§E9.2測度

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可測空間は、可算個の集合演算を行うことができる集合族を指定する。測度は、その集合族の各元に[0,∞][0,\infty]の値を対応させ、互いに交わらない可算個の集合の和を数値の和へ対応させる。

本記事は、測度と有限性に関する概念を定義した後、可算加法性から有限加法性、単調性、差の公式、可算劣加法性、および集合列に対する連続性を導く。さらに、可測零集合の部分集合を加えることによって任意の測度空間を完備な測度空間へ拡張し、拡張測度の well-defined 性と可算加法性を証明する。

シグマ加法族の定義に含まれる可算和に対する閉性と、§E9.1 命題 1.4で証明した可算共通部分、差集合、有限和、および有限共通部分に対する閉性を、可測集合を構成する各箇所で用いる。

1 測度と有限性

測度の公理は、空集合の測度と互いに交わらない可算和の測度を指定する。

定義 1.1.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とする。関数

μ:F⟶[0,∞]\mu:\mathcal{F}\longrightarrow[0,\infty]

が(X,F)(X,\mathcal{F})上の測度 (measure) であるとは、次の二条件が成り立つことをいう。

  1. μ(∅)=0\mu(\emptyset)=0である。
  2. A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}が二つずつ交わらないならば、 μ(⋃n=1∞An)=∑n=1∞μ(An)\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum_{n=1}^{\infty}\mu(A_n) が成り立つ。

第二の条件を可算加法性 (countable additivity) という。右辺の非負項級数は、部分和の上限として[0,∞][0,\infty]に値をもつものとする。三つ組(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間 (measure space) という。

測度空間全体の測度が有限であることと、有限測度の可算個の集合で全体を被覆することとを区別する。

定義 1.2. 測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)と可測集合A∈FA\in\mathcal{F}に対して、AAが有限測度をもつ (set of finite measure) とは

μ(A)<∞\mu(A)<\infty

が成り立つことをいう。測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)が有限測度空間 (finite measure space) であるとは、

μ(X)<∞\mu(X)<\infty

が成り立つことをいう。

測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)がシグマ有限測度空間 (sigma-finite measure space) であるとは、各n∈Z≥1n\in\mathbb{Z}_{\geq 1}に対してEn∈FE_n\in\mathcal{F}かつμ(En)<∞\mu(E_n)<\inftyである集合列(En)n≥1(E_n)_{n\geq 1}が存在して、

X=⋃n=1∞EnX=\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n

が成り立つことをいう。測度μ\muが有限またはシグマ有限であるというときも、同じ条件を意味する。

数え上げ測度と Dirac 測度は、有限性とシグマ有限性の差を示す。

例 1.3 (数え上げ測度と Dirac 測度).XXを任意の集合とし、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)とする。A⊆XA\subseteq Xに対して

κ(A)={∣A∣,A が有限集合である場合,∞,A が無限集合である場合\kappa(A)= \begin{cases} \lvert A\rvert,& A\text{ が有限集合である場合},\\ \infty,& A\text{ が無限集合である場合} \end{cases}

と定めると、κ\kappaは数え上げ測度である。

実際、二つずつ交わらない集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}の和集合が有限ならば、空でないAnA_nは有限個だけであり、有限集合の要素数に対する加法性から可算加法性を得る。和集合が無限ならば、いずれかのAnA_nが無限であるか、有限集合であるAnA_nが無限個だけ空でない。前者では一つの項が∞\inftyである。後者では部分和が任意の正の整数以上になる。したがって、いずれの場合も等式の両辺は∞\inftyである。

特にX=Z≥1X=\mathbb{Z}_{\geq 1}の場合、数え上げ測度κ\kappaはκ(X)=∞\kappa(X)=\inftyであるから有限ではない。一方、

X=⋃n=1∞{n},κ({n})=1X=\bigcup_{n=1}^{\infty}\{n\}, \qquad \kappa(\{n\})=1

であるから、κ\kappaはシグマ有限である。

一般の可測空間(Y,G)(Y,\mathcal{G})と点a∈Ya\in Yに対して、

δa(B)={1,a∈B,0,a∉B(B∈G)\delta_a(B)= \begin{cases} 1,&a\in B,\\ 0,&a\notin B \end{cases} \qquad(B\in\mathcal{G})

