1 二色 Ramsey 数の定義
定義 1.1.sとtを正の整数とする。正の整数nについての次の性質をQs,t(n)と書く。
n頂点完全グラフKnの辺集合を赤と青へ塗り分ける任意の写像に対し、内部のすべての辺が赤であるs元頂点部分集合、または内部のすべての辺が青であるt元頂点部分集合が存在する。
ここで、頂点部分集合Sの内部の辺 (internal edge) とは、両端点がSに属する辺をいう。∣S∣≤1のとき内部の辺は存在しないので、色についての条件は空虚に成り立つ。
性質Qs,tはnについて上方閉である。この上方閉性は命題 1.2が示す。また、Qs,t(n)を満たす正の整数nが存在することは定理 3.1が示す。この存在のもとで、集合{n: n は正の整数, Qs,t(n) が成り立つ}は空でない。自然数の大小関係は§D2.1 例 2.2の第一項により整礎であるから、§D2.1 定義 2.1よりこの集合は極小元をもつ。大小関係は全順序であるから、極小元は最小元である。この最小元を 二色 Ramsey 数 (two-color Ramsey number) といい、R(s,t)と書く。
命題 1.2.sとtを正の整数とし、nとn′をn≤n′を満たす正の整数とする。Qs,t(n)が成り立つならばQs,t(n′)が成り立つ。
証明.Kn′の頂点集合をV′とし、辺集合の赤と青への塗り分けφ′を任意に取る。n≤n′であるから∣W∣=nを満たすW⊆V′を取ることができる。Wを頂点集合とし、両端点がWに属するKn′の辺の全体を辺集合とするグラフは、Wの相異なる二頂点がすべて隣接するのでKnと同型である。このグラフの辺へのφ′の制限は、Knの辺集合の赤と青への塗り分けを与える。
Qs,t(n)より、Wの部分集合であって内部のすべての辺が赤であるs元集合、または内部のすべての辺が青であるt元集合が存在する。この集合はV′の部分集合でもあり、内部の辺と塗り分けは制限の前後で変わらないから、φ′についても同じ条件を満たす。φ′は任意であったからQs,t(n′)が成り立つ。▨
命題 1.3.
- t≥1に対しQ1,t(1)とQt,1(1)が成り立つ。したがってR(1,t)とR(t,1)は定まり、R(1,t)=R(t,1)=1である。
- s,t≥1と任意の正の整数nに対し、Qs,t(n)が成り立つこととQt,s(n)が成り立つことは同値である。したがって、一方の Ramsey 数が定まればもう一方も定まり、R(s,t)=R(t,s)である。
証明.(1)を示す。K1は辺をもたないから、辺集合の塗り分けは空写像ただ一つである。K1の唯一の頂点からなる一元集合Sを取ると、∣S∣=1であり内部の辺は存在しないから、「内部のすべての辺が赤である」という条件は空虚に成り立つ。ゆえにSはQ1,t(1)の要求する1元集合であり、Q1,t(1)が成り立つ。1は最小の正の整数であるからR(1,t)=1である。Qt,1(1)については、同じSが「内部のすべての辺が青である1元集合」の条件を空虚に満たすので、同様にR(t,1)=1である。
(2)を示す。Knの辺集合の塗り分けφに対し、赤と青を入れ替えた塗り分けをφˉと書く。φ↦φˉは塗り分けの全体からそれ自身への全単射であり、φˉˉ=φである。定義より、Sがφについて内部のすべての辺が赤である集合であることと、Sがφˉについて内部のすべての辺が青である集合であることは同値である。
したがって、φˉについて「赤いt元集合または青いs元集合が存在する」ことと、φについて「青いt元集合または赤いs元集合が存在する」ことは同値である。φ↦φˉが全単射であることから、「すべての塗り分けについて前者が成り立つ」ことと「すべての塗り分けについて後者が成り立つ」ことも同値であり、これはQt,s(n)⟺Qs,t(n)にほかならない。二つの性質を満たす正の整数の集合が一致するので、最小元も一致する。▨
