1 基底の補集合
双対が基底公理系を満たすことを示すには、Mの基底についてもう一つの交換の形が必要である。次の補題は、§E13.15 定理 3.2の§E13.15 定義 3.1 条件 (b)とは向きが逆であり、基底に元を加えてから別の元を取り除く形をもつ。
補題 1.1.B1,B2∈Bとx∈B2∖B1に対し、y∈B1∖B2が存在して(B1∪{x})∖{y}∈Bとなる。
証明.x∈/B1でありB1は包含に関して極大な独立集合であるからB1∪{x}∈/Iである。§E13.16 系 3.2より、B1∪{x}に含まれる回路はただ一つであり、その回路をCと書くとx∈Cである。
B2∈IであるからC⊆B2であり、y∈C∖B2が存在する。x∈B2であるからy=xであり、C⊆B1∪{x}よりy∈B1である。ゆえにy∈B1∖B2である。
D=(B1∪{x})∖{y}と置き、D∈Iを示す。D∈/Iとすると、§E13.16 命題 1.2よりC′⊆Dを満たす回路C′が存在する。C′⊆D⊆B1∪{x}であり、B1∪{x}に含まれる回路はCだけであるからC′=Cである。しかしy∈Cかつy∈/DであるからC⊆Dとなって矛盾する。ゆえにD∈Iである。
x∈/B1かつy∈B1であるから∣D∣=∣B1∣+1−1=∣B1∣である。§E13.15 系 2.4よりDは基底である。▨
定義 1.2. マトロイドM=(E,I)の基底全体をBとしB∗={E∖B: B∈B}と置く。B∗を基底全体とする台集合E上のマトロイドをMの双対マトロイド (dual matroid) といいM∗と書く。M∗が実際にマトロイドとして定まることは定理 1.3が示す。M∗の独立集合全体をI∗、階数関数をr∗と書き、r∗を 双対階数 (dual rank) という。
1.1 証明方針
双対がマトロイドを定めることは、B∗が§E13.15 定義 3.1 条件 (a)と§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たすことに帰着する。§E13.15 定義 3.1 条件 (a)はB=∅から直ちに従う。
§E13.15 定義 3.1 条件 (b)については、B∗の元B1∗=E∖B1とB2∗=E∖B2を取り、条件x∈B1∗∖B2∗をB1とB2の言葉へ翻訳する。x∈/B1かつx∈B2、すなわちx∈B2∖B1である。求めるyについても同じ翻訳を行うと、y∈B1∖B2であって(B1∪{x})∖{y}がMの基底になることが要求される。これはまさに補題 1.1が与える形である。したがって証明の本質的な一手は、補集合を取る操作によって§E13.15 定義 3.1 条件 (b)の要求が「加えてから取り除く」形へ移ることを見ることであり、その形を基本回路の一意性から得ることである。
証明.§E13.15 定義 3.1 条件 (a)を示す。§E13.15 命題 2.2よりB=∅であるからB∗=∅である。
§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を示す。B1∗,B2∗∈B∗とx∈B1∗∖B2∗を取る。B1∗=E∖B1、B2∗=E∖B2を満たすB1,B2∈Bを取る。x∈B1∗はx∈/B1を意味し、x∈/B2∗はx∈B2を意味するからx∈B2∖B1である。
補題 1.1よりy∈B1∖B2が存在してB3=(B1∪{x})∖{y}∈Bとなる。y∈B1よりy∈/B1∗であり、y∈/B2よりy∈B2∗であるからy∈B2∗∖B1∗である。
B3の補集合を計算する。x∈/B1かつy∈B1であるからE∖B3=E∖((B1∪{x})∖{y})=((E∖B1)∖{x})∪{y}=(B1∗∖{x})∪{y}である。B3∈BであるからE∖B3∈B∗であり、(B1∗∖{x})∪{y}∈B∗が成り立つ。ゆえにB∗は§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たす。
マトロイドであること.§E13.15 定理 4.3 (1)より、§E13.15 定義 3.1 条件 (a)と§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たすB∗からI∗={A⊆E: ∃B∗∈B∗, A⊆B∗}と定めると(E,I∗)はマトロイドであり、その基底全体はB∗に一致する。
