§E14.3正規標本の分布

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標本平均と不偏標本分散は、母平均と母分散に関する推測を組み立てる際の基本的な統計量である。有限標本に基づいて両者を同時に用いるには、個々の周辺分布だけでなく、標本平均と不偏標本分散がどのように依存するかも明らかにする必要がある。一般の母集団では、この同時分布を簡単な形で記述することはできない。

正規標本では、正規ベクトルを互いに直交する部分空間へ射影することにより、標本平均と不偏標本分散の独立性が得られる。たとえば、標本平均と母平均の差を標本標準偏差で割り、標本サイズの平方根を掛けた量は、母数を含む枢軸であり、t 分布に従う。カイ二乗・t・F 分布は、正規標本から構成される統計量と枢軸の有限標本分布を記述する最も基本的な分布族である。

正規標本の厳密な分布計算は、極限定理による近似を用いずに推測を構成するための基礎となる。

本記事では、Gamma・Beta 分布を基礎として、正規標本から生じる統計量と枢軸の分布を扱う。

1 Gamma 分布と Beta 分布

定義 1.1.a>0a>0とb>0b>0に対して、密度

ga,b(x)=baΓ(a)xa−1e−bx1(0,∞)(x)g_{a,b}(x)=\frac{b^a}{\Gamma(a)}x^{a-1}e^{-bx}\mathbf 1_{(0,\infty)}(x)

をもつ確率分布を、shapeaa、ratebbの Gamma 分布 (Gamma distribution) といい、Gamma⁡(a,b)\operatorname{Gamma}(a,b)と書く。

証明.§E4.15 命題 1.2によりΓ(a)\Gamma(a)は有限で正である。変数変換u=bxu=bxと§E4.15 命題 1.2を用いると

∫0∞baΓ(a)xa−1e−bx dx=1Γ(a)∫0∞ua−1e−u du=1\int_0^\infty \frac{b^a}{\Gamma(a)}x^{a-1}e^{-bx}\,dx =\frac1{\Gamma(a)}\int_0^\infty u^{a-1}e^{-u}\,du=1

を得る。非負な連続関数の広義積分と Lebesgue 積分の一致は、有限区間上の一致と単調収束定理§E9.7 定理 1.1から従う。したがって表示した関数は確率密度である。▨

定義 1.2.a>0a>0とb>0b>0に対して、密度

ha,b(x)=xa−1(1−x)b−1B(a,b)1(0,1)(x)h_{a,b}(x)=\frac{x^{a-1}(1-x)^{b-1}}{B(a,b)}\mathbf 1_{(0,1)}(x)

をもつ確率分布を Beta 分布 (Beta distribution)Beta⁡(a,b)\operatorname{Beta}(a,b)という。

証明.§E4.16 命題 1.2によりB(a,b)B(a,b)は有限で正であり、密度の全質量は Beta 関数の定義から11である。広義積分と Lebesgue 積分の一致は定義 1.1の証明と同じ単調収束定理から従う。▨

命題 1.3.X∼Gamma⁡(a,b)X\sim\operatorname{Gamma}(a,b)とし、q∈Rq\in\Rとする。このときE[Xq]E[X^q]が有限であるための必要十分条件はq>−aq>-aであり、この条件のもとで

E[Xq]=b−qΓ(a+q)Γ(a)E[X^q]=b^{-q}\frac{\Gamma(a+q)}{\Gamma(a)}

が成り立つ。特に

E[X]=ab,Var⁡(X)=ab2E[X]=\frac ab,\qquad \operatorname{Var}(X)=\frac a{b^2}

である。

証明.X>0X>0がほとんど確実に成り立つから、XqX^qは非負である。密度にxqx^qを掛け、u=bxu=bxと変数変換すると

E[Xq]=baΓ(a)∫0∞xa+q−1e−bx dx=b−q1Γ(a)∫0∞ua+q−1e−u du.E[X^q]=\frac{b^a}{\Gamma(a)}\int_0^\infty x^{a+q-1}e^{-bx}\,dx =b^{-q}\frac1{\Gamma(a)}\int_0^\infty u^{a+q-1}e^{-u}\,du.

