1 鎖分割と最小鎖被覆数
Dilworth の定理を述べるためには、鎖分割と、鎖で覆うために必要な最小本数を先に定めておく必要がある。あわせて、鎖の端点を指す語として最大元と最小元を定める。
定義 1.1.(P,≤)を有限半順序集合とし、S⊆Pとする。
- m∈SがSの最大元 (maximum element) であるとは、任意のx∈Sについてx≤mが成り立つことをいう。ℓ∈SがSの最小元 (minimum element) であるとは、任意のx∈Sについてℓ≤xが成り立つことをいう。最大元と最小元は、存在すれば反対称律によって一意である。
- Pの鎖被覆 (chain cover) とは、Pの鎖からなる有限族{C1,…,Ck}であってC1∪⋯∪Ck=Pを満たすものをいう。さらにi=jのときCi∩Cj=∅が成り立つとき、この族をPの鎖分割 (chain partition) という。
- Pの鎖被覆に用いる鎖の本数の最小値を Pの最小鎖被覆数 (minimum chain cover number) といい、c(P)と書く。
- Pの反鎖の濃度の最大値を Pの幅 (width) といい、w(P)と書く。
- Pの鎖の濃度の最大値を Pの高さ (height) といい、h(P)と書く。
Pは有限であるから、各元一つからなる鎖の族が鎖被覆を与え、鎖と反鎖の濃度は∣P∣以下の非負整数である。したがってc(P)、w(P)、h(P)はいずれも定まる。
鎖被覆と鎖分割は、要求する条件が異なる。しかし、必要な最小本数は一致する。次の命題は、鎖の部分集合が再び鎖であること、反鎖の部分集合が再び反鎖であることだけを用いるので、両方の場合をまとめて扱う。
命題 1.2.Pを有限集合とし、FをPの部分集合からなる族であって、S∈FかつT⊆SならばT∈Fが成り立つものとする。PがFの元S1,…,Skの合併に等しいならば、Fの元からなるPの分割であって、用いる集合の個数がk以下であるものが存在する。
とくに、鎖全体の族と反鎖全体の族はいずれもこの仮定を満たす。したがって、Pをk本の鎖で覆うことができることとPをk本以下の鎖へ分割することができることは同値であり、同じことが反鎖についても成り立つ。すなわち、Pをk本の反鎖で覆うことができることと、Pをk本以下の反鎖へ分割することができることは同値である。
証明.i=1,…,kに対しTi=Si∖(S1∪⋯∪Si−1)と定める(i=1のときはT1=S1とする)。Ti⊆Siであるから仮定よりTi∈Fである。
T1,…,Tkが互いに素であることを示す。i<jとすると、Tjの定義よりTj∩Si=∅であり、Ti⊆SiであるからTi∩Tj=∅である。
T1∪⋯∪Tk=Pを示す。Ti⊆Siより左辺は右辺に含まれる。逆にx∈Pをとるとx∈S1∪⋯∪Skであるから、x∈Siを満たす添字のうち最小のものをiとすることができる。このときx∈/S1∪⋯∪Si−1であるからx∈Tiである。
空であるTiを族から取り除けば、Fの元からなるPの分割であって、用いる集合の個数がk以下であるものを得る。
鎖Cの部分集合の任意の二元はCの二元であるから比較可能であり、部分集合も鎖である。反鎖Aの部分集合の相異なる二元はAの相異なる二元であるから比較不能であり、部分集合も反鎖である。したがって、鎖全体の族と反鎖全体の族はいずれも仮定を満たす。▨
命題 1.2により、以下では鎖被覆と鎖分割を区別せずに扱うことができる。
2 Dilworth の定理
定理 2.1 (Dilworth の定理). 有限半順序集合Pにおいて、最小鎖被覆数は最大反鎖の濃度に等しい。すなわちc(P)=w(P)が成り立つ。命題 1.2により、鎖で覆うために必要な最小本数と鎖へ分割するために必要な最小本数は一致するので、これはPの鎖分割に必要な最小本数についての主張でもある。
