§E13.14Menger の定理

最終更新

グラフの二頂点ssとttについて、両者を結ぶ経路がどれだけ豊富にあるかを測る方法は二つある。一つは、互いに辺を共有しないss-tt道を何本同時にとることができるかを数えることであり、もう一つは、ssとttの間の連絡を断つために何本の辺を取り除けばよいかを数えることである。前者は下から経路の豊富さを示し、後者は上から制限する。取り除く辺の集合はどの道からも少なくとも一本を奪う必要があるので、後者はつねに前者以上である。Menger の定理は、この二つの数がつねに一致することを主張する。頂点を取り除く場合についても同じ形の主張が成り立つ。

証明は最大フロー最小カット定理への帰着による。各無向辺を逆平行な二つの弧へ置き換え、すべての弧の容量を11とすると、辺切断の濃度はカットの容量に、辺素な道の本数はフローの値に対応する。対応の片側、すなわちフローから道を取り出す段には、値がkkの整数フローから辺素な有向道をkk本取り出す操作が必要であり、これを道分解として本記事が補題の形で証明する。頂点に関する版では、各頂点を入口と出口の二つへ分け、両者を容量11の弧で結ぶ。この弧を切ることが、もとのグラフでその頂点を取り除くことに対応する。

本記事を通じて、G=(V,E)G=(V,E)は有限単純無向グラフとし、s,t∈Vs,t\in Vは相異なる二頂点とする。グラフの基本的な語彙は§D2.7 定義 1.1に、歩道と道は§D2.7 定義 2.1に、到達可能性は§D2.7 定義 2.3に従う。ssからttへの道を ss-tt道という。辺集合F⊆EF\subseteq Eに対し、VVを頂点集合としE∖FE\setminus Fを辺集合とするグラフをG−FG-Fと書く。頂点集合T⊆VT\subseteq Vに対し、V∖TV\setminus Tを頂点集合とし、両端点がV∖TV\setminus Tに属する辺の全体を辺集合とするグラフをG−TG-Tと書く。有向グラフと有向道は§D2.11 定義 1.1に従う。

1 分離する辺と頂点

定義 1.1.ss-tt道の族が辺素 (edge-disjoint) であるとは、族に属するどの相異なる二つの道も共通の辺をもたないことをいう。

辺集合F⊆EF\subseteq Eが ss-tt辺切断 (s-t edge cut) であるとは、G−FG-Fにss-tt道が存在しないことをいう。濃度が最小であるss-tt辺切断の濃度を、ssとttを分離する辺切断の最小濃度という。

定義 1.2.ss-tt道の内点 (internal vertex) とは、その道に現れる頂点のうちssとtt以外のものをいう。ss-tt道の族が内点素 (internally vertex-disjoint) であるとは、族に属するどの相異なる二つの道も共通の内点をもたないことをいう。

頂点集合T⊆V∖{s,t}T\subseteq V\setminus\{s,t\}が ss-tt頂点切断 (s-t vertex cut) であるとは、G−TG-Tにss-tt道が存在しないことをいう。定義によりss-tt頂点切断はssとttをいずれも含まない。

定理 3.3と定理 4.3はいずれも切断の最小濃度を主張に含むので、切断が少なくとも一つ存在することを先に確かめる。

命題 1.3. 相異なる二頂点s,ts,tについて次が成り立つ。

  1. EE自身はss-tt辺切断である。したがってss-tt辺切断は少なくとも一つ存在する。
  2. ssとttが隣接しないならば、V∖{s,t}V\setminus\{s,t\}自身はss-tt頂点切断である。したがってss-tt頂点切断は少なくとも一つ存在する。
  3. ssとttが隣接するならば、ss-tt頂点切断は存在しない。

証明. 1 を示す。G−EG-Eは辺をもたないので、長さ11以上の道が存在しない。s≠ts\ne tであるから長さ00の道はssからttへの道ではない。よってG−EG-Eにss-tt道は存在せず、EEはss-tt辺切断である。

2 を示す。T=V∖{s,t}T=V\setminus\{s,t\}と置くと、G−TG-Tの頂点はssとttだけである。ssとttは隣接しないのでG−TG-Tは辺をもたず、1 と同じ理由でss-tt道が存在しない。よってTTはss-tt頂点切断である。

3 を示す。ssとttが隣接するとし、T⊆V∖{s,t}T\subseteq V\setminus\{s,t\}を任意にとる。辺{s,t}\{s,t\}の両端点はTTに属さないので、この辺はG−TG-Tの辺であり、s,ts,tはG−TG-Tのss-tt道である。よってTTはss-tt頂点切断ではない。▨