二重双対.M∗の基底全体はB∗であるから、(M∗)∗の基底全体は{E∖B∗: B∗∈B∗}={E∖(E∖B): B∈B}=Bである。§E13.15 定理 4.3により、マトロイドはその基底全体によって一意に定まるから(M∗)∗=Mである。▨
命題 1.4.A⊆Eに対し次が成り立つ。
- A∈I∗であることと、A∩B=∅を満たすB∈Bが存在することは同値である。
- AがM∗の従属集合であることと、すべてのB∈BについてA∩B=∅が成り立つことは同値である。
証明.(1)を示す。A∈I∗であることは、A⊆B∗を満たすB∗∈B∗が存在することである。B∗=E∖B(B∈B)と書くと、A⊆E∖BであることとA∩B=∅であることは同値である。
(2)を示す。(1)の否定を取ればよい。A∈/I∗であることは、すべてのB∈BについてA∩B=∅であることと同値である。▨
2 双対階数公式
補題 2.1. 任意のA⊆Eに対しr(A)=max{∣A∩B∣: B∈B}が成り立つ。
証明. 右辺が左辺以下であること.B∈Bとする。A∩B⊆B∈Iであるから§E13.15 定義 1.1 条件 (b)よりA∩B∈Iであり、A∩B⊆Aであるから§E13.16 定義 4.1より∣A∩B∣≤r(A)である。
左辺が右辺以下であること.§E13.16 命題 4.2より、Aに含まれる独立集合であって濃度がr(A)のものIが存在する。§E13.15 命題 2.2よりI⊆Bを満たす基底Bが存在する。I⊆AかつI⊆BであるからI⊆A∩Bであり、r(A)=∣I∣≤∣A∩B∣である。
Bは空でない有限族であるから右辺の最大値は定まり、二つの不等式から等号を得る。▨
証明.補題 2.1をM∗へ適用するとr∗(A)=max{∣A∩B∗∣: B∗∈B∗}=max{∣A∩(E∖B)∣: B∈B}=max{∣A∖B∣: B∈B}である。A∖BとA∩BはAの分割であるから∣A∖B∣=∣A∣−∣A∩B∣であり、r∗(A)=∣A∣−min{∣A∩B∣: B∈B}となる。
min{∣A∩B∣: B∈B}を計算する。基底は{I∈I: I⊆E}の包含に関して極大な元にほかならないから、§E13.16 命題 4.2をA=Eに対して適用すると、すべてのB∈Bについて∣B∣=r(E)である(§E13.15 命題 2.3も同じ等濃度性を与える)。B∩AとB∩(E∖A)はBの分割であるから∣A∩B∣=∣B∣−∣B∩(E∖A)∣=r(E)−∣B∩(E∖A)∣である。BをBの上で動かすと、右辺が最小になるのは∣B∩(E∖A)∣が最大になるときであり、補題 2.1よりその最大値はr(E∖A)である。ゆえにmin{∣A∩B∣: B∈B}=r(E)−r(E∖A)であり、r∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)を得る。▨
例 2.3 (双対階数公式の検算). A=Eの場合. 公式はr∗(E)=∣E∣−r(E)+r(∅)=∣E∣−r(E)を与える。直接計算すると、M∗の基底の濃度は∣E∖B∣=∣E∣−r(E)であるから、r∗(E)=∣E∣−r(E)である。両者は一致する。
A=∅の場合. 公式はr∗(∅)=0−r(E)+r(E)=0を与える。直接計算すると、∅に含まれる独立集合は∅だけであるからr∗(∅)=0である。両者は一致する。
U1,2の場合.E={1,2}、I={∅,{1},{2}}、B={{1},{2}}、r(E)=1である。B∗={{2},{1}}=BであるからM∗=U1,2であり、r∗(A)=min{∣A∣,1}である。公式で計算すると、A={1}についてはr∗({1})=1−1+r({2})=1−1+1=1、A=Eについてはr∗(E)=2−1+r(∅)=2−1+0=1、A=∅については0−1+1=0である。いずれも直接計算と一致する。
U2,2の場合.E={1,2}、I=2E、B={{1,2}}、r(A)=∣A∣、r(E)=2である。B∗={∅}であるからM∗=U0,2であり、r∗は恒等的に0である。公式で計算するとr∗(A)=∣A∣−2+r(E∖A)=∣A∣−2+(2−∣A∣)=0であり、直接計算と一致する。
