§E9.14符号付き測度と Hahn–Jordan 分解

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集合の大きさを表す正測度どうしを比較するとき、その差は正負の両方の値を取り得る。たとえば、二点からなる集合で二つの一点集合にそれぞれ11と−1-1を割り当てる集合関数は、全体では値00を取るが、内部には正の寄与と負の寄与が残る。

この相殺のため、ある集合の値だけを見ても、その集合の内部で符号がどのように分布しているかは分からない。符号付き測度の正集合と負集合は、すべての可測部分集合の値に非負または非正という条件を課すことで相殺を排除する。空間を正集合と負集合へ分ける Hahn 分解と、それぞれの寄与を正測度として取り出す Jordan 分解は、符号付き測度を解析するために広く用いられる。

Jordan 分解から得られる全変動測度は、正負の寄与を加えて相殺前の大きさを記録する。この正測度によって、符号付き測度の零集合、絶対連続性、特異性を正測度の場合へ帰着させることができる。

本記事では、Hahn–Jordan 分解を中心に、符号付き測度の基本構造について解説する。

1 符号付き測度の値域と可算和

拡張実数列の和は、正の項と負の項を分けて定める。∞−∞\infty-\inftyを許さないことを、符号付き測度の可算加法性にも組み込む。

定義 1.1.a1,a2,⋯∈[−∞,∞]a_1,a_2,\dots\in[-\infty,\infty]とする。各n≥1n\geq 1に対して

an+=max⁡{an,0},an−=max⁡{−an,0}a_n^{+}=\max\{a_n,0\}, \qquad a_n^{-}=\max\{-a_n,0\}

とおき、

S+=∑n=1∞an+,S−=∑n=1∞an−S^{+}=\sum_{n=1}^{\infty}a_n^{+}, \qquad S^{-}=\sum_{n=1}^{\infty}a_n^{-}

を非負項級数として[0,∞][0,\infty]に定める。

S+S^{+}とS−S^{-}が同時に∞\inftyでないとき、列(an)n≥1(a_n)_{n\geq 1}の順序不変な和 (order-independent sum) を

∑n=1∞an=S+−S−\sum_{n=1}^{\infty}a_n=S^{+}-S^{-}

によって定める。右辺では、有限な数を∞\inftyから引いた値を∞\inftyとし、∞−∞\infty-\inftyは定義しない。この和は添字の並べ替えによって変わらない。

この可算和の規約を用いて、正と負の無限大を許す符号付き測度を定義する。

定義 1.2.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とする。関数

ν:F⟶[−∞,∞]\nu:\mathcal{F}\longrightarrow[-\infty,\infty]

が(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度 (signed measure) であるとは、次の三条件が成り立つことをいう。

  1. ν(∅)=0\nu(\emptyset)=0である。
  2. ν\nuの値域は+∞+\inftyと−∞-\inftyを同時には含まない。
  3. A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}が二つずつ交わらないならば、∑n=1∞ν(An)\sum_{n=1}^{\infty}\nu(A_n)は定義 1.1の意味で定義され、 ν(⋃n=1∞An)=∑n=1∞ν(An)\nu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) = \sum_{n=1}^{\infty}\nu(A_n) が成り立つ。

第三の条件を符号付き測度の可算加法性 (countable additivity) という。値域が[0,∞][0,\infty]に含まれる符号付き測度は§E9.2 定義 1.1の正測度である。したがって、正測度は符号付き測度の特別な場合である。

第二の条件だけでは、互いに交わらない集合列の値の正の部分と負の部分がそれぞれ無限大になる可能性を排除しない。第三の条件は、そのような列を符号付き測度の可算加法性から明示的に除いている。

可算加法性に空集合を補うと、符号付き測度についても有限加法性を得る。

補題 1.3.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。A1,…,Ak∈FA_1,\dots,A_k\in\mathcal{F}が二つずつ交わらないならば、

ν(⋃i=1kAi)=∑i=1kν(Ai)\nu\left(\bigcup_{i=1}^{k}A_i\right) =\sum_{i=1}^{k}\nu(A_i)

が成り立ち、右辺は定義される。

証明.n>kn>kに対してAn=∅A_n=\emptysetと定める。定義 1.2の可算加法性とν(∅)=0\nu(\emptyset)=0から主張を得る。可算加法性は右辺の可算和が定義されることも要求するため、最初のkk項の有限和も∞−∞\infty-\inftyを含まない。▨

有限値だけに制限しない符号付き測度の例を示す。

例 1.4 (無限値をとる符号付き測度).X=N≥1X=\NN、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)とする。A⊆XA\subseteq Xに対して

ν(A)=∑n∈Awn,w1=−1,wn=1 (n≥2)\nu(A) = \sum_{n\in A}w_n, \qquad w_1=-1,\quad w_n=1\ (n\geq 2)

と定める。右辺は、1∉A1\notin AならばAAの要素数であり、1∈A1\in AならばA∖{1}A\setminus\{1\}の要素数から11を引いた値である。A∖{1}A\setminus\{1\}が無限集合ならばν(A)=∞\nu(A)=\inftyとする。

互いに交わらない集合列(Aj)j≥1(A_j)_{j\geq 1}をとり、

Pj=Aj∩{2,3,4,… },εj=1{1∈Aj}P_j=A_j\cap\{2,3,4,\dots\}, \qquad \varepsilon_j=\mathbf{1}_{\{1\in A_j\}}

とおく。集合PjP_jは二つずつ交わらず、∑jεj\sum_j\varepsilon_jは00または11である。数え上げ測度の可算加法性により、

ν(⋃j=1∞Aj)=∣⋃j=1∞Pj∣−∑j=1∞εj=∑j=1∞(∣Pj∣−εj)=∑j=1∞ν(Aj)\nu\left(\bigcup_{j=1}^{\infty}A_j\right) =\left\lvert\bigcup_{j=1}^{\infty}P_j\right\rvert-\sum_{j=1}^{\infty}\varepsilon_j =\sum_{j=1}^{\infty}\bigl(\lvert P_j\rvert-\varepsilon_j\bigr) =\sum_{j=1}^{\infty}\nu(A_j)

である。この和の負の部分は高々11であるから、正の部分と負の部分は同時に無限大にならない。ゆえにν\nuは符号付き測度である。

この符号付き測度は−∞-\inftyを取らないが、無限集合A⊆{2,3,… }A\subseteq\{2,3,\dots\}に対してν(A)=∞\nu(A)=\inftyを取る。また、ν({1})=−1\nu(\{1\})=-1であるため、正測度ではない。

2 正集合、負集合、零集合

集合全体の値だけでは、その内部で正と負が相殺しているかどうかを判定することができない。したがって、正集合と負集合は、すべての可測部分集合に符号条件を課して定義する。

定義 2.1.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。E∈FE\in\mathcal{F}について、次のように定める。

  1. EEがν\nuの正集合 (positive set) であるとは、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して、A⊆EA\subseteq Eならばν(A)≥0\nu(A)\geq 0が成り立つことをいう。
  2. EEがν\nuの負集合 (negative set) であるとは、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して、A⊆EA\subseteq Eならばν(A)≤0\nu(A)\leq 0が成り立つことをいう。
  3. EEがν\nuの零集合 (null set of a signed measure) であるとは、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して、A⊆EA\subseteq Eならばν(A)=0\nu(A)=0が成り立つことをいう。

最後の定義は、正測度に対する§E9.2 定義 3.1と同値である。一般の符号付き測度ではν(E)=0\nu(E)=0だけではEEが零集合であるとは限らない。

正集合・負集合・零集合は可測部分集合をとる操作で保たれ、同じ符号をもつ集合の可算和でも保たれる。

補題 2.2.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。

  1. 正集合または負集合の可測部分集合は、それぞれ正集合または負集合である。
  2. 可算個の正集合の和集合は正集合であり、可算個の負集合の和集合は負集合である。
  3. 可測集合が零集合であることと、その集合が正集合かつ負集合であることは同値である。
  4. 可算個の零集合の和集合は零集合である。

証明.(1)を示す。B⊆EB\subseteq Eが可測であり、EEが正集合であるとする。任意の可測集合A⊆BA\subseteq BはA⊆EA\subseteq Eも満たすため、ν(A)≥0\nu(A)\geq 0である。したがってBBは正集合である。負集合についてもEEが負集合ならば、任意の可測集合A⊆B⊆EA\subseteq B\subseteq Eに対してν(A)≤0\nu(A)\leq 0であるから、BBは負集合である。

