§C3.10ベルトランの仮説

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本記事は、どの正の整数nnに対してもn<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数ppが存在する、という主張を示します。 素数の並び方には規則が見当たらないにもかかわらず、nnと2n2nの間には必ず素数がある、という形で分布に下限が付く点が、この定理の内容です。証明は、中央の二項係数(2nn)\binom{2n}{n}の大きさを二通りに評価し、その範囲に素数が無いと仮定すると二つの評価が両立しないことを示す形で進みます。

証明に用いる道具は、素数と素因数分解で扱う素因数分解の一意性と、集合と論理で扱う数学的帰納法および背理法です。このほかに、二項定理と、22を底とする対数の計算を用います。本記事は、これらを導入し直さずに用います。以下、⌊x⌋\lfloor x \rfloorはxxを超えない最大の整数を表します。

1 主張を正確に述べる

定理 1.1 (ベルトランの仮説).nnを11以上の正の整数とする。このとき、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数ppが存在する。

範囲の両端の扱いは、主張の真偽を変えます。

注意 1.2 (不等号の向きと等号の有無). 左端のnnは範囲に含まれず、右端の2n2nは範囲に含まれる。右端をp<2np < 2nに置き換えると、n=1n = 1の場合に主張は偽になる。1<p<21 < p < 2を満たす素数は存在しないからである。n=1n = 1で範囲に入る素数はp=2=2np = 2 = 2nだけであり、右端が閉じていることがここで効く。

左端が開いていることも、主張の内容の一部である。nn自身が素数であっても、主張が要求するのはnnより真に大きい素数の存在である。n=7n = 7のとき77は素数であるが、主張が保証するのは7<p≤147 < p \le 14を満たす素数の存在であり、実際p=11p = 11とp=13p = 13がある。

2 小さいnnで確かめる

例 2.1 (1010以下のnnについての範囲と素数).nnごとに、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数をすべて挙げると、次のようになる。

nn 範囲 範囲に入る素数
11 1<p≤21 < p \le 2 22
22 2<p≤42 < p \le 4 33
33 3<p≤63 < p \le 6 55
44 4<p≤84 < p \le 8 55、77
55 5<p≤105 < p \le 10 77
66 6<p≤126 < p \le 12 77、1111
77 7<p≤147 < p \le 14 1111、1313
88 8<p≤168 < p \le 16 1111、1313
99 9<p≤189 < p \le 18 1111、1313、1717
1010 10<p≤2010 < p \le 20 1111、1313、1717、1919

n=1,2,3,5n = 1, 2, 3, 5では素数がちょうど一つしかありません。個数に余裕があるとは限らないので、「範囲が広いから素数がある」という形の議論は成り立ちません。上の計算は主張を確かめる手段であって、すべてのnnについての証明ではありません。

証明の方針は次のとおりです。N=(2nn)N = \binom{2n}{n}とおき、NNを下から評価する式と、NNの素因数分解に現れる素数を制限したときの上からの評価とを用意します。n<p≤2nn < p \le 2nに素数が無いと仮定すると、NNの素因数分解に現れる素数がすべて2n/32n/3以下に限られ、上からの評価が下からの評価を下回ります。以下、そのための評価を順に用意します。

3 中央の二項係数を下から評価する

定理 3.1 (中央の二項係数の下からの評価).11以上の正の整数nnについて

(2nn)≥4n2n\binom{2n}{n} \ge \frac{4^n}{2n}

が成り立つ。

証明. まず(2nk)\binom{2n}{k}がk=nk = nで最大になることを確かめます。0≤k≤2n−10 \le k \le 2n-1について

(2nk+1)(2nk)=2n−kk+1\frac{\binom{2n}{k+1}}{\binom{2n}{k}} = \frac{2n-k}{k+1}

であり、この値が11以上であることと2n−k≥k+12n - k \ge k+1、すなわちk≤n−1/2k \le n - 1/2とは同値です。kkは整数なので、k≤n−1k \le n-1のとき増加し、k≥nk \ge nのとき減少します。よって最大値はk=nk = nで取ります。

二項定理より∑k=02n(2nk)=22n=4n\sum_{k=0}^{2n} \binom{2n}{k} = 2^{2n} = 4^nです。この2n+12n+1個の項のうち、両端の(2n0)=(2n2n)=1\binom{2n}{0} = \binom{2n}{2n} = 1を一つにまとめると、値22の項が一つと、k=1,…,2n−1k = 1, \dots, 2n-1に対応する2n−12n-1個の項の、合わせて2n2n個の項になります。n≥1n \ge 1より(2nn)≥2\binom{2n}{n} \ge 2であるから、どの項も(2nn)\binom{2n}{n}以下です。したがって

