1 形式的冪級数の可逆元
係数体は有理数体Qとする。形式的冪級数の和、Cauchy 積および係数抽出[xn]の定義は§D2.4 定義 4.1と§E13.1 定義 1.1が、これらの演算が単位元をもつ可換環を定めることは§E13.1 命題 1.2が、位数ordの定義は§E13.2 定義 2.1が、総和可能な族の定義は§E13.2 定義 2.3が与える。位数が積で加わることは§E13.2 補題 2.2による。本記事では、負べきを許す級数まで扱うため、位数と総和可能性の定義を後で拡張する。
証明. 必要性。FG=1ならば、Cauchy 積の定数項をとって([x0]F)([x0]G)=1であるから[x0]F=0である。
十分性。fn=[xn]Fと書き、f0=0とする。有理数の列(gn)n≥0を
g0=f0−1,gn=−f0−1j=1∑nfjgn−j(n≥1)と定める。右辺に現れるのはg0,…,gn−1だけであるから、この式はnについての強い帰納法でgnを一意に定める。G=∑n≥0gnxnと置くと、n≥1のとき
[xn](FG)=j=0∑nfjgn−j=f0gn+j=1∑nfjgn−j=0であり、[x0](FG)=f0g0=1である。ゆえにFG=1である。
一意性。FG1=FG2=1ならばG1=G1(FG2)=(G1F)G2=G2である。▨
2 形式的 Laurent 級数と留数
係数公式の証明では、G−nのように負のべきをもつ級数を扱う。そこで有限個の負べきを許した級数の環を導入する。
証明. 演算が閉じていること。和については定義から明らかである。積については、ord(F)≥p、ord(G)≥qならば[xn](FG)の定義に現れる和はi≥pかつj≥qの項に限られ、n<p+qのとき空和すなわち0である。ゆえにFGの非零係数の添字も下に有界であり、Q((x))は積について閉じている。
加法群、可換性、分配法則、単位元。和は係数ごとに定義されているので、(Q((x)),+)は可換群である。可換性は、i+j=nを満たす整数の対(i,j)を(j,i)へ写す全単射とQの積の可換性から従う。分配法則は、Qの分配法則を各係数の有限和へ適用すれば従う。1を[x0]=1かつ他の係数が0である元とすると[xn](F⋅1)=[xn]Fであるから、1は単位元である。
結合性。結合性だけは、係数の三重和を直接に扱うかわりに§E13.1 命題 1.2へ帰着させる。整数kとF∈Q((x))に対し、[xn]σk(F)=[xn−k]Fによってσk(F)を定める。非零係数の添字は下に有界のままであるからσk(F)∈Q((x))であり、σkはσ−kを逆写像とする全単射で、σk∘σl=σk+lを満たす。積との関係は
[xn](σk(F)G)=i+j=n∑([xi−k]F)([xj]G)=i′+j=n−k∑([xi′]F)([xj]G)=[xn−k](FG)=[xn]σk(FG)であり(i′=i−kと置き換えた)、σk(F)G=σk(FG)である。可換性と合わせると、任意の整数a,bとP,Q∈Q((x))に対し
σa+b(PQ)=σa(σb(PQ))=σa(Pσb(Q))=σa(P)σb(Q)が成り立つ。
F,G,H∈Q((x))を取る。非零係数の添字が下に有界であるから、A=σd(F)、B=σd(G)、C=σd(H)がいずれもQ[[x]]に属する整数d≥0が存在する。上の等式を二度用いると
σ3d((FG)H)=σ2d(FG)σd(H)=(σd(F)σd(G))σd(H)=(AB)Cであり、同様に
σ3d(F(GH))=σd(F)σ2d(GH)=σd(F)(σd(G)σd(H))=A(BC)である。Q[[x]]の元については、[xn](AB)の定義に現れる和のうち添字が負である項の係数が0であるから、Q((x))の積は Cauchy 積に一致する。ゆえに§E13.1 命題 1.2 (3)により(AB)C=A(BC)である。σ3dは全単射であるから(FG)H=F(GH)である。
