円の弦の中点を通る別の二本の弦を引き、それぞれの端点を交差させて結ぶと、もとの弦の上に二つの交点が定まります。本記事は、二つの交点が弦の中点から等しい距離にあるという蝶形定理を初等幾何と座標の両方で証明し、中点の仮定を外した配置を扱います。
定理 1 (蝶形定理). 円Γの弦PQの中点をMとする。Mを通るΓの弦AB,CDで、PQとも互いとも異なるものをとり、直線ADと直線BCがどちらも直線PQと平行でないとする。
X=AD∩PQ,Y=BC∩PQとおくと、X=Yであり、Mは線分XYの中点である。とくにMX=MYが成り立つ。
定義 2 (向きをもつ角). 二直線ℓ,mの 向きをもつ角 (directed angle)(有向角)∠(ℓ,m)を、ℓを反時計回りに回してmと平行にするための回転角として、180°を法として定める。
補題 4 (交わる二弦が定める相似). 円Γの相異なる弦AB,CDがΓの内部の点Mで交わるとする。このときMA⋅MB=MC⋅MDであり、平面の相似変換φで、Mを固定し、AをCへ、DをBへ写し、向きをもつ角の符号を反転するものが存在する。φは線分ADの中点を線分CBの中点へ写す。
証明.
方べきの定理によりMA⋅MB=MC⋅MDである。MはΓの内部にあるから、Mは線分ABの内部の点であり、線分CDの内部の点でもある。A=Cである。A=Cならば二弦はともにAとMを通り一致するからである。半直線MAと半直線MCは一致しない。一致すれば、Mから出る一つの半直線がΓと相異なる二点A,Cで交わることになり、内部の点から出る半直線がΓとただ一点で交わることに反する。半直線MAと半直線MCは互いに逆向きでもない。逆向きならばA,M,Cが一直線上にあり、弦ABと弦CDが同じ直線の上にあって一致する。したがって角AMCは0°より大きく180°より小さく、その二等分線ℓ0が定まる。
ℓ0に関する対称移動をτとする。τはMを固定し、半直線MAと半直線MCを入れ替え、したがってそれらと逆向きの半直線MBと半直線MDも入れ替える。k=MC/MAとおくと、MA⋅MB=MC⋅MDからk=MB/MDでもある。Mを中心とする比kの相似拡大をηとし、φ=η∘τとおく。τ(A)は半直線MCの上にあってMτ(A)=MAを満たすから、φ(A)は半直線MCの上にあってMφ(A)=k⋅MA=MCを満たし、φ(A)=Cである。同様にτ(D)は半直線MBの上にあってMτ(D)=MDを満たすから、Mφ(D)=k⋅MD=MBとなり、φ(D)=Bである。φは対称移動と相似拡大の合成であるから相似変換であり、τが向きをもつ角の符号を反転し、ηが向きをもつ角を保つから、φは符号を反転する。相似変換は線分を線分へ写し、長さを一定の比k倍にするから、線分ADの中点は線分φ(A)φ(D)=CBの中点へ写る。▨
補題 5 (二直線への垂線の足). 相異なる二点O,Xをとり、Xを通る相異なる二直線ℓ,mをとる。Oからℓ,mへ下ろした垂線の足をそれぞれH,Kとする(Oがℓの上にあるときはH=Oとし、mについても同様とする)。K=OかつK=Xならば
∠(ℓ,HK)=∠(OX,OK)が成り立つ。
証明.H=Kである。H=Kならば、この点はℓとmの両方の上にあってXに一致し、K=Xに反する。よって直線HKが定まる。K=Oであるから直線OKも定まる。
H=Oの場合を扱う。OとXはともにℓの上にあるからℓ=OXであり、HK=OKである。したがって両辺は同じ角である。
H=Xの場合を扱う。Oからℓへ下ろした垂線の足がXであるからℓ⊥OXである。またHK=XK=mであり、m⊥OKである。垂直な直線の組の向きをもつ角は等しいから∠(ℓ,HK)=∠(ℓ,m)=∠(OX,OK)となる。
