§E13.26ランダムグラフ

最終更新

有限グラフの性質を、個々のグラフについてではなく、ランダムに選んだグラフについて調べる。頂点集合を固定し、各頂点対を辺とするかどうかを独立に同じ確率で定めると、nn頂点グラフの全体の上に確率が定まる。この確率空間をG(n,p)G(n,p)と書く。

本記事では、まずG(n,p)G(n,p)を先行記事が構成した有限確率空間として定め、辺の個数、三角形の個数および孤立点の個数の期待値を、指示変数の和として計算する。次に、辺を選ぶ確率ppを頂点数nnに応じて変える場合を扱う。固定した正の実数ε\varepsilonに対し、p=(1+ε)log⁡n/np=(1+\varepsilon)\log n/nのときは孤立点をもたない確率が11へ近づき、p=(1−ε)log⁡n/np=(1-\varepsilon)\log n/n(ただしε<1\varepsilon<1)のときは孤立点をもつ確率が11へ近づく。前者は第一モーメント法の評価から、後者は第二モーメント法から得られる。この二つの主張が、log⁡n/n\log n/nが孤立点の有無の閾値であることの内容である。

記号について。期待値をE[⋅]\mathbb E[\cdot]、確率をP(⋅)\mathbb P(\cdot)と書く。これらは先行記事§E11.4 定義 1.1が定める量であり、グラフの辺集合EEと記号が衝突することを避けるために黒板太字を用いる。グラフは有限単純無向グラフG=(V,E)G=(V,E)とし、n=∣V∣n=\lvert V\rvert、m=∣E∣m=\lvert E\rvertと書く。log⁡\logは自然対数§D1.24 定義 3.2を表し、exp⁡\expは指数関数§D1.24 定義 1.1を表す。

「独立」という語について。本記事では、確率変数および事象の独立性の意味でこの語を用いる。グラフの独立集合(§E13.11 定義 8.1)は本記事では扱わない。

1 有限ランダムグラフG(n,p)G(n,p)

nn頂点のグラフは、頂点対の集合の各元を辺とするかどうかによって定まる。したがって、頂点対の集合を添字集合とする座標が独立な有限確率空間(§E13.11 定義 2.2)が、そのままG(n,p)G(n,p)の確率空間になる。

定義 1.1.n≥1n\ge1を整数、p∈[0,1]p\in[0,1]とする。Vn={1,2,…,n}V_n=\{1,2,\dots,n\}と置き、InI_nをVnV_nの二元部分集合の全体とする。∣In∣=(n2)\lvert I_n\rvert=\binom n2である。§E13.11 定義 2.2により、添字集合InI_nと確率ppに対する有限確率空間Ωn,p={0,1}In,Pn,p\Omega_{n,p}=\{0,1\}^{I_n},\qquad \mathbb P_{n,p}を取る。ω∈Ωn,p\omega\in\Omega_{n,p}に対しE(ω)={e∈In: ωe=1},G(ω)=(Vn,E(ω))E(\omega)=\{e\in I_n:\ \omega_e=1\},\qquad G(\omega)=(V_n,E(\omega))と定める。G(ω)G(\omega)はnn頂点の有限単純無向グラフである。この確率空間と対応ω↦G(ω)\omega\mapsto G(\omega)の組を G(n,p)G(n,p) と書き、有限ランダムグラフ (finite random graph) という。

対応ω↦G(ω)\omega\mapsto G(\omega)は、Ωn,p\Omega_{n,p}から頂点集合VnV_nをもつ有限単純無向グラフの全体への全単射である。実際、§D2.7 定義 1.1により、頂点集合がVnV_nである有限単純無向グラフは辺集合E⊆InE\subseteq I_nによって一意に定まる。他方、ω↦E(ω)\omega\mapsto E(\omega)は{0,1}In\{0,1\}^{I_n}からInI_nの部分集合の全体への写像であり、部分集合EEにその指示関数を対応させる写像が逆写像を与えるから全単射である。二つを合成すると主張の全単射を得る。したがってPn,p\mathbb P_{n,p}は、頂点集合がVnV_nである有限単純無向グラフの全体の上の確率分布を定める。

命題 1.2.定義 1.1の記号のもとで、次が成り立つ。

  1. 座標の族(ω↦ωe)e∈In(\omega\mapsto\omega_e)_{e\in I_n}は§E11.7 定義 1.1の意味で相互独立である。すなわちG(n,p)G(n,p)では、各頂点対を辺とするかどうかが互いに独立に、同じ確率ppで定まる。
  2. J⊆InJ\subseteq I_nに対しPn,p(J⊆E(ω))=p∣J∣,Pn,p(J∩E(ω)=∅)=(1−p)∣J∣\mathbb P_{n,p}\bigl(J\subseteq E(\omega)\bigr)=p^{\lvert J\rvert},\qquad \mathbb P_{n,p}\bigl(J\cap E(\omega)=\emptyset\bigr)=(1-p)^{\lvert J\rvert}が成り立つ。

証明.(1)を示す。定義 1.1の確率空間は§E13.11 定義 2.2のものそのものであるから、§E13.11 命題 2.3 (3)を適用すればよい。

(2)を示す。J⊆E(ω)J\subseteq E(\omega)であることと、すべてのe∈Je\in Jについてωe=1\omega_e=1であることは、E(ω)={e: ωe=1}E(\omega)=\{e:\ \omega_e=1\}という定義から同値である。同様に、J∩E(ω)=∅J\cap E(\omega)=\emptysetであることと、すべてのe∈Je\in Jについてωe=0\omega_e=0であることは同値である。§E13.11 命題 2.3 (2)をこのJJに対して適用すると、前者の確率はp∣J∣p^{\lvert J\rvert}、後者の確率は(1−p)∣J∣(1-p)^{\lvert J\rvert}である。▨

本記事の期待値と分散の計算は、すべてこの二つの等式に帰着する。

2 辺、三角形および孤立点の個数の期待値

三つの個数を、いずれも指示変数の和として表す。頂点vvが孤立点であるとはdeg⁡G(ω)(v)=0\deg_{G(\omega)}(v)=0であることをいう(§D2.7 定義 1.1)。頂点部分集合SSが三角形をなすとは∣S∣=3\lvert S\rvert=3でありSSの三つの頂点対がすべて辺であることをいう。

命題 2.1.n≥1n\ge1を整数、p∈[0,1]p\in[0,1]とし、G(n,p)G(n,p)を取る。次の三つの確率変数を定める。

  1. Xe(ω)=∣E(ω)∣X_{\mathrm e}(\omega)=\lvert E(\omega)\rvert(辺の個数)
  2. X△(ω)=∣{S⊆Vn: S は G(ω) で三角形をなす}∣X_{\triangle}(\omega)=\lvert\{S\subseteq V_n:\ S\ \text{は}\ G(\omega)\ \text{で三角形をなす}\}\rvert(三角形の個数)
  3. X0(ω)=∣{v∈Vn: v は G(ω) の孤立点である}∣X_{0}(\omega)=\lvert\{v\in V_n:\ v\ \text{は}\ G(\omega)\ \text{の孤立点である}\}\rvert(孤立点の個数)

