完全性定理の証明で構成した項モデルは、理論がモデルをもつことだけでなく、モデルの濃度に上界を与える。一方、コンパクト性定理は、無限モデルを一つもつ理論から、指定した十分大きい濃度のモデルを構成する。
本記事で扱う小さいモデルの定理は、与えられたモデルの内部に初等部分構造を見つける定理ではない。充足可能な理論に対して、別の小さいモデルが存在することを項モデルから導く。初等部分構造を用いる下方 Löwenheim–Skolem の定理は、モデル理論で扱う。
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完全性定理の証明で構成した項モデルは、理論がモデルをもつことだけでなく、モデルの濃度に上界を与える。一方、コンパクト性定理は、無限モデルを一つもつ理論から、指定した十分大きい濃度のモデルを構成する。
本記事で扱う小さいモデルの定理は、与えられたモデルの内部に初等部分構造を見つける定理ではない。充足可能な理論に対して、別の小さいモデルが存在することを項モデルから導く。初等部分構造を用いる下方 Löwenheim–Skolem の定理は、モデル理論で扱う。
有限、高々可算、可算、および非可算という用語は、「等濃度と可算性」の§E1.18 定義 1.2に従う。可算かつ無限である集合を可算無限と呼び、高々可算な集合の特徴づけには§E1.18 定理 3.3を用いる。また、選択公理を仮定し、「基数とアレフ」の§E1.21 定理 2.2に従って、任意の集合の濃度を、その集合と等濃な基数によって表す。
の非論理記号集合の濃度をと書き、
とおく。
補題 1.1. 集合サイズの有限項言語と任意の理論について、
である。したがって
である。
証明.§E16.11 補題 2.1によりである。なので同じ上界がにも成り立つ。の定義へ代入すると表示した等式を得る。▨
この評価で、各非論理記号の項数が有限であることを用いている。記号が集合個あっても、各文は有限長なので、文全体は記号集合上の有限列全体より多くならない。
定理 2.1.を集合サイズの有限項言語、を充足可能な理論とする。このとき、ある構造が存在して
となる。
証明.は充足可能なので、健全性により構文的に無矛盾である。§E16.12 定理 4.1は、無矛盾なに対してを満たす項モデルの還元を与える。補題 1.1によりである。▨
系 2.2.が有限または可算であり、理論が充足可能なら、は有限または可算なモデルをもつ。が有限モデルをもたないなら、は可算無限モデルをもつ。
証明.なので、定理 2.1が与えるモデルの濃度は高々である。が有限モデルをもたない場合、そのモデルは有限ではないため、濃度がちょうどである。▨
注意 2.3 (与えられたモデルとの包含関係は主張しない).が与えられていても、定理 2.1が構成するはの部分構造または初等部分構造であるとは限らない。定理が主張するのは、同じ理論を満たす小さいモデルがどこかに存在することである。
次に、無限モデルを一つもつ理論から、指定した濃度ちょうどのモデルを構成する。下界だけを作るのでは不十分である。新定数がモデルの濃度を少なくともにし、拡大言語に対する小さいモデルの定理が同じモデルの濃度を高々にする。
定理 3.1 (上方 Löwenheim–Skolem の定理).を集合サイズの有限項言語、を無限モデルをもつ理論とする。を
を満たす任意の無限濃度とする。このとき、濃度がちょうどである構造が存在してとなる。
証明の方針は、個の新定数をすべて相異なると要求することである。任意の有限個の要求は元の無限モデルで満たすことができる。コンパクト性で全要求を同時に満たし、項モデルの濃度上界で余分に大きいモデルを小さくする。
証明.を濃度の集合とし、ごとに新しい定数記号を加える。拡大言語を
とする。§E16.11 系 2.2 (4)によりである。
理論
を考える。を任意に取る。に現れる新定数は有限個である。固定した無限モデルの台集合から、その有限個の定数へ相異なる要素を割り当てることができる。残りの新定数には任意の一要素を割り当てる。この拡大はと、に現れるすべての不等式を満たす。したがっての各有限部分集合は充足可能である。
§E16.13 定理 1.1によりは充足可能である。ここで、コンパクト性が与える任意のモデルをそのまま選ばず、拡大言語と理論に定理 2.1を適用する。
「基数算術」の§E1.22 定義 1.1と§E1.22 系 3.3を無限基数に適用すると、
である。不等式の集合はの部分集合であり、補題 1.1からなので、である。またである。したがって小さいモデルの定理は、ある構造で
を満たすものを与える。
がすべての相異なるについて成り立つため、はからへの単射である。したがってである。上下の評価を合わせるととなる。元の言語への還元
は台集合を変えず、のすべての文を満たす。ゆえにかつである。▨
系 3.2.が有限または可算であり、理論が無限モデルを一つもつなら、任意の無限濃度について、濃度がちょうどであるモデルが存在する。
証明.なので、任意の無限濃度はを満たす。定理 3.1を適用すればよい。▨
例 3.3 (無限線形順序の濃度). 線形順序の言語は一つの二項関係記号だけをもち、可算である。線形順序の理論は整数の通常の順序を無限モデルとしてもつ。したがって、任意の無限濃度について、濃度の線形順序が存在する。この結論は線形順序を具体的に定義する方法とは別に、コンパクト性と項モデルの濃度評価から得られる。
定理 4.1 (Löwenheim–Skolem のモデル存在形). 集合サイズの有限項言語と理論について、次が成り立つ。
注意 4.2 (一階理論は無限濃度を一つに固定することができない).が無限モデルを一つもち、そのすべてのモデルの濃度が一つの無限濃度に等しいと仮定する。選択公理のもとで「基数とアレフ」の§E1.21 定理 2.2を用い、
を一つの基数として取る。§E1.21 定理 3.1を集合に適用する。恒等写像は単射であるから、同定理の第1項によりである。また、同定理の第2項によりは基数である。とおけばであり、上方 Löwenheim–Skolem の定理が濃度のモデルを与え、仮定に反する。したがって、集合サイズの一階理論は、モデルの濃度を一つの無限濃度だけへ固定することができない。
与えられた構造と部分集合から、を含む小さい初等部分構造を構成する形の下方 Löwenheim–Skolem の定理には、初等部分構造、初等埋め込み、Skolem 包、および Tarski–Vaught 判定法が必要である。本記事はこれらを定義せず、同定理を主張しない。本記事の小さいモデルは、理論の項モデルとして新たに構成され、もとの任意のモデルの部分構造である必要はない。
問題 6.1.
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