§B1.12基本極限(sin x / x)

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本記事は、lim⁡x→0sin⁡xx=1\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x} = 1を証明します。x→0x \to 0のとき、分子sin⁡x\sin xと分母xxはともに00に近づくので、この式は00\dfrac00の不定形です。共通因数で約分することも、有理化することもできません。そこで、単位円の中にある三つの図形の面積の大小からsin⁡x<x<tan⁡x\sin x < x < \tan x(0<x<π20 < x < \dfrac\pi2)を導き、この不等式によってsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}を上と下から挟み、両側の極限が一致することから極限を決定します。

本記事では、角をすべて弧度法で測ります。sin⁡x<x<tan⁡x\sin x < x < \tan xの証明は扇形の面積を用い、扇形の面積を半径と中心角で表す式は角を弧度法で測ることに依存するので、この不等式も、そこから得られる極限の値も、角の測り方を変えると変わります。弧度法による角の測り方と、単位円の上の点の座標による三角関数の定義は「一般角と弧度法、三角関数の定義」が扱っています。

本記事が求めるsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限は、「三角関数の微分 I」が正弦と余弦の導関数を定義にしたがって求めるときに用います。記事の最後では、数列(1+1n) n\left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n}が収束することを二項定理と単調収束定理から示し、その極限値の呼び名を述べます。

1 単位円から得られる不等式

半径11の円の上に、中心角がxxである扇形を取ります。この扇形は、一方の三角形を含み、他方の三角形に含まれます。この包含関係から面積の大小が定まります。

定理 1.1 (単位円から得られる不等式). 角を弧度法で測る。0<x<π20 < x < \dfrac{\pi}{2}のとき

sin⁡x<x<tan⁡x\sin x < x < \tan x

が成り立つ。

証明. 原点O\mathrm{O}を中心とする半径11の円をとり、円周上に点A(1, 0)\mathrm{A}(1,\,0)と、∠AOB=x\angle\mathrm{AOB} = xを満たす点B\mathrm{B}を、xxを正の向きに測る位置にとります。さらに、点A\mathrm{A}における円の接線と半直線OB\mathrm{OB}との交点をT\mathrm{T}とします。0<x<π20 < x < \dfrac\pi2のとき、この交点T\mathrm{T}は存在します。

三角形OAB\mathrm{OAB}は扇形OAB\mathrm{OAB}に含まれ、扇形OAB\mathrm{OAB}は三角形OAT\mathrm{OAT}に含まれます。0<x<π20 < x < \dfrac\pi2のとき、これらはいずれも一致しません。三角形OAB\mathrm{OAB}の面積は12sin⁡x\dfrac12\sin x、三角形OAT\mathrm{OAT}の面積は12tan⁡x\dfrac12\tan xです。また、半径rr、中心角θ\theta(弧度法)の扇形の面積は12r2θ\dfrac12 r^2\thetaであるから、扇形OAB\mathrm{OAB}の面積は12x\dfrac12 xです。含む側の面積のほうが大きいので

12sin⁡x<12x<12tan⁡x\frac12\sin x < \frac12 x < \frac12\tan x

が成り立ち、各辺を22倍して結論を得ます。▨

注意 1.2 (扇形の面積の公式を用いても循環論法にならない).定理 1.1の証明は、半径rr、中心角θ\theta(弧度法)の扇形の面積が12r2θ\dfrac12 r^2\thetaであることを用いている。この式は、扇形の面積が中心角に比例することと、中心角が2π2\piのときに扇形が円全体になって面積がπr2\pi r^2になることから、πr2⋅θ2π=12r2θ\pi r^2\cdot\dfrac{\theta}{2\pi} = \dfrac12 r^2\thetaとして得られる。

この導出が用いるのは、半径rrの円の面積がπr2\pi r^2であることと、弧度法による角の測り方だけである。sin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限も、正弦の導関数も用いない。したがって、この公式を用いてsin⁡x<x<tan⁡x\sin x < x < \tan xを示し、そこからsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限を導く順序は、循環していない。