4n≤2n(2nn)4^n \le 2n \binom{2n}{n}

であり、両辺を2n2nで割ると主張を得ます。▨

4 素因数の指数を上から評価する

定理 4.1 (階乗に現れる素因数の指数).ppを素数、mmを正の整数とする。m!m!の素因数分解におけるppの指数は

∑i≥1⌊mpi⌋\sum_{i \ge 1} \left\lfloor \frac{m}{p^i} \right\rfloor

に等しい。この和は、pi>mp^i > mとなるiiについては00なので、有限個の項の和である。

証明.11からmmまでの各整数aaについて、aaの素因数分解におけるppの指数は、pip^iがaaを割り切るようなiiの個数に等しくなります。m!m!におけるppの指数はこれらの総和なので、iiを先に固定して数え直すと、11からmmまでに含まれるpip^iの倍数の個数、すなわち⌊m/pi⌋\lfloor m/p^i \rfloorをiiについて足したものになります。▨

定理 4.2 (中央の二項係数における素因数の指数).nnを正の整数、N=(2nn)N = \binom{2n}{n}とし、ppを素数、rpr_pをNNの素因数分解におけるppの指数とする。このとき次が成り立つ。

  1. prp≤2np^{r_p} \le 2n。とくにp>2np > 2nならばrp=0r_p = 0である。
  2. p2>2np^2 > 2nならばrp≤1r_p \le 1である。

証明.N=(2n)!n! n!N = \dfrac{(2n)!}{n!\,n!}であるから、定理 4.1により

rp=∑i≥1(⌊2npi⌋−2⌊npi⌋)r_p = \sum_{i \ge 1} \left( \left\lfloor \frac{2n}{p^i} \right\rfloor - 2\left\lfloor \frac{n}{p^i} \right\rfloor \right)

です。実数xxをx=⌊x⌋+fx = \lfloor x \rfloor + f(0≤f<10 \le f < 1)と書くと⌊2x⌋=2⌊x⌋+⌊2f⌋\lfloor 2x \rfloor = 2\lfloor x \rfloor + \lfloor 2f \rfloorであり、⌊2f⌋\lfloor 2f \rfloorは00か11です。したがって上の和の各項は00か11です。

pi>2np^i > 2nとなるiiについては、⌊2n/pi⌋\lfloor 2n/p^i \rfloorも⌊n/pi⌋\lfloor n/p^i \rfloorも00なので、項は00です。よって00でない項は、pi≤2np^i \le 2nを満たすiiに限られます。そのようなiiの最大値をIIとするとrp≤Ir_p \le Iであり、pI≤2np^I \le 2nであるからprp≤2np^{r_p} \le 2nです。p>2np > 2nのときはIIが存在しないのでrp=0r_p = 0です。これが 1 です。

p2>2np^2 > 2nのときはi≥2i \ge 2の項がすべて00なので、rpr_pはi=1i = 1の項だけであり、rp≤1r_p \le 1です。これが 2 です。▨

nnと2n2nの間の素数を探しているので、nn以下の素数がNNにどれだけ現れるかも押さえます。

定理 4.3 (中間の範囲の素数は現れないこと).n≥5n \ge 5とし、ppを素数とする。2n3<p≤n\dfrac{2n}{3} < p \le nならば、N=(2nn)N = \binom{2n}{n}の素因数分解におけるppの指数は00である。

証明.2n/3<p≤n2n/3 < p \le nより2p≤2n<3p2p \le 2n < 3pであり、またp≤n<2pp \le n < 2pです。したがって

⌊2np⌋=2,⌊np⌋=1\left\lfloor \frac{2n}{p} \right\rfloor = 2, \qquad \left\lfloor \frac{n}{p} \right\rfloor = 1

であり、定理 4.2の証明に現れる和のi=1i = 1の項は2−2⋅1=02 - 2 \cdot 1 = 0です。

i≥2i \ge 2の項については、p>2n/3p > 2n/3よりp2>4n2/9p^2 > 4n^2/9であり、n≥5n \ge 5のとき4n2/9−2n=2n(2n−9)9>04n^2/9 - 2n = \dfrac{2n(2n - 9)}{9} > 0であるからp2>2np^2 > 2nです。よってi≥2i \ge 2の項はすべて00です。以上より指数は00です。▨

