概要

本単元は、初等幾何のよく知られた定理を一つずつ取り上げ、その主張、動かすことができる図、証明を組にして扱います。蝶形定理、オイラー線、九点円、ミケルの点から始め、ナポレオンの定理、モーリーの三等分定理、フォイエルバッハの定理へ進み、パスカルの定理とブリアンションの定理、ポンスレの閉形定理、デザルグの定理、メビウス変換と複比の保存に至ります。

本単元には必修の記事がありません。読者は、関心のある記事を選んで読むことができます。ただし、フォイエルバッハの定理は九点円の結果を、ポンスレの閉形定理はパスカルの定理とブリアンションの定理を、それぞれ証明の中で用います。この二つについては、先に対応する記事を読むと証明を追うことができます。

相似や円周角といった初等幾何の道具そのものは「初等幾何学」で扱い、本単元は、その道具が実際に何を証明するのかを示します。射影平面で円錐曲線を扱う議論と、無限遠点を加えた複素数平面の上での変換は、本単元の記事の中で導入します。

この単元のねらい

本単元は、読者が次に掲げる能力を習得することを目標とします。

  • 各定理の主張を、仮定と結論に分けて正確に述べることができます。
  • 図を動かして結論が配置によらず保たれることを観察し、その観察を証明すべき主張として書き下すことができます。
  • 座標と二次方程式の解、外心を原点とする位置ベクトルの計算、向きをもつ角、複素数平面、三角恒等式、三次元への持ち上げ、射影変換のうちから、その定理の証明に用いる方法を選ぶことができます。
  • 三点が一直線上に並ぶこと、複数の点が同じ円の上に乗ること、三本の直線が一点で交わることを、それぞれ別の主張として区別し、証明することができます。
  • 二点が一致する、二直線が平行になる、二円が接するというように、結論の形が変わる配置について、仮定によって除くのか、証明の中で場合を分けて扱うのかを判断することができます。
  • 点と直線を入れ替えて得られる双対の主張を作り、もとの主張との関係を述べることができます。
  • 図を動かして得た観察と、すべての配置についての証明とを区別することができます。

前提知識

本単元は、「初等幾何学」の基礎で扱う内容を前提とします。相似、円周角の定理、四点が同一円周上にある条件、方べきの定理、三角形の五心がこれにあたり、どの道具を用いるかは記事によって異なります。パスカルの定理とブリアンションの定理、ポンスレの閉形定理、デザルグの定理では、同単元の応用・発展で扱う複比、極線と極点、双対原理、射影変換と無限遠直線をさらに用います。

計算による証明の道具は「図形と方程式」で扱います。座標、位置ベクトルと内積、複素数平面、円錐曲線の標準形と離心率、三角比と三角関数がこれにあたり、本単元では、これらが証明の主要な手段になる記事があります。

また、「集合と論理」で扱う定理と逆の区別、場合分け、背理法を用います。各記事は、その記事が用いる道具の参照先を記事の中で示します。

この単元を貫く4つの方針

本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とします。

  1. 一つの定理を一つの記事で完結させます。 主張、証明、動かすことができる図を一組にして示します。必要な道具は、その記事の中で参照先を示します。他の記事で証明した定理を用いる場合には、どの記事のどの主張を用いるのかを述べます。
  2. 観察から証明へ進みます。 まず図を動かして、結論が配置によらず保たれることを確かめます。その観察を証明すべき主張として書き下してから、証明に入ります。図による観察は、証明の代わりにはなりません。
  3. 配置と退化を管理します。 二点が一致する、二直線が平行になる、二円が接する、三点が一直線上に並ぶといった配置では、結論の形が変わります。各記事は、そうした配置を仮定によって除くのか、証明の中で場合を分けて扱うのかを、そのつど明示します。向きをもつ角や無限遠点を導入して場合分けをまとめる方法も扱います。
  4. 証明の方法を定理ごとに選びます。 本単元の定理は、相似と円周角だけで証明まで届くとは限りません。各記事は、座標と二次方程式の解、位置ベクトルの計算、複素数平面、三角恒等式、三次元への持ち上げ、射影変換のうちどれを用いるのかと、その方法を選ぶ理由を述べます。

難易度区分

本単元の記事は、すべて「発展」の一つの区分に属します。いずれの記事も高等学校の標準的な学習範囲には属さず、証明に必要な準備の量は記事ごとに異なります。定理の主張の分かりやすさと、証明に必要な準備の量とは対応しません。主張を一文で述べることができる定理であっても、証明に多くの道具を必要とするものがあります。

