§E16.4命題論理の証明体系

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意味論的帰結Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiは、すべての付値についての条件である。本稿では有限列による形式的導出Γ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiを定義し、両者が一致することを証明する。

本稿では、命題変数の集合PPに濃度の制限を課さない。したがって論理式全体を一つの列へ並べる方法は用いず、極大な無矛盾集合を Zorn の補題によって取る。完全性の証明は二段からなる。第一段では、前提集合が有限である場合を真理表から扱い、対応する導出を具体的に構成する。この段は選択原理を用いない。第二段では、構文的に無矛盾な任意の集合がモデルをもつことを Lindenbaum の補題から証明し、そこから任意の前提集合に対する完全性とコンパクト性を導く。

1 Hilbert 系と導出

定義 1.1. 論理式α,β,γ\alpha,\beta,\gammaに対する次の三つの公理スキーマを取る。

(H1)α→(β→α),(H2)(α→(β→γ))→((α→β)→(α→γ)),(H3)(¬β→¬α)→(α→β).\begin{aligned} \mathrm{(H1)}\quad&\alpha\to(\beta\to\alpha),\\ \mathrm{(H2)}\quad&(\alpha\to(\beta\to\gamma)) \to((\alpha\to\beta)\to(\alpha\to\gamma)),\\ \mathrm{(H3)}\quad&(\neg\beta\to\neg\alpha)\to(\alpha\to\beta). \end{aligned}

推論規則は modus ponens

αα→ββ\frac{\alpha\qquad\alpha\to\beta}{\beta}

だけとする。

定義 1.2.Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)とする。Γ\Gammaからの導出 (derivation) とは、各項が次のいずれかである有限列δ1,…,δk\delta_1,\ldots,\delta_kである。

  1. δi∈Γ\delta_i\in\Gammaである。
  2. δi\delta_iは H1–H3 のいずれかの代入例である。
  3. δℓ=δj→δi\delta_\ell=\delta_j\to\delta_iを満たす添字j,ℓ<ij,\ell<iが存在する。

末項がφ\varphiである導出が存在するときΓ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiと書く。Γ=∅\Gamma=\varnothingのときは⊢PLφ\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiと略記する。

例 1.3 (modus ponens による導出).Γ={p,p→q}\Gamma=\{p,p\to q\}とする。有限列

p,p→q,qp,\quad p\to q,\quad q

はΓ\Gammaからqqへの導出である。したがって{p,p→q}⊢PLq\{p,p\to q\}\vdash_{\mathrm{PL}}qである。

演繹定理の帰納法では、α→α\alpha\to\alphaの導出を用いる。

補題 1.4. 任意の論理式α\alphaについて⊢PLα→α\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\alphaである。

証明. 次の各行は H1 または H2 の代入例と modus ponens からなる。

1.α→((α→α)→α)H1,2.α→(α→α)H1,3.[α→((α→α)→α)]→([α→(α→α)]→(α→α))H2,4.[α→(α→α)]→(α→α)1,3, MP,5.α→α2,4, MP.\begin{array}{rll} 1.&\alpha\to((\alpha\to\alpha)\to\alpha)&\mathrm{H1},\\ 2.&\alpha\to(\alpha\to\alpha)&\mathrm{H1},\\ 3.&[\alpha\to((\alpha\to\alpha)\to\alpha)] \to([\alpha\to(\alpha\to\alpha)]\to(\alpha\to\alpha))&\mathrm{H2},\\ 4.&[\alpha\to(\alpha\to\alpha)]\to(\alpha\to\alpha)&1,3,\ \mathrm{MP},\\ 5.&\alpha\to\alpha&2,4,\ \mathrm{MP}. \end{array}

ゆえに主張が成り立つ。▨

定理 1.5 (演繹定理).Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)、α,β∈Form⁡(P)\alpha,\beta\in\operatorname{Form}(P)とする。このとき

Γ∪{α}⊢PLβ⟺Γ⊢PLα→β\Gamma\cup\{\alpha\}\vdash_{\mathrm{PL}}\beta \quad\Longleftrightarrow\quad \Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\beta

である。

証明. 左辺を仮定し、δ1,…,δk=β\delta_1,\ldots,\delta_k=\betaを対応する導出とする。各iiについてΓ⊢PLα→δi\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\delta_iを示す。

δi=α\delta_i=\alphaの場合は補題 1.4を用いる。δi∈Γ\delta_i\in\Gammaまたはδi\delta_iが公理の代入例である場合、まずΓ⊢PLδi\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\delta_iであり、H1 の代入例

δi→(α→δi)\delta_i\to(\alpha\to\delta_i)

と modus ponens によってΓ⊢PLα→δi\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\delta_iを得る。

δi\delta_iがδj\delta_jとδj→δi\delta_j\to\delta_iから得られた場合、帰納法の仮定は

Γ⊢PLα→δj,Γ⊢PLα→(δj→δi)\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\delta_j, \qquad \Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to(\delta_j\to\delta_i)