2 頂点一つの色別近傍による再帰
2.1 証明方針
KNの塗り分けを一つ取り、頂点vを固定する。残りのN−1個の頂点を、vとの辺が赤であるものの集合Aと、青であるものの集合Bへ分ける。NをR(s−1,t)+R(s,t−1)と取っておくと、∣A∣+∣B∣=N−1であるから、∣A∣≥R(s−1,t)と∣B∣≥R(s,t−1)の少なくとも一方が成り立つ。
∣A∣≥R(s−1,t)の場合、Aの内部の辺への塗り分けの制限に対してQs−1,tを適用する。青いt元集合が得られればそれが求めるものである。赤い(s−1)元集合Sが得られた場合には、Sの各頂点がAに属することからvとの辺がすべて赤であり、S∪{v}が赤いs元集合になる。もう一方の場合も対称である。
定理 2.1.s≥2かつt≥2とし、R(s−1,t)とR(s,t−1)が定まっているとする。N=R(s−1,t)+R(s,t−1)と置くとQs,t(N)が成り立つ。したがってR(s,t)は定まりR(s,t)≤R(s−1,t)+R(s,t−1)が成り立つ。
証明.R(s−1,t)≥1かつR(s,t−1)≥1であるからN≥2である。KNの頂点集合をVとし、辺集合の赤と青への塗り分けφを任意に取る。頂点v∈Vを一つ固定しA={x∈V∖{v}: φ(vx)=赤},B={x∈V∖{v}: φ(vx)=青}と置く。AとBは互いに素で合併がV∖{v}であるから、§D2.2 定理 2.1より∣A∣+∣B∣=N−1=R(s−1,t)+R(s,t−1)−1である。もし∣A∣≤R(s−1,t)−1かつ∣B∣≤R(s,t−1)−1であるとすると、和はN−2以下となって上の等式に反する。ゆえに∣A∣≥R(s−1,t)または∣B∣≥R(s,t−1)が成り立つ。
場合 1:∣A∣≥R(s−1,t)のとき.Aを頂点集合とし、両端点がAに属するKNの辺の全体を辺集合とするグラフはK∣A∣と同型であり、φの制限がその辺の塗り分けを与える。R(s−1,t)の定義よりQs−1,t(R(s−1,t))が成り立つから、命題 1.2よりQs−1,t(∣A∣)が成り立つ。ゆえに、Aの部分集合であって内部のすべての辺が赤であるs−1元集合S、または内部のすべての辺が青であるt元集合Tが存在する。
後者の場合、TはVの部分集合として、内部のすべての辺が青であるt元集合であり、求めるものである。
前者の場合、v∈/AかつS⊆Aであるから∣S∪{v}∣=sである。S∪{v}の内部の辺は、Sの内部の辺と、vとSの各頂点を結ぶ辺である。前者はすべて赤であり、後者はS⊆AとAの定義よりすべて赤である。ゆえにS∪{v}は内部のすべての辺が赤であるs元集合であり、求めるものである。
場合 2:∣B∣≥R(s,t−1)のとき. 同じ議論によりQs,t−1(∣B∣)が成り立つから、Bの部分集合であって内部のすべての辺が赤であるs元集合、または内部のすべての辺が青であるt−1元集合Tが存在する。前者はそのまま求めるものである。後者の場合、T∪{v}はt元集合であり、その内部の辺はTの内部の辺(すべて青)とvとTの各頂点を結ぶ辺(T⊆Bよりすべて青)であるから、求めるものである。
いずれの場合も条件を満たす頂点部分集合が存在し、φは任意であったからQs,t(N)が成り立つ。したがってQs,tを満たす正の整数の集合は空でないのでR(s,t)が定まり、Nがこの集合に属することからR(s,t)≤Nである。▨
3 有限性と二項係数による上界
3.1 証明方針
