§E13.24マトロイドの双対

最終更新

マトロイドの基底は、包含に関して極大な独立集合であった。基底の補集合を取ると、台集合の中で基底が覆い残した部分が得られる。本記事が示すのは、その補集合の全体がふたたび基底公理系を満たし、したがってもう一つのマトロイドを定めるということである。

基底の補集合を取るこの操作を双対という。双対は二度取るともとへ戻り、階数についてはr∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)r^{*}(A)=\lvert A\rvert-r(E)+r(E\setminus A)という明示的な公式で表される。さらに、双対の回路は「もとのマトロイドのすべての基底と交わる極小な集合」として、双対を経由しない形で特徴づけることができる。最後に、どの基底にも属さない元と、すべての基底に属する元をそれぞれ loop 元、coloop 元として定め、両者が双対の下で入れ替わることを確かめる。

以下、M=(E,I)M=(E,\mathcal I)を§E13.15 定義 1.1の意味でのマトロイドとし、B\mathcal Bをその基底全体、C\mathcal Cをその回路全体、rrをその階数関数とする。

1 基底の補集合

双対が基底公理系を満たすことを示すには、MMの基底についてもう一つの交換の形が必要である。次の補題は、§E13.15 定理 3.2の§E13.15 定義 3.1 条件 (b)とは向きが逆であり、基底に元を加えてから別の元を取り除く形をもつ。

補題 1.1.B1,B2∈BB_1,B_2\in\mathcal Bとx∈B2∖B1x\in B_2\setminus B_1に対し、y∈B1∖B2y\in B_1\setminus B_2が存在して(B1∪{x})∖{y}∈B(B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}\in\mathcal Bとなる。

証明.x∉B1x\notin B_1でありB1B_1は包含に関して極大な独立集合であるからB1∪{x}∉IB_1\cup\{x\}\notin\mathcal Iである。§E13.16 系 3.2より、B1∪{x}B_1\cup\{x\}に含まれる回路はただ一つであり、その回路をCCと書くとx∈Cx\in Cである。

B2∈IB_2\in\mathcal IであるからC⊈B2C\not\subseteq B_2であり、y∈C∖B2y\in C\setminus B_2が存在する。x∈B2x\in B_2であるからy≠xy\ne xであり、C⊆B1∪{x}C\subseteq B_1\cup\{x\}よりy∈B1y\in B_1である。ゆえにy∈B1∖B2y\in B_1\setminus B_2である。

D=(B1∪{x})∖{y}D=(B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}と置き、D∈ID\in\mathcal Iを示す。D∉ID\notin\mathcal Iとすると、§E13.16 命題 1.2よりC′⊆DC'\subseteq Dを満たす回路C′C'が存在する。C′⊆D⊆B1∪{x}C'\subseteq D\subseteq B_1\cup\{x\}であり、B1∪{x}B_1\cup\{x\}に含まれる回路はCCだけであるからC′=CC'=Cである。しかしy∈Cy\in Cかつy∉Dy\notin DであるからC⊈DC\not\subseteq Dとなって矛盾する。ゆえにD∈ID\in\mathcal Iである。

x∉B1x\notin B_1かつy∈B1y\in B_1であるから∣D∣=∣B1∣+1−1=∣B1∣\lvert D\rvert=\lvert B_1\rvert+1-1=\lvert B_1\rvertである。§E13.15 系 2.4よりDDは基底である。▨

定義 1.2. マトロイドM=(E,I)M=(E,\mathcal I)の基底全体をB\mathcal BとしB∗={E∖B: B∈B}\mathcal B^{*}=\{E\setminus B:\ B\in\mathcal B\}と置く。B∗\mathcal B^{*}を基底全体とする台集合EE上のマトロイドをMMの双対マトロイド (dual matroid) といいM∗M^{*}と書く。M∗M^{*}が実際にマトロイドとして定まることは定理 1.3が示す。M∗M^{*}の独立集合全体をI∗\mathcal I^{*}、階数関数をr∗r^{*}と書き、r∗r^{*}を 双対階数 (dual rank) という。

1.1 証明方針

双対がマトロイドを定めることは、B∗\mathcal B^{*}が§E13.15 定義 3.1 条件 (a)と§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たすことに帰着する。§E13.15 定義 3.1 条件 (a)はB≠∅\mathcal B\ne\emptysetから直ちに従う。