§E4.15 命題 1.2と零の近傍における冪積分の判定により、最後の積分が有限であるための必要十分条件はa+q>0a+q>0である。q=1,2q=1,2の式と Gamma 関数の関数方程式§E4.15 命題 3.1から

E[X]=ab,E[X2]=a(a+1)b2E[X]=\frac ab,\qquad E[X^2]=\frac{a(a+1)}{b^2}

を得るので、分散はa/b2a/b^2である。▨

命題 1.4.X∼Beta⁡(a,b)X\sim\operatorname{Beta}(a,b)とし、q∈Rq\in\Rとする。このときE[Xq]E[X^q]が有限であるための必要十分条件はq>−aq>-aであり、この条件のもとで

E[Xq]=B(a+q,b)B(a,b)E[X^q]=\frac{B(a+q,b)}{B(a,b)}

が成り立つ。特に

E[X]=aa+b,Var⁡(X)=ab(a+b)2(a+b+1)E[X]=\frac a{a+b},\qquad \operatorname{Var}(X)=\frac{ab}{(a+b)^2(a+b+1)}

である。

証明.X∈(0,1)X\in(0,1)がほとんど確実に成り立つ。密度にxqx^qを掛けると

E[Xq]=1B(a,b)∫01xa+q−1(1−x)b−1 dx.E[X^q]=\frac1{B(a,b)}\int_0^1x^{a+q-1}(1-x)^{b-1}\,dx.

§E4.16 命題 1.2により、この積分が有限であるための必要十分条件はa+q>0a+q>0とb>0b>0であり、有限な場合の値はB(a+q,b)/B(a,b)B(a+q,b)/B(a,b)である。§E4.16 定理 2.1と§E4.15 命題 3.1をq=1,2q=1,2に用いると

E[X]=aa+b,E[X2]=a(a+1)(a+b)(a+b+1)E[X]=\frac a{a+b},\qquad E[X^2]=\frac{a(a+1)}{(a+b)(a+b+1)}

を得る。第二式から第一式の二乗を引けば表示した分散になる。▨

定理 1.5.X∼Gamma⁡(a,r)X\sim\operatorname{Gamma}(a,r)とY∼Gamma⁡(b,r)Y\sim\operatorname{Gamma}(b,r)を独立とし、a,b,r>0a,b,r>0とする。このとき

S=X+Y,R=XX+YS=X+Y,\qquad R=\frac{X}{X+Y}

は独立であり、

S∼Gamma⁡(a+b,r),R∼Beta⁡(a,b)S\sim\operatorname{Gamma}(a+b,r),\qquad R\sim\operatorname{Beta}(a,b)

が成り立つ。

証明. 独立性により(X,Y)(X,Y)の同時密度は(0,∞)2(0,\infty)^2上で

ra+bΓ(a)Γ(b)xa−1yb−1e−r(x+y)\frac{r^{a+b}}{\Gamma(a)\Gamma(b)}x^{a-1}y^{b-1}e^{-r(x+y)}

である。写像(x,y)↦(s,u)=(x+y,x/(x+y))(x,y)\mapsto(s,u)=(x+y,x/(x+y))は(0,∞)2(0,\infty)^2から(0,∞)×(0,1)(0,\infty)\times(0,1)への微分同相であり、逆写像は

x=su,y=s(1−u)x=su,\qquad y=s(1-u)

である。この逆写像の Jacobi 行列式の絶対値はssである。多変数の密度変換§E11.8 定理 5.1により、(S,R)(S,R)の同時密度は

ra+bΓ(a)Γ(b)sa+b−1e−rsua−1(1−u)b−1\frac{r^{a+b}}{\Gamma(a)\Gamma(b)} s^{a+b-1}e^{-rs}u^{a-1}(1-u)^{b-1}

となる。Beta–Gamma 関係式§E4.16 定理 2.1を用いると、この密度は

(ra+bΓ(a+b)sa+b−1e−rs)(ua−1(1−u)b−1B(a,b))\left(\frac{r^{a+b}}{\Gamma(a+b)}s^{a+b-1}e^{-rs}\right) \left(\frac{u^{a-1}(1-u)^{b-1}}{B(a,b)}\right)