3 が、頂点に関する版でssとttが隣接しないことを仮定する理由である。

2 単位容量ネットワークと道分解

定義 2.1. すべての弧の容量が11であるネットワークを単位容量ネットワーク (unit-capacity network) という。

有限単純無向グラフG=(V,E)G=(V,E)と相異なる二頂点s,ts,tに対し、有向グラフDG=(V,AG)D_G=(V,A_G)を、各辺{u,v}∈E\{u,v\}\in Eに対して逆平行な二つの弧(u,v)(u,v)と(v,u)(v,u)を置くことによって定める。すべての弧の容量を11とし、湧点をss、吸点をttとする。この単位容量ネットワークを、GGが定める辺版のネットワーク (edge-version network) という。GGは単純であるからAGA_Gの要素は相異なる二頂点の順序対であり、自己ループは生じない。したがって(DG,c,s,t)(D_G,c,s,t)は§E13.12 定義 1.1のネットワークである。

逆平行な弧の対を許す形式を§E13.12 定義 1.1が採っていることが、この構成を可能にしている。

次の補題が、フローから道を取り出す段を担う。

補題 2.2. 単位容量ネットワーク(D,c,s,t)(D,c,s,t)において、各弧で整数値をとるフローffの値が非負整数kkであるとする。Af={a∈A: f(a)=1}A_f=\{a\in A:\ f(a)=1\}と置くと、AfA_fに含まれる弧だけを用いるssからttへの有向道であって、どの二本も共通の弧をもたないものがkk本存在する。

証明. 容量制約と整数性により、各弧でf(a)∈{0,1}f(a)\in\{0,1\}であるから、AfA_fはffが値11をとる弧全体である。kkについての数学的帰納法で示す。

k=0k=0のときは、00本の道からなる空の族が主張を満たす。

k≥1k\ge1とし、値がk−1k-1である場合について主張が成り立つと仮定する。

第一段:AfA_fの弧だけでssからttへ至る有向道が存在すること。VVを頂点集合としAfA_fを弧集合とする有向グラフにおいて、ssから到達可能な頂点全体をSSと置く。t∉St\notin Sであると仮定する。このときSSはss-ttカットである。a∈δ+(S)a\in\delta^{+}(S)をとると、aaの始点はSSに属し終点はSSに属さないのでa∉Afa\notin A_fであり、f(a)=0f(a)=0である。したがって§E13.12 命題 2.2の等式により

k=val⁡(f)=∑a∈δ+(S)f(a)−∑a∈δ−(S)f(a)=−∑a∈δ−(S)f(a)≤0k=\operatorname{val}(f)=\sum_{a\in\delta^{+}(S)}f(a)-\sum_{a\in\delta^{-}(S)}f(a)=-\sum_{a\in\delta^{-}(S)}f(a)\le0

となり、k≥1k\ge1に反する。よってt∈St\in Sであり、AfA_fの弧だけを用いるssからttへの有向道PPが存在する。

第二段: 値を一つ減らすこと。PPに現れる弧の集合をA(P)A(P)と書き、

f′(a)={f(a)−1(a∈A(P)),f(a)(a∉A(P))f'(a)=\begin{cases}f(a)-1 & (a\in A(P)),\\ f(a) & (a\notin A(P))\end{cases}

と定める。A(P)⊆AfA(P)\subseteq A_fであるから、a∈A(P)a\in A(P)ではf′(a)=0f'(a)=0であり、容量制約0≤f′(a)≤10\le f'(a)\le1はすべての弧で成り立つ。保存則を確かめる。PPの頂点はすべて相異なるので、ssとtt以外の各頂点vvについて、vvがPPに現れるならばvvを終点とするPPの弧とvvを始点とするPPの弧がちょうど一本ずつあり、vvへ入る流量とvvから出る流量がともに11ずつ減る。vvがPPに現れないならばvvに接する弧の流量は変わらない。よってf′f'は保存則を満たし、フローである。値については、PPはssを始点とする弧をちょうど一本含み、ssを終点とする弧を含まないので

val⁡(f′)=val⁡(f)−1=k−1\operatorname{val}(f')=\operatorname{val}(f)-1=k-1

である。またf′f'は各弧で整数値をとり、Af′=Af∖A(P)A_{f'}=A_f\setminus A(P)である。

第三段: 帰納法の適用。帰納法の仮定をf′f'へ適用すると、Af′A_{f'}の弧だけを用い、どの二本も共通の弧をもたないssからttへの有向道がk−1k-1本存在する。Af′A_{f'}はA(P)A(P)と交わらないので、これらの道はいずれもPPと共通の弧をもたない。したがってこれらにPPを加えたkk本の道は、AfA_fの弧だけを用い、どの二本も共通の弧をもたない。▨

