§E21.10圏同値と骨格

最終更新

有限次元線形空間と線形写像のなす圏と、非負整数を対象とし行列を射とする圏は、同じ理論を運ぶ。前者では同じ次元をもつ対象がいくつも現れるのに対して、後者では各次元につき対象が一つしかない。それでも、線形代数の主張はどちらの圏でも同じ形で成り立つ。両者が同じであることを、二つの関手の合成が恒等関手に等しいという条件で述べようとすると、対象が一対一に対応しないためこの例は条件を満たさない。この条件を自然同型まで緩めたものが圏同値である。

本記事では、圏同値と準逆を定義し、圏同型と区別する。次に、圏同値であることと、関手が充満忠実かつ本質的全射であることが同値であることを証明する。この特徴づけは、準逆を持ち出さずに圏同値を判定する方法を与える。最後に、各同型類から対象を一つずつ選んで得られる充満部分圏を骨格として定義し、骨格への包含が圏同値であること、および対象の全体が集合である圏が骨格をもつことを証明する。準逆の構成と骨格の存在は、いずれも対象を一つずつ選ぶ操作を含み、そこで選択公理を用いる。

部分圏と充満部分圏の定義は§E21.1 定義 4.1、同型射と同型の定義は§E21.1 定義 6.1による(いずれも「圏と反対圏」)。自然変換と自然同型の定義は§E21.3 定義 1.1による。局所小圏と、忠実・充満・充満忠実の定義は「米田の補題と表現可能関手」による。

1 圏同値と圏同型

二つの圏が同じであることの要求には強弱の二段がある。強いほうから述べる。

定義 1.1. 関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dが圏同型 (isomorphism of categories) であるとは、関手G:D→CG : \mathcal D \to \mathcal Cが存在して

G∘F=idC,F∘G=idDG \circ F = \mathrm{id}_{\mathcal C}, \qquad F \circ G = \mathrm{id}_{\mathcal D}

がいずれも関手の等式として成り立つことをいう。二つの圏の間に圏同型が存在するとき、二つの圏は同型 (isomorphic categories) であるという。

圏同型は対象の一致を要求する。実際、G∘F=idCG \circ F = \mathrm{id}_{\mathcal C}により、C\mathcal Cの対象X,YX, YについてF(X)=F(Y)F(X) = F(Y)ならばX=GF(X)=GF(Y)=YX = G F(X) = G F(Y) = Yが成り立ち、またD\mathcal Dの任意の対象BBはF∘G=idDF \circ G = \mathrm{id}_{\mathcal D}によりB=F(G(B))B = F(G(B))と書かれる。射についても同じことが成り立つ。この要求は、同じ理論をもつ二つの圏を比べる条件としては強い。対象を同型な別の対象へ取り替えても圏の内部の議論は変わらないのに、圏同型は対象そのものの一致を要求するからである。

定義 1.2. 関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dが圏同値 (equivalence of categories) であるとは、関手G:D→CG : \mathcal D \to \mathcal Cと、二つの自然同型

θ:G∘F⟹idC,ζ:F∘G⟹idD\theta : G \circ F \Longrightarrow \mathrm{id}_{\mathcal C}, \qquad \zeta : F \circ G \Longrightarrow \mathrm{id}_{\mathcal D}

が存在することをいう。このGGをFFの準逆 (quasi-inverse) という。二つの圏の間に圏同値が存在するとき、二つの圏は同値 (equivalent categories) であるといい、C≃D\mathcal C \simeq \mathcal Dと書く。

定義の条件はFFとGGについて対称である。したがって、GGがFFの準逆であれば、GGもまた圏同値であり、FFはGGの準逆である。

命題 1.3. 圏同型は圏同値である。

証明.FFを圏同型とし、GGをG∘F=idCG \circ F = \mathrm{id}_{\mathcal C}とF∘G=idDF \circ G = \mathrm{id}_{\mathcal D}を満たす関手とする。θA=idA\theta_A = \mathrm{id}_Aと置くと、GF=idCG F = \mathrm{id}_{\mathcal C}であるから任意の射f:A→A′f : A \to A'についてf∘θA=f=θA′∘GF(f)f \circ \theta_A = f = \theta_{A'} \circ G F(f)が成り立ち、θ\thetaは自然変換である。各成分は恒等射であるから同型射であり、θ\thetaは自然同型である。ζ\zetaについても同様である。よってGGはFFの準逆であり、FFは圏同値である。▨

