1 非負可測関数から定まる測度
Radon–Nikodym の定理の結論に現れる集合関数が正測度であることを最初に証明する。可算加法性は、互いに交わらない集合の指示関数の有限和を増加させ、単調収束定理を適用することによって得られる。
定義 1.1.(X,F,μ)を測度空間とし、f:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。E∈Fに対して
∫Efdμ=∫Xf1Edμと定める。積f1Eでは、x∈/Eかつf(x)=∞の場合にも0⋅∞=0とする。
命題 1.2.(X,F,μ)を測度空間とし、f:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。各E∈Fに対して
λf(E)=∫Efdμと定める。このとき、λfは(X,F)上の正測度であり、
λf≪μが成り立つ。
証明. 指示関数1Eは可測であり、非負可測関数と指示関数の積も可測であるから、λf(E)はすべてのE∈Fについて定義される。空集合の指示関数は定数関数0なので、
λf(∅)=∫X0dμ=0である。
E1,E2,⋯∈Fが二つずつ交わらないとする。各正の整数mに対して
sm=f1⋃k=1mEk=k=1∑mf1Ekとおく。各smは非負可測関数であり、
sm↑f1⋃k=1∞Ekが点ごとに成り立つ。有限和に対する非負可測関数の積分の線形性と§E9.7 定理 1.1により、
λf(k=1⋃∞Ek)=∫Xf1⋃k=1∞Ekdμ=m→∞lim∫Xsmdμ=m→∞limk=1∑m∫Xf1Ekdμ=k=1∑∞λf(Ek).すべての項は非負であるため、この計算に未定義な無限量の差は現れない。したがって、λfは正測度である。
E∈Fがμ(E)=0を満たすとする。関数f1EはEの外で0である。§E9.6 補題 4.1により
λf(E)=∫Xf1Edμ=0である。ゆえにλf≪μが成り立つ。▨
この命題ではλf(X)=∞を許した。有限測度の場合の主定理ではλf(E)≤ν(E)を候補の条件とするため、候補から定まる測度は自動的に有限測度になる。
2 有限正測度に対する定理
有限測度の場合には、ν以下の測度を与える非負可測関数の族を考える。
定義 2.1.(X,F)を可測空間とし、μとνをその上の有限正測度とする。非負拡張実数値可測関数の族
C(μ,ν)=⎩⎨⎧h:X→[0,∞] h は可測であり、∫Ehdμ≤ν(E)(E∈F)⎭⎬⎫を、μとνに対する候補族 (Radon–Nikodym candidate family) という。
候補族は二つの関数の点ごとの最大をとる操作で閉じている。この閉性により、積分値が上限へ近づく任意の列を増加列へ置き換えることができる。
補題 2.2.(X,F)を可測空間とし、μとνをその上の有限正測度とする。h,k∈C(μ,ν)ならば、
h∨k=max{h,k}もC(μ,ν)に属する。
証明. 非負拡張実数値可測関数hとkに対して
{h<k}=q∈Q⋃({h<q}∩{q<k})である。右辺は可測集合の可算和なので、H={h≥k}は可測である。また、
{h∨k>a}={h>a}∪{k>a}であるから、h∨kは非負拡張実数値可測関数である。
E∈Fを任意にとる。集合EをE∩HとE∖Hに分け、非負可測関数の積分の線形性を用いると、
∫E(h∨k)dμ=∫E∩Hhdμ+∫E∖Hkdμ≤ν(E∩H)+ν(E∖H)=ν(E).したがって、h∨k∈C(μ,ν)である。▨
2.1 有限測度の場合の証明方針
候補族の積分値の上限をaとする。可算選択公理を用いて、積分値がaへ近づく候補関数の列を同時に選び、有限最大を順にとって増加列へ変える。単調収束定理による極限fは候補族に残り、∫Xfdμ=aを満たす。
