群は、対称性、置換、整数の加法などに共通する演算の構造を記述する。本単元は、具体例から群の公理を抽出し、準同型と商群によって群を比較する方法を定めた後、群作用、群の拡大、有限群の構造へ進む。読者として、量化子を含む定義と証明を読み書きすることができる数学専門課程の学習者を想定する。
学習の目的
本単元を終えた読者は、次のことを行うことができる。
- 集合と二項演算が群をなすかどうかを公理から判定し、部分群、商群、直積、半直積を構成する。
- 群準同型、同型定理、群作用を用いて、異なる表示をもつ群の構造を比較する。
- 自由群、自由積、生成元と関係式による表示が満たす普遍的性質を証明する。
- 群作用と Sylow の定理を用いて有限群の構造を制約し、二つの相異なる素数の積を位数とする群を同型を除いて分類する。
- 有限アーベル群、組成列、可解群、冪零群に関する主要な構造定理を、それぞれの仮定と証明の連鎖を示して説明する。
- 群の拡大、外部作用、分裂、切断、半直積の関係を、短完全列と可換する写像を用いて証明する。
前提知識
- 集合と論理の発展で扱う量化子、必要条件と十分条件、同値命題、背理法、数学的帰納法を用いる。これらは群の公理と部分構造に関する主張を書くために必要である。
- 写像で扱う写像、合成、単射、全射、全単射、像、逆像を、群準同型と同型の定義に用いる。
- 同値関係と商で扱う同値関係、商集合、代表元によらず写像や二項演算が定まるための条件を、剰余類と商群の構成に用いる。
- 数え上げの原理と全単射による数え上げの和の法則、積の法則、全単射による数え上げを Burnside の補題の二重計数に用いる。Euler の関数を用いる塗り分けの例では、包除原理の応用と鳩の巣原理の一般形の結果も参照する。
- 「有限アーベル群の基本定理」では、Bézout の等式、Euclid の補題、素因数分解の存在と一意性を外部前提とせず、記事内で証明する。
- 展望の「有限群の表現」では、次元定理で証明する基底延長補題を、部分表現への線形射影の構成に用いる。
前提となる各結果は、使用する箇所で仮定と結論を再掲する。とくに、群の本論で必要となる構成や定理を、参照先へのリンクだけに委ねない。
学習の順序
最初に、群、部分群、準同型、置換、剰余類を定義する。準同型を置換の符号より前に置くことにより、符号を二元群への準同型として定め、交代群をその核として定義することができる。正規部分群と商群を構成した後に同型定理を証明し、自由群、自由積、群の表示へ進む。
次に、群作用を対称群への準同型として定式化する。軌道と安定化群、Burnside の補題、共役類と類等式を経て、自己同型と外部自己同型を定める。この順序により、短完全列の核への共役作用から外部作用を構成し、非分裂拡大を調べた後で、分裂拡大と半直積の同値を証明する。
有限群の構造では、Cauchy の定理を Sylow の定理より前に証明し、循環を避ける。Sylow の三定理、有限アーベル群の基本定理、5次交代群の単純性、Jordan–Hölder の定理を証明した後に、可解群と冪零群を扱う。この順序により、組成因子、導来列、中心列を相互に比較することができる。
最後の4記事は展望であり、必修ではない。ただし、後続単元が Hall 部分群、Fitting 部分群、Schur–Zassenhaus の定理、Maschke の定理を用いる場合には、該当する記事を選んで読む必要がある。展望の記事も、各記事が述べる主要定理を本単元で完全に証明する。
必修の記事
必修の22記事は、次の順に読む。
- 群 — 二項演算と群の公理を定義する。整数の加法群、剰余類の加法群、対称性の群を調べる。剰余類の加法が代表元の選び方によらず定まることと、単位元および逆元の一意性を証明し、アーベル群と非可換群を区別する。
- 部分群と巡回群 — 部分群判定、生成部分群、元の位数を扱い、巡回群が整数の加法群または有限巡回群に同型であることを証明する。
