1 主張を正確に述べる
定理 1.1 (ベルトランの仮説).nを1以上の正の整数とする。このとき、n<p≤2nを満たす素数pが存在する。
範囲の両端の扱いは、主張の真偽を変えます。
注意 1.2 (不等号の向きと等号の有無). 左端のnは範囲に含まれず、右端の2nは範囲に含まれる。右端をp<2nに置き換えると、n=1の場合に主張は偽になる。1<p<2を満たす素数は存在しないからである。n=1で範囲に入る素数はp=2=2nだけであり、右端が閉じていることがここで効く。
左端が開いていることも、主張の内容の一部である。n自身が素数であっても、主張が要求するのはnより真に大きい素数の存在である。n=7のとき7は素数であるが、主張が保証するのは7<p≤14を満たす素数の存在であり、実際p=11とp=13がある。
2 小さいnで確かめる
例 2.1 (10以下のnについての範囲と素数).nごとに、n<p≤2nを満たす素数をすべて挙げると、次のようになる。
| n |
範囲 |
範囲に入る素数 |
| 1 |
1<p≤2 |
2 |
| 2 |
2<p≤4 |
3 |
| 3 |
3<p≤6 |
5 |
| 4 |
4<p≤8 |
5、7 |
| 5 |
5<p≤10 |
7 |
| 6 |
6<p≤12 |
7、11 |
| 7 |
7<p≤14 |
11、13 |
| 8 |
8<p≤16 |
11、13 |
| 9 |
9<p≤18 |
11、13、17 |
| 10 |
10<p≤20 |
11、13、17、19 |
n=1,2,3,5では素数がちょうど一つしかありません。個数に余裕があるとは限らないので、「範囲が広いから素数がある」という形の議論は成り立ちません。上の計算は主張を確かめる手段であって、すべてのnについての証明ではありません。
証明の方針は次のとおりです。N=(n2n)とおき、Nを下から評価する式と、Nの素因数分解に現れる素数を制限したときの上からの評価とを用意します。n<p≤2nに素数が無いと仮定すると、Nの素因数分解に現れる素数がすべて2n/3以下に限られ、上からの評価が下からの評価を下回ります。以下、そのための評価を順に用意します。
3 中央の二項係数を下から評価する
定理 3.1 (中央の二項係数の下からの評価).1以上の正の整数nについて
(n2n)≥2n4nが成り立つ。
証明. まず(k2n)がk=nで最大になることを確かめます。0≤k≤2n−1について
(k2n)(k+12n)=k+12n−kであり、この値が1以上であることと2n−k≥k+1、すなわちk≤n−1/2とは同値です。kは整数なので、k≤n−1のとき増加し、k≥nのとき減少します。よって最大値はk=nで取ります。
二項定理より∑k=02n(k2n)=22n=4nです。この2n+1個の項のうち、両端の(02n)=(2n2n)=1を一つにまとめると、値2の項が一つと、k=1,…,2n−1に対応する2n−1個の項の、合わせて2n個の項になります。n≥1より(n2n)≥2であるから、どの項も(n2n)以下です。したがって
4n≤2n(n2n)であり、両辺を2nで割ると主張を得ます。▨
4 素因数の指数を上から評価する
定理 4.1 (階乗に現れる素因数の指数).pを素数、mを正の整数とする。m!の素因数分解におけるpの指数は
i≥1∑⌊pim⌋に等しい。この和は、pi>mとなるiについては0なので、有限個の項の和である。
証明.1からmまでの各整数aについて、aの素因数分解におけるpの指数は、piがaを割り切るようなiの個数に等しくなります。m!におけるpの指数はこれらの総和なので、iを先に固定して数え直すと、1からmまでに含まれるpiの倍数の個数、すなわち⌊m/pi⌋をiについて足したものになります。▨
定理 4.2 (中央の二項係数における素因数の指数).nを正の整数、N=(n2n)とし、pを素数、rpをNの素因数分解におけるpの指数とする。このとき次が成り立つ。
- prp≤2n。とくにp>2nならばrp=0である。
- p2>2nならばrp≤1である。
証明.N=n!n!(2n)!であるから、定理 4.1により
rp=i≥1∑(⌊pi2n⌋−2⌊pin⌋)です。実数xをx=⌊x⌋+f(0≤f<1)と書くと⌊2x⌋=2⌊x⌋+⌊2f⌋であり、⌊2f⌋は0か1です。したがって上の和の各項は0か1です。
pi>2nとなるiについては、⌊2n/pi⌋も⌊n/pi⌋も0なので、項は0です。よって0でない項は、pi≤2nを満たすiに限られます。そのようなiの最大値をIとするとrp≤Iであり、pI≤2nであるからprp≤2nです。p>2nのときはIが存在しないのでrp=0です。これが 1 です。
p2>2nのときはi≥2の項がすべて0なので、rpはi=1の項だけであり、rp≤1です。これが 2 です。▨
nと2nの間の素数を探しているので、n以下の素数がNにどれだけ現れるかも押さえます。
定理 4.3 (中間の範囲の素数は現れないこと).n≥5とし、pを素数とする。32n<p≤nならば、N=(n2n)の素因数分解におけるpの指数は0である。
証明.2n/3<p≤nより2p≤2n<3pであり、またp≤n<2pです。したがって
⌊p2n⌋=2,⌊pn⌋=1であり、定理 4.2の証明に現れる和のi=1の項は2−2⋅1=0です。
