1 情報行列と制約付き推定量
補題 1.1.q,r∈N≥1とし、実対称正定値行列Iを
I=(AB⊤BC),A∈Rq×q,C∈Rr×rと分ける。Aと Schur 補行列S=C−B⊤A−1Bは正定値であり、(I−1)22=S−1である。d=(d1,d2)∈Rq×Rrとv=d2−B⊤A−1d1に対して
(I−1d)2=S−1v,d⊤I−1d−d1⊤A−1d1=v⊤S−1vが成り立つ。
補題 1.2.p=q+r、q,r∈N≥1とし、Θ⊆Rq×Rrを開集合とする。独立同分布モデルがθ0=(η0,ζ0)∈Θにおける局所 Cramér 条件§E14.13 定義 1.1を満たすとする。Un=∇ℓn、Jn=−∇2ℓn/nとおき、真値での情報行列と正規化した score を
I0=(AB⊤BC),Δn=nUn(θ0)=(Δn,1Δn,2),Vn=Δn,2−B⊤A−1Δn,1と書く。θn=(ηn,ζ0)∈Θが可測で、θnPθ0θ0、かつ確率が1へ収束する事象上でUn,1(θn)=0であると仮定する。このとき
n(ηn−η0)=A−1Δn,1+oPθ0(1),nUn,2(θn)=Vn+oPθ0(1).さらにS=C−B⊤A−1BとするとVn⇒Nr(0,S)である。局所微分が定義されない標本では score を零に補完する。
証明.η↦p(η,ζ0)を開集合{η:(η,ζ0)∈Θ}上で考える。この部分モデルの score と Hessian は元の対応する成分であり、微分積分交換と三階優関数の条件を継承する。情報行列Aは補題 1.1によって正定値である。したがって部分モデルに§E14.13 定理 3.1を適用すると、ηnの表示を得る。
hn=n(θn−θ0)とおく。この列は確率有界であり、最後のr成分は零である。θnが局所閉球に入る事象上で、score の線分積分は
nUn(θn)=Δn−{∫01Jn(θ0+t(θn−θ0))dt}hnを与える。積分行列は§E14.13 補題 1.3 (3)によりI0へ確率収束する。確率有界な列とoP(1)の積はoP(1)であるから、最後のr成分を取れば残存する score の表示を得る。
§E14.13 補題 1.3 (1)によりΔn⇒Np(0,I0)である。線形写像(d1,d2)↦d2−B⊤A−1d1を適用すると、正規極限の共分散は
C−B⊤A−1B−B⊤A−1B+B⊤A−1AA−1B=Sとなる。正規ベクトルの特徴づけ§E11.10 定理 4.2から結論を得る。▨
2 座標を固定する帰無仮説
命題 2.1.Θ⊆Rpを空でない開集合、Θ0⊆Θを空でない Borel 集合とする。共通正台Sをもつ密度族について、各x∈Sで0<pθ(x)<∞かつθ↦pθ(x)がΘ上で連続であると仮定する。標本に対して
Ln=θ∈Θsupℓn(θ),Ln,0=θ∈Θ0supℓn(θ)は拡張実数値の可測関数である。An=Sn∩{Ln<∞}とおき、An上で
Dn=2(Ln−Ln,0)=−2logΛn,Λn=supθ∈Θ∏ipθ(Xi)supθ∈Θ0∏ipθ(Xi)とおく。AncではDn=0、Λn=1と定めると、DnとΛnは可測であり、全標本上でDn=−2logΛnが成り立つ。さらに、すべてのθ∈ΘについてPθ(An)=1ならば、Λnは§E14.15 定義 4.1の一般化尤度比統計量である。
証明.ΘとΘ0にそれぞれ可算稠密集合D,D0を固定する。Euclid 空間の可算基のうち当該集合と交わる各要素から一点ずつ取れば、そのような集合を得る。各標本で対数尤度は母数に関して連続なので、Ln=supθ∈Dℓn(θ)、Ln,0=supθ∈D0ℓn(θ)である。各母数で対数尤度は可測であるから、両上限とAnは可測である。Sn上では各固定母数の対数尤度が有限なので、−∞<Ln,0≤Lnである。したがってAn上で差は有限かつ非負であり、補完後のDnは非負実数値の可測関数である。An上では尤度の二つの上限がそれぞれeLn,0とeLnなので、表示した比はe−Dn/2に等しい。Ancでも補完値によりΛn=e−Dn/2=1であるから、Λnも可測である。