逆は成り立たない。反例は例 3.1で与える。

2 充満忠実と本質的全射

圏同値の定義は準逆の存在を要求するので、そのままでは判定に使いにくい。準逆を作らずに済ませる条件を用意する。用いる語のうち、忠実、充満、充満忠実は「米田の補題と表現可能関手」の§E21.6 定義 3.3が定めている。関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal DとC\mathcal Cの対象の組(A,A′)(A, A')について、Hom⁡C(A,A′)\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(A, A')とHom⁡D(F(A),F(A′))\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(A), F(A'))がともに集合であるとき、FFは写像

FA,A′:Hom⁡C(A,A′)⟶Hom⁡D(F(A),F(A′)),FA,A′(f)=F(f)F_{A,A'} : \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(A, A') \longrightarrow \operatorname{Hom}_{\mathcal D}\bigl(F(A), F(A')\bigr), \qquad F_{A,A'}(f) = F(f)

を定める。すべての組についてこの写像が定まり、かつ単射であるときFFは忠実、すべての組について定まり、かつ全射であるときFFは充満、その両方であるときFFは充満忠実である。「充満」が全射、「忠実」が単射であり、この対応を取り違えない。米田埋め込みが充満忠実であること(§E21.6 定理 3.4)がこの語の用例である。

FA,A′F_{A,A'}が定まるためには、二つの hom がともに集合でなければならない。そこで、本記事で忠実性または充満性を述べる主張では、C\mathcal CとD\mathcal Dがともに局所小(§E21.6 定義 1.1)であることを仮定に書く。

残る一語をここで定める。

定義 2.1. 関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dが本質的全射 (essentially surjective) であるとは、D\mathcal Dの任意の対象BBに対して、F(A)≅BF(A) \cong Bを満たすC\mathcal Cの対象AAが存在することをいう。

本質的全射性は対象の同型だけを問題にするので、局所小性を要しない。

命題 2.2.C\mathcal CとD\mathcal Dを局所小圏、F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dを充満忠実な関手とし、f:A→A′f : A \to A'をC\mathcal Cの射とする。F(f)F(f)がD\mathcal Dの同型射であれば、ffはC\mathcal Cの同型射である。

証明.w=F(f)−1:F(A′)→F(A)w = F(f)^{-1} : F(A') \to F(A)と置く。FFは充満であるから、F(g)=wF(g) = wを満たす射g:A′→Ag : A' \to Aが存在する。FFは関手であるから

F(g∘f)=F(g)∘F(f)=w∘F(f)=idF(A)=F(idA)F(g \circ f) = F(g) \circ F(f) = w \circ F(f) = \mathrm{id}_{F(A)} = F(\mathrm{id}_A)

であり、FFは忠実であるからg∘f=idAg \circ f = \mathrm{id}_Aである。同様にF(f∘g)=F(f)∘w=idF(A′)=F(idA′)F(f \circ g) = F(f) \circ w = \mathrm{id}_{F(A')} = F(\mathrm{id}_{A'})からf∘g=idA′f \circ g = \mathrm{id}_{A'}を得る。よってffは同型射である。▨

補題 2.3.C\mathcal CとD\mathcal Dを局所小圏とする。F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dが圏同値であれば、FFは忠実である。

証明.GGをFFの準逆とし、θ:GF⇒idC\theta : G F \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal C}を自然同型とする。f,g:A→A′f, g : A \to A'がF(f)=F(g)F(f) = F(g)を満たすとする。GGを施すとGF(f)=GF(g)G F(f) = G F(g)である。θ\thetaの自然性を射ffと射ggに適用すると

f∘θA=θA′∘GF(f)=θA′∘GF(g)=g∘θAf \circ \theta_A = \theta_{A'} \circ G F(f) = \theta_{A'} \circ G F(g) = g \circ \theta_A