残差を
λ(E)=ν(E)−∫Efdμ
と定める。候補条件とνの有限性により、λは有限正測度である。λ=0と仮定し、各正の整数nに対して有限符号付き測度
ηn=λ−n1μ
を考える。Hahn 分解の正集合Pnではλがμ/n以上であるため、f+1Pn/nも候補になる。fの最大性からμ(Pn)=0が従い、絶対連続性からλ(Pn)=0も従う。一方、負集合Nnではλ(Nn)≤μ(Nn)/nである。有限性によりλ(X)=0が従い、残差が消える。
定理 2.3 (有限正測度に対する Radon–Nikodym の定理). 従属選択公理を仮定する。(X,F)を可測空間とし、μとνをその上の有限正測度とする。さらに、ν≪μを仮定する。このとき、非負拡張実数値可測関数f:X→[0,∞]が存在して、任意のE∈Fに対して
ν(E)=∫Efdμが成り立つ。
証明. 定数関数0はC(μ,ν)に属する。候補条件をE=Xへ適用すると、すべてのh∈C(μ,ν)に対して
0≤∫Xhdμ≤ν(X)<∞である。したがって、
a=sup{∫Xhdμ∣h∈C(μ,ν)}は有限の非負実数である。
各正の整数nに対して、
hn∈C(μ,ν),∫Xhndμ>a−n1(1)を満たす候補hnが存在する。従属選択公理から可算選択公理が従うことは§E1.20 定理 4.6で証明されている。可算選択公理を、各nに対する候補の非空集合へ適用し、列(hn)n≥1を同時に選ぶ。
各正の整数nに対して
gn=h1∨⋯∨hnとおく。補題 2.2を有限回適用するとgn∈C(μ,ν)である。また、
gn≤gn+1,gn≥hnが点ごとに成り立つ。関数
f=n≥1supgnは、可測関数の増加列の点ごとの極限なので非負拡張実数値可測関数である。
E∈Fを任意にとる。関数列(gn1E)n≥1へ単調収束定理を適用すると、
∫Efdμ=n→∞lim∫Egndμ≤ν(E)である。したがって、f∈C(μ,ν)である。E=Xの場合と (1) から、
a≥∫Xfdμ=n→∞lim∫Xgndμ≥n→∞lim∫Xhndμ=aを得る。よって、
∫Xfdμ=a.(2)命題 1.2によって定まる有限正測度をλfと書く。候補条件から0≤λf(E)≤ν(E)<∞がすべてのE∈Fについて成り立つ。そこで
λ(E)=ν(E)−λf(E)(E∈F)(3)と定める。各値は有限の非負実数である。
λが正測度であることを確認する。E1,E2,…が二つずつ交わらないとし、Am=⋃k=1mEkとA=⋃k=1∞Ekとおく。νとλfの可算加法性、および両測度の有限性から
ν(Am)⟶ν(A),λf(Am)⟶λf(A)が有限実数の極限として成り立つ。したがって、
λ(A)=ν(A)−λf(A)=m→∞lim(ν(Am)−λf(Am))=m→∞limk=1∑m(ν(Ek)−λf(Ek))=k=1∑∞λ(Ek).また、λ(∅)=0である。ゆえに、λは有限正測度である。
μ(E)=0ならば、ν≪μからν(E)=0であり、命題 1.2からλf(E)=0である。(3) によりλ(E)=0なので、
λ≪μ(4)が成り立つ。
各正の整数nに対して
ηn(E)=λ(E)−n1μ(E)(E∈F)と定める。λとμ/nは有限正測度である。互いに交わらない可測集合列(Ek)に対して
k=1∑∞λ(Ek)−n1μ(Ek)≤λ(X)+n1μ(X)<∞であり、両測度の可算加法性からηnの可算加法性が従う。したがって、ηnは有限符号付き測度である。
§E9.14 定理 3.2を各ηnへ適用すると、Hahn 分解の集合は各nについて空でない。従属選択公理から従う可算選択公理を用いて、Hahn 分解
X=Pn⊔Nn(n≥1)(5)をすべてのnについて同時に選ぶ。Pnはηnの正集合であり、Nnはηnの負集合である。
