§E21.7モノ射とエピ射

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集合の写像に対する単射性と全射性は、要素を用いて定義されている。圏の射には要素という概念がないので、この二つに対応する概念を射の合成だけで定めなければならない。本記事は、その定め方と、それが「米田の補題と表現可能関手」で構成した hom 関手によってどのように読めるかを扱う。

定義そのものは消去律、すなわち合成した等式から因子の等式を取り出すことができるという条件で与える。ただし本記事の中心は定義ではなく、次の言い換えである。射f:A→Bf : A \to Bがモノ射であることは、任意の対象XXについて写像Hom⁡(X,A)→Hom⁡(X,B)\operatorname{Hom}(X, A) \to \operatorname{Hom}(X, B)が単射であること、すなわち米田埋め込みの像y(f):hA⇒hBy(f) : h_A \Rightarrow h_Bのすべての成分が単射であることと同値である。エピ射については、反対の向きの hom 関手について同じことが成り立つ。この言い換えの後で、集合の圏ではモノ射とエピ射が単射と全射に一致すること、環の圏ではエピ射が全射に一致しないこと、および位相空間の圏にはモノ射かつエピ射でありながら同型射でない射があることを示す。

1 消去律による定義

集合の写像f:A→Bf : A \to Bが単射であることは、f(a)=f(b)f(a) = f(b)からa=ba = bが従うことである。二つの写像g,h:X→Ag, h : X \to Aに対してこれを各点で用いると、f∘g=f∘hf \circ g = f \circ hからg=hg = hが従う。後者の形は要素を用いていないので、そのまま圏の射についての条件として読むことができる。全射性については、合成する側を右へ取り替えた条件が対応する。次の定義は、この二つの条件を圏の言葉で述べたものである。

定義 1.1.C\mathcal Cを圏、f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とする。

  1. C\mathcal Cの任意の対象XXと任意の射g,h:X→Ag, h : X \to Aについて、f∘g=f∘hf \circ g = f \circ hならばg=hg = hが成り立つとき、ffをモノ射 (monomorphism) という。
  2. C\mathcal Cの任意の対象YYと任意の射g,h:B→Yg, h : B \to Yについて、g∘f=h∘fg \circ f = h \circ fならばg=hg = hが成り立つとき、ffをエピ射 (epimorphism) という。

二つの条件は、合成する側が左であるか右であるかだけが異なる。定義に要素が現れないので、この二つの語は任意の圏の射について意味をもつ。次節以降で hom 集合の間の写像を用いる主張は、射の全体が集合であること(局所小性、§E21.6 定義 1.1)を仮定する。この定義そのもの、および反対圏による双対性は、その仮定を必要としない。

2 hom 集合の間の写像による特徴づけ

§E21.6 定義 1.3により、射f:A→Bf : A \to Bと対象XXに対して写像

Hom⁡(X,f):Hom⁡(X,A)⟶Hom⁡(X,B),Hom⁡(X,f)(u)=f∘u\operatorname{Hom}(X, f) : \operatorname{Hom}(X, A) \longrightarrow \operatorname{Hom}(X, B), \qquad \operatorname{Hom}(X, f)(u) = f \circ u

が定まる。モノ射の定義に現れる条件は、g,h∈Hom⁡(X,A)g, h \in \operatorname{Hom}(X, A)についてHom⁡(X,f)(g)=Hom⁡(X,f)(h)\operatorname{Hom}(X, f)(g) = \operatorname{Hom}(X, f)(h)ならばg=hg = hということであり、これはこの写像の単射性にほかならない。以下の証明は、この観察を定義に沿って書き下したものである。

命題 2.1.C\mathcal Cを局所小圏、f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とする。次の三つは同値である。