H=OかつH=Xの場合を扱う。Hは直線OXの上にない。Hが直線OXの上にあれば、HとXはともにℓの上にあり相異なるからℓ=OXとなり、Oがℓの上にあってH=Oとなるからである。同じ理由でKも直線OXの上にない。四点H,O,X,Kは相異なり、∠(HO,HX)=90°=∠(KO,KX)であるから、注意 3の共円の判定によりH,O,X,Kは同一円周上にある。この円はOXを直径とする円である。Hは直線XK=mの上になく(Hがmの上にあればH=Xとなる)、Oも直線mの上にない(Oがmの上にあればK=Oとなる)から、弦XKをHとOから見込む角の等式∠(HX,HK)=∠(OX,OK)が成り立つ。HX=ℓであるから主張を得る。▨
証明 (初等幾何による証明). 円Γの中心をOとする。Mは弦PQの中点であるからΓの内部の点であり、A,B,C,Dはいずれも直線PQの上にない。実際、Aが直線PQの上にあれば、Mを通る弦ABは直線PQに含まれて弦PQと一致する。Mは線分ABの内部の点であり、線分CDの内部の点でもあり、A,B,C,Dは相異なる。とくにA,Bは直線PQに関して反対側にあり、C,Dも反対側にある。
X=Mである。Mが直線ADの上にあれば、A=Mより直線ADは直線AM=ABに一致し、Dは直線ABとΓの交点A,Bのいずれかになる。D=Aならば弦CDはAとMを通って弦ABと一致し、D=Bでも同様であって、いずれも仮定に反する。同じ理由でY=Mである。
M=Oの場合を扱う。Mを通る弦AB,CDは直径であるから、Oを中心とする点対称移動ρはAをBへ、CをDへ写す。ρは直線ADを直線BCへ写し、Oを通る直線PQを自分自身へ写すから、ρ(X)=Yである。したがってM=Oは線分XYの中点であり、X=MからX=Yである。
以下M=Oとする。弦の中点と中心を結ぶ直線は弦に垂直であるからOM⊥PQであり、Oは直線PQの上にない。とくにX=OかつY=Oである。
線分ADの中点をM1、線分BCの中点をM2とする。中心から弦へ下ろした垂線の足は弦の中点であるから(弦が直径のときは足も中点もOである)、M1はOから直線ADへ下ろした垂線の足であり、M2はOから直線BCへ下ろした垂線の足である。またMはOから直線PQへ下ろした垂線の足である。M1=Mである。M1=MならばMが直線ADの上にあってX=Mとなるからである。同様にM2=Mである。
点Xを通る二直線ADとPQは相異なり(Aは直線PQの上にない)、M=OかつM=Xであるから、補題 5を点O,X、直線ℓ=AD、m=PQ、足H=M1、K=Mに適用して
∠(AD,M1M)=∠(OX,OM)を得る。同じ補題を点O,Y、直線ℓ=BC、m=PQ、足H=M2、K=Mに適用して
∠(BC,M2M)=∠(OY,OM)を得る。
弦AB,CDは相異なり、Γの内部の点Mで交わるから、補題 4の相似変換φがある。φは直線ADを直線CBへ、直線M1Mを直線M2Mへ写し、向きをもつ角の符号を反転するから
∠(BC,M2M)=∠(φ(AD),φ(M1M))=−∠(AD,M1M)である。三つの等式を合わせて
∠(OY,OM)=−∠(OX,OM)=∠(OM,OX)を得る。
直線OMに関する対称移動をσとする。σは直線OMを固定し、向きをもつ角の符号を反転するから
∠(σ(OX),OM)=∠(σ(OX),σ(OM))=−∠(OX,OM)=∠(OY,OM)である。直線σ(OX)と直線OYはともにOを通り、直線OMとの向きをもつ角が等しいから一致する。また直線PQは直線OMとMで直交するからσ(PQ)=PQである。直線OXと直線PQは相異なり(OはPQの上にない)、Xで交わるから
σ(X)=σ(OX)∩σ(PQ)=OY∩PQ=Yである。σを直線PQに制限すると、PQの上の各点をMに関して対称な点へ写す点対称移動になる。したがってMは線分XYの中点である。σが固定するPQの上の点はMだけであるから、X=MよりX=Yである。▨
証明 (相似と方べきによる別証明).