と因数分解される。二つの因子はそれぞれ確率密度であるから、SSとRRは独立であり、表示した分布に従う。▨

系 1.6.X1,…,XℓX_1,\ldots,X_\ellが独立で、Xj∼Gamma⁡(aj,r)X_j\sim\operatorname{Gamma}(a_j,r)、aj,r>0a_j,r>0ならば

∑j=1ℓXj∼Gamma⁡ ⁣(∑j=1ℓaj,r)\sum_{j=1}^\ell X_j\sim\operatorname{Gamma}\!\left(\sum_{j=1}^\ell a_j,r\right)

である。

証明.ℓ=1\ell=1の場合は仮定そのものである。ℓ−1\ell-1個について結論が成り立つと仮定すると、和X1+⋯+Xℓ−1X_1+\cdots+X_{\ell-1}はXℓX_\ellと独立である。定理 1.5をこの二変数へ適用すればℓ\ell個についての結論を得る。▨

2 カイ二乗分布・t 分布・F 分布

補題 2.1.Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1)ならば

Z2∼Gamma⁡ ⁣(12,12)Z^2\sim\operatorname{Gamma}\!\left(\frac12,\frac12\right)

である。

証明.§E11.8 例 4.2により、Z2Z^2の密度はx>0x>0で

x−1/2e−x/22π\frac{x^{-1/2}e^{-x/2}}{\sqrt{2\pi}}

であり、x≤0x\leq0では零である。Γ(1/2)=π\Gamma(1/2)=\sqrt\piは§E4.15 命題 4.1により成り立つから、この密度はGamma⁡(1/2,1/2)\operatorname{Gamma}(1/2,1/2)の密度に一致する。▨

定義 2.2.k,m,n∈N≥1k,m,n\in\NNとする。

  1. Z1,…,ZkZ_1,\dots,Z_kが独立な標準正規変数であるとき、二乗和∑i=1kZi2\sum_{i=1}^k Z_i^2の従う分布を 自由度kkのカイ二乗分布 (chi-square distribution with k degrees of freedom)χk2\chi^2_kという。この分布は平均kk、分散2k2kをもつ。
  2. Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1)とV∼χk2V\sim\chi^2_kが独立であるとき、Z/V/kZ/\sqrt{V/k}の従う分布を 自由度kkのtt分布 (Student's t-distribution with k degrees of freedom)tkt_kという。
  3. U∼χm2U\sim\chi^2_mとV∼χn2V\sim\chi^2_nが独立であるとき、(U/m)/(V/n)(U/m)/(V/n)の従う分布を 自由度(m,n)(m,n)のFF分布 (F-distribution with (m, n) degrees of freedom)Fm,nF_{m,n}という。

証明.補題 2.1と系 1.6により

∑i=1kZi2∼Gamma⁡ ⁣(k2,12).\sum_{i=1}^kZ_i^2\sim\operatorname{Gamma}\!\left(\frac k2,\frac12\right).

命題 1.3を適用すると、この分布の平均はkk、分散は2k2kである。また Gamma 分布は正の実数だけに値をとるので、V>0V>0がほとんど確実に成り立ち、第二項と第三項の比はほとんど確実に定義される。▨

定理 2.3.k,m,n∈N≥1k,m,n\in\NNとする。χk2\chi^2_k、tkt_k、Fm,nF_{m,n}はそれぞれ次の密度をもつ。

fχk2(x)=xk/2−1e−x/22k/2Γ(k/2)1(0,∞)(x),ftk(x)=Γ((k+1)/2)kπ Γ(k/2)(1+x2k)−(k+1)/2,fFm,n(x)=(m/n)m/2B(m/2,n/2)xm/2−1(1+mnx)−(m+n)/21(0,∞)(x).\begin{aligned} f_{\chi^2_k}(x) &=\frac{x^{k/2-1}e^{-x/2}}{2^{k/2}\Gamma(k/2)}\mathbf1_{(0,\infty)}(x),\\ f_{t_k}(x) &=\frac{\Gamma((k+1)/2)}{\sqrt{k\pi}\,\Gamma(k/2)} \left(1+\frac{x^2}{k}\right)^{-(k+1)/2},\\ f_{F_{m,n}}(x) &=\frac{(m/n)^{m/2}}{B(m/2,n/2)}x^{m/2-1} \left(1+\frac mnx\right)^{-(m+n)/2}\mathbf1_{(0,\infty)}(x). \end{aligned}

