§E16.23Gödel–Rosser の第一不完全性定理

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証明可能性を算術の内部で表すと、理論が自分の非証明可能性を述べる文を構成することができる。ただし、Gödel 文と Rosser 文では、否定の非証明を導くために仮定する無矛盾性の強さが異なる。本記事では、同じ標準証明述語を用いて二つの固定点を構成し、Gödel 文の否定の非証明には1-無矛盾性を仮定する一方、Rosser 文とその否定の非証明には構文的無矛盾性だけを仮定する。

1 対象理論と証明述語

算術言語をLA={0,S,+,×}L_A=\{0,S,+,\times\}とする。理論TTはLAL_Aの文からなり、Q⊆TQ\subseteq Tを満たすと仮定する。さらに、TTの公理を計算可能に列挙する決定的プログラムを一つ固定する。無矛盾性は各定理で明示的に仮定し、この段階では仮定しない。

定義 1.1.TTが無矛盾であるとは、固定した矛盾文0=S00=S0をTTが証明しないことをいう。

TTが1-無矛盾であるとは、TTが証明する任意のΣ1\Sigma_1文が標準モデルN\mathbb Nで真であることをいう。ここでΣ1\Sigma_1文は§E16.19 定義 2.1の意味である。

1-無矛盾性は無矛盾性より強い。実際、0=S00=S0はΔ0\Delta_0文であるから、これに現れない変数wwを取ると∃w (0=S0)\exists w\,(0=S0)はΣ1\Sigma_1文であり、N⊭∃w (0=S0)\mathbb N\not\models\exists w\,(0=S0)である。従って、TTが矛盾するならばT⊢0=S0T\vdash0=S0からT⊢∃w (0=S0)T\vdash\exists w\,(0=S0)を得るので、1-無矛盾性に反する。

公理集合が計算可能に列挙可能であることと、公理所属が決定可能であることを区別する必要がある。証明述語の記事では、列挙プログラムが公理を出力するまでの有限計算列をAxWit⁡T(a,w)\operatorname{AxWit}_T(a,w)として符号化し、各非論理公理行に証人wwを添えた。§E16.21 定理 2.2と§E16.21 命題 3.2により、この証人を含む外的証明関係Proof⁡T(p,y)\operatorname{Proof}_T(p,y)は原始再帰的である。

定義 1.2.Prf⁡T(p,y)\operatorname{Prf}_T(p,y)を、§E16.21 定義 3.3が固定した標準証明述語とする。§E16.21 命題 5.2 (2)により、Prf⁡T\operatorname{Prf}_Tは§E16.19 定義 2.1の意味のΣ1\Sigma_1論理式である。また同命題の第3項により、Prf⁡T\operatorname{Prf}_TはProof⁡T\operatorname{Proof}_Tを肯定例と否定例の双方について数詞ごとにQQで表現する。

Prov⁡T(y):=∃p Prf⁡T(p,y)\operatorname{Prov}_T(y):=\exists p\,\operatorname{Prf}_T(p,y)

と定める。§E16.21 定理 5.4により、任意の標準自然数p,yp,yと任意のLAL_A文φ\varphiについて、次が成り立つ。

N⊨Prf⁡T(pˉ,yˉ)⟺Proof⁡T(p,y),N⊨Prov⁡T(⌜φ⌝)⟺T⊢φ.\begin{aligned} \mathbb N\models\operatorname{Prf}_T(\bar p,\bar y) &\Longleftrightarrow \operatorname{Proof}_T(p,y),\\ \mathbb N\models\operatorname{Prov}_T(\ulcorner\varphi\urcorner) &\Longleftrightarrow T\vdash\varphi. \end{aligned}

さらに、p0p_0がφ\varphiの標準証明符号ならば

Q⊢Prf⁡T(pˉ0,⌜φ⌝),T⊢Prov⁡T(⌜φ⌝)Q\vdash\operatorname{Prf}_T(\bar p_0,\ulcorner\varphi\urcorner), \qquad T\vdash\operatorname{Prov}_T(\ulcorner\varphi\urcorner)

である。

最後の内部化は、TTの健全性を用いない。具体的な有限証明符号が外側で存在することを、数詞ごとの表現可能性によってQQの有限証明へ移している。

2 Gödel 文

§E16.22 定理 2.1を¬Prov⁡T(x)\neg\operatorname{Prov}_T(x)へ適用する。

定義 2.1.GTG_Tを、次の固定点同値を満たすLAL_A文とする。

T⊢GT↔¬Prov⁡T(⌜GT⌝).(G)T\vdash G_T\leftrightarrow \neg\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner). \tag{G}