(2)を示す。(En)n≥1(E_n)_{n\geq 1}を正集合の列とし、E=⋃n=1∞EnE=\bigcup_{n=1}^{\infty}E_nとする。A∈FA\in\mathcal{F}かつA⊆EA\subseteq Eとする。

B1=A∩E1,Bn=(A∩En)∖⋃j=1n−1Ej(n≥2)B_1=A\cap E_1, \qquad B_n=(A\cap E_n)\setminus\bigcup_{j=1}^{n-1}E_j \quad(n\geq 2)

とおく。各BnB_nは可測で、二つずつ交わらず、A=⋃nBnA=\bigcup_nB_nである。また、Bn⊆EnB_n\subseteq E_nであるからν(Bn)≥0\nu(B_n)\geq 0である。符号付き測度の可算加法性により

ν(A)=∑n=1∞ν(Bn)≥0\nu(A)=\sum_{n=1}^{\infty}\nu(B_n)\geq 0

である。したがってEEは正集合である。

(En)n≥1(E_n)_{n\geq 1}が負集合の列である場合にも、A⊆⋃nEnA\subseteq\bigcup_nE_nに対して上と同じ集合BnB_nを定めることができる。この場合は各ν(Bn)≤0\nu(B_n)\leq 0であるから、

ν(A)=∑n=1∞ν(Bn)≤0\nu(A)=\sum_{n=1}^{\infty}\nu(B_n)\leq 0

である。この和は00または負の有限値または−∞-\inftyであり、正の項を含まないため定義される。したがって、可算個の負集合の和集合は負集合である。

(3)を示す。EEが零集合ならば、すべての可測部分集合の値が00であるから、EEは正集合かつ負集合である。逆にEEが正集合かつ負集合ならば、任意の可測集合A⊆EA\subseteq Eに対して0≤ν(A)≤00\leq\nu(A)\leq 0であり、ν(A)=0\nu(A)=0である。したがってEEは零集合である。

(4)を示す。零集合の列は正集合の列でも負集合の列でもある。(2)と(3)から、その和集合は零集合である。▨

集合全体の値が零であっても、符号が内部で相殺する場合がある。

例 2.3 (値が零である集合と零集合の違い).X={1,2}X=\{1,2\}、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)とし、

ν(A)=1{1∈A}−1{2∈A}\nu(A)=\mathbf{1}_{\{1\in A\}}-\mathbf{1}_{\{2\in A\}}

と定める。互いに交わらない集合列では、点11と点22はそれぞれ高々一つの集合にしか属さない。したがって、各指示関数の可算和を別々にとることで、ν\nuの可算加法性が従う。ゆえにν\nuは符号付き測度である。ν(X)=0\nu(X)=0であるが、ν({1})=1\nu(\{1\})=1かつν({2})=−1\nu(\{2\})=-1である。したがって、XXはν\nuの零集合ではない。この例が、零集合の定義で全可測部分集合を量化する必要を示す。

3 Hahn 分解

補題 3.1. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuを−∞-\inftyを値に取らない符号付き測度とする。E∈FE\in\mathcal{F}かつν(E)<0\nu(E)<0ならば、可測な負集合N⊆EN\subseteq Eが存在して

ν(N)≤ν(E)<0\nu(N)\leq\nu(E)<0

が成り立つ。

証明.R0=ER_0=Eとおく。可測集合R⊆ER\subseteq Eに対して

β(R)=sup⁡({0}∪{ ν(A)∣A∈F, A⊆R, ν(A)>0 })∈[0,∞]\beta(R) = \sup\bigl(\{0\}\cup \{\,\nu(A)\mid A\in\mathcal{F},\ A\subseteq R,\ \nu(A)>0\,\}\bigr) \in[0,\infty]

と定める。ν(R)<0\nu(R)<0である場合、RRの可測部分集合AAがν(A)>0\nu(A)>0を満たすならばν(A)<∞\nu(A)<\inftyである。実際、R=A⊔(R∖A)R=A\mathbin{\sqcup}(R\setminus A)に有限加法性を適用したとき、ν(A)=∞\nu(A)=\inftyかつν(R∖A)>−∞\nu(R\setminus A)>-\inftyならばν(R)=∞\nu(R)=\inftyとなり、ν(R)<0\nu(R)<0に反する。

各k≥1k\geq 1において、Rk−1R_{k-1}とβ(Rk−1)\beta(R_{k-1})からAkA_kを次のように選び、Rk=Rk−1∖AkR_k=R_{k-1}\setminus A_kと定める。

  1. β(Rk−1)=0\beta(R_{k-1})=0ならば、Ak=∅A_k=\emptysetとする。
  2. 0<β(Rk−1)<∞0<\beta(R_{k-1})<\inftyならば、 Ak∈F,Ak⊆Rk−1,ν(Ak)>β(Rk−1)2A_k\in\mathcal{F},\quad A_k\subseteq R_{k-1},\quad \nu(A_k)>\frac{\beta(R_{k-1})}{2} を満たすAkA_kを選ぶ。
  3. β(Rk−1)=∞\beta(R_{k-1})=\inftyならば、 Ak∈F,Ak⊆Rk−1,ν(Ak)>1A_k\in\mathcal{F},\quad A_k\subseteq R_{k-1},\quad \nu(A_k)>1 を満たすAkA_kを選ぶ。

第二と第三の場合に候補が存在することは上限の定義から従う。各状態から次の状態を選ぶことができるため、§E1.20 定義 4.2の従属選択公理により、この反復をすべてのk≥1k\geq 1について行う列が存在する。集合列(Ak)k≥1(A_k)_{k\geq 1}は二つずつ交わらず、各ν(Ak)\nu(A_k)は非負の有限値である。

各有限段階で

E=(⋃k=1mAk)⊔RmE=\left(\bigcup_{k=1}^{m}A_k\right)\mathbin{\sqcup}R_m

である。ν(E)<0\nu(E)<0かつ∑k=1mν(Ak)≥0\sum_{k=1}^{m}\nu(A_k)\geq 0であるから、有限加法性により

ν(Rm)=ν(E)−∑k=1mν(Ak)<0\nu(R_m) =\nu(E)-\sum_{k=1}^{m}\nu(A_k)<0

である。ここでは有限値だけを引いている。

A=⋃k=1∞AkA=\bigcup_{k=1}^{\infty}A_kおよびN=E∖AN=E\setminus Aとおく。AAとNNは可測であり、E=A⊔NE=A\mathbin{\sqcup}Nである。可算加法性から

ν(A)=∑k=1∞ν(Ak)\nu(A)=\sum_{k=1}^{\infty}\nu(A_k)

である。この非負項級数が∞\inftyならば、ν(N)>−∞\nu(N)>-\inftyと有限加法性からν(E)=∞\nu(E)=\inftyが従い、ν(E)<0\nu(E)<0に反する。したがって、

∑k=1∞ν(Ak)<∞.(1)\sum_{k=1}^{\infty}\nu(A_k)<\infty. \tag{1}

NNが負集合でないと仮定する。すると、可測集合B⊆NB\subseteq Nと実数b>0b>0が存在してν(B)=b\nu(B)=bとなる。実際、負集合でないことから正の値をもつ可測部分集合が存在し、その部分集合はEEに含まれるため、証明の冒頭で示した有限性によって値は実数である。すべてのkkについてB⊆Rk−1B\subseteq R_{k-1}であるため、β(Rk−1)≥b\beta(R_{k-1})\geq bである。β(Rk−1)\beta(R_{k-1})が有限ならばν(Ak)>b/2\nu(A_k)>b/2であり、無限ならばν(Ak)>1\nu(A_k)>1である。したがって、すべてのkkについて

ν(Ak)>min⁡{b/2,1}>0\nu(A_k)>\min\{b/2,1\}>0

となる。これは (1) に反する。ゆえにNNは負集合である。

最後に、ν(A)<∞\nu(A)<\inftyとE=A⊔NE=A\mathbin{\sqcup}Nから

ν(N)=ν(E)−ν(A)≤ν(E)<0\nu(N)=\nu(E)-\nu(A)\leq\nu(E)<0

を得る。この差は二つの有限値の差である。▨

定理 3.2 (Hahn 分解). 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν:F→[−∞,∞]\nu:\mathcal{F}\to[-\infty,\infty]を+∞+\inftyと−∞-\inftyを同時には取らない符号付き測度とする。このとき、互いに交わらないP,N∈FP,N\in\mathcal{F}が存在して、