と定める。二つずつ交わらない集合列では、点aaを含む集合は高々一つであるから、δa\delta_aは可算加法性を満たす。測度δa\delta_aを点aaにおける Dirac 測度という。δa(Y)=1\delta_a(Y)=1であるから、Dirac 測度は有限であり、したがってシグマ有限でもある。

注意 1.4 (有限性とシグマ有限性の関係). 有限測度ならば、定義 1.2でEn=XE_n=Xと選ぶことによってシグマ有限性を得る。逆は例 1.3の数え上げ測度では成り立たない。

2 可算加法性から導かれる性質

可算加法性を空集合で補うと有限加法性が得られる。有限加法性は、包含関係と集合差に関する公式を与える。

命題 2.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。このとき、次の性質が成り立つ。

  1. A1,…,Ak∈FA_1,\dots,A_k\in\mathcal{F}が二つずつ交わらないならば、 μ(⋃i=1kAi)=∑i=1kμ(Ai)\mu\left(\bigcup_{i=1}^{k}A_i\right) =\sum_{i=1}^{k}\mu(A_i) が成り立つ。
  2. A,B∈FA,B\in\mathcal{F}かつA⊆BA\subseteq Bならば、 μ(A)≤μ(B)\mu(A)\leq\mu(B) が成り立つ。さらにμ(A)<∞\mu(A)<\inftyならば、 μ(B∖A)=μ(B)−μ(A)\mu(B\setminus A)=\mu(B)-\mu(A) が成り立つ。
  3. 任意の集合列A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}に対して、 μ(⋃n=1∞An)≤∑n=1∞μ(An)\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) \leq\sum_{n=1}^{\infty}\mu(A_n) が成り立つ。

証明.(1)を示す。n>kn>kに対してAn=∅A_n=\emptysetと定めると、可算加法性とμ(∅)=0\mu(\emptyset)=0から

μ(⋃i=1kAi)=∑i=1kμ(Ai)\mu\left(\bigcup_{i=1}^{k}A_i\right) =\sum_{i=1}^{k}\mu(A_i)

を得る。

(2)を示す。A⊆BA\subseteq Bならば

B=A⊔(B∖A)B=A\mathbin{\sqcup}(B\setminus A)

である。(1)から

μ(B)=μ(A)+μ(B∖A)≥μ(A)\mu(B)=\mu(A)+\mu(B\setminus A)\geq\mu(A)

を得る。さらにμ(A)<∞\mu(A)<\inftyならば、有限な量μ(A)\mu(A)を両辺から引くことによって

μ(B∖A)=μ(B)−μ(A)\mu(B\setminus A)=\mu(B)-\mu(A)

を得る。μ(B)=∞\mu(B)=\inftyの場合には、右辺を∞−μ(A)=∞\infty-\mu(A)=\inftyと解釈する。この計算は、未定義な無限量どうしの差を含まない。

(3)を示す。B1=A1B_1=A_1とし、n≥2n\geq 2に対して

Bn=An∖⋃j=1n−1AjB_n=A_n\setminus\bigcup_{j=1}^{n-1}A_j

と定める。シグマ加法族の有限和と差集合に対する閉性から、各BnB_nはF\mathcal{F}に属する。集合列(Bn)n≥1(B_n)_{n\geq 1}は二つずつ交わらず、

⋃n=1∞Bn=⋃n=1∞An,Bn⊆An\bigcup_{n=1}^{\infty}B_n=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n, \qquad B_n\subseteq A_n

が成り立つ。可算加法性と(2)から

μ(⋃n=1∞An)=∑n=1∞μ(Bn)≤∑n=1∞μ(An)\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum_{n=1}^{\infty}\mu(B_n) \leq\sum_{n=1}^{\infty}\mu(A_n)

