1 冪集合への全射の非存在
定理 1.1 (Cantor の定理).Aを集合とする。
- AからP(A)への全射は存在しない。
- ∣A∣<∣P(A)∣である。
証明.(1)f:A→P(A)を写像とし、
D={a∈A∣a∈/f(a)}とおく。「集合の存在原理」の§E1.13 定義 2.1によりDはAの部分集合であり、D∈P(A)である。D=f(b)を満たすb∈Aが存在すると仮定する。b∈Dとすると、Dの定義からb∈/f(b)であり、f(b)=Dであるからb∈/Dとなって矛盾する。b∈/Dとすると、b∈AであるからDの定義によりb∈f(b)=Dとなって矛盾する。したがってDはfの像に属さず、fは全射ではない。
(2)写像a↦{a}はAからP(A)への単射であるから、§E1.18 定義 1.1により∣A∣≤∣P(A)∣である。∣P(A)∣≤∣A∣が成り立つと仮定すると、単射g:P(A)→Aが存在する。a∈Aに対して、g(S)=aを満たすS∈P(A)が存在する場合にはそのSを、存在しない場合には∅を値とする対応をhとする。gは単射であるから第一の場合のSは一意であり、∅∈P(A)であるから第二の場合の値もP(A)に属する。よってhは写像A→P(A)である。任意のS∈P(A)についてh(g(S))=Sであるからhは全射であり、(1)に反する。したがって∣P(A)∣≤∣A∣は成り立たず、§E1.18 定義 1.1が定める狭義比較により∣A∣<∣P(A)∣である。▨
例 1.2.A={0,1}とし、f:A→P(A)をf(0)={0}、f(1)=∅で定める。0∈f(0)であるから0∈/Dであり、1∈/f(1)であるから1∈Dである。よって対角線集合はD={1}であり、f(0)={0}ともf(1)=∅とも異なる。P(A)の残りの元{0,1}もfの像に属さない。Aの元は2個、P(A)の元は4個であり、この場合の定理 1.1 (2)は2<4にあたる。
2 二進列から実数への単射
定義 2.1.Z≥0を定義域とし{0,1}を終域とする写像を二進列 (binary sequence) という。二進列の全体を{0,1}Z≥0と書き、二進列xのnにおける値をxnと書く。S⊆Z≥0に対して、n∈Sのとき1、n∈/Sのとき0を値とする二進列をχSと書き、Sの指示関数 (indicator function) という。たとえばχZ≥0はすべての値が1である二進列であり、χ∅はすべての値が0である二進列である。
補題 2.2. 写像S↦χSはP(Z≥0)から{0,1}Z≥0への全単射であり、その逆写像は二進列xに{n∈Z≥0∣xn=1}を対応させる。
証明. 二進列xに対してσ(x)={n∈Z≥0∣xn=1}とおく。§E1.13 定義 2.1によりσ(x)はZ≥0の部分集合であり、σは写像{0,1}Z≥0→P(Z≥0)である。S⊆Z≥0とn∈Z≥0に対して、n∈σ(χS)は(χS)n=1と同値であり、指示関数の定義によりこれはn∈Sと同値である。よってσ(χS)=Sである。逆に二進列xとnに対して、n∈σ(x)ならば(χσ(x))n=1=xnであり、n∈/σ(x)ならばxn=1すなわちxn=0であって(χσ(x))n=0=xnである。よってχσ(x)=xである。二つの合成がいずれも恒等写像であるから、S↦χSは全単射であり、σがその逆写像である。▨
補題 2.3.Nを非負整数とし、実数の非負整数乗を「二項演算」の§E1.4 定義 3.1によって定める。
- bを0でない実数とすると(b1)N=bN1である。
- rを1でない実数とするとn=0∑Nrn=1−r1−rN+1である。
- n=0∑N3n+11=21(1−3N+11)である。
証明.(1)N=0では両辺がともに1である。(b1)N=bN1を仮定すると、冪の再帰と
bN1⋅b1=bNb1=bN+11から(b1)N+1=bN+11である。
(2)Nについての帰納法で(1−r)∑n=0Nrn=1−rN+1を示す。N=0ではr0=1であるから左辺は1−rであり、右辺は1−r1=1−rである。Nで等式が成り立つとすると、
(1−r)n=0∑N+1rn=(1−r)(n=0∑Nrn+rN+1)=(1−rN+1)+(rN+1−rN+2)=1−rN+2である。r=1から1−r=0であり、両辺を1−rで割ると主張の等式を得る。