すべてのθについてPθ(An)=1ならば、Anは全母数に共通する確率一集合である。An上では無制約尤度の上限eLnが有限正であり、上限の可測性も既に示したので、§E14.15 定義 4.1の条件を満たす。▨
定理 2.2.Θ⊆Rpを空でない開集合、1≤r≤pとし、θ=(η,ζ)、ζ∈Rrと書く。帰無母数集合をΘ0={(η,ζ0)∈Θ}とする。r=pではΘ0={θ0}とする。独立同分布モデルが命題 2.1の連続性と共通正台の仮定、および固定したθ0∈Θ0における局所 Cramér 条件を満たすと仮定する。
未知母数によらない可測推定量列θn∈Θ、θn∈Θ0が存在し、両者がPθ0の下でθ0へ確率収束するとする。さらに
Pθ0(ℓn(θn)=Ln<∞,ℓn(θn)=Ln,0)⟶1と仮定する。すなわち、両推定量は確率が1へ収束する事象上で、それぞれ無制約・制約付きの大域最尤推定量である。このとき尤度比統計量は
Dn⇒χr2を満たす。より正確には、r<pでは補題 1.2の記号を用いてDn=Vn⊤S−1Vn+oPθ0(1)であり、r=pではDn=Δn⊤I0−1Δn+oPθ0(1)である。
証明. 一致性と上限達成の仮定によって、確率が1へ収束する事象上で両推定量は局所領域に入り、Un(θn)=0である。r<pならば制約付き最大点はηの開母数空間の内点なので、Un,1(θn)=0でもある。
hn=n(θn−θ0)とおく。§E14.13 定理 3.1によりhn=I0−1Δn+oP(1)である。r<pの場合、補題 1.2により
hn=n(θn−θ0)=(A−1Δn,10)+oP(1).両列は確率有界であるから、§E14.13 命題 3.3にそれぞれ代入すると
2{ℓn(θn)−ℓn(θ0)}2{ℓn(θn)−ℓn(θ0)}=Δn⊤I0−1Δn+oP(1),=Δn,1⊤A−1Δn,1+oP(1).ここで線形表示の誤差を代入して生じる項は、確率有界なΔnとoP(1)の積、またはoP(1)の二次式であるため、いずれもoP(1)である。上限達成事象上で二式の差はDnに等しい。補題 1.1によって
Dn=Vn⊤S−1Vn+oP(1)を得る。
Vn⇒Nr(0,S)であり、Sは正定値である。正規ベクトルの特徴づけにより極限ベクトルの分布はS1/2G、G∼Nr(0,Ir)の分布と等しい。したがって、連続写像定理と Slutsky の定理によって
Vn⊤S−1Vn+oP(1)⇒G⊤G∼χr2.最後の同定は、独立標準正規変数の平方和によるカイ二乗分布の定義§E14.3 定義 2.2 (1)による。
r=pの場合はθn=θ0であり、制約付き尤度差は零である。無制約の二次展開だけからDn=Δn⊤I0−1Δn+oP(1)を得る。Δn⇒Np(0,I0)へ上の正規二次形式の計算を適用するとχp2極限が従う。▨
定義 2.3 (Wald 統計量と score 統計量).Θ⊆Rpを開集合、1≤r≤pとし、θ=(η,ζ)、ζ∈Rrと書く。帰無仮説はζ=ζ0とする。可測な無制約・制約付き推定量をθn、θnとし、Jn=Jn(θn)、Jn=Jn(θn)とおく。
- Jnが定義され正定値であるとき、Wald 統計量 (Wald statistic) を
Wn=n(ζn−ζ0)⊤[(Jn−1)22]−1(ζn−ζ0)
と定める。r=pでは右下の部分行列は全行列である。