を得る。最後の不等式は、各有限部分和に対する不等式をとり、部分和の上限をとることによって得られる。したがって、三つの性質がすべて成り立つ。▨

3 零集合、ほとんど至る所、完備性

測度が零である可測集合は、測度に関する例外を記述する。

定義 3.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。集合Z∈FZ\in\mathcal{F}がμ\muに関する零集合 (null set) であるとは、

μ(Z)=0\mu(Z)=0

が成り立つことをいう。

例外となる点の集合自体が可測であることを仮定せず、可測零集合によって例外を被覆する形で「ほとんど至る所」を定義する。

定義 3.2.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、P(x)P(x)を各x∈Xx\in Xに対して真偽が定まる性質とする。P(x)P(x)がμ\muに関してほとんど至る所で成り立つ (holds almost everywhere) とは、可測零集合Z∈FZ\in\mathcal{F}が存在して、すべてのx∈X∖Zx\in X\setminus Zに対してP(x)P(x)が成り立つことをいう。この状況をP(x)P(x)がμ\mu-a.e. に成り立つともいう。

例 3.3 (可測零集合の外で一致する関数).X={0,1,2}X=\{0,1,2\}、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)とし、μ=δ2\mu=\delta_2とする。関数f,g:X→Rf,g:X\to\mathbb{R}を

f(0)=f(1)=f(2)=0,g(0)=1,g(1)=2,g(2)=0f(0)=f(1)=f(2)=0, \qquad g(0)=1,\quad g(1)=2,\quad g(2)=0

によって定める。任意の Borel 集合B⊆RB\subseteq\mathbb{R}に対してf−1(B),g−1(B)⊆Xf^{-1}(B),g^{-1}(B)\subseteq Xであり、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)であるから、ffとggは可測関数である。

Z={0,1}Z=\{0,1\}とおくと、Z∈FZ\in\mathcal{F}かつμ(Z)=0\mu(Z)=0である。また、X∖Z={2}X\setminus Z=\{2\}上ではf(2)=g(2)f(2)=g(2)が成り立つ。したがって、定義 3.2により、f=gf=gがμ\mu-a.e. に成り立つ。

零集合の任意の部分集合が可測であるかどうかは、測度空間の完備性によって決まる。

定義 3.4. 測度空間(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)が完備測度空間 (complete measure space) であるとは、任意の可測零集合Z∈FZ\in\mathcal{F}と任意の部分集合N⊆ZN\subseteq Zに対して、

N∈FN\in\mathcal{F}

が成り立つことをいう。このとき、測度μ\muも完備測度 (complete measure) であるという。

N∈FN\in\mathcal{F}が得られれば、単調性から0≤μ(N)≤μ(Z)=00\leq\mu(N)\leq\mu(Z)=0であるため、μ(N)=0\mu(N)=0も成り立つ。

Dirac 測度の定義域を粗いシグマ加法族に制限すると、完備でない有限測度空間が得られる。

例 3.5 (完備でない測度空間).X={0,1,2}X=\{0,1,2\}とし、

F={∅,{0,1},{2},X}\mathcal{F}=\{\emptyset,\{0,1\},\{2\},X\}

とする。μ=δ2\mu=\delta_2と定めると、例 1.3によりμ\muは(X,F)(X,\mathcal{F})上の有限測度である。集合{0,1}\{0,1\}は可測零集合であるが、その部分集合{0}\{0\}はF\mathcal{F}に属さない。したがって、(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)は完備でない。

4 集合列に対する測度の連続性

増加列は、新たに加わる部分を互いに交わらない集合へ分解することができる。減少列については、先頭集合から取り除かれる部分を増加列として扱う。

4.1 証明方針

増加列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}に対して、A1A_1と差集合An∖An−1A_n\setminus A_{n-1}を並べる。可算加法性を列全体へ適用し、有限加法性を各部分和へ適用すると、下からの連続性が得られる。減少列ではA1∖AnA_1\setminus A_nに下からの連続性を適用し、有限な値μ(A1)\mu(A_1)からの差を用いて上からの連続性を導く。