§E13.15 定義 3.1 条件 (b)については、B∗\mathcal B^{*}の元B1∗=E∖B1B_1^{*}=E\setminus B_1とB2∗=E∖B2B_2^{*}=E\setminus B_2を取り、条件x∈B1∗∖B2∗x\in B_1^{*}\setminus B_2^{*}をB1B_1とB2B_2の言葉へ翻訳する。x∉B1x\notin B_1かつx∈B2x\in B_2、すなわちx∈B2∖B1x\in B_2\setminus B_1である。求めるyyについても同じ翻訳を行うと、y∈B1∖B2y\in B_1\setminus B_2であって(B1∪{x})∖{y}(B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}がMMの基底になることが要求される。これはまさに補題 1.1が与える形である。したがって証明の本質的な一手は、補集合を取る操作によって§E13.15 定義 3.1 条件 (b)の要求が「加えてから取り除く」形へ移ることを見ることであり、その形を基本回路の一意性から得ることである。

定理 1.3.B∗\mathcal B^{*}は§E13.15 定義 3.1 条件 (a)と§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たす。したがってM∗M^{*}はマトロイドであり、その基底全体はB∗\mathcal B^{*}に一致する。さらに(M∗)∗=M(M^{*})^{*}=Mが成り立つ。

証明.§E13.15 定義 3.1 条件 (a)を示す。§E13.15 命題 2.2よりB≠∅\mathcal B\ne\emptysetであるからB∗≠∅\mathcal B^{*}\ne\emptysetである。

§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を示す。B1∗,B2∗∈B∗B_1^{*},B_2^{*}\in\mathcal B^{*}とx∈B1∗∖B2∗x\in B_1^{*}\setminus B_2^{*}を取る。B1∗=E∖B1B_1^{*}=E\setminus B_1、B2∗=E∖B2B_2^{*}=E\setminus B_2を満たすB1,B2∈BB_1,B_2\in\mathcal Bを取る。x∈B1∗x\in B_1^{*}はx∉B1x\notin B_1を意味し、x∉B2∗x\notin B_2^{*}はx∈B2x\in B_2を意味するからx∈B2∖B1x\in B_2\setminus B_1である。

補題 1.1よりy∈B1∖B2y\in B_1\setminus B_2が存在してB3=(B1∪{x})∖{y}∈BB_3=(B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}\in\mathcal Bとなる。y∈B1y\in B_1よりy∉B1∗y\notin B_1^{*}であり、y∉B2y\notin B_2よりy∈B2∗y\in B_2^{*}であるからy∈B2∗∖B1∗y\in B_2^{*}\setminus B_1^{*}である。

B3B_3の補集合を計算する。x∉B1x\notin B_1かつy∈B1y\in B_1であるからE∖B3=E∖((B1∪{x})∖{y})=((E∖B1)∖{x})∪{y}=(B1∗∖{x})∪{y}E\setminus B_3=E\setminus\bigl((B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}\bigr)=\bigl((E\setminus B_1)\setminus\{x\}\bigr)\cup\{y\}=(B_1^{*}\setminus\{x\})\cup\{y\}である。B3∈BB_3\in\mathcal BであるからE∖B3∈B∗E\setminus B_3\in\mathcal B^{*}であり、(B1∗∖{x})∪{y}∈B∗(B_1^{*}\setminus\{x\})\cup\{y\}\in\mathcal B^{*}が成り立つ。ゆえにB∗\mathcal B^{*}は§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たす。

マトロイドであること.§E13.15 定理 4.3 (1)より、§E13.15 定義 3.1 条件 (a)と§E13.15 定義 3.1 条件 (b)を満たすB∗\mathcal B^{*}からI∗={A⊆E: ∃B∗∈B∗, A⊆B∗}\mathcal I^{*}=\{A\subseteq E:\ \exists B^{*}\in\mathcal B^{*},\ A\subseteq B^{*}\}と定めると(E,I∗)(E,\mathcal I^{*})はマトロイドであり、その基底全体はB∗\mathcal B^{*}に一致する。

二重双対.M∗M^{*}の基底全体はB∗\mathcal B^{*}であるから、(M∗)∗(M^{*})^{*}の基底全体は{E∖B∗: B∗∈B∗}={E∖(E∖B): B∈B}=B\{E\setminus B^{*}:\ B^{*}\in\mathcal B^{*}\}=\{E\setminus(E\setminus B):\ B\in\mathcal B\}=\mathcal Bである。§E13.15 定理 4.3により、マトロイドはその基底全体によって一意に定まるから(M∗)∗=M(M^{*})^{*}=Mである。▨

