1 近似の精度をどう測るか
分母を先に決めてしまえば、ある程度の精度はいつでも得ることができます。
したがって、近似の良し悪しを見るには、誤差が1/qよりも速く小さくなるかどうかを問う必要があります。本記事が扱うのは、誤差が1/q2より小さくなる近似です。q≥3のとき1/q2<1/(2q)であり、qが大きいほど二つの量の比q/2は大きくなります。
2 分母の上限を決めた形の主張
はじめに、分母の上限Nを先に決めた形で述べます。この形が証明の本体であり、無限に多くの近似を取ることができることは、ここから導きます。
証明の方針は、αの整数倍の小数部分をN個の区間へ振り分け、同じ区間に入る二つを取ることです。取った二つの差から、目的のqとpを作ります。
証明.N+1個の実数
{0⋅α}, {1⋅α}, …, {N⋅α}を考えます。これらはすべて区間[0,1)に属します。区間[0,1)を
[0,N1), [N1,N2), …, [NN−1,1)のN個へ分けます。N+1個の実数をN個の区間へ振り分けるので、鳩の巣原理により、同じ区間に入るものが少なくとも二つあります。それを{k1α}、{k2α}(0≤k1<k2≤N)とします。同じ区間に属するので
{k2α}−{k1α}<N1です。ここで
q=k2−k1,p=⌊k2α⌋−⌊k1α⌋とおきます。0≤k1<k2≤Nより1≤q≤Nであり、pは整数です。さらに
qα−p=(k2α−⌊k2α⌋)−(k1α−⌊k1α⌋)={k2α}−{k1α}であるから∣qα−p∣<1/Nです。
両辺をq>0で割ると∣α−p/q∣<1/(qN)です。q≤Nより1/(qN)≤1/q2であるから、∣α−p/q∣<1/q2も成り立ちます。▨
3 既約分数に限って数える理由
無限に多くあるかどうかを問うときには、分数を既約分数に限る必要があります。
なお、既約であるかどうかは条件の成否を弱めません。p/qが∣α−p/q∣<1/q2を満たすとき、p/qを約分して得られる既約分数p′/q′はq′≤qを満たすので
α−q′p′=α−qp<q21≤q′21
となり、既約分数としても同じ条件を満たします。
4 無理数の場合
定理 4.1 (無理数に対しては無限個ある).αを無理数とする。このとき
α−qp<q21を満たす既約分数p/qは無限に存在する。
証明. 条件を満たす既約分数が有限個しかないと仮定し、それらをp1/q1,…,ps/qsとします。αは無理数なので、どのiについてもα=pi/qiであり、∣α−pi/qi∣>0です。そこで
δ=1≤i≤sminα−qipiとおくとδ>0です。
1/N<δを満たす正の整数Nを取り、定理 2.1をαとNに適用すると、1≤q≤Nと整数pで
α−qp<qN1≤N1<δかつ∣α−p/q∣<1/q2を満たすものが得られます。このp/qを約分して既約分数にすると、上で見たとおり条件∣α−p/q∣<1/q2は保たれ、αとの差の値も変わりません。したがってこの既約分数は条件を満たすので、p1/q1,…,ps/qsのいずれかと一致します。しかし、そのすべてはαとの差がδ以上であるのに対し、得られた分数の差はδ未満です。これは矛盾です。
よって、条件を満たす既約分数は無限に存在します。▨
5 有理数の場合
無理数であるという仮定を外すと、結論は成り立ちません。
定理 5.1 (有理数に対しては有限個しかない).α=a/bを既約分数(b≥1)とする。このとき
α−qp<q21を満たす既約分数p/qは有限個である。
証明. 既約分数p/qが条件を満たすとします。
p/q=a/bである場合、どちらも既約分数なのでq=b、p=aであり、この分数は一つだけです。
p/q=a/bである場合、aq−bp=0です。aq−bpは整数なので∣aq−bp∣≥1であり
α−qp=bq∣aq−bp∣≥bq1が成り立ちます。条件と合わせると1/(bq)<1/q2、すなわちq<bです。したがってqの取りうる値は1からb−1までの有限個です。qを一つ固定すると、条件はpが長さ2/qの区間(qα−1/q, qα+1/q)に入ることを意味するので、pの取りうる値も有限個です。
以上より、条件を満たす既約分数は有限個です。▨
例 5.2 (α=1/2の場合をすべて書き出す).α=1/2とするとb=2である。定理 5.1の証明により、1/2自身のほかはq<2、すなわちq=1の場合に限られる。q=1では∣1/2−p∣<1を満たす整数pは0と1である。したがって条件を満たす既約分数は
10,11,21の三つだけである。
6 二つの場合を合わせる
定理 6.1 (ディリクレの近似定理). 実数αについて、次の二つは同値である。
- ∣α−p/q∣<1/q2を満たす既約分数p/qが無限に存在する。
- αは無理数である。
7 具体的な近似を見る
例 7.1 (2とπに対する近似).2=1.41421356…とπ=3.14159265…に対して、条件∣α−p/q∣<1/q2を満たす既約分数の例を挙げると、次のようになる。値は小数第8位までの近似値である。
| α |
p/q |
∣α−p/q∣ |
1/q2 |
| 2 |
3/2 |
0.08578644 |
0.25 |
| 2 |
7/5 |
0.01421356 |
0.04 |
| 2 |
17/12 |
0.00245311 |
0.00694444 |
| 2 |
41/29 |
0.00042046 |
0.00118906 |
| 2 |
99/70 |
0.00007215 |
0.00020408 |
| π |
22/7 |
0.00126449 |
0.02040816 |
| π |
333/106 |
0.00008322 |
0.00008900 |
| π |
355/113 |
0.00000027 |
0.00007831 |
どの行でも、左の値が右の値より小さい。355/113では、誤差が1/q2の1パーセント未満である。
8 連分数の近似分数との関係