となる。θA\theta_Aは同型射であるから、右からθA−1\theta_A^{-1}を合成してf=gf = gを得る。▨

2.1 証明方針

圏同値であることと充満忠実かつ本質的全射であることの同値性を示す。一方の向きでは、準逆と二つの自然同型から三つの性質を取り出す。忠実性は補題 2.3であり、本質的全射性はζB:FG(B)→B\zeta_B : F G(B) \to Bが同型射であることから直ちに従う。充満性は、与えられた射v:F(A)→F(A′)v : F(A) \to F(A')に対してf=θA′∘G(v)∘θA−1f = \theta_{A'} \circ G(v) \circ \theta_A^{-1}を候補として作り、GF(f)=G(v)G F(f) = G(v)を示したうえで、GGが忠実であることからF(f)=vF(f) = vを得る。

もう一方の向きでは、準逆を構成する。各対象BBに対してF(AB)≅BF(A_B) \cong Bを満たすABA_Bと同型射ζB\zeta_Bを一つずつ選び、G(B)=ABG(B) = A_Bと定める。射v:B→B′v : B \to B'に対するG(v)G(v)は、F(G(v))=ζB′−1∘v∘ζBF(G(v)) = \zeta_{B'}^{-1} \circ v \circ \zeta_Bを満たす射として充満忠実性から一意に定まる。この一意性が、関手性と二つの自然同型の検証をすべてFFを施した等式の比較へ帰着させる。

定理 2.4.C\mathcal CとD\mathcal Dを局所小圏とし、F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dを関手とする。次の二つは同値である。

  1. FFは圏同値である。
  2. FFは充満忠実かつ本質的全射である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。GGをFFの準逆とし、θ:GF⇒idC\theta : G F \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal C}とζ:FG⇒idD\zeta : F G \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal D}を自然同型とする。

FFが忠実であることは補題 2.3である。定義の条件はFFとGGについて対称であるから、GGも圏同値であり、同じ補題によりGGも忠実である。

FFが本質的全射であることを示す。D\mathcal Dの対象BBに対してA=G(B)A = G(B)と置くと、ζB:F(A)→B\zeta_B : F(A) \to Bは同型射である。

FFが充満であることを示す。v:F(A)→F(A′)v : F(A) \to F(A')をD\mathcal Dの射とし

f=θA′∘G(v)∘θA−1:A⟶A′f = \theta_{A'} \circ G(v) \circ \theta_A^{-1} : A \longrightarrow A'

と置く。θ\thetaの自然性を射ffに適用するとf∘θA=θA′∘GF(f)f \circ \theta_A = \theta_{A'} \circ G F(f)であるから

GF(f)=θA′−1∘f∘θA=θA′−1∘θA′∘G(v)∘θA−1∘θA=G(v)G F(f) = \theta_{A'}^{-1} \circ f \circ \theta_A = \theta_{A'}^{-1} \circ \theta_{A'} \circ G(v) \circ \theta_A^{-1} \circ \theta_A = G(v)

となる。GGは忠実であるからF(f)=vF(f) = vである。よってFA,A′F_{A,A'}は全射である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。FFを充満忠実かつ本質的全射とする。D\mathcal Dの各対象BBに対して、F(AB)≅BF(A_B) \cong Bを満たすC\mathcal Cの対象ABA_Bと同型射ζB:F(AB)→B\zeta_B : F(A_B) \to Bを一つずつ選ぶ(この選択については注意 2.5を見よ)。G(B)=ABG(B) = A_Bと定める。

D\mathcal Dの射v:B→B′v : B \to B'に対して、ζB′−1∘v∘ζB\zeta_{B'}^{-1} \circ v \circ \zeta_BはF(AB)→F(AB′)F(A_B) \to F(A_{B'})の射である。FAB,AB′F_{A_B, A_{B'}}は全単射であるから

F(G(v))=ζB′−1∘v∘ζB(1)F\bigl(G(v)\bigr) = \zeta_{B'}^{-1} \circ v \circ \zeta_B \tag{1}