s+tについての累積帰納法による。s=1またはt=1のときは命題 1.3が値を与える。s≥2かつt≥2のときは、(s−1)+tとs+(t−1)がいずれもs+tより小さいので、帰納法の仮定からR(s−1,t)とR(s,t−1)が定まって二項係数で抑えられる。定理 2.1を適用するとR(s,t)が定まり、二つの二項係数の和で抑えられる。この和を Pascal の公式で一つの二項係数へまとめれば主張を得る。有限性は、この帰納法によって初めて確立される。
定理 3.1.s≥1かつt≥1とする。Qs,t(n)を満たす正の整数nが存在し、したがってR(s,t)は定まる。さらにR(s,t)≤(s−1s+t−2)が成り立つ。
証明.s+tについての累積帰納法(§D2.1 命題 1.2)による。s,t≥1よりs+t≥2である。
s=1の場合.命題 1.3よりQ1,t(1)が成り立ちR(1,t)=1である。また(01+t−2)=1であるから、主張の不等式は等号として成り立つ。
t=1の場合.命題 1.3よりR(s,1)=1である。また(s−1s+1−2)=(s−1s−1)=1であるから、主張の不等式は等号として成り立つ。
s≥2かつt≥2の場合.(s−1)+t=s+t−1<s+tかつs+(t−1)=s+t−1<s+tであり、s−1≥1かつt−1≥1であるから、帰納法の仮定を組(s−1,t)と(s,t−1)へ適用することができる。すなわちR(s−1,t)とR(s,t−1)は定まりR(s−1,t)≤((s−1)−1(s−1)+t−2)=(s−2s+t−3),R(s,t−1)≤(s−1s+(t−1)−2)=(s−1s+t−3)が成り立つ。定理 2.1よりR(s,t)は定まりR(s,t)≤R(s−1,t)+R(s,t−1)≤(s−2s+t−3)+(s−1s+t−3)である。ここで§D2.2 命題 5.2をn=s+t−2、k=s−1に対して適用する。s≥2よりk=s−1≥1であり、t≥2よりk=s−1≤s+t−3=n−1であるから、適用の条件が満たされる。ゆえに(s−2s+t−3)+(s−1s+t−3)=(s−1s+t−2)であり、R(s,t)≤(s−1s+t−2)を得る。▨
系 3.2.s≥2に対しR(s,s)≤(s−12s−2)<4s−1が成り立つ。
証明.定理 3.1をt=sに対して適用するとR(s,s)≤(s−1s+s−2)=(s−12s−2)を得る。
m=s−1と置くとm≥1である。§D2.2 定理 5.1をx=y=1、n=2mに対して適用すると4m=22m=(1+1)2m=∑j=02m(j2m)である。右辺は2m+1個の項の和であり、各項は正の整数である。m≥1より2m+1≥3であるから、j=mの項(m2m)のほかに正の項が少なくとも二つある。ゆえに(m2m)<∑j=02m(j2m)=4mであり、(s−12s−2)<4s−1を得る。▨
4 具体例
例 4.1 (小さな Ramsey 数の決定). R(2,2)=2.定理 3.1よりR(2,2)≤(12)=2である。一方Q2,2(1)は成り立たない。K1の頂点集合は一元集合であり、2元部分集合が存在しないからである。ゆえにR(2,2)=1であり、R(2,2)=2である。二項係数による上界はここで等号になる。
R(2,t)=t(t≥1).定理 3.1よりR(2,t)≤(1t)=tである。t≥2とし、Kt−1の辺をすべて青に塗る。内部の辺がすべて赤である2元集合は、赤い辺が一本もないので存在しない。内部の辺がすべて青であるt元集合は、頂点がt−1個しかないので存在しない。ゆえにQ2,t(t−1)は成り立たず、命題 1.2の対偶よりn≤t−1を満たす正の整数nについてQ2,t(n)は成り立たない。したがってR(2,t)≥tであり、R(2,t)=tである。t=1のときは命題 1.3よりR(2,1)=1である。ここでも二項係数による上界は等号になる。
R(3,3)=6.定理 3.1よりR(3,3)≤(24)=6である。