定理 4.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。

  1. A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}が A1⊆A2⊆⋯A_1\subseteq A_2\subseteq\cdots を満たすならば、 μ(⋃n=1∞An)=lim⁡n→∞μ(An)\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\lim_{n\to\infty}\mu(A_n) が成り立つ。
  2. A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}が A1⊇A2⊇⋯A_1\supseteq A_2\supseteq\cdots を満たし、さらにμ(A1)<∞\mu(A_1)<\inftyであるならば、 μ(⋂n=1∞An)=lim⁡n→∞μ(An)\mu\left(\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\lim_{n\to\infty}\mu(A_n) が成り立つ。

証明.(1)を示す。C1=A1C_1=A_1とし、n≥2n\geq 2に対して

Cn=An∖An−1C_n=A_n\setminus A_{n-1}

と定める。各CnC_nは可測であり、集合列(Cn)n≥1(C_n)_{n\geq 1}は二つずつ交わらない。また、すべてのn≥1n\geq 1に対して

An=⋃k=1nCkA_n=\bigcup_{k=1}^{n}C_k

が成り立ち、

⋃n=1∞An=⋃k=1∞Ck\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n =\bigcup_{k=1}^{\infty}C_k

が成り立つ。したがって、可算加法性と有限加法性から

μ(⋃n=1∞An)=∑k=1∞μ(Ck)=lim⁡n→∞∑k=1nμ(Ck)=lim⁡n→∞μ(An)\begin{aligned} \mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) &=\sum_{k=1}^{\infty}\mu(C_k)\\ &=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^{n}\mu(C_k)\\ &=\lim_{n\to\infty}\mu(A_n) \end{aligned}

を得る。

(2)を示す。A=⋂n=1∞AnA=\bigcap_{n=1}^{\infty}A_nとする。§E9.1 命題 1.4によりA∈FA\in\mathcal{F}である。さらに、

Bn=A1∖AnB_n=A_1\setminus A_n

と定める。集合列(Bn)n≥1(B_n)_{n\geq 1}は増加列であり、

⋃n=1∞Bn=A1∖A\bigcup_{n=1}^{\infty}B_n=A_1\setminus A

が成り立つ。(1)から

μ(A1∖A)=lim⁡n→∞μ(A1∖An)\mu(A_1\setminus A)=\lim_{n\to\infty}\mu(A_1\setminus A_n)

を得る。

A⊆An⊆A1A\subseteq A_n\subseteq A_1かつμ(A1)<∞\mu(A_1)<\inftyであるから、命題 2.1の差の公式を用いることができる。したがって、

μ(A1)−μ(A)=lim⁡n→∞(μ(A1)−μ(An))\mu(A_1)-\mu(A) =\lim_{n\to\infty}\bigl(\mu(A_1)-\mu(A_n)\bigr)

が成り立つ。数列(μ(An))n≥1(\mu(A_n))_{n\geq 1}は非増加であり、00以上かつ有限なμ(A1)\mu(A_1)以下であるから、有限な極限LLをもつ。右辺はμ(A1)−L\mu(A_1)-Lに等しいので、

μ(A1)−μ(A)=μ(A1)−L\mu(A_1)-\mu(A)=\mu(A_1)-L

を得る。μ(A1)\mu(A_1)は有限であるから、両辺からμ(A1)\mu(A_1)を消去してμ(A)=L\mu(A)=Lを得る。したがって、

μ(⋂n=1∞An)=lim⁡n→∞μ(An)\mu\left(\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\lim_{n\to\infty}\mu(A_n)

が成り立つ。▨

上からの連続性では、有限性の仮定を除くと結論が成り立たない例がある。

注意 4.2 (上からの連続性における有限性).X=Z≥1X=\mathbb{Z}_{\geq 1}に例 1.3の数え上げ測度κ\kappaを入れ、

An={n,n+1,n+2,… }A_n=\{n,n+1,n+2,\dots\}

と定める。集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}は減少列であり、

⋂n=1∞An=∅\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n=\emptyset

である。一方、すべてのn≥1n\geq 1に対してκ(An)=∞\kappa(A_n)=\inftyである。したがって、

κ(⋂n=1∞An)=0≠∞=lim⁡n→∞κ(An)\kappa\left(\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n\right)=0 \neq\infty=\lim_{n\to\infty}\kappa(A_n)