を与える。H2 と二回の modus ponens によりΓ⊢PLα→δi\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\delta_iを得る。有限列に関する帰納法の末項でΓ⊢PLα→β\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\betaとなる。

逆にΓ⊢PLα→β\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\alpha\to\betaとする。前提を増やしても同じ導出を用いることができ、Γ∪{α}\Gamma\cup\{\alpha\}ではα\alphaも前提である。modus ponens によりΓ∪{α}⊢PLβ\Gamma\cup\{\alpha\}\vdash_{\mathrm{PL}}\betaである。▨

系 1.6.Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)、φ∈Form⁡(P)\varphi\in\operatorname{Form}(P)とする。Γ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiならば、有限部分集合Γ0⊆Γ\Gamma_0\subseteq\Gammaが存在してΓ0⊢PLφ\Gamma_0\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiである。

証明.Γ\Gammaからのφ\varphiの導出を一つ固定する。導出は有限列であるから、定義 1.2の第1条件によって正当化される項として現れるΓ\Gammaの要素は有限個である。それらの集合をΓ0\Gamma_0とすると、同じ有限列の各項はΓ0\Gamma_0の要素、公理の代入例、または先行する二項への modus ponens のいずれかである。したがって同じ列がΓ0\Gamma_0からの導出であり、Γ0⊢PLφ\Gamma_0\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiが成り立つ。▨

2 導出で用いる古典論理の補題

次の補題は、完全性の真理値帰納で必要となる固定された導出図式をまとめる。証明では、演繹定理を用いて仮定付き導出を閉じる。

補題 2.1. H1–H3 と modus ponens だけから、任意のα,β,χ\alpha,\beta,\chiについて次を導くことができる。

(D1)α→¬¬α,(D2)¬α→(α→β),(D3)α→(¬β→¬(α→β)),(D4)(α→χ)→((¬α→χ)→χ).\begin{aligned} \mathrm{(D1)}\quad&\alpha\to\neg\neg\alpha,\\ \mathrm{(D2)}\quad&\neg\alpha\to(\alpha\to\beta),\\ \mathrm{(D3)}\quad&\alpha\to(\neg\beta\to\neg(\alpha\to\beta)),\\ \mathrm{(D4)}\quad&(\alpha\to\chi)\to((\neg\alpha\to\chi)\to\chi). \end{aligned}

証明. まず二つの派生操作を準備する。⊢ρ→σ\vdash\rho\to\sigmaと⊢σ→τ\vdash\sigma\to\tauから⊢ρ→τ\vdash\rho\to\tauを得ることができる。実際、H1 と modus ponens によりρ→(σ→τ)\rho\to(\sigma\to\tau)を得て、H2 とρ→σ\rho\to\sigmaへ modus ponens を適用すればよい。以下ではこの有限導出を含意の推移と呼ぶ。また、仮定ρ\rhoとρ→σ\rho\to\sigmaからσ\sigmaを得て演繹定理を二回適用すると

⊢ρ→((ρ→σ)→σ)(A)\vdash\rho\to((\rho\to\sigma)\to\sigma) \tag{A}

を得る。

二重否定除去を導く。θ=α→(α→α)\theta=\alpha\to(\alpha\to\alpha)と置くと、θ\thetaは H1 の代入例である。H3 の二つの代入例

(¬¬θ→¬¬α)→(¬α→¬θ),(\neg\neg\theta\to\neg\neg\alpha)\to(\neg\alpha\to\neg\theta),(¬α→¬θ)→(θ→α)(\neg\alpha\to\neg\theta)\to(\theta\to\alpha)

と含意の推移から

(¬¬θ→¬¬α)→(θ→α)(\neg\neg\theta\to\neg\neg\alpha)\to(\theta\to\alpha)

を得る。H1 は¬¬α→(¬¬θ→¬¬α)\neg\neg\alpha\to(\neg\neg\theta\to\neg\neg\alpha)を与えるので、再び含意の推移を用いて

¬¬α→(θ→α)\neg\neg\alpha\to(\theta\to\alpha)

を得る。(A) をρ=θ,σ=α\rho=\theta,\sigma=\alphaとして用い、定理θ\thetaに modus ponens を適用すると(θ→α)→α(\theta\to\alpha)\to\alphaを得る。したがって含意の推移により

⊢¬¬α→α(B)\vdash\neg\neg\alpha\to\alpha \tag{B}

である。(B) でα\alphaを¬α\neg\alphaに置き換え、H3 の代入例

(¬¬¬α→¬α)→(α→¬¬α)(\neg\neg\neg\alpha\to\neg\alpha) \to(\alpha\to\neg\neg\alpha)

へ modus ponens を適用すると D1 を得る。

D2 を示す。H1 の代入例¬α→(¬β→¬α)\neg\alpha\to(\neg\beta\to\neg\alpha)と H3

(¬β→¬α)→(α→β)(\neg\beta\to\neg\alpha)\to(\alpha\to\beta)