  1. ffはモノ射である。
  2. C\mathcal Cの任意の対象XXについて、写像Hom⁡(X,f):Hom⁡(X,A)→Hom⁡(X,B)\operatorname{Hom}(X, f) : \operatorname{Hom}(X, A) \to \operatorname{Hom}(X, B)は単射である。
  3. 米田埋め込みが定める自然変換y(f):hA⇒hBy(f) : h_A \Rightarrow h_B(§E21.6 定義 3.1)のすべての成分は単射である。

証明.(2)⇔\Leftrightarrow(3)が同じ主張であることを示す。§E21.6 定義 3.1によりy(f)y(f)の成分はy(f)X(u)=f∘uy(f)_X(u) = f \circ uで与えられ、§E21.6 定義 1.3によりHom⁡(X,f)(u)=f∘u\operatorname{Hom}(X, f)(u) = f \circ uである。二つは始域も終域も対応の規則も一致するので、y(f)X=Hom⁡(X,f)y(f)_X = \operatorname{Hom}(X, f)である。したがって(2)⇔\Leftrightarrow(3)は同じ条件を述べている。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ffをモノ射とし、XXを対象、g,h∈Hom⁡(X,A)g, h \in \operatorname{Hom}(X, A)をHom⁡(X,f)(g)=Hom⁡(X,f)(h)\operatorname{Hom}(X, f)(g) = \operatorname{Hom}(X, f)(h)を満たす二つの射とする。この等式はf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hであるから、定義 1.1 (1)によりg=hg = hである。ゆえにHom⁡(X,f)\operatorname{Hom}(X, f)は単射である(単射性の定義は§E1.1 定義 3.1)。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。XXを対象、g,h:X→Ag, h : X \to Aをf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hを満たす二つの射とする。この等式はHom⁡(X,f)(g)=Hom⁡(X,f)(h)\operatorname{Hom}(X, f)(g) = \operatorname{Hom}(X, f)(h)であり、仮定によりHom⁡(X,f)\operatorname{Hom}(X, f)は単射であるからg=hg = hである。ゆえにffはモノ射である。▨

エピ射については、合成する側が逆であるから、向きが反対の hom 関手を用いる。

命題 2.2.C\mathcal Cを局所小圏、f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とする。次の二つは同値である。

  1. ffはエピ射である。
  2. C\mathcal Cの任意の対象YYについて、写像Hom⁡(f,Y):Hom⁡(B,Y)→Hom⁡(A,Y)\operatorname{Hom}(f, Y) : \operatorname{Hom}(B, Y) \to \operatorname{Hom}(A, Y)は単射である。

証明.§E21.6 定義 1.3によりHom⁡(f,Y)(v)=v∘f\operatorname{Hom}(f, Y)(v) = v \circ fである。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ffをエピ射とし、g,h∈Hom⁡(B,Y)g, h \in \operatorname{Hom}(B, Y)がHom⁡(f,Y)(g)=Hom⁡(f,Y)(h)\operatorname{Hom}(f, Y)(g) = \operatorname{Hom}(f, Y)(h)を満たすとする。この等式はg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fであるから、定義 1.1 (2)によりg=hg = hである。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。YYを対象、g,h:B→Yg, h : B \to Yをg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fを満たす二つの射とする。この等式はHom⁡(f,Y)(g)=Hom⁡(f,Y)(h)\operatorname{Hom}(f, Y)(g) = \operatorname{Hom}(f, Y)(h)であり、仮定によりHom⁡(f,Y)\operatorname{Hom}(f, Y)は単射であるからg=hg = hである。▨

モノ射の特徴づけは米田埋め込みの言葉で書くことができた。エピ射の側についても、圏をCop\mathcal C^{\mathrm{op}}に取り替えれば同じ形になる。