固定したnに対して
un=f+n11Pnとおく。E∈Fを任意にとる。E∩Pnはηnの正集合Pnの可測部分集合であるため、
0≤ηn(E∩Pn)=λ(E∩Pn)−n1μ(E∩Pn).正測度λの単調性を用いると、
n1μ(E∩Pn)≤λ(E∩Pn)≤λ(E).(6)非負可測関数の積分の線形性、(3)、および (6) から
∫Eundμ=λf(E)+n1μ(E∩Pn)≤λf(E)+λ(E)=ν(E).したがって、un∈C(μ,ν)である。(2) と候補族の積分値の上限の定義から
a≥∫Xundμ=a+n1μ(Pn).aは有限であるため、
μ(Pn)=0(7)が成り立つ。(4) と (7) により
λ(Pn)=0.(8)Nnはηnの負集合であるから、
ηn(Nn)=λ(Nn)−n1μ(Nn)≤0.(9)(5)、(8)、(9)、および有限加法性により、
0≤λ(X)=λ(Pn)+λ(Nn)≤n1μ(Nn)≤n1μ(X)(10)がすべての正の整数nについて成り立つ。μ(X)<∞なので、(10) からλ(X)=0を得る。正測度の単調性により、すべてのE∈Fについて
0≤λ(E)≤λ(X)=0である。したがってλは零測度であり、(3) から
ν(E)=λf(E)=∫EfdμがすべてのE∈Fについて成り立つ。▨
3 シグマ有限な正測度への拡張
二つのシグマ有限測度を同時に有限にする可測分割を構成し、各部分へ有限測度の場合の定理を適用する。貼り合わせの積分を追跡するため、制限測度上の積分と零延長の関係を先に証明する。
補題 3.1.(X,F,μ)を測度空間とし、D∈Fとする。
F∣D={E∩D∣E∈F}をD上のトレースシグマ加法族とし、
μD(B)=μ(B)(B∈F∣D)と定める。関数h:D→[0,∞]がF∣Dに関して可測であるとし、零延長
h(x)={h(x),0,x∈D,x∈X∖Dを定める。このとき、μDは(D,F∣D)上の正測度であり、hはFに関して可測である。さらに、
∫DhdμD=∫Xhdμが[0,∞]において成り立つ。
証明.∅∈F∣Dであり、μD(∅)=0である。トレースシグマ加法族に含まれる二つずつ交わらない集合列はFにも含まれるため、μの可算加法性をそのまま適用するとμDの可算加法性が得られる。したがって、μDは正測度である。
a≥0に対して
{h>a}={x∈D∣h(x)>a}であり、右辺はトレースシグマ加法族の元なのでFに属する。a<0に対して{h>a}=Xである。半直線による可測性の判定から、hは可測である。
0≤φ≤hを満たすD上の非負単関数φを零延長すると、0≤φ≤hを満たすX上の非負単関数が得られる。逆に、0≤ψ≤hを満たすX上の非負単関数ψはX∖D上で0であり、Dへの制限ψ∣Dは0≤ψ∣D≤hを満たす非負単関数である。この二つの操作は互いに逆である。
D上の非負単関数
φ=i=1∑mci1Biを相異なる値による表示で書くと、その零延長ではX∖Dに値0の部分を加えるだけである。非負単関数の積分の定義と0⋅∞=0という規約から
∫DφdμD=i=1∑mciμD(Bi)=i=1∑mciμ(Bi)=∫Xφdμが成り立つ。非負可測関数の積分は、その関数を下から抑えるすべての非負単関数の積分値の上限である。前段の対応によって両側で上限をとる候補と値が一致するため、
∫DhdμD=∫Xhdμを得る。▨
次の補題は、二つのシグマ有限測度に対して同じ有限測度部分を用いることができることを示す。
補題 3.2.(X,F)を可測空間とし、μとνをその上のシグマ有限な正測度とする。このとき、二つずつ交わらない可測集合の列(Dk)k≥1が存在して、
X=k=1⋃∞Dk,μ(Dk)<∞,ν(Dk)<∞がすべての正の整数kについて成り立つ。