3 辺に関する Menger の定理

まず、辺版のネットワークにおけるカットの容量が、もとのグラフの辺の本数として読むことができることを確かめる。

補題 3.1.GGと相異なる二頂点s,ts,tについて、辺版のネットワークDGD_Gを考える。頂点集合S⊆VS\subseteq Vがss-ttカットであるとき、その容量c(S)c(S)は、一方の端点がSSに属し他方の端点がV∖SV\setminus Sに属するGGの辺の本数に等しく、そのような辺の全体はss-tt辺切断である。逆に、任意のss-tt辺切断FFに対し、c(S)≤∣F∣c(S)\le\lvert F\rvertを満たすss-ttカットSSが存在する。したがって、DGD_Gの最小カットの容量と、ssとttを分離する辺切断の最小濃度は等しい。

証明.SSをss-ttカットとし、E(S)E(S)を、一方の端点がSSに属し他方の端点がV∖SV\setminus Sに属するGGの辺の全体とする。辺{u,v}∈E(S)\{u,v\}\in E(S)でu∈Su\in S、v∉Sv\notin Sであるものは、二つの弧(u,v)(u,v)と(v,u)(v,u)を与えるが、このうち始点がSSに属し終点がSSに属さないのは(u,v)(u,v)だけである。逆にδ+(S)\delta^{+}(S)の各弧はこのようにしてE(S)E(S)のちょうど一つの辺から生じる。すべての容量が11であるからc(S)=∣δ+(S)∣=∣E(S)∣c(S)=\lvert\delta^{+}(S)\rvert=\lvert E(S)\rvertである。

E(S)E(S)がss-tt辺切断であることを示す。G−E(S)G-E(S)にss-tt道s=w0,w1,…,wr=ts=w_0,w_1,\dots,w_r=tが存在すると仮定する。w0=s∈Sw_0=s\in Sかつwr=t∉Sw_r=t\notin Sであるから、wi−1∈Sw_{i-1}\in Sかつwi∉Sw_i\notin Sを満たす添字iiが存在する。すると辺{wi−1,wi}\{w_{i-1},w_i\}はE(S)E(S)に属し、G−E(S)G-E(S)の辺ではないので矛盾する。よってE(S)E(S)はss-tt辺切断である。

逆にFFをss-tt辺切断とする。G−FG-Fにおいてssから到達可能な頂点全体をSFS_Fと置く。s∈SFs\in S_Fであり、G−FG-Fにss-tt道が存在しないのでt∉SFt\notin S_Fである。よってSFS_Fはss-ttカットである。一方の端点uuがSFS_Fに属し他方の端点vvがSFS_Fに属さない辺{u,v}\{u,v\}をとると、この辺がFFに属さないならばG−FG-Fにおいてvvがssから到達可能となりv∉SFv\notin S_Fに反する。したがってそのような辺はすべてFFに属し、c(SF)=∣E(SF)∣≤∣F∣c(S_F)=\lvert E(S_F)\rvert\le\lvert F\rvertである。

以上より、ss-ttカットの容量の最小値とss-tt辺切断の濃度の最小値は互いに他以下であり、等しい。▨

注意 3.2 (カットと切断という二つの語). フローの議論では、湧点を含み吸点を含まない頂点集合をss-ttカットとよび、その容量を境界の弧の容量の和として測る(§E13.12 定義 2.1)。ssとttの分離を主題とする議論では、取り除く辺の集合を辺切断、取り除く頂点の集合を頂点切断とよぶ。補題 3.1が示したとおり、辺版のネットワークにおいてこの二つは同じ対象の二つの表し方であり、頂点集合SSに対応する辺の集合E(S)E(S)の濃度が容量c(S)c(S)に等しい。以下では、フローの側の議論でカット、グラフの側の主張で切断という語を用いる。

3.1 証明方針

辺素なss-tt道の最大本数をκ\kappa、ssとttを分離する辺切断の最小濃度をλ\lambdaと書く。示すのはκ=λ\kappa=\lambdaである。この二つの記号は本記事限りのものである。文献ではκ\kappaを頂点連結度、λ\lambdaを辺連結度に用いることが多く、本記事の割り当てはその慣用とは異なる。

κ≤λ\kappa\le\lambdaの側は次のように進める。辺素なkk本の道が与えられたとき、各道の辺をその道を進む向きに合わせて弧へ読み替え、その弧で値11、他の弧で値00をとる写像を作る。これが辺版のネットワークのフローであって値がkkであることを確かめると、κ\kappaは最大フローの値以下である。最大フローの値は§E13.12 定理 5.1により最小カットの容量に等しく、それは補題 3.1によりλ\lambdaに等しい。