本記事は、半径rrの円の面積がπr2\pi r^2であることを、中学までに学ぶ事実として用いる。

2 sin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限

定理 2.1 (sin⁡x/x\sin x / xの極限). 角を弧度法で測る。

lim⁡x→0sin⁡xx=1\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x} = 1

が成り立つ。

証明. はじめに、右からの極限を調べます。0<x<π20 < x < \dfrac\pi2のときsin⁡x>0\sin x > 0であるから、定理 1.1の各辺をsin⁡x\sin xで割ることができて

1<xsin⁡x<1cos⁡x1 < \frac{x}{\sin x} < \frac{1}{\cos x}

となります。この範囲では三つの辺がいずれも正であるから、逆数を取ると大小が逆になり

cos⁡x<sin⁡xx<1\cos x < \frac{\sin x}{x} < 1

が成り立ちます。§B2.11 定理 2.3によりlim⁡x→+0cos⁡x=1\lim_{x\to +0}\cos x = 1であり、右端は定数11であるから、上下から挟む評価によってlim⁡x→+0sin⁡xx=1\lim_{x\to +0}\dfrac{\sin x}{x} = 1が従います。

次に、左からの極限を調べます。x≠0x \ne 0について

sin⁡(−x)−x=−sin⁡x−x=sin⁡xx\frac{\sin(-x)}{-x} = \frac{-\sin x}{-x} = \frac{\sin x}{x}

であるから、−π2<x<0-\dfrac\pi2 < x < 0におけるsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の値は、0<−x<π20 < -x < \dfrac\pi2におけるsin⁡(−x)−x\dfrac{\sin(-x)}{-x}の値に等しくなります。よってlim⁡x→−0sin⁡xx=1\lim_{x\to -0}\dfrac{\sin x}{x} = 1です。

右からの極限と左からの極限が一致するので、lim⁡x→0sin⁡xx=1\lim_{x\to 0}\dfrac{\sin x}{x} = 1です。▨

注意 2.2 (この評価は弧度法に依存する).定理 1.1の中辺にあるxxは、扇形の面積12x\dfrac12 xから来ている。半径rr、中心角θ\thetaの扇形について、面積が12r2θ\dfrac12 r^2\theta、弧の長さがrθr\thetaと書くことができるのは、θ\thetaを弧度法で測る場合に限る。したがって、この不等式は角を弧度法で測ることに依存しており、度数法では成り立たない。

実際、度数法で測った角の大きさをxxとすると、その角は弧度法でπx180\dfrac{\pi x}{180}であるから

lim⁡x→0sin⁡x∘x=lim⁡x→0sin⁡(πx180)x=π180\lim_{x\to 0}\frac{\sin x^{\circ}}{x} = \lim_{x\to 0}\frac{\sin\left(\dfrac{\pi x}{180}\right)}{x} = \frac{\pi}{180}

となり、11にはならない。定理 2.1を用いる場面では、角を弧度法で測る。

例 2.3 (基本極限へ帰着させる).lim⁡x→0sin⁡3xx\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{\sin 3x}{x}を求める。x≠0x \ne 0のときsin⁡3xx=3⋅sin⁡3x3x\dfrac{\sin 3x}{x} = 3\cdot\dfrac{\sin 3x}{3x}である。t=3xt = 3xとおくと、x→0x \to 0のときt→0t \to 0であるから、定理 2.1より極限は3⋅1=33\cdot 1 = 3である。

lim⁡x→01−cos⁡xx2\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{x^2}を求める。∣x∣<π2|x| < \dfrac\pi2のときcos⁡x>0\cos x > 0であるから1+cos⁡x≠01 + \cos x \ne 0であり、この範囲で分子と分母に1+cos⁡x1 + \cos xを掛けることができて

1−cos⁡xx2=1−cos⁡2xx2 (1+cos⁡x)=sin⁡2xx2 (1+cos⁡x)=(sin⁡xx)2⋅11+cos⁡x\frac{1-\cos x}{x^2} = \frac{1-\cos^2 x}{x^2\,(1+\cos x)} = \frac{\sin^2 x}{x^2\,(1+\cos x)} = \left(\frac{\sin x}{x}\right)^{2}\cdot\frac{1}{1+\cos x}

となる。定理 2.1とlim⁡x→0cos⁡x=1\lim_{x\to 0}\cos x = 1より、極限は12⋅12=121^2\cdot\dfrac12 = \dfrac12である。