このときE[Xe]=(n2)p,E[X△]=(n3)p3,E[X0]=n(1−p)n−1\mathbb E[X_{\mathrm e}]=\binom n2 p,\qquad \mathbb E[X_{\triangle}]=\binom n3 p^{3},\qquad \mathbb E[X_{0}]=n(1-p)^{n-1}が成り立つ。

証明. 辺の個数。各e∈Ine\in I_nについてYe=1{ωe=1}Y_e=\mathbf 1_{\{\omega_e=1\}}と置くとXe=∑e∈InYeX_{\mathrm e}=\sum_{e\in I_n}Y_eである。命題 1.2 (2)をJ={e}J=\{e\}に対して適用するとPn,p(ωe=1)=p\mathbb P_{n,p}(\omega_e=1)=pであり、§E13.11 命題 1.3よりE[Ye]=p\mathbb E[Y_e]=pである。§E13.11 命題 1.4 (2)よりE[Xe]=∑e∈InE[Ye]=∣In∣ p=(n2)p\mathbb E[X_{\mathrm e}]=\sum_{e\in I_n}\mathbb E[Y_e]=\lvert I_n\rvert\,p=\binom n2 pである。

三角形の個数。VnV_nの三元部分集合SSに対し、SSの二元部分集合の全体をI(S)⊆InI(S)\subseteq I_nと書く。∣I(S)∣=(32)=3\lvert I(S)\rvert=\binom32=3である。SSが三角形をなすこととI(S)⊆E(ω)I(S)\subseteq E(\omega)は同値であるから、ZS=1{I(S)⊆E(ω)}Z_S=\mathbf 1_{\{I(S)\subseteq E(\omega)\}}と置くとX△=∑SZSX_{\triangle}=\sum_{S}Z_Sである。ここで和はVnV_nの三元部分集合すべてにわたる。命題 1.2 (2)をJ=I(S)J=I(S)に対して適用するとE[ZS]=p3\mathbb E[Z_S]=p^{3}である。三元部分集合は(n3)\binom n3個あるから、§E13.11 命題 1.4 (2)よりE[X△]=(n3)p3\mathbb E[X_{\triangle}]=\binom n3p^{3}である。

孤立点の個数。v∈Vnv\in V_nに対しI(v)={e∈In: v∈e}I(v)=\{e\in I_n:\ v\in e\}と置く。VnV_nのvv以外の頂点はn−1n-1個あり、それぞれとvvの対がI(v)I(v)の元であるから∣I(v)∣=n−1\lvert I(v)\rvert=n-1である。vvがG(ω)G(\omega)の孤立点であることとI(v)∩E(ω)=∅I(v)\cap E(\omega)=\emptysetは同値であるから、Wv=1{I(v)∩E(ω)=∅}W_v=\mathbf 1_{\{I(v)\cap E(\omega)=\emptyset\}}と置くとX0=∑v∈VnWvX_0=\sum_{v\in V_n}W_vである。命題 1.2をJ=I(v)J=I(v)に対して適用するとE[Wv]=(1−p)n−1\mathbb E[W_v]=(1-p)^{n-1}である。頂点はnn個あるからE[X0]=n(1−p)n−1\mathbb E[X_0]=n(1-p)^{n-1}である。

三つのいずれについても、指示変数どうしは頂点や辺を共有しており確率的に独立ではないが、§E13.11 命題 1.4 (2)はいかなる独立性も仮定しない。▨

例 2.2 (四頂点、確率1/21/2での手計算).n=4n=4、p=1/2p=1/2とする。∣I4∣=(42)=6\lvert I_4\rvert=\binom42=6であるからΩ4,1/2\Omega_{4,1/2}の元は26=642^{6}=64個あり、P4,1/2\mathbb P_{4,1/2}はこの6464個の上の一様分布である。

期待値の値。命題 2.1よりE[Xe]=(42)⋅12=6⋅12=3,E[X△]=(43)⋅(12)3=4⋅18=12,E[X0]=4⋅(12)3=12\mathbb E[X_{\mathrm e}]=\binom42\cdot\frac12=6\cdot\frac12=3,\qquad \mathbb E[X_{\triangle}]=\binom43\cdot\left(\frac12\right)^{3}=4\cdot\frac18=\frac12,\qquad \mathbb E[X_{0}]=4\cdot\left(\frac12\right)^{3}=\frac12である。

数え上げによる検算。一様分布であるから、期待値は「対象の総数を6464で割った値」に等しい。

辺については、ω\omegaを動かしたときの辺の総数を数える。各e∈I4e\in I_4についてωe=1\omega_e=1となるω\omegaは、残る55個の座標が自由であるから25=322^{5}=32個である。eeは66通りあるから、対(ω,e)(\omega,e)であってe∈E(ω)e\in E(\omega)を満たすものは6×32=1926\times32=192個である。192/64=3192/64=3であり、上の値と一致する。

三角形については、各三元部分集合SSについてI(S)⊆E(ω)I(S)\subseteq E(\omega)となるω\omegaは、I(S)I(S)の33座標が11に固定され残る33座標が自由であるから23=82^{3}=8個である。SSは(43)=4\binom43=4通りあるから、対(ω,S)(\omega,S)は4×8=324\times8=32個である。32/64=1/232/64=1/2であり一致する。

孤立点については、各頂点vvについてI(v)I(v)の33座標がすべて00に固定され残る33座標が自由であるからω\omegaは88個である。vvは44通りあるから、対(ω,v)(\omega,v)は4×8=324\times8=32個であり、32/64=1/232/64=1/2で一致する。

二次の量。相異なる二頂点u,vu,vについて、I(u)∪I(v)I(u)\cup I(v)の元の個数は3+3−1=53+3-1=5である。対{u,v}\{u,v\}が両方で数えられるからである。ゆえにP4,1/2(u と v がともに孤立点)=(1/2)5=1/32\mathbb P_{4,1/2}(u\ \text{と}\ v\ \text{がともに孤立点})=(1/2)^{5}=1/32である。したがってE[X02]=∑u∈V4∑v∈V4P4,1/2(Wu=Wv=1)=4⋅18+12⋅132=12+38=78\mathbb E[X_0^{2}]=\sum_{u\in V_4}\sum_{v\in V_4}\mathbb P_{4,1/2}(W_u=W_v=1) =4\cdot\frac18+12\cdot\frac1{32}=\frac12+\frac38=\frac78である。ここでu=vu=vの項が44個、u≠vu\ne vの項が4⋅3=124\cdot3=12個あることを用いた。ゆえにVar⁡(X0)=78−(12)2=78−14=58\operatorname{Var}(X_0)=\frac78-\left(\frac12\right)^{2}=\frac78-\frac14=\frac58である。この値は次節の命題 4.1が与える公式とも一致する。実際、q=(1−p)n−1=1/8q=(1-p)^{n-1}=1/8として4⋅18⋅78+4⋅3⋅12⋅(12)5=716+632=1432+632=2032=584\cdot\frac18\cdot\frac78+4\cdot3\cdot\frac12\cdot\left(\frac12\right)^{5}=\frac{7}{16}+\frac{6}{32}=\frac{14}{32}+\frac{6}{32}=\frac{20}{32}=\frac58である。