κ≥λ\kappa\ge\lambdaの側が本質的である。容量がすべて11という整数であるから§E13.12 系 6.3により整数値をとる最大フローffが存在する。ただしffをそのまま道分解へ渡すことはできない。同じ辺から生じた逆平行な二つの弧がともに値11をとると、取り出した有向道が弧としては相異なるのに辺としては同じものを共有する場合が生じるからである。そこで、そのような対がある場合には両方の値を11ずつ減らす操作を繰り返し、値を変えずに逆平行な対の同時使用を無くしてから補題 2.2を適用する。

定理 3.3 (辺に関する Menger の定理). 有限単純無向グラフGGと相異なる二頂点s,ts,tについて、辺素なss-tt道の最大本数は、ssとttを分離する辺切断の最小濃度に等しい。

証明. 辺版のネットワークDGD_Gを考える。辺素なss-tt道は互いに辺を共有せず各々が少なくとも一本の辺を用いるので、その本数は∣E∣\lvert E\rvert以下である。また命題 1.3 (1)によりss-tt辺切断は少なくとも一つ存在する。よってκ\kappaとλ\lambdaはいずれも定まる。

第一段:κ≤λ\kappa\le\lambda。辺素なss-tt道P1,…,PkP_1,\dots,P_kをとる。各PiP_iをssからttへたどり、通る辺{u,v}\{u,v\}を進む向きに合わせて弧(u,v)(u,v)へ読み替える。こうして得られる弧の全体で値11、他の弧で値00をとる写像をffとする。PiP_iの頂点はすべて相異なるので、一つの道が同じ辺を二度通ることはなく、相異なる道は辺素であるから共通の辺をもたない。したがって、どの弧も高々一本の道から値11を与えられ、ffは矛盾なく定まり容量制約0≤f≤10\le f\le1を満たす。

保存則を確かめる。頂点v∈V∖{s,t}v\in V\setminus\{s,t\}をとる。vvがPiP_iの内点であるならば、PiP_iから生じる弧のうちvvを終点とするものとvvを始点とするものがちょうど一本ずつある。vvがPiP_iの端点になることはv≠s,tv\ne s,tより無く、vvがPiP_iに現れないならばPiP_iはvvに接する弧を与えない。各道の寄与を足し合わせると、vvへ入る流量とvvから出る流量は等しい。よってffはフローである。値については、各PiP_iがssを始点とする弧をちょうど一本与え、ssを終点とする弧を与えないのでval⁡(f)=k\operatorname{val}(f)=kである。

したがって最大フローの値はκ\kappa以上である。§E13.12 定理 5.1により最大フローの値は最小カットの容量に等しく、補題 3.1によりそれはλ\lambdaに等しい。よってκ≤λ\kappa\le\lambdaである。

第二段: 逆平行な対の除去。容量はすべて11であるから§E13.12 系 6.3により、各弧で整数値をとる最大フローが存在する。その一つをffとし、val⁡(f)=λ\operatorname{val}(f)=\lambdaである。辺{u,v}\{u,v\}が生む二つの弧についてf(u,v)=f(v,u)=1f(u,v)=f(v,u)=1が成り立つとき、この二つの弧の値をともに00に置き換える。得られる写像ggもフローである。実際、ggは二つの弧(u,v)(u,v)と(v,u)(v,u)で値00をとり、他の弧ではffと同じ値をとる。ffは各弧で整数値をとり容量制約を満たすので、すべての弧でffの値は00または11であり、したがってggの値も各弧で00または11である。容量はすべて11であるからggは容量制約を満たす。保存則については、頂点uuを始点とする弧(u,v)(u,v)の流量とuuを終点とする弧(v,u)(v,u)の流量がともに11ずつ減るので、uuへ入る流量とuuから出る流量の差は変わらず、頂点vvについても同様に差は変わらない。uuとvvのいずれかがssである場合も、ssから出る流量とssへ入る流量がともに11ずつ減るのでval⁡(g)=val⁡(f)\operatorname{val}(g)=\operatorname{val}(f)である。この置き換えは値11をとる弧の本数を22減らすので、有限回で終わる。以下、ffは最大フローであって、どの辺についても、その辺が生む二つの弧が同時に値11をとることは無いとしてよい。