同値 (G) はGTG_Tの真理を仮定していない。また、TTの無矛盾性も仮定せず、対角線補題がQQ内で構成した有限証明をTTへ移した結果である。

定理 2.2.TTを、QQを含み、公理集合を計算可能に列挙することができるLAL_A理論とする。

  1. TTが無矛盾ならば、T⊬GTT\nvdash G_Tである。
  2. TTが1-無矛盾ならば、T⊬¬GTT\nvdash\neg G_Tである。

証明方針は、二つの方向で異なる。第1項では、GTG_Tの具体的な証明を証明可能性述語へ内部化し、固定点同値が与える否定と衝突させる。第2項では、¬GT\neg G_Tから得られるΣ1\Sigma_1文Prov⁡T(⌜GT⌝)\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner)に1-無矛盾性を適用し、標準証明の存在へ戻す。

証明.(1)を示す。T⊢GTT\vdash G_Tと仮定し、その有限証明の標準符号をp0p_0とする。定義 1.2により

T⊢Prov⁡T(⌜GT⌝)(1)T\vdash\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner) \tag{1}

である。一方、(G) の左から右への含意とT⊢GTT\vdash G_Tから

T⊢¬Prov⁡T(⌜GT⌝)(2)T\vdash\neg\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner) \tag{2}

を得る。(1) と (2) からTTは矛盾する。従って、TTが無矛盾ならばT⊬GTT\nvdash G_Tである。

(2)を示す。T⊢¬GTT\vdash\neg G_Tと仮定する。古典命題論理を (G) へ適用すると

T⊢Prov⁡T(⌜GT⌝)(3)T\vdash\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner) \tag{3}

を得る。§E16.21 命題 5.2 (2)によりPrf⁡T(p,y)\operatorname{Prf}_T(p,y)はΔ0\Delta_0論理式Check⁡T\operatorname{Check}_Tを用いて∃z Check⁡T(p,y,z)\exists z\,\operatorname{Check}_T(p,y,z)の形に固定されているので、Prov⁡T(⌜GT⌝)=∃p ∃z Check⁡T(p,⌜GT⌝,z)\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner)=\exists p\,\exists z\,\operatorname{Check}_T(p,\ulcorner G_T\urcorner,z)は§E16.19 定義 2.1の意味のΣ1\Sigma_1文である。ここで同値な別の論理式へ取り替えてはいない。TTの1-無矛盾性により

N⊨Prov⁡T(⌜GT⌝)\mathbb N\models\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner)

となる。定義 1.2の標準モデルでの正確性から、ある標準証明符号が存在してT⊢GTT\vdash G_Tである。1-無矛盾性は無矛盾性を含意するため、T⊢GTT\vdash G_Tと仮定したT⊢¬GTT\vdash\neg G_Tは両立しない。従ってT⊬¬GTT\nvdash\neg G_Tである。▨

第2項の議論では、1-無矛盾性を単なる無矛盾性へ置き換えることはできない。(3) がTT内で証明されたことから、同じΣ1\Sigma_1文が標準モデルで真であることを導く段階が追加で必要だからである。

3 Rosser 文に必要な有限数詞推論

証明符号の大小を算術内部で比較する式には、§E16.19 定義 2.1が固定した略記

a≼b: ⁣ ⁣⟺∃d (d+a=b),a≺b: ⁣ ⁣⟺Sa≼ba\preccurlyeq b:\!\!\Longleftrightarrow \exists d\,(d+a=b), \qquad a\prec b:\!\!\Longleftrightarrow S a\preccurlyeq b

を用いる。a,ba,bが標準自然数ならば、これらは標準モデルで通常の大小関係を表す。加法の第2引数が固定数詞であるため、d+nˉ=Sndd+\bar n=S^n dは (Q4)、(Q5) をnn回だけ用いて証明することができる。この向きの定義により、自由変数ppに対する「ppはnˉ\bar nより小さいか、nˉ\bar n以上である」という固定境界の分割を、帰納法なしでQQ内に構成することができる。

補題 3.1.nnを標準自然数とし、A(x)A(x)を一変数算術式とする。

  1. Q⊢∀p (p≺nˉ∨nˉ≼p)Q\vdash\forall p\,(p\prec\bar n\lor\bar n\preccurlyeq p)である。
  2. 各標準自然数k≤nk\le nについてQ⊢¬A(kˉ)Q\vdash\neg A(\bar k)ならば、 Q⊢∀k (k≼nˉ→¬A(k))Q\vdash\forall k\,(k\preccurlyeq\bar n\to\neg A(k)) である。
  3. 各標準自然数k<nk<nについてQ⊢¬A(kˉ)Q\vdash\neg A(\bar k)ならば、 Q⊢∀k (k≺nˉ→¬A(k))Q\vdash\forall k\,(k\prec\bar n\to\neg A(k)) である。