を含意の推移で結べばよい。

次に対偶化

(α→β)→(¬β→¬α)(C)(\alpha\to\beta)\to(\neg\beta\to\neg\alpha) \tag{C}

を導く。α→β\alpha\to\betaを仮定する。(B)、仮定、D1 を含意の推移で結ぶと¬¬α→¬¬β\neg\neg\alpha\to\neg\neg\betaを得る。H3 の代入例

(¬¬α→¬¬β)→(¬β→¬α)(\neg\neg\alpha\to\neg\neg\beta) \to(\neg\beta\to\neg\alpha)

へ modus ponens を適用し、演繹定理で仮定を外すと (C) を得る。

(A) はα→((α→β)→β)\alpha\to((\alpha\to\beta)\to\beta)を与える。(C) で前件をα→β\alpha\to\beta、後件をβ\betaとすると

((α→β)→β)→(¬β→¬(α→β))((\alpha\to\beta)\to\beta) \to(\neg\beta\to\neg(\alpha\to\beta))

を得る。この式を (A) と含意の推移で結ぶと D3 が従う。

最後に D4 を示す。U=α→χU=\alpha\to\chiとV=¬α→χV=\neg\alpha\to\chiを仮定する。さらに¬χ\neg\chiを仮定する。(C) をVVに適用すると¬¬α\neg\neg\alphaを得て、(B) によりα\alphaを得る。D3 から¬χ→¬U\neg\chi\to\neg Uを得るので、追加した仮定¬χ\neg\chiから¬U\neg Uを得る。演繹定理により

V⊢¬χ→¬UV\vdash\neg\chi\to\neg U

である。H3 の代入例(¬χ→¬U)→(U→χ)(\neg\chi\to\neg U)\to(U\to\chi)に modus ponens を適用し、仮定UUも用いるとχ\chiを得る。演繹定理でVV、次にUUを外すと D4 を得る。

以上の各段階は H1–H3、modus ponens、証明済みの演繹定理の有限回の適用である。▨

3 健全性

定理 3.1 (Hilbert 系の健全性).Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)、φ∈Form⁡(P)\varphi\in\operatorname{Form}(P)とする。Γ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiならΓ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiである。

証明.δ1,…,δk=φ\delta_1,\ldots,\delta_k=\varphiをΓ\Gammaからの導出とし、Γ\Gammaのすべての論理式を真にする付値vvを任意に取る。各iiについてv⊨δiv\models\delta_iを帰納的に示す。

前提の行はvvの選択により真である。H1 と H2 は含意が偽になる場合を調べれば恒真である。H3 が偽であると仮定すると、¬β→¬α\neg\beta\to\neg\alphaは真、α\alphaは真、β\betaは偽である。後二条件から¬β\neg\betaは真で¬α\neg\alphaは偽となり、最初の含意が偽になるので矛盾する。したがって H3 も恒真である。

modus ponens の行では、v⊨αv\models\alphaとv⊨α→βv\models\alpha\to\betaから含意の真理値規則によりv⊨βv\models\betaが従う。ゆえに末項φ\varphiも真である。vvは任意であるからΓ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiである。▨

前提集合が有限である場合の完全性は、真理表の各行に対応する導出を作ることによって、選択原理を用いずに証明することができる。この節では命題変数の集合PPに条件を課さない。

4 有限完全性

定義 4.1.p1,…,pnp_1,\ldots,p_nを相異なる命題変数、a∈2na\in\mathbf2^nとする。

pia={piai=1,¬piai=0,Δa={p1a,…,pna}.p_i^a= \begin{cases} p_i&a_i=1,\\ \neg p_i&a_i=0 \end{cases}, \qquad \Delta_a=\{p_1^a,\ldots,p_n^a\}.

付値va:P→2v_a:P\to\mathbf2を、1≤i≤n1\le i\le nについてva(pi)=aiv_a(p_i)=a_iとし、p1,…,pnp_1,\ldots,p_n以外の命題変数については値00を与えるものとして定める。また、論理式θ\thetaの符号付き形 (signed formula) を

θa={θva⊨θ,¬θva⊭θ\theta^a= \begin{cases} \theta&v_a\models\theta,\\ \neg\theta&v_a\not\models\theta \end{cases}

と定める。

補題 4.2.θ\thetaがp1,…,pnp_1,\ldots,p_n以外の命題変数を含まないとする。任意のa∈2na\in\mathbf2^nについて

Δa⊢PLθa\Delta_a\vdash_{\mathrm{PL}}\theta^a

である。

証明.θ\thetaに関する構造帰納法を用いる。θ=pi\theta=p_iの場合、piap_i^aはΔa\Delta_aの元である。

θ=¬α\theta=\neg\alphaとする。va⊨¬αv_a\models\neg\alphaならθa=¬α\theta^a=\neg\alphaであり、帰納法の仮定が同じ式を与える。va⊭¬αv_a\not\models\neg\alphaならva⊨αv_a\models\alphaである。帰納法の仮定からΔa⊢α\Delta_a\vdash\alphaを得て、D1 と modus ponens によりΔa⊢¬¬α=θa\Delta_a\vdash\neg\neg\alpha=\theta^aを得る。