以上によりQ((x))は単位元をもつ可換環であり、ord(F)≥0を満たす元の全体Q[[x]]は同じ演算と同じ単位元をもつ部分環である。
1 を示す。F=0またはG=0のときは両辺とも∞である。F,G=0とし、p=ord(F)、q=ord(G)と置く。F0=x−pF、G0=x−qGと定めるとF0,G0∈Q[[x]]であり、いずれも位数0である。FG=xp+qF0G0であり、§E13.2 補題 2.2によりord(F0G0)=0であるからord(FG)=p+qである。
2 を示す。F=0、d=ord(F)とし、F0=x−dF∈Q[[x]]と置く。[x0]F0=0であるから定理 1.1によりF0はQ[[x]]の可逆元であり、F−1=x−dF0−1がFの逆元である。1 によりord(F−1)=−dであり、n≥0については 1 の繰り返しによりord(Fn)=nd、n<0についてはFn=(F−1)−nから同じ結論を得る。▨
総和可能な族については、次の二つの性質を用いる。
証明. 1 を示す。m′≤mとすると、{i:ord(Fi)≤m′}⊆Jであるから
[xm′]S=ord(Fi)≤m′∑[xm′]Fi=i∈J∑[xm′]Fiである。最後の等号では、i∈Jかつord(Fi)>m′の項が0であることを用いた。ゆえにS−∑i∈JFiの第m′係数はm′≤mのときすべて0である。
2 を示す。h=ord(H)と置く。H=0のときは両辺とも0である。H=0のとき命題 2.2 (1)によりord(HFi)=h+ord(Fi)であるから、{i:ord(HFi)≤m}={i:ord(Fi)≤m−h}は有限集合であり、族は総和可能である。mを固定し、Jを{i:ord(Fi)≤m−h}を含む有限部分集合とする。1 によりord(S−∑i∈JFi)>m−hであるから、ふたたび命題 2.2 (1)によりord(HS−∑i∈JHFi)>mである。ゆえに
[xm](HS)=i∈J∑[xm](HFi)=[xm]i∈I∑HFiである。mは任意であったから主張を得る。
3 はm=−1とした定義そのものである。ord(Fi)>−1を満たすiについてはres(Fi)=0であり、ord(Fi)≤−1を満たすiは有限個である。▨
3 合成と形式微分
証明. 1 を示す。xは[x1]=1かつ他の係数が0である元であるから、定義 3.1の和はn=1の項だけが残り、x∘G=G1=Gである。
2 を示す。ord(x)=1であるからF∘xが定まる。整数nに対し[xm]xnはm=nのとき1、それ以外のとき0である。ゆえにF∘x=∑n([xn]F)xnの第m係数は[xm]Fに等しく、F∘x=Fである。
3 を示す。F=0のときは両辺とも∞である。F=0としp=ord(F)と置く。命題 2.2 (2)によりord(Gn)=nであるから、[xn]F=0を満たす各nについてord(([xn]F)Gn)=nであり、そのようなnはすべてp以上である。定義 2.3により、m<pに対するF∘Gの第m係数は位数がm以下の項だけの和であるが、そのような項は存在しない。ゆえにm<pに対し[xm](F∘G)=0であり、ord(F∘G)≥pである。▨
証明. 和については、係数ごとの定義から直ちに従う。
積を示す。F=0またはF′=0のときは両辺とも0であるから、以下F=0かつF′=0とする。mを固定し、p=ord(F)、p′=ord(F′)と置く。整数Mを、M≥mかつM+1+min(p,p′)>mを満たすように取る。
P=n≤M∑([xn]F)xn,P′=n≤M∑([xn]F′)xnと置くと、PとP′は有限個の項からなる元であり、A=F−P、A′=F′−P′はord(A)>M、ord(A′)>Mを満たす。