i≥2の項については、p>2n/3よりp2>4n2/9であり、n≥5のとき4n2/9−2n=92n(2n−9)>0であるからp2>2nです。よってi≥2の項はすべて0です。以上より指数は0です。▨
5 素数の積を上から評価する
定理 5.1 (m以下の素数の積).1以上の正の整数mについて
p≤m∏p<4mが成り立つ。ここで積はm以下のすべての素数pにわたる(素数が無い場合の積は1とする)。
証明.mについての強い帰納法で示します。m=1のとき左辺は1、右辺は4です。m=2のとき左辺は2、右辺は16です。
m≥3が偶数のとき、mは素数ではないので、m以下の素数とm−1以下の素数は一致します。帰納法の仮定より、左辺は4m−1<4m未満です。
m=2k+1(k≥1)が奇数のとき、積を二つに分けます。
p≤2k+1∏p=p≤k+1∏pk+1<p≤2k+1∏p第二の積に現れる素数pはk+1<p≤2k+1を満たします。このときpは(2k+1)!を割り切り、p>k+1よりk!も(k+1)!も割り切りません。素因数分解の一意性により、pは
(k2k+1)=k!(k+1)!(2k+1)!を割り切ります。これらの素数は相異なるので、その積も(k2k+1)を割り切り、第二の積は(k2k+1)以下です。さらに(k2k+1)=(k+12k+1)であり、この二つは∑j=02k+1(j2k+1)=22k+1の項なので
2(k2k+1)≤22k+1,すなわち(k2k+1)≤4kです。k+1<2k+1=mであるから、帰納法の仮定より第一の積は4k+1未満です。以上を合わせると
p≤2k+1∏p<4k+1⋅4k=42k+1=4mを得ます。▨
6 大きいnについての証明
準備した三つの評価を組み合わせます。以下ではn≥2048とし、n<p≤2nを満たす素数が存在しないと仮定して矛盾を導きます。
定理 6.1 (2048以上のnの場合).n≥2048ならば、n<p≤2nを満たす素数が存在する。
証明.n≥2048とし、n<p≤2nを満たす素数が存在しないと仮定します。N=(n2n)とし、Nの素因数分解における素数pの指数をrpと書きます。
第一段:Nに現れる素数は2n/3以下に限られます。定理 4.2の 1 により、p>2nならばrp=0です。仮定により、n<p≤2nでもrp=0です。n≥5であるから定理 4.3により、2n/3<p≤nでもrp=0です。よって
N=p≤2n/3∏prpです。
第二段:この積を上から評価します。積をp≤2nの部分と2n<p≤2n/3の部分に分けます。
前半について、定理 4.2の 1 より各因子はprp≤2nです。2n以下の素数は2,3,…,⌊2n⌋の中にあるので、その個数は2n−1以下です。よって前半は(2n)2n−1以下です。
後半について、p>2nよりp2>2nであるから、定理 4.2の 2 よりrp≤1です。よって後半は2n/3以下の素数の積以下であり、定理 5.1により42n/3未満です。
以上より
N<(2n)2n−1⋅42n/3です。
第三段:二つの評価を突き合わせます。定理 3.1と合わせると
2n4n<(2n)2n−1⋅42n/3であり、両辺に2nを掛けて42n/3で割ると
4n/3<(2n)2nを得ます。両辺の2を底とする対数を取り、t=2nとおくと、log2(4n/3)=2n/3=t2/3、log2((2n)2n)=tlog2(t2)=2tlog2tであるから
3t2<2tlog2t,すなわちt<6log2tです。
第四段:この不等式が成り立たないことを示します。n≥2048より2n≥4096=212であり、t=2n≥26=64です。m=⌊log2t⌋とおくとm≥6、2m≤t、log2t<m+1です。
m≥6について2m≥6(m+1)が成り立つことを、mについての帰納法で確かめます。m=6のとき26=64≥42=6⋅7です。2m≥6(m+1)を仮定すると
2m+1=2⋅2m≥12(m+1)=6(2m+2)≥6(m+2)です。よってすべてのm≥6で成り立ちます。
したがってt≥2m≥6(m+1)>6log2tとなり、第三段で得たt<6log2tに矛盾します。
よって、n≥2048のときn<p≤2nを満たす素数が存在します。▨
7 小さいnについての証明
残るのは1≤n≤2047の場合です。この範囲は、素数を有限個並べるだけで片づきます。
定理 7.1 (2502以下のnの場合).1≤n≤2502ならば、n<p≤2nを満たす素数が存在する。
証明. 次の13個の素数を順に並べます。
2, 3, 5, 7, 13, 23, 43, 83, 163, 317, 631, 1259, 2503これらをq1<q2<⋯<q13と書くと、隣り合う二つはqj+1<2qjを満たします。実際3<4、5<6、7<10、13<14、23<26、43<46、83<86、163<166、317<326、631<634、1259<1262、2503<2518です。
n=1のときはp=2が1<2≤2を満たします。
2≤n≤2502とします。q1=2≤nでありn≤2502<2503=q13であるから、qj≤n<qj+1を満たす番号j(1≤j≤12)を取ることができます。このとき
n<qj+1<2qj≤2nであるから、p=qj+1がn<p≤2nを満たします。▨
証明 (ベルトランの仮説の証明).n≥2048の場合は定理 6.1が、1≤n≤2502の場合は定理 7.1が主張を与えます。2048≤2502であるから、二つの範囲はすべての正の整数を覆います。▨