- Jnが定義され正定値であり、Un(θn)が定義されるとき、score 統計量 (score statistic) を
Rn=n1Un(θn)⊤Jn−1Un(θn)
と定める。
各表示式の条件を満たさない標本では、対応する統計量を零と定める。観測に関して可測で、母数に関して連続な微分の版を用いると、両統計量は可測である。
定理 2.4.Θ⊆Rpを開集合、1≤r≤pとし、独立同分布モデルが固定したθ0=(η0,ζ0)で局所 Cramér 条件を満たすとする。可測な一致推定量θn∈Θ、θn∈{(η,ζ0)∈Θ}が、確率が1へ収束する事象上で
Un(θn)=0,Un,1(θn)=0を満たすと仮定する。r=pでは第二の条件をθn=θ0に置き換える。このとき定義 2.3の統計量は
Wn⇒χr2,Rn⇒χr2,Wn−RnPθ00を満たす。さらに定理 2.2の大域上限達成の仮定も満たせば、Wn−DnPθ00、Rn−DnPθ00である。
証明.§E14.13 補題 1.3 (3)によって、JnとJnはI0へ確率収束する。I0の最小固有値をλ>0とすると、∥J−I0∥op<λ/2ならば対称行列Jは正定値である。さらに∥Ip−I0−1J∥op<1/2では§E4.7 補題 1.1により∥J−1∥op≤2∥I0−1∥opであり、
J−1−I0−1=J−1(I0−J)I0−1から逆行列もI0−1へ確率収束する。したがって、各統計量を零へ補完する事象の確率は0へ収束する。
r<pとし、補題 1.2のS,Vnを用いる。無制約の線形表示と補題 1.1から
n(ζn−ζ0)=S−1Vn+oP(1),[(Jn−1)22]−1PSである。第二の収束には、正定値行列S−1の近傍に上の逆行列の評価を適用した。したがってWn=Vn⊤S−1Vn+oP(1)である。
制約付きの score は
nUn(θn)=(0Vn)+oP(1)であるから、(I0−1)22=S−1によりRn=Vn⊤S−1Vn+oP(1)を得る。両統計量の極限と差についての結論は、座標固定尤度比の証明中の正規二次形式の同定から従う。
r=pの場合にはn(θn−θ0)=I0−1Δn+oP(1)とUn(θn)/n=Δnを直接代入する。両統計量はΔn⊤I0−1Δn+oP(1)となる。大域最大化の条件がある場合は、いずれの次元でも定理 2.2のDnの表示と引き算すればよい。▨
例 2.5.Xi=(Xi1,Xi2)⊤が独立にN2((η,ζ)⊤,Σ)に従い、既知の共分散行列が
Σ=(accb),a,b>0,ab−c2>0であるとする。帰無仮説をζ=ζ0とする。平方完成によって大域最尤推定量は
θn=(Xn,1,Xn,2),θn=(Xn,1−bc(Xn,2−ζ0),ζ0)である。帰無仮説の下で、両推定量は真値(η0,ζ0)へ確率収束する。制約によって、自由な母数ηの推定値も変わる。
このモデルではI=Jn=Σ−1であり、情報行列を(η,ζ)に分けると
A=ab−c2b,B=−ab−c2c,S=b1.帰無真値を(η0,ζ0)とすると、有効 score はVn=n(Xn,2−ζ0)/bである。対数尤度は厳密な二次式なので、三統計量はすべて
Dn=Wn=Rn=bn(Xn,2−ζ0)2に等しい。n(Xn,2−ζ0)/b∼N(0,1)であるから、この例では任意の標本サイズでχ12に従う。
3 滑らかな帰無部分多様体
定義 3.1 (帰無部分多様体).Θ⊆Rpを開集合、1≤r≤pとする。空でない Borel 集合Θ0⊆Θが余次元rのC3級の帰無部分多様体 (null submanifold) であるとは、任意のθ0∈Θ0に対し、開近傍G⊆ΘとC3級写像g:G→Rrが存在して
Θ0∩G={θ∈G:g(θ)=0},rankDg(θ0)=rを満たすことをいう。