- 群準同型と同型 — 群準同型、同型、核、像を定義する。準同型の合成、核と像の部分群性、および準同型の単射性と核が自明であることの同値を証明する。
- 対称群 — 置換の積、逆置換、巡回置換を定義する。互いに素な巡回置換への分解の存在と、巡回因子を並べる順序と、各巡回表示における開始点の巡回移動を除く一意性を証明する。
- 置換の符号と交代群 — 置換の符号が互換分解の選び方によらない well-defined な準同型であることを証明し、交代群を符号準同型の核として定義する。
- Lagrange の定理 — 左右剰余類を定義して Lagrange の定理を証明する。有限群の元の位数が群の位数を割ることと、素数位数の群が巡回群であることを導く。
- 正規部分群と商群 — 正規部分群を共役による不変性と左右剰余類の一致によって特徴づける。準同型の核が正規部分群であることを証明し、代表元によらず積が定まることを確認して商群を構成する。
- 同型定理 — 第一・第二・第三同型定理と部分群の対応定理を、商写像の普遍的性質から導く。
- 自由群・自由積と群の表示 — 簡約語から自由群と自由積を構成し、群の公理、標準写像または標準埋め込み、および普遍的性質を証明する。群の表示を、関係式の正規閉包による自由群の商として構成する。
- 群作用と軌道 — 任意の集合上の全単射群を定義し、左群作用と全単射群への準同型の対応を示す。作用の核、忠実性、可移性、軌道、安定化群、剰余類への作用を定義し、軌道安定化群定理と、任意の群に対する Cayley の定理を証明する。
- Burnside の補題 — 有限群作用の軌道数が各群元の不動点数の平均に等しいことを二重計数で証明し、正多角形の頂点の塗り分けを回転と鏡映のもとで数える。
- 共役類と類等式 — 中心化群、正規化群、中心、内部自己同型、共役類を定義する。共役作用から類等式を導き、有限 p 群の中心が非自明であることと Cauchy の定理を証明する。
- 直積群 — 外部直積と内部直積を定義し、二つの正規部分群から直積分解が得られるための条件を証明する。
- 自己準同型と内部・外部自己同型 — 自己準同型の合成がモノイドをなし、可逆元が自己同型群をなすことを証明する。内部自己同型群の正規性を証明し、外部自己同型群を商群として定義する。
- 群の拡大と外部作用 — 群の拡大を短完全列として定義し、核への共役作用が商群から核の外部自己同型群への準同型を誘導することを証明する。分裂と切断を定義し、外部作用が自己同型群へ持ち上がるが分裂しない拡大を調べる。
- 半直積と分裂拡大 — 自己同型群への準同型から外部半直積を構成し、内部半直積の判定条件を証明する。与えられた短完全列が分裂することと、半直積から得られる標準的な短完全列に拡大として同型であることの同値を証明する。
- Sylow の定理 — Sylow の三定理を群作用から証明する。二つの相異なる素数の積を位数とする群について、素数の大小と整除条件を明示し、得られる半直積を同型を除いて分類する。
- 有限アーベル群の基本定理 — 有限アーベル群を素数冪成分へ分解し、巡回直因子を群論的に抽出する。単因子表示と初等因子表示の存在、一意性、両表示の対応を、単項イデアル整域上の加群の構造定理を用いずに証明する。
- 単純群 — 単純群を定義し、準同型の核と群作用の核による単純性判定を証明する。5次交代群の共役類を決定し、非自明な正規部分群が共役類の和になることから単純性を証明する。
- 組成列と Jordan–Hölder の定理 — 組成列、細分、組成列の同値を定義する。Schreier の細分定理を証明し、組成因子を重複度とともに比較して Jordan–Hölder の定理を導く。
- 可解群 — 交換子部分群、アーベル化、導来列、可解群を定義する。部分群、商群、拡大に関する閉性と、有限群の可解性が全組成因子の素数位数巡回性と同値であることを証明する。