X=P⊔NX=P\mathbin{\sqcup}N

となり、PPはν\nuの正集合、NNはν\nuの負集合となる。この組(P,N)(P,N)をν\nuの Hahn 分解という。

証明.ν\nuが−∞-\inftyを取らないと仮定し、

α=inf⁡{ ν(E)∣E∈F, E は ν の負集合 }\alpha=\inf\{\,\nu(E)\mid E\in\mathcal{F},\ E\text{ は $\nu$ の負集合}\,\}

とおく。空集合は負集合であるから、α∈[−∞,0]\alpha\in[-\infty,0]である。負集合VVとその可測部分集合UUに対して、V∖UV\setminus Uも負集合であり、有限加法性から

ν(V)=ν(U)+ν(V∖U)≤ν(U)\nu(V)=\nu(U)+\nu(V\setminus U)\leq\nu(U)

が成り立つ。ここに現れる測度の値はいずれも非正であり、−∞-\inftyを取らないため有限である。

α=−∞\alpha=-\inftyと仮定する。下限の定義により、各n≥1n\geq 1についてν(En)<−n\nu(E_n)<-nを満たす負集合EnE_nを選ぶことができる。この列の選択には、条件を満たす有限列を一項延長する関係に§E1.20 定義 4.2の従属選択公理を適用する。補題 2.2によりV=⋃n=1∞EnV=\bigcup_{n=1}^{\infty}E_nは負集合であり、上の不等式からν(V)≤ν(En)<−n\nu(V)\leq\nu(E_n)<-nがすべてのnnについて成り立つ。したがってν(V)=−∞\nu(V)=-\inftyとなり、ν\nuが−∞-\inftyを取らないという仮定に反する。ゆえにα\alphaは有限である。

各n≥1n\geq 1について

ν(En)<α+1n\nu(E_n)<\alpha+\frac1n

を満たす負集合EnE_nを選び、N=⋃n=1∞EnN=\bigcup_{n=1}^{\infty}E_nとおく。この列も、条件を満たす有限列を一項延長する関係へ従属選択公理を適用して得られる。補題 2.2によりNNは負集合である。下限の定義とEn⊆NE_n\subseteq Nから

α≤ν(N)≤ν(En)<α+1n(n≥1)\alpha\leq\nu(N)\leq\nu(E_n)<\alpha+\frac1n \qquad(n\geq 1)

であるため、ν(N)=α\nu(N)=\alphaを得る。

P=X∖NP=X\setminus Nが正集合でないと仮定する。ある可測集合B⊆PB\subseteq Pがν(B)<0\nu(B)<0を満たす。補題 3.1により、負集合C⊆BC\subseteq Bでν(C)≤ν(B)<0\nu(C)\leq\nu(B)<0を満たすものが存在する。集合NNとCCは交わらず、その和集合は負集合である。有限加法性により

ν(N⊔C)=ν(N)+ν(C)=α+ν(C)<α\nu(N\mathbin{\sqcup}C)=\nu(N)+\nu(C)=\alpha+\nu(C)<\alpha

となるが、これはα\alphaがすべての負集合の測度の下限であることに反する。したがってPPは正集合であり、(P,N)(P,N)は Hahn 分解である。

ν\nuが−∞-\inftyを取る場合は、値域条件により+∞+\inftyを取らない。集合関数−ν-\nuは−∞-\inftyを取らない符号付き測度である。実際、空集合の値は零であり、可算加法性の両辺と各項の符号を反転すると、級数の正の部分と負の部分が交換される。−ν-\nuに対して上で得た Hahn 分解を(P′,N′)(P',N')とすると、N′N'はν\nuの正集合、P′P'はν\nuの負集合である。よって(N′,P′)(N',P')はν\nuの Hahn 分解である。▨

Hahn 分解の集合は一意とは限らないが、二つの分解の相違は零集合に限られる。

定理 3.3.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。(P1,N1)(P_1,N_1)と(P2,N2)(P_2,N_2)がν\nuの二つの Hahn 分解ならば、

P1△P2およびN1△N2P_1\mathbin{\triangle}P_2 \quad\text{および}\quad N_1\mathbin{\triangle}N_2

はν\nuの零集合である。ここで、A△B=(A∖B)∪(B∖A)A\mathbin{\triangle}B=(A\setminus B)\cup(B\setminus A)は対称差である。

証明.P1∩N2P_1\cap N_2は正集合P1P_1の可測部分集合であると同時に、負集合N2N_2の可測部分集合でもある。補題 2.2により、P1∩N2P_1\cap N_2は零集合である。集合N1∩P2N_1\cap P_2は負集合N1N_1の可測部分集合であると同時に、正集合P2P_2の可測部分集合でもあるから、同じ補題により零集合である。

X=P2⊔N2X=P_2\mathbin{\sqcup}N_2およびX=P1⊔N1X=P_1\mathbin{\sqcup}N_1から

P1∖P2=P1∩N2,P2∖P1=P2∩N1P_1\setminus P_2=P_1\cap N_2, \qquad P_2\setminus P_1=P_2\cap N_1

である。したがって、

P1△P2=(P1∩N2)∪(P2∩N1)P_1\mathbin{\triangle}P_2 =(P_1\cap N_2)\cup(P_2\cap N_1)

は零集合の有限和であり、零集合である。N1△N2N_1\mathbin{\triangle}N_2についても同じ二つの交差集合の和になるため、零集合である。▨

4 Jordan 分解

Hahn 分解(P,N)(P,N)を固定すると、任意の可測集合AAは正集合側A∩PA\cap Pと負集合側A∩NA\cap Nに分かれる。この二つの値から、正測度ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}を構成する。

定義 4.1.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、α,β\alpha,\betaをその上の正測度とする。

  1. α\alphaが可測集合S∈FS\in\mathcal{F}に集中する (concentrated) とは、α(X∖S)=0\alpha(X\setminus S)=0が成り立つことをいう。
  2. α\alphaとβ\betaが相互特異 (mutually singular) であるとは、可測集合S∈FS\in\mathcal{F}が存在して、 α(X∖S)=0,β(S)=0\alpha(X\setminus S)=0, \qquad \beta(S)=0 が成り立つことをいう。この関係をα⊥β\alpha\perp\betaと書く。

相互特異性の定義は対称である。実際、SSが定義の等式を満たすならば、X∖SX\setminus Sはβ\betaが集中し、α\alphaが零となる集合である。

定理 4.2 (Jordan 分解). 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。このとき、正測度ν+,ν−:F→[0,∞]\nu^{+},\nu^{-}:\mathcal{F}\to[0,\infty]の組で、次の性質を満たすものが一意に存在する。

  1. ν+⊥ν−\nu^{+}\perp\nu^{-}である。
  2. ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}の少なくとも一方は有限測度であり、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して ν(A)=ν+(A)−ν−(A)\nu(A)=\nu^{+}(A)-\nu^{-}(A) が成り立つ。右辺に∞−∞\infty-\inftyは生じない。

具体的には、(P,N)(P,N)をν\nuの任意の Hahn 分解とすると、

ν+(A)=ν(A∩P),ν−(A)=−ν(A∩N)(A∈F)(2)\nu^{+}(A)=\nu(A\cap P), \qquad \nu^{-}(A)=-\nu(A\cap N) \qquad(A\in\mathcal{F}) \tag{2}

である。この定義は Hahn 分解の選び方に依存しない。また、

ν+(A)=sup⁡{ ν(B)∣B∈F, B⊆A },(3)\nu^{+}(A) =\sup\{\,\nu(B)\mid B\in\mathcal{F},\ B\subseteq A\,\}, \tag{3}ν−(A)=sup⁡{ −ν(B)∣B∈F, B⊆A }(4)\nu^{-}(A) =\sup\{\,{-\nu(B)}\mid B\in\mathcal{F},\ B\subseteq A\,\} \tag{4}

が成り立つ。

さらに、α,β\alpha,\betaが正測度であり、任意のA∈FA\in\mathcal{F}についてα(A)\alpha(A)とβ(A)\beta(A)が同時に∞\inftyにならず、