2.1 証明方針
不等式c(P)≥w(P)は、反鎖の各元が別々の鎖に入らざるを得ないことから直ちに得られる。逆向きの不等式、すなわちw=w(P)本の鎖でPを覆うことができることを、∣P∣についての帰納法で示す。Pの極大鎖Cを一本取り、P∖Cの幅で場合を分ける。
P∖Cの幅がw−1以下であれば、P∖Cへ帰納法の仮定を適用して得た鎖の族にCを加えればよい。そうでなくP∖Cが濃度wの反鎖Aを含むならば、A以下の元の全体D−とA以上の元の全体D+へPを分け、それぞれへ帰納法の仮定を適用する。D−とD+がPの真部分集合であることは、Cの最大元がPの極大元、最小元がPの極小元であることから従う。D+についての議論は、Pの順序を逆にした半順序集合(P,≥)へD−の議論を適用して得る。得られたw本ずつの鎖を、Aの各元を継ぎ目として貼り合わせる。継ぎ目を作ることができるのは、Aの各元がD−では極大元、D+では極小元になるからである。
二つの場合で帰納法の仮定を適用する真部分集合は、P∖C、D−、D+と異なり、いずれも∣P∣より真に小さいという以上の情報をもたない。したがってここで用いる帰納法は累積帰納法であり、単純帰納法と同値である(§D2.1 命題 1.2)。
証明. 最大反鎖の濃度をw=w(P)とする。
(≥){C1,…,Cm}をPの鎖被覆とし、Aを濃度wの反鎖とする。鎖は反鎖の元を高々一つしか含まない。実際、同じ鎖の二元は比較可能であり、反鎖の相異なる二元は比較不能である。ゆえにAのw個の元は相異なるw本の鎖に分布し、m≥wを得る。したがってc(P)≥wである。
(≤)∣P∣についての累積帰納法で、Pがw本の鎖で覆われることを示す。∣P∣=0ならばw=0であり、空の族が鎖被覆を与える。以下P=∅とする。
まず、空でない極大鎖、すなわちC=∅であってCを真に含む鎖が存在しないような鎖Cが存在することを示す。P=∅であるからx∈Pを取り、C0={x}と置く。一元集合は鎖であるからC0は鎖である。Cjが鎖であるとき、Cj∪{y}が鎖となるy∈P∖Cjが存在するかぎり、そのようなyを一つ選んでCj+1=Cj∪{y}と定める。各段階で濃度が1ずつ増え、鎖の濃度は∣P∣以下であるから、この手続きは有限回で止まる。止まった時点の鎖をCとすると、C∪{y}が鎖となるy∈P∖Cは存在しない。ここでCを真に含む鎖C′が存在したとすると、y∈C′∖Cを取ればC∪{y}⊆C′は鎖となって矛盾する。ゆえにCは極大鎖であり、C⊇C0よりC=∅である。
Cは空でない有限集合であり、その任意の二元は比較可能である。空でない有限な鎖が最大元と最小元をもつことは、濃度についての帰納法から従う。実際、濃度が1ならばその唯一の元が最大元かつ最小元である。濃度が2以上のときはz∈Cを一つ取り、帰納法の仮定よりC∖{z}が最大元m′をもつから、m′とzの比較可能性により、m′≤zならばzが、z≤m′ならばm′がCの最大元になる。最小元についても同様である。Cの最大元をm、最小元をℓと書く。
mはPの極大元である。実際、m<yを満たすy∈Pが存在すれば、Cの任意の元uについてu≤m<yが成り立つのでC∪{y}は鎖となり、y∈/C(y>mかつmはCの最大元)とあわせてCの極大性に反する。同様にℓはPの極小元である。
P′:=P∖Cの幅で場合を分ける。C=∅より∣P′∣<∣P∣である。
場合 1:w(P′)≤w−1のとき. 帰納法の仮定よりP′はw−1本以下の鎖で覆われる。これに鎖Cを加えれば、Pはw本以下の鎖で覆われる。
場合 2:P′が濃度wの反鎖A={a1,…,aw}を含むとき.AはPの反鎖でもあり濃度がwであるから、Pの最大反鎖でもある。次の二集合を定める。D−={x∈P: x≤ai を満たす添字 i が存在する},D+={x∈P: x≥ai を満たす添字 i が存在する}.