証明. シグマ有限性の定義により、可測集合の列(An)n≥1と(Bm)m≥1で
X=n=1⋃∞An=m=1⋃∞Bm,μ(An)<∞,ν(Bm)<∞を満たすものが存在する。二つの列を一つずつ固定する。
正の整数の組(n,m)を対角線順に明示的に並べ、対応する集合An∩BmをC1,C2,…と書く。この番号づけには選択原理を用いない。
D1=C1,Dk=Ck∖j=1⋃k−1Cj(k≥2)と定める。各Dkは可測であり、集合列(Dk)は二つずつ交わらない。Ck=An∩Bmである場合には
μ(Dk)≤μ(An)<∞,ν(Dk)≤ν(Bm)<∞である。集合族(An∩Bm)n,m≥1はXを覆うため、(Dk)もXを覆う。▨
3.1 シグマ有限な場合の証明方針
補題 3.2の分割(Dk)を固定する。各トレース可測空間Dk上でμとνを制限すると有限正測度が得られる。有限測度の場合の定理が与える局所的な関数を、従属選択公理から従う可算選択公理によって同時に選ぶ。各関数をXへ零延長して足し合わせ、単調収束定理を適用すると、各E∈Fについてν(E)が得られる。
定理 3.3 (シグマ有限な正測度に対する Radon–Nikodym の定理). 従属選択公理を仮定する。(X,F)を可測空間とし、μとνをその上のシグマ有限な正測度とする。さらに、ν≪μを仮定する。このとき、非負拡張実数値可測関数f:X→[0,∞]が存在して、任意のE∈Fに対して
ν(E)=∫Efdμが成り立つ。
証明.補題 3.2によって得られる分割(Dk)k≥1を固定する。Dk上のトレースシグマ加法族をF∣Dkと書き、正測度
μk(B)=μ(B),νk(B)=ν(B)(B∈F∣Dk)を定める。分割の性質からμkとνkは有限正測度である。B∈F∣Dkがμk(B)=0を満たすならば、μ(B)=0である。ν≪μによりν(B)=0なので、νk≪μkが成り立つ。
定理 2.3を(Dk,F∣Dk,μk,νk)へ適用すると、各kに対して非負拡張実数値可測関数fk:Dk→[0,∞]が存在し、
νk(B)=∫Bfkdμk(B∈F∣Dk)(11)が成り立つ。各kに対する関数の候補集合は空でない。§E1.20 定理 4.6により従属選択公理から可算選択公理が従うため、関数列(fk)k≥1を同時に選ぶ。
fkをfkのXへの零延長とする。補題 3.1により、各fkは非負拡張実数値可測関数である。
sm=k=1∑mfkとおく。各smは非負拡張実数値可測関数であり、sm≤sm+1が点ごとに成り立つ。したがって、
f=m≥1supsm=k=1∑∞fkは非負拡張実数値可測関数である。
E∈Fを任意にとる。各kについてE∩Dk∈F∣Dkである。Dk上の可測関数fk1E∩Dkへ補題 3.1を適用し、(11) と合わせると、
∫Efkdμ=∫E∩Dkfkdμk=ν(E∩Dk)(12)を得る。非負可測関数の有限和に対する線形性、単調収束定理、(12)、およびνの可算加法性により、
∫Efdμ=m→∞lim∫Esmdμ=m→∞limk=1∑m∫Efkdμ=k=1∑∞ν(E∩Dk)=ν(E).すべての項は非負であるため、ν(E)=∞の場合にも等式は[0,∞]で定義される。▨
4 密度の一意性
存在定理だけでは、同じ測度を表す二つの関数の関係は定まらない。表される測度νのシグマ有限性を用いると、両関数が有限値をとる領域へ局所化し、積分の等式から点ごとの大小を判定することができる。
定理 4.1.(X,F,μ)を測度空間とし、νを(X,F)上のシグマ有限な正測度とする。f,g:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とし、任意のE∈Fに対して
ν(E)=∫Efdμ=∫Egdμ(13)が成り立つと仮定する。このとき、
