1 随伴を確かめる形
関手F:C→DとG:D→CについてF⊣Gを示すには、各対象A,Bに対して自然な全単射
HomD(F(A),B)≅HomC(A,G(B))
を与える。unit と counit は§E21.8 定義 2.1により、この全単射と恒等射から定まる。以下では、普遍性がすでに上流記事で証明されている場合、その普遍性が全単射を与えることを確認し、同じ存在一意性の証明を繰り返さない。
2 自由加群
Rを単位元をもつ結合環とする。左R加群とR線形写像の圏をR-Modと書く。
命題 2.1. 左R加群の族(Mi)i∈Iに対し、成分ごとの加群構造を入れた∏iMiは直積であり、有限台の元からなる⨁iMiは余積である。右R加群についても同じ主張が成り立つ。
証明. 射の族fi:X→Miに対してx↦(fi(x))iは一意なR線形写像X→∏iMiを与える。射の族gi:Mi→Xに対して(mi)i⟼∑i∈supp(m)gi(mi)は一意なR線形写像⨁iMi→Xを与える。第二の和は有限台の条件によって有限和である。これらは§E21.5 命題 2.3の二条件に一致する。右加群では作用を右から書けば同じ証明が成り立つ。▨
命題 2.2. 集合Xに自由左R加群R(X)を対応させる。写像a:X→Yに、標準元についてδx↦δa(x)を満たす一意なR線形写像F(a):R(X)→R(Y)を対応させると、関手F:Set→R-Modが定まる。
証明.F(a)の存在と一意性は§E6.10 補題 1.4による。恒等写像と合成に対応する線形写像は、いずれも標準元上で恒等写像と合成に一致するため、同じ一意性からF(id)=idとF(b∘a)=F(b)∘F(a)が従う。▨
定理 2.3.U:R-Mod→Setを忘却関手とする。自然な全単射
HomR-Mod(R(X),M)≅HomSet(X,U(M)),φ⟼(x↦φ(δx))によりF⊣Uが成り立つ。unit はx↦δx、counit は
εM:R(U(M))→M,(am)m⟼m∈supp(a)∑ammである。
証明. 表示した対応の全単射性は§E6.10 補題 1.4そのものである。写像X′→Xと線形写像M→M′に関する自然性は、標準元上で二つの合成を評価すると同じ値になることから従う。恒等射を対応へ代入すると、unit は標準元の写像、counit は形式的な有限一次結合をMの中で計算する写像になる。▨
系 2.4.kを体とする。集合Xに自由線形空間k(X)を対応させる関手は、忘却関手Vectk→Setの左随伴である。
命題 2.5.U:R-Mod→Setは存在する極限を保つ。一方、二つの加群の余積を集合の余積へ写さない。
証明.Uは定理 2.3の右随伴なので、§E21.9 定理 3.1により極限を保つ。加群の余積M⊕Nでは、二つの入射がともに零元を同じ零元へ送る。集合の余積では二つの成分の零元は異なる元であるため、U(M⊕N)と二つの入射は集合の余積の普遍性を満たさない。▨
3 対称代数
可換体k上の単位的可換代数と単位的k代数準同型の圏をCAlgkと書く。忘却関手U:CAlgk→Vectkは、加法とスカラー倍だけを残す。
定理 3.1. 対称代数を取る関手Sym:Vectk→CAlgkはUの左随伴である。対応は
HomCAlgk(Sym(V),A)≅HomVectk(V,U(A))である。unit は次数一の標準写像V→U(Sym(V))、counit はAの元の形式的な可換多項式をAの中で評価する準同型Sym(U(A))→Aである。
証明.§E3.13 定理 3.6は、線形写像V→U(A)が次数一で一致する一意な可換k代数準同型Sym(V)→Aへ延長することを述べている。これが表示した全単射である。前合成と後合成の自然性は、どちらの順序で合成しても次数一で同じ線形写像へ制限されることと、延長の一意性から従う。恒等射を対応させると、unit と counit は主張の写像になる。▨
4 結合代数の可換化
単位的結合的k代数と単位的k代数準同型の圏をAlgkとし、可換代数を結合代数とみなす包含関手をJ:CAlgk→Algkと書く。
定理 4.1.A∈Algkに対し、交換子ab−baの全体が生成する両側イデアルをIAとおき、
Aab=A/IAと定める。A↦Aabは関手Ab:Algk→CAlgkを定め、Ab⊣Jが成り立つ。unit は商写像qA:A→J(Aab)、counit は可換代数Bに対する標準同型(J(B))ab≅Bである。
証明.IAの存在には§E6.3 命題 3.1を用いる。A/IAでは任意のa,bの像が可換するため、Aabは可換代数である。Bを可換代数、φ:A→J(B)をk代数準同型とすると、φ(ab−ba)=φ(a)φ(b)−φ(b)φ(a)=0である。したがってIA⊆kerφであり、§E6.3 命題 5.1の商環の普遍性からφ=J(φ)∘qAを満たす一意な準同型φ:Aab→Bが存在する。逆にφからJ(φ)∘qAが得られるので、自然な全単射