3 指数関数についての二つの不等式

閾値の議論では(1−p)n−1(1-p)^{n-1}を上下から評価する必要がある。そのために用いる不等式を、指数関数の級数による定義から証明しておく。上流の記事には、実数全体に対する形の主張が無いためである。

補題 3.1.exp⁡\expを§D1.24 定義 1.1の指数関数、log⁡\logを§D1.24 定義 3.2の自然対数とする。

  1. すべての実数xxについてexp⁡(x)≥1+x\exp(x)\ge1+xが成り立つ。
  2. すべての実数u≥0u\ge0について1−u≤exp⁡(−u)1-u\le\exp(-u)が成り立つ。
  3. 0≤u<10\le u<1を満たす実数uuについて1−u≥exp⁡ ⁣(−u1−u)1-u\ge\exp\!\left(-\dfrac{u}{1-u}\right)が成り立つ。
  4. すべての実数s>0s>0についてlog⁡s≤s−1\log s\le s-1が成り立つ。とくに、すべての整数n≥1n\ge1についてlog⁡n<2n\log n<2\sqrt nが成り立ち、log⁡n/n<1\log n/n<1が成り立つ。
  5. exp⁡(1)≤3\exp(1)\le3が成り立つ。とくにexp⁡(1/2)<2\exp(1/2)<2である。

証明.§D1.24 定義 1.1によりexp⁡(x)=∑k=0∞xk/k!\exp(x)=\sum_{k=0}^{\infty}x^{k}/k!であり、§D1.24 命題 1.2によりこの級数はすべての実数xxで絶対収束する。とくにexp⁡(0)=1\exp(0)=1である。また§D1.24 定理 2.1よりexp⁡(x)exp⁡(−x)=exp⁡(0)=1\exp(x)\exp(-x)=\exp(0)=1であり、§D1.24 命題 3.1よりexp⁡\expは正の値だけを取るからexp⁡(−x)=1exp⁡(x)\exp(-x)=\frac{1}{\exp(x)}である。

極限における不等号の保存。以下の二箇所で用いるので、次の主張を先に示す。実数の数列(am)m≥1(a_m)_{m\ge1}と実数ccについて、すべての整数m≥1m\ge1がam≤ca_m\le cを満たし、かつ(am)m≥1(a_m)_{m\ge1}が実数aaへ収束するならばa≤ca\le cである。実際、a>ca>cと仮定しε=a−c>0\varepsilon=a-c>0と置くと、§D1.5 定義 1.1により整数MMが存在して、m≥Mm\ge Mを満たすすべての整数mmについて∣am−a∣<ε\lvert a_m-a\rvert<\varepsilonが成り立つ。このmmについてはam>a−ε=ca_m>a-\varepsilon=cとなり、すべての整数m≥1m\ge1がam≤ca_m\le cを満たすことに反する。ゆえにa≤ca\le cである。同じ主張は§B1.7 定理 3.3にも述べられている。ただし先行記事はその証明を与えていないので、本記事はこの主張を上の議論によって自給する。

準備。0≤u<10\le u<1に対しexp⁡(u)≤11−u\exp(u)\le\dfrac{1}{1-u}を示す。m≥1m\ge1を整数とすると、k≥0k\ge0についてk!≥1k!\ge1かつuk≥0u^{k}\ge0であるから∑k=0mukk!≤∑k=0muk\sum_{k=0}^{m}\frac{u^{k}}{k!}\le\sum_{k=0}^{m}u^{k}である。右辺は初項11、公比uuの有限等比和であり、u≠1u\ne1であるから§B1.1 公式 2.3より1−um+11−u\dfrac{1-u^{m+1}}{1-u}に等しい。0≤u<10\le u<1よりum+1≥0u^{m+1}\ge0であるから、この値は11−u\dfrac{1}{1-u}以下である。左辺はm→∞m\to\inftyでexp⁡(u)\exp(u)へ収束し、右辺11−u\dfrac{1}{1-u}はmmによらない定数であるから、冒頭で示した極限における不等号の保存をam=∑k=0muk/k!a_m=\sum_{k=0}^{m}u^{k}/k!、c=11−uc=\dfrac{1}{1-u}に対して適用してexp⁡(u)≤11−u\exp(u)\le\dfrac{1}{1-u}を得る。

(1)を示す。 三つの場合に分ける。x≥0x\ge0のとき、級数の各項は非負であるから、第00項と第11項だけを残してexp⁡(x)≥1+x\exp(x)\ge1+xを得る。x≤−1x\le-1のとき、1+x≤01+x\le0でありexp⁡(x)>0\exp(x)>0であるから主張は成り立つ。−1<x<0-1<x<0のとき、u=−xu=-xと置くと0<u<10<u<1である。準備よりexp⁡(u)≤11−u\exp(u)\le\dfrac{1}{1-u}であり、両辺は正であるから逆数を取って不等号の向きを変えるとexp⁡(x)=exp⁡(−u)=1exp⁡(u)≥1−u=1+x\exp(x)=\exp(-u)=\frac{1}{\exp(u)}\ge1-u=1+xである。

(2)を示す。u≥0u\ge0に対し(1)をx=−ux=-uに適用するとexp⁡(−u)≥1−u\exp(-u)\ge1-uである。

(3)を示す。0≤u<10\le u<1とし、t=u1−ut=\dfrac{u}{1-u}と置く。1−u>01-u>0かつu≥0u\ge0よりt≥0t\ge0である。(1)をx=tx=tに適用するとexp⁡(t)≥1+t=1+u1−u=1−u+u1−u=11−u\exp(t)\ge1+t=1+\frac{u}{1-u}=\frac{1-u+u}{1-u}=\frac{1}{1-u}である。両辺は正であるから逆数を取ってexp⁡(−t)≤1−u\exp(-t)\le1-uを得る。

