§C3.11ディリクレの近似定理

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本記事は、実数α\alphaについて、∣α−p/q∣<1/q2\left\lvert \alpha - p/q \right\rvert < 1/q^2を満たす既約分数p/qp/qが無限に存在することと、α\alphaが無理数であることとが同値である、という主張を示します。 分母を大きくすれば誤差が小さくなること自体は当たり前ですが、誤差が分母の二乗に反比例する速さで小さくなる近似をいくらでも取ることができるかどうかは、α\alphaが無理数であるかどうかで決まります。証明は、小数部分を有限個の区間へ振り分ける鳩の巣原理によって進みます。

証明に用いる道具は、鳩の巣原理で扱う振り分けの議論です。本記事は、これを導入し直さずに用います。以下、⌊x⌋\lfloor x \rfloorはxxを超えない最大の整数を、{x}=x−⌊x⌋\{x\} = x - \lfloor x \rfloorはxxの小数部分を表します。定義から0≤{x}<10 \le \{x\} < 1です。分数p/qp/qではqqを11以上の整数、ppを整数とします。

1 近似の精度をどう測るか

分母を先に決めてしまえば、ある程度の精度はいつでも得ることができます。

注意 1.1 (分母を決めたときに無条件で得られる精度). 実数α\alphaと正の整数qqに対し、qαq\alphaに最も近い整数をppとすると∣qα−p∣≤1/2\lvert q\alpha - p \rvert \le 1/2、すなわち∣α−p/q∣≤1/(2q)\lvert \alpha - p/q \rvert \le 1/(2q)が成り立つ。この評価はどの実数α\alphaとどのqqについても成り立つので、α\alphaごとの違いを何も表さない。

したがって、近似の良し悪しを見るには、誤差が1/q1/qよりも速く小さくなるかどうかを問う必要があります。本記事が扱うのは、誤差が1/q21/q^2より小さくなる近似です。q≥3q \ge 3のとき1/q2<1/(2q)1/q^2 < 1/(2q)であり、qqが大きいほど二つの量の比q/2q/2は大きくなります。

2 分母の上限を決めた形の主張

はじめに、分母の上限NNを先に決めた形で述べます。この形が証明の本体であり、無限に多くの近似を取ることができることは、ここから導きます。

定理 2.1 (ディリクレの近似定理(分母の上限を決めた形)).α\alphaを実数、NNを正の整数とする。このとき、1≤q≤N1 \le q \le Nを満たす整数qqと整数ppで

∣qα−p∣<1N\lvert q\alpha - p \rvert < \frac{1}{N}

を満たすものが存在する。このとき

∣α−pq∣<1qN≤1q2\left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert < \frac{1}{qN} \le \frac{1}{q^2}

が成り立つ。

証明の方針は、α\alphaの整数倍の小数部分をNN個の区間へ振り分け、同じ区間に入る二つを取ることです。取った二つの差から、目的のqqとppを作ります。

証明.N+1N+1個の実数

{0⋅α}, {1⋅α}, …, {N⋅α}\{0 \cdot \alpha\},\ \{1 \cdot \alpha\},\ \dots,\ \{N \cdot \alpha\}

を考えます。これらはすべて区間[0,1)[0, 1)に属します。区間[0,1)[0,1)を

[0,1N), [1N,2N), …, [N−1N,1)\left[0, \frac{1}{N}\right),\ \left[\frac{1}{N}, \frac{2}{N}\right),\ \dots,\ \left[\frac{N-1}{N}, 1\right)

のNN個へ分けます。N+1N+1個の実数をNN個の区間へ振り分けるので、鳩の巣原理により、同じ区間に入るものが少なくとも二つあります。それを{k1α}\{k_1 \alpha\}、{k2α}\{k_2 \alpha\}(0≤k1<k2≤N0 \le k_1 < k_2 \le N)とします。同じ区間に属するので

∣{k2α}−{k1α}∣<1N\bigl\lvert \{k_2 \alpha\} - \{k_1 \alpha\} \bigr\rvert < \frac{1}{N}

です。ここで

q=k2−k1,p=⌊k2α⌋−⌊k1α⌋q = k_2 - k_1, \qquad p = \lfloor k_2 \alpha \rfloor - \lfloor k_1 \alpha \rfloor