を満たす射G(v):G(B)→G(B′)G(v) : G(B) \to G(B')がただ一つ存在する。

GGが関手であることを示す。F(G(idB))=ζB−1∘idB∘ζB=idF(G(B))=F(idG(B))F(G(\mathrm{id}_B)) = \zeta_B^{-1} \circ \mathrm{id}_B \circ \zeta_B = \mathrm{id}_{F(G(B))} = F(\mathrm{id}_{G(B)})であり、FFは忠実であるからG(idB)=idG(B)G(\mathrm{id}_B) = \mathrm{id}_{G(B)}である。v:B→B′v : B \to B'とv′:B′→B′′v' : B' \to B''に対しては

F(G(v′)∘G(v))=(ζB′′−1∘v′∘ζB′)∘(ζB′−1∘v∘ζB)=ζB′′−1∘(v′∘v)∘ζB=F(G(v′∘v))F\bigl(G(v') \circ G(v)\bigr) = \bigl(\zeta_{B''}^{-1} \circ v' \circ \zeta_{B'}\bigr) \circ \bigl(\zeta_{B'}^{-1} \circ v \circ \zeta_B\bigr) = \zeta_{B''}^{-1} \circ (v' \circ v) \circ \zeta_B = F\bigl(G(v' \circ v)\bigr)

であり、FFは忠実であるからG(v′∘v)=G(v′)∘G(v)G(v' \circ v) = G(v') \circ G(v)である。

ζ\zetaが自然同型FG⇒idDF G \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal D}であることを示す。式 (1) の両辺に左からζB′\zeta_{B'}を合成すると

ζB′∘FG(v)=v∘ζB\zeta_{B'} \circ F G(v) = v \circ \zeta_B

となり、これが自然性の条件である。各ζB\zeta_Bは同型射であるからζ\zetaは自然同型である。

θ\thetaを構成する。C\mathcal Cの対象AAに対してζF(A):F(GF(A))→F(A)\zeta_{F(A)} : F\bigl(G F(A)\bigr) \to F(A)は同型射である。FGF(A),AF_{G F(A), A}は全単射であるから、F(θA)=ζF(A)F(\theta_A) = \zeta_{F(A)}を満たす射θA:GF(A)→A\theta_A : G F(A) \to Aがただ一つ存在する。F(θA)F(\theta_A)は同型射であるから、命題 2.2によりθA\theta_Aは同型射である。

θ\thetaの自然性を示す。f:A→A′f : A \to A'とする。ζ\zetaの自然性を射F(f):F(A)→F(A′)F(f) : F(A) \to F(A')に適用すると

F(f)∘ζF(A)=ζF(A′)∘FG(F(f))F(f) \circ \zeta_{F(A)} = \zeta_{F(A')} \circ F G\bigl(F(f)\bigr)

である。左辺はF(f)∘F(θA)=F(f∘θA)F(f) \circ F(\theta_A) = F(f \circ \theta_A)に等しく、右辺はF(θA′)∘F(GF(f))=F(θA′∘GF(f))F(\theta_{A'}) \circ F\bigl(G F(f)\bigr) = F\bigl(\theta_{A'} \circ G F(f)\bigr)に等しい。FFは忠実であるからf∘θA=θA′∘GF(f)f \circ \theta_A = \theta_{A'} \circ G F(f)であり、これが自然性の条件である。よってθ:GF⇒idC\theta : G F \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal C}は自然同型であり、GGはFFの準逆である。▨

注意 2.5 (準逆の構成に用いる選択).定理 2.4 (2)⇒\Rightarrow(1)の部分では、D\mathcal Dの各対象BBに対して対象ABA_Bと同型射ζB\zeta_Bを同時に選んでいる。本質的全射性が保証するのは、BBを一つ与えるごとにそのような組が存在することだけであり、すべてのBBにわたる選択は別の原理を要する。

Ob⁡(D)\operatorname{Ob}(\mathcal D)が集合である場合、各BBについて条件を満たす組の全体は空でない集合であり、その族に対する選択関数の存在は選択公理(「数学の基礎」の「選択公理と Zorn の補題」の§E1.20 定理 2.1)による。対象の全体が集合として扱われない圏では、この選択は集合に対する選択公理の範囲を越える。本単元は大きさを体系的に管理しないので、その場合の正当化は「圏論 II」へ委ねる。定理 2.4 (1)⇒\Rightarrow(2)の部分は選択を用いない。