有限個の項からなる元については、命題 2.2の分配法則とGaGb=Ga+bにより(PP′)∘G=(P∘G)(P′∘G)が成り立つ。
FF′−PP′=PA′+AP′+AA′であり、命題 2.2 (1)により各項の位数はM+1+min(p,p′)以上である。したがってord(FF′−PP′)>mであり、補題 3.2 (3)によりord((FF′−PP′)∘G)>mである。ゆえに[xm]((FF′)∘G)=[xm]((PP′)∘G)である。
同様に、ord(A∘G)>M、ord(A′∘G)>Mであり、ord(F∘G)≥p、ord(F′∘G)≥p′であるから
(F∘G)(F′∘G)−(P∘G)(P′∘G)=(P∘G)(A′∘G)+(A∘G)(P′∘G)+(A∘G)(A′∘G)の位数もM+1+min(p,p′)>mより大きい。ゆえに[xm]((F∘G)(F′∘G))=[xm]((P∘G)(P′∘G))である。三つの等式を合わせて[xm]((FF′)∘G)=[xm]((F∘G)(F′∘G))を得る。mは任意であった。
最後の主張は、1∘G=1と積の保存から(F−1∘G)(F∘G)=1が従うことによる。整数べきについては、n≥0では積の保存の繰り返し、n<0ではFn=(F−1)−nによる。▨
証明.G∘H=∑n≥1([xn]G)Hnであり、ord(Hn)=nであるから[x1](G∘H)=([x1]G)([x1]H)=0かつ[x0](G∘H)=0である。ゆえにord(G∘H)=1である。
有限個の項からなるP=∑n≤Mpnxnについては、命題 3.3によりGn∘H=(G∘H)nであるから
(P∘G)∘H=n≤M∑pn(Gn∘H)=n≤M∑pn(G∘H)n=P∘(G∘H)である(有限和と合成の交換は命題 3.3の和の保存による)。
一般のFについては、mを固定しM≥mを取ってF=P+A(PはM次以下の項、ord(A)>M)と分ける。補題 3.2 (3)を二度用いるとord((A∘G)∘H)>M≥mかつord(A∘(G∘H))>M≥mである。ゆえに両辺の第m係数はPの分だけで決まり、上の等式から一致する。▨
証明. 1 は係数ごとの定義から直ちに従う。
2 を示す。fi=[xi]F、gj=[xj]Gと書く。定義により
[xm]((FG)′)=(m+1)[xm+1](FG)=(m+1)i+j=m+1∑figjである。他方
[xm](F′G+FG′)=i+j=m∑(i+1)fi+1gj+i+j=m∑fi(j+1)gj+1であり、第一の和でi′=i+1、第二の和でj′=j+1と置き換えると、いずれもi+j=m+1を満たす対にわたる和になり、
i+j=m+1∑ifigj+i+j=m+1∑jfigj=i+j=m+1∑(i+j)figj=(m+1)i+j=m+1∑figjを得る。ゆえに 2 が成り立つ。
3 を示す。ord(Fi′)≥ord(Fi)−1であるから、{i:ord(Fi′)≤m}⊆{i:ord(Fi)≤m+1}は有限集合であり、族は総和可能である。係数については
[xm](i∑Fi)′=(m+1)[xm+1]i∑Fi=(m+1)ord(Fi)≤m+1∑[xm+1]Fi=i∑[xm]Fi′である。
4 を示す。n≥0のときは 2 を用いたnについての帰納法による(n=0のとき両辺とも0である)。n<0のとき、FnF−n=1の両辺を微分すると 2 により
(Fn)′F−n+Fn(F−n)′=0である。−n>0であるから(F−n)′=−nF−n−1F′であり、これを代入してFnを掛けると
(Fn)′=−Fn(F−n)′Fn=nFnF−n−1F′Fn=nFn−1F′を得る。▨
証明.fn=[xn]Fと書く。命題 3.6 (3)と合成の定義により