本単元には必修の記事がありません。読者は、関心に応じて選んで読むことができます。以下の並びは、証明に用いる方法が、座標と初等幾何による計算から、複素数平面と三角恒等式を経て、射影平面での議論へ移る順です。読者は、この並びを、どの記事がどれだけの準備を必要とするかの目安として用いることができます。

発展

各記事が扱う内容は、次のとおりです。

  • 蝶形定理円の弦の中点を通る二本の弦を引き、四つの端点を交差するように結ぶと、得られた二本の直線がもとの弦を切る二点が中点に関して対称になることを示します。主証明は向きをもつ角を用い、円の中心と中点を結ぶ直線に関する対称移動が二つの交点を入れ替えることを初等幾何で示します。垂線の足と相似・方べきによる古典的な証明と、中点を原点に取る座標の証明を別証明として並べます。
  • オイラー線正三角形でない三角形では、外心、重心、垂心が一直線上に並び、重心が外心と垂心を 1 対 2 に内分することを示します。主証明では、重心を中心として三角形を中点三角形へ写す相似拡大を用い、中点三角形の垂心がもとの三角形の外心であることを補題として示します。外心を原点に取る位置ベクトルの計算による別証明も与え、正三角形では三点が一致して直線が定まらないことも述べます。
  • 九点円各辺の中点三つ、各頂点から対辺へ下ろした垂線の足三つ、垂心と各頂点を結ぶ線分の中点三つが同じ円の上に乗ることを示し、半径が外接円の半径の半分で、中心が外心と垂心の中点であることも導きます。主証明では、垂心を各辺について折り返した点が外接円の上にあることを補題にして、垂心を中心とする相似で外接円を九点円へ重ねます。三本の垂線の共点も示し、位置ベクトルによる別証明も置きます。
  • ミケルの点三角形の三辺またはその延長上に頂点と異なる点を一つずつ取り、各頂点とその頂点を挟む二辺の上の二点とを通る円を三つ作ると、三つの円が一点を共有することを示します。証明では、二つの円の共有点のうち辺の上に取った点でない方を先に定め、向きをもつ角によって四点共円を繰り返し用います。三点が辺の内部にある配置には内接四辺形の対角の和による別証明も置きます。二つの円が接する配置は除きます。
  • ナポレオンの定理どのような三角形でも、各辺の外側に作った正三角形の中心三つが正三角形をなすことを示します。証明は、三つの正三角形の外接円が一点を共有することから中心三角形の各角が 60 度であることを導くものと、三つの中心のまわりの 120 度回転の合成を用いるものの二通りを与え、複素数平面による計算を別証明として添えます。内側に作った場合に向きが反転した正三角形が得られることも扱います。
  • モーリーの三等分定理どのような三角形でも、各内角の三等分線のうち各辺に近いものどうしの交点三つが正三角形をなすことを示します。角の三等分は作図の問題ではなく定理の仮定として扱います。この定理を、正三角形の周囲に六つの三角形を貼り合わせて元の三角形を復元する逆向きの構成によって初等幾何で証明し、順方向の構成では角の追跡が止まる理由にも触れます。正弦定理と余弦定理と三角恒等式による別証明も示します。
  • フォイエルバッハの定理正三角形でない三角形では九点円が内接円に内接し、どの三角形でも三つの傍接円のすべてに外接することを示します。主証明では、内接円と傍接円が辺に接する点が辺の中点に関して対称であることを補題にし、辺の中点を中心とする反転で九点円を両円の第二の共通接線へ写します。外心を原点とするベクトルの計算で中心間の距離を求める別証明も示します。九点円そのものの構成は「九点円」が扱います。
  • パスカルの定理とブリアンションの定理非退化な円錐曲線上の相異なる六点を順に結んだとき、向かい合う辺の交点となる三点が一直線上に並ぶこと(パスカルの定理)を、射影変換で標準形へ移してからの計算と、円へ移してから円周角の定理と複比を用いる初等幾何の二通りで証明します。双対化して、六本の接線が作る六角形の三本の対角線が一点で交わること(ブリアンションの定理)を導きます。射影変換そのものは「初等幾何学」が扱います。
  • ポンスレの閉形定理外側の円に頂点を置き各辺が内側の円に接する多角形について、ある出発点で閉じるならば、どの出発点から始めても同じ辺数で閉じることを示します。三角形の場合は、外心と内心の距離を二つの半径で表すオイラーの関係式が閉じるための必要十分条件であることを初等幾何で証明します。一般の辺数では二つの円を射影平面の円錐曲線として扱い、パスカルとブリアンションの定理を交互に用います。
  • デザルグの定理対応する頂点を結ぶ三本の直線が一点を共有する二つの三角形について、対応する辺の交点三つが一直線上に並ぶことを、メネラウスの定理とその逆によって平面の中だけで証明します。対応する辺や三本の直線が平行になる場合は、交点や配景の中心を無限遠点として同じ主張に含めます。空間の異なる二平面の上にある場合も別に示し、双対の主張がこの定理の逆にあたることに触れてその逆も証明します。
  • メビウス変換と複比の保存無限遠点を加えた複素数平面の上で (az+b)/(cz+d)(ad-bc は 0 でない)の形の変換を定義し、四点の複比が保たれることを証明します。円と直線の像が円または直線になることを、相似変換と反転との合成への分解による初等幾何の証明と同次座標による別証明で示し、複比が実数であることと四点共円の同値も証明します。この変換の全体は「初等幾何学」の射影変換の群とは別のものです。

