§E16.22対角線補題と Tarski の定理

最終更新

式の Gödel 数を同じ式へ代入する操作を算術の内部で表現すると、任意の一変数式に対して、その式が自分自身の Gödel 数について述べる内容と同値な文を構成することができる。本記事では、自己言及を自然言語上の仮定として置かず、符号上の代入関数から固定点文を構成する。続いて、標準モデルで真である算術文の集合が一つの算術式では定義されないことを証明する。

1 自己代入を表す式

算術言語をLA={0,S,+,×}L_A=\{0,S,+,\times\}とし、変数xxの符号をvxv_xとする。構文操作の算術化で固定した捕獲回避代入関数をSub⁡(e,v,n)\operatorname{Sub}(e,v,n)と書く。第1引数が一変数式の符号であるとき、自然数nnを表す数詞を第2引数が指定する自由変数へ代入した式の符号を返す。不正な符号に対する値もあらかじめ固定されている。

定義 1.1.

d(n):=Sub⁡(n,vx,n)d(n):=\operatorname{Sub}(n,v_x,n)

と定める。ddは、符号nnが表す式の自由変数xxへnˉ\bar nを代入した式の符号を返す全域関数である。

命題 1.2.ddは原始再帰的である。従って、二変数算術式D(x,y)D(x,y)で、任意の標準自然数nnについて

Q⊢∀y(D(nˉ,y)↔y=d(n)‾)Q\vdash\forall y\bigl(D(\bar n,y)\leftrightarrow y=\overline{d(n)}\bigr)

を満たすものが存在する。

証明.Sub⁡\operatorname{Sub}は原始再帰全関数であり、vxv_xは固定した自然数である。対角写像n↦(n,n)n\mapsto(n,n)、定数関数n↦vxn\mapsto v_x、およびSub⁡\operatorname{Sub}の合成によってddを得るため、ddは原始再帰的である。原始再帰全関数のQQにおける強い数詞ごとの表現可能性を適用すると、表示したD(x,y)D(x,y)が存在する。▨

論理式DDと外的関数ddは異なる対象である。D(nˉ,y)D(\bar n,y)は対象言語の式であり、d(n)d(n)はメタ理論で計算した自然数である。上の命題が両者を標準数詞ごとに接続する。

2 対角線補題

定理 2.1 (対角線補題).θ(x)\theta(x)を、自由変数が高々xxである任意のLAL_A論理式とする。このとき、あるLAL_A文ψ\psiが存在して

Q⊢ψ↔θ(⌜ψ⌝)Q\vdash\psi\leftrightarrow\theta(\ulcorner\psi\urcorner)

が成り立つ。従って、Q⊆TQ\subseteq Tを満たす任意のLAL_A理論TTについても

T⊢ψ↔θ(⌜ψ⌝)T\vdash\psi\leftrightarrow\theta(\ulcorner\psi\urcorner)

である。

証明方針は、入力された式の符号を直接同じ式へ入れることではない。まず、入力xxを自己代入した結果d(x)d(x)をθ\thetaへ渡す補助式を作る。次に、補助式自身の符号を補助式へ代入する。

証明.命題 1.2の式D(x,y)D(x,y)を用いて

β(x):=∃y(D(x,y)∧θ(y))\beta(x):=\exists y\bigl(D(x,y)\land\theta(y)\bigr)

と定める。b=⌜β⌝b=\ulcorner\beta\urcornerとし、文

ψ:=β(bˉ)\psi:=\beta(\bar b)

を取る。Gödel 符号の定義により

d(b)=Sub⁡(b,vx,b)=⌜β(bˉ)⌝=⌜ψ⌝(1)d(b)=\operatorname{Sub}(b,v_x,b)=\ulcorner\beta(\bar b)\urcorner =\ulcorner\psi\urcorner \tag{1}

である。

ddの強い表現可能性から

Q⊢∀y(D(bˉ,y)↔y=d(b)‾)(2)Q\vdash\forall y\bigl(D(\bar b,y)\leftrightarrow y=\overline{d(b)}\bigr) \tag{2}

を得る。(2) と等号に関する置換可能性を用いると、QQの内部で

ψ↔β(bˉ)↔∃y(D(bˉ,y)∧θ(y))↔θ(d(b)‾)\begin{aligned} \psi &\leftrightarrow \beta(\bar b)\\ &\leftrightarrow \exists y\bigl(D(\bar b,y)\land\theta(y)\bigr)\\ &\leftrightarrow \theta(\overline{d(b)}) \end{aligned}

を証明することができる。(1) によりd(b)‾\overline{d(b)}は文ψ\psiの Gödel 数を表す数詞である。従って

Q⊢ψ↔θ(⌜ψ⌝)Q\vdash\psi\leftrightarrow\theta(\ulcorner\psi\urcorner)

となる。Q⊆TQ\subseteq Tならば、同じ有限証明はTTの証明でもある。▨

注意 2.2 (固定点の意味). 対角線補題は、文ψ\psiと式θ(x)\theta(x)が同じ記号列であるとは述べない。結論は、ψ\psiとθ(⌜ψ⌝)\theta(\ulcorner\psi\urcorner)の同値をQQが証明するという対象理論内の主張である。また、補題の証明はθ\thetaの真偽や、理論TTの無矛盾性を仮定しない。

例 2.3 (恒真式に対する固定点).θ(x)\theta(x)をx=xx=xとする。対角線補題が与える文ψ\psiは

Q⊢ψ↔⌜ψ⌝=⌜ψ⌝Q\vdash\psi\leftrightarrow \ulcorner\psi\urcorner=\ulcorner\psi\urcorner

を満たす。右辺は等号公理から証明されるため、Q⊢ψQ\vdash\psiである。この例では、xxが式中に現れること自体ではなく、自己代入の構成が任意の一変数式に一様に適用されることを確認することができる。