ν(A)=α(A)−β(A)(5)\nu(A)=\alpha(A)-\beta(A) \tag{5}

を満たすならば、

ν+(A)≤α(A),ν−(A)≤β(A)(A∈F)(6)\nu^{+}(A)\leq\alpha(A), \qquad \nu^{-}(A)\leq\beta(A) \qquad(A\in\mathcal{F}) \tag{6}

である。特に、(5) に加えてα⊥β\alpha\perp\betaが成り立つならば、

α=ν+,β=ν−\alpha=\nu^{+}, \qquad \beta=\nu^{-}

である。

証明.定理 3.2により、ν\nuの Hahn 分解(P,N)(P,N)が存在する。(2) によってν+\nu^{+}とν−\nu^{-}を定める。A∩PA\cap Pは正集合PPの可測部分集合であり、A∩NA\cap Nは負集合NNの可測部分集合であるから、

ν+(A)≥0,ν−(A)≥0\nu^{+}(A)\geq 0, \qquad \nu^{-}(A)\geq 0

である。また、ν+(∅)=ν−(∅)=0\nu^{+}(\emptyset)=\nu^{-}(\emptyset)=0である。

A1,A2,⋯∈FA_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}が二つずつ交わらないとする。このときA1∩P,A2∩P,…A_1\cap P,A_2\cap P,\dotsも二つずつ交わらず、

(⋃n=1∞An)∩P=⋃n=1∞(An∩P)\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right)\cap P =\bigcup_{n=1}^{\infty}(A_n\cap P)

である。ν\nuの可算加法性から

ν+(⋃n=1∞An)=∑n=1∞ν(An∩P)=∑n=1∞ν+(An)\nu^{+}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum_{n=1}^{\infty}\nu(A_n\cap P) =\sum_{n=1}^{\infty}\nu^{+}(A_n)

を得る。各項は非負である。負集合側では、

ν−(⋃n=1∞An)=−∑n=1∞ν(An∩N)=∑n=1∞ν−(An)\nu^{-}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =-\sum_{n=1}^{\infty}\nu(A_n\cap N) =\sum_{n=1}^{\infty}\nu^{-}(A_n)

である。NN上の各項は非正であるため、符号を反転した級数は非負項級数である。したがって、ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}は正測度である。

ν+(N)=ν(N∩P)=ν(∅)=0\nu^{+}(N)=\nu(N\cap P)=\nu(\emptyset)=0であり、ν−(P)=−ν(P∩N)=0\nu^{-}(P)=-\nu(P\cap N)=0である。ゆえに、ν+\nu^{+}はPPに集中し、ν−\nu^{-}はNNに集中する。定義 4.1によりν+⊥ν−\nu^{+}\perp\nu^{-}である。

任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して

A=(A∩P)⊔(A∩N)A=(A\cap P)\mathbin{\sqcup}(A\cap N)

である。符号付き測度の有限加法性から

ν(A)=ν(A∩P)+ν(A∩N)=ν+(A)−ν−(A)\nu(A) =\nu(A\cap P)+\nu(A\cap N) =\nu^{+}(A)-\nu^{-}(A)

を得る。ν(A∩P)=∞\nu(A\cap P)=\inftyかつν(A∩N)=−∞\nu(A\cap N)=-\inftyならば、ν\nuが+∞+\inftyと−∞-\inftyを同時に取ることになるため、この場合は生じない。

ν\nuが−∞-\inftyを取らないならば、ν(N)>−∞\nu(N)>-\inftyであり、

ν−(X)=−ν(N)<∞\nu^{-}(X)=-\nu(N)<\infty

である。ν\nuが−∞-\inftyを取るならば、ν\nuは+∞+\inftyを取らないためν(P)<∞\nu(P)<\inftyであり、ν+(X)<∞\nu^{+}(X)<\inftyである。したがって、どの場合にもν+\nu^{+}とν−\nu^{-}の少なくとも一方は有限測度である。差表示はすべての可測集合で定義される。

B∈FB\in\mathcal{F}かつB⊆AB\subseteq Aとする。B∩NB\cap Nは負集合の可測部分集合であり、正測度ν+\nu^{+}は単調であるから、

ν(B)=ν(B∩P)+ν(B∩N)≤ν+(B)≤ν+(A)\nu(B) =\nu(B\cap P)+\nu(B\cap N) \leq\nu^{+}(B) \leq\nu^{+}(A)

である。左辺の和は符号付き測度の有限加法性によって定義される。一方、B=A∩PB=A\cap Pとおけばν(B)=ν+(A)\nu(B)=\nu^{+}(A)である。したがって、(3) が成り立つ。

−ν-\nuの Hahn 分解は(N,P)(N,P)である。同じ議論を−ν-\nuに適用すると、

ν−(A)=−ν(A∩N)=sup⁡{ −ν(B)∣B∈F, B⊆A }\nu^{-}(A)=-\nu(A\cap N) =\sup\{\,{-\nu(B)}\mid B\in\mathcal{F},\ B\subseteq A\,\}

を得るので、(4) が成り立つ。(3) と (4) の右辺はν\nuとAAだけで定まるため、ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}は Hahn 分解の選び方に依存しない。

(5) を満たす正測度α,β\alpha,\betaをとる。任意の可測集合B⊆AB\subseteq Aに対して、差が定義されるという仮定と正測度の単調性から

ν(B)=α(B)−β(B)≤α(B)≤α(A)\nu(B)=\alpha(B)-\beta(B)\leq\alpha(B)\leq\alpha(A)

である。(3) によりν+(A)≤α(A)\nu^{+}(A)\leq\alpha(A)を得る。また、

−ν(B)=β(B)−α(B)≤β(B)≤β(A)-\nu(B)=\beta(B)-\alpha(B)\leq\beta(B)\leq\beta(A)

と (4) からν−(A)≤β(A)\nu^{-}(A)\leq\beta(A)を得る。

(5) とα⊥β\alpha\perp\betaを仮定する。相互特異性の定義から、あるS∈FS\in\mathcal{F}が存在して

α(X∖S)=0,β(S)=0\alpha(X\setminus S)=0, \qquad \beta(S)=0

が成り立つ。任意の可測集合B⊆SB\subseteq Sに対してβ(B)=0\beta(B)=0であるからν(B)=α(B)≥0\nu(B)=\alpha(B)\geq 0であり、SSはν\nuの正集合である。任意の可測集合B⊆X∖SB\subseteq X\setminus Sに対してα(B)=0\alpha(B)=0であるからν(B)=−β(B)≤0\nu(B)=-\beta(B)\leq 0であり、X∖SX\setminus Sはν\nuの負集合である。したがって、(S,X∖S)(S,X\setminus S)は Hahn 分解である。

この Hahn 分解を (2) に用いると、正測度の単調性と集中性から

ν+(A)=ν(A∩S)=α(A∩S)=α(A),\nu^{+}(A) =\nu(A\cap S) =\alpha(A\cap S) =\alpha(A),ν−(A)=−ν(A∩(X∖S))=β(A∩(X∖S))=β(A)\nu^{-}(A) =-\nu(A\cap(X\setminus S)) =\beta(A\cap(X\setminus S)) =\beta(A)

を得る。よってα=ν+\alpha=\nu^{+}かつβ=ν−\beta=\nu^{-}である。▨

注意 4.3 (相互特異な差表示の定義可能性). 相互特異な二つの正測度α,β\alpha,\betaだけを与えても、α(X)=β(X)=∞\alpha(X)=\beta(X)=\inftyならばα(X)−β(X)\alpha(X)-\beta(X)は定義されない。したがって、正測度の差を符号付き測度として用いるときは、少なくとも一方が有限測度であること、または各可測集合で両者が同時に無限大にならないことを確認する必要がある。Jordan 分解では、定理 4.2の証明によって少なくとも一方が有限測度になるため、この条件が自動的に満たされる。

例 1.4の Jordan 分解は、無限値を許す規約を具体的に示す。

例 4.4 (無限値をとる Jordan 分解).例 1.4の符号付き測度について、

P={2,3,4,… },N={1}P=\{2,3,4,\dots\}, \qquad N=\{1\}

は Hahn 分解である。したがって、

ν+(A)=∣A∩{2,3,4,… }∣,ν−(A)=1{1∈A}\nu^{+}(A)=\lvert A\cap\{2,3,4,\dots\}\rvert, \qquad \nu^{-}(A)=\mathbf{1}_{\{1\in A\}}