5 素数の積を上から評価する

定理 5.1 (mm以下の素数の積).11以上の正の整数mmについて

∏p≤mp<4m\prod_{p \le m} p < 4^m

が成り立つ。ここで積はmm以下のすべての素数ppにわたる(素数が無い場合の積は11とする)。

証明.mmについての強い帰納法で示します。m=1m = 1のとき左辺は11、右辺は44です。m=2m = 2のとき左辺は22、右辺は1616です。

m≥3m \ge 3が偶数のとき、mmは素数ではないので、mm以下の素数とm−1m-1以下の素数は一致します。帰納法の仮定より、左辺は4m−1<4m4^{m-1} < 4^m未満です。

m=2k+1m = 2k+1(k≥1k \ge 1)が奇数のとき、積を二つに分けます。

∏p≤2k+1p=(∏p≤k+1p)(∏k+1<p≤2k+1p)\prod_{p \le 2k+1} p = \left( \prod_{p \le k+1} p \right) \left( \prod_{k+1 < p \le 2k+1} p \right)

第二の積に現れる素数ppはk+1<p≤2k+1k+1 < p \le 2k+1を満たします。このときppは(2k+1)!(2k+1)!を割り切り、p>k+1p > k+1よりk!k!も(k+1)!(k+1)!も割り切りません。素因数分解の一意性により、ppは

(2k+1k)=(2k+1)!k! (k+1)!\binom{2k+1}{k} = \frac{(2k+1)!}{k!\,(k+1)!}

を割り切ります。これらの素数は相異なるので、その積も(2k+1k)\binom{2k+1}{k}を割り切り、第二の積は(2k+1k)\binom{2k+1}{k}以下です。さらに(2k+1k)=(2k+1k+1)\binom{2k+1}{k} = \binom{2k+1}{k+1}であり、この二つは∑j=02k+1(2k+1j)=22k+1\sum_{j=0}^{2k+1} \binom{2k+1}{j} = 2^{2k+1}の項なので

2(2k+1k)≤22k+1,すなわち(2k+1k)≤4k2\binom{2k+1}{k} \le 2^{2k+1}, \qquad \text{すなわち} \qquad \binom{2k+1}{k} \le 4^k

です。k+1<2k+1=mk+1 < 2k+1 = mであるから、帰納法の仮定より第一の積は4k+14^{k+1}未満です。以上を合わせると

∏p≤2k+1p<4k+1⋅4k=42k+1=4m\prod_{p \le 2k+1} p < 4^{k+1} \cdot 4^k = 4^{2k+1} = 4^m

を得ます。▨

6 大きいnnについての証明

準備した三つの評価を組み合わせます。以下ではn≥2048n \ge 2048とし、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数が存在しないと仮定して矛盾を導きます。

定理 6.1 (20482048以上のnnの場合).n≥2048n \ge 2048ならば、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数が存在する。

証明.n≥2048n \ge 2048とし、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数が存在しないと仮定します。N=(2nn)N = \binom{2n}{n}とし、NNの素因数分解における素数ppの指数をrpr_pと書きます。

第一段:NNに現れる素数は2n/32n/3以下に限られます。定理 4.2の 1 により、p>2np > 2nならばrp=0r_p = 0です。仮定により、n<p≤2nn < p \le 2nでもrp=0r_p = 0です。n≥5n \ge 5であるから定理 4.3により、2n/3<p≤n2n/3 < p \le nでもrp=0r_p = 0です。よって

N=∏p≤2n/3prpN = \prod_{p \le 2n/3} p^{r_p}

です。

第二段:この積を上から評価します。積をp≤2np \le \sqrt{2n}の部分と2n<p≤2n/3\sqrt{2n} < p \le 2n/3の部分に分けます。

前半について、定理 4.2の 1 より各因子はprp≤2np^{r_p} \le 2nです。2n\sqrt{2n}以下の素数は2,3,…,⌊2n⌋2, 3, \dots, \lfloor \sqrt{2n} \rfloorの中にあるので、その個数は2n−1\sqrt{2n} - 1以下です。よって前半は(2n)2n−1(2n)^{\sqrt{2n} - 1}以下です。

後半について、p>2np > \sqrt{2n}よりp2>2np^2 > 2nであるから、定理 4.2の 2 よりrp≤1r_p \le 1です。よって後半は2n/32n/3以下の素数の積以下であり、定理 5.1により42n/34^{2n/3}未満です。