第三段:κ≥λ\kappa\ge\lambda。ffは各弧で整数値をとる値λ\lambdaのフローであるから、補題 2.2により、値11をとる弧だけを用い、どの二本も共通の弧をもたないssからttへの有向道Q1,…,QλQ_1,\dots,Q_\lambdaが存在する。各QiQ_iの弧を、それを生んだGGの辺へ読み替えると、頂点の列としてはQiQ_iと同じss-tt道PiP_iが得られる。

P1,…,PλP_1,\dots,P_\lambdaが辺素であることを示す。相異なるi,ji,jについてPiP_iとPjP_jが辺{u,v}\{u,v\}を共有すると仮定する。QiQ_iとQjQ_jは共通の弧をもたないので、一方が(u,v)(u,v)を、他方が(v,u)(v,u)を用いる。するとf(u,v)=f(v,u)=1f(u,v)=f(v,u)=1となり、第二段の仮定に反する。よってP1,…,PλP_1,\dots,P_\lambdaは辺素であり、κ≥λ\kappa\ge\lambdaである。

第一段と第三段よりκ=λ\kappa=\lambdaである。▨

4 頂点に関する Menger の定理

頂点を取り除く操作をフローの言葉へ移すために、各頂点を入口と出口の二つへ分け、両者を容量11の弧で結ぶ。この弧を切ることが、もとのグラフでその頂点を取り除くことに対応する。

定義 4.1.G=(V,E)G=(V,E)と隣接しない相異なる二頂点s,ts,tをとり、W=V∖{s,t}W=V\setminus\{s,t\}と置く。有向グラフDG′D'_Gを次のように定める。頂点集合は

{s,t}∪{v−: v∈W}∪{v+: v∈W}\{s,t\}\cup\{v^{-}:\ v\in W\}\cup\{v^{+}:\ v\in W\}

とし、弧集合を次の四種類の弧の全体とする。

  1. 各v∈Wv\in Wに対する頂点弧 (vertex arc)(v−,v+)(v^{-},v^{+})。
  2. 両端点がWWに属する各辺{u,v}∈E\{u,v\}\in Eに対する二つの弧(u+,v−)(u^{+},v^{-})と(v+,u−)(v^{+},u^{-})。
  3. 各辺{s,v}∈E\{s,v\}\in E(v∈Wv\in W)に対する弧(s,v−)(s,v^{-})。
  4. 各辺{v,t}∈E\{v,t\}\in E(v∈Wv\in W)に対する弧(v+,t)(v^{+},t)。

すべての弧の容量を11とし、湧点をss、吸点をttとする。この単位容量ネットワークを、GGが定める頂点版のネットワーク (vertex-version network) という。

ssとttは隣接しないので、ssとttを直接結ぶ弧は生じない。またDG′D'_Gにはssを終点とする弧とttを始点とする弧が存在しない。

補題 4.2.GGと隣接しない相異なる二頂点s,ts,tについて、頂点版のネットワークDG′D'_Gを考える。

  1. DG′D'_Gのssからttへの有向道は、ちょうど s, v1−, v1+, v2−, v2+, …, vr−, vr+, ts,\ v_1^{-},\ v_1^{+},\ v_2^{-},\ v_2^{+},\ \dots,\ v_r^{-},\ v_r^{+},\ t の形をしており、s,v1,v2,…,vr,ts,v_1,v_2,\dots,v_r,tはGGのss-tt道である。逆にGGの各ss-tt道はこの形の有向道を与える。この対応は互いに逆であり、有向道が用いる頂点弧は(vi−,vi+)(v_i^{-},v_i^{+})(1≤i≤r1\le i\le r)である。
  2. DG′D'_Gの最小カットの容量は、ss-tt頂点切断の最小濃度に等しい。

証明.(1)を示す。DG′D'_Gの弧の形から、ssを始点とする弧は(s,v−)(s,v^{-})(v∈Wv\in W、{s,v}∈E\{s,v\}\in E)だけであり、v−v^{-}を始点とする弧は(v−,v+)(v^{-},v^{+})だけであり、v+v^{+}を始点とする弧は(v+,u−)(v^{+},u^{-})({v,u}∈E\{v,u\}\in E、u∈Wu\in W)または(v+,t)(v^{+},t)({v,t}∈E\{v,t\}\in E)だけである。ttを始点とする弧は無い。よってssからttへの有向道は、ssからv1−v_1^{-}へ移り、以後vi−v_i^{-}からvi+v_i^{+}へ、vi+v_i^{+}からvi+1−v_{i+1}^{-}へ移ることを繰り返し、最後にvr+v_r^{+}からttへ至る形をとる。有向道の頂点は相異なるからv1,…,vrv_1,\dots,v_rは相異なり、構成から{s,v1}\{s,v_1\}、{vi,vi+1}\{v_i,v_{i+1}\}、{vr,t}\{v_r,t\}はいずれもEEに属する。よってs,v1,…,vr,ts,v_1,\dots,v_r,tはGGのss-tt道である。逆にGGのss-tt道s,v1,…,vr,ts,v_1,\dots,v_r,tをとると、ssとttが隣接しないのでr≥1r\ge1であり、上の形の頂点の列がDG′D'_Gの有向道を与える。頂点弧についての主張は構成から明らかである。