(3)(1)により3n1=(31)nであるから、(2)をr=31に適用して
n=0∑N3n+11=31n=0∑N(31)n=31⋅1−311−3N+11=21(1−3N+11)を得る。▨
定義 2.4. 二進列xと非負整数Nに対して
sN(x)=n=0∑N3n+1xnとおき、sN(x)をxの三進部分和 (triadic partial sum) という。
補題 2.5. 二進列xと非負整数Nに対して、s0(x)=3x0かつsN+1(x)=sN(x)+3N+2xN+1である。
証明.N=0のとき和∑n=003n+1xnはn=0の項だけからなるので、s0(x)=3x0である。また有限和は上端を一つ増やすごとに新しい項を加えて定まるから、
sN+1(x)=n=0∑N+13n+1xn=n=0∑N3n+1xn+3N+2xN+1=sN(x)+3N+2xN+1である。▨
命題 2.6.xを二進列とし、N、M、n0を非負整数とする。
- N≤MならばsN(x)≤sM(x)である。
- 0≤sN(x)≤21(1−3N+11)<21である。
- n0<NならばsN(x)−sn0(x)≤21(3n0+11−3N+11)<21⋅3n0+11である。
証明.(1)補題 2.5とxN+1≥0、3N+2>0からsN+1(x)−sN(x)=3N+2xN+1≥0である。NからMまで有限回この不等式を重ねるとsN(x)≤sM(x)を得る。
(2)各項3n+1xnは非負であるから0≤sN(x)である。またxn≤1であるから
sN(x)≤n=0∑N3n+11=21(1−3N+11)であり、最後の等号は補題 2.3 (3)による。3N+1>0から3N+11>0であり、右端の狭義不等式が従う。
(3)n0<Nとすると、xn≤1と補題 2.3 (3)により
sN(x)−sn0(x)=n=n0+1∑N3n+1xn≤n=n0+1∑N3n+11=21(1−3N+11)−21(1−3n0+11)であり、右辺は21(3n0+11−3N+11)に等しい。3N+11>0から、これは21⋅3n0+11より小さい。▨
補題 2.7.xを二進列とすると、集合{sN(x)∣N∈Z≥0}は空でなく21を上界にもつ。したがってこの集合の上限がRに存在し、その値は0以上21以下である。
証明.s0(x)はこの集合に属するので、この集合は空でない。命題 2.6 (2)により各sN(x)は21より小さいから、21はこの集合の上界である。「完備順序体の一意性」の§E1.15 定義 1.1は、上に有界で空でない任意の部分集合が上限をもつことを完備順序体の性質として定め、「実数体の構成」の§E1.14 定理 3.1はRがこの性質をもつことを与える。したがってこの集合の上限がRに存在する。命題 2.6 (2)により0≤s0(x)であるから上限は0以上であり、21が上界であるから上限は21以下である。▨
定義 2.8. 二進列xに対して、補題 2.7が存在を与える上限
φ(x)=sup{sN(x)∣N∈Z≥0}をxの三進値 (triadic value) という。こうして写像φ:{0,1}Z≥0→Rが定まる。
定理 2.9.φを
φ:{0,1}Z≥0→R,φ(x)=sup{sN(x)∣N∈Z≥0}が定める写像とする。
- φは単射である。
- S⊆Z≥0にφ(χS)を対応させる写像は、冪集合P(Z≥0)の全体からRへの単射である。
証明.(1)二進列x、yをx=yとなるように取る。集合{n∈Z≥0∣xn=yn}は空でないので最小元n0をもつ。xn0とyn0は{0,1}の相異なる元であるから、必要ならxとyを入れ替えて、xn0=1かつyn0=0としてよい。
t=sn0(y)とおく。n0=0の場合にはt=3y0=0かつs0(x)=3x0=31である。n0>0の場合には、n<n0でxn=ynであることと補題 2.5からsn0−1(x)=sn0−1(y)であり、同じ補題 2.5からt=sn0−1(y)+3n0+1yn0=sn0−1(y)かつsn0(x)=sn0−1(x)+3n0+11である。いずれの場合も
sn0(x)=t+3n0+11が成り立つ。上限は上界であるからφ(x)≥sn0(x)=t+3n0+11である。
次に、t+21⋅3n0+11が{sN(y)∣N∈Z≥0}の上界であることを示す。N≤n0の場合には命題 2.6 (1)によりsN(y)≤sn0(y)=tである。N>n0の場合には命題 2.6 (3)により