補題 3.2.Θ0⊆Θ⊆Rpが余次元rのC3級帰無部分多様体であり、θ0∈Θ0とする。r<pならば、母数の座標を並べ替えた後、θ0の開近傍Gと開集合B⊆Rp−r×Rrの間のC3級微分同相
Φ:G⟶B,Φ(θ)=(η,g(θ))が存在し、Φ(Θ0∩G)=B∩{(u,z):z=0}となる。r=pならば、ある開近傍Gに対しΘ0∩G={θ0}である。
証明.r<pのとき、Dg(θ0)の非零なr次小行列に対応する座標を最後のr成分に移す。§E4.8 定理 2.1 (1)によって、Φ=(η,g)は適切な開近傍間でC1級微分同相になる。その逆写像をψとすると
Dψ=(DΦ∘ψ)−1.余因子公式§D3.4 定理 7.4により、可逆行列の逆行列の各成分は行列成分の多項式を非零な行列式で割った関数である。一次行列では逆数関数である。したがって逆行列を取る写像は可逆行列上でC∞級である。ΦがC3級、ψがC1級なので、表示式の右辺はC1級であり、ψはC2級となる。再び同じ式を使うと右辺はC2級であり、ψはC3級となる。
r=pのときDg(θ0)は可逆である。逆関数定理§E4.7 定理 2.1によりgはある開近傍上で単射となる。g(θ0)=0なので、その近傍での零点はθ0だけである。▨
証明.β0を中心とする十分小さい閉球K0⊂Bを取り、その像が元の局所 Cramér 条件の閉球内に入るようにする。ψの一階から三階までの微分はK0上で有界である。s0(x)=∇ℓ(x,θ0)、H0(x)=∇2ℓ(x,θ0)と書く。元の三階優関数をMとすると、線分積分によって、元の局所閉球上の一階・二階対数微分の絶対値は、ある定数倍の
N(x)=∥s0(x)∥+a,b∑∣(H0(x))ab∣+M(x)で支配される。Eθ0N(X)<∞である。変換後の三階対数微分は連鎖律により、元の三階微分と三つの一階ψ微分の積、元の二階微分と一階・二階ψ微分の積、および元の一階微分と三階ψ微分の積の有限和である。ゆえにK0上で定数倍のNを可積分優関数として用いることができる。
真値で変換後の score はK(β0)⊤s0であり、二次可積分である。期待値は零で、共分散はI0βに等しい。K(β0)は可逆なのでI0βは正定値である。Hessian の成分はH0とs0の成分の有限線形結合なので可積分である。密度の微分についても
∂i(p∘ψ)=a∑(∂ap)∂iψa,∂ij(p∘ψ)=a,b∑(∂abp)∂iψa∂jψb+a∑(∂ap)∂ijψaである。β0で積分すると、元の一次・二次密度微分の積分はすべて零なので、変換後にも微分積分交換の等式が成り立つ。密度そのものの積分は各βで1である。共通正台と観測に関する可測性も保存され、局所 Cramér 条件を得る。
対数尤度に一階・二階の連鎖律を適用すると、主張の score と観測情報の式を得る。一致点Tnが元の局所閉球に入る事象上では
nUn(Tn)=nΔn−{∫01Jn(θ0+t(Tn−θ0))dt}(Tn−θ0)P0.ここでは§E14.13 補題 1.3 (3)とΔnの確率有界性を用いた。したがって観測情報の式の第二項は0へ確率収束し、第一項は連続性とJn(Tn)PI0によりI0βへ確率収束する。▨
定理 3.4 (Wilks の定理).Θ⊆Rpを開集合とし、Θ0⊆Θを余次元r、1≤r≤pのC3級帰無部分多様体とする。独立同分布モデルが命題 2.1の仮定と、固定したθ0∈Θ0における局所 Cramér 条件を満たすとする。可測なΘ値・Θ0値推定量列θn,θnが存在して両者がθ0へ確率収束し、
Pθ0(ℓn(θn)=Ln<∞,ℓn(θn)=Ln,0)⟶1であると仮定する。このときDn⇒χr2である。