(2)を示す。まず、ss-tt頂点切断TTが与えられたとする。頂点弧(v−,v+)(v^{-},v^{+})(v∈Tv\in T)をすべて取り除いた有向グラフにおいてssから到達可能なDG′D'_Gの頂点全体をSSと置く。s∈Ss\in Sである。t∈St\in Sであると仮定すると、取り除いた弧を用いないssからttへの有向道が存在し、(1)によりそれはGGのss-tt道s,v1,…,vr,ts,v_1,\dots,v_r,tに対応し、頂点弧(vi−,vi+)(v_i^{-},v_i^{+})をすべて用いる。取り除いた弧を用いないことからvi∉Tv_i\notin T(1≤i≤r1\le i\le r)であり、この道はG−TG-Tのss-tt道である。これはTTがss-tt頂点切断であることに反する。よってt∉St\notin Sであり、SSはss-ttカットである。δ+(S)\delta^{+}(S)の弧aaをとると、aaが取り除いた弧でないならばaaの終点はssから到達可能となりSSに属するので、a∈δ+(S)a\in\delta^{+}(S)に反する。よってδ+(S)\delta^{+}(S)は取り除いた弧の集合に含まれ、容量がすべて11であるからc(S)≤∣T∣c(S)\le\lvert T\rvertである。

逆に、ss-ttカットSSが与えられたとする。δ+(S)\delta^{+}(S)の各弧aaに対し、WWの頂点ψ(a)\psi(a)を次のように定める。a=(v−,v+)a=(v^{-},v^{+})のときψ(a)=v\psi(a)=v、a=(s,v−)a=(s,v^{-})のときψ(a)=v\psi(a)=v、a=(u+,v−)a=(u^{+},v^{-})のときψ(a)=v\psi(a)=v、a=(v+,t)a=(v^{+},t)のときψ(a)=v\psi(a)=vとする。T={ψ(a): a∈δ+(S)}T=\{\psi(a):\ a\in\delta^{+}(S)\}と置くとT⊆WT\subseteq Wであり、∣T∣≤∣δ+(S)∣=c(S)\lvert T\rvert\le\lvert\delta^{+}(S)\rvert=c(S)である。TTがss-tt頂点切断であることを示す。GGのss-tt道s,v1,…,vr,ts,v_1,\dots,v_r,tをとり、(1)が与えるDG′D'_Gの有向道を考える。この有向道はs∈Ss\in Sから出発しt∉St\notin Sで終わるので、始点がSSに属し終点がSSに属さない弧aaを少なくとも一つ含む。a∈δ+(S)a\in\delta^{+}(S)であり、四つの場合のいずれにおいてもψ(a)\psi(a)はv1,…,vrv_1,\dots,v_rのいずれかである。よってこの道はTTの頂点を通り、G−TG-Tの道ではない。GGの任意のss-tt道についてこれが成り立つので、G−TG-Tにss-tt道は存在せず、TTはss-tt頂点切断である。

以上より、ss-ttカットの容量の最小値とss-tt頂点切断の濃度の最小値は互いに他以下であり、等しい。▨

4.1 証明方針

内点素なss-tt道の最大本数をκV\kappa_V、ss-tt頂点切断の最小濃度をλV\lambda_Vと書く。

κV≤λV\kappa_V\le\lambda_Vの側では、内点素なkk本の道を(1)によってDG′D'_Gの有向道へ移し、それらの弧で値11をとる写像がフローであることを確かめる。内点が互いに素であることが、二本の道が同じ弧を用いないことを保証する。最大フローの値は最小カットの容量に等しく、それは(2)によりλV\lambda_Vに等しい。

κV≥λV\kappa_V\ge\lambda_Vの側では、整数値をとる最大フローへ補題 2.2を適用して、共通の弧をもたない有向道をλV\lambda_V本得る。これらを (1) によってGGの道へ戻すと、二本が共通の内点vvをもつならば両方が頂点弧(v−,v+)(v^{-},v^{+})を用いることになり、共通の弧をもたないことに反する。ここが、頂点を二つに分けた理由である。辺版で必要であった逆平行な対の除去は、DG′D'_Gが逆平行な弧の対をもたないので必要がない。