学習到達点の確認方法

本単元は、記事ごとに次の三点を確かめます。

  • 読者が定理の主張を、仮定と結論に分けて正確に述べることができるかを確かめます。
  • 読者が主証明を自分で再構成し、用いた定理、補助線、場合分けを示すことができるかを確かめます。
  • 読者が、仮定を外したときに結論が崩れる配置を、図または具体例によって示すことができるかを確かめます。

本単元の図では、読者は点を動かして、結論が配置によらず保たれることを観察することができます。ただし、その観察は予想を立てるための手段であり、すべての配置についての証明とは区別して扱います。この区別は、本単元のすべての記事で保ちます。

確認は記事ごとに完結します。読者は、関心のある記事だけを選んで読むことができ、どの記事から読み始めるかも自分で決めることができます。

前後の単元との関係

  • 初等幾何学 — 同単元は、証明に用いる道具そのものを、相似と円周角から順に、先の記事の結果を次の記事の根拠としながら導入します。本単元は、その道具によって証明することができる個々の定理を、一つずつ取り上げます。同単元のパップスの六角形定理に対応する、円錐曲線に内接する六角形についてのパスカルの定理と、その双対にあたるブリアンションの定理は、三角比と円錐曲線を要するので本単元が扱います。
  • 図形と方程式 — 同単元は、座標、位置ベクトルと内積、複素数平面、円錐曲線の標準形と離心率を扱います。本単元は、これらを計算による証明の手段として用います。オイラー線とフォイエルバッハの定理は位置ベクトルの計算によって、ナポレオンの定理は複素数平面によって証明します。
  • 集合と論理 — 同単元は、定理と逆の区別、場合分け、背理法を扱います。本単元は、これらを配置による場合分けと、仮定を外したときの反例の構成に用います。
  • 複素解析 — 同単元は、等角写像と正則関数を扱います。本単元のメビウス変換は、同単元では正則関数の基本的な例として再び現れ、円と直線の像および複比の保存が、その性質として読み直されます。
  • 体論入門 — 同単元は、体の拡大とその次数によって、定規とコンパスで作図することができる図形を判定します。本単元のモーリーの三等分定理が仮定として置く角の三等分について、それが定規とコンパスでは作図することができないことの証明は、同単元が扱います。
  • 代数幾何入門 — 同単元は、楕円曲線とその上の点の加法を扱います。本単元のポンスレの閉形定理では、接線を一辺分進める操作がこの加法にあたることに触れるにとどめ、その理論は同単元が扱います。

教育課程上の位置づけと参考年次

本単元に収録する定理は、いずれの国においても、通常の高等学校の必修課程には含まれません。このため、他の単元と同様の対応表は作りません。

本単元の定理は、各国の課程では扱われず、数学オリンピックの準備教材、発展的な課外教材、または大学の初等幾何に関する講義で扱われる場合が多くあります。証明に用いる道具のうち、三角形の五心、方べきの定理、チェバとメネラウスの定理は、日本の高等学校学習指導要領(平成30年告示)の「数学A 図形の性質」で扱う内容にあたり、三角比と複素数平面は「数学I」および「数学C」で扱う内容にあたります。

読者は、「初等幾何学」で必要な道具を習得した時点で、本単元のうち関心のある記事へ進むことができます。