1 初等幾何による証明
この節は定理 1を初等幾何によって証明します。
補題 1.1. 非退化三角形△ABCの外心をO、垂心をHとし、直線AOと外接円の交点のうちAでない方をA′とする。辺BCの中点MAは、線分HA′の中点である。頂点B、Cについても、頂点の名前を入れ替えた同じ主張が成り立つ。
証明.H=Bであれば、BはAからの高さの上にあるからAB⊥BC、すなわち∠B=90°である。逆に∠B=90°であれば、Aからの高さとCからの高さはいずれもBを通るからH=Bである。H=Cと∠C=90°についても、同じ同値が成り立つ。
∠B=90°の場合を先に扱う。円周角の定理の逆により、ACは外接円の直径である。したがってOは線分ACの中点であり、直線AOと外接円のAでない交点はCであるからA′=Cとなる。このときH=Bであり、線分HA′は辺BCそのものであるから、その中点はMAである。∠C=90°の場合には、BとCを入れ替えて同じ議論を行う。
以下、∠Bと∠Cがいずれも90°でない場合を扱う。前段の同値によりHはBともCとも異なる。さらにHは直線BC上にない。Hが直線BC上にあるとすると、Bからの高さは直線BH=BCであり、これがCAに垂直であることから∠C=90°となって仮定に反するからである。また、A′=CであればACが外接円の直径となり、円周角の定理により∠B=90°となる。A′=Bであれば同じ理由で∠C=90°となる。いずれも仮定に反するから、A′はBともCとも異なり、直線BCと外接円の共有点はBとCだけであるから、A′も直線BC上にない。
線分AA′は外接円の直径であり、BとCはその両端と異なる外接円上の点である。したがって円周角の定理により
∠ABA′=∠ACA′=90°となり、BA′⊥ABかつCA′⊥ACを得る。一方、Hは垂心であるからCH⊥ABかつBH⊥ACである。同一の直線に垂直な二直線は平行であるから
BA′∥CH,CA′∥BHが成り立つ。三点B,H,Cは一直線上になく、四角形BHCA′は向かい合う二組の辺がそれぞれ平行であるから、平行四辺形である。平行四辺形の二本の対角線はそれぞれの中点で交わるから、対角線BCの中点MAは対角線HA′の中点でもある。
頂点B、Cについては、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
補題 1.2. 非退化三角形△ABCの垂心Hの、直線BCに関する鏡像をHA∗とすると、HA∗は△ABCの外接円上にある。直線CA、ABに関するHの鏡像についても、同じことが成り立つ。
証明.Hが直線BC上にある場合を先に扱う。H=Bとすると、Bからの高さは直線BH=BCであり、これがCAに垂直であることから∠C=90°、したがってH=Cとなる。ゆえにHはBまたはCに一致する。直線BCに関する鏡映はこの直線上の点を動かさないからHA∗=Hであり、Hは頂点として外接円上にある。
以下、Hが直線BC上にない場合を扱う。このときHはBともCとも異なり、HA∗も直線BC上にない。鏡映はBとCを動かさないから、HA∗=BはH=Bを、HA∗=CはH=Cを意味し、どちらも起こらない。HA∗=Aの場合にはHA∗は外接円上にあるから、以下ではHA∗=Aとする。
直線HBはCAに垂直であり、直線HCはABに垂直であるから、定義 2の垂直な二直線についての等式により
∠(HB,HC)=∠(CA,AB)(mod180°)である。直線BCに関する鏡映はBとCを固定し、HをHA∗へ写すから、同じ定義の対称移動についての等式により
∠(HA∗B,HA∗C)=−∠(HB,HC)=∠(AB,AC)(mod180°)を得る。四点A,B,C,HA∗は相異なり、A,B,CとHA∗,B,Cはいずれも一直線上にないから、定義 2の共円判定によりHA∗は△ABCの外接円上にある。
直線CA、ABに関する鏡像については、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
以上の二つの補題により、定理 1を証明します。
証明. 中心H、相似比21の相似変換をhとする。このhは、各点Xを線分HXの中点へ写す。相似変換は円を円へ写し、もとの円の中心を像の円の中心とし、半径を相似比倍にする。h(O)は線分HOの中点であり、これはNである。したがって外接円の像Γ′は、中心N、半径2Rの円である。
Aは外接円上にあり、h(A)は線分HAの中点EAであるから、EAはΓ′上にある。
補題 1.1の点A′は外接円上にあり、h(A′)は線分HA′の中点である。同じ補題により、この中点はMAである。したがってMAはΓ′上にある。
補題 1.2の点HA∗は外接円上にあり、h(HA∗)は線分HHA∗の中点である。鏡映の定義により、この中点はHから直線BCへ下ろした垂線の足である。Aからの高さはHを通り直線BCに垂直な直線であり、Hを通って直線BCに垂直な直線は一本しかないから、この足はHAに一致する。したがってHAはΓ′上にある。