以上より

N<(2n)2n−1⋅42n/3N < (2n)^{\sqrt{2n} - 1} \cdot 4^{2n/3}

です。

第三段:二つの評価を突き合わせます。定理 3.1と合わせると

4n2n<(2n)2n−1⋅42n/3\frac{4^n}{2n} < (2n)^{\sqrt{2n} - 1} \cdot 4^{2n/3}

であり、両辺に2n2nを掛けて42n/34^{2n/3}で割ると

4n/3<(2n)2n4^{n/3} < (2n)^{\sqrt{2n}}

を得ます。両辺の22を底とする対数を取り、t=2nt = \sqrt{2n}とおくと、log⁡2(4n/3)=2n/3=t2/3\log_2 (4^{n/3}) = 2n/3 = t^2/3、log⁡2((2n)2n)=tlog⁡2(t2)=2tlog⁡2t\log_2 \bigl( (2n)^{\sqrt{2n}} \bigr) = t \log_2 (t^2) = 2t\log_2 tであるから

t23<2tlog⁡2t,すなわちt<6log⁡2t\frac{t^2}{3} < 2t \log_2 t, \qquad \text{すなわち} \qquad t < 6 \log_2 t

です。

第四段:この不等式が成り立たないことを示します。n≥2048n \ge 2048より2n≥4096=2122n \ge 4096 = 2^{12}であり、t=2n≥26=64t = \sqrt{2n} \ge 2^6 = 64です。m=⌊log⁡2t⌋m = \lfloor \log_2 t \rfloorとおくとm≥6m \ge 6、2m≤t2^m \le t、log⁡2t<m+1\log_2 t < m+1です。

m≥6m \ge 6について2m≥6(m+1)2^m \ge 6(m+1)が成り立つことを、mmについての帰納法で確かめます。m=6m = 6のとき26=64≥42=6⋅72^6 = 64 \ge 42 = 6 \cdot 7です。2m≥6(m+1)2^m \ge 6(m+1)を仮定すると

2m+1=2⋅2m≥12(m+1)=6(2m+2)≥6(m+2)2^{m+1} = 2 \cdot 2^m \ge 12(m+1) = 6(2m+2) \ge 6(m+2)

です。よってすべてのm≥6m \ge 6で成り立ちます。

したがってt≥2m≥6(m+1)>6log⁡2tt \ge 2^m \ge 6(m+1) > 6\log_2 tとなり、第三段で得たt<6log⁡2tt < 6\log_2 tに矛盾します。

よって、n≥2048n \ge 2048のときn<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数が存在します。▨

7 小さいnnについての証明

残るのは1≤n≤20471 \le n \le 2047の場合です。この範囲は、素数を有限個並べるだけで片づきます。

定理 7.1 (25022502以下のnnの場合).1≤n≤25021 \le n \le 2502ならば、n<p≤2nn < p \le 2nを満たす素数が存在する。

証明. 次の1313個の素数を順に並べます。

2, 3, 5, 7, 13, 23, 43, 83, 163, 317, 631, 1259, 25032,\ 3,\ 5,\ 7,\ 13,\ 23,\ 43,\ 83,\ 163,\ 317,\ 631,\ 1259,\ 2503

これらをq1<q2<⋯<q13q_1 < q_2 < \cdots < q_{13}と書くと、隣り合う二つはqj+1<2qjq_{j+1} < 2q_jを満たします。実際3<43 < 4、5<65 < 6、7<107 < 10、13<1413 < 14、23<2623 < 26、43<4643 < 46、83<8683 < 86、163<166163 < 166、317<326317 < 326、631<634631 < 634、1259<12621259 < 1262、2503<25182503 < 2518です。

n=1n = 1のときはp=2p = 2が1<2≤21 < 2 \le 2を満たします。

2≤n≤25022 \le n \le 2502とします。q1=2≤nq_1 = 2 \le nでありn≤2502<2503=q13n \le 2502 < 2503 = q_{13}であるから、qj≤n<qj+1q_j \le n < q_{j+1}を満たす番号jj(1≤j≤121 \le j \le 12)を取ることができます。このとき

n<qj+1<2qj≤2nn < q_{j+1} < 2 q_j \le 2n

であるから、p=qj+1p = q_{j+1}がn<p≤2nn < p \le 2nを満たします。▨

証明 (ベルトランの仮説の証明).n≥2048n \ge 2048の場合は定理 6.1が、1≤n≤25021 \le n \le 2502の場合は定理 7.1が主張を与えます。2048≤25022048 \le 2502であるから、二つの範囲はすべての正の整数を覆います。▨

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