f=gがμに関してほとんど至る所で成り立つ。さらに、fとgが無限大をとる点の集合はそれぞれμ-零集合である。
証明. シグマ有限性により、可測集合の列(Bk)k≥1で
X=k=1⋃∞Bk,ν(Bk)<∞(14)を満たすものを固定する。
Zf,k=Bk∩{f=∞}とおく。各正の整数mについて
m1Zf,k≤f1Bkが点ごとに成り立つ。積分の単調性、非負単関数の積分の定義、および (13) から
mμ(Zf,k)≤∫Bkfdμ=ν(Bk)<∞(15)である。(15) がすべての正の整数mについて成り立つため、μ(Zf,k)=0である。実際、測度が正の有限値ならば左辺はmとともに任意に大きくなり、測度が無限大ならば左辺は最初から無限大になる。gについても同じ議論を適用すると、
μ(Zg,k)=0を得る。したがって、
Z=k=1⋃∞(Zf,k∪Zg,k)(16)はμ-零集合であり、X∖Z上でfとgはともに有限値をとる。
正の整数k,mに対して
Ak,m=Bk∩(X∖Z)∩{f≥g+m1}とおく。有限値可測関数の差に関する可測性からAk,m∈Fである。Ak,m⊆Bkと (13)、(14) から
∫Ak,mfdμ=∫Ak,mgdμ=ν(Ak,m)<∞.(17)Ak,m上の点ごとの不等式と非負可測関数の積分の単調性および線形性から
∫Ak,mfdμ≥∫Ak,mgdμ+m1μ(Ak,m).(18)(17) の共通の有限値を (18) の両辺へ代入すると、
μ(Ak,m)=0(19)を得る。
x∈X∖Zがf(x)>g(x)を満たすとする。(14) からx∈Bkを満たす正の整数kが存在する。f(x)−g(x)>0であるから、1/m≤f(x)−g(x)を満たす正の整数mが存在する。したがって、
{f>g}⊆Z∪k=1⋃∞m=1⋃∞Ak,m.(16) と (19) によりμ({f>g})=0である。fとgを交換した同じ議論からμ({g>f})=0を得る。ゆえにf=gがμに関してほとんど至る所で成り立つ。
集合{f=∞}は可測なμ-零集合である。この集合上だけでfの値を0へ変更した関数は、有限値をとる非負可測関数であり、fとμに関してほとんど至る所で等しい。§E9.6 定理 4.2により、変更後の関数も (13) のνを表す。gについても同じ修正を行うことができる。▨
定理 3.3と定理 4.1を証明した後に、密度の記法を定義することができる。
定義 4.2. 従属選択公理を仮定する。(X,F)を可測空間とし、μとνをその上のシグマ有限な正測度とし、ν≪μとする。任意のE∈Fに対して
ν(E)=∫Efdμを満たす非負拡張実数値可測関数fを、νのμに関する
Radon–Nikodym 密度 (Radon–Nikodym density) または Radon–Nikodym 微分 (Radon–Nikodym derivative) といい、
f=dμdνと書く。この記法は一つの点ごとの関数ではなく、μに関してほとんど至る所で等しい関数の同値類を表す。密度はμ-零集合上で値を変更し、有限値をとる非負可測関数として選ぶことができる。
密度を用いて定めた測度に関する積分は、もとの測度に関する積分へ戻すことができる。この公式を、後の Lebesgue 分解で絶対連続部分の密度を明示するために用いる。
命題 4.3.(X,F,ρ)を測度空間とし、g:X→[0,∞]を非負拡張実数値可測関数とする。正測度μを
μ(E)=∫Egdρ(E∈F)(20)によって定める。任意の非負拡張実数値可測関数h:X→[0,∞]に対して、
∫Xhdμ=∫Xhgdρ(21)が[0,∞]において成り立つ。積hgでは0⋅∞=0と定める。
証明.E∈Fに対する指示関数では、非負単関数の積分の定義と (20) から
