§B1.11不等式評価とはさみうちの原理の運用

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直接計算しにくい極限でも、求めたい量を極限の分かる二つの量で上下から評価すれば、極限を決定することができます。本記事では、不等式が成り立つ範囲を確かめながら評価を組み立て、はさみうちの原理を数列と関数の極限に用います。

1 はさみうちの原理

数列について用いる形を、参照することができる定理として述べます。

定理 1.1 (数列のはさみうちの原理). ある正の整数NNが存在し、すべてのn≥Nn\ge Nについて

an≤bn≤cna_n\le b_n\le c_n

が成り立つとする。さらに

lim⁡n→∞an=lim⁡n→∞cn=L\lim_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}c_n=L

ならば、

lim⁡n→∞bn=L\lim_{n\to\infty}b_n=L

である。

この定理のε\varepsilon-NNによる証明は§D1.6 定理 3.1に委ねます。有限個の項が極限を変えないので、不等式はすべての正の整数について成り立つ必要はなく、ある番号から先で成り立てば十分です。

定理 1.2 (関数のはさみうちの原理). 関数f,g,hf,g,hが、点aaのある穿孔近傍、すなわちあるδ>0\delta>0に対する0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\deltaを満たすすべてのxxからなる共通の定義域で定義されているとする。その定義域のすべてのxxについて

g(x)≤f(x)≤h(x)g(x)\le f(x)\le h(x)

が成り立つとする。さらに

lim⁡x→ag(x)=lim⁡x→ah(x)=L\lim_{x\to a}g(x)=\lim_{x\to a}h(x)=L

ならば、

lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a}f(x)=L

である。

同じ主張はx→∞x\to\inftyおよびx→−∞x\to-\inftyに対しても成り立つ。x→∞x\to\inftyの場合には、ある実数MMに対してf,g,hf,g,hがx>Mx>Mを満たすすべてのxxからなる共通の定義域で定義され、そのすべてのxxで不等式が成り立つと仮定する。x→−∞x\to-\inftyの場合には、ある実数MMに対してf,g,hf,g,hがx<Mx<Mを満たすすべてのxxからなる共通の定義域で定義され、そのすべてのxxで不等式が成り立つと仮定する。

2 有界な量を小さくする

絶対値が一定の範囲に収まる量へ、00に近づく量を掛けます。

例 2.1 (三角関数を含む数列).−1≤sin⁡n≤1-1\le\sin n\le1なので、正の整数nnについて

−1n≤sin⁡nn≤1n-\frac1n\le\frac{\sin n}{n}\le\frac1n

である。両端が00に収束するため、定理 1.1より

lim⁡n→∞sin⁡nn=0\lim_{n\to\infty}\frac{\sin n}{n}=0

である。

3 ある番号から先で評価する

極限では、必要な不等式が成立し始める番号を特定します。

例 3.1 (途中から成り立つ不等式).n≥4n\ge4ならばn−3≥n/4n-3\ge n/4なので、

0≤nn3−3n2+n=1n(n−3)+1≤4n20\le\frac{n}{n^3-3n^2+n} =\frac1{n(n-3)+1} \le\frac4{n^2}

である。左辺の式はn=1,2n=1,2では分母の符号が異なるが、極限には有限個の項は影響しない。したがって

lim⁡n→∞nn3−3n2+n=0\lim_{n\to\infty}\frac{n}{n^3-3n^2+n}=0

である。

4 下から評価して発散を示す

下にある数列が正の無限大へ発散する場合には、上にある数列も正の無限大へ発散します。

定理 4.1 (下からの評価による発散). ある正の整数NNが存在し、すべてのn≥Nn\ge Nについてan≤bna_n\le b_nが成り立つとする。ana_nが正の無限大へ発散するならば、bnb_nも正の無限大へ発散する。

一般的な証明は「極限法則の証明」に委ねます。適用時には、下から評価する向きを取り違えないことが必要です。

例 4.2 (多項式の下からの評価).n≥4n\ge4ならば

n2−3n=n(n−3)≥n24n^2-3n=n(n-3)\ge\frac{n^2}{4}

である。n2/4n^2/4は正の無限大へ発散するので、定理 4.1よりn2−3nn^2-3nも正の無限大へ発散する。

5 指数関数を含む評価

指数関数の増加を、二項定理による下からの評価に置き換えることができます。

例 5.1 (指数関数が分母にある極限).n≥3n\ge3について、二項定理から

2n=(1+1)n≥(n3)=n(n−1)(n−2)62^n=(1+1)^n\ge\binom n3 =\frac{n(n-1)(n-2)}6

である。n≥4n\ge4では(n−1)(n−2)≥n2/4(n-1)(n-2)\ge n^2/4なので、

0≤n2n≤6(n−1)(n−2)≤24n20\le\frac{n}{2^n} \le\frac{6}{(n-1)(n-2)} \le\frac{24}{n^2}