U2,4の場合.r(A)=min{∣A∣,2}、r(E)=2、∣E∣=4である。公式はr∗(A)=∣A∣−2+min{4−∣A∣, 2}を与える。∣A∣=0,1,2,3,4に対してそれぞれ0−2+2=0、1−2+2=1、2−2+2=2、3−2+1=2、4−2+0=2である。すなわちr∗(A)=min{∣A∣,2}となり、M∗=U2,4である。直接計算しても、四元集合の二元部分集合の補集合は二元部分集合であるからB∗=Bであり、一致する。
以上のU1,2、U2,2、U2,4の三つでは、いずれもUk,n∗=Un−k,nが成り立っている。一般のkとnについての等式は演習 8 で扱う。
3 余回路
定義 3.1.M∗の回路をMの余回路 (cocircuit) という。余回路の全体をC∗と書く。すなわちC∗⊆Eが余回路であるとは、C∗がM∗の従属集合であり、かつM∗の従属集合として包含に関して極小であることをいう。
定理 3.2.C∗⊆Eに対し、次の二条件は同値である。
- C∗はMの余回路である。
- C∗はMのすべての基底と交わり、かつその性質をもつ集合の中で包含に関して極小である。すなわち、すべてのB∈BについてC∗∩B=∅が成り立ち、D⊊C∗を満たす任意のDに対してD∩B=∅を満たすB∈Bが存在する。
証明.命題 1.4 (2)により、A⊆EがM∗の従属集合であることと、AがすべてのB∈Bと交わることは同値である。
(1)⇒(2)を示す。C∗を余回路とする。C∗はM∗の従属集合であるから、上の同値によりすべてのB∈Bと交わる。D⊊C∗とすると、C∗がM∗の極小な従属集合であることからDはM∗の独立集合であり、上の同値によりD∩B=∅を満たすB∈Bが存在する。
(2)⇒(1)を示す。C∗が(2)を満たすとする。C∗はすべてのB∈Bと交わるからM∗の従属集合である。D⊊C∗とすると、(2)よりD∩B=∅を満たすB∈Bが存在するから、上の同値によりDはM∗の従属集合ではなく独立集合である。ゆえにC∗はM∗の極小な従属集合、すなわち余回路である。▨
4 loop 元と coloop 元
定義 4.1.r({x})=0を満たすx∈EをMの loop 元 (loop) という。M∗の loop 元、すなわちr∗({x})=0を満たすx∈EをMの coloop 元 (coloop) という。
命題 4.2.x∈Eに対し次が成り立つ。
- xが loop 元であることと、{x}がMの回路であることと、xがどの基底にも属さないことは、いずれも同値である。
- xが coloop 元であることと、{x}がMの余回路であることと、xがすべての基底に属することは、いずれも同値である。
証明.(1)を示す。r({x})=0であることは、{x}に含まれる独立集合が∅だけであること、すなわち{x}∈/Iと同値である。{x}が従属であるとき、その真部分集合は∅だけであり§E13.15 定義 1.1 条件 (a)より独立であるから、{x}は極小な従属集合、すなわち回路である。逆に{x}が回路ならば従属である。
{x}∈/Iであることとxがどの基底にも属さないことの同値性を示す。x∈Bを満たす基底Bが存在すれば§E13.15 定義 1.1 条件 (b)より{x}∈Iである。逆に{x}∈Iならば§E13.15 命題 2.2より{x}⊆Bを満たす基底Bが存在する。
(2)を示す。xが coloop 元であることは、定義によりM∗の loop 元であることである。(1)をM∗へ適用すると、これは{x}がM∗の回路であること、すなわち{x}がMの余回路であることと同値である。
{x}がM∗の従属集合であることは、命題 1.4 (2)により、すべてのB∈Bについて{x}∩B=∅、すなわちx∈Bが成り立つことと同値である。{x}がM∗の従属集合であることとM∗の回路であることは、(1)の第一の同値をM∗へ適用して同値である。ゆえに三つの条件は同値である。▨
5 具体例