注意 2.3 (エピ射も米田埋め込みの言葉で書くことができる).§E21.6 定義 3.1を圏Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}に対して適用する。§E21.6 注意 3.6のとおり、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の対象BBが定める hom 関手はhB=Hom⁡C(B,−)h^B = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(B, -)である。射f:A→Bf : A \to BはCop\mathcal C^{\mathrm{op}}の射B→AB \to Aとみなされるので、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の米田埋め込みはこれに自然変換hB⇒hAh^B \Rightarrow h^Aを対応させる。そのYYにおける成分は、§E21.1 定義 5.1の合成の定め方によりv↦v∘fv \mapsto v \circ f、すなわちHom⁡(f,Y)\operatorname{Hom}(f, Y)である。したがって、ffがエピ射であることは、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}における米田埋め込みの像のすべての成分が単射であることと同値である。

上の注意で述べたことを、反対圏そのものの言葉で書き直す。

命題 2.4.C\mathcal Cを圏、f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とし、ffをCop\mathcal C^{\mathrm{op}}の射B→AB \to Aとみなしたものをfopf^{\mathrm{op}}と書く。ffがC\mathcal Cのモノ射であることとfopf^{\mathrm{op}}がCop\mathcal C^{\mathrm{op}}のエピ射であることは同値であり、ffがC\mathcal Cのエピ射であることとfopf^{\mathrm{op}}がCop\mathcal C^{\mathrm{op}}のモノ射であることは同値である。

証明.§E21.1 定義 5.1により、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の対象はC\mathcal Cの対象であり、Hom⁡Cop(X,Y)=Hom⁡C(Y,X)\operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(X, Y) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(Y, X)であって、合成はq∘opp=p∘qq \circ^{\mathrm{op}} p = p \circ qで与えられる。

fopf^{\mathrm{op}}がCop\mathcal C^{\mathrm{op}}のエピ射であることは、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の任意の対象XXと任意の射g,h∈Hom⁡Cop(A,X)g, h \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(A, X)について、g∘opfop=h∘opfopg \circ^{\mathrm{op}} f^{\mathrm{op}} = h \circ^{\mathrm{op}} f^{\mathrm{op}}ならばg=hg = hであることをいう。ここでHom⁡Cop(A,X)=Hom⁡C(X,A)\operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(A, X) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X, A)であり、g∘opfop=f∘gg \circ^{\mathrm{op}} f^{\mathrm{op}} = f \circ gである。したがってこの条件は、C\mathcal Cの任意の対象XXと任意の射g,h:X→Ag, h : X \to Aについてf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hならばg=hg = hであること、すなわちffがC\mathcal Cのモノ射であることと同じである。

もう一方の同値も同様である。fopf^{\mathrm{op}}がCop\mathcal C^{\mathrm{op}}のモノ射であることは、g,h∈Hom⁡Cop(Y,B)=Hom⁡C(B,Y)g, h \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(Y, B) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(B, Y)についてfop∘opg=fop∘ophf^{\mathrm{op}} \circ^{\mathrm{op}} g = f^{\mathrm{op}} \circ^{\mathrm{op}} h、すなわちg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fからg=hg = hが従うことであり、これはffがC\mathcal Cのエピ射であることと同じである。▨

以後、モノ射について証明した主張は、この命題によって、そのままエピ射についての主張へ翻訳することができる。

3 集合の圏

要素を用いない定義が、集合の圏では要素を用いる定義と一致する。以下、Set\mathbf{Set}は集合を対象、写像を射とする圏(§E21.1 例 2.1)である。

定理 3.1.Set\mathbf{Set}の射f:A→Bf : A \to Bについて、次が成り立つ。

  1. ffがモノ射であることと、ffが単射であることは同値である。
  2. ffがエピ射であることと、ffが全射であることは同値である。

証明.(1)を示す。ffが単射であるとする。XXを集合、g,h:X→Ag, h : X \to Aをf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hを満たす写像とすると、任意のx∈Xx \in Xについてf(g(x))=f(h(x))f(g(x)) = f(h(x))であり、ffの単射性からg(x)=h(x)g(x) = h(x)である。xxは任意であるからg=hg = hである。ゆえにffはモノ射である。