である。この例ではκ(A1)<∞\kappa(A_1)<\inftyが成り立たないため、上からの連続性の第二の主張を適用することができない。

5 測度の完備化

完備化では、可測零集合に含まれる部分集合をすべて追加する。追加する部分集合は、もとのシグマ加法族に属するとは限らない。

定義 5.1.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。集合族Nμ⊆P(X)\mathcal{N}_{\mu}\subseteq\mathcal{P}(X)を

Nμ={ N⊆X∣ある Z∈F が存在して N⊆Z かつ μ(Z)=0 }\mathcal{N}_{\mu} =\{\,N\subseteq X\mid \text{ある }Z\in\mathcal{F}\text{ が存在して }N\subseteq Z\text{ かつ }\mu(Z)=0\,\}

によって定める。

集合族Nμ\mathcal{N}_{\mu}は、部分集合をとる操作と可算和に対して閉じている。

補題 5.2. 可算選択公理を仮定し、(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。このとき、次の性質が成り立つ。

  1. ∅∈Nμ\emptyset\in\mathcal{N}_{\mu}である。
  2. M⊆NM\subseteq NかつN∈NμN\in\mathcal{N}_{\mu}ならば、M∈NμM\in\mathcal{N}_{\mu}である。
  3. すべてのn≥1n\geq 1に対してNn∈NμN_n\in\mathcal{N}_{\mu}ならば、⋃n=1∞Nn∈Nμ\bigcup_{n=1}^{\infty}N_n\in\mathcal{N}_{\mu}である。

証明.(1)を示す。空集合は可測零集合∅\emptysetに含まれるので、第一の性質が成り立つ。

(2)を示す。M⊆NM\subseteq NかつN∈NμN\in\mathcal{N}_{\mu}とする。ある可測零集合ZZが存在してN⊆ZN\subseteq Zが成り立つ。M⊆ZM\subseteq Zでもあるから、M∈NμM\in\mathcal{N}_{\mu}である。

(3)を示す。各Nn∈NμN_n\in\mathcal{N}_{\mu}に対して、Nn⊆ZnN_n\subseteq Z_nを満たす可測零集合Zn∈FZ_n\in\mathcal{F}を可算選択公理によって選ぶ。シグマ加法族の可算和に対する閉性からZ=⋃n=1∞ZnZ=\bigcup_{n=1}^{\infty}Z_nは可測である。また、命題 2.1の可算劣加法性から

μ(Z)≤∑n=1∞μ(Zn)=0\mu(Z) \leq\sum_{n=1}^{\infty}\mu(Z_n)=0

である。したがって、ZZは可測零集合である。⋃nNn⊆Z\bigcup_nN_n\subseteq Zであるから、⋃nNn∈Nμ\bigcup_nN_n\in\mathcal{N}_{\mu}を得る。したがって、三つの閉性がすべて成り立つ。▨

もとの可測集合とNμ\mathcal{N}_{\mu}の元との和集合を、完備化後の可測集合とする。

定義 5.3.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。集合族

F‾ μ={ A∪N∣A∈F, N∈Nμ }\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu} =\{\,A\cup N\mid A\in\mathcal{F},\ N\in\mathcal{N}_{\mu}\,\}

をF\mathcal{F}のμ\muによる完備化 (completion) という。文脈から測度μ\muが一意に定まる場合には、F‾\overline{\mathcal{F}}と書く。

完備化された集合族がシグマ加法族であることを、補集合と可算和について直接証明する。

補題 5.4. 可算選択公理を仮定し、(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。このとき、F‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}はF\mathcal{F}を含むXX上のシグマ加法族である。

証明.∅∈Nμ\emptyset\in\mathcal{N}_{\mu}であるから、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対してA=A∪∅∈F‾ μA=A\cup\emptyset\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}である。したがって、F⊆F‾ μ\mathcal{F}\subseteq\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}であり、特にX∈F‾ μX\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}である。