sN(y)≤t+21(3n0+11−3N+11)<t+21⋅3n0+11である。いずれの場合もsN(y)≤t+21⋅3n0+11であるから、上限が最小の上界であることにより
φ(y)≤t+21⋅3n0+11<t+3n0+11≤φ(x)となる。中央の狭義不等式は3n0+11>0による。よってφ(x)=φ(y)であり、φは単射である。
(2)補題 2.2によりS↦χSはP(Z≥0)から{0,1}Z≥0への全単射である。φ(χS)=φ(χS′)とすると、φの単射性からχS=χS′であり、S↦χSの単射性からS=S′である。よってS↦φ(χS)はP(Z≥0)の全体で定義された単射である。▨
補題 2.10.bを2≤bを満たす実数とする。
- 任意の非負整数Nに対してN+1≤bNである。
- 任意の正の実数εに対して、bN+11<εを満たす非負整数Nが存在する。
証明.(1)N=0ではb0=1かつ0+1=1であるから等号が成り立つ。0<bと冪の再帰から0<bNが帰納法で従う。N+1≤bNを仮定すると、2≤bと0<bNから
bN+1=bNb≥2bN≥2(N+1)=(N+2)+N≥N+2である。したがってすべての非負整数について主張が成り立つ。
(2)§E1.14 定理 3.6によりRにおける自然数の像は上に有界でないから、ε1はその上界ではなく、ε1<mを満たす自然数mが存在する。N=mとおくと(1)をN+1に適用してN+2≤bN+1を得る。m<N+2であるからε1<bN+1であり、両辺が正であるからbN+11<εである。▨
例 2.11. すべてのnで(χ∅)n=0であるからsN(χ∅)=0であり、φ(χ∅)=0である。χ{0}については、すべてのNでsN(χ{0})=31であるからφ(χ{0})=31である。
χZ≥0については、補題 2.3 (3)により
sN(χZ≥0)=n=0∑N3n+11=21−21⋅3N+11である。どの値も21より小さいので21は上界である。c<21が上界であると仮定すると、すべてのNについて21⋅3N+11≥21−c>0、すなわち3N+11≥1−2c>0となる。しかし補題 2.10 (2)をb=3、ε=1−2cに適用すると3N+11<1−2cを満たすNが存在するので矛盾する。よってφ(χZ≥0)=21である。
例 2.12. 重みを2n+11に取り替えると、同じ構成は単射にならない。二進列xと非負整数Nに対して
uN(x)=n=0∑N2n+1xn,ψ(x)=sup{uN(x)∣N∈Z≥0}とおく。補題 2.3 (1)と補題 2.3 (2)をr=21に適用すると∑n=0N2n+11=1−2N+11であるから、uN(x)≤1である。したがって§E1.15 定義 1.1と§E1.14 定理 3.1によりψ(x)は存在する。
χ{0}については、すべてのNでuN(χ{0})=21であるからψ(χ{0})=21である。χZ≥1については、N≥1のとき
uN(χZ≥1)=(1−2N+11)−21=21−2N+11であり、N=0のときはu0(χZ≥1)=0である。どの値も21より小さいので21は上界である。c<21が上界であると仮定すると、すべてのN≥1について2N+11≥21−c>0となる。補題 2.10 (2)をb=2、ε=21−cに適用すると2N+11<21−cを満たす非負整数Nが存在し、2N+2=2N+1⋅2≥2N+1からNを大きく取り替えても不等式は保たれるので、N≥1として取ることができる。これは前の不等式に矛盾する。よってψ(χZ≥1)=21=ψ(χ{0})である。{0}=Z≥1であるからχ{0}=χZ≥1であり、ψは単射ではない。
3 実数全体の非可算性
例 3.1.A=∅とすると、空写像は∅からZ≥0への単射である。一方、0∈Z≥0に値を割り当てることができないので、Z≥0から∅への写像は存在せず、全射も存在しない。したがって§E1.18 補題 3.2から「Aは空でない」という仮定を外すことはできない。
定理 3.3.Rは高々可算でない。したがってZ≥0からRへの全射は存在せず、Rは非可算である。