(4)を示す。s>0s>0としx=log⁡sx=\log sと置く。§D1.24 定義 3.2よりexp⁡(x)=s\exp(x)=sである。(1)よりs=exp⁡(x)≥1+x=1+log⁡ss=\exp(x)\ge1+x=1+\log sであり、移項してlog⁡s≤s−1\log s\le s-1を得る。

整数n≥1n\ge1に対し、n>0\sqrt n>0であるから§D1.24 定理 3.4をa=b=na=b=\sqrt nに対して適用してlog⁡n=log⁡(n⋅n)=2log⁡n\log n=\log(\sqrt n\cdot\sqrt n)=2\log\sqrt nである。いま示したことをs=ns=\sqrt nに適用するとlog⁡n≤n−1<n\log\sqrt n\le\sqrt n-1<\sqrt nであるからlog⁡n<2n\log n<2\sqrt nである。また、s=ns=nに適用するとlog⁡n≤n−1<n\log n\le n-1<nであり、n>0n>0で割ってlog⁡n/n<1\log n/n<1を得る。

(5)を示す。k≥1k\ge1に対しk!≥2k−1k!\ge2^{k-1}が成り立つ。実際、k=1k=1では1≥11\ge1であり、kkで成り立つとすると(k+1)!=(k+1)k!≥2⋅2k−1=2k(k+1)!=(k+1)k!\ge2\cdot2^{k-1}=2^{k}である。ゆえにm≥1m\ge1に対し∑k=0m1k!≤1+∑k=1m12k−1=1+1−2−m1−1/2≤1+2=3\sum_{k=0}^{m}\frac1{k!}\le1+\sum_{k=1}^{m}\frac{1}{2^{k-1}}=1+\frac{1-2^{-m}}{1-1/2}\le1+2=3である。ここで§B1.1 公式 2.3を初項11、公比1/21/2に対して用いた。左辺はm→∞m\to\inftyでexp⁡(1)\exp(1)へ収束し、右辺33はmmによらない定数であるから、冒頭で示した極限における不等号の保存をam=∑k=0m1/k!a_m=\sum_{k=0}^{m}1/k!、c=3c=3に対して適用してexp⁡(1)≤3\exp(1)\le3を得る。exp⁡(1/2)>0\exp(1/2)>0であり§D1.24 定理 2.1よりexp⁡(1/2)2=exp⁡(1)≤3<4=22\exp(1/2)^{2}=\exp(1)\le3<4=2^{2}であるからexp⁡(1/2)<2\exp(1/2)<2である。▨

4 孤立点の個数の分散

第二モーメント法を適用するために、孤立点の個数の分散を求める。孤立点であるという事象は互いに独立ではないので、共分散の項が残る。

命題 4.1.n≥2n\ge2を整数、p∈[0,1)p\in[0,1)とし、q=(1−p)n−1q=(1-p)^{n-1}と置く。G(n,p)G(n,p)の孤立点の個数X0X_0についてVar⁡(X0)=nq(1−q)+n(n−1) p (1−p)2n−3\operatorname{Var}(X_0)=nq(1-q)+n(n-1)\,p\,(1-p)^{2n-3}が成り立つ。さらにp>0p>0のときE[X0]=nq>0\mathbb E[X_0]=nq>0でありVar⁡(X0)E[X0]2≤1nq+p1−p\frac{\operatorname{Var}(X_0)}{\mathbb E[X_0]^{2}}\le\frac{1}{nq}+\frac{p}{1-p}が成り立つ。

証明.命題 2.1の証明の記号を用い、X0=∑v∈VnWvX_0=\sum_{v\in V_n}W_vとする。ここでWv=1AvW_v=\mathbf 1_{A_v}であり、Av={ω: I(v)∩E(ω)=∅}A_v=\{\omega:\ I(v)\cap E(\omega)=\emptyset\}は「vvが孤立点である」という事象である。Pn,p(Av)=(1−p)n−1=q\mathbb P_{n,p}(A_v)=(1-p)^{n-1}=qである。

各項の分散。Wv2=WvW_v^{2}=W_vであるから§E11.4 命題 2.3よりVar⁡(Wv)=E[Wv2]−E[Wv]2=q−q2=q(1−q)\operatorname{Var}(W_v)=\mathbb E[W_v^{2}]-\mathbb E[W_v]^{2}=q-q^{2}=q(1-q)である。

共分散。相異なるu,v∈Vnu,v\in V_nを取る。WuWv=1Au∩AvW_uW_v=\mathbf 1_{A_u\cap A_v}であり、Au∩AvA_u\cap A_vはI(u)∪I(v)I(u)\cup I(v)のすべての座標が00である事象である。∣I(u)∣=∣I(v)∣=n−1\lvert I(u)\rvert=\lvert I(v)\rvert=n-1であり、I(u)∩I(v)={{u,v}}I(u)\cap I(v)=\{\{u,v\}\}は一元集合であるから∣I(u)∪I(v)∣=(n−1)+(n−1)−1=2n−3\lvert I(u)\cup I(v)\rvert=(n-1)+(n-1)-1=2n-3である。n≥2n\ge2より2n−3≥12n-3\ge1である。命題 1.2をJ=I(u)∪I(v)J=I(u)\cup I(v)に対して適用するとPn,p(Au∩Av)=(1−p)2n−3\mathbb P_{n,p}(A_u\cap A_v)=(1-p)^{2n-3}である。ゆえに§E11.4 命題 2.3よりCov⁡(Wu,Wv)=(1−p)2n−3−q2=(1−p)2n−3−(1−p)2n−2=(1−p)2n−3(1−(1−p))=p (1−p)2n−3\operatorname{Cov}(W_u,W_v)=(1-p)^{2n-3}-q^{2}=(1-p)^{2n-3}-(1-p)^{2n-2}=(1-p)^{2n-3}\bigl(1-(1-p)\bigr)=p\,(1-p)^{2n-3}である。

展開式を適用する。§E13.11 命題 6.1 (2)よりVar⁡(X0)=∑v∈VnVar⁡(Wv)+2∑u<vCov⁡(Wu,Wv)=nq(1−q)+2(n2) p (1−p)2n−3\operatorname{Var}(X_0)=\sum_{v\in V_n}\operatorname{Var}(W_v)+2\sum_{u<v}\operatorname{Cov}(W_u,W_v) =nq(1-q)+2\binom n2\,p\,(1-p)^{2n-3}であり、2(n2)=n(n−1)2\binom n2=n(n-1)であるから主張の等式を得る。