E=A∪N∈F‾ μE=A\cup N\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}とする。ここでA∈FA\in\mathcal{F}かつN∈NμN\in\mathcal{N}_{\mu}である。N⊆ZN\subseteq Zを満たす可測零集合Z∈FZ\in\mathcal{F}をとり、

A′=(X∖A)∖Z,N′=(X∖(A∪N))∩ZA'=(X\setminus A)\setminus Z, \qquad N'=(X\setminus(A\cup N))\cap Z

とおく。シグマ加法族の差集合に対する閉性からA′∈FA'\in\mathcal{F}であり、N′⊆ZN'\subseteq ZからN′∈NμN'\in\mathcal{N}_{\mu}である。ZZの外部と内部に分けると

X∖E=A′∪N′X\setminus E=A'\cup N'

が成り立つ。したがって、X∖E∈F‾ μX\setminus E\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}である。

各n≥1n\geq 1に対してEn∈F‾ μE_n\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}とする。可算選択公理によって、An∈FA_n\in\mathcal{F}とNn∈NμN_n\in\mathcal{N}_{\mu}を選び、En=An∪NnE_n=A_n\cup N_nと表示する。シグマ加法族の可算和に対する閉性と、可算選択公理を仮定した補題 5.2から

⋃n=1∞An∈F,⋃n=1∞Nn∈Nμ\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}, \qquad \bigcup_{n=1}^{\infty}N_n\in\mathcal{N}_{\mu}

である。さらに、

⋃n=1∞En=(⋃n=1∞An)∪(⋃n=1∞Nn)\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n =\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) \cup\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}N_n\right)

であるから、⋃nEn∈F‾ μ\bigcup_nE_n\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}である。以上により、F‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}はシグマ加法族である。▨

同じ完備化後の可測集合には複数の表示がありうるため、拡張測度を定める前に表示からの独立性を証明する。

補題 5.5.(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とする。A,B∈FA,B\in\mathcal{F}およびN,M∈NμN,M\in\mathcal{N}_{\mu}が

A∪N=B∪MA\cup N=B\cup M

を満たすならば、

μ(A)=μ(B)\mu(A)=\mu(B)

が成り立つ。したがって、

μ‾(A∪N)=μ(A)(A∈F, N∈Nμ)\overline{\mu}(A\cup N)=\mu(A) \qquad (A\in\mathcal{F},\ N\in\mathcal{N}_{\mu})

という規則は、F‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}上の関数μ‾:F‾ μ→[0,∞]\overline{\mu}:\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}\to[0,\infty]を一意に定める。

証明.N⊆ZN\subseteq ZとM⊆WM\subseteq Wを満たす可測零集合Z,W∈FZ,W\in\mathcal{F}をとる。A∪N=B∪MA\cup N=B\cup Mであるから、

A∖B⊆M⊆W,B∖A⊆N⊆ZA\setminus B\subseteq M\subseteq W, \qquad B\setminus A\subseteq N\subseteq Z

が成り立つ。集合A∖BA\setminus BとB∖AB\setminus Aは可測であるから、測度の単調性により

μ(A∖B)=0,μ(B∖A)=0\mu(A\setminus B)=0, \qquad \mu(B\setminus A)=0

を得る。

互いに交わらない和

A=(A∩B)⊔(A∖B),B=(A∩B)⊔(B∖A)A=(A\cap B)\mathbin{\sqcup}(A\setminus B), \qquad B=(A\cap B)\mathbin{\sqcup}(B\setminus A)

に有限加法性を適用すると、

μ(A)=μ(A∩B)+0=μ(B)\mu(A)=\mu(A\cap B)+0=\mu(B)

を得る。この計算は測度の差を用いないので、μ(A)\mu(A)またはμ(B)\mu(B)が∞\inftyである場合にも成り立つ。▨

拡張測度の可算加法性、完備性、および最小性をまとめて証明する。

5.1 証明方針

二つずつ交わらない完備化後の可測集合をEn=An∪NnE_n=A_n\cup N_nと表示すると、各AnA_nはEnE_nの部分集合であるため、集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}も二つずつ交わらない。したがって、もとの測度μ\muの可算加法性を直接適用することができる。完備性については、測度零であるE∈F‾ μE\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}を一つの可測零集合で被覆し、EEの任意の部分集合をNμ\mathcal{N}_{\mu}の元として表す。