まずD−∪D+=Pを示す。x∈Pがすべてのaiと比較不能であるとするとA∪{x}は濃度w+1の反鎖となり、wが最大であることに反する。ゆえにxはあるaiと比較可能であり、x≤aiまたはx≥aiが成り立つのでx∈D−∪D+である。
次にD−∩D+=Aを示す。x∈D−∩D+とするとx≤aiかつx≥ajを満たす添字i,jが存在し、aj≤x≤aiからaj≤aiを得る。Aは反鎖であるからai=ajであり、x≤aiかつx≥aiからx=ai∈Aとなる。逆の包含A⊆D−∩D+は、各aiがai≤aiを満たすことによる。
D−もD+もPの真部分集合である。実際、m∈D−と仮定するとm≤aiを満たす添字iが存在し、mはPの極大元であるからm=aiとなる。しかしm∈Cに対しai∈P′=P∖Cであるからm=aiであり、矛盾する。ゆえにm∈/D−でありD−⊊Pである。同様に、ℓ≥ajを満たす添字jが存在すればℓがPの極小元であることからℓ=aj∈Cとなってaj∈P′に矛盾するので、ℓ∈/D+でありD+⊊Pである。
A⊆D−は濃度wの反鎖であり、D−の反鎖はPの反鎖でもあるから、D−の幅はちょうどwである。D−⊊Pより帰納法の仮定を適用することができ、D−はw本の鎖で覆われる。命題 1.2より、w本以下の鎖からなるD−の分割が存在する。各鎖は反鎖Aの元を高々一つしか含まないので、A⊆D−のw個の元を覆うにはw本以上の鎖が必要である。ゆえにこの分割はちょうどw本の鎖E1,…,Ewからなり、各Eiはちょうど一つのaiを含む(添字をそのように付け替える)。さらにaiはD−の極大元である。実際、ai<xを満たすx∈D−が存在すればx≤akを満たす添字kがありai<akとなって、Aが反鎖であることに反する。
このことから、aiは鎖Eiの最大元である。実際、u∈Eiを任意に取ると、Eiは鎖でありai∈Eiであるからuとaiは比較可能であり、u≤aiまたはai≤uが成り立つ。後者でai=uならばai<uかつu∈Ei⊆D−となって、aiがD−の極大元であることに反する。ゆえにu≤aiであり、aiはEiの最大元である。ここで極大性から最大性へ移ることができたのは、Eiが鎖であってEiの任意の元がaiと比較可能だからである。
D+については、Pの順序を逆にした半順序集合(P,≥)を考える。(P,≥)の鎖と反鎖は(P,≤)の鎖と反鎖に一致し、極大元と極小元の役割が入れ替わり、最大元と最小元の役割も入れ替わる。(P,≥)において「Aの元のいずれか以下である元の全体」は{x∈P: x≥ai を満たす添字 i が存在する}、すなわちD+に等しい。またAは(P,≥)の濃度wの反鎖であり、D+⊊Pである。帰納法の仮定は濃度が∣P∣より小さい有限半順序集合すべてについて適用することができ、鎖と反鎖の濃度は順序を逆にしても変わらない。
したがって、直前の二段落でD−について示したことを(P,≥)へ適用することができる。その結果、D+はちょうどw本の鎖F1,…,Fwに分割され、各Fiはちょうど一つのaiを含み(添字はEiと同じ番号を付ける)、aiは(P,≥)におけるD+の極大元、すなわち(P,≤)におけるD+の極小元であって、(P,≤)におけるFiの最小元である。
各添字iについてEi∪Fiを作る。Eiの任意の元uはu≤aiを満たし、Fiの任意の元vはai≤vを満たすから、推移律よりu≤vである。EiとFiはそれぞれ鎖であるから、Ei∪Fiの任意の二元は比較可能であり、Ei∪Fiは鎖である。
Ei∩Fi={ai}を示す。aiはEiにもFiにも属するから{ai}⊆Ei∩Fiである。逆にx∈Ei∩FiとするとEi⊆D−かつFi⊆D+よりx∈D−∩D+=Aであり、x=ajを満たす添字jが存在する。Eiが含むAの元はaiただ一つであったからaj=ai、すなわちx=aiである。ゆえに二本の鎖はちょうどaiで継がれている。
これらw本の鎖の合併はD−∪D+=Pに等しく、Pはw本の鎖で覆われる。
以上で両向きの不等式が示され、c(P)=w=w(P)を得る。▨
3 Mirsky の定理
鎖と反鎖の役割を入れ替えると、Dilworth の定理と双対の位置にある主張が得られる。この主張が Mirsky の定理である。双対の主張ではあるが、Dilworth の定理の系として得られるわけではないので、以下では独立に証明する。 証明は Dilworth の定理と対称ではなく、片側が高さ関数一つで済む点で、むしろ簡単である。
反鎖による被覆と分割についても、鎖の場合と同じ語を用いる。
定義 3.1.(P,≤)を有限半順序集合とする。Pの反鎖からなる有限族{A1,…,Ak}がA1∪⋯∪Ak=Pを満たすとき、この族をPの反鎖被覆 (antichain cover) という。さらにi=jのときAi∩Aj=∅が成り立つとき、この族をPの反鎖分割 (antichain partition) という。Pの反鎖被覆に用いる反鎖の本数の最小値を Pの最小反鎖被覆数 (minimum antichain cover number) といい、a(P)と書く。