∫X1Edμ=μ(E)=∫Egdρ=∫X1Egdρを得る。
非負単関数
φ=i=1∑mci1Eiを相異なる値による表示で書く。非負可測関数の積分の有限線形性と、指示関数について証明した等式から
∫Xφdμ=i=1∑mciμ(Ei)=i=1∑mci∫Eigdρ=∫Xφgdρ(22)を得る。ci=0かつg=∞となる点では、両辺で0⋅∞=0を用いる。
§E9.5 定理 5.3により、0≤φn↑hを満たす非負単関数列を選ぶ。各φngは、φnの値ごとの可測分割上でgの非負定数倍に等しいため可測である。また、規約0⋅∞=0のもとで
φng↑hgが点ごとに成り立つ。単調収束定理と (22) により、
∫Xhdμ=n→∞lim∫Xφndμ=n→∞lim∫Xφngdρ=∫Xhgdρ.したがって、(21) が成り立つ。▨
5 Lebesgue 分解
二つのシグマ有限な正測度νとμを加えて
ρ=ν+μ
とおく。νとμはともにρに関して絶対連続であるため、それぞれをρに関する密度fとgで表すことができる。集合{g>0}ではμがρの零集合を検出し、集合{g=0}ではμが零になる。この二集合にνを制限することにより、絶対連続部分と特異部分を構成する。
5.1 Lebesgue 分解の証明方針
最初に、ρがシグマ有限であることを、μとνに共通する有限可測分割から証明する。
Radon–Nikodym の定理を二度適用し、
ν(E)=∫Efdρ,μ(E)=∫Egdρ
を得る。A={g>0}とS={g=0}に対して
νa(E)=ν(E∩A),νs(E)=ν(E∩S)
と定める。μ(E)=0ならば、集合{g≥1/n}上でρ(E)=0を導くことによりνa≪μを示す。μ(S)=0であり、νsはSに集中するためνs⊥μとなる。
一意性では、二つの特異部分が集中するμ-零集合の和を除く。その補集合では両方の特異部分が零になるので、二つの絶対連続部分が一致する。特異部分の一致を導く際には、νが有限となる可測分割上で有限値だけを差し引く。したがって、一意性の証明にも∞−∞は現れない。
定理 5.1 (シグマ有限な正測度の Lebesgue 分解). 従属選択公理を仮定する。(X,F)を可測空間とし、μとνをその上のシグマ有限な正測度とする。このとき、(X,F)上の正測度νaとνsの組で
ν=νa+νs,νa≪μ,νs⊥μ(23)を満たすものが一意に存在する。両成分はシグマ有限である。
具体的には、ρ=ν+μとし、
f=dρdν,g=dρdμを選ぶ。可測集合
A={x∈X∣g(x)>0},S={x∈X∣g(x)=0}に対して
νa(E)=ν(E∩A),νs(E)=ν(E∩S)(E∈F)(24)と定めることができる。
さらに、
h(x)=⎩⎨⎧g(x)f(x),0,0<g(x)<∞,g(x)=0 または g(x)=∞(25)とおくと、hは非負拡張実数値可測関数であり、
νa(E)=∫Ehdμ(E∈F)(26)が成り立つ。したがって、hはdνa/dμの一つの代表である。
証明. 各E∈Fに対して
ρ(E)=ν(E)+μ(E)と定める。ρ(∅)=0である。互いに交わらない可測集合列(Ek)k≥1に対して、非負項級数の結合法則とν,μの可算加法性から
ρ(k=1⋃∞Ek)=k=1∑∞ν(Ek)+k=1∑∞μ(Ek)=k=1∑∞(ν(Ek)+μ(Ek))=k=1∑∞ρ(Ek)を得る。したがって、ρは正測度である。
補題 3.2により、二つずつ交わらない可測集合の列(Dk)k≥1でXを覆い、ν(Dk)<∞かつμ(Dk)<∞を満たすものが存在する。各kについて
ρ(Dk)=ν(Dk)+μ(Dk)<∞なので、ρはシグマ有限である。
ρ(E)=0ならば、非負拡張実数の和
