§E16.16Peano 算術の非標準モデル

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標準モデルN\mathbb Nの任意の要素a∈Na\in\mathbb Nに対して、a=n‾Na=\overline n^{\mathbb N}を満たす標準自然数n∈Nn\in\mathbb Nが存在する。しかし、一階理論は「すべての標準数詞より大きい」という無限個の要求を、各有限部分では排除することができない。コンパクト性定理は、これらの要求を同時に満たす一つのモデルを与える。

1 標準モデルの完全理論

定義 1.1.LA={0,S,+,×}L_A=\{0,S,+,\times\}とし、標準モデルをN\mathbb Nとする。

Th⁡(N)={σ∈Sent⁡(LA)∣N⊨σ}\operatorname{Th}(\mathbb N) =\{\sigma\in\operatorname{Sent}(L_A)\mid\mathbb N\models\sigma\}

をN\mathbb Nの完全理論 (complete theory) という。

ここで「完全」は、各LAL_A文σ\sigmaについてσ\sigmaと¬σ\neg\sigmaの一方がTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)に属することを意味する。公理集合を計算して列挙することができるという意味ではない。

<<は§E16.15 定義 1.1で定めた略記x<y  ⟺  ∃z (y=x+Sz)x<y\iff\exists z\,(y=x+Sz)とする。LAL_Aに新しい定数記号ccを加えた言語をLA(c)L_A(c)と書く。

定理 1.2. 標準モデルN\mathbb Nと初等同値であり、PAPAを満たすLAL_A構造MMで、どの標準自然数nnに対してもn‾M\overline n^Mと異なる要素をもつものが存在する。したがってMMはN\mathbb Nと同型ではない。

証明.LA(c)L_A(c)理論

T∗=Th⁡(N)∪{n‾<c∣n∈N}T^*=\operatorname{Th}(\mathbb N) \cup\{\overline n<c\mid n\in\mathbb N\}

を考える。ここでTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)の各文は、新しい定数ccを含まないLA(c)L_A(c)文とみなす。

T∗T^*の任意の有限部分集合T0T_0を取る。T0T_0に現れる不等式n‾<c\overline n<cの添字は有限個なので、それらすべてより大きい標準自然数NNを選ぶことができる。N\mathbb NをLA(c)L_A(c)構造へ展開し、ccの値をNNと解釈する。T0∩Th⁡(N)T_0\cap\operatorname{Th}(\mathbb N)の各文は定義によりN\mathbb Nで真であり、ccの解釈に依存しない。また、T0T_0に現れる各n‾<c\overline n<cについてn<Nn<Nなので、その不等式もこの展開で真である。したがってT∗T^*の各有限部分集合は充足可能である。

§E16.13 定理 1.1により、T∗T^*を満たすLA(c)L_A(c)構造M∗M^*が存在する。MMをM∗M^*のLAL_Aへの還元とし、a=cM∗a=c^{M^*}とおく。M∗⊨Th⁡(N)M^*\models\operatorname{Th}(\mathbb N)なので、任意のLAL_A文σ\sigmaについて

N⊨σ⟹M⊨σ.\mathbb N\models\sigma\quad\Longrightarrow\quad M\models\sigma.

逆にN⊭σ\mathbb N\not\models\sigmaなら¬σ∈Th⁡(N)\neg\sigma\in\operatorname{Th}(\mathbb N)なのでM⊨¬σM\models\neg\sigma、したがってM⊭σM\not\models\sigmaである。よってすべてのLAL_A文σ\sigmaについて

M⊨σ⟺N⊨σ,M\models\sigma\quad\Longleftrightarrow\quad\mathbb N\models\sigma,

すなわちM≡NM\equiv\mathbb Nである。

§E16.15 定理 3.2によりPAPAの各公理τ\tauはN\mathbb Nで真である。したがってτ∈Th⁡(N)\tau\in\operatorname{Th}(\mathbb N)であり、M⊨τM\models\tauである。すべての公理について同じことが成り立つのでM⊨PAM\models PAである。

さらに各標準自然数nnについてM∗⊨n‾<cM^*\models\overline n<cである。N⊨∀x∀y (x<y→x≠y)\mathbb N\models\forall x\forall y\,(x<y\to x\ne y)なので、このLAL_A文はTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)に属し、MMで真である。したがってn‾M≠a\overline n^M\ne aである。aaはどの標準数詞の値とも異なる。

もしf:M→Nf:M\to\mathbb Nが同型写像ならば、f(a)=nf(a)=nを満たす標準自然数n∈Nn\in\mathbb Nが存在する。ffは定数00と関数SSを保つため、f(n‾M)=nf(\overline n^M)=nである。ffの単射性からa=n‾Ma=\overline n^Mとなり、直前の結論に反する。よってMMはN\mathbb Nと同型ではない。▨