さらに、θ0の開近傍G上のC3級写像g:G→RrがΘ0∩G={g=0}とrankDg(θ0)=rを満たすとする。Jn=Jn(θn)、Jn=Jn(θn)とおくと、
WngRn=ng(θn)⊤[Dg(θn)Jn−1Dg(θn)⊤]−1g(θn),=n1Un(θn)⊤Jn−1Un(θn)についてWng−DnPθ00、Rn−DnPθ00が成り立ち、両者もχr2へ分布収束する。各統計量は、必要な推定量がGの外にあるか、微分が定義されないか、表示式の対称行列が正定値でない標本では零と定める。
証明.r<pとし、補題 3.2のC3座標β=Φ(θ)=(η,g(θ))と逆写像ψを取る。β0=Φ(θ0)とおく。補題 3.3によって変換後モデルはβ0で局所 Cramér 条件を満たす。
両推定量がGに入る確率は1へ収束する。βn=Φ(θn)、βn=Φ(θn)を近傍外でβ0に補完すると、可測で一致する推定量になる。元の大域上限が達成される事象と両推定量がGに入る事象の共通部分では、G上の無制約上限およびG∩Θ0上の制約付き上限は、それぞれ元のLn,Ln,0と等しい。尤度の値は再パラメータ化によって変わらないので、定理 2.2からDn⇒χr2を得る。
変換後の観測情報をJnβ,Jnβとし、K=Dψ(β0)とおく。両者はK⊤I0Kへ確率収束する。Dg(θ0)K=(0,Ir)であるから
Dg(θ0)I0−1Dg(θ0)⊤=[(K⊤I0K)−1]22.両辺は正定値である。ng(θn)は変換後の一致根の線形表示によって確率有界である。Wngの中の行列と(Jnβ)−1の右下部分行列は上の同じ正定値行列へ確率収束するため、逆行列の差も0へ確率収束する。したがってWngと変換後の座標 Wald 統計量との差はoP(1)である。
またUnβ(βn)=Dψ(βn)⊤Un(θn)であり、変換後の制約付き score をnで割った列は補題 1.2によって確率有界である。Dψ(βn)→PKと可逆性からUn(θn)/nも確率有界である。さらに
Dψ(βn)(Jnβ)−1Dψ(βn)⊤PK(K⊤I0K)−1K⊤=I0−1.この行列とJn−1の差はoP(1)なので、変換後の score 統計量とRnの差もoP(1)である。変換後の定理 2.4により残る結論を得る。
r=pでは帰無集合はθ0の近傍で一点である。一致性によってθn=θ0となる確率は1へ収束するから、尤度比と score の結論は座標固定定理のr=pの場合に帰着する。G0=Dg(θ0)は可逆であり、全微分の剰余と無制約の線形表示から
ng(θn)=G0I0−1Δn+oP(1).これをWngへ代入すると、[G0I0−1G0⊤]−1=G0−⊤I0G0−1によりWng=Δn⊤I0−1Δn+oP(1)となる。▨
4 棄却域と漸近信頼領域
系 4.1.0<α<1とし、定理 3.4の仮定を満たす固定した帰無母数θ0を考える。Frをχr2分布の分布関数、cr,αをその1−α分位点とする。統計量Dn,Wng,Rnのそれぞれについて、その値がcr,αより大きいときに棄却する検定の棄却確率は、Pθ0の下でαへ収束する。また、これらの統計量の一つをTnとすると、p 値の近似
pn=1−Fr(Tn)は、帰無母数θ0の下で区間[0,1]上の一様分布へ分布収束する。
証明. カイ二乗分布の分位点の性質§E14.3 命題 2.4により、分布関数Frはcr,αで連続であり、Fr(cr,α)=1−αである。各統計量の分布収束と§E11.17 命題 1.2によって、cr,α以下となる確率が1−αへ収束する。さらにY∼χr2とすると、連続写像定理によりpn⇒1−Fr(Y)である。任意の0<u<1に対し、P(1−Fr(Y)≤u)=P(Y≥cr,u)=uなので、極限は一様分布である。▨