命題 3.2 (Mirsky の定理). 有限半順序集合Pにおいて、最小反鎖被覆数は最長鎖の元数に等しい。すなわちa(P)=h(P)が成り立つ。命題 1.2により、反鎖で覆うために必要な最小個数と反鎖へ分割するために必要な最小個数は一致するので、これはPの反鎖分割に必要な最小個数についての主張でもある。
3.1 証明方針
不等式a(P)≥h(P)は、鎖の各元が別々の反鎖に入らざるを得ないことから得られる。逆向きの不等式は、各元xに対し「xを最大元とする鎖の元数の最大値」をh(x)と定め、hの値が等しい元の全体が反鎖になることを示せばよい。hの値域は{1,…,h(P)}であるから、これでh(P)本の反鎖被覆が得られる。
証明. 最長鎖の元数をℓ=h(P)とする。
(≥)Pの反鎖被覆をとる。濃度ℓの鎖Cの各元は相異なる反鎖に入らねばならない。実際、反鎖は鎖の元を高々一つしか含まない。ゆえに反鎖は少なくともℓ本必要であり、a(P)≥ℓを得る。
(≤) 各x∈Pに対し、xを最大元とする鎖の元数の最大値をh(x)とする。{x}自身がxを最大元とする濃度1の鎖であるからh(x)は定まり、1≤h(x)≤ℓが成り立つ。集合Ak={x∈P: h(x)=k}(k=1,…,ℓ)を考える。各Akは反鎖である。実際、x<yかつh(x)=h(y)=kと仮定すると、xを最大元とする濃度kの鎖Dをとることができ、D∪{y}はyを最大元とする濃度k+1の鎖となる。ここでD∪{y}が鎖であることは、Dの任意の元zがz≤x<yを満たすことによる。これはh(y)≥k+1>kを与え、h(y)=kに矛盾する。
hの値はすべて{1,…,ℓ}に属するからA1∪⋯∪Aℓ=Pであり、A1,…,AℓはPのℓ本の反鎖被覆である。ゆえにa(P)≤ℓである。
以上よりa(P)=ℓ=h(P)を得る。▨
4 具体例
例 4.1 (12の約数における Dilworth の定理の検算).§D2.5 例 3.7のP={1,2,3,4,6,12}は、整除関係を順序とする半順序集合であり、幅はw(P)=2であった。Dilworth の定理はc(P)=2を主張する。
実際、{1,2,4,12}と{3,6}はともに鎖であり(1∣2∣4∣12および3∣6)、合併がPに等しいからPは2本の鎖で覆われる。一方、1本では覆うことができない。P全体は鎖ではないからである(4∤6かつ6∤4)。よってc(P)=2であり、最大反鎖の濃度2に一致する。
同じPで Mirsky の定理を確かめる。鎖{1,2,4,12}は4元であり、Pの鎖はいずれも1から12へ向かう整除の列であるから、{1,2,4,12}、{1,2,6,12}、{1,3,6,12}が最長であってh(P)=4である。証明中の高さ関数を計算するとh(1)=1,h(2)=2,h(3)=2,h(4)=3,h(6)=3,h(12)=4であり、対応する反鎖はA1={1},A2={2,3},A3={4,6},A4={12}となる。この4本がPを覆うのでa(P)≤4であり、最長鎖の元数が4であることからa(P)=4=h(P)を得る。
5 演習
問題 5.1.
- 定理 2.1の証明の場合 2 において、D−∩D+=Aを用いる箇所をすべて挙げ、この等式が成り立たないとすると証明のどの一手が破綻するかを述べよ。
- 定理 2.1の証明の場合 2 において、D−の幅がちょうどwであることを示す議論を書き下せ。wより大きくならない理由とwより小さくならない理由を分けて述べ、それぞれがどの仮定を用いるかを明示せよ。
- Pの極大鎖Cを「濃度が最大の鎖」に取り替えると、定理 2.1の証明の場合 2 のどの段階が成り立たなくなるか、あるいは成り立ち続けるかを判定し、根拠を述べよ。
- 命題 3.2の高さ関数hを、「xを最小元とする鎖の元数の最大値」へ置き換えた関数h′を考える。h′の値が等しい元の全体が反鎖になることを証明し、これによって Mirsky の定理の別証明が得られることを示せ。
- 命題 1.2の仮定「S∈FかつT⊆SならばT∈F」を外すと結論が成り立たない例を、P={1,2,3}上で一つ構成せよ。
- Dilworth の定理を用いて、濃度rs+1の有限半順序集合が、濃度r+1の鎖または濃度s+1の反鎖をもつことを証明せよ。
7 扱った範囲と次の記事
本記事では、有限半順序集合に対する Dilworth の定理と Mirsky の定理を完全に証明した。無限半順序集合への拡張、最大マッチングを経由する別証明、および線形計画双対性による証明は扱っていない。次の記事では、有限集合の冪集合という具体的な有限半順序集合を対象として、極大鎖との二重計数によって反鎖の濃度の上界を求める。