証明. 第1項は§E16.19 補題 3.3 (2)そのものであり、束縛変数の名前だけが異なる。

第2項と第3項では、固定数詞を上界とする候補が有限個の数詞に分かれることを用いる。§E16.19 補題 3.3 (1)は、k≼nˉk\preccurlyeq\bar nからk=0ˉ∨⋯∨k=nˉk=\bar0\lor\cdots\lor k=\bar nを、k≺nˉk\prec\bar nからk=0ˉ∨⋯∨k=n−1‾k=\bar0\lor\cdots\lor k=\overline{n-1}を与える。各選言では等号の置換可能性と仮定した有限個の否定証明を用いる。有限選言を消去してkkを全称化すると、表示した二つの有界全称文を得る。これは標準自然数nnごとに長さの異なる有限証明であり、QQ内の帰納法ではない。▨

4 Rosser 文と第一不完全性定理

式の符号からその否定の符号を返す全域構文操作Neg⁡\operatorname{Neg}は§E16.18 定義 4.1で定義されており、§E16.18 定理 5.2により原始再帰的である。従って§E16.19 定理 7.1 (1)が、Neg⁡\operatorname{Neg}をQQで強く数詞ごとに表現する一変数のグラフ式φNeg⁡(x,u)\varphi_{\operatorname{Neg}}(x,u)を与える。そこで

θ(x): ⁣ ⁣⟺∀p(Prf⁡T(p,x)→∃q(q≼p∧∃u(φNeg⁡(x,u)∧Prf⁡T(q,u))))\theta(x):\!\!\Longleftrightarrow \forall p\left( \operatorname{Prf}_T(p,x) \to \exists q\left(q\preccurlyeq p\land \exists u\left(\varphi_{\operatorname{Neg}}(x,u)\land \operatorname{Prf}_T(q,u)\right) \right) \right)

と定める。θ\thetaの自由変数は高々xxなので、§E16.22 定理 2.1をθ\thetaへ適用することができる。この段階でPrf⁡T(q,⌜¬RT⌝)\operatorname{Prf}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner)と直接書くことはできない。RTR_Tはこれから対角線補題で得る文であり、その符号はまだ定まっていないからである。書くことができるのは、否定の符号を対応させるグラフ式φNeg⁡\varphi_{\operatorname{Neg}}だけである。これを数詞へ潰す段は、固定点を取った後に置く。

定義 4.1.RTR_Tを、§E16.22 定理 2.1を上のθ\thetaへ適用して得られるLAL_A文とする。すなわちRTR_Tは次の固定点同値を満たす。

Q⊢RT↔θ(⌜RT⌝).(R0)Q\vdash R_T\leftrightarrow\theta(\ulcorner R_T\urcorner). \tag{$\mathrm{R}_0$}

固定点を取った後は、グラフ式を数詞へ潰すことができる。RTR_TはLAL_A文なのでNeg⁡(⌜RT⌝)=⌜¬RT⌝\operatorname{Neg}(\ulcorner R_T\urcorner)=\ulcorner\neg R_T\urcornerである。§E16.19 定義 1.2が定める強い数詞ごとの表現の条件を、この入力へ適用すると

Q⊢∀u(φNeg⁡(⌜RT⌝,u)↔u=⌜¬RT⌝)Q\vdash\forall u\left( \varphi_{\operatorname{Neg}}(\ulcorner R_T\urcorner,u) \leftrightarrow u=\ulcorner\neg R_T\urcorner \right)

である。従ってQQは、任意のqqについて∃u(φNeg⁡(⌜RT⌝,u)∧Prf⁡T(q,u))\exists u(\varphi_{\operatorname{Neg}}(\ulcorner R_T\urcorner,u)\land\operatorname{Prf}_T(q,u))とPrf⁡T(q,⌜¬RT⌝)\operatorname{Prf}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner)の同値を証明する。これを(R0)(\mathrm{R}_0)の右辺へ代入すると

Q⊢RT↔∀p(Prf⁡T(p,⌜RT⌝)→∃q(q≼p∧Prf⁡T(q,⌜¬RT⌝)))(R)Q\vdash R_T\leftrightarrow \forall p\left( \operatorname{Prf}_T(p,\ulcorner R_T\urcorner) \to \exists q\left(q\preccurlyeq p\land \operatorname{Prf}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner) \right) \right) \tag{R}