である。したがってn/2n→0n/2^n\to0である。

6 相加平均と相乗平均による評価

積を直接扱いにくい場合には、相加平均と相乗平均の関係によって和へ置き換えます。

例 6.1 (相加平均と相乗平均を用いる極限). 正の数1/n,2/n,…,n/n1/n,2/n,\ldots,n/nに相加平均と相乗平均の関係を用いると、

(n!nn)1/n≤1+2+⋯+nn2=n+12n≤34(n≥2)\left(\frac{n!}{n^n}\right)^{1/n} \le\frac{1+2+\cdots+n}{n^2} =\frac{n+1}{2n} \le\frac34\qquad(n\ge2)

である。両辺をnn乗すると

0<n!nn≤(34)n0<\frac{n!}{n^n}\le\left(\frac34\right)^n

となる。右辺が00に収束するため、

lim⁡n→∞n!nn=0\lim_{n\to\infty}\frac{n!}{n^n}=0

である。

7 図形的な大小

図形の面積や長さによる評価も、不等式が成り立つ配置と範囲を明示すれば用いることができます。

例 7.1 (直角三角形の辺の長さによる評価).x>0x>0とし、二辺の長さがxxと11である直角三角形を考える。斜辺の長さはx2+1\sqrt{x^2+1}であり、斜辺は長さxxの辺より長いので

x2+1−x>0\sqrt{x^2+1}-x>0

である。一方、有理化すると

x2+1−x=1x2+1+x\sqrt{x^2+1}-x =\frac1{\sqrt{x^2+1}+x}

であり、x2+1≥x\sqrt{x^2+1}\ge xから

0<x2+1−x≤12x0<\sqrt{x^2+1}-x\le\frac1{2x}

を得る。x→∞x\to\inftyのとき右端は00に近づくため、関数についての定理 1.2より

lim⁡x→∞(x2+1−x)=0\lim_{x\to\infty}\left(\sqrt{x^2+1}-x\right)=0

である。

単位円の面積から0<x<π/20<x<\pi/2におけるsin⁡x<x<tan⁡x\sin x<x<\tan xを導き、関数を挟む例は「基本極限」で扱います。

8 演習

  • −2≤an≤3-2\le a_n\le3である数列について、an/na_n/nの極限を求めます。
  • n≥5n\ge5で成り立つ不等式を作り、n+1n2−4n\dfrac{n+1}{n^2-4n}の極限を求めます。
  • 二項定理によって3n3^nを下から評価し、n2/3n→0n^2/3^n\to0を示します。
  • 相加平均と相乗平均の関係を用いた例で、不等式をnn乗するときに大小の向きが保たれる理由を説明します。

評価では、下限と上限の両方の極限が一致すること、不等式が成り立つ範囲、および分母の符号を順に確認します。

注意 8.1 (演習の答え).

  1. −2/n≤an/n≤3/n-2/n\le a_n/n\le3/nで両端が00に収束するので、極限は00である。
  2. n≥5n\ge5ではn+1≤6n/5n+1\le6n/5かつn−4≥n/5n-4\ge n/5なので、0<n+1n2−4n≤6n0<\dfrac{n+1}{n^2-4n}\le\dfrac6nである。したがって極限は00である。
  3. 二項定理から3n=(1+2)n≥8(n3)3^n=(1+2)^n\ge8\binom n3である。この評価を用いると、0≤n23n≤3n4(n−1)(n−2)0\le\dfrac{n^2}{3^n}\le\dfrac{3n}{4(n-1)(n-2)}となり、極限は00である。
  4. 両辺が00以上であり、正の整数nnに対して関数t↦tnt\mapsto t^nがt≥0t\ge0で広義単調増加だからである。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の極限を、はさみうちの原理を用いて求めよ。用いた上下の評価(不等式)も示せ。

解法の型aₙ ≤\le bₙ ≤\le cₙ で lim aₙ == lim cₙ == L なら lim bₙ == L。上下の評価は極限が一致するくらいタイトに取る

  1. 例題 1

    lim⁡n→∞2n+3nn\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{2^{n}+3^{n}}
  2. 例題 2

    lim⁡n→∞[nx]n(x は定数)\lim_{n \to \infty} \dfrac{[nx]}{n} \quad (x \text{ は定数})
  3. 例題 3

    lim⁡n→∞nn\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{n}
  4. 例題 4

    lim⁡x→0x2sin⁡1x\lim_{x \to 0} x^{2} \sin\dfrac{1}{x}
  5. 例題 5

    lim⁡n→∞3nn!\lim_{n \to \infty} \dfrac{3^{n}}{n!}
  6. 例題 6

    lim⁡n→∞sin⁡nn\lim_{n \to \infty} \dfrac{\sin n}{n}
  7. 例題 7

    lim⁡n→∞∑k=1nnn2+k\lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} \dfrac{n}{n^{2}+k}
  8. 例題 8

    lim⁡n→∞∑k=1n1n2+k\lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} \dfrac{1}{n^{2}+k}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の極限を、はさみうちの原理を用いて求めよ。用いた上下の評価(不等式)も示せ。

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