HomCAlgk(Aab,B)≅HomAlgk(A,J(B))を得る。可換なBではIJ(B)=0であるため、counit は標準同型になる。▨
この左随伴は「中心で割る」操作ではない。中心Z(A)は一般に両側イデアルではなく、商環A/Z(A)は通常は定義されない。可換化で消すのは、交換子が生成する両側イデアルである。
5 対角関手と積・余積
圏の直積、対角関手、対角射および余対角射は§E21.5 定義 2.5、§E21.5 定義 2.6、§E21.5 命題 2.7で定義した。ここでは積と余積の普遍性を hom 集合の対応として読む。
定理 5.1.Cの各対象の組に直積を一つずつ選ぶと、直積を取る関手P:C×C→Cが定まり、Δ⊣Pである。対応は
HomC×C((A,A),(B,C))≅HomC(A,B×C),(f,g)⟼⟨f,g⟩である。unit は対角射δA:A→A×A、counit は射影の組(p1,p2):(B×C,B×C)→(B,C)である。
証明. 全単射性は§E21.5 命題 2.3の直積に関する主張である。射(b,c):(B,C)→(B′,C′)に対するP(b,c)は、射影との合成がb∘p1とc∘p2になる一意な射として定める。恒等射、合成および全単射の自然性は、射影との合成を比較して直積の一意性を適用すると従う。恒等射を全単射へ代入すると、unit と counit は主張の射になる。▨
定理 5.2.Cの各対象の組に余積を一つずつ選ぶと、余積を取る関手S:C×C→Cが定まり、S⊣Δである。unit は入射の組(ι1,ι2):(B,C)→(B⊔C,B⊔C)、counit は余対角射∇A:A⊔A→Aである。
証明. 余積の普遍性は
HomC(B⊔C,A)≅HomC×C((B,C),(A,A))を与える。余積上の射の関手性と対応の自然性は、二つの入射との合成を比較して余積の一意性を適用すると従う。恒等射の像は入射の組と余対角射である。▨
例 5.3 (対角関手の随伴における保存の内容). 直積関手Pは右随伴なので極限を保つ。たとえばTがCの終対象ならば(T,T)はC×Cの終対象であり、P(T,T)=T×Tも終対象である。したがってT×T≅Tである。一方、対角関手が極限を保つことは随伴を仮定せず§E21.5 命題 2.8で証明した。
6 離散・忘却・密着
命題 6.1. 集合に離散位相を入れる操作D:Set→Topと、密着位相を入れる操作I:Set→Topは、写像を同じ台写像へ送る関手である。
証明. 離散空間からの任意の写像と、密着空間への任意の写像は連続である。対応は台写像を変えないため、恒等射と合成を保つ。▨
定理 6.2.U:Top→Setを忘却関手とするとD⊣Uである。unit は恒等写像S→U(D(S))、counit は台集合上の恒等写像を連続写像とみなしたD(U(X))→Xである。
証明. 離散空間D(S)からXへの写像はすべて連続なので、台写像を取る対応HomTop(D(S),X)≅HomSet(S,U(X))は自然な全単射である。▨
定理 6.3.U⊣Iである。unit は台集合上の恒等写像を連続写像とみなしたX→I(U(X))、counit は恒等写像U(I(S))→Sである。
証明. 空間Xから密着空間I(S)への写像はすべて連続なので、台写像を取る対応HomTop(X,I(S))≅HomSet(U(X),S)は自然な全単射である。▨
命題 6.4.D⊣U⊣Iである。したがってUは極限と余極限の両方を保つ。
7 距離空間の完備化
距離空間と 1-Lipschitz 写像の圏をMet1、完備距離空間がなす充満部分圏をCMet1、包含関手をJと書く。
定理 7.1.§E2.6 定理 2.6の Cauchy 列による完備化X↦Xは関手(−):Met1→CMet1を定め、(−)⊣Jが成り立つ。unit は定値列による等長写像ιX:X→Xである。完備距離空間Yにおける counitY→Yは、Cauchy 列の同値類をその極限へ送る。
証明. 1-Lipschitz 写像f:X→X′に対し、f([(xn)])=[(f(xn))]と定める。1-Lipschitz 条件は Cauchy 性と Cauchy 列の同値を保つため、この写像は well-defined であり、同じ条件を満たす。定義から恒等射と合成を保つ。
Yを完備距離空間、g:X→Yを 1-Lipschitz 写像とする。(g(xn))は Cauchy 列なので、
g([(xn)])=n→∞limg(xn)と定めることができる。同値な代表列は項間距離が0へ収束するため同じ極限を与える。また、
