三角形の各辺またはその延長上に一点ずつ取ると、各頂点と隣り合う二点を通る円が三つ定まります。最初の二円の第二交点は、残る円にも属します。本記事は、三円の共通点を与えるミケルの定理を、辺の延長上の配置も含めて扱います。
定理 1 (ミケルの定理). 非退化三角形△ABCの直線BC、直線CA、直線ABの上に、頂点とは異なる点D、E、Fをそれぞれ取る。円(AEF)と円(BFD)がFで接しない、すなわち二円の共有点がFだけではないとする。このとき、この二円のFでない交点Mは円(CDE)の上にもあり、三円はMを共有する。
補題 2. 非退化三角形△ABCの直線BC、直線CA、直線ABの上に、頂点とは異なる点D、E、Fをそれぞれ取る。このとき三点組A,E,F、B,F,D、C,D,Eはいずれも同一直線上になく、これらを通る円(AEF)、(BFD)、(CDE)がそれぞれただ一つ定まる。さらに円(AEF)と円(BFD)は相異なる。
証明.Eは直線CAの上にありAと異なるから、二点A、Eを通る直線は直線CAである。同様にFは直線ABの上にありAと異なるから、二点A、Fを通る直線は直線ABである。三角形ABCは非退化なので直線CAと直線ABは相異なり、Fは直線CAの上にない。よって三点A、E、Fは相異なり、同一直線上にない。B、F、DとC、D、Eについても、頂点をB、Cに取り替えて同じ議論が成り立つ。
同一直線上にない相異なる三点に対して、§A5.8 定理 8.2により、その三点を頂点とする三角形の三辺の垂直二等分線はただ一点で交わり、その点を中心とする円が三点を通る。三点を通る円の中心は三本の垂直二等分線のいずれの上にもなければならないから、中心はこの一点に限り、円もただ一つに限る。よって円(AEF)、(BFD)、(CDE)がそれぞれただ一つ定まる。
円と直線が相異なる三点を共有することはない。実際、円の中心から直線へ下ろした垂線の足をHとすると、直線上の点Xに対する中心とXの距離はHとXの距離だけで定まり、半径に等しい距離を与える点はHの両側にそれぞれ高々一つだからである。A、F、Bは直線ABの上の相異なる三点であり、円(AEF)はAとFを、円(BFD)はBとFを通る。二円が一致すればその円がA、F、Bを共有することになるので、二円は相異なる。▨
定義 3 (向きをもつ角). 平面の二直線ℓ、mに対し、ℓをmに平行な直線へ重ねる回転を考える。この回転の角を反時計回りを正として測ると180°の整数倍だけの不定性をもつので、180°を法とする値がただ一つ定まる。この値は回転の中心の取り方によらない。この値をℓからmへの向きをもつ角 (directed angle)(有向角)と呼び、∠(ℓ,m)と書く。相異なる二点P、Qを通る直線をPQと書き、∠(PQ,PR)のように用いる。∠(ℓ,m)を含む等式は、すべて180°を法とする等式である。
補題 4. 平面の三直線ℓ、m、nに対して
∠(ℓ,m)+∠(m,n)=∠(ℓ,n)(mod180°)が成り立ち、とくに∠(m,ℓ)=−∠(ℓ,m)(mod180°)である。
証明. 平面の一点Oを固定し、以下では回転をすべてOを中心とするものに取る。直線の向きは平行移動で変わらないから、三つの角のいずれもこの中心の回転の角として測ることができる。ℓをmに平行な直線へ重ねる回転の角をθ、mをnに平行な直線へ重ねる回転の角をφとする。角θの回転でℓはmに平行な直線へ移り、続けて角φの回転を行うとその直線はnに平行な直線へ移る。中心が同じ二つの回転の合成は角θ+φの回転であるから、θ+φはℓをnに平行な直線へ重ねる回転の角であり、第一の等式を得る。この等式でnをℓに取ると、∠(ℓ,ℓ)=0により∠(ℓ,m)+∠(m,ℓ)=0となり、∠(m,ℓ)=−∠(ℓ,m)を得る。▨
補題 5 (向きをもつ角による四点共円の判定). 相異なる二点Q、Rと、直線QRの上にない相異なる二点P、Sを取る。四点P、Q、R、Sが同一円周上にあるための必要十分条件は
∠(PQ,PR)=∠(SQ,SR)(mod180°)である。
