f(x)\le kqである。k≥0k\ge0とx−ε<px-\varepsilon<p、q<x+εq<x+\varepsilonから

k(x−ε)≤kp≤f(x)≤kq≤k(x+ε)k(x-\varepsilon)\le kp\le f(x)\le kq\le k(x+\varepsilon)

が従い、d=∣f(x)−kx∣d=\lvert f(x)-kx\rvertとおくとd≤kεd\le k\varepsilonである。

ここでd>0d>0であるとすると、ε=1\varepsilon=1に対するd≤kd\le kからk>0k>0が従うので、ε=d2k\varepsilon=\dfrac{d}{2k}と取ることができ、d≤d2d\le\dfrac{d}{2}となって矛盾する。よってd=0d=0、すなわちf(x)=kxf(x)=kxである。▨

7 例2:加法と乗法の両方を保つ関数

次の例では、正則性がまったく仮定されていません。それでも、等式そのものから広義単調性を取り出すことができます。

例 7.1 (加法と乗法の両方を保つ関数). 関数f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が、すべての実数x,yx,yについて

f(x+y)=f(x)+f(y),f(xy)=f(x)f(y)f(x+y)=f(x)+f(y),\qquad f(xy)=f(x)f(y)

の両方を満たすとする。このとき、ffはすべての実数で値が00である関数であるか、またはf(x)=xf(x)=xである。

方針は、乗法を保つことからffが00以上の数を00以上の数へ移すことを導き、それと加法性から広義単調性を得ることです。連続性を仮定していないので、定理 6.1を使うことができる形まで持ち込むことが目標になります。

証明.t≥0t\ge0とする。t=(t)2t=(\sqrt{t})^{2}と書くことができるので、乗法性からf(t)=f(t)2≥0f(t)=f(\sqrt{t})^{2}\ge0である。

s≤ts\le tとするとt−s≥0t-s\ge0なので、加法性からf(t)=f(s)+f(t−s)≥f(s)f(t)=f(s)+f(t-s)\ge f(s)である。よってffは広義単調増加である。

ffは加法的で広義単調増加なので、定理 6.1によりk=f(1)k=f(1)としてf(x)=kxf(x)=kxである。これを乗法性へ入れると、すべての実数x,yx,yについてkxy=k2xykxy=k^{2}xyとなり、x=y=1x=y=1としてk=k2k=k^{2}、すなわちk=0k=0またはk=1k=1を得る。

逆に、すべての実数で値が00である関数とf(x)=xf(x)=xは、いずれも二つの等式を満たす。▨

8 正則性を仮定しないときに何が起こるか

例2では正則性が仮定されていませんでしたが、等式が二つあったので、そこから広義単調性を取り出すことができました。等式が一つだけで、正則性も仮定されていない場合には、解が定まらないことがあります。

注意 8.1 (加法性だけを満たす解).f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が加法性f(x+y)=f(x)+f(y)f(x+y)=f(x)+f(y)だけを満たすとき、f(x)=cxf(x)=cxの形でない解が存在する。その構成は、R\mathbb{R}を有理数を係数とするベクトル空間とみて基底を取る操作を用いるものであり、本記事では扱わない。そのような解については、平面上のどのような円板の中にもグラフの点が存在する。

この注意は、直前で扱った加法性だけの方程式について、仮定を確かめる理由を示しています。加法性の一式だけでは実数上の解が一つに定まらないため、連続性、広義単調性、ある区間での有界性のような正則性、定義域を有理数や整数に制限すること、または追加の方程式が解を絞り込む働きをします。一般の関数方程式では、一つの等式だけで解が決まる場合や、仮定された正則性が冗長な場合もあります。したがって、正則性を実際に用いる段と、方程式だけで進む段とを区別してください。

10 演習

  1. f:Q→Qf:\mathbb{Q}\to\mathbb{Q}が、すべての有理数x,yx,yについてf(x+y)=f(x)+f(y)f(x+y)=f(x)+f(y)を満たすとき、解をすべて求めよ。あわせて、この場合に連続性の仮定が要らない理由を述べよ。
  2. f(f(x))=xf(f(x))=xをすべての実数xxについて満たす、狭義単調減少な関数f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}を一つ挙げよ。これによって、定理 4.1の広義単調増加という仮定を落とすことができないことを確かめよ。
  3. f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が、すべての実数x,yx,yについてf(x)f(y)−f(xy)=x+yf(x)f(y)-f(xy)=x+yを満たすとき、解をすべて求めよ。y=1y=1を代入してf(x)f(x)を孤立させ、そのうえでf(1)f(1)の値を決めるとよい。最後に十分性を確かめよ。
  4. 例 5.1の証明の第2段について、単射性を用いた箇所と全射性を用いた箇所をそれぞれ挙げよ。あわせて、第4段で (5) を用いた理由を述べよ。
  5. f:R→Rf:\mathbb{R}\to\mathbb{R}が加法的であり、ある実数x0x_{0}についてf(x0)≠f(1)x0f(x_{0})\ne f(1)x_{0}であるとする。このときffが広義単調増加でないことを、定理 6.1から示せ。

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