1 尤度と対数尤度
定義 1.1.(X,A)を標本空間、Θを空でない母数集合とし、(Pθ)θ∈ΘをX上の確率測度族とする。シグマ有限測度μがすべてのPθを支配すると仮定し、各θ∈Θについて有限値非負可測な密度
pθ=dμdPθの一つの版を選ぶ。観測値x∈Xを固定したとき、関数
Lx:Θ⟶[0,∞),Lx(θ)=pθ(x)を 尤度関数 (likelihood function) という。また、log0=−∞と定めて
ℓx:Θ⟶[−∞,∞),ℓx(θ)=logLx(θ)とおき、ℓxを 対数尤度 (log-likelihood) という。
命題 1.5. 観測値x∈Xを固定し、LxとLxをΘ上の二つの尤度関数とする。c(x)∈(0,∞)が母数に依存せず、すべてのθ∈Θについて
Lx(θ)=c(x)Lx(θ)を満たすと仮定する。このとき、LxとLxの零点集合は一致し、拡張実数値の対数尤度は
ℓx(θ)=ℓx(θ)+logc(x)を満たす。また、Lx(ϑ)>0である任意のθ,ϑ∈Θに対して
Lx(ϑ)Lx(θ)=Lx(ϑ)Lx(θ)が成り立つ。さらに、任意のθ,ϑ∈Θに対して
Lx(θ)≤Lx(ϑ)⟺Lx(θ)≤Lx(ϑ)である。したがって二つの尤度関数の最大化集合は一致する。
証明.c(x)>0であるから、Lx(θ)=0とLx(θ)=0は同値である。Lx(θ)>0のときは積の対数を取ると
ℓx(θ)=logc(x)+ℓx(θ)を得る。Lx(θ)=0のときは両辺が−∞であるため、同じ等式が拡張実数上で成り立つ。さらにLx(ϑ)>0ならばLx(ϑ)>0であり、
Lx(ϑ)Lx(θ)=c(x)Lx(ϑ)c(x)Lx(θ)=Lx(ϑ)Lx(θ)となる。正数c(x)の乗法は大小関係を保存するため、最後の同値と最大化集合の一致も従う。▨
2 尤度比
命題 2.1. 観測値x∈Xを固定する。θ,ϑ∈ΘがLx(ϑ)>0を満たすとき、
Rx(θ,ϑ)=Lx(ϑ)Lx(θ)と書く。この尤度比は次の性質を満たす。
- Lx(θ)>0ならば、Rx(θ,θ)=1である。
- Lx(θ)>0かつLx(ϑ)>0ならば、Rx(θ,ϑ)=Rx(ϑ,θ)−1である。
- Lx(ϑ)>0かつLx(ψ)>0ならば、Rx(θ,ψ)=Rx(θ,ϑ)Rx(ϑ,ψ)である。
証明. 尤度比の定義を代入し、各仮定によって正である分母を約分すると、(1)、(2)、(3)の三式を得る。▨
例 2.2.X={0,1}、Θ=(0,1)とし、Pθ({1})=θ、Pθ({0})=1−θとする。X上の計数測度μに関する密度は
pθ(0)=1−θ,pθ(1)=θである。観測値がx=1ならばL1(θ)=θであり、任意のθ,ϑ∈(0,1)に対して
R1(θ,ϑ)=ϑθとなる。
ν({0})=1、ν({1})=2と定めた測度νも各Pθを支配する。νに関する密度をqθとすると、qθ(0)=1−θ、qθ(1)=θ/2である。したがって観測値x=1における尤度はL1(θ)=L1(θ)/2に変わるが、任意のθ,ϑ∈(0,1)について
L1(ϑ)L1(θ)=ϑθであり、尤度比は変わらない。
例 2.4. 母数集合をΘ={0,1}とし、ある観測値xにおいてLx(0)=Lx(1)=1とする。正因子a(0)=1、a(1)=2を掛けた関数Lx(θ)=a(θ)Lx(θ)は
Rx(1,0)=1,Lx(0)Lx(1)=2を満たす。したがって、命題 1.5で尤度比が保存されるためには、正因子が母数に依存しないという仮定が必要である。
3 再パラメータ化
命題 3.1.Hを集合とし、g:Θ→Hを全単射とする。η=g(θ)によって同じ確率測度族をQη=Pg−1(η)と添字付け直し、その密度をqη=pg−1(η)と定める。観測値x∈Xに対する再パラメータ化後の尤度と対数尤度は
Lx(g)=Lx∘g−1,ℓx(g)=ℓx∘g−1を満たす。また、Lx(ϑ)>0ならば
Lx(g)(g(ϑ))Lx(g)(g(θ))=Rx(θ,ϑ)である。
証明. 任意のη∈Hに対して、再パラメータ化後の密度の定義から
Lx(g)(η)=qη(x)=pg−1(η)(x)=Lx(g−1(η))である。両辺の対数を取ると、Lx(g−1(η))=0の場合もlog0=−∞の規約により、ℓx(g)(η)=ℓx(g−1(η))を得る。η=g(θ)とg(ϑ)を代入すると、尤度比の等式が従う。▨
4 尤度原理