dY(g([(xn)]),g([(xn′)]))≤n→∞limdX(xn,xn′)であるからgは 1-Lipschitz であり、g∘ιX=gを満たす。ιX(X)はXで稠密で、1-Lipschitz 写像は連続なので、この条件を満たす延長は一意である。よって
HomCMet1(X,Y)≅HomMet1(X,J(Y))を得る。構成が前合成と後合成に可換であることは極限の一意性から従う。恒等射を対応させると主張の unit と counit を得る。▨
8 距離の切断
定理 8.1.R>0を固定し、直径がR以下の距離空間がなすMet1の充満部分圏をMet1,≤R、包含関手をJRと書く。距離空間(X,d)に
dR(x,x′)=min{d(x,x′),R}を入れる操作TR:Met1→Met1,≤RはJRの左随伴である。unit と counit は、いずれも台集合上の恒等写像である。
証明.dRの非負性、対称律および同一律はR>0から従う。三角不等式にはmin{a+b,R}≤min{a,R}+min{b,R}を用いる。1-Lipschitz 写像は距離の切断後にも 1-Lipschitz なのでTRは関手である。
Yの直径がR以下であるとする。写像f:X→Yがdについて 1-Lipschitz ならば、d(x,x′)≤Rの場合は元の不等式を用い、d(x,x′)>Rの場合はdY(f(x),f(x′))≤R=dR(x,x′)を用いると、f:TR(X)→Yも 1-Lipschitz である。逆にdR≤dなので、dRについて 1-Lipschitz ならばdについても 1-Lipschitz である。したがって同じ台写像による自然な等式
HomMet1,≤R(TR(X),Y)=HomMet1(X,JR(Y))が成り立つ。▨
9 T0 化
T0 空間と連続写像の圏をTop0、包含関手をJ0:Top0→Topと書く。
定理 9.1. 位相空間Xの二点x,x′について、すべての開集合U⊆Xに対しx∈Uとx′∈Uが同値であるときx∼x′と定める。商集合X0=X/∼に商位相を入れるとX0は T0 空間であり、X↦X0はJ0の左随伴を定める。unit は商写像qX:X→X0である。
証明. 開集合への所属が一致するという関係は、反射律、対称律および推移律を満たすので同値関係である。相異なる同値類[x]=[x′]には、x,x′の一方だけを含む開集合Uが存在する。同値関係の定義からUは同値類の和であり、qX−1(qX(U))=Uである。商位相の定義によりqX(U)は開集合なので、X0は T0 である。
連続写像f:X→Yの終域Yが T0 であるとする。x∼x′ならばf(x)=f(x′)である。実際、値が異なれば T0 性によって一方だけを含む開集合が存在し、その逆像がx,x′を区別して矛盾する。したがって§E2.12 定理 8.10により、f=f∘qXを満たす連続写像f:X0→Yがただ一つ存在する。これが自然な全単射
HomTop0(X0,Y)≅HomTop(X,J0(Y))を与える。T0 空間では相異なる点が同値にならないため、counit(J0Y)0→Yは標準的な同相写像である。▨
10 テンソル積と hom
Nを左R・右S双加群として固定する。
定理 10.1 (テンソル積と hom の随伴). 関手F=−⊗RN:Mod-R→Mod-SとG=HomS(N,−):Mod-S→Mod-RについてF⊣Gが成り立つ。unit と counit は
ηM(m)(n)=m⊗n,εP(h⊗n)=h(n)である。
証明.§E6.14 定理 10.1の自然な全単射
HomS(M⊗RN,P)≅HomR(M,HomS(N,P))が随伴を与える。恒等写像を同対応と逆対応へ代入すると、表示した unit と counit を得る。▨
命題 10.2. 右S加群の族(Pi)と右R加群の族(Mi)に対し、標準同型
HomS(N,i∏Pi)≅i∏HomS(N,Pi),(i⨁Mi)⊗RN≅i⨁(Mi⊗RN)が存在する。
証明.Gは右随伴なので直積を保ち、Fは左随伴なので余積を保つ。加群圏の直積と余積には命題 2.1を用いる。▨
11 Galois 接続
定義 11.1. 前順序集合P,Qの間の単調写像l:P→Qとr:Q→Pが、任意のp∈Pとq∈Qについて
l(p)≤q⟺p≤r(q)を満たすとき、(l,r)をGalois 接続 (Galois connection) という。
定理 11.2. 前順序集合を圏とみなすと、単調写像の組(l,r)が Galois 接続であることとl⊣rであることは同値である。unit はp≤r(l(p))、counit はl(r(q))≤qである。