特にχk2\chi^2_kとFm,nF_{m,n}はほとんど確実に正の値をとり、その密度は(0,∞)(0,\infty)上で正である。両分布の位相的な支持は[0,∞)[0,\infty)であり、tkt_kの支持はR\Rである。tkt_kの密度は偶関数であるため、tkt_kは原点について対称である。

証明. カイ二乗分布の密度は、定義 2.2の証明で得たGamma⁡(k/2,1/2)\operatorname{Gamma}(k/2,1/2)の密度である。

Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1)とV∼χk2V\sim\chi^2_kを独立とし、T=Z/V/kT=Z/\sqrt{V/k}とおく。(Z,V)(Z,V)の同時密度へ変換(z,v)=(tv/k,v)(z,v)=(t\sqrt{v/k},v)を施す。Jacobi 行列式の絶対値はv/k\sqrt{v/k}であるから、§E11.8 定理 5.1によりTTの密度は

fT(t)=∫0∞e−t2v/(2k)2πvk/2−1e−v/22k/2Γ(k/2)vk dv=1kπ Γ(k/2)(1+t2k)−(k+1)/2∫0∞u(k+1)/2−1e−u du=Γ((k+1)/2)kπ Γ(k/2)(1+t2k)−(k+1)/2,\begin{aligned} f_T(t) &=\int_0^\infty \frac{e^{-t^2v/(2k)}}{\sqrt{2\pi}} \frac{v^{k/2-1}e^{-v/2}}{2^{k/2}\Gamma(k/2)} \sqrt{\frac vk}\,dv\\ &=\frac1{\sqrt{k\pi}\,\Gamma(k/2)} \left(1+\frac{t^2}{k}\right)^{-(k+1)/2} \int_0^\infty u^{(k+1)/2-1}e^{-u}\,du\\ &=\frac{\Gamma((k+1)/2)}{\sqrt{k\pi}\,\Gamma(k/2)} \left(1+\frac{t^2}{k}\right)^{-(k+1)/2}, \end{aligned}

ここで第二の等号ではu=(1+t2/k)v/2u=(1+t^2/k)v/2と変数変換した。この式はttの偶関数であり、すべてのt∈Rt\in\Rで正である。

U∼χm2U\sim\chi^2_mとV∼χn2V\sim\chi^2_nを独立とする。定義 2.2の証明により、UUとVVは共通の rate1/21/2をもつ Gamma 変数である。定理 1.5から

R=UU+V∼Beta⁡ ⁣(m2,n2)R=\frac U{U+V}\sim\operatorname{Beta}\!\left(\frac m2,\frac n2\right)

を得る。W=(U/m)/(V/n)W=(U/m)/(V/n)とすると

W=nmR1−R,R=mWn+mW.W=\frac nm\frac R{1-R},\qquad R=\frac{mW}{n+mW}.

右辺の導関数はmn/(n+mw)2mn/(n+mw)^2である。単調な密度変換§E11.8 定理 3.1と Beta 密度を用いて整理すると、表示したFm,nF_{m,n}の密度を得る。この密度はすべてのw>0w>0で正である。▨

命題 2.4.DDをχk2\chi^2_k、tkt_k、Fm,nF_{m,n}のいずれかとし、その分布関数をGDG_Dとする。GDG_DはDDの支持上で連続かつ狭義単調増加である。任意のp∈(0,1)p\in(0,1)に対して

GD(qD(p))=pG_D(q_D(p))=p

を満たす支持内の点qD(p)q_D(p)が一意に存在する。さらに

qtk(1−p)=−qtk(p)q_{t_k}(1-p)=-q_{t_k}(p)

が成り立つ。

証明.定理 2.3の三つの密度は各支持の内部で連続かつ正である。したがって支持内のx<yx<yに対して

GD(y)−GD(x)=∫xyfD(u) du>0G_D(y)-G_D(x)=\int_x^y f_D(u)\,du>0

であり、分布関数は狭義単調増加である。密度を積分して得られる分布関数は連続であり、支持の左端へ近づくと00、右端へ近づくと11に収束する。中間値の定理からqD(p)q_D(p)が存在し、狭義単調性から一意である。tkt_kの密度は偶関数なのでGtk(−x)=1−Gtk(x)G_{t_k}(-x)=1-G_{t_k}(x)が成り立ち、一意性により表示した分位点の対称性を得る。▨