である。第一式では集合が無限ならば値を∞\inftyとする。ν+\nu^{+}は有限測度ではないが、ν−(X)=1\nu^{-}(X)=1であるため、ν+−ν−\nu^{+}-\nu^{-}はすべての可測集合で定義される。

5 全変動測度

Jordan の正成分と負成分を加えると、符号による相殺を取り除いた正測度が得られる。

定義 5.1. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。定理 4.2の Jordan 分解をν=ν+−ν−\nu=\nu^{+}-\nu^{-}とする。正測度

∣ν∣=ν++ν−\lvert\nu\rvert=\nu^{+}+\nu^{-}

をν\nuの全変動測度 (total variation measure) という。すなわち、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して

∣ν∣(A)=ν+(A)+ν−(A)\lvert\nu\rvert(A)=\nu^{+}(A)+\nu^{-}(A)

である。

二つの非負値の和には未定義な差が生じないため、全変動は∞\inftyを値に取ってよい。Jordan 分解の一意性により、全変動も一意に定まる。

定理 5.2. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度とする。このとき、∣ν∣\lvert\nu\rvertは正測度であり、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して

∣ν∣(A)=sup⁡{∑i=1m∣ν(Ai)∣ | m≥1, A1,…,Am∈F,A=A1⊔⋯⊔Am}(7)\lvert\nu\rvert(A) = \sup\left\{ \sum_{i=1}^{m}\lvert\nu(A_i)\rvert \ \middle|\ \begin{array}{l} m\geq 1,\ A_1,\dots,A_m\in\mathcal{F},\\ A=A_1\mathbin{\sqcup}\cdots\mathbin{\sqcup}A_m \end{array} \right\} \tag{7}

が成り立つ。各有限和は[0,∞][0,\infty]に値をとるものとする。

さらに、∣ν∣\lvert\nu\rvertは

∣ν(A)∣≤λ(A)(A∈F)(8)\lvert\nu(A)\rvert\leq\lambda(A) \qquad(A\in\mathcal{F}) \tag{8}

を満たす正測度λ\lambdaの中で最小である。すなわち、(8) を満たす任意の正測度λ\lambdaに対して

∣ν∣(A)≤λ(A)(A∈F)\lvert\nu\rvert(A)\leq\lambda(A) \qquad(A\in\mathcal{F})

が成り立つ。

証明.ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}は正測度である。互いに交わらない可測集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}に対して、非負項級数の結合法則から

∣ν∣(⋃n=1∞An)=ν+(⋃n=1∞An)+ν−(⋃n=1∞An)=∑n=1∞ν+(An)+∑n=1∞ν−(An)=∑n=1∞(ν+(An)+ν−(An))=∑n=1∞∣ν∣(An)\begin{aligned} \lvert\nu\rvert\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) &=\nu^{+}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) +\nu^{-}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\nu^{+}(A_n) +\sum_{n=1}^{\infty}\nu^{-}(A_n)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty} \bigl(\nu^{+}(A_n)+\nu^{-}(A_n)\bigr)\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\lvert\nu\rvert(A_n) \end{aligned}

を得る。また、∣ν∣(∅)=0\lvert\nu\rvert(\emptyset)=0である。したがって、∣ν∣\lvert\nu\rvertは正測度である。

任意のB∈FB\in\mathcal{F}に対して

ν(B)=ν+(B)−ν−(B)\nu(B)=\nu^{+}(B)-\nu^{-}(B)

であり、右辺では二項が同時に無限大にならない。非負拡張実数s,ts,tで差が定義される場合には∣s−t∣≤s+t\lvert s-t\rvert\leq s+tであるから、

∣ν(B)∣≤ν+(B)+ν−(B)=∣ν∣(B)(9)\lvert\nu(B)\rvert \leq\nu^{+}(B)+\nu^{-}(B) =\lvert\nu\rvert(B) \tag{9}

を得る。

A=A1⊔⋯⊔AmA=A_1\mathbin{\sqcup}\cdots\mathbin{\sqcup}A_mを有限可測分割とする。(9) と∣ν∣\lvert\nu\rvertの有限加法性から

∑i=1m∣ν(Ai)∣≤∑i=1m∣ν∣(Ai)=∣ν∣(A)\sum_{i=1}^{m}\lvert\nu(A_i)\rvert \leq\sum_{i=1}^{m}\lvert\nu\rvert(A_i) =\lvert\nu\rvert(A)

である。したがって、(7) の右辺は左辺以下である。

ν\nuの Hahn 分解(P,N)(P,N)を一つ固定する。

A=(A∩P)⊔(A∩N)A=(A\cap P)\mathbin{\sqcup}(A\cap N)

は二項からなる有限可測分割である。A∩PA\cap P上ではν\nuは非負であり、A∩NA\cap N上では非正であるから、

∣ν(A∩P)∣+∣ν(A∩N)∣=ν(A∩P)−ν(A∩N)=ν+(A)+ν−(A)=∣ν∣(A).\begin{aligned} \lvert\nu(A\cap P)\rvert+\lvert\nu(A\cap N)\rvert &=\nu(A\cap P)-\nu(A\cap N)\\ &=\nu^{+}(A)+\nu^{-}(A)\\ &=\lvert\nu\rvert(A). \end{aligned}

二つの絶対値は非負拡張実数であり、ν\nuが正負の無限大を同時に取らないため、右辺を得る計算に未定義な差はない。この分割が上限の候補に含まれるので、(7) の右辺は左辺以上である。よって (7) が成り立つ。

λ\lambdaを (8) を満たす正測度とする。任意の有限可測分割について

∑i=1m∣ν(Ai)∣≤∑i=1mλ(Ai)=λ(A)\sum_{i=1}^{m}\lvert\nu(A_i)\rvert \leq\sum_{i=1}^{m}\lambda(A_i) =\lambda(A)

である。(7) の上限をとると∣ν∣(A)≤λ(A)\lvert\nu\rvert(A)\leq\lambda(A)を得る。したがって、∣ν∣\lvert\nu\rvertは (8) を満たす最小の正測度である。▨

有限符号付き測度という語は、値域に無限大を含まない場合に用いる。Jordan 分解により、複数の有限性条件が同値になる。

定義 5.3.(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度ν\nuが有限符号付き測度 (finite signed measure) であるとは、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対してν(A)∈R\nu(A)\in\Rが成り立つことをいう。

命題 5.4. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度ν\nuについて、次の四条件は同値である。

  1. ν\nuは有限符号付き測度である。
  2. ν(X)∈R\nu(X)\in\Rである。
  3. Jordan の両成分ν+\nu^{+}とν−\nu^{-}が有限測度である。
  4. ∣ν∣(X)<∞\lvert\nu\rvert(X)<\inftyである。

特に、有限符号付き測度の全変動測度は有限測度である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。第一の条件から第二の条件は直ちに従う。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。第二の条件を仮定する。Jordan 分解から

ν(X)=ν+(X)−ν−(X)\nu(X)=\nu^{+}(X)-\nu^{-}(X)

であり、ν+(X)\nu^{+}(X)とν−(X)\nu^{-}(X)の少なくとも一方は有限である。差が実数であるため、他方も有限でなければならない。したがって、第三の条件が成り立つ。

(3)⇒\Rightarrow(4)を示す。第三の条件を仮定すると、

∣ν∣(X)=ν+(X)+ν−(X)<∞\lvert\nu\rvert(X)=\nu^{+}(X)+\nu^{-}(X)<\infty

であるため、第四の条件が成り立つ。

(4)⇒\Rightarrow(1)を示す。第四の条件を仮定する。任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して、定理 5.2の (9) と正測度の単調性から

∣ν(A)∣≤∣ν∣(A)≤∣ν∣(X)<∞\lvert\nu(A)\rvert\leq\lvert\nu\rvert(A) \leq\lvert\nu\rvert(X)<\infty

である。したがってν(A)∈R\nu(A)\in\Rであり、第一の条件が成り立つ。▨

例 4.4では

∣ν∣(A)=∣A∣\lvert\nu\rvert(A)=\lvert A\rvert

であり、全変動はXX上の数え上げ測度である。したがって、この符号付き測度は有限符号付き測度ではない。

例 5.5 (零集合上での Hahn 分解の自由).X=[−1,1]X=[-1,1]とし、F\mathcal{F}をXXの Lebesgue 可測部分集合全体とする。§E9.4 定理 4.2の一次元 Lebesgue 測度をλ\lambdaと書き、A∈FA\in\mathcal{F}に対して