証明. 直線QRの上にない点Xを取る。点Xのまわりに半直線XQを反時計回りにθX∈(−180°,180°)だけ回して半直線XRへ重ねることができ、∣θX∣は通常の角∠QXRに等しい。この回転は直線XQを直線XRへ重ねるから∠(XQ,XR)=θX(mod180°)である。Xが直線QRの上にないのでθX=0である。θX>0であることは、Rが有向直線X→Qの左にあること、すなわち三角形XQRが反時計回りであることと同値である。三角形の向きは頂点を巡回的に入れ替えても変わらないから、これはXが有向直線Q→Rの左にあることと同値である。よってθXの符号は、Xが直線QRのどちら側にあるかだけで決まる。
PとSが直線QRの同じ側にある場合、θPとθSは同符号であり、差θP−θSは−180°より大きく180°より小さい。したがってθP=θS(mod180°)はθP=θSと同値であり、絶対値を取れば∠QPR=∠QSRと同値である。
PとSが直線QRの反対側にある場合、θPとθSは異符号である。PとSを入れ替えてθP>0>θSとしてよい。差θP−θSは0°より大きく360°より小さいから、θP=θS(mod180°)はθP−θS=180°と同値であり、θP=∠QPRとθS=−∠QSRを代入すれば∠QPR+∠QSR=180°と同値である。
いずれの場合も得られた条件は、§A5.6 系 4.3が四点P、Q、R、Sの共円性と同値であるとした条件である。▨
以下は定理 1の証明である。
証明. 円(AEF)と円(BFD)は補題 2により相異なる。相異なる二円が三点を共有することはない。実際、三つの共有点があるとすると、円と直線の共有点は高々二個であるからその三点は同一直線上になく、§A5.8 定理 8.2により同一直線上にない三点を通る円はただ一つであるから、二円は一致することになる。よって二円の共有点は高々二個である。仮定により共有点はFだけではないから、共有点はちょうど二個であり、そのFでない方をMとする。
MがC、D、Eのいずれかに一致する場合、Mは円(CDE)の上にある。以下ではMがC、D、Eのいずれとも異なるとする。円と直線の共有点は高々二個であり、BとFはともに直線ABの上にあって円(BFD)の上にあるから、直線ABと円(BFD)の共有点はBとFだけである。Aはそのどちらとも異なるのでAは円(BFD)の上になく、Mは円(BFD)の上にあるからM=Aである。同じ理由でBは円(AEF)の上になく、M=Bである。
四点A、E、F、Mは円(AEF)の上にある。補題 2によりAは直線EFの上になく、また円(AEF)と直線EFの共有点はEとFだけでMはそのどちらとも異なるからMも直線EFの上にない。よって補題 5を四点M、E、F、Aに適用することができる。A、E、Cは直線CAの上に、A、F、Bは直線ABの上にあるから、直線AEは直線CEに、直線AFは直線BAに一致する。よって
∠(ME,MF)=∠(AE,AF)=∠(CE,BA)(mod180°)である。
円(BFD)に対して同じ議論を行う。Bは補題 2により直線FDの上になく、円(BFD)と直線FDの共有点はFとDだけでMはそのどちらとも異なるからMも直線FDの上にない。補題 5を四点M、F、D、Bに適用すると∠(MF,MD)=∠(BF,BD)を得る。B、F、Aは直線ABの上に、B、D、Cは直線BCの上にあるから
∠(MF,MD)=∠(BF,BD)=∠(BA,CD)(mod180°)である。
二つの等式を加え、補題 4を用いると
∠(ME,MD)=∠(CE,BA)+∠(BA,CD)=∠(CE,CD)(mod180°)となる。C、D、Eは同一直線上にないので∠(CE,CD)=0であり、したがって∠(ME,MD)=0である。Mが直線DEの上にあれば直線MEと直線MDはともに直線DEに一致して∠(ME,MD)=0となるから、Mは直線DEの上にない。Cも直線DEの上になく、MとCは相異なる。よって補題 5を四点M、E、D、Cに適用することができ、C、E、D、Mは同一円周上にある。補題 2により相異なる三点C、D、Eを通る円は円(CDE)だけであるから、Mは円(CDE)の上にある。▨