2 標準と非標準の境界

定義 2.1.M⊨PAM\models PAとする。要素a∈Ma\in Mに対して、a=n‾Ma=\overline n^Mを満たす標準自然数n∈Nn\in\mathbb Nが存在するとき、aaを標準要素 (standard element) という。どの標準自然数nnに対してもa≠n‾Ma\ne\overline n^Mとなる要素を非標準要素 (nonstandard element) という。

この定義における標準自然数n∈Nn\in\mathbb Nに関する存在量化はメタ言語に属する。モデルMMの内部に、標準要素だけを一括して指定する述語を導入したわけではない。

命題 2.2.M⊨Th⁡(N)M\models\operatorname{Th}(\mathbb N)とする。MMの非標準要素全体には、MMの<<に関する最小要素がない。

証明.aaを非標準要素とする。特にa≠0Ma\ne0^Mである。 (Q3) はTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)に属するので、あるb∈Mb\in Mが存在してa=SM(b)a=S^M(b)となる。bbが標準要素ならば、b=n‾Mb=\overline n^Mを満たす標準自然数n∈Nn\in\mathbb Nが存在し、a=SM(n‾M)=n+1‾Ma=S^M(\overline n^M)=\overline{n+1}^Mとなる。これはaaの非標準性に反する。よってbbも非標準要素である。

N⊨∀x (x<Sx)\mathbb N\models\forall x\,(x<Sx)なので、このLAL_A文はTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)に属し、MMで真である。特にM⊨b<SM(b)M\models b<S^M(b)であり、a=SM(b)a=S^M(b)なのでb<ab<aである。任意の非標準要素aaより小さい非標準要素bbが存在するため、非標準部分に最小要素はない。▨

注意 2.3 (コンパクト性が与えるもの). 構成したモデルMMはPAPAのモデルであるだけでなく、N\mathbb Nと同じLAL_A文をすべて満たす。一方、MMがN\mathbb Nの部分構造を文字どおり含むこと、MMの濃度が可算であること、または非標準要素の集合がMMの内部で定義可能であることは、このコンパクト性の適用だけからは従わない。

例 2.4 (有限部分では上界を逃れられる).{0<c,1‾<c,…,100‾<c}\{0<c,\overline1<c,\ldots,\overline{100}<c\}は、標準構造でccを101101と解釈すれば満たされる。同じ方法で、不等式を有限個だけ選んだ部分集合は常に標準構造の展開で満たされる。すべての標準数詞に対する要求を一つの標準自然数で満たすことはできないが、コンパクト性は別のモデルで同時充足を実現する。

3 演習

問題 3.1.

  1. T∗T^*の有限部分集合を満たす際に、Th⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)の文の個数を気にしなくてよい理由を説明せよ。
  2. M∗⊨Th⁡(N)M^*\models\operatorname{Th}(\mathbb N)からM≡NM\equiv\mathbb Nの逆向きの含意を導く際に、完全理論であることをどのように用いたか。
  3. 構成したMMがPAPAを満たす理由を、PAPAの公理スキーマを含めて説明せよ。
  4. 非標準要素全体に最小要素がないことを証明せよ。
解答 (確認問題の解答).
  1. 選んだ有限部分集合に含まれるTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)の文はすべて、定義により同じ標準構造N\mathbb Nで真である。ccの解釈を変えても、これらの文はccを含まない。
  2. N⊭σ\mathbb N\not\models\sigmaの場合にN⊨¬σ\mathbb N\models\neg\sigmaであり、¬σ∈Th⁡(N)\neg\sigma\in\operatorname{Th}(\mathbb N)となることを用いた。したがってM⊨¬σM\models\neg\sigmaである。
  3. N⊨PA\mathbb N\models PAなので、七公理と帰納法公理スキーマの各一階文はすべてTh⁡(N)\operatorname{Th}(\mathbb N)に属する。MMはその全体を満たす。
  4. 非標準要素aaは零でないため (Q3) によりa=Sba=Sbと書くことができる。bbが標準ならaaも標準になるのでbbは非標準であり、N⊨∀x (x<Sx)\mathbb N\models\forall x\,(x<Sx)の初等移送からb<ab<aである。

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参考文献

  1. Herbert B. Enderton, A Mathematical Introduction to Logic, 2nd ed., Academic Press, 2001.コンパクト性による非標準算術モデルの構成の扱いを参考にした。
  2. Richard Kaye, Models of Peano Arithmetic, Oxford University Press, Oxford, 1991.算術の非標準モデルの基本構造と標準部分の扱いを参考にした。

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