3 正規ベクトルの直交射影

定理 3.1.Z∼Nd(0,Id)Z\sim N_d(0,I_d)とし、P1,…,PsP_1,\ldots,P_sを実対称冪等行列とする。j≠ℓj\ne\ellならばPjPℓ=0P_jP_\ell=0と仮定する。このとき確率ベクトル

P1Z,…,PsZP_1Z,\ldots,P_sZ

は相互に独立である。rj=rank⁡Pj>0r_j=\operatorname{rank}P_j>0ならば

∥PjZ∥2∼χrj2\lVert P_jZ\rVert^2\sim\chi^2_{r_j}

である。rj=0r_j=0ならばPjZ=0P_jZ=0かつ∥PjZ∥2=0\lVert P_jZ\rVert^2=0がほとんど確実に成り立つ。

証明.Vj=im⁡PjV_j=\operatorname{im}P_jとおく。実対称冪等行列PjP_jはVjV_jへの直交射影である。x∈Vjx\in V_jとy∈Vℓy\in V_\ell、j≠ℓj\ne\ellに対して、あるu,v∈Rdu,v\in\R^dが存在してx=Pjux=P_ju、y=Pℓvy=P_\ell vと書けるので

x⊤y=u⊤PjPℓv=0x^\top y=u^\top P_jP_\ell v=0

である。したがってV1,…,VsV_1,\ldots,V_sは相互に直交する。

各VjV_jの正規直交基底(ej,1,…,ej,rj)(e_{j,1},\ldots,e_{j,r_j})をとる。これらを結合した正規直交系をRd\R^dの正規直交基底へ延長し、その基底ベクトルを列にもつ直交行列をQQとする。W=Q⊤ZW=Q^\top Zは§E11.10 定理 4.2によりNd(0,Id)N_d(0,I_d)に従い、その共分散行列は対角行列である。ゆえに§E11.10 定理 7.1によりWWの全座標は相互に独立な標準正規変数である。

rj>0r_j>0の場合、直交射影の展開から

PjZ=∑h=1rj(ej,h⊤Z)ej,h,∥PjZ∥2=∑h=1rj(ej,h⊤Z)2P_jZ=\sum_{h=1}^{r_j}(e_{j,h}^\top Z)e_{j,h},\qquad \lVert P_jZ\rVert^2=\sum_{h=1}^{r_j}(e_{j,h}^\top Z)^2

を得る。各PjZP_jZはWWのうちVjV_jの基底に対応する座標だけの関数であり、異なるjjに属する座標集合は互いに交わらない。したがってP1Z,…,PsZP_1Z,\ldots,P_sZは相互に独立である。第二の表示と定義 2.2 (1)により、平方ノルムはχrj2\chi^2_{r_j}に従う。rj=0r_j=0ならばVj={0}V_j=\{0\}であり、PjP_jは零写像なので、残る主張も従う。▨

例 3.2.YYが(1,0),(−1,0),(0,1),(0,−1)(1,0),(-1,0),(0,1),(0,-1)の各点を確率1/41/4でとるR2\R^2値確率ベクトルであるとする。二つの座標軸への直交射影をP1,P2P_1,P_2とすると、E[Y]=0E[Y]=0かつCov⁡(Y)=I2/2\operatorname{Cov}(Y)=I_2/2なのでP1YP_1YとP2YP_2Yは無相関である。しかし

∥P1Y∥2+∥P2Y∥2=1\lVert P_1Y\rVert^2+\lVert P_2Y\rVert^2=1

が必ず成り立ち、各平方ノルムは00と11をともに正の確率でとるため、二つの平方ノルムは独立でない。したがって定理 3.1の独立性には Gaussian という仮定が必要である。

4 正規標本の平均と標本分散

定理 4.1.n≥2n\geq2、μ∈R\mu\in\R、σ2>0\sigma^2>0とし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nをN(μ,σ2)N(\mu,\sigma^2)からの無作為標本とする。