α(A)=λ(A∩[0,1]),β(A)=λ(A∩[−1,0)),ν(A)=α(A)−β(A)\alpha(A)=\lambda(A\cap[0,1]),\qquad \beta(A)=\lambda(A\cap[-1,0)),\qquad \nu(A)=\alpha(A)-\beta(A)

と定める。固定した可測集合との共通部分をとる操作は、可算非交和を保つ。したがって、λ\lambdaの可算加法性からα\alphaとβ\betaは正測度であり、α(X)=β(X)=1\alpha(X)=\beta(X)=1である。また、α([−1,0))=β([0,1])=0\alpha([-1,0))=\beta([0,1])=0であるため、α⊥β\alpha\perp\betaである。

互いに交わらない可測集合列(An)n≥1(A_n)_{n\geq 1}に対して

∑n=1∞∣ν(An)∣≤∑n=1∞(α(An)+β(An))≤2\sum_{n=1}^{\infty}|\nu(A_n)| \leq\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(\alpha(A_n)+\beta(A_n)\bigr)\leq2

である。よって∑nν(An)\sum_n\nu(A_n)は絶対収束し、α\alphaとβ\betaの可算加法性から

ν(⋃n=1∞An)=∑n=1∞α(An)−∑n=1∞β(An)=∑n=1∞ν(An)\nu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum_{n=1}^{\infty}\alpha(A_n)-\sum_{n=1}^{\infty}\beta(A_n) =\sum_{n=1}^{\infty}\nu(A_n)

を得る。空集合の値は零であり、ν\nuは有限値をとるため、有限符号付き測度である。定理 4.2の一意性によりν+=α\nu^{+}=\alpha、ν−=β\nu^{-}=\betaであり、

∣ν∣(A)=α(A)+β(A)=λ(A)(A∈F)|\nu|(A)=\alpha(A)+\beta(A)=\lambda(A)\qquad(A\in\mathcal{F})

となる。すなわち、∣ν∣|\nu|はλ\lambdaのXXへの制限である。

Z⊆XZ\subseteq Xを Lebesgue 零集合、B⊆ZB\subseteq Zを任意の部分集合とする。 Lebesgue 測度の完備性によりBBとZ∖BZ\setminus Bは可測な零集合である。

PB=([0,1]∖Z)∪B,NB=([−1,0)∖Z)∪(Z∖B)P_B=([0,1]\setminus Z)\cup B,\qquad N_B=([-1,0)\setminus Z)\cup(Z\setminus B)

とおくと、両者は可測であり、X=PB⊔NBX=P_B\mathbin{\sqcup}N_Bである。可測集合A⊆PBA\subseteq P_Bに対してA∩[−1,0)⊆BA\cap[-1,0)\subseteq Bであるから、β(A)=0\beta(A)=0となり、ν(A)=α(A)≥0\nu(A)=\alpha(A)\geq0である。可測集合A⊆NBA\subseteq N_Bに対してA∩[0,1]⊆Z∖BA\cap[0,1]\subseteq Z\setminus Bであるから、α(A)=0\alpha(A)=0となり、ν(A)=−β(A)≤0\nu(A)=-\beta(A)\leq0である。したがって、(PB,NB)(P_B,N_B)は Hahn 分解である。

PB∩Z=BP_B\cap Z=Bであるため、BBの選び方が異なれば Hahn 分解も異なる。しかし、どの分解からも Jordan 成分としてα\alphaとβ\betaを得る。零集合の配分は Hahn 分解の集合を変えるが、 Jordan の両成分と全変動測度は変えない。

6 絶対連続性と特異性

絶対連続性は、一方の正測度で無視される集合を符号付き測度でも無視する条件である。特異性は、二つの測度が互いに交わらない可測部分へ集中する条件である。符号付き測度について「無視する」と述べるときは、値が零であるだけでなく、すべての可測部分集合で値が零であることを用いる。

定義 6.1.(X,F)(X,\mathcal{F})を可測空間とし、ν\nuをその上の符号付き測度、μ\muをその上の正測度とする。

  1. ν\nuがμ\muに関して絶対連続 (absolutely continuous) であるとは、任意のA∈FA\in\mathcal{F}に対して μ(A)=0⟹ν(A)=0\mu(A)=0\quad\Longrightarrow\quad\nu(A)=0 が成り立つことをいう。この関係をν≪μ\nu\ll\muと書く。
  2. ν\nuが可測集合S∈FS\in\mathcal{F}に集中する (concentrated) とは、X∖SX\setminus Sがν\nuの零集合であることをいう。
  3. ν\nuとμ\muが相互特異 (mutually singular) であるとは、あるS∈FS\in\mathcal{F}が存在して、ν\nuがSSに集中し、μ(S)=0\mu(S)=0が成り立つことをいう。この関係をν⊥μ\nu\perp\muと書く。

絶対連続性の定義でμ(A)=0\mu(A)=0ならば、任意の可測部分集合B⊆AB\subseteq Aについてμ(B)=0\mu(B)=0である。したがって、ν≪μ\nu\ll\muならばAAはν\nuの零集合である。

全変動が、符号付き測度の零集合を正確に検出する。

補題 6.2. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度ν\nuとA∈FA\in\mathcal{F}について、次の四条件は同値である。

  1. AAはν\nuの零集合である。
  2. ∣ν∣(A)=0\lvert\nu\rvert(A)=0である。
  3. ν+(A)=ν−(A)=0\nu^{+}(A)=\nu^{-}(A)=0である。
  4. 任意の可測集合B⊆AB\subseteq Aに対して∣ν(B)∣=0\lvert\nu(B)\rvert=0である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。AAがν\nuの零集合であるとする。Jordan 分解の内在的な公式 (3) と (4) により、

ν+(A)=sup⁡B⊆Aν(B)=0,ν−(A)=sup⁡B⊆A(−ν(B))=0,\nu^{+}(A) =\sup_{B\subseteq A}\nu(B)=0, \qquad \nu^{-}(A) =\sup_{B\subseteq A}(-\nu(B))=0,

となる。ここで上限は可測部分集合についてとり、空集合の値00も候補に含まれる。したがって∣ν∣(A)=0\lvert\nu\rvert(A)=0である。

(2)⇔\Leftrightarrow(3)を示す。∣ν∣(A)=ν+(A)+ν−(A)=0\lvert\nu\rvert(A)=\nu^{+}(A)+\nu^{-}(A)=0ならば、両項が非負であるためν+(A)=ν−(A)=0\nu^{+}(A)=\nu^{-}(A)=0である。逆に、両項が零ならば全変動も零である。

(2)⇒\Rightarrow(4)を示す。∣ν∣(A)=0\lvert\nu\rvert(A)=0とし、可測集合B⊆AB\subseteq Aをとる。定理 5.2の (9) と全変動の単調性から

0≤∣ν(B)∣≤∣ν∣(B)≤∣ν∣(A)=00\leq\lvert\nu(B)\rvert \leq\lvert\nu\rvert(B) \leq\lvert\nu\rvert(A)=0

である。ゆえにν(B)=0\nu(B)=0であり、第四の条件と第一の条件を同時に得る。(4)⇒\Rightarrow(1)を示す。第四の条件から第一の条件は定義そのものである。▨

絶対連続性は、全変動または Jordan の両成分のいずれで調べても同じである。

定理 6.3. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度ν\nuと正測度μ\muについて、次の三条件は同値である。

  1. ν≪μ\nu\ll\muである。
  2. ∣ν∣≪μ\lvert\nu\rvert\ll\muである。
  3. ν+≪μ\nu^{+}\ll\muかつν−≪μ\nu^{-}\ll\muである。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ν≪μ\nu\ll\muとし、A∈FA\in\mathcal{F}がμ(A)=0\mu(A)=0を満たすとする。任意の可測集合B⊆AB\subseteq Aに対して、正測度の単調性からμ(B)=0\mu(B)=0であり、絶対連続性からν(B)=0\nu(B)=0である。したがって、AAはν\nuの零集合である。補題 6.2により∣ν∣(A)=0\lvert\nu\rvert(A)=0であるから、∣ν∣≪μ\lvert\nu\rvert\ll\muが成り立つ。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。∣ν∣≪μ\lvert\nu\rvert\ll\muとする。μ(A)=0\mu(A)=0ならば