0=ν(E)+μ(E)からν(E)=μ(E)=0が従う。したがって、
ν≪ρ,μ≪ρ.定理 3.3を二度適用し、非負拡張実数値可測関数f,gを
ν(E)=∫Efdρ,μ(E)=∫Egdρ(E∈F)(27)を満たすように選ぶ。二つの関数を選ぶ操作は有限選択であり、この操作のために可算選択公理を追加して用いる必要はない。
A={g>0}とS={g=0}は可測であり、X=A⊔Sである。(24) によってνaとνsを定める。正測度を可測集合へ制限した集合関数は正測度である。実際、空集合の値は0であり、互いに交わらない可測集合列とAまたはSとの共通部分をとってνの可算加法性を適用すればよい。任意のE∈Fに対して
E=(E∩A)⊔(E∩S)であるから、
ν(E)=νa(E)+νs(E).(28)νsはSに集中する。さらに、(27) とS上の等式g=0から
μ(S)=∫Sgdρ=0.§E9.14 定義 4.1により
νs⊥μ(29)である。
νa≪μを示す。E∈Fがμ(E)=0を満たすとし、各正の整数nに対して
An={g≥n1}とおく。積分の単調性と (27) により、
0=μ(E∩An)=∫E∩Angdρ≥n1ρ(E∩An).したがって、ρ(E∩An)=0である。A=⋃n=1∞Anなので、ρの可算劣加法性からρ(E∩A)=0を得る。ν≤ρであるため、
νa(E)=ν(E∩A)≤ρ(E∩A)=0.ゆえに、
νa≪μ.(30)両成分のシグマ有限性を確認する。前に固定した(Dk)はXを覆い、
νa(Dk)≤ν(Dk)<∞,νs(Dk)≤ν(Dk)<∞を満たす。したがって、νaとνsはシグマ有限である。
次に、(25) と (26) を証明する。a≥0に対して
{h>a}={0<g<∞}∩{f>ag}である。非負拡張実数値可測関数の正の有限定数倍は可測であり、
{f>ag}=q∈Q⋃({f>q}∩{ag<q})であるから、{h>a}は可測である。a<0ならば{h>a}=Xである。したがって、hは非負拡張実数値可測関数である。
μはシグマ有限であり、gは (27) によってμをρに関する積分として表す。定理 4.1の有限性に関する結論により、
Zg={g=∞}はρ-零集合である。X∖Zg上では
hg=f1Aが点ごとに成り立つ。命題 4.3を (27) のμの表示へ適用し、§E9.6 定理 4.2を用いると、
∫Ehdμ=∫Ehgdρ=∫Ef1Adρ=∫E∩Afdρ=ν(E∩A)=νa(E)を得る。したがって、(26) が成り立つ。
最後に、一意性を証明する。正測度α,σが
ν=α+σ,α≪μ,σ⊥μ(31)を満たすと仮定する。(29) によりνsはμと相互特異である。相互特異性の定義から、可測集合T0,T1∈Fが存在して
νs(X∖T0)=0,μ(T0)=0,σ(X∖T1)=0,μ(T1)=0となる。T=T0∪T1とおく。μ(T)=0であり、νsとσはともにTに集中する。
νa≪μ、α≪μ、およびμ(T)=0から、
νa(E∩T)=α(E∩T)=0(E∈F)(32)である。E∖T上では二つの特異部分がともに零になるため、(28) と (31) から
νa(E∖T)=ν(E∖T)=α(E∖T)を得る。(32) と有限加法性により
νa(E)=α(E)(E∈F)(33)である。この段階では非負測度へ零を足した等式だけを用いており、無限量の差をとっていない。
特異部分の一致では、前に固定した共通有限分割(Dk)を用いる。E∈Fと正の整数kを固定し、C=E∩Dkとおく。(28) と (31) から
ν(C)=νa(C)+νs(C)=α(C)+σ(C).すべての項はν(Dk)<∞以下であり、(33) によりνa(C)=α(C)である。有限実数の等式から共通項を差し引くと、