3 例

圏同値であって圏同型ではない例を、線形代数から取る。

例 3.1 (有限次元線形空間の圏と行列の圏).kkを可換体とする。圏FinVectk\mathbf{FinVect}_kを、有限次元kk-線形空間を対象、線形写像を射とする圏とする。圏Matk\mathbf{Mat}_kを次で定める。対象は非負整数とし、mmからnnへの射は、{1,…,n}×{1,…,m}\{1, \dots, n\} \times \{1, \dots, m\}からkkへの写像、すなわちkkを成分とするnn行mm列の行列とする。m=0m = 0またはn=0n = 0の場合、この集合はちょうど一つの元からなる。合成は行列の積、恒等射は単位行列とする。行列の積の結合律と単位行列の性質により、Matk\mathbf{Mat}_kは圏である。

関手M:Matk→FinVectkM : \mathbf{Mat}_k \to \mathbf{FinVect}_kを、M(n)=knM(n) = k^n、およびn×mn \times m行列P=(cij)P = (c_{ij})に対して

M(P):km⟶kn,M(P)(x)i=∑j=1mcijxjM(P) : k^m \longrightarrow k^n, \qquad M(P)(x)_i = \sum_{j=1}^{m} c_{ij} x_j

で定める。M(P)M(P)は線形写像であり(§E3.4 定義 1.1)、行列の積の定義からM(PQ)=M(P)∘M(Q)M(P Q) = M(P) \circ M(Q)、単位行列の定義からM(In)=idknM(I_n) = \mathrm{id}_{k^n}が成り立つ。よってMMは関手である。

MMは充満忠実である。kmk^mの標準基底をe1,…,eme_1, \dots, e_m、knk^nの標準基底をf1,…,fnf_1, \dots, f_nとする。M(P)(ej)=∑icijfiM(P)(e_j) = \sum_i c_{ij} f_iであるから、M(P)=M(Q)M(P) = M(Q)ならば両者をeje_jに施した値を比べてPPとQQの第jj列が一致し、P=QP = Qである。よってMMは忠実である。線形写像T:km→knT : k^m \to k^nが与えられたとき、T(ej)=∑icijfiT(e_j) = \sum_i c_{ij} f_iによって行列P=(cij)P = (c_{ij})を定めると、M(P)M(P)とTTはe1,…,eme_1, \dots, e_mの上で一致する。任意のx∈kmx \in k^mはx=∑jxjejx = \sum_j x_j e_jと表すことができるので、線形性からM(P)(x)=T(x)M(P)(x) = T(x)である。よってMMは充満である。

MMは本質的全射である。VVを有限次元kk-線形空間とし、v1,…,vnv_1, \dots, v_nをその基底(「線形代数 II」の「基底と次元」の§E3.3 定義 1.3)とする。写像kn→Vk^n \to V、(xj)j↦∑jxjvj(x_j)_j \mapsto \sum_j x_j v_jは線形であり、生成することから全射、一次独立性から単射であるから線形同型である。§E3.4 命題 1.2により逆写像も線形であるから、これはFinVectk\mathbf{FinVect}_kの同型射である。よってM(n)≅VM(n) \cong Vである。

Matk\mathbf{Mat}_kの hom は行列の集合、FinVectk\mathbf{FinVect}_kの hom は線形写像の集合であるから、どちらの圏も局所小である。よって定理 2.4によりMMは圏同値であり、Matk≃FinVectk\mathbf{Mat}_k \simeq \mathbf{FinVect}_kである。

二つの圏は同型ではない。まずMatk\mathbf{Mat}_kでは、互いに同型な対象は等しい。実際、mmとnnが同型ならば§E21.2 命題 1.5によりM(m)=kmM(m) = k^mとM(n)=knM(n) = k^nは線形同型である。線形同型T:km→knT : k^m \to k^nは基底を基底へ写す。実際、TTは全射であるからT(e1),…,T(em)T(e_1), \dots, T(e_m)はknk^nを生成し、∑jcjT(ej)=0\sum_j c_j T(e_j) = 0からT(∑jcjej)=0T\bigl(\sum_j c_j e_j\bigr) = 0と単射性により∑jcjej=0\sum_j c_j e_j = 0、したがってcjc_jはすべて00である。よってknk^nはmm個の元からなる基底とnn個の元からなる基底をもつので、§E3.3 定理 3.3によりm=nm = nである。