例 4.3 (境界をもつ正規平均の帰無仮説).X1,…,XnをN(μ,1)からの独立同分布標本とし、母数空間をΘ=R、帰無母数集合をΘ0=(−∞,0]とする。真値μ=0における尤度比統計量を求める。
対数尤度は母数に依存しない項を除いて−n(μ−Xn)2/2である。したがって、無制約最大点はμn=Xn、制約付き最大点はμn=min(Xn,0)であり、
Dn=2{ℓn(μn)−ℓn(μn)}=n(Xn)+2となる。真値μ=0ではZ=nXn∼N(0,1)なのでDn=(Z+)2である。ゆえにP0(Dn=0)=P(Z≤0)=1/2であり、t>0に対して
P0(Dn≤t)=P(Z≤t)=21+21P(Z2≤t)が成り立つ。したがって、任意の標本サイズで
Dn∼21δ0+21χ12である。Θ0は0に境界をもつため、その点の近傍では定義 3.1の境界をもたない帰無部分多様体ではない。したがって、この例には定理 3.4の仮定が適用されない。
例 4.4.X1,…,Xnが独立にN(μ,v)に従い、μ∈R、v>0、n≥2とする。帰無仮説をμ=μ0とし、
d=Xn−μ0,v=n1i∑(Xi−Xn)2,v=v+d2とおく。v>0は確率1で成り立つ。§E14.7 命題 1.7により、母数の順序を(v,μ)としたときの無制約大域最尤推定量は(v,Xn)である。帰無仮説の下では、残差平方和の分解から対数尤度が定数項を除いて
−2nlogv−2vnvとなる。これをvで微分すると、制約付き大域最尤推定量は(v,μ0)である。v=0の零事象上では正の固定分散で補完する。
正規分布の四次モーメントは有限なので、(Xi,Xi2)に多変量中心極限定理§E11.17 定理 4.3を適用すると、両成分の標本平均は期待値へ確率収束する。v=n−1∑iXi2−Xn2であるから、帰無仮説の下で両推定量は(v,μ0)に一致する。
∣μ∣≤K、0<ε≤v≤Kの母数領域では、三階対数微分の絶対値は定数倍の1+x2で支配される。一次・二次密度微分は、ある定数C,c>0によってC(1+∣x∣4)e−cx2以下になる。実際、密度微分は次数4以下のxの多項式と密度の積であり、(x−μ)2≥x2/2−μ2を用いればこの評価を得る。右辺は可積分なので微分と積分を交換することができる。真値での情報行列はdiag(1/(2v2),1/v)であり、局所 Cramér 条件が成り立つ。
T=nd/Sn、Sn2=nv/(n−1)とおく。§E14.15 例 4.2の尤度比の表示と、Wald 統計量および score 統計量の定義から
Dn=nlog(1+n−1T2),Wn=n−1nT2,Rn=n−1−T2nT2(T2<n−1)となる。最後の条件を満たさない場合はRn=0である。実際、制約付き点における観測情報は
Jn=(1/(2v2)d/v2d/v21/v),その Schur 補行列は(v−d2)/v2である。したがって正定値性はT2<n−1と同値である。帰無仮説の下ではTは確率有界なので、補完する事象の確率は0へ収束する。
ここでRnは制約付き推定量における観測情報を用いるため、期待情報を用いる通常の score 統計量とは有限標本で一般に異なる。
有限標本では§E14.3 定理 4.3によりT∼tn−1である。tn−1の1−α/2分位点をtn−1,1−α/2とすると、尤度比検定の閾値
nlog(1+n−1tn−1,1−α/22)は棄却確率をちょうどαにする。一方、三統計量に共通のχ12分位点を用いた閾値は、棄却確率を漸近的にαにする。三統計量の有限標本の値は上の式のとおり異なる。
定理 4.5.Θ⊆Rpを空でない開集合、0<α<1とする。各固定θ0∈Θにおいて、可測なΘ値推定量列θnと可測な実対称行列列Jnが