0≤ν+(A)≤∣ν∣(A)=0,0≤ν−(A)≤∣ν∣(A)=00\leq\nu^{+}(A)\leq\lvert\nu\rvert(A)=0, \qquad 0\leq\nu^{-}(A)\leq\lvert\nu\rvert(A)=0

である。したがって、ν+≪μ\nu^{+}\ll\muかつν−≪μ\nu^{-}\ll\muである。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。最後に、ν+≪μ\nu^{+}\ll\muかつν−≪μ\nu^{-}\ll\muとする。μ(A)=0\mu(A)=0ならばν+(A)=ν−(A)=0\nu^{+}(A)=\nu^{-}(A)=0であるため、

ν(A)=ν+(A)−ν−(A)=0\nu(A)=\nu^{+}(A)-\nu^{-}(A)=0

である。したがって、ν≪μ\nu\ll\muである。▨

特異性についても同じ三つの表現が同値になる。

定理 6.4. 従属選択公理を仮定する。(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度ν\nuと正測度μ\muについて、次の三条件は同値である。

  1. ν⊥μ\nu\perp\muである。
  2. ∣ν∣⊥μ\lvert\nu\rvert\perp\muである。
  3. ν+⊥μ\nu^{+}\perp\muかつν−⊥μ\nu^{-}\perp\muである。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ν⊥μ\nu\perp\muとする。あるS∈FS\in\mathcal{F}が存在して、μ(S)=0\mu(S)=0かつX∖SX\setminus Sがν\nuの零集合となる。補題 6.2により

∣ν∣(X∖S)=0\lvert\nu\rvert(X\setminus S)=0

である。したがって、∣ν∣\lvert\nu\rvertはSSに集中し、∣ν∣⊥μ\lvert\nu\rvert\perp\muである。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。∣ν∣⊥μ\lvert\nu\rvert\perp\muとする。あるS∈FS\in\mathcal{F}が存在して

∣ν∣(X∖S)=0,μ(S)=0\lvert\nu\rvert(X\setminus S)=0, \qquad \mu(S)=0

となる。ν+≤∣ν∣\nu^{+}\leq\lvert\nu\rvertかつν−≤∣ν∣\nu^{-}\leq\lvert\nu\rvertであるから、

ν+(X∖S)=ν−(X∖S)=0.\nu^{+}(X\setminus S)=\nu^{-}(X\setminus S)=0.

したがって、ν+⊥μ\nu^{+}\perp\muかつν−⊥μ\nu^{-}\perp\muである。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。最後に、ν+⊥μ\nu^{+}\perp\muかつν−⊥μ\nu^{-}\perp\muとする。あるS+,S−∈FS_{+},S_{-}\in\mathcal{F}が存在して

ν+(X∖S+)=0,μ(S+)=0,\nu^{+}(X\setminus S_{+})=0,\quad \mu(S_{+})=0,ν−(X∖S−)=0,μ(S−)=0\nu^{-}(X\setminus S_{-})=0,\quad \mu(S_{-})=0

となる。S=S+∪S−S=S_{+}\cup S_{-}とおく。正測度の有限劣加法性からμ(S)=0\mu(S)=0である。また、X∖S⊆X∖S+X\setminus S\subseteq X\setminus S_{+}かつX∖S⊆X∖S−X\setminus S\subseteq X\setminus S_{-}であるため、

ν+(X∖S)=ν−(X∖S)=0.\nu^{+}(X\setminus S)=\nu^{-}(X\setminus S)=0.

したがって∣ν∣(X∖S)=0\lvert\nu\rvert(X\setminus S)=0であり、補題 6.2によってX∖SX\setminus Sはν\nuの零集合である。ゆえにν⊥μ\nu\perp\muである。▨

符号付き測度どうしの関係が必要な場合は、全変動を用いると相殺を排除した定義になる。

定義 6.5. 従属選択公理を仮定し、ν,η\nu,\etaを(X,F)(X,\mathcal{F})上の符号付き測度とする。

ν≪η⟺∣ν∣≪∣η∣,\nu\ll\eta \quad\Longleftrightarrow\quad \lvert\nu\rvert\ll\lvert\eta\rvert,ν⊥η⟺∣ν∣⊥∣η∣\nu\perp\eta \quad\Longleftrightarrow\quad \lvert\nu\rvert\perp\lvert\eta\rvert

によって、二つの符号付き測度の絶対連続性 (absolute continuity) と相互特異性 (mutual singularity) を定義する。この定義では、η(A)=0\eta(A)=0という相殺だけをη\etaの零集合とはみなさない。

有限集合上の例では、支持集合を直接調べることができる。

例 6.6 (絶対連続性と特異性の有限例).X={1,2,3}X=\{1,2,3\}、F=P(X)\mathcal{F}=\mathcal{P}(X)とし、

ν=δ1−δ2,μ=δ1+δ2,λ=δ3\nu=\delta_1-\delta_2, \qquad \mu=\delta_1+\delta_2, \qquad \lambda=\delta_3

とする。Jordan 分解はν+=δ1\nu^{+}=\delta_1、ν−=δ2\nu^{-}=\delta_2であり、∣ν∣=δ1+δ2=μ\lvert\nu\rvert=\delta_1+\delta_2=\muである。したがって、定理 6.3によりν≪μ\nu\ll\muである。

∣ν∣\lvert\nu\rvertは{1,2}\{1,2\}に集中し、λ({1,2})=0\lambda(\{1,2\})=0であるため、定理 6.4によりν⊥λ\nu\perp\lambdaである。

絶対連続な正測度の密度の存在とほとんど至る所での一意性、および絶対連続部分と特異部分への Lebesgue 分解は、次の記事で扱う。

7 演習

次の各問では、定義を展開し、使用する可算加法性の和が定義される理由も述べる。

問題 7.1.

  1. 例 2.3の符号付き測度について、すべての Hahn 分解を求め、どの二つの Hahn 分解についても正集合側の対称差が零集合になることを直接確認せよ。
  2. 補題 3.1の証明で、ν\nuが−∞-\inftyを取らないという仮定を用いた箇所を二つ特定せよ。また、除いた集合の測度の総和が有限であるという結論が、残部の負集合性を示す箇所でどのように用いられるかを説明せよ。
  3. 定理 3.2の証明で、ν\nuが−∞-\inftyを取らないとする。全負集合の測度の下限をα\alphaとするとき、α\alphaが有限であること、近似列の和集合NNがν(N)=α\nu(N)=\alphaを満たすこと、およびP=X∖NP=X\setminus Nが正集合であることを確認せよ。負集合内の包含関係が測度の大小へ与える向きを明記せよ。
  4. ν=α−β\nu=\alpha-\betaが二つの正測度の差としてすべての可測集合で定義されるとする。定理 4.2の内在的な公式 (3) と (4) だけを用いてν+≤α\nu^{+}\leq\alphaおよびν−≤β\nu^{-}\leq\betaを証明せよ。さらに、α⊥β\alpha\perp\betaを追加すると等号が成り立つ理由を、相互特異性を与える集合から Hahn 分解を構成して説明せよ。
  5. X=N≥1X=\NNとし、 ν(A)=∑n∈A(−1)n2−n\nu(A)=\sum_{n\in A}(-1)^n2^{-n} と定める。この級数がどのA⊆XA\subseteq Xについても絶対収束することから、ν\nuが有限符号付き測度であることを証明せよ。Hahn 分解、Jordan の両成分、および∣ν∣(X)\lvert\nu\rvert(X)を求め、定理 5.2の二項分割で上限が達成されることを確認せよ。
  6. 符号付き測度ν\nuと正測度μ\muについて、ν≪μ\nu\ll\muを仮定する。μ(A)=0\mu(A)=0ならばAAのすべての可測部分集合でもν\nuが零になることを定義から示し、補題 6.2を用いて∣ν∣≪μ\lvert\nu\rvert\ll\muを導け。
解答.