θ=α→β\theta=\alpha\to\betaとする。va⊨θv_a\models\thetaでva⊨βv_a\models\betaの場合、帰納法の仮定からβ\betaを得る。H1 と modus ponens によりα→β\alpha\to\betaを得る。va⊨θv_a\models\thetaでva⊭αv_a\not\models\alphaの場合、帰納法の仮定から¬α\neg\alphaを得る。D2 と modus ponens によりα→β\alpha\to\betaを得る。含意が真である場合はこの二場合の少なくとも一方である。

va⊭θv_a\not\models\thetaの場合、va⊨αv_a\models\alphaかつva⊭βv_a\not\models\betaである。帰納法の仮定はα\alphaと¬β\neg\betaの導出を与える。D3 と二回の modus ponens により¬(α→β)=θa\neg(\alpha\to\beta)=\theta^aを得る。▨

定理 4.3 (命題論理の有限完全性).Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)が有限であり、φ∈Form⁡(P)\varphi\in\operatorname{Form}(P)とする。Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiならΓ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiである。

証明. まず、恒真な論理式χ\chiは証明可能であることを示す。χ\chiに現れる変数をp1,…,pnp_1,\ldots,p_nとする。各a∈2na\in\mathbf2^nについて、補題 4.2はΔa⊢χ\Delta_a\vdash\chiを与える。

pnp_n以外の符号付きリテラルを固定する。pn=1p_n=1の行とpn=0p_n=0の行に演繹定理を適用すると、残りのリテラルからpn→χp_n\to\chiと¬pn→χ\neg p_n\to\chiを導くことができる。D4 と二回の modus ponens により、残りのリテラルだけからχ\chiを導く。pn,pn−1,…,p1p_n,p_{n-1},\ldots,p_1の順に同じ操作を繰り返すと⊢χ\vdash\chiを得る。

Γ={γ1,…,γm}\Gamma=\{\gamma_1,\ldots,\gamma_m\}とする。Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiなら、右結合した論理式

χ=γ1→(γ2→⋯(γm→φ)⋯ )\chi=\gamma_1\to(\gamma_2\to\cdots(\gamma_m\to\varphi)\cdots)

は恒真である。実際、いずれかのγi\gamma_iが偽なら対応する含意が真となり、すべてが真なら仮定からφ\varphiが真となる。前半により⊢χ\vdash\chiである。γ1,…,γm\gamma_1,\ldots,\gamma_mを前提として順に modus ponens を適用すればΓ⊢φ\Gamma\vdash\varphiを得る。m=0m=0の場合は前半そのものである。▨

前提集合が無限である場合には、すべての前提を一つの含意χ\chiへまとめることができないため、上の構成をそのまま用いることができない。以下では、前提集合を極大な無矛盾集合へ拡大し、そこから付値を作る方法へ移る。この方法は命題変数の集合の濃度に依存しない。

5 構文的無矛盾性

定義 5.1.Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)が構文的に無矛盾 (syntactically consistent) であるとは、Γ⊢PLψ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓ⊢PL¬ψ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiを満たす論理式ψ∈Form⁡(P)\psi\in\operatorname{Form}(P)が存在しないことをいう。

補題 5.2.(Γi)i∈I(\Gamma_i)_{i\in I}を、包含関係で全順序付けられた構文的に無矛盾な集合からなる空でない族とする。このとき⋃i∈IΓi\bigcup_{i\in I}\Gamma_iも構文的に無矛盾である。

証明.Γ=⋃i∈IΓi\Gamma=\bigcup_{i\in I}\Gamma_iと置き、あるψ\psiについてΓ⊢PLψ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓ⊢PL¬ψ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiであると仮定する。系 1.6を二つの導出へ適用すると、有限部分集合Δ1,Δ2⊆Γ\Delta_1,\Delta_2\subseteq\GammaでΔ1⊢PLψ\Delta_1\vdash_{\mathrm{PL}}\psiとΔ2⊢PL¬ψ\Delta_2\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiを満たすものが存在する。Δ=Δ1∪Δ2\Delta=\Delta_1\cup\Delta_2はΓ\Gammaの有限部分集合である。

Δ\Deltaが空である場合には、族が空でないことから要素Γi0\Gamma_{i_0}を一つ取る。Δ\Deltaが空でない場合には、Δ\Deltaの各要素についてそれを含むΓi\Gamma_iを一つずつ取り、有限個の添字を得る。この取り出しは有限個の対象についての選択であり、有限個の選択は ZF のもとで有限回の存在量化子の除去として行うことができるので、選択原理には当たらない。族は包含関係で全順序付けられているから、この有限個の集合には包含関係についての最大元が存在する。それをΓi0\Gamma_{i_0}とする。どちらの場合にもΔ⊆Γi0\Delta\subseteq\Gamma_{i_0}である。