命題 1.4.A⊆EA\subseteq Eに対し次が成り立つ。

  1. A∈I∗A\in\mathcal I^{*}であることと、A∩B=∅A\cap B=\emptysetを満たすB∈BB\in\mathcal Bが存在することは同値である。
  2. AAがM∗M^{*}の従属集合であることと、すべてのB∈BB\in\mathcal BについてA∩B≠∅A\cap B\ne\emptysetが成り立つことは同値である。

証明.(1)を示す。A∈I∗A\in\mathcal I^{*}であることは、A⊆B∗A\subseteq B^{*}を満たすB∗∈B∗B^{*}\in\mathcal B^{*}が存在することである。B∗=E∖BB^{*}=E\setminus B(B∈BB\in\mathcal B)と書くと、A⊆E∖BA\subseteq E\setminus BであることとA∩B=∅A\cap B=\emptysetであることは同値である。

(2)を示す。(1)の否定を取ればよい。A∉I∗A\notin\mathcal I^{*}であることは、すべてのB∈BB\in\mathcal BについてA∩B≠∅A\cap B\ne\emptysetであることと同値である。▨

2 双対階数公式

補題 2.1. 任意のA⊆EA\subseteq Eに対しr(A)=max⁡{∣A∩B∣: B∈B}r(A)=\max\{\lvert A\cap B\rvert:\ B\in\mathcal B\}が成り立つ。

証明. 右辺が左辺以下であること.B∈BB\in\mathcal Bとする。A∩B⊆B∈IA\cap B\subseteq B\in\mathcal Iであるから§E13.15 定義 1.1 条件 (b)よりA∩B∈IA\cap B\in\mathcal Iであり、A∩B⊆AA\cap B\subseteq Aであるから§E13.16 定義 4.1より∣A∩B∣≤r(A)\lvert A\cap B\rvert\le r(A)である。

左辺が右辺以下であること.§E13.16 命題 4.2より、AAに含まれる独立集合であって濃度がr(A)r(A)のものIIが存在する。§E13.15 命題 2.2よりI⊆BI\subseteq Bを満たす基底BBが存在する。I⊆AI\subseteq AかつI⊆BI\subseteq BであるからI⊆A∩BI\subseteq A\cap Bであり、r(A)=∣I∣≤∣A∩B∣r(A)=\lvert I\rvert\le\lvert A\cap B\rvertである。

B\mathcal Bは空でない有限族であるから右辺の最大値は定まり、二つの不等式から等号を得る。▨

定理 2.2. 任意のA⊆EA\subseteq Eに対しr∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)r^{*}(A)=\lvert A\rvert-r(E)+r(E\setminus A)が成り立つ。

証明.補題 2.1をM∗M^{*}へ適用するとr∗(A)=max⁡{∣A∩B∗∣: B∗∈B∗}=max⁡{∣A∩(E∖B)∣: B∈B}=max⁡{∣A∖B∣: B∈B}r^{*}(A)=\max\{\lvert A\cap B^{*}\rvert:\ B^{*}\in\mathcal B^{*}\}=\max\{\lvert A\cap(E\setminus B)\rvert:\ B\in\mathcal B\}=\max\{\lvert A\setminus B\rvert:\ B\in\mathcal B\}である。A∖BA\setminus BとA∩BA\cap BはAAの分割であるから∣A∖B∣=∣A∣−∣A∩B∣\lvert A\setminus B\rvert=\lvert A\rvert-\lvert A\cap B\rvertであり、r∗(A)=∣A∣−min⁡{∣A∩B∣: B∈B}r^{*}(A)=\lvert A\rvert-\min\{\lvert A\cap B\rvert:\ B\in\mathcal B\}となる。