証明. 前順序集合が定める圏では、Hom(p,q)はp≤qのとき一元集合、そうでないとき空集合である。したがってHom(l(p),q)とHom(p,r(q))の間に全単射が存在することは、二つの不等式が同値であることに等しい。hom 集合の元は高々一つなので自然性と三角恒等式は自動的に成り立つ。▨
12 閉包と開核
定理 12.1. 位相空間Xを固定する。Xの部分集合全体を包含で順序づけた半順序集合をP(X)、閉集合全体と開集合全体が定める部分半順序集合をそれぞれClosed(X)、Open(X)とする。包含写像をjcl、jopと書くと、
cl⊣jcl,jop⊣intが成り立つ。
証明.§E2.11 命題 2.5の極値性により、任意のA⊆X、閉集合Fおよび開集合Oについて
A⊆F⟺A⊆F,O⊆A⟺O⊆int(A)が成り立つ。これらが二つの Galois 接続である。第一の unit はA⊆A、第二の counit はint(A)⊆Aである。閉集合の閉包と開集合の内部は元の集合に等しいため、残る counit と unit は等号になる。▨
13 像・逆像・小像
例 13.1 (像・逆像・小像の三重随伴). 写像f:X→Yに対し、部分集合の像、逆像および小像を
∃f(A)=f(A),f∗(B)=f−1(B),∀f(A)={y∈Y∣f−1({y})⊆A}と書く。このとき、包含順序に関して
∃f⊣f∗⊣∀fが成り立つ。
実際、任意のA⊆XとB⊆Yについて
f(A)⊆B⟺A⊆f−1(B),f−1(B)⊆A⟺B⊆∀f(A)である。第二の同値は、各y∈Bのすべての逆像がAに属することを両辺が同じく述べる。小像は∀f(A)=Y∖f(X∖A)とも書くことができる。
したがって像は任意の和集合を、逆像は任意の和集合と共通部分を、小像は任意の共通部分を保つ。unit と counit は、左側の随伴ではA⊆f−1(f(A))とf(f−1(B))⊆B、右側の随伴ではf−1(∀f(A))⊆AとB⊆∀f(f−1(B))である。
14 Boolean 代数の完備化は素朴には随伴でない
完備化という名称だけから、完備な対象のなす部分圏への反射が得られるとは限らない。射がどの演算を保つかを指定する必要がある。
例 14.1 (Boolean 代数の完備化における延長の失敗).AをNの有限部分集合と余有限部分集合からなる Boolean 代数とする。その標準的な完備化は冪集合代数P(N)であり、Aは単集合の任意和によってP(N)を生成する。
二元 Boolean 代数2={0,1}への準同型h:A→2を、有限集合では0、余有限集合では1と定める。このhはP(N)からの完全 Boolean 準同型へ延長しない。実際、延長hが任意の上限を保つならば、各単集合が有限なので
1=h(N)=h(n∈N⋃{n})=n∈N⋁h({n})=n∈N⋁0=0となって矛盾する。
したがって、通常の Boolean 準同型を射とする Boolean 代数の圏と、任意の上限を保つ準同型を射とする完備 Boolean 代数の圏の間では、この標準的な完備化は左随伴の unit にならない。完備化の普遍性は、稠密な埋め込みなど、別の射と条件を指定して述べる必要がある。
15 各例における保存の対照
16 演習
問題 16.1.
- 定理 3.1の counitをA=k[t]/(t2)について記述し、Sym(U(A))の次数一の元がどのように評価されるかを述べよ。
- 定理 4.1を行列代数Mn(k)(n≥2)へ適用したとき、交換子が生成する両側イデアルが全体になることを、行列単位を用いて確かめよ。
- 定理 5.1の unit と counit について、三角恒等式を直積の射影との合成によって確かめよ。
- 定理 8.1でR>0が必要な理由を、二点以上をもつ距離空間とR=0を用いて説明せよ。
- 定理 9.1の同値関係が、二点の閉包が等しいことと同値であることを証明せよ。
- 定理 12.1の二つの随伴について unit と counit をすべて書き、どれが常に等号になるかを述べよ。
- 例 13.1の小像がY∖f(X∖A)に等しいことを証明し、空の逆像をもつ点が小像に属する理由を説明せよ。
- 例 14.1で、hが有限和、有限積および補元を保つことを確かめよ。
17 扱った範囲
本記事では、自由構成、商による可換化、積と余積、位相と距離の反射、テンソル積と hom、および順序上の Galois 接続を、hom 集合の対応として比較した。とくに、距離空間の完備化が 1-Lipschitz 写像に対して反射になる一方、Boolean 代数の標準的な完備化は通常の射の選択では同じ形の随伴にならないことを区別した。
随伴関手定理、モナド、Kan 拡張、反射部分圏と局所化の一般論は「圏論 II」が扱う。完全列と導来関手は「ホモロジー代数」が扱う。極限と余極限の具体的な計算は「極限・余極限の計算」にある。