比の評価。p>0p>0とする。1−p>01-p>0よりq>0q>0であり、E[X0]=nq>0\mathbb E[X_0]=nq>0である。E[X0]2=n2q2\mathbb E[X_0]^{2}=n^{2}q^{2}で割るとVar⁡(X0)E[X0]2=nq(1−q)n2q2+n(n−1)p(1−p)2n−3n2q2=1−qnq+(n−1)pn⋅(1−p)2n−3(1−p)2n−2\frac{\operatorname{Var}(X_0)}{\mathbb E[X_0]^{2}} =\frac{nq(1-q)}{n^{2}q^{2}}+\frac{n(n-1)p(1-p)^{2n-3}}{n^{2}q^{2}} =\frac{1-q}{nq}+\frac{(n-1)p}{n}\cdot\frac{(1-p)^{2n-3}}{(1-p)^{2n-2}}である。ここでq2=(1−p)2n−2q^{2}=(1-p)^{2n-2}を用いた。最後の分数は11−p\dfrac{1}{1-p}に等しい。0<q≤10<q\le1より1−q≤11-q\le1であり、n−1n≤1\dfrac{n-1}{n}\le1であるからVar⁡(X0)E[X0]2≤1nq+p1−p\frac{\operatorname{Var}(X_0)}{\mathbb E[X_0]^{2}}\le\frac{1}{nq}+\frac{p}{1-p}を得る。▨

5 孤立点が存在しない性質の閾値

以下では、頂点数nnを大きくしたときの確率の振る舞いを扱う。各nnに対して確率空間が別々に定まるので、扱う対象は確率変数の列ではなく、確率の値からなる数列である。この点を定義として明示する。

定義 5.1. 各整数n≥2n\ge2に対してpn∈[0,1]p_n\in[0,1]が与えられているとし、G(n,pn)G(n,p_n)の確率測度をPn\mathbb P_{n}と書く。各nnに対して事象Bn⊆Ωn,pnB_n\subseteq\Omega_{n,p_n}が与えられているとする。

lim⁡n→∞Pn(Bn)=1\lim_{n\to\infty}\mathbb P_{n}(B_n)=1

が成り立つとき、すなわち任意の実数δ>0\delta>0に対して整数NNが存在し、n≥Nn\ge Nを満たすすべての整数nnについてPn(Bn)>1−δ\mathbb P_{n}(B_n)>1-\deltaが成り立つとき、事象の族(Bn)(B_n)は高い確率で成り立つ (with high probability) という。

5.1 証明方針

孤立点の個数X0X_0について、二つの向きの主張を別々の道具で示す。

「第一モーメント法」という語の意味を先に定めておく。上側についてこの語を用いるとき、それは計数変数X0X_0へ§E11.4 定理 3.1を閾値11に対して適用し、Pn(X0≥1)≤E[X0]\mathbb P_n(X_0\ge1)\le\mathbb E[X_0]を得る形を指す。前記事の§E13.11 命題 4.1は、E[X]<1\mathbb E[X]<1からP(X=0)>0\mathbb P(X=0)>0を結論する非漸近の主張であり、結論が異なる。以下の証明が用いるのは前者であって後者ではない。両者の関係は注意 5.3で述べる。

上側の場合、すなわちpn=(1+ε)log⁡n/np_n=(1+\varepsilon)\log n/nの場合には、Pn(X0≥1)\mathbb P_n(X_0\ge1)を上から抑えればよい。X0X_0は非負であるから、Markov の不等式を閾値11に対して適用してPn(X0≥1)≤E[X0]\mathbb P_n(X_0\ge1)\le\mathbb E[X_0]を得る。あとはE[X0]=n(1−pn)n−1\mathbb E[X_0]=n(1-p_n)^{n-1}が00へ収束することを示せばよい。ここで補題 3.1 (2)によって1−pn1-p_nをexp⁡(−pn)\exp(-p_n)で上から抑え、指数の中の(n−1)pn(n-1)p_nを(1+ε)log⁡n(1+\varepsilon)\log nと比べる。差はpnp_nであり、pnp_nが1/21/2以下であることをlog⁡n<2n\log n<2\sqrt nから確かめる。

下側の場合、すなわちpn=(1−ε)log⁡n/np_n=(1-\varepsilon)\log n/nの場合には、Pn(X0=0)\mathbb P_n(X_0=0)を上から抑えればよい。§E13.11 命題 6.2と命題 4.1により、この確率は1nqn+pn1−pn\dfrac{1}{nq_n}+\dfrac{p_n}{1-p_n}で抑えられる。第二項が00へ収束することはpn→0p_n\to0から従う。第一項についてはnqnnq_nが無限大へ発散することを示す必要があり、そのために補題 3.1 (3)によって1−pn1-p_nを下から抑える。指数の中に現れる(n−1)pn1−pn\dfrac{(n-1)p_n}{1-p_n}を(1−ε2)log⁡n\left(1-\dfrac\varepsilon2\right)\log n以下にするために、pn≤ε/2p_n\le\varepsilon/2が成り立つほどnnを大きく取る。この置き換えの根拠は1−ε1−ε/2≤1−ε2\dfrac{1-\varepsilon}{1-\varepsilon/2}\le1-\dfrac\varepsilon2という初等的な不等式である。

定理 5.2.ε>0\varepsilon>0を固定された実数とする。整数n≥2n\ge2に対しpn=min⁡{(1+ε)log⁡nn, 1}p_n=\min\left\{(1+\varepsilon)\frac{\log n}{n},\ 1\right\}と置く。証明の中で示すとおり、十分大きなすべてのnnについてこの最小値は第一項で達成される。G(n,pn)G(n,p_n)の孤立点の個数をX0X_0と書くとlim⁡n→∞Pn(X0≥1)=0\lim_{n\to\infty}\mathbb P_{n}(X_0\ge1)=0が成り立つ。すなわち定義 5.1の意味で、G(n,pn)G(n,p_n)が孤立点をもたないことは高い確率で成り立つ。

証明.N1N_1をN1≥16(1+ε)2N_1\ge16(1+\varepsilon)^{2}かつN1≥2N_1\ge2を満たす整数とし、以下n≥N1n\ge N_1とする。

まずpn≤1/2p_n\le1/2を示す。補題 3.1 (4)よりlog⁡n<2n\log n<2\sqrt nであるから(1+ε)log⁡nn<(1+ε)2nn=2(1+ε)n(1+\varepsilon)\frac{\log n}{n}<(1+\varepsilon)\frac{2\sqrt n}{n}=\frac{2(1+\varepsilon)}{\sqrt n}である。n≥16(1+ε)2n\ge16(1+\varepsilon)^{2}よりn≥4(1+ε)\sqrt n\ge4(1+\varepsilon)であるから、右辺は2(1+ε)4(1+ε)=12\dfrac{2(1+\varepsilon)}{4(1+\varepsilon)}=\dfrac12以下である。ゆえに(1+ε)log⁡n/n<1/2<1(1+\varepsilon)\log n/n<1/2<1であり、最小値は第一項で達成されてpn=(1+ε)log⁡n/n≤1/2p_n=(1+\varepsilon)\log n/n\le1/2である。またn≥2n\ge2よりlog⁡n>0\log n>0であるからpn>0p_n>0である。