min⁡{∣A∩B∣: B∈B}\min\{\lvert A\cap B\rvert:\ B\in\mathcal B\}を計算する。基底は{I∈I: I⊆E}\{I\in\mathcal I:\ I\subseteq E\}の包含に関して極大な元にほかならないから、§E13.16 命題 4.2をA=EA=Eに対して適用すると、すべてのB∈BB\in\mathcal Bについて∣B∣=r(E)\lvert B\rvert=r(E)である(§E13.15 命題 2.3も同じ等濃度性を与える)。B∩AB\cap AとB∩(E∖A)B\cap(E\setminus A)はBBの分割であるから∣A∩B∣=∣B∣−∣B∩(E∖A)∣=r(E)−∣B∩(E∖A)∣\lvert A\cap B\rvert=\lvert B\rvert-\lvert B\cap(E\setminus A)\rvert=r(E)-\lvert B\cap(E\setminus A)\rvertである。BBをB\mathcal Bの上で動かすと、右辺が最小になるのは∣B∩(E∖A)∣\lvert B\cap(E\setminus A)\rvertが最大になるときであり、補題 2.1よりその最大値はr(E∖A)r(E\setminus A)である。ゆえにmin⁡{∣A∩B∣: B∈B}=r(E)−r(E∖A)\min\{\lvert A\cap B\rvert:\ B\in\mathcal B\}=r(E)-r(E\setminus A)であり、r∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)r^{*}(A)=\lvert A\rvert-r(E)+r(E\setminus A)を得る。▨

例 2.3 (双対階数公式の検算). A=EA=Eの場合. 公式はr∗(E)=∣E∣−r(E)+r(∅)=∣E∣−r(E)r^{*}(E)=\lvert E\rvert-r(E)+r(\emptyset)=\lvert E\rvert-r(E)を与える。直接計算すると、M∗M^{*}の基底の濃度は∣E∖B∣=∣E∣−r(E)\lvert E\setminus B\rvert=\lvert E\rvert-r(E)であるから、r∗(E)=∣E∣−r(E)r^{*}(E)=\lvert E\rvert-r(E)である。両者は一致する。

A=∅A=\emptysetの場合. 公式はr∗(∅)=0−r(E)+r(E)=0r^{*}(\emptyset)=0-r(E)+r(E)=0を与える。直接計算すると、∅\emptysetに含まれる独立集合は∅\emptysetだけであるからr∗(∅)=0r^{*}(\emptyset)=0である。両者は一致する。

U1,2U_{1,2}の場合.E={1,2}E=\{1,2\}、I={∅,{1},{2}}\mathcal I=\{\emptyset,\{1\},\{2\}\}、B={{1},{2}}\mathcal B=\{\{1\},\{2\}\}、r(E)=1r(E)=1である。B∗={{2},{1}}=B\mathcal B^{*}=\{\{2\},\{1\}\}=\mathcal BであるからM∗=U1,2M^{*}=U_{1,2}であり、r∗(A)=min⁡{∣A∣,1}r^{*}(A)=\min\{\lvert A\rvert,1\}である。公式で計算すると、A={1}A=\{1\}についてはr∗({1})=1−1+r({2})=1−1+1=1r^{*}(\{1\})=1-1+r(\{2\})=1-1+1=1、A=EA=Eについてはr∗(E)=2−1+r(∅)=2−1+0=1r^{*}(E)=2-1+r(\emptyset)=2-1+0=1、A=∅A=\emptysetについては0−1+1=00-1+1=0である。いずれも直接計算と一致する。

U2,2U_{2,2}の場合.E={1,2}E=\{1,2\}、I=2E\mathcal I=2^{E}、B={{1,2}}\mathcal B=\{\{1,2\}\}、r(A)=∣A∣r(A)=\lvert A\rvert、r(E)=2r(E)=2である。B∗={∅}\mathcal B^{*}=\{\emptyset\}であるからM∗=U0,2M^{*}=U_{0,2}であり、r∗r^{*}は恒等的に00である。公式で計算するとr∗(A)=∣A∣−2+r(E∖A)=∣A∣−2+(2−∣A∣)=0r^{*}(A)=\lvert A\rvert-2+r(E\setminus A)=\lvert A\rvert-2+(2-\lvert A\rvert)=0であり、直接計算と一致する。