3 標準モデルの真理を定義することはできない

算術文全体の集合をSent⁡(LA)\operatorname{Sent}(L_A)とする。メタ理論では

True⁡N={⌜σ⌝:σ∈Sent⁡(LA), N⊨σ}\operatorname{True}_{\mathbb N} =\{\ulcorner\sigma\urcorner:\sigma\in\operatorname{Sent}(L_A),\ \mathbb N\models\sigma\}

という自然数の集合を考えることができる。問題は、この集合の所属関係を一つの算術式Tr⁡(x)\operatorname{Tr}(x)によって標準モデル内部で定義することができるかどうかである。

定理 3.1 (Tarski の真理定義不能性定理). 自由変数が高々xxであるLAL_A論理式Tr⁡(x)\operatorname{Tr}(x)で、任意のLAL_A文σ\sigmaについて

N⊨Tr⁡(⌜σ⌝)⟺N⊨σ(3)\mathbb N\models\operatorname{Tr}(\ulcorner\sigma\urcorner) \quad\Longleftrightarrow\quad \mathbb N\models\sigma \tag{3}

を満たすものは存在しない。

証明方針は、Tr⁡\operatorname{Tr}が定義する真理を否定する一変数式へ対角線補題を適用することである。得られる文について、対角線補題は真理とTr⁡\operatorname{Tr}の否定を同値にし、仮定 (3) は真理とTr⁡\operatorname{Tr}を同値にする。

証明. (3) を満たす式Tr⁡(x)\operatorname{Tr}(x)が存在すると仮定する。θ(x):=¬Tr⁡(x)\theta(x):=\neg\operatorname{Tr}(x)へ定理 2.1を適用し、

Q⊢ψ↔¬Tr⁡(⌜ψ⌝)(4)Q\vdash\psi\leftrightarrow \neg\operatorname{Tr}(\ulcorner\psi\urcorner) \tag{4}

を満たす文ψ\psiを取る。標準モデルはQQのモデルであるから、健全性により

N⊨ψ⟺N⊭Tr⁡(⌜ψ⌝)(5)\mathbb N\models\psi \quad\Longleftrightarrow\quad \mathbb N\not\models\operatorname{Tr}(\ulcorner\psi\urcorner) \tag{5}

である。一方、(3) をσ=ψ\sigma=\psiに適用すると

N⊨Tr⁡(⌜ψ⌝)⟺N⊨ψ(6)\mathbb N\models\operatorname{Tr}(\ulcorner\psi\urcorner) \quad\Longleftrightarrow\quad \mathbb N\models\psi \tag{6}

を得る。(5) と (6) は、命題N⊨ψ\mathbb N\models\psiが自身の否定と同値であることを与えるため矛盾する。従って、(3) を満たす算術式は存在しない。▨

注意 3.2 (Tarski の定理の量化範囲). 定理が否定するのは、標準モデルにおけるすべてのLAL_A文の真理を一様に定義する算術式である。定理は特定の理論TTを仮定せず、TTの無矛盾性も仮定しない。定理集合{⌜σ⌝:T⊢σ}\{\ulcorner\sigma\urcorner:T\vdash\sigma\}の定義可能性や列挙可能性は、標準モデルの真理集合とは別の問題である。

4 メタ言語と対象言語の区別

次の四つは異なる種類の記述である。

  1. d(n)=md(n)=mは、自然数を入力とする外的計算についての等式である。
  2. D(nˉ,mˉ)D(\bar n,\bar m)は、外的計算を表す対象言語の文である。
  3. Q⊢D(nˉ,mˉ)Q\vdash D(\bar n,\bar m)は、その算術文に対する形式的証明の存在である。
  4. N⊨D(nˉ,mˉ)\mathbb N\models D(\bar n,\bar m)は、その算術文の標準モデルにおける真理である。

対角線補題は、1から2へ表現可能性によって移り、2について3の同値を構成する。Tarski の定理は、3で得た同値をN⊨Q\mathbb N\models Qによって4へ移し、仮定した真理定義と比較する。どの段階でも、メタ言語の自己参照を前提にはしていない。

5 演習

問題 5.1. 次の問いに答えよ。

  1. 対角線補題の証明で、β(x)\beta(x)を単にθ(x)\theta(x)とせず、D(x,y)D(x,y)を介して定義する理由を述べよ。
  2. Tarski の定理の証明で、N⊨Q\mathbb N\models Qを用いる箇所を特定せよ。
  3. Tarski の定理へ理論TTの無矛盾性を追加する必要がない理由を述べよ。
解答 (確認問題の解答).

1では、xxを式の入力として用いるだけでなく、その入力が表す式へ同じ入力を代入した符号d(x)d(x)をθ\thetaへ渡す必要があることを述べる。2では、QQ内で証明した固定点同値 (4) を標準モデルで真な同値 (5) へ移す段階を挙げる。3では、矛盾が標準モデルにおける真理定義 (3) と固定点同値から直接生じ、任意の追加理論の証明可能性を用いていないことを述べればよい。▨

6 境界と次の段階

本記事は、対角線補題と標準モデルの真理定義不能性だけを扱った。証明可能性述語を用いる固定点、不完全性定理、および無矛盾性文についての結論は別の記事が扱う。Tarski の定理を、特定理論の定理集合が算術的に定義不能であるという主張へ読み替えてはならない。

参考文献

  1. George S. Boolos, John P. Burgess, and Richard C. Jeffrey, Computability and Logic, 5th ed., Cambridge University Press, 2007.
  2. Herbert B. Enderton, A Mathematical Introduction to Logic, 2nd ed., Academic Press, 2001.

前提記事