Markov の不等式を適用する。X0X_0は非負確率変数であるから、§E11.4 定理 3.1をa=1a=1に対して適用するとPn(X0≥1)≤E[X0]\mathbb P_{n}(X_0\ge1)\le\mathbb E[X_0]である。命題 2.1よりE[X0]=n(1−pn)n−1\mathbb E[X_0]=n(1-p_n)^{n-1}である。

期待値を上から抑える。補題 3.1 (2)より0≤1−pn≤exp⁡(−pn)0\le1-p_n\le\exp(-p_n)である。t↦tn−1t\mapsto t^{n-1}は[0,∞)[0,\infty)上で単調非減少であるから(1−pn)n−1≤(exp⁡(−pn))n−1=exp⁡(−(n−1)pn)(1-p_n)^{n-1}\le\bigl(\exp(-p_n)\bigr)^{n-1}=\exp\bigl(-(n-1)p_n\bigr)である。最後の等号は§D1.24 定理 2.1をn−1n-1回適用して得られる。ここで(n−1)pn=n pn−pn=(1+ε)log⁡n−pn≥(1+ε)log⁡n−12(n-1)p_n=n\,p_n-p_n=(1+\varepsilon)\log n-p_n\ge(1+\varepsilon)\log n-\frac12であるから、§D1.24 命題 3.1の単調増加性よりexp⁡(−(n−1)pn)≤exp⁡ ⁣(−(1+ε)log⁡n+12)\exp\bigl(-(n-1)p_n\bigr)\le\exp\!\left(-(1+\varepsilon)\log n+\frac12\right)である。§D1.24 定義 3.2よりn=exp⁡(log⁡n)n=\exp(\log n)であるから、§D1.24 定理 2.1を用いてE[X0]≤exp⁡(log⁡n)exp⁡ ⁣(−(1+ε)log⁡n+12)=exp⁡ ⁣(12)exp⁡(−εlog⁡n)\mathbb E[X_0]\le\exp(\log n)\exp\!\left(-(1+\varepsilon)\log n+\frac12\right)=\exp\!\left(\frac12\right)\exp\bigl(-\varepsilon\log n\bigr)を得る。補題 3.1 (5)よりexp⁡(1/2)<2\exp(1/2)<2であり、補題 3.1 (1)よりexp⁡(εlog⁡n)≥1+εlog⁡n\exp(\varepsilon\log n)\ge1+\varepsilon\log nであるからE[X0]≤21+εlog⁡n\mathbb E[X_0]\le\frac{2}{1+\varepsilon\log n}である。

極限を確かめる。δ>0\delta>0を任意に取る。log⁡\logは§D1.24 命題 3.1より狭義単調増加な全単射の逆であるから狭義単調増加である。したがって、整数NNをN≥N1,N>exp⁡ ⁣(2εδ)N\ge N_1,\qquad N>\exp\!\left(\frac{2}{\varepsilon\delta}\right)を満たすように取ると、n≥Nn\ge Nのときlog⁡n>2/(εδ)\log n>2/(\varepsilon\delta)でありPn(X0≥1)≤21+εlog⁡n<2εlog⁡n<2ε⋅εδ2=δ\mathbb P_{n}(X_0\ge1)\le\frac{2}{1+\varepsilon\log n}<\frac{2}{\varepsilon\log n}<\frac{2}{\varepsilon}\cdot\frac{\varepsilon\delta}{2}=\deltaである。δ>0\delta>0は任意であったからlim⁡n→∞Pn(X0≥1)=0\lim_{n\to\infty}\mathbb P_{n}(X_0\ge1)=0である。事象{X0=0}\{X_0=0\}は{X0≥1}\{X_0\ge1\}の補事象であるからPn(X0=0)→1\mathbb P_n(X_0=0)\to1であり、定義 5.1の意味で孤立点をもたないことは高い確率で成り立つ。▨

注意 5.3 (第一モーメント法との関係). 上の証明で得たE[X0]≤2/(1+εlog⁡n)\mathbb E[X_0]\le2/(1+\varepsilon\log n)は、十分大きなnnについてE[X0]<1\mathbb E[X_0]<1を与える。したがって§E13.11 命題 4.1を非負整数値の確率変数X0X_0へ適用するとPn(X0=0)>0\mathbb P_n(X_0=0)>0が従う。定理 5.2はこれを強め、その確率が11へ近づくことを述べている。第一モーメント法が与えるのは正の確率であり、閾値の主張が与えるのは11への収束である。

定理 5.4.0<ε<10<\varepsilon<1を固定された実数とする。整数n≥2n\ge2に対しpn=(1−ε)log⁡nnp_n=(1-\varepsilon)\frac{\log n}{n}と置く。補題 3.1 (4)よりlog⁡n/n<1\log n/n<1であり、0<1−ε<10<1-\varepsilon<1かつn≥2n\ge2よりlog⁡n>0\log n>0であるから、pn∈(0,1)p_n\in(0,1)である。したがって定義 1.1のG(n,pn)G(n,p_n)が定まる。G(n,pn)G(n,p_n)の孤立点の個数をX0X_0と書くとlim⁡n→∞Pn(X0=0)=0\lim_{n\to\infty}\mathbb P_{n}(X_0=0)=0が成り立つ。すなわち定義 5.1の意味で、G(n,pn)G(n,p_n)が孤立点をもつことは高い確率で成り立つ。

証明.N2N_2をN2≥16/ε2N_2\ge16/\varepsilon^{2}かつN2≥2N_2\ge2を満たす整数とし、以下n≥N2n\ge N_2とする。

pnp_nの範囲。主張文で確かめたとおりpn∈(0,1)p_n\in(0,1)である。さらに補題 3.1 (4)よりlog⁡n<2n\log n<2\sqrt nであり、1−ε<11-\varepsilon<1であるからpn<2np_n<\frac{2}{\sqrt n}である。n≥16/ε2n\ge16/\varepsilon^{2}よりn≥4/ε\sqrt n\ge4/\varepsilonであるからpn<ε/2p_n<\varepsilon/2である。ε<1\varepsilon<1よりpn<1/2p_n<1/2でもある。