逆にffがモノ射であるとする。a,b∈Aa, b \in Aがf(a)=f(b)f(a) = f(b)を満たすとする。一元集合{∗}\{\ast\}をとり、写像g,h:{∗}→Ag, h : \{\ast\} \to Aをg(∗)=ag(\ast) = a、h(∗)=bh(\ast) = bで定める。(f∘g)(∗)=f(a)=f(b)=(f∘h)(∗)(f \circ g)(\ast) = f(a) = f(b) = (f \circ h)(\ast)であり、{∗}\{\ast\}の元は∗\astだけであるからf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hである。ffはモノ射であるからg=hg = hであり、a=g(∗)=h(∗)=ba = g(\ast) = h(\ast) = bである。ゆえにffは単射である。

(2)を示す。ffが全射であるとする。YYを集合、g,h:B→Yg, h : B \to Yをg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fを満たす写像とする。任意のy∈By \in Bについて、全射性からf(x)=yf(x) = yを満たすx∈Ax \in Aが存在し、

g(y)=g(f(x))=h(f(x))=h(y)g(y) = g(f(x)) = h(f(x)) = h(y)

である。ゆえにg=hg = hであり、ffはエピ射である。

逆を対偶で示す。ffが全射でないとすると、f(x)=y0f(x) = y_0を満たすx∈Ax \in Aが存在しないようなy0∈By_0 \in Bが存在する。Y={0,1}Y = \{0, 1\}とし、写像g,h:B→Yg, h : B \to Yを、ggはすべての元を00へ写す写像、hhはh(y0)=1h(y_0) = 1かつy≠y0y \ne y_0のときh(y)=0h(y) = 0となる写像として定める。任意のx∈Ax \in Aについてf(x)≠y0f(x) \ne y_0であるからh(f(x))=0=g(f(x))h(f(x)) = 0 = g(f(x))であり、g∘f=h∘fg \circ f = h \circ fである。しかしg(y0)=0g(y_0) = 0とh(y0)=1h(y_0) = 1は異なるのでg≠hg \ne hである。ゆえにffはエピ射でない。▨

集合の圏では、単射性と全射性が同型性と結びつく。すなわち全単射であれば逆写像が存在する(§E1.1 命題 3.8)。次の命題は、この結びつきのうち一方向だけが一般の圏で成り立つことを述べる。

命題 3.2.C\mathcal Cを圏とする。C\mathcal Cの同型射はモノ射かつエピ射である。

証明.f:A→Bf : A \to Bを§E21.1 定義 6.1の意味で同型射とし、f−1:B→Af^{-1} : B \to Aをその逆射とする。逆射がただ一つであることは§E21.1 命題 6.2による。

モノ射であることを示す。g,h:X→Ag, h : X \to Aがf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hを満たすとする。両辺に左からf−1f^{-1}を合成すると、結合律と単位律により

g=idA∘g=(f−1∘f)∘g=f−1∘(f∘g)=f−1∘(f∘h)=(f−1∘f)∘h=hg = \mathrm{id}_A \circ g = (f^{-1} \circ f) \circ g = f^{-1} \circ (f \circ g) = f^{-1} \circ (f \circ h) = (f^{-1} \circ f) \circ h = h

である。

エピ射であることを示す。g,h:B→Yg, h : B \to Yがg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fを満たすとする。両辺に右からf−1f^{-1}を合成すると、同様に

g=g∘(f∘f−1)=(g∘f)∘f−1=(h∘f)∘f−1=h∘(f∘f−1)=hg = g \circ (f \circ f^{-1}) = (g \circ f) \circ f^{-1} = (h \circ f) \circ f^{-1} = h \circ (f \circ f^{-1}) = h