(F∘G)′=(n∑fnGn)′=n∑fn(Gn)′である。命題 3.6 (4)により(Gn)′=nGn−1G′であるから、補題 2.4 (2)をH=G′として用いて
(F∘G)′=n∑nfnGn−1G′=(n∑nfnGn−1)G′となる。F′=∑nnfnxn−1であるから、括弧の中はF′∘Gにほかならない。▨
証明. 定義により[x−1]F′=(−1+1)[x0]F=0である。▨
補題 3.9.G∈Q[[x]]がord(G)=1を満たすとする。任意のF∈Q((x))に対し
res((F∘G)G′)=res(F)が成り立つ。
証明.fn=[xn]Fと書く。補題 2.4 (2)により(F∘G)G′=∑nfnGnG′であり、この族は総和可能である。補題 2.4 (3)により
res((F∘G)G′)=n∑fnres(GnG′)である。右辺は有限個の項を除いて0である。したがって、各整数nについてres(GnG′)=res(xn)を示せばよい。
n=−1のとき、命題 3.6 (4)によりGnG′=n+11(Gn+1)′であるから、補題 3.8によりres(GnG′)=0である。他方res(xn)=0である。
n=−1のとき、c=[x1]G=0と置き、U=(cx)−1GとするとU∈Q[[x]]かつ[x0]U=1である。G=cxUであるから命題 3.6 (2)によりG′=cU+cxU′であり、
G−1G′=cxUcU+cxU′=x1+UU′である。定理 1.1によりUはQ[[x]]の可逆元であり、U′∈Q[[x]]であるからU′/U∈Q[[x]]である。ゆえにその留数は0であり、res(G−1G′)=1=res(x−1)である。▨
4 合成逆元
4.1 証明方針
Gを定数項が零で一次係数が零でない形式的冪級数とし、G∘Gˉ=xを満たすGˉを係数ごとに決めていく。Gˉ=∑n≥1bnxnと置くと
G∘Gˉ=k≥1∑gkGˉk
であり、第n係数を取るとg1bnという項と、k≥2からの寄与が現れる。ord(Gˉ)=1であるから[xn]Gˉkはb1,…,bn−k+1だけで決まり、k≥2ならば添字はn−1以下である。したがって、第n係数の方程式はbnについて一次であり、g1=0によって一意に解くことができる。これで右合成逆元の存在と一意性が得られる。
両側であることは、いったん得たGˉにもう一度同じ構成を適用して得る。Gˉの一次係数は1/g1であって零でないから、Gˉ∘H=xを満たすHが存在する。合成の結合性によりG=G∘(Gˉ∘H)=(G∘Gˉ)∘H=Hとなり、Gˉ∘G=xが従う。
証明.gk=[xk]Gと書く。仮定はg0=0、g1=0である。
右合成逆元の存在と一意性。Gˉ=∑n≥1bnxnの形の元を求める。ord(Gˉ)≥1であるからord(Gˉk)≥kであり、
[xn](G∘Gˉ)=k=1∑ngk[xn]Gˉkである。k≥2のとき、[xn]GˉkはGˉの第1係数から第n−k+1係数までだけで決まる。実際、[xn]Gˉk=∑bn1⋯bnk(n1+⋯+nk=n、各ni≥1)であり、各niはn−(k−1)≤n−1以下である。またk=1の項はg1bnである。したがって
[xn](G∘Gˉ)=g1bn+Φn(b1,…,bn−1)の形に書くことができる。ここでΦnはb1,…,bn−1とg1,…,gnから定まる有理数であり、n=1のときΦ1=0である。
G∘Gˉ=xという条件は、n=1でg1b1=1、n≥2でg1bn+Φn(b1,…,bn−1)=0と書くことができる。g1=0であるから、nについての強い帰納法によってbnが一意に定まる。とくにb1=1/g1=0であるからord(Gˉ)=1である。
両側であること。Gˉは[x0]Gˉ=0と[x1]Gˉ=0を満たすので、上の構成をGˉへ適用するとGˉ∘H=xを満たすH∈Q[[x]]が存在し、ord(H)=1である。命題 3.4と補題 3.2 (1)と 2 により