他方、FinVectk\mathbf{FinVect}_kには、互いに異なるが同型な対象が存在する。k2k^2の部分空間

L1={(x,0)∣x∈k},L2={(x,x)∣x∈k}L_1 = \{(x, 0) \mid x \in k\}, \qquad L_2 = \{(x, x) \mid x \in k\}

を取る。可換体では1≠01 \neq 0であるから(1,1)∈L2(1, 1) \in L_2かつ(1,1)∉L1(1, 1) \notin L_1であり、L1≠L2L_1 \neq L_2である。どちらも一つの元からなる基底をもつので、上と同じ座標写像によりL1≅k≅L2L_1 \cong k \cong L_2である。

Ψ:FinVectk→Matk\Psi : \mathbf{FinVect}_k \to \mathbf{Mat}_kを圏同型と仮定し、Ψ′∘Ψ=id\Psi' \circ \Psi = \mathrm{id}を満たす関手をΨ′\Psi'とする(定義 1.1)。L1≅L2L_1 \cong L_2と§E21.2 命題 1.5によりΨ(L1)≅Ψ(L2)\Psi(L_1) \cong \Psi(L_2)であり、Matk\mathbf{Mat}_kでは互いに同型な対象が等しいのでΨ(L1)=Ψ(L2)\Psi(L_1) = \Psi(L_2)である。両辺へΨ′\Psi'を施すとL1=Ψ′Ψ(L1)=Ψ′Ψ(L2)=L2L_1 = \Psi'\Psi(L_1) = \Psi'\Psi(L_2) = L_2となり、これは矛盾である。よって二つの圏は同型ではない。

4 骨格

同値な圏のなかで、互いに同型な対象を一つにまとめたものを取り出す。

定義 4.1.C\mathcal Cを圏とし、S\mathcal SをC\mathcal Cの充満部分圏とする。S\mathcal SがC\mathcal Cの骨格 (skeleton) であるとは、C\mathcal Cの任意の対象XXに対して、X≅SX \cong Sを満たすS\mathcal Sの対象SSがちょうど一つ存在することをいう。

命題 4.2.S\mathcal SをC\mathcal Cの骨格とする。S\mathcal Sの対象SSとS′S'がC\mathcal Cにおいて同型であれば、S=S′S = S'である。

証明.SSをC\mathcal Cの対象とみなす。S≅SS \cong SとS≅S′S \cong S'が成り立ち、SSとS′S'はともにS\mathcal Sの対象である。定義 4.1の一意性によりS=S′S = S'である。▨

定理 4.3.C\mathcal Cを局所小圏、S\mathcal SをC\mathcal Cの骨格とし、I:S→CI : \mathcal S \to \mathcal Cを包含関手とする。このときIIは圏同値である。

証明.S\mathcal Sは充満部分圏であるから、S\mathcal Sの対象S,S′S, S'についてHom⁡S(S,S′)=Hom⁡C(S,S′)\operatorname{Hom}_{\mathcal S}(S, S') = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(S, S')である。C\mathcal Cは局所小であるから右辺は集合であり、S\mathcal Sも局所小である。したがってIS,S′I_{S,S'}が定まり、それは恒等写像である。よってIIは充満忠実である。C\mathcal Cの任意の対象XXに対してX≅SX \cong Sを満たすS\mathcal Sの対象SSが存在するので、IIは本質的全射である。定理 2.4によりIIは圏同値である。▨

本定理の証明は定理 2.4 (2)⇒\Rightarrow(1)の部分を用いるので、注意 2.5の但し書きがそのまま当てはまる。準逆は、C\mathcal Cの各対象XXに対してX≅SX \cong Sを満たすS\mathcal Sの対象SSと同型射X→SX \to Sを一つずつ選んで作る。骨格の定義はSSの一意性を与えるが、同型射のほうは一意ではないので、この選択は残る。Ob⁡(C)\operatorname{Ob}(\mathcal C)が集合である場合、この選択は§E1.20 定理 2.1による。そうでない場合の正当化は「圏論 II」が扱う。