A,Bは直線PQに関して反対側にあり、C,Dも反対側にある(初等幾何による証明の冒頭と同じ理由による)。ゆえに、AとDが直線PQの反対側にあることと、BとCが反対側にあることは同値である。またX=MかつY=Mであり、Xは直線ABの上にも直線CDの上にもない(直線ABと直線PQの共有点はMだけである)。Yについても同様である。以下、二直線のなす角とは、二直線が作る角のうち0°より大きく90°以下のものをいう。
Xから直線AB,CDへ下ろした垂線の足をそれぞれE,Fとし、Yから直線AB,CDへ下ろした垂線の足をそれぞれG,Kとする。直線PQと直線ABのなす角をθとする。θ<90°のとき、E=MかつG=Mであり、三角形XEMと三角形YGMはそれぞれE,Gで直角をもつ。直角三角形のMにおける角は鋭角であり、直線XM=PQと直線ME=ABのなす角に等しいから、∠XME=θ=∠YMGである。したがって△XEM∼△YGMであり
YGXE=MYMXを得る。θ=90°のときはE=G=Mであり、XE=MXかつYG=MYであるから、同じ等式が直接成り立つ。直線PQと直線CDのなす角について同じ議論を行い
YKXF=MYMXを得る。
四点A,B,C,DはΓの上にあるから、円周角の定理により∠(AB,AD)=∠(CB,CD)が180°を法として成り立ち、直線AB,ADのなす角と直線CB,CDのなす角は等しい。この角をψとする。ψ<90°のとき、E=AかつK=Cであり、直角三角形AXEと直角三角形CYKのA,Cにおける角はいずれもψに等しいから、△AXE∼△CYKであって
YKXE=YCXAを得る。ψ=90°のときはE=AかつK=Cであり、XE=XAかつYK=YCであるから、同じ等式が成り立つ。同様に、円周角の定理による∠(DA,DC)=∠(BA,BC)から、直線DA,DCのなす角と直線BA,BCのなす角が等しく
YGXF=YBXDを得る。四つの等式を掛け合わせると
MY2MX2=YGXE⋅YKXF=YKXE⋅YGXF=YC⋅YBXA⋅XDとなる。
x=MX、y=MY、u=MP=MQとおく。AとDが直線PQの反対側にある場合、Xは線分ADの内部の点であるからΓの内部にあり、したがって線分PQの内部にあってx<uである。Xを通る二弦AD,PQについての方べきの定理により
XA⋅XD=XP⋅XQ=(u−x)(u+x)=u2−x2である。BとCも反対側にあるから、同様にYB⋅YC=u2−y2である。ゆえにx2(u2−y2)=y2(u2−x2)、すなわちu2x2=u2y2であり、x=yを得る。AとDが直線PQの同じ側にある場合、Xは直線ADの上にあって線分ADの外にあるからΓの外部にあり、したがって線分PQの外にあってx>uである。割線の方べきの定理によりXA⋅XD=XP⋅XQ=(x−u)(x+u)=x2−u2であり、同様にYB⋅YC=y2−u2であるから、x2(y2−u2)=y2(x2−u2)から再びx=yを得る。以上で、いずれの配置でもMX=MYである。
AとDが直線PQの反対側にある場合には、さらにMがXとYの間にあることを示す。Mは直線ADの上にない。BはΓの上の点でA,Dと異なるから直線ADの上になく、線分MBは直線ADと交わらない(直線ABが直線ADと共有する点はAだけであり、Aは線分MBの上にない)から、BとMは直線ADに関して同じ側にある。同様にCとMも直線ADに関して同じ側にある。ゆえに線分BCの全体がこの側にあり、その内部の点Yは直線ADの上になく、Mと同じ側にある。したがってX=Yであり、線分MYは直線ADと交わらないから、Xは線分MYの上にない。A,DとB,Cの役割を入れ替えて同じ議論を行うと、Yは線分MXの上にない。直線PQの上の相異なる三点X,M,Yのうち、他の二点の間にあるものはただ一つであるから、MがXとYの間にある。MX=MYと合わせて、Mは線分XYの中点である。
AとDが直線PQの同じ側にある配置では、この証明はMX=MYを示すにとどまり、XとYがMに関して反対側にあることを示していない。その配置を含めた完全な証明は、初等幾何による証明が与える。□
証明 (座標による別証明). 座標をM=(0,0)、弦PQをx軸とし、円を