とおきます。0≤k1<k2≤N0 \le k_1 < k_2 \le Nより1≤q≤N1 \le q \le Nであり、ppは整数です。さらに

qα−p=(k2α−⌊k2α⌋)−(k1α−⌊k1α⌋)={k2α}−{k1α}q\alpha - p = (k_2 \alpha - \lfloor k_2\alpha \rfloor) - (k_1\alpha - \lfloor k_1\alpha\rfloor) = \{k_2\alpha\} - \{k_1\alpha\}

であるから∣qα−p∣<1/N\lvert q\alpha - p \rvert < 1/Nです。

両辺をq>0q > 0で割ると∣α−p/q∣<1/(qN)\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/(qN)です。q≤Nq \le Nより1/(qN)≤1/q21/(qN) \le 1/q^2であるから、∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2も成り立ちます。▨

3 既約分数に限って数える理由

無限に多くあるかどうかを問うときには、分数を既約分数に限る必要があります。

注意 3.1 (約分していない分数を数えると個数が意味を失う).α=a/b\alpha = a/bを有理数とすると、kkを正の整数としてp=kap = ka、q=kbq = kbとおけば∣α−p/q∣=0<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert = 0 < 1/q^2が成り立つ。したがって、約分していない分数まで数えると、有理数についても条件を満たす分数が無限に得られてしまう。分数としてはこれらはすべてa/ba/bの別の書き方であり、新しい近似ではない。以下、条件を満たす分数の個数は、既約分数の個数として数える。

なお、既約であるかどうかは条件の成否を弱めません。p/qp/qが∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2を満たすとき、p/qp/qを約分して得られる既約分数p′/q′p'/q'はq′≤qq' \le qを満たすので

∣α−p′q′∣=∣α−pq∣<1q2≤1q′2\left\lvert \alpha - \frac{p'}{q'} \right\rvert = \left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert < \frac{1}{q^2} \le \frac{1}{q'^2}

となり、既約分数としても同じ条件を満たします。

4 無理数の場合

定理 4.1 (無理数に対しては無限個ある).α\alphaを無理数とする。このとき

∣α−pq∣<1q2\left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert < \frac{1}{q^2}

を満たす既約分数p/qp/qは無限に存在する。

証明. 条件を満たす既約分数が有限個しかないと仮定し、それらをp1/q1,…,ps/qsp_1/q_1, \dots, p_s/q_sとします。α\alphaは無理数なので、どのiiについてもα≠pi/qi\alpha \ne p_i/q_iであり、∣α−pi/qi∣>0\lvert \alpha - p_i/q_i \rvert > 0です。そこで

δ=min⁡1≤i≤s∣α−piqi∣\delta = \min_{1 \le i \le s} \left\lvert \alpha - \frac{p_i}{q_i} \right\rvert

とおくとδ>0\delta > 0です。

1/N<δ1/N < \deltaを満たす正の整数NNを取り、定理 2.1をα\alphaとNNに適用すると、1≤q≤N1 \le q \le Nと整数ppで

∣α−pq∣<1qN≤1N<δ\left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert < \frac{1}{qN} \le \frac{1}{N} < \delta

かつ∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2を満たすものが得られます。このp/qp/qを約分して既約分数にすると、上で見たとおり条件∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2は保たれ、α\alphaとの差の値も変わりません。したがってこの既約分数は条件を満たすので、p1/q1,…,ps/qsp_1/q_1, \dots, p_s/q_sのいずれかと一致します。しかし、そのすべてはα\alphaとの差がδ\delta以上であるのに対し、得られた分数の差はδ\delta未満です。これは矛盾です。

よって、条件を満たす既約分数は無限に存在します。▨

5 有理数の場合

無理数であるという仮定を外すと、結論は成り立ちません。

定理 5.1 (有理数に対しては有限個しかない).α=a/b\alpha = a/bを既約分数(b≥1b \ge 1)とする。このとき

∣α−pq∣<1q2\left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert < \frac{1}{q^2}

を満たす既約分数p/qp/qは有限個である。

証明. 既約分数p/qp/qが条件を満たすとします。

p/q=a/bp/q = a/bである場合、どちらも既約分数なのでq=bq = b、p=ap = aであり、この分数は一つだけです。

p/q≠a/bp/q \ne a/bである場合、aq−bp≠0aq - bp \ne 0です。aq−bpaq - bpは整数なので∣aq−bp∣≥1\lvert aq - bp \rvert \ge 1であり