G=G∘x=G∘(Gˉ∘H)=(G∘Gˉ)∘H=x∘H=Hである。ゆえにGˉ∘G=Gˉ∘H=xである。▨
5 Lagrange–Bürmann の係数公式
5.1 証明方針
H∈Q((x))を与え、F=H∘Gˉと置く。合成の結合性によりF∘G=H∘(Gˉ∘G)=Hであるから、HはFをGで置き換えたものである。目標はFの第n係数をHとGだけで書くことである。
出発点は、Fの第n係数がF′の第n−1係数の1/n倍であること、そしてこの係数が留数としてres(F′x−n)と書くことができることである。次に、この留数へ補題 3.9を逆向きに用いる。すなわちΨ=F′x−nと置くとres(Ψ)=res((Ψ∘G)G′)である。
最後にΨ∘GをHで書き直す。合成が環準同型であること(命題 3.3)からΨ∘G=(F′∘G)G−nであり、連鎖律(命題 3.7)によりH′=(F∘G)′=(F′∘G)G′である。この二つを合わせると(Ψ∘G)G′=H′G−nとなり、求める等式を得る。
証明.F=H∘Gˉと置く。命題 3.4と定理 4.1により
F∘G=(H∘Gˉ)∘G=H∘(Gˉ∘G)=H∘x=Hである。最後の等号は補題 3.2 (2)による。
定義 3.5により[xn−1]F′=n[xn]Fであり、これはres(F′x−n)に等しい。Ψ=F′x−nと置く。補題 3.9をΨへ適用すると
n[xn]F=res(Ψ)=res((Ψ∘G)G′)である。
Ψ∘Gを計算する。命題 3.3により、積の合成は合成の積であり、x−n∘G=G−nであるから
Ψ∘G=(F′∘G)G−nである。他方、命題 3.7をFとGへ適用すると
H′=(F∘G)′=(F′∘G)G′である。ゆえに
(Ψ∘G)G′=(F′∘G)G′G−n=H′G−nであり、主張の等式を得る。▨
系 5.2.ϕ∈Q[[x]]が[x0]ϕ=0を満たすとする。このとき
W=x(ϕ∘W),ord(W)=1を満たすW∈Q[[x]]がただ一つ存在する。さらに、任意のH∈Q[[x]]と任意の整数n≥1に対し
[xn](H∘W)=n1[xn−1](H′ϕn)が成り立つ。とくにH=xと取ると
[xn]W=n1[xn−1]ϕnである。
証明.定理 1.1によりϕはQ[[x]]の可逆元である。G=xϕ−1と置くと[x0]G=0かつ[x1]G=([x0]ϕ)−1=0であり、ord(G)=1である。
ord(W)=1を満たすW∈Q[[x]]について、命題 3.3と補題 3.2 (1)により
G∘W=(x∘W)(ϕ−1∘W)=W(ϕ∘W)−1である。ゆえにG∘W=xであることとW=x(ϕ∘W)であることは同値である。定理 4.1により、前者を満たすWはただ一つ存在し、それはGˉである。
係数公式を示す。定理 5.1をHとn≥1へ適用すると
n[xn](H∘W)=res(H′G−n)=res(H′x−nϕn)=[xn−1](H′ϕn)である。H=xのときH′=1であるから最後の主張を得る。▨
6 Catalan 数と根付き平面木
定義 6.1.C0=1とし、n≥0に対し
Cn+1=i=0∑nCiCn−iと定める。(Cn)n≥0を Catalan 数 (Catalan numbers) とよび、その通常母関数をC(x)=∑n≥0Cnxnと書く。
証明. まずC(x)=1+xC(x)2を示す。[x0]については、左辺がC0=1、右辺が1である。n≥0について[xn+1]を比べると、左辺はCn+1であり、右辺は Cauchy 積により
[xn+1](xC2)=[xn]C2=i=0∑nCiCn−iである。定義 6.1の漸化式により両者は等しい。
W=xC(x)と置く。[x0]W=0かつ[x1]W=C0=1であるからord(W)=1である。関数方程式C=1+xC2の両辺にxを掛けると