骨格が存在するかどうかは、対象の全体をどこまで扱うことができるかによる。対象の全体が集合である場合には存在する。

定理 4.4.C\mathcal Cを圏とし、Ob⁡(C)\operatorname{Ob}(\mathcal C)が集合であるとする。このときC\mathcal Cは骨格をもつ。

証明. まず、「同型である」という関係がOb⁡(C)\operatorname{Ob}(\mathcal C)上の同値関係(§E1.3 定義 1.3)であることを示す。§E21.1 命題 6.3の三つの主張は、idX\mathrm{id}_Xが同型射であること、同型射の逆射が同型射であること、同型射の合成が同型射であることを述べている。これらはそれぞれ、X≅XX \cong X、X≅YX \cong YならばY≅XY \cong X、X≅YX \cong YかつY≅ZY \cong ZならばX≅ZX \cong Zを与える。

商集合Q=Ob⁡(C)/ ⁣≅Q = \operatorname{Ob}(\mathcal C)/\!\congを取る(§E1.3 定義 2.1)。QQの各元は空でない集合である。QQを添字集合とする集合族に選択公理(§E1.20 定理 2.1 (1))を適用すると、各C∈QC \in Qに対してρ(C)∈C\rho(C) \in Cを満たす写像ρ:Q→Ob⁡(C)\rho : Q \to \operatorname{Ob}(\mathcal C)が存在する。

S={ρ(C)∣C∈Q}S = \{\rho(C) \mid C \in Q\}を対象の集合とするC\mathcal Cの充満部分圏をS\mathcal Sとする。XXをC\mathcal Cの対象とし、[X]∈Q[X] \in Qをその同値類とする。ρ([X])∈[X]\rho([X]) \in [X]であるからX≅ρ([X])X \cong \rho([X])であり、ρ([X])\rho([X])はS\mathcal Sの対象である。また、S\mathcal Sの対象ρ(C)\rho(C)がX≅ρ(C)X \cong \rho(C)を満たすとするとρ(C)∈[X]\rho(C) \in [X]であり、同値類は交わらないのでC=[X]C = [X]、したがってρ(C)=ρ([X])\rho(C) = \rho([X])である。よってXXと同型なS\mathcal Sの対象はちょうど一つであり、S\mathcal SはC\mathcal Cの骨格である。▨

例 4.5 (有限次元線形空間の圏の骨格).例 3.1の記号で、{kn∣n≥0}\{k^n \mid n \geq 0\}を対象とするFinVectk\mathbf{FinVect}_kの充満部分圏をS\mathcal Sとする。同例で示したとおり、任意の有限次元kk-線形空間VVは基底の個数nnに対してknk^nと同型であり、km≅knk^m \cong k^nならばm=nm = nである。よってVVと同型なS\mathcal Sの対象はちょうど一つであり、S\mathcal SはFinVectk\mathbf{FinVect}_kの骨格である。FinVectk\mathbf{FinVect}_kは局所小であるから、定理 4.3により包含S→FinVectk\mathcal S \to \mathbf{FinVect}_kは圏同値である。ただしOb⁡(FinVectk)\operatorname{Ob}(\mathbf{FinVect}_k)は集合として扱われないので、同定理に付いた但し書きがここでも当てはまる。準逆を明示的に与えるには、各有限次元線形空間VVに基底を一つ選び、例 3.1の座標写像kn→Vk^n \to Vを同型射として採ればよいが、そのときは同型射の選択が基底の選択へ移るだけであり、選択の債務は消えない。

さらに、MMの終域をS\mathcal Sに取り替えた関手は、対象についても射についても全単射である。対象についての全射性はS\mathcal Sの対象の定め方による。単射性は、km=knk^m = k^nならばkm≅knk^m \cong k^nであり、同例で示したとおりm=nm = nとなることによる。射については充満忠実性がそのまま全単射性である。逆向きの関手を、対象については逆写像、射についてはMm,nM_{m,n}の逆写像として定めると、MMが合成と恒等射を保つことからこれは関手であり、Matk\mathbf{Mat}_kとS\mathcal Sは圏同型である。