定理 4.3 (頂点に関する Menger の定理). 有限単純無向グラフGGと、隣接しない相異なる二頂点s,ts,tについて、内点素なss-tt道の最大本数は、ss-tt頂点切断の最小濃度に等しい。

証明. 頂点版のネットワークDG′D'_Gを考える。命題 1.3 (2)によりss-tt頂点切断は少なくとも一つ存在するのでλV\lambda_Vは定まる。内点素なss-tt道は互いに内点を共有せず、ssとttが隣接しないので各々が少なくとも一つの内点をもつから、その本数は∣V∣\lvert V\rvert以下でありκV\kappa_Vも定まる。

第一段:κV≤λV\kappa_V\le\lambda_V。内点素なss-tt道P1,…,PkP_1,\dots,P_kをとる。各PiP_iに補題 4.2 (1)の対応を適用してDG′D'_Gの有向道QiQ_iを得る。QiQ_iの弧の全体で値11、他の弧で値00をとる写像をffとする。

相異なるi,ji,jについてQiQ_iとQjQ_jが共通の弧をもたないことを示す。共通の弧をaaとすると、aaの四つの形のいずれにおいても、aaの端点に現れる添字の頂点、すなわちa=(v−,v+)a=(v^{-},v^{+})、a=(s,v−)a=(s,v^{-})、a=(u+,v−)a=(u^{+},v^{-})、a=(v+,t)a=(v^{+},t)のそれぞれについてのvvは、PiP_iの内点でありPjP_jの内点でもある。これはPiP_iとPjP_jが内点素であることに反する。よってどの弧も高々一本のQiQ_iに現れ、ffは矛盾なく定まって容量制約を満たす。

保存則を確かめる。DG′D'_Gの頂点のうちssとtt以外のものはv−v^{-}またはv+v^{+}(v∈Wv\in W)である。QiQ_iがv−v^{-}を通るならば、QiQ_iはv−v^{-}を終点とする弧とv−v^{-}を始点とする弧をちょうど一本ずつ含む。v+v^{+}についても同様である。QiQ_iが通らない頂点にはQiQ_iからの寄与が無い。各QiQ_iの寄与を足し合わせると保存則を得る。値については、各QiQ_iがssを始点とする弧をちょうど一本与え、DG′D'_Gにはssを終点とする弧が無いのでval⁡(f)=k\operatorname{val}(f)=kである。

よって最大フローの値はκV\kappa_V以上であり、§E13.12 定理 5.1と補題 4.2 (2)により、最大フローの値はλV\lambda_Vに等しい。ゆえにκV≤λV\kappa_V\le\lambda_Vである。

第二段:κV≥λV\kappa_V\ge\lambda_V。容量がすべて11であるから§E13.12 系 6.3により、各弧で整数値をとる最大フローffが存在し、val⁡(f)=λV\operatorname{val}(f)=\lambda_Vである。補題 2.2により、値11をとる弧だけを用い、どの二本も共通の弧をもたないssからttへの有向道Q1,…,QλVQ_1,\dots,Q_{\lambda_V}が存在する。補題 4.2 (1)により、各QiQ_iはGGのss-tt道PiP_iに対応する。

P1,…,PλVP_1,\dots,P_{\lambda_V}が内点素であることを示す。相異なるi,ji,jについてPiP_iとPjP_jが共通の内点vvをもつと仮定する。補題 4.2 (1)により、QiQ_iとQjQ_jはいずれも頂点弧(v−,v+)(v^{-},v^{+})を用いる。これはQiQ_iとQjQ_jが共通の弧をもたないことに反する。よってP1,…,PλVP_1,\dots,P_{\lambda_V}は内点素であり、κV≥λV\kappa_V\ge\lambda_Vである。

第一段と第二段よりκV=λV\kappa_V=\lambda_Vである。▨

5 検算例

例 5.1 (辺に関する版と頂点に関する版で値が異なる例). 頂点集合をV={s,t,x,y,z}V=\{s,t,x,y,z\}とし、辺集合を

E={ {s,x}, {x,t}, {s,y}, {y,x}, {x,z}, {z,t} }E=\{\,\{s,x\},\ \{x,t\},\ \{s,y\},\ \{y,x\},\ \{x,z\},\ \{z,t\}\,\}