Xˉ=1n∑i=1nXi,S2=1n−1∑i=1n(Xi−Xˉ)2\bar X=\frac1n\sum_{i=1}^nX_i,\qquad S^2=\frac1{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2

とおく。このとき

Xˉ∼N ⁣(μ,σ2n),\bar X\sim N\!\left(\mu,\frac{\sigma^2}{n}\right),

Xˉ\bar XとS2S^2は独立であり、かつ

(n−1)S2σ2∼χn−12\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2}\sim\chi^2_{n-1}

が成り立つ。

証明.1=(1,…,1)⊤∈Rn\mathbf1=(1,\ldots,1)^\top\in\R^n、e=1/ne=\mathbf1/\sqrt nとし、

Z=1σ(X1−μ,…,Xn−μ)⊤Z=\frac1\sigma(X_1-\mu,\ldots,X_n-\mu)^\top

とおく。無作為標本の独立性と各成分の標準化によりZ∼Nn(0,In)Z\sim N_n(0,I_n)である。P0=ee⊤P_0=ee^\topとP1=In−P0P_1=I_n-P_0は、それぞれRe\R eとその直交補空間への直交射影であり、P0P1=0P_0P_1=0、rank⁡P0=1\operatorname{rank}P_0=1、rank⁡P1=n−1\operatorname{rank}P_1=n-1を満たす。

e⊤Ze^\top Zは§E11.10 定理 4.2により標準正規分布に従い、

Xˉ=μ+σne⊤Z\bar X=\mu+\frac\sigma{\sqrt n}e^\top Z

であるから、Xˉ∼N(μ,σ2/n)\bar X\sim N(\mu,\sigma^2/n)を得る。一方、P1ZP_1Zの第ii成分は(Xi−Xˉ)/σ(X_i-\bar X)/\sigmaであるため、

∥P1Z∥2=1σ2∑i=1n(Xi−Xˉ)2=(n−1)S2σ2.\lVert P_1Z\rVert^2 =\frac1{\sigma^2}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2 =\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2}.

定理 3.1によりP0ZP_0ZとP1ZP_1Zは独立であり、最後の平方ノルムはχn−12\chi^2_{n-1}に従う。Xˉ\bar XはP0Z=(e⊤Z)eP_0Z=(e^\top Z)eの関数であり、S2S^2はP1ZP_1Zの関数であるから、Xˉ\bar XとS2S^2も独立である。▨

例 4.2.a,b≥2a,b\geq2とし、N(μ1,σ12)N(\mu_1,\sigma_1^2)からの大きさaaの無作為標本と、N(μ2,σ22)N(\mu_2,\sigma_2^2)からの大きさbbの無作為標本を互いに独立にとる。ただし、μ1,μ2∈R\mu_1,\mu_2\in\R、σ12,σ22>0\sigma_1^2,\sigma_2^2>0とする。それぞれの標本分散をS12,S22S_1^2,S_2^2とおけば、定理 4.1により

U=(a−1)S12σ12∼χa−12,V=(b−1)S22σ22∼χb−12U=\frac{(a-1)S_1^2}{\sigma_1^2}\sim\chi^2_{a-1},\qquad V=\frac{(b-1)S_2^2}{\sigma_2^2}\sim\chi^2_{b-1}

であり、二標本の独立性からUUとVVは独立である。したがって

S12/σ12S22/σ22=U/(a−1)V/(b−1)∼Fa−1,b−1.\frac{S_1^2/\sigma_1^2}{S_2^2/\sigma_2^2} =\frac{U/(a-1)}{V/(b-1)}\sim F_{a-1,b-1}.

左辺はS22=0S_2^2=0となる零事象上で零と定める。特にσ12=σ22\sigma_1^2=\sigma_2^2ならばS12/S22∼Fa−1,b−1S_1^2/S_2^2\sim F_{a-1,b-1}である。

定理 4.3.n≥2n\geq2、μ∈R\mu\in\R、σ2>0\sigma^2>0とし、X1,…,XnX_1,\ldots,X_nをN(μ,σ2)N(\mu,\sigma^2)からの無作為標本とする。

Xˉ=1n∑i=1nXi,S2=1n−1∑i=1n(Xi−Xˉ)2\bar X=\frac1n\sum_{i=1}^nX_i,\qquad S^2=\frac1{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2