U2,4U_{2,4}の場合.r(A)=min⁡{∣A∣,2}r(A)=\min\{\lvert A\rvert,2\}、r(E)=2r(E)=2、∣E∣=4\lvert E\rvert=4である。公式はr∗(A)=∣A∣−2+min⁡{4−∣A∣, 2}r^{*}(A)=\lvert A\rvert-2+\min\{4-\lvert A\rvert,\ 2\}を与える。∣A∣=0,1,2,3,4\lvert A\rvert=0,1,2,3,4に対してそれぞれ0−2+2=00-2+2=0、1−2+2=11-2+2=1、2−2+2=22-2+2=2、3−2+1=23-2+1=2、4−2+0=24-2+0=2である。すなわちr∗(A)=min⁡{∣A∣,2}r^{*}(A)=\min\{\lvert A\rvert,2\}となり、M∗=U2,4M^{*}=U_{2,4}である。直接計算しても、四元集合の二元部分集合の補集合は二元部分集合であるからB∗=B\mathcal B^{*}=\mathcal Bであり、一致する。

以上のU1,2U_{1,2}、U2,2U_{2,2}、U2,4U_{2,4}の三つでは、いずれもUk,n∗=Un−k,nU_{k,n}^{*}=U_{n-k,n}が成り立っている。一般のkkとnnについての等式は演習 8 で扱う。

3 余回路

定義 3.1.M∗M^{*}の回路をMMの余回路 (cocircuit) という。余回路の全体をC∗\mathcal C^{*}と書く。すなわちC∗⊆EC^{*}\subseteq Eが余回路であるとは、C∗C^{*}がM∗M^{*}の従属集合であり、かつM∗M^{*}の従属集合として包含に関して極小であることをいう。

定理 3.2.C∗⊆EC^{*}\subseteq Eに対し、次の二条件は同値である。

  1. C∗C^{*}はMMの余回路である。
  2. C∗C^{*}はMMのすべての基底と交わり、かつその性質をもつ集合の中で包含に関して極小である。すなわち、すべてのB∈BB\in\mathcal BについてC∗∩B≠∅C^{*}\cap B\ne\emptysetが成り立ち、D⊊C∗D\subsetneq C^{*}を満たす任意のDDに対してD∩B=∅D\cap B=\emptysetを満たすB∈BB\in\mathcal Bが存在する。

証明.命題 1.4 (2)により、A⊆EA\subseteq EがM∗M^{*}の従属集合であることと、AAがすべてのB∈BB\in\mathcal Bと交わることは同値である。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。C∗C^{*}を余回路とする。C∗C^{*}はM∗M^{*}の従属集合であるから、上の同値によりすべてのB∈BB\in\mathcal Bと交わる。D⊊C∗D\subsetneq C^{*}とすると、C∗C^{*}がM∗M^{*}の極小な従属集合であることからDDはM∗M^{*}の独立集合であり、上の同値によりD∩B=∅D\cap B=\emptysetを満たすB∈BB\in\mathcal Bが存在する。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。C∗C^{*}が(2)を満たすとする。C∗C^{*}はすべてのB∈BB\in\mathcal Bと交わるからM∗M^{*}の従属集合である。D⊊C∗D\subsetneq C^{*}とすると、(2)よりD∩B=∅D\cap B=\emptysetを満たすB∈BB\in\mathcal Bが存在するから、上の同値によりDDはM∗M^{*}の従属集合ではなく独立集合である。ゆえにC∗C^{*}はM∗M^{*}の極小な従属集合、すなわち余回路である。▨

4 loop 元と coloop 元

定義 4.1.r({x})=0r(\{x\})=0を満たすx∈Ex\in EをMMの loop 元 (loop) という。M∗M^{*}の loop 元、すなわちr∗({x})=0r^{*}(\{x\})=0を満たすx∈Ex\in EをMMの coloop 元 (coloop) という。

命題 4.2.x∈Ex\in Eに対し次が成り立つ。

  1. xxが loop 元であることと、{x}\{x\}がMMの回路であることと、xxがどの基底にも属さないことは、いずれも同値である。
  2. xxが coloop 元であることと、{x}\{x\}がMMの余回路であることと、xxがすべての基底に属することは、いずれも同値である。

証明.(1)を示す。r({x})=0r(\{x\})=0であることは、{x}\{x\}に含まれる独立集合が∅\emptysetだけであること、すなわち{x}∉I\{x\}\notin\mathcal Iと同値である。{x}\{x\}が従属であるとき、その真部分集合は∅\emptysetだけであり§E13.15 定義 1.1 条件 (a)より独立であるから、{x}\{x\}は極小な従属集合、すなわち回路である。逆に{x}\{x\}が回路ならば従属である。