頂点B、Cについて頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行うと、EB,EC,MB,MC,HB,HCもΓ′上にある。ゆえに9点はすべて中心N、半径2Rの円Γ′上にある。R>0であるからΓ′は退化しない。▨
2 位置ベクトルによる別証明
定理 2.1 (垂心の位置ベクトル).△ABCの外心Oを原点とし、各頂点の位置ベクトルをa,b,cとする。三本の高さの交点Hの位置ベクトルは
h=a+b+cである。
証明.h′:=a+b+cで定まる点H′を取る。辺BCの中点をMAとすると
mA=2b+c,h′−a=b+c=2mAとなる。∣OB∣=∣OC∣=Rであるから、O=MAの場合には直線OMAはBCの垂直二等分線である。したがってh′−aはBCに垂直であり、H′はAからの高さの上にある。
O=MAの場合にはb+c=0であるからH′=Aとなり、この場合にもH′はAからの高さの上にある。h′の式はa,b,cについて対称であるから、同じ議論によりH′は残り二本の高さの上にもある。したがって三本の高さはH′で交わり、垂心の定義からH′=Hである。ゆえに主張の式を得る。▨
証明.Oを原点とし、定理 2.1を適用して
n=2h=2a+b+cと書く。定義から
mA=2b+c,eA=2a+h=22a+b+cであるから
mA−n=−2a,eA−n=2aを得る。∣a∣=Rであるため、MAとEAはNから距離R/2にあり、線分MAEAはこの円の直径である。B、Cについても同じ計算を行うと、三辺の中点と三つのオイラー点が円周上にある。
HA=MAまたはHA=EAの場合には、HAは既に得た六点の一つである。HAが両方と異なる場合には∠MAHAEA=90°であるから、円周角の定理の逆によりHAも同じ円周上にある。HB,HCについても同じ場合分けをして議論すると、九点すべてが中心N、半径R/2の円周上にある。▨
この別証明では、辺の中点とオイラー点のNに対する位置ベクトルが±a/2,±b/2,±c/2になります。六つの点がNから等距離にあり、残る三つの垂線の足が三本の直径を直角に見込むという構造が、位置ベクトルによって表されています。
定理 2.2 (九点円(主定理)). 非退化三角形の各辺の中点3つ、各頂点から対辺へ下ろした垂線の足3つ、垂心と各頂点の中点3つは、同じ円周上にある。
証明.定理 1を適用すると、9点は中心N、半径R/2の同一円周上にある。▨
定理 2.3 (九点円の半径と中心). 九点円の半径は外接円の半径の半分であり、その中心Nは外心Oと垂心Hの中点である。三角形が正三角形でない場合、Nはオイラー線上にある。正三角形の場合はN=O=Hであり、オイラー線は一意に定まらない。
証明.定理 1を適用すると、九点円の中心はOHの中点Nであり、半径はR/2である。三角形が正三角形でない場合、§C2.2 定理 1によりO,G,Hは一直線上にあり、直線OHがオイラー線である。NはOHの中点であるから、オイラー線上にある。正三角形の場合はO=Hであるため、その中点もN=O=Hとなる。一点だけでは直線が定まらないので、この場合のオイラー線は一意に定まらない。▨
3 確認問題
問題 3.1. 非退化三角形△ABCの垂心をHとする。辺BCの中点MAと、HとAを結ぶ線分の中点EAが、九点円の同一の直径の両端であることを示せ。MBとEB、MCとECについても同じことが成り立つ理由を述べよ。
解答.
補題 1.1の点A′を取ると、線分AA′は外接円の直径である。中心H、相似比1/2の相似hは外接円を九点円へ写し、外接円の中心Oを九点円の中心Nへ写すから、Oを通る弦AA′の像はNを通る弦、すなわち九点円の直径である。h(A)は線分HAの中点EAであり、同じ補題によりh(A′)は線分HA′の中点MAである。したがって線分EAMAは九点円の直径であり、MAとEAはその両端である。MBとEB、MCとECについては、同じ補題が頂点B、Cについても成り立つので、頂点の名前を入れ替えて同じ議論を行う。▨
問題 3.2.∠A=90°の直角三角形と正三角形について、九点のうち一致するものを列挙せよ。また、点が一致しても九点円が退化しない理由を答えよ。
解答.
∠A=90°の場合、H=AであるからHB=HC=EA=A、EB=MC、EC=MBとなる。正三角形の場合、各高さの足は対応する辺の中点であるからHA=MA、HB=MB、HC=MCとなる。いずれの場合も三角形は非退化であり、外接円の半径はR>0である。したがって九点円の半径R/2は正であり、円は退化しない。▨
4 もう少し先へ
九点円は内接円と三つの傍接円のすべてに接します。この事実はフォイエルバッハの定理と呼ばれ、その証明は後続の項目で扱います。
「オイラー線」という名称には、外心・重心・垂心が一直線上にありOG:GH=1:2となる主張も含まれます。本記事の九点円そのものの構成では重心を用いません。九点円の中心Nがオイラー線上にあるという帰結だけは、§C2.2 定理 1を通じて外心・重心・垂心の共線性を用います。