下からの評価のために、K5の辺の塗り分けを一つ与える。頂点を1,2,3,4,5とし、赤={12, 23, 34, 45, 51},青={13, 24, 35, 41, 52}と定める。二つを合わせると5+5=10=(25)本となり、K5のすべての辺をちょうど一度ずつ塗り分けている。
赤い三角形が存在しないことを確かめる。赤の辺に関する各頂点の隣接頂点は1:{2,5},2:{1,3},3:{2,4},4:{3,5},5:{4,1}である。赤い三角形があれば、ある頂点の二つの赤い隣接頂点どうしが赤で結ばれる。しかし25、13、24、35、14はいずれも赤ではなく青である。ゆえに赤い三角形は存在しない。
青い三角形が存在しないことを確かめる。青の辺に関する各頂点の隣接頂点は1:{3,4},2:{4,5},3:{1,5},4:{1,2},5:{2,3}である。対応する対34、45、15、12、23はいずれも青ではなく赤である。ゆえに青い三角形は存在しない。
したがってQ3,3(5)は成り立たず、命題 1.2の対偶よりn≤5を満たす正の整数nについてQ3,3(n)は成り立たない。ゆえにR(3,3)≥6であり、上界とあわせてR(3,3)=6である。ここでも二項係数による上界は等号になる。
再帰上界の検算.定理 2.1をs=t=3に適用するとR(3,3)≤R(2,3)+R(3,2)=3+3=6である。上で決定したR(3,3)=6と一致し、この場合の再帰上界も等号になる。
対角上界の値.系 3.2はs=2でR(2,2)≤(12)=2<4、s=3でR(3,3)≤(24)=6<16、s=4でR(4,4)≤(36)=20<64を与える。s=2とs=3では二項係数による上界が等号になるので、定理 3.1の不等号を<に強めることはできない。
5 演習
問題 5.1.
- 定義 1.1において、R(s,t)を「Qs,t(n)を満たす最小のn」と述べるだけでは定義として不十分である理由を説明せよ。どの主張がその不足を埋めるかを明示せよ。
- 定理 2.1の証明で、∣A∣≥R(s−1,t)からQs−1,t(∣A∣)を導く一手を書き下せ。この一手で命題 1.2が必要になる理由を述べよ。
- 定理 2.1の証明で、赤いs−1元集合Sにvを加えた集合の内部の辺をすべて列挙し、それらが赤である根拠をそれぞれ述べよ。
- 定理 3.1の証明を、s+tについての帰納法からsについての帰納法へ置き換えることを試み、置き換えることができない理由を、帰納法の仮定を適用する二つの組に注目して述べよ。
- s≥2かつt≥2とし、R(s−1,t)とR(s,t−1)がともに偶数であるとする。このときR(s,t)≤R(s−1,t)+R(s,t−1)−1が成り立つことを、定理 2.1の証明を修正して示せ。修正の要点は次のとおりである。N=R(s−1,t)+R(s,t−1)−1と置き、すべての頂点vについて∣A∣≤R(s−1,t)−1かつ∣B∣≤R(s,t−1)−1が成り立つと仮定すると、∣A∣+∣B∣=N−1から各頂点で∣A∣=R(s−1,t)−1が定まる。赤い辺だけからなるグラフの次数の総和を§D2.7 定理 1.2で評価し、NとR(s−1,t)−1の偶奇から矛盾を導けばよい。
- 問題 5 の結果と定理 2.1を用いてR(3,4)≤9を導け。途中で必要になるR(2,4)とR(3,3)の値を、本記事の結果から求めよ。
7 扱った範囲と次の記事
本記事では、二色 Ramsey 数の定義、再帰上界、二項係数による上界と有限性、および対角の場合の上界を証明した。三色以上の塗り分け、無限版の Ramsey の定理、超グラフの版、および Ramsey 数の精密な漸近評価は扱っていない。次の記事では、確率的な構成によって対角 Ramsey 数の下界を求める方法を扱う。本記事が定めたR(s,t)の定義と上界が、そこでの出発点になる。