W=x+x2C2=x+W2となる。ゆえにW(1−W)=xである。ord(W)≥1であるから[x0](1−W)=1=0であり、定理 1.1により1−Wは可逆である。したがって
W=x(1−W)−1である。
ϕ(x)=(1−x)−1と置くと[x0]ϕ=1=0である。命題 3.3によりϕ∘W=((1−x)∘W)−1=(1−W)−1であるから、上の式はW=x(ϕ∘W)にほかならない。系 5.2により、n≥1に対し
[xn]W=n1[xn−1]ϕn=n1[xn−1](1−x)n1である。§D2.4 命題 5.2をα=1、m=nとして用いると
(1−x)n1=k≥0∑(n−1k+n−1)xkである。この等式はC[[x]]において述べられているが、両辺の係数はすべて有理数であり、§E13.1 命題 1.2によりQ[[x]]はC[[x]]の部分環であるから、Q[[x]]における等式として読んでよい。ゆえに[xn−1](1−x)−n=(n−12n−2)である。[xn]W=[xn−1]C=Cn−1であるから
Cn−1=n1(n−12n−2)となる。m=n−1と置き直すと、m≥0に対しCm=m+11(m2m)である。▨
例 6.3 (Catalan 数の検算).定義 6.1の漸化式から順に計算すると
C1=C0C0=1,C2=2C0C1=2,C3=2C0C2+C1C1=2⋅2+1=5,C4=2C0C3+2C1C2=2⋅5+2⋅2=14である。定理 6.2の式はm=0,1,2,3,4に対して
11(00)=1,21(12)=1,31(24)=36=2,41(36)=420=5,51(48)=570=14を与え、すべて一致する。
反転公式の側からも確かめる。n=3のとき[x3]W=31[x2](1−x)−3=31(22+2)=31⋅6=2であり、[x3]W=C2=2と一致する。n=5のとき[x5]W=51(48)=14であり、C4=14と一致する。
定義 6.4. 根付き平面木 (rooted plane tree) を、節点の個数についての再帰によって定める。整数k≥0と根付き平面木の列(T1,…,Tk)に対し、記号∙を根とする組
T=(∙,(T1,…,Tk))を根付き平面木とし、その大きさ (size)(節点の個数)を∣T∣=1+∑i=1k∣Ti∣と定める。k=0のときTは根だけからなる木であり∣T∣=1である。各Tiの大きさは∣T∣より小さいので、この再帰は整礎である。大きさnの根付き平面木の個数をtnと書く。
定理 6.5.n≥1に対しtnは有限であり、
tn=n1(n−12n−2)=Cn−1が成り立つ。
証明. まずtnが有限であることをnについての強い帰納法で示す。大きさnの木T=(∙,(T1,…,Tk))では∑i∣Ti∣=n−1であり、各∣Ti∣≥1であるからk≤n−1である。kと大きさの組(n1,…,nk)を固定すると、木の個数は∏itniであり、各ni≤n−1であるから帰納法の仮定により有限である。組の個数も有限であるからtnは有限である。同時に、加法原理(§D2.2 定理 2.1)と乗法原理(§D2.2 定理 2.3)により
tn=k=0∑n−1 n1,…,nk≥1n1+⋯+nk=n−1∑ i=1∏ktniが成り立つ(k=0の項は、n=1のとき1、n≥2のとき0と読む)。
T(x)=∑n≥1tnxnと置く。ord(T)≥1であるから命題 2.2 (1)によりord(Tk)≥kであり、族(Tk)k≥0は総和可能である。S=∑k≥0Tkと置く。補題 2.4 (2)によりTS=∑k≥0Tk+1である。各m≥0について、位数の評価から
[xm]S=k=0∑m[xm]Tk,[xm](TS)=k=1∑m[xm]Tkであるから(m=0のとき第二式の和は空である)、[xm](S−TS)=[xm]T0=[xm]1である。ゆえに(1−T)S=1であり、定理 1.1によりS=(1−T)−1である。