前提を増やしても同じ導出を用いることができるので、Γi0⊢PLψ\Gamma_{i_0}\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓi0⊢PL¬ψ\Gamma_{i_0}\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiとなる。これはΓi0\Gamma_{i_0}が構文的に無矛盾であることに反する。▨

定義 5.3.Γ∗⊆Form⁡(P)\Gamma^*\subseteq\operatorname{Form}(P)が極大無矛盾 (maximally consistent) であるとは、Γ∗\Gamma^*が構文的に無矛盾であり、かつΓ∗⊊Γ′⊆Form⁡(P)\Gamma^*\subsetneq\Gamma'\subseteq\operatorname{Form}(P)を満たす構文的に無矛盾な集合Γ′\Gamma'が存在しないことをいう。

定理 5.4 (Lindenbaum の補題). 命題変数の集合PPに濃度の制限を課さない。構文的に無矛盾な任意のΓ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)に対して、Γ⊆Γ∗\Gamma\subseteq\Gamma^*を満たす極大無矛盾な集合Γ∗⊆Form⁡(P)\Gamma^*\subseteq\operatorname{Form}(P)が存在する。この存在証明では Zorn の補題、したがって選択公理を用いる。

証明.Γ\Gammaを含む構文的に無矛盾なForm⁡(P)\operatorname{Form}(P)の部分集合全体をC\mathcal Cとし、包含関係で順序づける。Γ\Gamma自身がC\mathcal Cに属するのでC\mathcal Cは空でない。

C\mathcal Cに含まれる鎖D\mathcal Dを任意に取る。D\mathcal Dが空なら、Γ\GammaがD\mathcal Dの上界である。D\mathcal Dが空でないなら、補題 5.2により⋃D\bigcup\mathcal Dは構文的に無矛盾であり、D\mathcal Dの各要素がΓ\Gammaを含むので⋃D\bigcup\mathcal DもΓ\Gammaを含む。したがって⋃D\bigcup\mathcal DはC\mathcal Cに属し、D\mathcal Dの上界である。

Zorn の補題(§E1.20 定理 2.1の§E1.20 定理 2.1 (3))をC\mathcal Cへ適用すると、極大元Γ∗\Gamma^*が存在する。Γ∗\Gamma^*は構文的に無矛盾でありΓ\Gammaを含む。Γ∗⊊Γ′⊆Form⁡(P)\Gamma^*\subsetneq\Gamma'\subseteq\operatorname{Form}(P)を満たす構文的に無矛盾なΓ′\Gamma'が存在すれば、Γ′\Gamma'もΓ\Gammaを含むのでΓ′\Gamma'はC\mathcal Cに属し、C\mathcal CにおけるΓ∗\Gamma^*の極大性に反する。ゆえにΓ∗\Gamma^*は定義 5.3の意味で極大無矛盾である。▨

補題 5.5.Γ∗⊆Form⁡(P)\Gamma^*\subseteq\operatorname{Form}(P)を極大無矛盾とし、σ,τ∈Form⁡(P)\sigma,\tau\in\operatorname{Form}(P)とする。このとき、次が成り立つ。

  1. Γ∗⊢PLσ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigmaであることとσ∈Γ∗\sigma\in\Gamma^*であることは同値である。
  2. σ\sigmaと¬σ\neg\sigmaのちょうど一方がΓ∗\Gamma^*に属する。
  3. σ→τ∈Γ∗\sigma\to\tau\in\Gamma^*であることと、σ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*またはτ∈Γ∗\tau\in\Gamma^*であることは同値である。

証明.(1)を示す。σ∈Γ∗\sigma\in\Gamma^*なら、一項だけからなる列σ\sigmaがΓ∗\Gamma^*からの導出である。逆に、Γ∗⊢PLσ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigmaかつσ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*と仮定する。Γ∗∪{σ}\Gamma^*\cup\{\sigma\}が構文的に無矛盾でないとすると、あるψ\psiについてΓ∗∪{σ}⊢PLψ\Gamma^*\cup\{\sigma\}\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓ∗∪{σ}⊢PL¬ψ\Gamma^*\cup\{\sigma\}\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiである。定理 1.5 (演繹定理)によりΓ∗⊢PLσ→ψ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigma\to\psiかつΓ∗⊢PLσ→¬ψ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigma\to\neg\psiであり、仮定Γ∗⊢PLσ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigmaとあわせて modus ponens を適用するとΓ∗⊢PLψ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓ∗⊢PL¬ψ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiとなって、Γ∗\Gamma^*の無矛盾性に反する。したがってΓ∗∪{σ}\Gamma^*\cup\{\sigma\}は構文的に無矛盾である。σ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*からΓ∗⊊Γ∗∪{σ}\Gamma^*\subsetneq\Gamma^*\cup\{\sigma\}であるから、これはΓ∗\Gamma^*の極大性に反する。ゆえにσ∈Γ∗\sigma\in\Gamma^*である。