3 (1+1n) n\left(1+\dfrac1n\right)^{\,n}の収束

数列(1+1n) n\left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n}を考えます。nnを大きくすると、底1+1n1 + \dfrac1nは11に近づき、指数nnは限りなく大きくなります。底が11に近づくことだけから極限を11と結論することはできず、指数が限りなく大きくなることだけから極限を正の無限大と結論することもできません。この数列は、実際には一つの値に収束します。

定理 3.1 ((1+1n) n\left(1+\frac1n\right)^{\,n}の収束). 数列{(1+1n) n}\left\{\left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n}\right\}は収束する。

証明.an=(1+1n) na_n = \left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n}とおきます。二項定理によって展開すると

an=∑k=0n(nk)1nka_n = \sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}\frac{1}{n^{k}}

です。k≥1k \ge 1の項について(nk)1nk\dbinom{n}{k}\dfrac{1}{n^{k}}を書き下すと

(nk)1nk=n(n−1)⋯(n−k+1)k!  nk=1k!(1−1n)(1−2n)⋯(1−k−1n)\binom{n}{k}\frac{1}{n^{k}} = \frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{k!\;n^{k}} = \frac{1}{k!}\left(1-\frac1n\right)\left(1-\frac2n\right)\cdots\left(1-\frac{k-1}{n}\right)

となります。k=0k = 0の項は11です。

まず、狭義単調増加であることを示します。nnをn+1n+1に取り替えると、1≤j≤k−11 \le j \le k-1のどのjjについても1−jn<1−jn+11 - \dfrac{j}{n} < 1 - \dfrac{j}{n+1}ですから、k≥2k \ge 2の各項は真に大きくなります。k=0k = 0とk=1k = 1の項はどちらも11のままです。さらに、an+1a_{n+1}にはk=n+1k = n+1にあたる正の項が新たに加わります。したがってan<an+1a_n < a_{n+1}です。

次に、上に有界であることを示します。上の表示で、各因子1−jn1 - \dfrac{j}{n}は11より小さい正の数ですから

an≤∑k=0n1k!a_n \le \sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!}

です。k≥1k \ge 1のときk!=1⋅2⋅3⋯k≥2 k−1k! = 1\cdot 2\cdot 3\cdots k \ge 2^{\,k-1}ですから

∑k=0n1k!≤1+∑k=1n12 k−1=1+1−(1/2)n1−1/2<1+2=3\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!} \le 1 + \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2^{\,k-1}} = 1 + \frac{1 - (1/2)^{n}}{1 - 1/2} < 1 + 2 = 3

となります。よってすべてのnnについてan<3a_n < 3です。

{an}\{a_n\}は広義単調増加であって上に有界ですから、§B1.8 定理 3.1により収束します。▨

注意 3.2 (この証明が用いたもの). 上の証明が用いたのは、二項定理と、§B1.8 定理 3.1だけである。後者は「極限の存在について」が§B1.8 定理 2.1から証明している。したがってこの収束は、区間縮小法まで遡れば、本単元の中で閉じている。

得られた上からの評価an≤∑k=0n1k!a_n \le \sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}に現れる級数は、指数関数をべき級数として定義し直すときに現れるものと同じである。その扱いは「初等関数の厳密な定義」が与える。

この収束する数列の極限値に、ここで名前を付けます。

注意 3.3 (極限値の呼び名).定理 3.1の極限値をネイピア数といい、eeと書く。その値はe=2.718281828⋯e = 2.718281828\cdotsである。

ネイピア数を指数関数の微分と結び付けて定める方法は「ネイピア数」が扱う。同記事は、a>0a > 0に対してaxa^{x}を微分すると現れる極限

lim⁡h→0ah−1h\lim_{h\to 0}\frac{a^{h}-1}{h}

が11になる底としてeeを定め、そのうえで定理 3.1の極限値が同じeeに等しいことを示す。指数関数と対数関数に関わる極限は「対数関数の微分」が扱う。

4 上下から挟んで、値を評価する

収束することが分かったので、次はその値がどのあたりにあるかを調べます。ana_nは下から近づく列ですから、上から近づく列を作って挟みます。指数を11だけ増やしたbn=(1+1n) n+1b_n = \left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n+1}が、その役を果たします。