である。▨

逆は成り立たない。すなわち、モノ射かつエピ射であって同型射でない射をもつ圏が存在する。

例 3.3 (位相空間の圏のモノ射かつエピ射).XXをR\mathbb Rに離散位相を入れた空間、YYをR\mathbb Rに距離d(s,t)=∣s−t∣d(s, t) = |s - t|が定める位相を入れた空間とし、f=idR:X→Yf = \mathrm{id}_{\mathbb R} : X \to Yとする。§E2.12 例 6.9により、ffは連続な全単射であり、同相写像ではない。位相空間と連続写像が圏Top\mathbf{Top}をなすことは§E21.1 例 2.3による。

ffはTop\mathbf{Top}のモノ射である。実際、ZZを位相空間、g,h:Z→Xg, h : Z \to Xをf∘g=f∘hf \circ g = f \circ hを満たす連続写像とすると、写像としてffは単射であるから、任意のz∈Zz \in Zについてg(z)=h(z)g(z) = h(z)でありg=hg = hである。

ffはTop\mathbf{Top}のエピ射である。実際、WWを位相空間、g,h:Y→Wg, h : Y \to Wをg∘f=h∘fg \circ f = h \circ fを満たす連続写像とすると、写像としてffは全射であるから、任意のy∈Yy \in Yに対してf(x)=yf(x) = yを満たすxxが存在し、g(y)=g(f(x))=h(f(x))=h(y)g(y) = g(f(x)) = h(f(x)) = h(y)である。ゆえにg=hg = hである。

ffはTop\mathbf{Top}の同型射ではない。§E21.1 命題 6.4によりTop\mathbf{Top}の同型射は同相写像(§E2.12 定義 6.1)であり、ffは同相写像ではないからである。同じことを定義から確かめることもできる。仮にffが同型射であるとすると、逆射g:Y→Xg : Y \to Xは連続写像であってg∘f=idXg \circ f = \mathrm{id}_Xとf∘g=idYf \circ g = \mathrm{id}_Yを満たす。このときggは写像としてffの逆写像であるから、ffは連続な全単射であって逆写像も連続であり、§E2.12 定義 6.1により同相写像となる。これは§E2.12 例 6.9に反する。

したがってffはモノ射かつエピ射であるが同型射ではない。この例により、命題 3.2の逆が一般には成り立たないことが示された。

4 環の圏

定理 3.1は集合の圏についての主張であり、他の圏で同じ結論が成り立つとは限らない。エピ射が全射に一致しない例を、環の圏で与える。以下、Ring\mathbf{Ring}は単位元をもつ環(§E6.1 定義 1.1)を対象とし、単位元を単位元へ写す環準同型(§E6.1 定義 1.3)を射とする圏である(§E21.1 例 2.2)。

命題 4.1. 包含写像ι:Z→Q\iota : \mathbb Z \to \mathbb QはRing\mathbf{Ring}のモノ射かつエピ射であるが、全射ではない。とくにι\iotaはRing\mathbf{Ring}の同型射ではない。

証明. 全射でないことを示す。1/2∈Q1/2 \in \mathbb Qは整数でないから、ι\iotaの像Z\mathbb Zに属さない。

モノ射であることを示す。RRを環、g,h:R→Zg, h : R \to \mathbb Zをι∘g=ι∘h\iota \circ g = \iota \circ hを満たす環準同型とする。任意のr∈Rr \in Rについてg(r)g(r)とh(r)h(r)は整数であり、ι\iotaは写像として単射であるからg(r)=h(r)g(r) = h(r)である。ゆえにg=hg = hである。

エピ射であることを示す。RRを環、g,h:Q→Rg, h : \mathbb Q \to Rをg∘ι=h∘ιg \circ \iota = h \circ \iotaを満たす環準同型とする。仮定は、任意の整数nnについてg(n)=h(n)g(n) = h(n)が成り立つことである。

bbを00でない整数とする。Q\mathbb Qにおいてb⋅(1/b)=(1/b)⋅b=1b \cdot (1/b) = (1/b) \cdot b = 1であるから、ggが環準同型であることにより

g(b)⋅g(1/b)=g(1)=1R,g(1/b)⋅g(b)=g(1)=1Rg(b) \cdot g(1/b) = g(1) = 1_R, \qquad g(1/b) \cdot g(b) = g(1) = 1_R