定理 5.6. 可算選択公理を仮定する。(X,F,μ)(X,\mathcal{F},\mu)を測度空間とし、F‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}とμ‾\overline{\mu}を定義 5.3および補題 5.5によって定める。このとき、次の性質が成り立つ。

  1. (X,F‾ μ,μ‾)(X,\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu},\overline{\mu})は完備な測度空間である。
  2. 任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対してμ‾(A)=μ(A)\overline{\mu}(A)=\mu(A)である。
  3. G\mathcal{G}がF\mathcal{F}を含むXX上のシグマ加法族であり、ν\nuが(X,G)(X,\mathcal{G})上の完備測度であって、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対してν(A)=μ(A)\nu(A)=\mu(A)を満たすならば、 F‾ μ⊆G,ν(E)=μ‾(E)(E∈F‾ μ)\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}\subseteq\mathcal{G}, \qquad \nu(E)=\overline{\mu}(E) \quad(E\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}) が成り立つ。

証明.(1)を示す。まず、補題 5.4によりF‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}はシグマ加法族である。次に、μ‾\overline{\mu}が測度であることを示す。空集合を∅=∅∪∅\emptyset=\emptyset\cup\emptysetと表示すると、

μ‾(∅)=μ(∅)=0\overline{\mu}(\emptyset)=\mu(\emptyset)=0

である。

E1,E2,⋯∈F‾ μE_1,E_2,\dots\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}が二つずつ交わらないとする。各n≥1n\geq 1に対して、An∈FA_n\in\mathcal{F}とNn∈NμN_n\in\mathcal{N}_{\mu}を可算選択公理によって選んでEn=An∪NnE_n=A_n\cup N_nと表示する。An⊆EnA_n\subseteq E_nであるから、集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}も二つずつ交わらない。また、補題 5.2によりN=⋃n=1∞NnN=\bigcup_{n=1}^{\infty}N_nはNμ\mathcal{N}_{\mu}に属し、

⋃n=1∞En=(⋃n=1∞An)∪N\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n =\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right)\cup N

である。したがって、μ\muの可算加法性から

μ‾(⋃n=1∞En)=μ(⋃n=1∞An)=∑n=1∞μ(An)=∑n=1∞μ‾(En)\begin{aligned} \overline{\mu}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n\right) &=\mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\mu(A_n)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\overline{\mu}(E_n) \end{aligned}

を得る。ゆえに、μ‾\overline{\mu}はF‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}上の測度である。

(2)を示す。任意のA∈FA\in\mathcal{F}はA=A∪∅A=A\cup\emptysetと表示されるので、

μ‾(A)=μ(A)\overline{\mu}(A)=\mu(A)

である。

完備性を示す。E∈F‾ μE\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}かつμ‾(E)=0\overline{\mu}(E)=0とし、S⊆ES\subseteq Eとする。E=A∪NE=A\cup Nと表示する。ここでA∈FA\in\mathcal{F}、N∈NμN\in\mathcal{N}_{\mu}である。μ‾(E)=μ(A)=0\overline{\mu}(E)=\mu(A)=0である。また、N⊆ZN\subseteq Zを満たす可測零集合Z∈FZ\in\mathcal{F}が存在する。可算劣加法性から

μ(A∪Z)≤μ(A)+μ(Z)=0\mu(A\cup Z)\leq\mu(A)+\mu(Z)=0

であるため、A∪ZA\cup Zは可測零集合である。また、

S⊆E⊆A∪ZS\subseteq E\subseteq A\cup Z

が成り立つ。したがって、S∈NμS\in\mathcal{N}_{\mu}である。S=∅∪SS=\emptyset\cup Sと表示するとS∈F‾ μS\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}かつμ‾(S)=0\overline{\mu}(S)=0を得る。ゆえに、(X,F‾ μ,μ‾)(X,\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu},\overline{\mu})は完備である。