§E13.2 補題 2.6をk個の因子Tへ適用すると
[xn−1]Tk=n1,…,nk≥0n1+⋯+nk=n−1∑i=1∏ktniであり、t0=0と読めばni≥1の項だけが残る。また[xn−1]Tk=0(k>n−1)である。ゆえに上の数え上げの等式は
[xn](xS)=[xn−1]S=k=0∑n−1[xn−1]Tk=tn=[xn]Tと書き換えられる。[x0](xS)=0=[x0]TであるからT=xS=x(1−T)−1である。
ϕ(x)=(1−x)−1と置く。定理 6.2の証明と同じくϕ∘T=(1−T)−1であるから、TはT=x(ϕ∘T)とord(T)=1を満たす。[x1]T=t1=1=0であることは、大きさ1の木が根だけからなる木ただ一つであることによる。系 5.2の一意性によりTは定理 6.2の証明に現れたWに等しく、
tn=[xn]T=n1(n−12n−2)=Cn−1である。▨
例 6.6 (小さい根付き平面木の個数).n=1,2,3,4について定理 6.5を直接の数え上げで確かめる。
n=1では、根だけからなる木ただ一つでありt1=1である。n=2では、根に大きさ1の子が一つ付く木だけでありt2=1である。n=3では、根に大きさ1の子が二つ付く木と、根に大きさ2の子が一つ付く木の二つでありt3=2である。n=4では、根の子の列の大きさの組が(1,1,1)、(1,2)、(2,1)、(3)の四通りであり、それぞれ木の個数はt13=1、t1t2=1、t2t1=1、t3=2であるからt4=1+1+1+2=5である。
公式はt1=11(00)=1、t2=21(12)=1、t3=31(24)=2、t4=41(36)=5を与え、すべて一致する。
7 演習
問題 7.1.
- 定理 4.1の証明のうち、右合成逆元の係数bnが一意に定まる段階を再現せよ。とくに、k≥2のとき[xn]Gˉkにbnが現れない理由を、ord(Gˉ)≥1から書き下せ。
- 定理 4.1の証明では、両側であることを示すために合成の結合性を用いた。[x1]G=0を許すと、右合成逆元の構成のどの段階が破れるかを述べよ。さらにG=x2に対してG∘Gˉ=xを満たすGˉ∈Q[[x]]が存在しないことを証明せよ。
- 補題 3.9の証明で、n=−1の場合を他のnと分けて扱った。n=−1の議論をn=−1へそのまま適用しようとするとどこで破れるかを述べ、G=x+x2についてres(G−1G′)=1を直接の計算で確かめよ。
- 定理 5.1の証明を、F=H∘Gˉと置くところから再現せよ。補題 3.9をどちらの向きに用いたかを明示せよ。
- 系 5.2をϕ(x)=1+xとして適用し、W=x(1+W)を満たすWの係数を公式から求めよ。さらに、同じ関数方程式を直接に解いて得られる式と一致することを確かめよ。
- 系 5.2をH(x)=x2、ϕ(x)=(1−x)−1として適用し、[xn]W2を二項係数で表せ。n=4の場合に例 6.3の値から直接に計算した[x4]W2と一致することを確かめよ。
8 扱った範囲と次の記事
有理数体上の形式的冪級数の可逆元、形式的 Laurent 級数、合成、形式微分、連鎖律および留数を定義し、留数の変数変換を証明した。これらを用いて、定数項が零で一次係数が零でない級数の合成逆元が一意に存在することと、Lagrange–Bürmann の係数公式を証明した。応用として、漸化式で定めた Catalan 数の閉じた式と、根付き平面木の個数を同じ関数方程式から導いた。
多変数の反転公式、係数の解析的な漸近評価、および形式的冪級数の代数的・微分方程式的な性質は扱っていない。次の記事では、平面に描くことのできるグラフの頂点彩色へ移り、Kempe 鎖と色交換によって五色定理を扱う。