定理 4.1 (上から近づく列).bn=(1+1n) n+1b_n = \left(1 + \dfrac1n\right)^{\,n+1}とおくと、{bn}\{b_n\}は狭義単調減少である。

証明.n≥2n \ge 2とし、bn−1bn\dfrac{b_{n-1}}{b_n}を計算します。

bn−1bn=(nn−1)n(n+1n)n+1=n2n((n−1)(n+1))n⋅nn+1=(n2n2−1)n⋅nn+1\frac{b_{n-1}}{b_n} = \frac{\left(\dfrac{n}{n-1}\right)^{n}}{\left(\dfrac{n+1}{n}\right)^{n+1}} = \frac{n^{2n}}{\bigl((n-1)(n+1)\bigr)^{n}}\cdot\frac{n}{n+1} = \left(\frac{n^{2}}{n^{2}-1}\right)^{n}\cdot\frac{n}{n+1}

です。ここで§B1.6 定理 3.1を、h=1n2−1h = \dfrac{1}{n^{2}-1}として適用すると

(n2n2−1)n=(1+1n2−1)n≥1+nn2−1>1+nn2=n+1n\left(\frac{n^{2}}{n^{2}-1}\right)^{n} = \left(1 + \frac{1}{n^{2}-1}\right)^{n} \ge 1 + \frac{n}{n^{2}-1} > 1 + \frac{n}{n^{2}} = \frac{n+1}{n}

です。したがってbn−1bn>n+1n⋅nn+1=1\dfrac{b_{n-1}}{b_n} > \dfrac{n+1}{n}\cdot\dfrac{n}{n+1} = 1であり、bnb_nはどれも正ですからbn−1>bnb_{n-1} > b_nです。▨

定理 4.2 (ネイピア数を挟む区間). すべての正の整数nnについて

an<e<bn,bn−an=ann<3na_n < e < b_n, \qquad b_n - a_n = \frac{a_n}{n} < \frac{3}{n}

が成り立つ。

証明.bn=an(1+1n)>anb_n = a_n\left(1 + \dfrac1n\right) > a_nです。{an}\{a_n\}は狭義単調増加でeeに収束し、{bn}\{b_n\}は狭義単調減少で、bn=an(1+1n)b_n = a_n\left(1+\dfrac1n\right)ですから§B1.7 定理 3.1によりbnb_nもeeに収束します。狭義単調増加な列はその極限を越えないのでan<ea_n < eであり、狭義単調減少な列はその極限を下回らないのでe<bne < b_nです。

幅についてはbn−an=an(1+1n)−an=annb_n - a_n = a_n\left(1+\dfrac1n\right) - a_n = \dfrac{a_n}{n}であり、定理 3.1の証明で示したan<3a_n < 3からann<3n\dfrac{a_n}{n} < \dfrac3nです。▨

注意 4.3 (この挟み込みは区間縮小法の形をしている).{an}\{a_n\}が増加し{bn}\{b_n\}が減少するので、閉区間[an,bn][a_n, b_n]は縮んでいく列になり、幅は3n\dfrac3nより小さく00に近づく。すなわちこの挟み込みは§B1.8 定理 2.1の形をしており、共通する実数がただ一つ存在することからもeeの存在を言うことができる。幅がnnの式として書けているので、そのまま値の評価に使うことができる。

例 4.4 (eeの値を挟む).n=1000n = 1000とすると

(1+11000)1000<e<(1+11000)1001\left(1 + \frac{1}{1000}\right)^{1000} < e < \left(1 + \frac{1}{1000}\right)^{1001}

であり、幅は31000\dfrac{3}{1000}より小さい。したがってこの一組の不等式だけで、eeの小数第22位までが決まるとは限りません。幅の評価が保証するのは、区間内の値を近似値に選んだときの絶対誤差です。桁を確定するには両端を実際に計算し、同じ規則で丸めた値が一致することも確認します。この場合には両端がそれぞれ約2.71692.7169と2.71962.7196であり、どちらも小数第22位へ丸めると2.722.72です。より小さい絶対誤差が必要ならば、必要なnnを幅の評価3n\dfrac3nから見積もることができます。

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