qnq_nを下から抑える。qn=(1−pn)n−1q_n=(1-p_n)^{n-1}と置く。0<pn<10<p_n<1であるから補題 3.1 (3)より1−pn≥exp⁡ ⁣(−pn1−pn)>01-p_n\ge\exp\!\left(-\frac{p_n}{1-p_n}\right)>0である。t↦tn−1t\mapsto t^{n-1}は[0,∞)[0,\infty)上で単調非減少であるから、§D1.24 定理 2.1を用いてqn≥exp⁡ ⁣(−(n−1)pn1−pn)q_n\ge\exp\!\left(-\frac{(n-1)p_n}{1-p_n}\right)である。ここで(n−1)pn<npn=(1−ε)log⁡n(n-1)p_n<np_n=(1-\varepsilon)\log nであり、pn<ε/2p_n<\varepsilon/2より1−pn>1−ε/2>01-p_n>1-\varepsilon/2>0であるから(n−1)pn1−pn<(1−ε)log⁡n1−ε/2\frac{(n-1)p_n}{1-p_n}<\frac{(1-\varepsilon)\log n}{1-\varepsilon/2}である。さらに1−ε1−ε/2≤1−ε2\frac{1-\varepsilon}{1-\varepsilon/2}\le1-\frac\varepsilon2が成り立つ。実際、1−ε/2>01-\varepsilon/2>0であるから両辺にこれを掛けると1−ε≤(1−ε2)2=1−ε+ε241-\varepsilon\le\left(1-\dfrac\varepsilon2\right)^{2}=1-\varepsilon+\dfrac{\varepsilon^{2}}4となり、これはε2/4≥0\varepsilon^{2}/4\ge0と同値だからである。ゆえに(n−1)pn1−pn<(1−ε2)log⁡n\frac{(n-1)p_n}{1-p_n}<\left(1-\frac\varepsilon2\right)\log nであり、§D1.24 命題 3.1の単調増加性よりqn≥exp⁡ ⁣(−(1−ε2)log⁡n)q_n\ge\exp\!\left(-\left(1-\frac\varepsilon2\right)\log n\right)である。§D1.24 定義 3.2と§D1.24 定理 2.1よりn qn≥exp⁡(log⁡n)exp⁡ ⁣(−(1−ε2)log⁡n)=exp⁡ ⁣(ε2log⁡n)≥1+ε2log⁡nn\,q_n\ge\exp(\log n)\exp\!\left(-\left(1-\frac\varepsilon2\right)\log n\right)=\exp\!\left(\frac\varepsilon2\log n\right)\ge1+\frac\varepsilon2\log nである。最後の不等号は補題 3.1 (1)による。

第二モーメント法を適用する。X0X_0は非負整数値でありE[X0]=nqn>0\mathbb E[X_0]=nq_n>0であるから、§E13.11 命題 6.2を適用することができ、命題 4.1とあわせてPn(X0=0)≤Var⁡(X0)E[X0]2≤1nqn+pn1−pn\mathbb P_{n}(X_0=0)\le\frac{\operatorname{Var}(X_0)}{\mathbb E[X_0]^{2}}\le\frac{1}{nq_n}+\frac{p_n}{1-p_n}を得る。第一項は上で示した評価より11+ε2log⁡n\dfrac{1}{1+\frac\varepsilon2\log n}以下である。第二項は、pn<1/2p_n<1/2より1−pn>1/21-p_n>1/2であるから2pn2p_n以下であり、pn<2/np_n<2/\sqrt nより4n\dfrac{4}{\sqrt n}以下である。ゆえにPn(X0=0)≤11+ε2log⁡n+4n\mathbb P_{n}(X_0=0)\le\frac{1}{1+\frac\varepsilon2\log n}+\frac{4}{\sqrt n}である。

極限を確かめる。δ>0\delta>0を任意に取る。整数NNをN≥N2,N>exp⁡ ⁣(4εδ),N>64δ2N\ge N_2,\qquad N>\exp\!\left(\frac{4}{\varepsilon\delta}\right),\qquad N>\frac{64}{\delta^{2}}を満たすように取る。n≥Nn\ge Nのとき、log⁡\logの狭義単調増加性よりlog⁡n>4/(εδ)\log n>4/(\varepsilon\delta)であるから11+ε2log⁡n<1ε2log⁡n<2ε⋅εδ4=δ2\frac{1}{1+\frac\varepsilon2\log n}<\frac{1}{\frac\varepsilon2\log n}<\frac2\varepsilon\cdot\frac{\varepsilon\delta}4=\frac\delta2であり、n>64/δ2n>64/\delta^{2}よりn>8/δ\sqrt n>8/\deltaであるから4n<δ2\dfrac{4}{\sqrt n}<\dfrac\delta2である。あわせてPn(X0=0)<δ\mathbb P_{n}(X_0=0)<\deltaである。δ>0\delta>0は任意であったからlim⁡n→∞Pn(X0=0)=0\lim_{n\to\infty}\mathbb P_{n}(X_0=0)=0であり、補事象についてPn(X0≥1)→1\mathbb P_n(X_0\ge1)\to1である。▨

二つの定理を合わせると、固定した正のε\varepsilonに対し、ppをlog⁡n/n\log n/nの(1+ε)(1+\varepsilon)倍に取れば孤立点は高い確率で存在せず、(1−ε)(1-\varepsilon)倍に取れば孤立点は高い確率で存在する。この意味でlog⁡n/n\log n/nは孤立点が存在しない性質の閾値である。

例 5.5 (閾値の両側での数値).ε=1/2\varepsilon=1/2、n=100n=100とし、二つの定理が与える上界を計算する。log⁡100=4.60517…\log100=4.60517\ldotsである。

上側。p100=1.5×4.60517/100=0.0690776…p_{100}=1.5\times4.60517/100=0.0690776\ldotsである。定理 5.2の証明が与える上界はexp⁡ ⁣(12)exp⁡ ⁣(−12log⁡100)=exp⁡ ⁣(12)⋅110\exp\!\left(\frac12\right)\exp\!\left(-\frac12\log100\right)=\exp\!\left(\frac12\right)\cdot\frac{1}{10}である。ここで、t=exp⁡ ⁣(12log⁡100)t=\exp\!\left(\frac12\log100\right)と置くと§D1.24 定理 2.1よりt2=exp⁡(log⁡100)=100t^{2}=\exp(\log100)=100でありt>0t>0であるからt=10t=10となり、exp⁡ ⁣(−12log⁡100)=1/t=1/10\exp\!\left(-\frac12\log100\right)=1/t=1/10である。exp⁡(1/2)=1.64872…\exp(1/2)=1.64872\ldotsであるから、上界は0.164872…0.164872\ldotsである。他方E[X0]=100×(1−0.0690776)99\mathbb E[X_0]=100\times(1-0.0690776)^{99}であり、(0.9309224)99=0.000836…(0.9309224)^{99}=0.000836\ldotsであるからE[X0]=0.0836…\mathbb E[X_0]=0.0836\ldotsである。0.0836<0.16490.0836<0.1649であり、上界は正しく成立している。適用条件n≥16(1+ε)2=36n\ge16(1+\varepsilon)^{2}=36とp100≤1/2p_{100}\le1/2もともに満たされている。