証明.Rが高々可算であると仮定する。「等濃度と可算性」の§E1.18 定理 3.3 (1)により単射j:R→Z≥0が存在する。定理 2.9 (2)はP(Z≥0)の全体で定義された単射S↦φ(χS)を与えるので、これにjを続けて合成した写像は単射P(Z≥0)→Z≥0である。∅∈P(Z≥0)であるからP(Z≥0)は空でなく、§E1.18 補題 3.2 (1)により全射Z≥0→P(Z≥0)が存在する。これは定理 1.1 (1)に反する。したがってRは高々可算でない。
Z≥0からRへの全射が存在すると仮定する。0∈RであるからRは空でなく、§E1.18 補題 3.2 (2)により単射R→Z≥0が存在する。すると§E1.18 定義 1.2によりRは高々可算となり、前段に反する。Rが非可算であることは、§E1.18 定義 1.2により高々可算でないことにほかならない。▨
4 超越数の存在
定義 4.1.§E1.18 定義 7.3が定める代数的数でない複素数を超越数 (transcendental number) という。
定理 4.2. 代数的数でない実数が存在する。すなわち、超越数である実数が存在する。
証明. 代数的数の全体をAと書く。「等濃度と可算性」の§E1.18 定理 7.6によりAは可算であるから、§E1.18 定義 1.2により全単射Z≥0→Aが存在し、その逆写像は単射k:A→Z≥0である。
すべての実数が代数的数であると仮定する。§E1.14 命題 4.2の埋め込みa↦(a,0)は単射であり、この仮定は各実数の像がAに属することをいう。したがって、実数aにその像のkによる値を対応させる写像は単射R→Z≥0である。すると§E1.18 定義 1.2によりRは高々可算となり、定理 3.3に反する。よって代数的数でない実数が存在し、定義 4.1によりそれは超越数である。▨
5 演習
問題 5.1.f:Z≥0→P(Z≥0)をf(n)={m∈Z≥0∣m<n}で定める。定理 1.1 (1)の証明が作る対角線集合D={n∈Z≥0∣n∈/f(n)}を求め、Dがfの像に属さないことを直接確かめよ。
解答.
任意の非負整数nについてn<nは成り立たないからn∈/f(n)であり、D=Z≥0である。D=f(n)を満たすnが存在すると仮定すると、n∈Z≥0=D=f(n)であり、f(n)の定義からn<nとなって矛盾する。したがってDはfの像に属さない。▨
問題 5.2.Eを偶数である非負整数の全体とする。φ(χE)=83であることを示せ。
解答.
Kを非負整数とする。(χE)nはnが偶数のとき1、奇数のとき0であるから、補題 2.3 (1)と補題 2.3 (2)をr=91に適用して
s2K(χE)=k=0∑K32k+11=31k=0∑K(91)k=31⋅1−911−9K+11=83(1−9K+11)を得る。また(χE)2K+1=0であるからs2K+1(χE)=s2K(χE)である。よって{sN(χE)∣N∈Z≥0}は83(1−9K+11)の全体であり、どの値も83より小さいので83は上界である。
c<83が上界であると仮定すると、すべてのKについて83⋅9K+11≥83−c>0、すなわち9K+11≥38(83−c)>0となる。しかし補題 2.10 (2)をb=9、ε=38(83−c)に適用すると9K+11<εを満たす非負整数Kが存在するので矛盾する。したがって83が最小の上界であり、φ(χE)=83である。▨
問題 5.3. 超越数である実数の全体は高々可算でないことを示せ。
解答.
Bを代数的数である実数の全体とし、T=R∖Bとおく。§E1.18 定理 7.6により代数的数の全体Aは可算であるから、§E1.18 定義 1.2により全単射Z≥0→Aが存在し、その逆写像は単射k:A→Z≥0である。§E1.14 命題 4.2の埋め込みは単射であり、Bの元の像はAに属するから、Bの元にその像のkによる値を対応させる写像は単射B→Z≥0である。よって§E1.18 定義 1.2によりBは高々可算である。
Tが高々可算であると仮定すると、§E1.18 定理 5.1によりR=B∪Tは高々可算となり、定理 3.3に反する。したがってTは高々可算でない。定義 4.1によりTは超越数である実数の全体である。▨
「基数算術」は、定理 1.1 (2)を基数の冪に対する下からの評価として用い、定理 2.9 (2)が与える単射を、連続体濃度が二の可算冪に等しいことの証明の一方向として用いる。