- 冪零群 — 上中心列が有限段で全群に達することによって冪零性を定義し、下中心列が有限段で自明部分群に達することとの同値を証明する。有限 p 群が冪零であることを証明する。さらに、有限群が冪零であることと、そのすべての Sylow 部分群の直積に分解することが同値であることを証明する。
展望の記事
次の4記事は必修ではない。各記事は、後続単元が用いる定理の完全な証明を本単元に置く。
- Hall 部分群と有限可解群 — Hall π 部分群を定義する。有限可解群について、Hall π 部分群の存在と共役、および任意の π 部分群がいずれかの Hall π 部分群に含まれることを完全に証明する。
- Fitting 部分群 — 正規冪零部分群の積が冪零であることを証明し、Fitting 部分群を構成する。最大正規冪零性、特性部分群性、および有限可解群における中心化群の包含を証明する。
- Schur–Zassenhaus の定理 — 正規 Hall 部分群の補部分群の存在を証明する。正規部分群または商群が可解である場合に補部分群が共役であることを証明し、補部分群と分裂拡大および半直積との対応を示す。
- 有限群の表現 — 有限群の有限次元複素表現と部分表現を定義し、平均化によって Maschke の定理を証明する。指標を定義し、3次対称群の自明表現、符号表現、標準表現の値を計算する。
展望の4記事を読まなくても、必修22記事の証明鎖は閉じる。後続単元は展望区分全体を一括して前提にせず、実際に用いる記事だけを指定して参照する。
後続単元との分担
- 可換環論は、Smith 標準形を用いて任意の単項イデアル整域上の有限生成加群を分類する。本単元は、有限アーベル群の分類を群論的に独立して証明する。
- 環論入門は、環、イデアル、一般の環上の加群、テンソル積を扱う。
- 体論入門は、体の拡大、分解体、有限次および無限次の Galois 理論を扱う。本単元の可解群は、同単元が Galois 群の構造を調べるために用いる。
- 有限群の表現論は、有限群の複素表現と Maschke の定理を既知として、複素群環上の加群、完全可約表現、Schur の補題、指標の直交関係、指標表、誘導表現へ進む。
- ホモロジー代数は、本単元で構成する群作用、群の拡大、外部作用、分裂、切断を用い、群コホモロジーによってアーベル核をもつ拡大を分類する。
- 有限群論は、Hall の定理、Fitting 部分群、Schur–Zassenhaus の定理を既知として、Hall 系と Sylow 基底、Fitting 列と一般化 Fitting 部分群、融合、移送、局所解析へ進む。
- 位相群上の解析は、一般の位相群と局所コンパクト群、Haar 測度、群上の調和解析を扱う。
- Lie 群論は、Lie 群の位相構造と微分構造、および Lie 環との対応を扱う。
- Lie 環論は、Lie 環とその表現を扱う。
- 幾何学的群論は、語距離、準等長、群の増大度、双曲群、語の問題を扱う。
この単元で扱わないこと
- 任意の単項イデアル整域上の有限生成加群を分類する一般の構造定理は扱わない。有限アーベル群の場合だけを群論的に証明する。
- 体の拡大、分解体、有限次および無限次の Galois 理論は扱わない。
- Schur の補題、指標の直交関係、指標表、誘導表現などの体系的な有限群表現論は扱わない。
- 群コホモロジーによる群の拡大の分類は扱わない。
- p 群の Frattini 部分群、融合、移送、一般化 Fitting 部分群、局所解析、Feit–Thompson の定理、有限単純群の分類は扱わない。
- 一般の位相群と局所コンパクト群、Haar 測度、群上の調和解析は扱わない。
- Lie 群の位相構造と微分構造、および Lie 環との対応は扱わない。
- Lie 環とその表現は扱わない。
- 語距離、準等長、群の増大度、双曲群、語の問題などの幾何学的群論は扱わない。