下側。p100=0.5×4.60517/100=0.0230259…p_{100}=0.5\times4.60517/100=0.0230259\ldotsである。q100=(1−0.0230259)99=0.09964…q_{100}=(1-0.0230259)^{99}=0.09964\ldotsであるからE[X0]=100×0.09964=9.964…\mathbb E[X_0]=100\times0.09964=9.964\ldotsである。命題 4.1の比の評価よりP100(X0=0)≤19.964+0.02302590.9769741=0.10036+0.02357=0.12393…\mathbb P_{100}(X_0=0)\le\frac{1}{9.964}+\frac{0.0230259}{0.9769741}=0.10036+0.02357=0.12393\ldotsである。孤立点が存在しない確率は0.1240.124以下である。適用条件n≥16/ε2=64n\ge16/\varepsilon^{2}=64も満たされている。

小さなnnでは評価が意味をもたない。例 2.2のn=4n=4、p=1/2p=1/2ではq=1/8q=1/8、E[X0]=1/2\mathbb E[X_0]=1/2、Var⁡(X0)=5/8\operatorname{Var}(X_0)=5/8であった。§E13.11 命題 6.2が与える上界は5/8(1/2)2=5/81/4=52=2.5\frac{5/8}{(1/2)^{2}}=\frac{5/8}{1/4}=\frac{5}{2}=2.5であり、確率の上界としては何も述べていない。命題 4.1の比の評価でも14⋅(1/8)+1/21/2=2+1=3\dfrac{1}{4\cdot(1/8)}+\dfrac{1/2}{1/2}=2+1=3であり、同じく意味をもたない。閾値の主張が内容をもつのは、nnが十分に大きい場合である。

6 演習

問題 6.1.

  1. 命題 2.1の証明を、三角形の個数について再現せよ。とくにE[ZS]=p3\mathbb E[Z_S]=p^{3}を導く箇所で命題 1.2のどの等式をJJをどう取って用いたかを明示せよ。
  2. 命題 2.1の三つの計算では、指示変数どうしが確率的に独立でない。三角形の個数について、頂点を共有する二つの三元部分集合SSとS′S'を取り、E[ZSZS′]≠E[ZS]E[ZS′]\mathbb E[Z_SZ_{S'}]\ne\mathbb E[Z_S]\mathbb E[Z_{S'}]となる例を作れ。それでも期待値の計算が正しい理由を述べよ。
  3. 命題 4.1の証明で∣I(u)∪I(v)∣=2n−3\lvert I(u)\cup I(v)\rvert=2n-3を導いた箇所を書き下せ。ここで−1-1が現れる理由を、I(u)∩I(v)I(u)\cap I(v)を具体的に決定して説明せよ。
  4. 命題 4.1の共分散が正であることを確かめ、その符号が「一つの頂点が孤立点であるという情報が、他の頂点が孤立点である確率を上げる」ことに対応することを、P(Au∩Av)\mathbb P(A_u\cap A_v)とP(Au)P(Av)\mathbb P(A_u)\mathbb P(A_v)の比較として述べよ。
  5. 補題 3.1 (1)の証明を、x≥0x\ge0、x≤−1x\le-1、−1<x<0-1<x<0の三つの場合に分けて再現せよ。三番目の場合で用いたexp⁡(u)≤1/(1−u)\exp(u)\le1/(1-u)がu≥1u\ge1では意味をもたないことを確かめよ。
  6. 定理 5.2の証明で、(n−1)pn≥(1+ε)log⁡n−1/2(n-1)p_n\ge(1+\varepsilon)\log n-1/2を導く箇所を再現せよ。ここでpn≤1/2p_n\le1/2という評価が必要になる理由を述べ、この評価を省くと結論がどのように変わるかを述べよ。
  7. 定理 5.4の証明で用いた不等式1−ε1−ε/2≤1−ε2\dfrac{1-\varepsilon}{1-\varepsilon/2}\le1-\dfrac\varepsilon2を、ε∈(0,1)\varepsilon\in(0,1)について独立に証明せよ。等号が成立するのはどのような場合かを述べよ。
  8. 定理 5.4の証明をε≥1\varepsilon\ge1の場合に適用しようとすると、どこで議論が成り立たなくなるかを指摘せよ。ε=1\varepsilon=1のときpnp_nはどのような値になるかもあわせて述べよ。
  9. 定理 5.2の証明にならって、三角形の個数X△X_{\triangle}について、pn=c/np_n=c/n(c>0c>0は定数)のときにPn(X△≥1)\mathbb P_n(X_{\triangle}\ge1)が00へ収束しないことを、E[X△]\mathbb E[X_{\triangle}]の極限を求めて論じよ。第一モーメント法による上からの評価だけでは何が言えないかを明示せよ。
  10. 命題 4.1の比の評価では(n−1)/n≤1(n-1)/n\le1と1−q≤11-q\le1という二つの粗い評価を用いた。この二つを用いない厳密な等式を書き下し、例 2.2のn=4n=4、p=1/2p=1/2の場合に両者の値を計算して比較せよ。

8 扱った範囲と次の記事

本記事では、有限ランダムグラフG(n,p)G(n,p)を先行記事の有限確率空間として定め、辺、三角形および孤立点の個数の期待値を指示変数によって計算し、孤立点の個数の分散を共分散の展開式から求めた。そのうえで、固定した正のε\varepsilonに対し、p=(1+ε)log⁡n/np=(1+\varepsilon)\log n/nのときに孤立点をもたないことが高い確率で成り立ち、p=(1−ε)log⁡n/np=(1-\varepsilon)\log n/n(ε<1\varepsilon<1)のときに孤立点をもつことが高い確率で成り立つことを、極限の量化を明示して証明した。

辺の本数を固定するモデル、連結性そのものの閾値、閾値の幅を精密にする議論、および孤立点の個数の極限分布は扱っていない。ε\varepsilonをnnに応じて00へ近づける場合についても扱っていない。

次の記事では、確率をランダムな入力ではなくアルゴリズムの内部乱数に置く。入力を固定したうえで、常に正しい答えを返すが実行時間が変動する型と、実行時間は抑えられるが誤答の確率をもつ型を区別し、再試行の期待回数と、独立反復による誤り確率の減少を証明する。

参考文献

  1. Noga Alon and Joel H. Spencer, The Probabilistic Method, 4th ed., Wiley, Hoboken, N.J., 2016.第二モーメント法による閾値の議論と、孤立点の個数への適用の枠組みを参考にした。
  2. Reinhard Diestel, Graph Theory, 6th ed., Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, Berlin, 2025.有限ランダムグラフ G(n, p) の定義と、部分グラフの個数の期待値の計算を参考にした。
  3. Alan Frieze and Michał Karoński, Introduction to Random Graphs, Cambridge University Press, 2015.孤立点が存在しない性質の閾値が log n / n であることの定式化を参考にした。

前提記事