(2)を示す。σ\sigmaと¬σ\neg\sigmaが両方Γ∗\Gamma^*に属するなら、どちらも一項の導出をもつのでΓ∗\Gamma^*の無矛盾性に反する。次にσ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*とする。極大性によりΓ∗∪{σ}\Gamma^*\cup\{\sigma\}は構文的に無矛盾でないから、あるψ\psiについてΓ∗∪{σ}⊢PLψ\Gamma^*\cup\{\sigma\}\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΓ∗∪{σ}⊢PL¬ψ\Gamma^*\cup\{\sigma\}\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiである。補題 2.1の D2 をα=ψ\alpha=\psi、β=¬σ\beta=\neg\sigmaとして得る

¬ψ→(ψ→¬σ)\neg\psi\to(\psi\to\neg\sigma)

へ二回の modus ponens を適用すると、Γ∗∪{σ}⊢PL¬σ\Gamma^*\cup\{\sigma\}\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\sigmaである。演繹定理によりΓ∗⊢PLσ→¬σ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigma\to\neg\sigmaを得る。D4 をα=σ\alpha=\sigma、χ=¬σ\chi=\neg\sigmaとして得る

(σ→¬σ)→((¬σ→¬σ)→¬σ)(\sigma\to\neg\sigma)\to((\neg\sigma\to\neg\sigma)\to\neg\sigma)

と、補題 1.4が与える⊢PL¬σ→¬σ\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\sigma\to\neg\sigmaへ二回の modus ponens を適用するとΓ∗⊢PL¬σ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\sigmaを得る。(1)により¬σ∈Γ∗\neg\sigma\in\Gamma^*である。したがって、ちょうど一方がΓ∗\Gamma^*に属する。

(3)を示す。τ∈Γ∗\tau\in\Gamma^*の場合、H1 の代入例τ→(σ→τ)\tau\to(\sigma\to\tau)と modus ponens によりΓ∗⊢PLσ→τ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\sigma\to\tauであり、(1)からσ→τ∈Γ∗\sigma\to\tau\in\Gamma^*である。σ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*の場合、(2)により¬σ∈Γ∗\neg\sigma\in\Gamma^*であり、D2 の代入例¬σ→(σ→τ)\neg\sigma\to(\sigma\to\tau)と modus ponens により同じ結論を得る。逆にσ→τ∈Γ∗\sigma\to\tau\in\Gamma^*とする。σ∈Γ∗\sigma\in\Gamma^*なら、modus ponens によりΓ∗⊢PLτ\Gamma^*\vdash_{\mathrm{PL}}\tauであり、(1)からτ∈Γ∗\tau\in\Gamma^*である。ゆえにσ∉Γ∗\sigma\notin\Gamma^*またはτ∈Γ∗\tau\in\Gamma^*が成り立つ。▨

6 モデルの存在、完全性、コンパクト性

定理 6.1. 命題変数の集合PPに濃度の制限を課さない。構文的に無矛盾な任意のΓ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)に対して、Γ\Gammaのすべての論理式を真にする付値v:P→2v:P\to\mathbf2が存在する。この証明では、Lindenbaum の補題を通じて選択公理を用いる。

証明.定理 5.4 (Lindenbaum の補題)により、Γ\Gammaを含む極大無矛盾な集合Γ∗\Gamma^*を取る。付値v:P→2v:P\to\mathbf2を

v(p)={1p∈Γ∗,0p∉Γ∗v(p)= \begin{cases} 1&p\in\Gamma^*,\\ 0&p\notin\Gamma^* \end{cases}

と定める。各論理式φ\varphiについて、v^(φ)=1\widehat v(\varphi)=1であることとφ∈Γ∗\varphi\in\Gamma^*であることが同値である、という条件を考える。この条件を満たす論理式全体の集合をAAとし、A=Form⁡(P)A=\operatorname{Form}(P)を§E16.1 定理 1.3によって示す。以下では補題 5.5の各項を用いる。

φ\varphiが命題変数ppである場合、v^(p)=v(p)\widehat v(p)=v(p)であり、vvの定義からv(p)=1v(p)=1であることとp∈Γ∗p\in\Gamma^*であることは同値である。ゆえにp∈Ap\in Aである。

φ∈A\varphi\in Aとする。v^(¬φ)=1−v^(φ)\widehat v(\neg\varphi)=1-\widehat v(\varphi)であるから、v^(¬φ)=1\widehat v(\neg\varphi)=1であることとv^(φ)=0\widehat v(\varphi)=0であることは同値である。φ∈A\varphi\in Aにより、後者はφ∉Γ∗\varphi\notin\Gamma^*と同値である。補題 5.5 (2)により、これは¬φ∈Γ∗\neg\varphi\in\Gamma^*と同値である。ゆえに¬φ∈A\neg\varphi\in Aである。