を得る。以下ではこの (R) の形だけを用いる。式 (R) は、「RTR_Tの各証明には、それ以下の符号をもつ¬RT\neg R_Tの証明が存在する」と述べる。量化子p,qp,qは対象理論内の自然数を走る。以下の証明では、外側で選んだ標準証明符号を数詞として入れた後に、固定境界の有限推論だけをQQ内で用いる。

定理 4.2 (Gödel–Rosser の第一不完全性定理).TTを、QQを含み、公理集合を計算可能に列挙することができるLAL_A理論とする。

  1. TTが無矛盾ならばT⊬GTT\nvdash G_Tであり、TTが1-無矛盾ならばT⊬¬GTT\nvdash\neg G_Tである。
  2. TTが無矛盾ならば、T⊬RTT\nvdash R_TかつT⊬¬RTT\nvdash\neg R_Tである。

従って、無矛盾で公理集合を計算可能に列挙することができる任意のT⊇QT\supseteq Qは構文論的に不完全である。

証明方針は、第1項には定理 2.2を適用することである。第2項では、RTR_Tまたは¬RT\neg R_Tの標準証明符号を一つ固定する。反対側の標準証明が存在しないことを無矛盾性から得て、そのうち必要な有限範囲だけを補題 3.1によってQQ内へ移す。

証明.(1)は定理 2.2で証明した。

(2)の最初の方向を示す。TTが無矛盾であるにもかかわらずT⊢RTT\vdash R_Tであると仮定し、RTR_Tの標準証明符号をp0p_0とする。無矛盾性によりT⊬¬RTT\nvdash\neg R_Tである。従って、各標準自然数q≤p0q\le p_0について

¬Proof⁡T(q,⌜¬RT⌝)\neg\operatorname{Proof}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner)

が成り立つ。§E16.21 命題 5.2 (3)によりPrf⁡T\operatorname{Prf}_Tは否定例も数詞ごとに表現するため、各標準自然数q≤p0q\le p_0について

Q⊢¬Prf⁡T(qˉ,⌜¬RT⌝)Q\vdash\neg\operatorname{Prf}_T(\bar q,\ulcorner\neg R_T\urcorner)

である。補題 3.1 (2)から

Q⊢¬∃q(q≼pˉ0∧Prf⁡T(q,⌜¬RT⌝))(4)Q\vdash\neg\exists q\left( q\preccurlyeq\bar p_0\land \operatorname{Prf}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner) \right) \tag{4}

を得る。一方、p0p_0は実際の証明符号なので

Q⊢Prf⁡T(pˉ0,⌜RT⌝)(5)Q\vdash\operatorname{Prf}_T(\bar p_0,\ulcorner R_T\urcorner) \tag{5}

である。(R)、仮定T⊢RTT\vdash R_T、および (5) から、TTは (4) で否定した存在文を証明する。Q⊆TQ\subseteq Tなので (4) もTTの定理であり、TTは矛盾する。従ってT⊬RTT\nvdash R_Tである。

次にT⊬¬RTT\nvdash\neg R_Tを示す。T⊢¬RTT\vdash\neg R_Tと仮定し、その標準証明符号を一つ取ってq0q_0とする。最小のものを選ぶ必要はない。無矛盾性により、RTR_Tの標準証明符号は一つも存在しない。§E16.21 命題 5.2 (3)が与える否定例の表現可能性により、特に、各標準自然数p<q0p<q_0について

Q⊢¬Prf⁡T(pˉ,⌜RT⌝)Q\vdash\neg\operatorname{Prf}_T(\bar p,\ulcorner R_T\urcorner)

である。補題 3.1 (3)から

Q⊢∀p(p≺qˉ0→¬Prf⁡T(p,⌜RT⌝))(6)Q\vdash\forall p\left( p\prec\bar q_0\to \neg\operatorname{Prf}_T(p,\ulcorner R_T\urcorner) \right) \tag{6}

を得る。また、q0q_0は¬RT\neg R_Tの実際の証明符号なので

Q⊢Prf⁡T(qˉ0,⌜¬RT⌝).(7)Q\vdash\operatorname{Prf}_T(\bar q_0,\ulcorner\neg R_T\urcorner). \tag{7}

任意のppを取る。補題 3.1 (1)の固定境界分割により、p≺qˉ0p\prec\bar q_0またはqˉ0≼p\bar q_0\preccurlyeq pである。前者では (6) により (R) の含意の前件が偽である。後者では、(7) とq=qˉ0q=\bar q_0を用いると (R) の存在量化された後件が成り立つ。従って