注意 4.6 (集合の圏の骨格).Set\mathbf{Set}において、XXからYYへの同型射とは、逆写像をもつ写像、すなわち全単射である(§E1.1 命題 3.8)。したがってX≅YX \cong YはXXとYYが等濃度であること(§E1.18 定義 1.1)にほかならない。Set\mathbf{Set}の骨格とは、どの集合もそのうちのちょうど一つと等濃度であるように集合を選び集め、それらを対象とする充満部分圏である。有限集合の範囲では{1,…,n}\{1, \dots, n\}(n≥0n \geq 0)を選ぶことで具体的に書き下すことができる。

無限集合まで含めて代表を選ぶ操作には、二つの問題がある。第一に、各等濃度類の代表を基数として与える議論が要る。第二に、すべての集合の集まりは集合ではなく(§E1.19 注意 1.3)、本単元は集合でない集まりを扱う語を導入しない(§E1.16 命題 2.6)。したがってOb⁡(Set)\operatorname{Ob}(\mathbf{Set})へ定理 4.4をそのまま適用することができない。本単元は基数の一般論にも大きさの体系的な管理にも立ち入らない。前者は「公理的集合論」が、後者は「圏論 II」が扱う。

5 演習

問題 5.1.

  1. 定義 1.2の条件がFFとGGについて対称であることを、二つの自然同型を書き下して確かめよ。
  2. 補題 2.3の証明でθ\thetaの自然性を用いた箇所を特定し、θ\thetaが自然変換であるだけで各成分が同型射でない場合に、証明のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
  3. 定理 2.4 (1)⇒\Rightarrow(2)の部分で、FFの充満性を示すためにGGの忠実性を用いた。GGが忠実であることをどのように得たかを再現せよ。
  4. 定理 2.4 (2)⇒\Rightarrow(1)の部分で、GGの関手性とθ\thetaの自然性の検証が、いずれもFFを施した等式の比較に帰着していることを確認し、そこでFFの忠実性が使われた箇所をすべて挙げよ。
  5. 例 3.1で、k2k^2の一次元部分空間をL1,L2L_1, L_2以外にもう一つ取り、それがL1L_1ともL2L_2とも異なり、かつ両者と同型であることを確かめよ。
  6. 定理 4.4の証明を、選択公理を用いた箇所と用いていない箇所に分けて整理し、注意 2.5で述べた選択と同じ形の選択であることを説明せよ。
  7. C\mathcal Cを局所小圏とし、S\mathcal SとS′\mathcal S'がともにC\mathcal Cの骨格であるとする。このときS\mathcal SとS′\mathcal S'も局所小である。充満忠実な関手の合成が充満忠実であること、および本質的全射な関手の合成が本質的全射であることを示し、定理 4.3と定理 2.4からS≃S′\mathcal S \simeq \mathcal S'を導け。

6 扱った範囲と次の記事

本記事では、圏同値と準逆を定義し、圏同型がより強い条件であることを示した。忠実・充満・充満忠実は「米田の補題と表現可能関手」の定義を引用し、本質的全射だけを新たに定義した。圏同値であることと、充満忠実かつ本質的全射であることが同値であることを証明し、逆向きの構成が対象を一つずつ選ぶ操作を含むことを明示した。骨格を定義し、骨格への包含が圏同値であること、および対象の全体が集合である圏が骨格をもつことを証明した。骨格への包含についての主張は逆向きの構成を用いるので、選択についての同じ但し書きがそこにも当てはまることを本文に書いた。例としては、有限次元線形空間の圏と行列の圏が同値であって同型ではないこと、およびその骨格を扱った。

対象の全体が集合でない圏についての選択、および大きさの体系的な管理は本記事では扱っていない。これらは「圏論 II」が扱う。同じ単元が、反射的部分圏と局所化、および 2-圏の枠組みでの同値の扱いも扱う。

本記事で「随伴」と「右随伴と極限」に続く一般論は終わる。以降の二記事では、ここまでの定義を具体的な圏へ適用し、極限と余極限を計算し、随伴を検証する。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.圏同値の特徴づけと骨格の扱いを参考にした。
  2. Steve Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford Logic Guides 49, Oxford University Press, Oxford, 2010.圏同値と圏同型の区別、および行列の圏を用いる例を参考にした。
  3. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.充満忠実かつ本質的全射から準逆を構成する手順と、そこで用いる選択の所在を参考にした。

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