例 5.1 (三角形と道における双対). 三角形. 頂点1,2,3と辺a={1,2}、b={2,3}、c={1,3}からなるグラフGを取る。§E13.15 例 8.1のとおりM(G)=U2,3であり、B={{a,b},{a,c},{b,c}}、r(E)=2である。
双対の基底は補集合であるからB∗={{c},{b},{a}}であり、M∗=U1,3である。M∗の回路、すなわちMの余回路はU1,3の極小な従属集合であるから二元部分集合であり、{a,b}、{a,c}、{b,c}の三つである。
定理 3.2によって検算する。{a}は基底{b,c}と交わらないので、すべての基底と交わる集合ではない。{a,b}は{a,b}、{a,c}、{b,c}のいずれとも交わり、真部分集合{a}は{b,c}と交わらず、{b}は{a,c}と交わらないから極小である。ゆえに{a,b}は余回路であり、直接計算と一致する。
双対階数も検算する。r(A)=min{∣A∣,2}、r(E)=2、∣E∣=3であるからr∗(A)=∣A∣−2+min{3−∣A∣, 2}であり、∣A∣=0,1,2,3に対してそれぞれ0−2+2=0、1−2+2=1、2−2+1=1、3−2+0=1である。すなわちr∗(A)=min{∣A∣,1}であり、U1,3の階数関数と一致する。
道. 頂点1,2,3と辺a={1,2}、b={2,3}からなるグラフHを取る。Hは閉路をもたないからM(H)の独立集合は{a,b}のすべての部分集合であり、M(H)=U2,2である。基底は{a,b}ただ一つであるから、aとbはいずれもすべての基底に属し、命題 4.2より coloop 元である。B∗={∅}であるからM∗=U0,2であり、M∗ではすべての元が loop 元である。coloop 元が双対で loop 元へ移ることが確かめられる。
6 演習
問題 6.1.
- 補題 1.1の証明で、yをC∖B2から取った。yをC∖{x}から任意に取る設計にすると、どの結論が得られなくなるかを述べよ。
- 補題 1.1の証明のうち、D=(B1∪{x})∖{y}が独立であることを示す段を、参照せずに再現せよ。基本回路の一意性をどこで用いたかを明示せよ。
- 定理 1.3の§E13.15 定義 3.1 条件 (b)の証明で、条件x∈B1∗∖B2∗をB1とB2の言葉へ翻訳する段を書き下せ。翻訳の向きを取り違えると、補題 1.1ではなく§E13.15 定理 3.2を適用したくなる。その適用が成立しない理由を述べよ。
- 定理 2.2の証明で、min{∣A∩B∣: B∈B}=r(E)−r(E∖A)を導く段を、参照せずに再現せよ。基底の等濃度性をどこで用いたかを明示せよ。
- 定理 2.2をAとE∖Aの両方へ適用し、r∗(A)+r∗(E∖A)をrの言葉で表す式を導け。その式からr∗(E)=∣E∣−r(E)を再導出せよ。
- 定理 3.2の証明は命題 1.4 (2)を二回用いる。二回の使用箇所を指摘し、それぞれで用いた向き(従属から交わりへ、または交わりから従属へ)を述べよ。
- 命題 4.2 (2)を、双対を経由せずに、r∗({x})=1−r(E)+r(E∖{x})という定理 2.2の特別な場合から直接導け。
- Uk,n∗=Un−k,nを、基底の補集合を直接調べる方法と、定理 2.2によって階数関数を計算する方法の二通りで証明せよ。
8 扱った範囲と次の記事
本記事は、基本回路の一意性から「加えてから取り除く」形の交換を導き、基底の補集合全体が基底公理系を満たすことを証明して双対マトロイドを定めた。双対を二度取るともとへ戻ること、双対階数公式r∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)、および余回路がMのすべての基底と交わる極小な集合として特徴づけられることを証明した。さらに loop 元と coloop 元を定め、前者がどの基底にも属さない元、後者がすべての基底に属する元であることを示した。表現可能なマトロイドの双対の表現、グラフ的マトロイドの双対が平面性と関係することがら、および無限台集合への拡張は扱っていない。次の記事では、削除と縮約を定義し、独立集合、基底および階数による記述を証明したうえで、双対が削除と縮約を交換することを示す。