とおく。このとき、母平均μ\muに対する枢軸量

T=Xˉ−μS/nT=\frac{\bar X-\mu}{S/\sqrt n}

は自由度n−1n-1のtt分布に従う。この枢軸量は未知のσ\sigmaを含まない。

証明.定理 4.1により

Z0=n(Xˉ−μ)σ∼N(0,1),V=(n−1)S2σ2∼χn−12Z_0=\frac{\sqrt n(\bar X-\mu)}\sigma\sim N(0,1),\qquad V=\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2}\sim\chi^2_{n-1}

であり、Z0Z_0とVVは独立である。定理 2.3によりP(V>0)=1P(V>0)=1なのでS>0S>0もほとんど確実に成り立つ。従って

T=Z0V/(n−1)T=\frac{Z_0}{\sqrt{V/(n-1)}}

はほとんど確実に定義され、定義 2.2 (2)によりtn−1t_{n-1}に従う。表示式ではσ\sigmaが相殺されているため、TTは未知のσ\sigmaを含まない。▨

n≥2n\geq2とし、正の分散をもつ正規母集団から無作為標本を取る。母標準偏差σ\sigmaを用いたn(Xˉ−μ)/σ\sqrt n(\bar X-\mu)/\sigmaは、多変量正規分布のアフィン像による特徴づけ§E11.10 定理 4.2から、有限標本でもN(0,1)N(0,1)に従う。母標準偏差を標本標準偏差SSで置き換えたn(Xˉ−μ)/S\sqrt n(\bar X-\mu)/Sは定理 4.3により自由度n−1n-1の t 分布に従う。定理 2.3の密度表示から、有限の自由度をもつ t 分布は正規分布より裾が重い。自由度がn−1n-1となるのは、残差ベクトル(Xi−Xˉ)i=1n(X_i-\bar X)_{i=1}^nが∑i(Xi−Xˉ)=0\sum_i(X_i-\bar X)=0を満たし、残差空間の次元がn−1n-1だからである(定理 4.1)。同じ Student 化した枢軸量は§E14.2 命題 5.3により、n→∞n\to\inftyのときN(0,1)N(0,1)へ分布収束する。したがって、自由度n−1n-1の t 分布はn→∞n\to\inftyのときN(0,1)N(0,1)へ分布収束する。

例 4.4.N(5,22)N(5,2^2)から大きさn=8n=8の無作為標本をとり、

W=7S24,T=Xˉ−5S/8W=\frac{7S^2}{4},\qquad T=\frac{\bar X-5}{S/\sqrt8}

とおく。定理 4.1と定理 4.3により、W∼χ72W\sim\chi^2_7、T∼t7T\sim t_7であり、Xˉ\bar XとS2S^2は独立である。したがって

E[W]=7,Var⁡(W)=14,P(T>qt7(0.975))=0.025E[W]=7,\qquad \operatorname{Var}(W)=14,\qquad P\bigl(T>q_{t_7}(0.975)\bigr)=0.025

が成り立つ。

この標本生成を独立に2×1052\times10^5回反復した一つの数値記録では、WWの標本平均は6.99966.9996、標本分散は14.0714.07、Xˉ\bar XとS2S^2の標本相関係数は0.00090.0009であった。また、qt7(0.975)q_{t_7}(0.975)の数値2.36462.3646に対して、T>2.3646T>2.3646となった割合は0.02510.0251であった。これらはそれぞれ理論値77、1414、00、0.0250.025と整合する。乱数列を変えれば記録値は変動するため、再計算では個々の小数値の一致ではなく、反復回数に応じた Monte Carlo 誤差の範囲で理論値へ近づくことを検証する。

参考文献

  1. George Casella and Roger L. Berger, Statistical Inference, 2nd ed., CRC Press, Boca Raton, 2024, originally published 2002.Gamma・Beta 分布、カイ二乗・t・F 分布、および正規標本の標本平均と標本分散の分布を参考にした。
  2. T. W. Anderson, An Introduction to Multivariate Statistical Analysis, 3rd ed., Wiley, Hoboken, New Jersey, 2003.正規ベクトルの直交変換と互いに直交する射影の独立性を参考にした。

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