φ,ψ∈A\varphi,\psi\in Aとする。含意の真理値規則により、v^(φ→ψ)=1\widehat v(\varphi\to\psi)=1であることと、v^(φ)=0\widehat v(\varphi)=0またはv^(ψ)=1\widehat v(\psi)=1であることは同値である。φ,ψ∈A\varphi,\psi\in Aにより、後者はφ∉Γ∗\varphi\notin\Gamma^*またはψ∈Γ∗\psi\in\Gamma^*と同値である。補題 5.5 (3)により、これは(φ→ψ)∈Γ∗(\varphi\to\psi)\in\Gamma^*と同値である。ゆえに(φ→ψ)∈A(\varphi\to\psi)\in Aである。

構造帰納法によりA=Form⁡(P)A=\operatorname{Form}(P)である。Γ⊆Γ∗\Gamma\subseteq\Gamma^*であるから、各γ∈Γ\gamma\in\Gammaについてγ∈Γ∗\gamma\in\Gamma^*であり、したがってv^(γ)=1\widehat v(\gamma)=1、すなわちv⊨γv\models\gammaである。ゆえにvvはΓ\Gammaのすべての論理式を真にする。▨

定理 6.2 (Hilbert 系の完全性). 命題変数の集合PPに濃度の制限を課さない。Γ⊆Form⁡(P)\Gamma\subseteq\operatorname{Form}(P)、φ∈Form⁡(P)\varphi\in\operatorname{Form}(P)について

Γ⊢PLφ⟺Γ⊨PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphi \quad\Longleftrightarrow\quad \Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphi

である。Γ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiからΓ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiを導く向きは選択公理を用いない。逆向きの証明では、Zorn の補題、したがって選択公理を用いる。

証明. 左から右は定理 3.1 (Hilbert 系の健全性)である。

右から左を示す。Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiとする。§E16.1 命題 3.2 (2)により、Γ∪{¬φ}\Gamma\cup\{\neg\varphi\}のすべての論理式を真にする付値は存在しない。定理 6.1の対偶により、Γ∪{¬φ}\Gamma\cup\{\neg\varphi\}は構文的に無矛盾でない。すなわち、あるψ\psiについて

Γ∪{¬φ}⊢PLψ,Γ∪{¬φ}⊢PL¬ψ\Gamma\cup\{\neg\varphi\}\vdash_{\mathrm{PL}}\psi, \qquad \Gamma\cup\{\neg\varphi\}\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psi

が成り立つ。補題 2.1の D2 をα=ψ\alpha=\psi、β=φ\beta=\varphiとして得る¬ψ→(ψ→φ)\neg\psi\to(\psi\to\varphi)へ二回の modus ponens を適用すると、Γ∪{¬φ}⊢PLφ\Gamma\cup\{\neg\varphi\}\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiである。定理 1.5 (演繹定理)によりΓ⊢PL¬φ→φ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\varphi\to\varphiを得る。

D4 をα=φ\alpha=\varphi、χ=φ\chi=\varphiとして得る

(φ→φ)→((¬φ→φ)→φ)(\varphi\to\varphi)\to((\neg\varphi\to\varphi)\to\varphi)

と、補題 1.4が与える⊢PLφ→φ\vdash_{\mathrm{PL}}\varphi\to\varphiへ二回の modus ponens を適用するとΓ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiを得る。▨

定理 6.3 (命題論理のコンパクト性). 命題変数の集合PPに濃度の制限を課さない。Σ⊆Form⁡(P)\Sigma\subseteq\operatorname{Form}(P)のすべての有限部分集合が充足可能なら、Σ\Sigmaは充足可能である。この証明では、モデル存在定理を通じて選択公理を用いる。

証明. まずΣ\Sigmaが構文的に無矛盾であることを示す。あるψ\psiについてΣ⊢PLψ\Sigma\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΣ⊢PL¬ψ\Sigma\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiであると仮定する。系 1.6を二つの導出へ適用すると、有限部分集合Δ1,Δ2⊆Σ\Delta_1,\Delta_2\subseteq\SigmaでΔ1⊢PLψ\Delta_1\vdash_{\mathrm{PL}}\psiとΔ2⊢PL¬ψ\Delta_2\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiを満たすものが存在する。Δ=Δ1∪Δ2\Delta=\Delta_1\cup\Delta_2はΣ\Sigmaの有限部分集合であり、前提を増やしても同じ導出を用いることができるのでΔ⊢PLψ\Delta\vdash_{\mathrm{PL}}\psiかつΔ⊢PL¬ψ\Delta\vdash_{\mathrm{PL}}\neg\psiである。