が成り立つ。したがってg(b)g(b)はRRの可逆元であり、その逆元はg(1/b)g(1/b)である。同じ議論によりh(b)h(b)も可逆元であり、その逆元はh(1/b)h(1/b)である。

環において、可逆元の逆元は一意である。実際、uuに対してvu=uv=1Rvu = uv = 1_Rとwu=uw=1Rwu = uw = 1_Rが成り立つならば、

v=v⋅1R=v(uw)=(vu)w=1R⋅w=wv = v \cdot 1_R = v(uw) = (vu)w = 1_R \cdot w = w

である。いまbbは整数であるから仮定によりg(b)=h(b)g(b) = h(b)であり、この元の逆元は一意であるからg(1/b)=h(1/b)g(1/b) = h(1/b)である。

任意のq∈Qq \in \mathbb Qをとり、整数aaと00でない整数bbによってq=a⋅(1/b)q = a \cdot (1/b)と表す。aaが整数であることからg(a)=h(a)g(a) = h(a)であり、上で示したことからg(1/b)=h(1/b)g(1/b) = h(1/b)であるから、乗法の保存により

g(q)=g(a)⋅g(1/b)=h(a)⋅h(1/b)=h(q)g(q) = g(a) \cdot g(1/b) = h(a) \cdot h(1/b) = h(q)

である。qqは任意であるからg=hg = hであり、ι\iotaはエピ射である。

最後に、ι\iotaが同型射であるとすると、逆射σ:Q→Z\sigma : \mathbb Q \to \mathbb Zについてι∘σ=idQ\iota \circ \sigma = \mathrm{id}_{\mathbb Q}が成り立ち、ι\iotaは全射となる。これは既に示したことに反する。ゆえにι\iotaは同型射でない。▨

二つの圏で結論が分かれる理由を述べる。エピ射から全射を導く議論は、終域の上で値を自由に定めた射を必要とする。そのような射を作ることができるかどうかが、集合の圏と環の圏で異なる。

注意 4.2 (集合の圏と環の圏でエピ射の意味が異なる理由).定理 3.1 (2)でエピ射から全射を導いたとき、終域を{0,1}\{0, 1\}とし、像の外の一点だけを11へ写す写像を作った。Ring\mathbf{Ring}ではこの構成を用いることができない。環準同型は00を00へ、11を11へ写さなければならず、各元での値を自由に定めることができないからである。命題 4.1の証明は、逆に、Z\mathbb Z上での一致がQ\mathbb Q全体での一致を強制することを、可逆元の逆元の一意性から導いている。

5 極限から得られるモノ射

普遍性によって定まる射の中には、その定義からただちにモノ射になるものがある。

命題 5.1.C\mathcal Cを圏、f,g:A→Bf, g : A \to Bを平行な二つの射とし、(E,(e,f∘e))\bigl(E, (e, f \circ e)\bigr)をffとggの equalizer(§E21.5 定義 3.2)とする。このときe:E→Ae : E \to Aはモノ射である。

証明.§E21.5 命題 3.3により、eeは次の二つを満たす。

  1. f∘e=g∘ef \circ e = g \circ eが成り立つ。
  2. f∘w=g∘wf \circ w = g \circ wを満たす任意の射w:X→Aw : X \to Aに対して、e∘t=we \circ t = wを満たす射t:X→Et : X \to Eがただ一つ存在する。

t1,t2:X→Et_1, t_2 : X \to Eをe∘t1=e∘t2e \circ t_1 = e \circ t_2を満たす二つの射とし、w=e∘t1w = e \circ t_1とおく。§E21.5 命題 3.3 (1)と結合律により

f∘w=f∘(e∘t1)=(f∘e)∘t1=(g∘e)∘t1=g∘(e∘t1)=g∘wf \circ w = f \circ (e \circ t_1) = (f \circ e) \circ t_1 = (g \circ e) \circ t_1 = g \circ (e \circ t_1) = g \circ w