{x}∉I\{x\}\notin\mathcal Iであることとxxがどの基底にも属さないことの同値性を示す。x∈Bx\in Bを満たす基底BBが存在すれば§E13.15 定義 1.1 条件 (b)より{x}∈I\{x\}\in\mathcal Iである。逆に{x}∈I\{x\}\in\mathcal Iならば§E13.15 命題 2.2より{x}⊆B\{x\}\subseteq Bを満たす基底BBが存在する。

(2)を示す。xxが coloop 元であることは、定義によりM∗M^{*}の loop 元であることである。(1)をM∗M^{*}へ適用すると、これは{x}\{x\}がM∗M^{*}の回路であること、すなわち{x}\{x\}がMMの余回路であることと同値である。

{x}\{x\}がM∗M^{*}の従属集合であることは、命題 1.4 (2)により、すべてのB∈BB\in\mathcal Bについて{x}∩B≠∅\{x\}\cap B\ne\emptyset、すなわちx∈Bx\in Bが成り立つことと同値である。{x}\{x\}がM∗M^{*}の従属集合であることとM∗M^{*}の回路であることは、(1)の第一の同値をM∗M^{*}へ適用して同値である。ゆえに三つの条件は同値である。▨

注意 4.3 (マトロイドの loop 元はグラフのループとは別概念である). グラフにおけるループとは、両端点が一致する辺のことである。§D2.7 定義 1.1の単純無向グラフはループを許さないので、§E13.15 定義 6.1のグラフ的マトロイドには loop 元が存在しない。実際、単純グラフの一本の辺だけからなる集合は閉路をもたないから独立であり、r({e})=1r(\{e\})=1である。

マトロイドの loop 元は、単元素の集合が従属であるという条件によって定まる概念であって、グラフの辺の形とは無関係である。線形マトロイド(§E13.15 定義 7.1)において零ベクトルが対応する添字は loop 元であり、U0,nU_{0,n}ではすべての元が loop 元である。多重辺とループを許すグラフを扱う記事では、グラフのループが別の役割をもつので、二つの概念を混同してはならない。

5 具体例

例 5.1 (三角形と道における双対). 三角形. 頂点1,2,31,2,3と辺a={1,2}a=\{1,2\}、b={2,3}b=\{2,3\}、c={1,3}c=\{1,3\}からなるグラフGGを取る。§E13.15 例 8.1のとおりM(G)=U2,3M(G)=U_{2,3}であり、B={{a,b},{a,c},{b,c}}\mathcal B=\{\{a,b\},\{a,c\},\{b,c\}\}、r(E)=2r(E)=2である。

双対の基底は補集合であるからB∗={{c},{b},{a}}\mathcal B^{*}=\{\{c\},\{b\},\{a\}\}であり、M∗=U1,3M^{*}=U_{1,3}である。M∗M^{*}の回路、すなわちMMの余回路はU1,3U_{1,3}の極小な従属集合であるから二元部分集合であり、{a,b}\{a,b\}、{a,c}\{a,c\}、{b,c}\{b,c\}の三つである。

定理 3.2によって検算する。{a}\{a\}は基底{b,c}\{b,c\}と交わらないので、すべての基底と交わる集合ではない。{a,b}\{a,b\}は{a,b}\{a,b\}、{a,c}\{a,c\}、{b,c}\{b,c\}のいずれとも交わり、真部分集合{a}\{a\}は{b,c}\{b,c\}と交わらず、{b}\{b\}は{a,c}\{a,c\}と交わらないから極小である。ゆえに{a,b}\{a,b\}は余回路であり、直接計算と一致する。

双対階数も検算する。r(A)=min⁡{∣A∣,2}r(A)=\min\{\lvert A\rvert,2\}、r(E)=2r(E)=2、∣E∣=3\lvert E\rvert=3であるからr∗(A)=∣A∣−2+min⁡{3−∣A∣, 2}r^{*}(A)=\lvert A\rvert-2+\min\{3-\lvert A\rvert,\ 2\}であり、∣A∣=0,1,2,3\lvert A\rvert=0,1,2,3に対してそれぞれ0−2+2=00-2+2=0、1−2+2=11-2+2=1、2−2+1=12-2+1=1、3−2+0=13-2+0=1である。すなわちr∗(A)=min⁡{∣A∣,1}r^{*}(A)=\min\{\lvert A\rvert,1\}であり、U1,3U_{1,3}の階数関数と一致する。