∣α−pq∣=∣aq−bp∣bq≥1bq\left\lvert \alpha - \frac{p}{q} \right\rvert = \frac{\lvert aq - bp \rvert}{bq} \ge \frac{1}{bq}

が成り立ちます。条件と合わせると1/(bq)<1/q21/(bq) < 1/q^2、すなわちq<bq < bです。したがってqqの取りうる値は11からb−1b-1までの有限個です。qqを一つ固定すると、条件はppが長さ2/q2/qの区間(qα−1/q, qα+1/q)(q\alpha - 1/q,\ q\alpha + 1/q)に入ることを意味するので、ppの取りうる値も有限個です。

以上より、条件を満たす既約分数は有限個です。▨

例 5.2 (α=1/2\alpha = 1/2の場合をすべて書き出す).α=1/2\alpha = 1/2とするとb=2b = 2である。定理 5.1の証明により、1/21/2自身のほかはq<2q < 2、すなわちq=1q = 1の場合に限られる。q=1q = 1では∣1/2−p∣<1\lvert 1/2 - p \rvert < 1を満たす整数ppは00と11である。したがって条件を満たす既約分数は

01,11,12\frac{0}{1}, \qquad \frac{1}{1}, \qquad \frac{1}{2}

の三つだけである。

6 二つの場合を合わせる

定理 6.1 (ディリクレの近似定理). 実数α\alphaについて、次の二つは同値である。

  1. ∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2を満たす既約分数p/qp/qが無限に存在する。
  2. α\alphaは無理数である。

証明. 2 から 1 は定理 4.1です。1 から 2 は定理 5.1の対偶です。▨

7 具体的な近似を見る

例 7.1 (2\sqrt2とπ\piに対する近似).2=1.41421356…\sqrt2 = 1.41421356\ldotsとπ=3.14159265…\pi = 3.14159265\ldotsに対して、条件∣α−p/q∣<1/q2\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/q^2を満たす既約分数の例を挙げると、次のようになる。値は小数第88位までの近似値である。

α\alpha p/qp/q ∣α−p/q∣\lvert \alpha - p/q \rvert 1/q21/q^2
2\sqrt2 3/23/2 0.085786440.08578644 0.250.25
2\sqrt2 7/57/5 0.014213560.01421356 0.040.04
2\sqrt2 17/1217/12 0.002453110.00245311 0.006944440.00694444
2\sqrt2 41/2941/29 0.000420460.00042046 0.001189060.00118906
2\sqrt2 99/7099/70 0.000072150.00007215 0.000204080.00020408
π\pi 22/722/7 0.001264490.00126449 0.020408160.02040816
π\pi 333/106333/106 0.000083220.00008322 0.000089000.00008900
π\pi 355/113355/113 0.000000270.00000027 0.000078310.00007831

どの行でも、左の値が右の値より小さい。355/113355/113では、誤差が1/q21/q^2の11パーセント未満である。

8 連分数の近似分数との関係

注意 8.1 (連分数展開の近似分数との一致).例 7.1に現れた3/23/2、7/57/5、17/1217/12、41/2941/29、99/7099/70は2\sqrt2の連分数展開の近似分数であり、22/722/7、333/106333/106、355/113355/113はπ\piの連分数展開の近似分数である。一般に、次の二つが知られている。

  • 実数α\alphaの連分数展開の近似分数pk/qkp_k/q_kは、∣α−pk/qk∣<1/qk2\lvert \alpha - p_k/q_k \rvert < 1/q_k^2を満たす。
  • 既約分数p/qp/qが∣α−p/q∣<1/(2q2)\lvert \alpha - p/q \rvert < 1/(2q^2)を満たすならば、p/qp/qはα\alphaの連分数展開の近似分数である。

本記事はこの二つを証明しない。連分数展開と近似分数そのものは連分数で扱う。二つ目の条件が1/q21/q^2ではなく1/(2q2)1/(2q^2)であることに注意する。π\piに対する333/106333/106は1/q21/q^2の条件を満たすが1/(2q2)1/(2q^2)の条件を満たさない近似分数であり、二つ目の主張の逆は成り立たない。

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