であるから、wwは§E21.5 命題 3.3 (2)の仮定を満たす射である。したがってe∘t=we \circ t = wを満たす射t:X→Et : X \to Eはただ一つである。t1t_1はこの等式を満たし、t2t_2もe∘t2=e∘t1=we \circ t_2 = e \circ t_1 = wにより満たすので、一意性からt1=t2t_1 = t_2である。ゆえにeeはモノ射である。▨

双対の主張も従う。§E21.4 命題 2.2により、C\mathcal Cにおける coequalizer はCop\mathcal C^{\mathrm{op}}における equalizer であるから、命題 5.1をCop\mathcal C^{\mathrm{op}}に適用すると、coequalizer を与える射はCop\mathcal C^{\mathrm{op}}のモノ射である。命題 2.4により、この射はC\mathcal Cのエピ射である。equalizer と coequalizer の定義、および具体的な圏での構成は「極限・余極限の特殊な場合」が扱う。

6 演習

問題 6.1.

  1. 命題 2.1の証明で、命題 2.1 (2)⇔\Leftrightarrow(3)が同じ主張であることをどのように確かめたかを述べ、y(f)Xy(f)_XとHom⁡(X,f)\operatorname{Hom}(X, f)の始域と終域を書き下せ。
  2. 命題 2.4と命題 5.1から、coequalizer を与える射がエピ射であることが従う。この導出を、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}における議論として書き下せ。
  3. 定理 3.1 (2)の証明で用いた写像hhを、終域が{0,1}\{0, 1\}でない集合の場合にも作ることができるかを検討し、どの条件が必要かを述べよ。
  4. 命題 4.1の証明のうち、g(1/b)=h(1/b)g(1/b) = h(1/b)を導く部分を、可逆元の逆元の一意性を用いずに書くことができるかを検討せよ。
  5. 例 3.3の議論のうち、二つの空間の位相を用いる箇所と、写像の単射性・全射性だけを用いる箇所を特定せよ。
  6. 群の圏Grp\mathbf{Grp}において、単射な群準同型がモノ射であることを、命題 2.1 (2)を確かめることで示せ。

7 扱った範囲と次の記事

本記事では、モノ射とエピ射を消去律によって定義し、モノ射であることが各対象XXについてHom⁡(X,f)\operatorname{Hom}(X, f)が単射であること、すなわち米田埋め込みの像y(f)y(f)の各成分が単射であることと同値であることを示した。エピ射については、向きが反対の hom 関手Hom⁡(f,Y)\operatorname{Hom}(f, Y)について同じことが成り立ち、反対圏をとるとモノ射とエピ射が入れ替わることを示した。集合の圏では、モノ射は単射に、エピ射は全射に一致する。位相空間の圏には、モノ射かつエピ射でありながら同型射でない射が存在する。環の圏では、整数環から有理数体への包含がエピ射でありながら全射でない。連続な全単射と同相写像の区別については「位相空間論 I」が扱う。

次の記事「随伴」では、二つの関手の間の対応を hom 集合の自然同型として定義する。加法圏とアーベル圏においてモノ射とエピ射が核と余核によって記述されること、および完全列との関係は「ホモロジー代数」が扱う。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.消去律によるモノ射とエピ射の定義と、集合の圏との比較を参考にした。
  2. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.モノ射とエピ射が反対圏によって入れ替わることの扱いを参考にした。
  3. Francis Borceux, Handbook of Categorical Algebra 1: Basic Category Theory, Encyclopedia of Mathematics and its Applications 50, Cambridge University Press, 1994.環の圏においてエピ射が全射とは限らないことを参考にした。

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