道. 頂点1,2,31,2,3と辺a={1,2}a=\{1,2\}、b={2,3}b=\{2,3\}からなるグラフHHを取る。HHは閉路をもたないからM(H)M(H)の独立集合は{a,b}\{a,b\}のすべての部分集合であり、M(H)=U2,2M(H)=U_{2,2}である。基底は{a,b}\{a,b\}ただ一つであるから、aaとbbはいずれもすべての基底に属し、命題 4.2より coloop 元である。B∗={∅}\mathcal B^{*}=\{\emptyset\}であるからM∗=U0,2M^{*}=U_{0,2}であり、M∗M^{*}ではすべての元が loop 元である。coloop 元が双対で loop 元へ移ることが確かめられる。

6 演習

問題 6.1.

  1. 補題 1.1の証明で、yyをC∖B2C\setminus B_2から取った。yyをC∖{x}C\setminus\{x\}から任意に取る設計にすると、どの結論が得られなくなるかを述べよ。
  2. 補題 1.1の証明のうち、D=(B1∪{x})∖{y}D=(B_1\cup\{x\})\setminus\{y\}が独立であることを示す段を、参照せずに再現せよ。基本回路の一意性をどこで用いたかを明示せよ。
  3. 定理 1.3の§E13.15 定義 3.1 条件 (b)の証明で、条件x∈B1∗∖B2∗x\in B_1^{*}\setminus B_2^{*}をB1B_1とB2B_2の言葉へ翻訳する段を書き下せ。翻訳の向きを取り違えると、補題 1.1ではなく§E13.15 定理 3.2を適用したくなる。その適用が成立しない理由を述べよ。
  4. 定理 2.2の証明で、min⁡{∣A∩B∣: B∈B}=r(E)−r(E∖A)\min\{\lvert A\cap B\rvert:\ B\in\mathcal B\}=r(E)-r(E\setminus A)を導く段を、参照せずに再現せよ。基底の等濃度性をどこで用いたかを明示せよ。
  5. 定理 2.2をAAとE∖AE\setminus Aの両方へ適用し、r∗(A)+r∗(E∖A)r^{*}(A)+r^{*}(E\setminus A)をrrの言葉で表す式を導け。その式からr∗(E)=∣E∣−r(E)r^{*}(E)=\lvert E\rvert-r(E)を再導出せよ。
  6. 定理 3.2の証明は命題 1.4 (2)を二回用いる。二回の使用箇所を指摘し、それぞれで用いた向き(従属から交わりへ、または交わりから従属へ)を述べよ。
  7. 命題 4.2 (2)を、双対を経由せずに、r∗({x})=1−r(E)+r(E∖{x})r^{*}(\{x\})=1-r(E)+r(E\setminus\{x\})という定理 2.2の特別な場合から直接導け。
  8. Uk,n∗=Un−k,nU_{k,n}^{*}=U_{n-k,n}を、基底の補集合を直接調べる方法と、定理 2.2によって階数関数を計算する方法の二通りで証明せよ。

8 扱った範囲と次の記事

本記事は、基本回路の一意性から「加えてから取り除く」形の交換を導き、基底の補集合全体が基底公理系を満たすことを証明して双対マトロイドを定めた。双対を二度取るともとへ戻ること、双対階数公式r∗(A)=∣A∣−r(E)+r(E∖A)r^{*}(A)=\lvert A\rvert-r(E)+r(E\setminus A)、および余回路がMMのすべての基底と交わる極小な集合として特徴づけられることを証明した。さらに loop 元と coloop 元を定め、前者がどの基底にも属さない元、後者がすべての基底に属する元であることを示した。表現可能なマトロイドの双対の表現、グラフ的マトロイドの双対が平面性と関係することがら、および無限台集合への拡張は扱っていない。次の記事では、削除と縮約を定義し、独立集合、基底および階数による記述を証明したうえで、双対が削除と縮約を交換することを示す。

参考文献

  1. James Oxley, Matroid Theory, 2nd ed., Oxford University Press, 2011.双対マトロイドの定義、双対階数公式、余回路の特徴づけ、および loop と coloop の扱いを参考にした。
  2. Bernhard Korte and Jens Vygen, Combinatorial Optimization: Theory and Algorithms, 6th ed., Algorithms and Combinatorics, Springer, 2018.基底の補集合が基底公理系を満たすことの証明と、双対階数公式の導出を参考にした。

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