Q⊢∀p(Prf⁡T(p,⌜RT⌝)→∃q(q≼p∧Prf⁡T(q,⌜¬RT⌝))).(8)Q\vdash\forall p\left( \operatorname{Prf}_T(p,\ulcorner R_T\urcorner) \to \exists q\left(q\preccurlyeq p\land \operatorname{Prf}_T(q,\ulcorner\neg R_T\urcorner) \right) \right). \tag{8}

(R) の右から左への含意と (8) からQ⊢RTQ\vdash R_T、従ってT⊢RTT\vdash R_Tである。仮定T⊢¬RTT\vdash\neg R_Tと合わせるとTTは矛盾する。従ってT⊬¬RTT\nvdash\neg R_Tである。

Rosser の二方向では、標準モデルにおけるTTの健全性、1-無矛盾性、またはω\omega-無矛盾性を用いていない。外側で用いたのは、具体的な標準証明符号を一つ取ることとTTの構文的無矛盾性だけである。対象理論内では、固定された有限個の数詞についての表現可能性と有限境界分割だけを用いた。▨

例 4.3 (二つの証明符号の比較).q0=4q_0=4が¬RT\neg R_Tの証明符号であると仮定する。p=0,1,2,3p=0,1,2,3ではRTR_Tの証明検査が失敗することを、それぞれの否定例としてQQが証明する。p≥4p\ge4では、q=4q=4を (R) の後件の証人に用いる。この有限な二分が、一般の標準符号q0q_0に対する証明と同じ構造をもつ。

5 演習

問題 5.1. 次の問いに答えよ。

  1. T⊢GTT\vdash G_TからT⊢Prov⁡T(⌜GT⌝)T\vdash\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner)へ移る際に、TTの健全性を用いない理由を述べよ。
  2. T⊢¬GTT\vdash\neg G_Tの排除に1-無矛盾性を用いる箇所を特定せよ。
  3. T⊢RTT\vdash R_Tを仮定する方向で、なぜp0p_0以下の有限個の否定例だけをQQへ移せば足りるのか。
  4. T⊢¬RTT\vdash\neg R_Tを仮定する方向で、p≺qˉ0p\prec\bar q_0とqˉ0≼p\bar q_0\preccurlyeq pの各場合に (R) の含意をどのように証明するか。
解答 (確認問題の解答).
  1. GTG_Tの具体的な有限証明符号p0p_0を取り、真である原始再帰関係Proof⁡T(p0,⌜GT⌝)\operatorname{Proof}_T(p_0,\ulcorner G_T\urcorner)の数詞例をQQで証明するからである。意味論的健全性は介在しない。
  2. T⊢¬GTT\vdash\neg G_Tから得たΣ1\Sigma_1文Prov⁡T(⌜GT⌝)\operatorname{Prov}_T(\ulcorner G_T\urcorner)を、標準モデルで真な文へ移す段階で用いる。
  3. (R) をRTR_Tの具体的な証明符号p0p_0へ適用すると、必要な反対側の証明符号は標準自然数q≤p0q\le p_0に限定されるからである。
  4. p≺qˉ0p\prec\bar q_0ではPrf⁡T(p,⌜RT⌝)\operatorname{Prf}_T(p,\ulcorner R_T\urcorner)を否定して含意を証明する。qˉ0≼p\bar q_0\preccurlyeq pでは、¬RT\neg R_Tの証明符号q0q_0自身を存在量化の証人に用いる。

▨

6 境界と次の段階

本記事は、計算可能に公理化されたT⊇QT\supseteq Qに対する Gödel 文と Rosser 文の第一不完全性だけを扱った。完全性定理、標準モデルにおける健全性、ω\omega-無矛盾性、または第二不完全性定理を証明の前提には用いていない。後続の記事は、ここで固定した同じPrf⁡T\operatorname{Prf}_TとProv⁡T\operatorname{Prov}_Tを用い、導出可能性条件とCon⁡T\operatorname{Con}_Tの非証明を扱う。

参考文献

  1. Kurt Gödel, Über formal unentscheidbare Sätze der Principia Mathematica und verwandter Systeme I, Monatshefte für Mathematik und Physik 38 (1931), 173–198.
  2. J. Barkley Rosser, Extensions of Some Theorems of Gödel and Church, The Journal of Symbolic Logic 1 (1936), 87–91.
  3. George S. Boolos, John P. Burgess, and Richard C. Jeffrey, Computability and Logic, 5th ed., Cambridge University Press, 2007.

前提記事