x2+y2+2my−u2=0と書く。ここでP=(−u,0),Q=(u,0)、u>0である。
弦ABがPQに垂直な場合を扱う。このときABはx=0であり、A=(0,a),B=(0,b)と書くことができる。弦CDはABと異なり、ともにMを通るので垂直ではない。そこでCDをy=sxとし、C=(c,sc),D=(d,sd)と書く。円との交点条件から
a+b=−2m,ab=−u2,c+d=−1+s22ms,cd=−1+s2u2を得る。直線ADとBCがx軸と有限の一点で交わるため、a−sdとb−scはともに0でない。二つの交点のx座標は
xX=a−sdad,xY=b−scbcである。分母を払った和の分子は
ad(b−sc)+bc(a−sd)=ab(c+d)−scd(a+b)となる。右辺の二項へ解の和と積を代入すると、どちらも
1+s22mu2sとなるので、xX+xY=0である。a,d=0であるからxX=0であり、X=Mである。したがってX=Yであり、MはXYの中点である。弦CDが垂直な場合はABとCDの役割を交換すればよく、この交換ではXとYも交換される。両弦がともに垂直ならば、Mを通る同一直線になって別の弦ではないため、その場合は生じない。
以下では、弦AB,CDがともにPQに垂直でない場合を扱う。1本目の弦ABをy=tx、2本目の弦CDをy=sxとする。
A=(a,ta),B=(b,tb)、C=(c,sc),D=(d,sd)と書けば、円との交点条件から
a+b=−1+t22mt,ab=−1+t2u2,c+d=−1+s22ms,cd=−1+s2u2.直線ADとx軸の交点の座標は、2点を通る直線の切片公式から
xX=sd−taad(s−t),同様に
xY=sc−tbbc(s−t).ADとBCがx軸と有限の一点で交わるという仮定により、ここで用いた分母sd−taとsc−tbはともに0でない。分母を払った和の分子は
ad(sc−tb)+bc(sd−ta)=scd(a+b)−tab(c+d).上の解の和・積を代入すると両項はともに
(1+s2)(1+t2)2mu2stとなり、差は0である。したがってxX+xY=0である。a,d=0かつs=t(二弦は異なる)であるからxX=0であり、X=Mである。したがってX=Yであり、MはXYの中点である。分母が0になる平行配置は、定理の有限交点の仮定から除外されている。▨
例 7 (中点仮定を外した配置). 円
x2+y2−2x−24=0と弦PQをx軸上に取り、P=(−4,0),Q=(6,0)とする。M=(0,0)は弦PQ上にあるが、その中点(1,0)ではない。Mを通る二弦の端点を
A=(4,4),B=(−3,−3),C=(512,524),D=(−2,−4)とする。各点は円上にあり、A,M,BとC,M,Dはそれぞれ一直線上にある。直線ADとBCの方程式は
AD: y=34(x−1),BC: y=913(x+1312)であるから、
X=AD∩PQ=(1,0),Y=BC∩PQ=(−1312,0).したがってMX=1とMY=12/13は等しくない。円、三本の弦、二つの交点はすべて非退化であるため、結論を壊した条件はMがPQの中点でないことだけである。
問題 8. 相似と方べきによる別証明で用いた四組の相似を挙げ、それらの相似比と点X,Yを通る弦の方べきから、AとDが直線PQの反対側にある配置で
MY2MX2=MP2−MY2MP2−MX2を導け。
解答.
四組の相似は
△XEM∼△YGM,△XFM∼△YKM,△AXE∼△CYK,△DXF∼△BYGである。前二組は直角とMにおける同じ二直線のなす角から、後二組は直角と円周角から従う。対応する辺の比を掛け、X,Yが弦PQの内部にあることから方べきの定理を適用すると
MY2MX2=YB⋅YCXA⋅XD=YP⋅YQXP⋅XQ=MP2−MY2MP2−MX2となる。▨
問題 9.例 7の直線AD,BCとx軸との交点をそれぞれ計算し、MX=MYを確かめよ。
解答.
ADは(4,4)と(−2,−4)を通るのでy=34(x−1)であり、x軸との交点はX=(1,0)である。BCは(−3,−3)と(12/5,24/5)を通るのでy=913(x+12/13)であり、x軸との交点はY=(−12/13,0)である。したがってMX=1、MY=12/13であり、両者は等しくない。▨