νs(E∩Dk)=σ(E∩Dk).集合列(Dk)は二つずつ交わらずXを覆うため、可算加法性から
νs(E)=k=1∑∞νs(E∩Dk)=k=1∑∞σ(E∩Dk)=σ(E).(33) と合わせてα=νaかつσ=νsを得る。存在と一意性がともに示された。▨
例 5.2 (有限集合上の Lebesgue 分解).X={1,2,3}、F=P(X)とし、
μ=δ1+2δ2,ν=3δ1+δ2+5δ3とする。μ({3})=0である一方、ν({3})=5であるため、ν≪μは成り立たない。
正測度
νa=3δ1+δ2,νs=5δ3はν=νa+νsを満たす。μ(E)=0ならばE⊆{3}であり、νa(E)=0なのでνa≪μである。νsは{3}に集中し、μ({3})=0であるからνs⊥μである。定理 5.1の一意性により、この組が
Lebesgue 分解である。
関数
h(1)=3,h(2)=21,h(3)=0に対して、任意のE⊆Xについて
∫Ehdμ=31{1∈E}+1{2∈E}=νa(E)である。したがって、hはdνa/dμの一つの代表である。
6 仮定と選択原理の役割
証明で用いた仮定の役割を分離すると、有限測度の場合とシグマ有限な場合の違いが明確になる。
7 演習
次の各問では、使用する有限性、絶対連続性、および選択原理を明記する。
問題 7.1.
- 命題 1.2の可算加法性を再構成せよ。互いに交わらない可測集合列(Ek)に対して用いる増加関数列を明記し、単調収束定理を適用することができる理由を述べよ。
- 補題 2.2の証明を再構成せよ。点ごとの最大が可測であることと、候補条件を適用する二つの可測集合が互いに交わらないことの双方を示せ。
- 定理 2.3の残差λについて、λ−μ/nの Hahn 分解X=Pn⊔Nnからf+1Pn/nが候補族に属することを証明せよ。その後、最大性と絶対連続性を用いてλ(Pn)=0を導き、λ(X)≤μ(X)/nへ至る不等式をすべて書け。
- 定理 3.3で、局所密度fkの零延長の和が可測であることを示せ。さらに、任意のE∈Fについて、単調収束定理とνの可算加法性を用いて∫Efdμ=ν(E)を導け。
- 定理 4.1の証明で、密度が無限大をとる集合を先に除く理由を説明せよ。可算閾値集合Ak,m上の積分を比較し、{f>g}が零集合であることを証明せよ。
- 定理 5.1の存在証明で、μ(E)=0からρ(E∩{g≥1/n})=0を導き、νa≪μを証明せよ。一意性の証明では、特異部分を差し引く前にνが有限となる分割へ制限する必要がある理由を述べよ。
8 まとめ
非負可測関数fは、集合Eを∫Efdμへ対応させる正測度を定める。この測度の可算加法性は単調収束定理から従い、同測度はμに関して絶対連続である。
有限正測度ν≪μに対しては、ν以下の積分測度を与える候補関数の積分値を最大化した。最大関数が残す正測度λへ Hahn 分解を適用すると、残差が非零であれば候補関数をさらに増加させることができる。有限性によりλ(X)≤μ(X)/nをすべての正の整数nについて得るため、残差は零測度である。
シグマ有限な場合には、μとνの双方が有限になる共通可測分割を用いた。各部分の密度を零延長し、単調収束定理によって貼り合わせると全体の密度が得られる。表される測度のシグマ有限性を用いると、二つの密度はμに関してほとんど至る所で一致し、密度は有限値をとる代表へ修正することができる。
ρ=ν+μに対する二つの密度を用いると、g=dμ/dρが正である部分と零である部分にXを分けることができる。νを二部分へ制限して得られる
ν=νa+νs
は、νa≪μかつνs⊥μを満たす一意な Lebesgue 分解である。本記事は正測度の分解だけを扱い、符号付き測度または複素測度の分解を主張しない。