仮定により、Δ\Deltaのすべての論理式を真にする付値wwが存在する。定理 3.1 (Hilbert 系の健全性)によりw^(ψ)=1\widehat w(\psi)=1かつw^(¬ψ)=1\widehat w(\neg\psi)=1となるが、w^(¬ψ)=1−w^(ψ)\widehat w(\neg\psi)=1-\widehat w(\psi)であるから、これは成り立たない。したがってΣ\Sigmaは構文的に無矛盾である。

定理 6.1により、Σ\Sigmaのすべての論理式を真にする付値が存在する。ゆえにΣ\Sigmaは充足可能である。▨

例 6.4 (無限前提からの帰結).Γ\Gammaが無限集合でも、一つの導出が用いる前提は有限個である。したがって、Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiが成り立つなら、定理 6.2 (Hilbert 系の完全性)と系 1.6により、Γ0⊢PLφ\Gamma_0\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiを満たす有限部分集合Γ0⊆Γ\Gamma_0\subseteq\Gammaが存在する。定理 3.1 (Hilbert 系の健全性)をΓ0\Gamma_0へ適用するとΓ0⊨PLφ\Gamma_0\models_{\mathrm{PL}}\varphiも従う。すなわち、無限個の前提からの意味論的帰結は、つねにその有限部分集合からの意味論的帰結である。

7 選択公理を用いた箇所

本記事では、選択公理を次の一箇所で用いた。

  1. 定理 5.4 (Lindenbaum の補題)で、Zorn の補題(§E1.20 定理 2.1の§E1.20 定理 2.1 (3))をΓ\Gammaを含む無矛盾な集合全体へ適用した。

定理 6.1、定理 6.2 (Hilbert 系の完全性)のうち意味論的帰結から導出可能性を導く向き、および定理 6.3 (命題論理のコンパクト性)は、いずれもこの一箇所を通じて選択公理に依存する。

これ以外の主張は選択公理を用いずに証明した。とくに定理 1.5 (演繹定理)、定理 3.1 (Hilbert 系の健全性)、定理 4.3 (命題論理の有限完全性)の証明は、有限回の操作だけからなる。

注意 7.1 (有限の場合との違い).定理 4.3 (命題論理の有限完全性)の証明は、補題 4.2によって真理表の各行に対応する導出を作り、変数を一つずつ D4 で消去する。この手続きは、与えられた有限のΓ\Gammaとφ\varphiから導出そのものを書き下すことができる。一方、定理 6.2 (Hilbert 系の完全性)の証明は、極大無矛盾な集合の存在を Zorn の補題から得るため、Γ\Gammaが無限である場合に導出を明示的に与えない。両者は同じ結論を述べる範囲では一致するが、証明が何を構成するかは異なる。

8 演習

問題 8.1.

  1. 演繹定理の modus ponens の場合に H2 が必要となる箇所を書き下せ。
  2. 健全性だけからΓ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiならΓ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiと結論してはならない理由を述べよ。
  3. 補題 5.2の証明で、導出が有限列であることを用いる箇所を示せ。
  4. 定理 6.3 (命題論理のコンパクト性)の証明で、有限充足可能性からΣ\Sigmaの構文的無矛盾性を導く箇所を、用いた定理の名とともに述べよ。
解答 (確認問題の解答).
  1. α→(δj→δi)\alpha\to(\delta_j\to\delta_i)とα→δj\alpha\to\delta_jからα→δi\alpha\to\delta_iを得る箇所である。
  2. 健全性は導出可能性から意味論的帰結への向きだけを与える。逆向きには、真理値行の導出、または極大無矛盾集合からの付値の構成が必要である。
  3. 合併からψ\psiと¬ψ\neg\psiを導く二つの導出が有限列であることから、系 1.6によって有限個の前提だけを取り出す箇所である。導出が無限列であれば、用いた前提をすべて含む族の要素を一つ選ぶ推論は成立しない。
  4. 二つの導出へ系 1.6を適用して有限部分集合Δ\Deltaを取り、Δ\Deltaを満たす付値へ定理 3.1 (Hilbert 系の健全性)を適用する箇所である。

▨

Hilbert 系の有限導出と二値付値による意味論は、健全性と完全性によって一致する。ただし、Γ⊢PLφ\Gamma\vdash_{\mathrm{PL}}\varphiは有限列の存在を述べ、Γ⊨PLφ\Gamma\models_{\mathrm{PL}}\varphiはすべての付値を量化するため、両者の定義上の役割は異なる。命題変数の集合に濃度の制限を課さない範囲で両者が一致することを、本稿は Zorn の補題によって示した。

参考文献

  1. E. Mendelson, Introduction to Mathematical Logic, 6th ed., CRC Press, 2015.命題論理の Hilbert 型体系、演繹定理、および完全性定理の扱いを参考にした。
  2. Herbert B. Enderton, A Mathematical Introduction to Logic, 2nd ed., Academic Press, 2001.命題論理の構文と意味論、およびコンパクト性定理の扱いを参考にした。

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