(1)について、正集合PPは点22を含まない。実際、2∈P2\in Pならばν({2})=−1\nu(\{2\})=-1が正集合の定義に反する。同じく、負集合NNはν({1})=1\nu(\{1\})=1であるため点11を含まない。X=P⊔NX=P\mathbin{\sqcup}NからP={1}P=\{1\}、N={2}N=\{2\}に限られ、この組は実際に Hahn 分解である。したがって、二つの Hahn 分解の正集合側の対称差は空集合であり、零集合である。

(2)について、仮定を用いる二箇所は次のとおりである。第一に、ν(R)<0\nu(R)<0である残部RRの可測部分集合AAがν(A)>0\nu(A)>0を満たすとき、ν(A)=∞\nu(A)=\inftyであればν(R∖A)>−∞\nu(R\setminus A)>-\inftyによりν(R)=ν(A)+ν(R∖A)=∞\nu(R)=\nu(A)+\nu(R\setminus A)=\inftyとなる。この矛盾によってν(A)\nu(A)の有限性を得る。第二に、除いた集合の和A=⋃kAkA=\bigcup_kA_kに対してν(A)=∞\nu(A)=\inftyならば、ν(E∖A)>−∞\nu(E\setminus A)>-\inftyと有限加法性からν(E)=∞\nu(E)=\inftyとなる。したがって∑kν(Ak)=ν(A)<∞\sum_k\nu(A_k)=\nu(A)<\inftyである。残部N=E∖AN=E\setminus Aに測度b>0b>0の可測部分集合があれば、各段階でβ(Rk−1)≥b\beta(R_{k-1})\geq bとなり、選択条件からν(Ak)>min⁡{b/2,1}>0\nu(A_k)>\min\{b/2,1\}>0を得る。すると非負項級数∑kν(Ak)\sum_k\nu(A_k)が発散するため、先の有限性に反する。よってNNは負集合である。ここで用いた加法性の各和は、有限段階では有限値の和、可算段階では非負項級数であり、未定義な差は含まない。

(3)について、U⊆VU\subseteq Vが可測でVVが負集合ならばν(V)=ν(U)+ν(V∖U)≤ν(U)\nu(V)=\nu(U)+\nu(V\setminus U)\leq\nu(U)である。α=−∞\alpha=-\inftyならば、従属選択公理によりν(En)<−n\nu(E_n)<-nを満たす負集合列を選ぶ。V=⋃nEnV=\bigcup_nE_nは負集合であり、ν(V)≤ν(En)<−n\nu(V)\leq\nu(E_n)<-nがすべてのnnについて成り立つので、ν(V)=−∞\nu(V)=-\inftyとなる。これは値域の仮定に反するため、−∞<α≤0-\infty<\alpha\leq0である。次にν(En)<α+1/n\nu(E_n)<\alpha+1/nを満たす負集合列を従属選択公理によって選び、N=⋃nEnN=\bigcup_nE_nとおく。NNは負集合であり、α≤ν(N)≤ν(En)<α+1/n\alpha\leq\nu(N)\leq\nu(E_n)<\alpha+1/nからν(N)=α\nu(N)=\alphaである。P=X∖NP=X\setminus Nが正集合でなければ、ν(B)<0\nu(B)<0を満たす可測集合B⊆PB\subseteq Pがあり、補題 3.1により負集合C⊆BC\subseteq Bでν(C)<0\nu(C)<0を満たすものを得る。N⊔CN\mathbin{\sqcup}Cは負集合であり、その測度は有限加法性によりα+ν(C)<α\alpha+\nu(C)<\alphaとなる。下限の定義に反するのでPPは正集合である。ここで加えた値はすべて負集合の有限な測度である。可算和閉性の証明でも、非正の項だけを加えるため和は定義される。

(4)について、可測集合B⊆AB\subseteq Aに対して

ν(B)=α(B)−β(B)≤α(B)≤α(A),−ν(B)=β(B)−α(B)≤β(B)≤β(A)\nu(B)=\alpha(B)-\beta(B)\leq\alpha(B)\leq\alpha(A),\qquad -\nu(B)=\beta(B)-\alpha(B)\leq\beta(B)\leq\beta(A)

である。各差は仮定により定義される。可測部分集合B⊆AB\subseteq Aについて上限をとり、内在的な公式を用いるとν+(A)≤α(A)\nu^{+}(A)\leq\alpha(A)、ν−(A)≤β(A)\nu^{-}(A)\leq\beta(A)を得る。α⊥β\alpha\perp\betaならば、α(X∖S)=β(S)=0\alpha(X\setminus S)=\beta(S)=0を満たす可測集合SSをとる。可測集合B⊆SB\subseteq Sではβ(B)=0\beta(B)=0なのでν(B)=α(B)≥0\nu(B)=\alpha(B)\geq0、可測集合B⊆X∖SB\subseteq X\setminus Sではα(B)=0\alpha(B)=0なのでν(B)=−β(B)≤0\nu(B)=-\beta(B)\leq0である。よって(S,X∖S)(S,X\setminus S)は Hahn 分解である。この分解を用いると

ν+(A)=ν(A∩S)=α(A∩S)=α(A),\nu^{+}(A)=\nu(A\cap S)=\alpha(A\cap S)=\alpha(A),ν−(A)=−ν(A∩(X∖S))=β(A∩(X∖S))=β(A)\nu^{-}(A)=-\nu(A\cap(X\setminus S))=\beta(A\cap(X\setminus S))=\beta(A)

を得る。末尾の等号では、それぞれα(A∖S)=0\alpha(A\setminus S)=0、β(A∩S)=0\beta(A\cap S)=0と有限加法性を用いた。

(5)について、任意のA⊆N≥1A\subseteq\NNに対して∑n∈A∣(−1)n2−n∣≤∑n=1∞2−n=1\sum_{n\in A}|(-1)^n2^{-n}|\leq\sum_{n=1}^{\infty}2^{-n}=1であるため、ν(A)\nu(A)は有限に定まる。互いに交わらない集合列(Aj)j≥1(A_j)_{j\geq1}について、各整数nnは高々一つのAjA_jに属する。したがって∑j∑n∈Aj2−n≤1\sum_j\sum_{n\in A_j}2^{-n}\leq1であり、絶対収束級数を括り直すと

ν(⋃jAj)=∑n∈⋃jAj(−1)n2−n=∑j∑n∈Aj(−1)n2−n=∑jν(Aj)\nu\left(\bigcup_jA_j\right) =\sum_{n\in\bigcup_j A_j}(-1)^n2^{-n} =\sum_j\sum_{n\in A_j}(-1)^n2^{-n} =\sum_j\nu(A_j)

を得る。右辺も絶対収束し、ν(∅)=0\nu(\emptyset)=0であるから、ν\nuは有限符号付き測度である。偶数全体をPP、奇数全体をNNとすると、PPの各部分集合の値は非負、NNの各部分集合の値は非正である。よって(P,N)(P,N)は Hahn 分解であり、

ν+(A)=∑n∈A∩P2−n,ν−(A)=∑n∈A∩N2−n,∣ν∣(A)=∑n∈A2−n\nu^{+}(A)=\sum_{n\in A\cap P}2^{-n},\qquad \nu^{-}(A)=\sum_{n\in A\cap N}2^{-n},\qquad |\nu|(A)=\sum_{n\in A}2^{-n}

となる。特にν+(X)=1/3\nu^{+}(X)=1/3、ν−(X)=2/3\nu^{-}(X)=2/3、∣ν∣(X)=1|\nu|(X)=1である。任意のA⊆XA\subseteq Xについて、A=(A∩P)⊔(A∩N)A=(A\cap P)\mathbin{\sqcup}(A\cap N)は二項の可測な非交和であり、

∣ν(A∩P)∣+∣ν(A∩N)∣=ν+(A)+ν−(A)=∣ν∣(A)|\nu(A\cap P)|+|\nu(A\cap N)| =\nu^{+}(A)+\nu^{-}(A)=|\nu|(A)

を満たすため、有限可測分割に関する上限を達成する。

(6)について、μ(A)=0\mu(A)=0とし、可測集合B⊆AB\subseteq Aをとる。正測度の単調性から0≤μ(B)≤μ(A)=00\leq\mu(B)\leq\mu(A)=0であり、ν≪μ\nu\ll\muの定義からν(B)=0\nu(B)=0となる。したがってAAはν\nuの零集合であり、補題 6.2により∣ν∣(A)=0|\nu|(A)=0である。よって∣ν∣≪μ|\nu|\ll\muが成り立つ。この推論に可算和は現れない。▨

参考文献

  1. Donald L. Cohn, Measure Theory, 2nd ed., Birkhäuser Advanced Texts Basler Lehrbücher, Birkhäuser, 2013.
  2. Gerald B. Folland, Real Analysis, 2nd ed., Wiley, 1999.

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