n(θn−θ0)⇒Np(0,I(θ0)−1),JnPθ0I(θ0)>0を満たすと仮定する。cp,αをχp2分布の1−α分位点とする。Jnが正定値ならば
Cn={θ∈Θ:n(θn−θ)⊤Jn(θn−θ)≤cp,α}とおき、それ以外の標本ではCn=Θとする。この集合は各固定θ0に対して被覆事象が可測であり、
Pθ0(θ0∈Cn)⟶1−αを満たす。この意味でCnは被覆率1−αの漸近信頼領域である。特に局所 Cramér 条件の下の一致する尤度方程式解と、その点での観測情報を用いることができる。
証明. 標本をxと書くと、(x,θ)↦n(θn(x)−θ)⊤Jn(x)(θn(x)−θ)は、可測な標本関数と連続な母数関数の有限和・積なので積可測である。対称行列の正定値集合は開集合であり、{(x,θ):θ∈Cn(x)}は積可測集合になる。したがって各固定母数の被覆事象も可測である。
θ0を固定する。Slutsky の定理と二次形式の連続性により
n(θn−θ0)⊤Jn(θn−θ0)⇒Z⊤I(θ0)Z,Z∼Np(0,I(θ0)−1).右辺の分布はG⊤G∼χp2、G∼Np(0,Ip)に等しい。情報行列の正定値性からJnが正定値でない確率は0へ収束する。分位点での分布関数の連続性によって被覆率の結論を得る。尤度方程式解への適用は§E14.13 定理 3.1と§E14.13 補題 1.3 (3)による。▨
5 演習
解答.
x∈Rq∖{0}に対してx⊤Ax=(x,0)⊤I(x,0)>0なのでAは正定値である。任意のx∈Rq,y∈Rrに対して平方完成すると
(x,y)⊤I(x,y)=(x+A−1By)⊤A(x+A−1By)+y⊤Sy.y=0に対してx=−A−1Byとおけば左辺は正なのでy⊤Sy>0である。したがってSも正定値である。
I(x,y)=(d1,d2)を解くと、第一行からx=A−1(d1−By)、第二行からSy=d2−B⊤A−1d1=vを得る。ゆえにy=S−1vであり、特にd1=0の場合から(I−1)22=S−1である。また
d⊤I−1d=d1⊤x+d2⊤y=d1⊤A−1d1+(d2−B⊤A−1d1)⊤y=d1⊤A−1d1+v⊤S−1vとなる。▨
問題 5.2.a>0を既知とし、Xi∼N2(θ,I2)を独立に観測する。帰無仮説を∥θ∥=aとする。無制約・制約付き大域最尤推定量を求め、尤度比統計量、観測情報による score 統計量、およびg(θ)=∥θ∥2−a2による Wald 統計量を計算せよ。それらの帰無仮説の下での漸近分布を求めよ。
解答.
m=Xnとおく。対数尤度は定数項を除いて−n∥θ−m∥2/2であるから、無制約最大点はθn=mである。m=0の場合、円周上で
∥θ−m∥2=a2+∥m∥2−2θ⊤m≥(a−∥m∥)2であり、等号はθ=am/∥m∥で成り立つ。したがってθn=am/∥m∥は制約付き大域最大点である。m=0ではθn=(a,0)と定める。この選択は可測であり、帰無真値θ0は零でないので、標本平均の一致性から両推定量はθ0へ一致する。
Jn=I2、Un(θ)=n(m−θ)、Dg(θ)=2θ⊤であるから、m=0のとき
Dn=Rn=n(∥m∥−a)2,Wng=4∥m∥2n(∥m∥2−a2)2.m=0の場合にもDn=Rn=na2であり、Wng=0と補完する。この事象は正規分布の密度から確率零である。
円周上ではDg(θ0)=2θ0⊤の階数は1である。正規位置モデルは局所 Cramér 条件を満たすので、定理 3.4により三統計量はすべてχ12へ分布収束する。m=0ではWng=Dn(∥m∥+a)2/(4∥m∥2)であり、乗数が1へ確率収束することからも二統計量の漸近的な一致を確認することができる。▨