(3)を示す。G\mathcal{G}とν\nuが(3)の仮定を満たすとする。N∈NμN\in\mathcal{N}_{\mu}を任意にとる。N⊆ZN\subseteq Zを満たす可測零集合Z∈FZ\in\mathcal{F}が存在する。F⊆G\mathcal{F}\subseteq\mathcal{G}かつν(Z)=μ(Z)=0\nu(Z)=\mu(Z)=0であり、ν\nuは完備であるから、

N∈G,ν(N)=0N\in\mathcal{G}, \qquad \nu(N)=0

である。

任意のE=A∪N∈F‾ μE=A\cup N\in\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}に対して、A∈F⊆GA\in\mathcal{F}\subseteq\mathcal{G}かつN∈GN\in\mathcal{G}であるからE∈GE\in\mathcal{G}である。さらにN∖A⊆NN\setminus A\subseteq Nであり、シグマ加法族の差集合に対する閉性と単調性からN∖A∈GN\setminus A\in\mathcal{G}かつν(N∖A)=0\nu(N\setminus A)=0である。互いに交わらない和E=A⊔(N∖A)E=A\mathbin{\sqcup}(N\setminus A)に有限加法性を適用すると、

ν(E)=ν(A)+ν(N∖A)=μ(A)=μ‾(E)\nu(E)=\nu(A)+\nu(N\setminus A)=\mu(A)=\overline{\mu}(E)

を得る。したがって、F‾ μ⊆G\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}\subseteq\mathcal{G}であり、ν\nuはF‾ μ\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}上でμ‾\overline{\mu}と一致する。▨

例 5.7 (有限集合上の測度の完備化).例 3.5の測度空間では、Nμ=P({0,1})\mathcal{N}_{\mu}=\mathcal{P}(\{0,1\})である。任意のE⊆XE\subseteq XはNNまたは{2}∪N\{2\}\cup Nの形で表されるので、F‾ μ=P(X)\overline{\mathcal{F}}^{\,\mu}=\mathcal{P}(X)となる。

6 演習

問題 6.1.

  1. Z≥1\mathbb{Z}_{\geq 1}上の数え上げ測度について、有限性、シグマ有限性、および完備性のそれぞれが成り立つかを判定し、判定の根拠を述べる。
  2. 非可算集合XX上のP(X)\mathcal{P}(X)に数え上げ測度を入れる。この測度がシグマ有限でないことを、有限集合の可算和が高々可算であることを用いて証明する。
  3. 例 3.5で、{0}\{0\}、{1}\{1\}、{0,1}\{0,1\}の完備化後の測度を求める。また、完備化によって新たに加わる可測集合をすべて列挙する。
  4. 定理 4.1 (2)で、μ(A1)<∞\mu(A_1)<\inftyの代わりに、あるm≥1m\geq 1が存在してμ(Am)<∞\mu(A_m)<\inftyであると仮定する。この仮定のもとでも同じ結論が成り立つことを、減少列の第mm項以降へ定理を適用して証明する。
  5. 定理 5.6の可算加法性の証明で、表示En=An∪NnE_n=A_n\cup N_nに現れる集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}が二つずつ交わらない理由を、An⊆EnA_n\subseteq E_nから説明する。

7 まとめ

測度の可算加法性から、有限加法性、単調性、有限な量だけを引く差の公式、および可算劣加法性が従う。増加列に対する下からの連続性には有限性を仮定する必要がない。減少列に対する上からの連続性をすべての測度空間で保証するためには有限性に関する仮定を除くことができず、先頭集合が有限ならば定理の仮定を満たす。

可測零集合の部分集合をすべて加えると、完備化されたシグマ加法族が得られる。拡張測度は、完備化後の集合をA∪NA\cup Nと表示したときのμ(A)\mu(A)によって定まり、表示に依存しない。得られる完備測度空間はもとの測度空間を拡張し、任意の完備な拡張測度空間に含まれる。外測度から新たな測度を構成する議論は、次の記事で扱う。

参考文献

  1. Donald L. Cohn, Measure Theory, 2nd ed., Birkhäuser Advanced Texts Basler Lehrbücher, Birkhäuser, 2013.

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