鳩の巣原理は、有限個の対象を有限個の箱へ分類したときに、同じ箱に入る異なる対象の存在を保証します。原理は存在を保証しますが、どの対象が同じ箱に入るかまでは指定しません。
1 有限集合の間の写像
対象の集合を、箱の集合をとし、対象が入る箱をと書きます。
定義 1.1 (単射と全射). 写像が単射であるとは、ならばが成り立つことをいいます。写像が全射であるとは、すべてのに対してを満たすが存在することをいいます。
鳩の巣原理を写像の言葉で述べます。
定理 1.2 (鳩の巣原理).を有限集合とし、を写像とします。ならばは単射ではありません。したがって、異なるでを満たすものが存在します。
証明.が単射であると仮定します。このとき、各は互いに異なるの要素へ対応するので、は少なくとも個の要素をもたなければなりません。これはに反します。したがっては単射ではありません。▨
一つの箱に入る対象の個数についても下界を得ることができます。
定理 1.3 (鳩の巣原理の一般形).を有限集合とし、を正の整数とします。ならば、あるが存在してが成り立ちます。
証明. すべての箱に高々個しか入らないと仮定すると、対象の総数は高々個です。これはに反します。▨
2 同じ要素数の有限集合
同数の有限集合では、単射性と全射性の一方だけを確かめればもう一方も従います。
定理 2.1 (有限集合上の単射と全射).をを満たす有限集合とし、を写像とします。次は同値です。
- は単射です。
- は全射です。
- は全単射です。
証明.が単射ならば、個の異なる像があります。なので像は全体であり、は全射です。逆に、が全射で単射でないと仮定すると、二つ以上の要素が入る箱が存在します。全射なので空の箱はなく、個の対象だけでは個の箱をすべて埋めることができません。これは全射性に反します。したがっては単射です。▨
例 2.2 (同じ余りをもつ整数). 整数を13個選びます。12で割った余りは0から11までの12種類なので、鳩の巣原理により同じ余りをもつ2個が存在します。その差は12の倍数です。
例 2.3 (同じ誕生日). うるう日を除く365日だけを誕生日の候補とします。366人を誕生日によって分類すると、同じ誕生日の2人が存在します。この結論は誕生日の分布が一様であることを仮定しません。
何を対象とし、何を箱とみなすかを設計する競技数学での使い方は「鳩の巣原理の応用」が扱います。
3 演習
- 1以上10以下の整数から6個を選ぶと、差が5の倍数である2個が存在することを証明します。
- が同じ要素数をもつ有限集合で、が全射であるとき、が単射であることを、空の箱と二個以上入る箱の個数に着目して証明します。
- 25個の対象を6個の箱へ入れるとき、少なくとも一つの箱に5個以上の対象が入ることを一般形から示します。
- 13個の整数から同じ余りをもつ2個の存在は保証されますが、その2個を数値として特定することはできない理由を説明します。
1では、5で割った余りを箱とします。6個の整数を5個の箱へ入れるので、同じ余りをもつ2個が存在します。2では、単射でなければ二個以上入る箱があり、対象と箱が同数なので空の箱が生じます。これは全射性に反します。3ではなので、とした一般形を適用します。4では、原理に与えた情報が個々の整数の値を含まず、余りの種類と対象数だけだからです。