と定める。ssとttは隣接しない。

辺に関する版。P1: s,x,tP_1:\ s,x,tとP2: s,y,x,z,tP_2:\ s,y,x,z,tをとる。P1P_1の辺は{s,x}\{s,x\}と{x,t}\{x,t\}、P2P_2の辺は{s,y}\{s,y\}、{y,x}\{y,x\}、{x,z}\{x,z\}、{z,t}\{z,t\}であり、共通の辺は無い。よって辺素なss-tt道が22本存在する。他方でF={{s,x},{s,y}}F=\{\{s,x\},\{s,y\}\}はss-tt辺切断である。G−FG-Fにおいてssに接する辺が無いからである。∣F∣=2\lvert F\rvert=2であり、濃度11のss-tt辺切断は存在しない。存在するとすれば、辺素な22本の道のそれぞれから少なくとも一本の辺を含む必要があり、二本の道は辺を共有しないので少なくとも22本の辺を含むからである。よって辺素な道の最大本数と辺切断の最小濃度はともに22であり、定理 3.3と整合する。

頂点に関する版。T={x}T=\{x\}はss-tt頂点切断である。G−TG-Tの辺は{s,y}\{s,y\}と{z,t}\{z,t\}だけであり、ssから到達可能な頂点はssとyyに限られ、ttは含まれないからである。よってλV≤1\lambda_V\le1である。またs,x,ts,x,tがss-tt道であるから、濃度00の頂点切断は存在せずλV=1\lambda_V=1である。内点素な道については、GGのすべてのss-tt道がxxを内点にもつ。実際、ssに接する辺は{s,x}\{s,x\}と{s,y}\{s,y\}であり、yyに接する辺は{s,y}\{s,y\}と{y,x}\{y,x\}であるから、ssを出た道はただちにxxへ至るか、yyを経てxxへ至るほかない。よって内点素な道を22本とることはできず、κV=1\kappa_V=1である。ゆえにκV=λV=1\kappa_V=\lambda_V=1であり、定理 4.3と整合する。

この例では辺に関する版の値が22、頂点に関する版の値が11であり、二つの版は別の量を測っている。P1P_1とP2P_2は辺を共有しないが、内点xxを共有する。

6 演習

問題 6.1.

  1. 補題 2.2の第一段では、ttが到達不能であると仮定して§E13.12 命題 2.2の等式から矛盾を導いた。この段を、到達可能な頂点全体がss-ttカットになることの確認から書き直し、どこで容量がすべて11であることを用いたかを述べよ。
  2. 定理 3.3の第二段で行った逆平行な対の除去を省くと、第三段の議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。さらに、辺{u,v}\{u,v\}の二つの弧がともに値11をとる整数最大フローが実際に存在するネットワークを一つ作れ。
  3. 補題 4.2 (2)の後半で定めた対応ψ\psiについて、a=(v+,t)a=(v^{+},t)の場合にψ(a)=v\psi(a)=vがss-tt道の内点であることを確かめよ。ψ(a)=t\psi(a)=tと定めた場合に証明のどこが破れるかも述べよ。
  4. ssとttが隣接する場合について、定理 4.3の主張の両辺がどうなるかを述べ、非隣接性の仮定を落とすことができない理由を、定義に戻って説明せよ。
  5. 定義 4.1において、頂点弧の容量を11のままとし、他の三種類の弧の容量を∣V∣\lvert V\rvertに取り替えたネットワークを考える。この取り替えの後でも補題 4.2 (2)が成り立つことを証明せよ。最小カットが頂点弧だけからなることを示す段を、頂点弧をすべて切るカットの容量の評価から設計せよ。

8 扱った範囲と次の記事

本記事は、有限単純無向グラフの相異なる二頂点について、辺素な道の最大本数と辺切断の最小濃度が等しいことを、単位容量ネットワークへの帰着によって証明した。隣接しない二頂点については、頂点を二つに分ける構成によって、内点素な道の最大本数と、両端点を含まない頂点切断の最小濃度が等しいことを証明した。帰着に必要な整数フローの道分解も本文で証明した。連結度の一般論、有向グラフに対する版、およびssとttを動かしたときの大域的な連結度は扱っていない。次の記事では、有限集合の部分集合族に独立性の公理を課したマトロイドを定義し、独立集合公理と基底交換公理が同じ対象を定めることを証明する。

参考文献

  1. Reinhard Diestel, Graph Theory, 6th ed., Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, Berlin, 2025.Menger の定理の辺に関する版と頂点に関する版の定式化、および非隣接性の仮定を参考にした。
  2. Bernhard Korte and Jens Vygen, Combinatorial Optimization: Theory and Algorithms, 6th ed., Algorithms and Combinatorics, Springer, 2018.単位容量ネットワークへの帰着、頂点を二つに分ける構成、およびフローの道分解を参考にした。
  3. J. A. Bondy and U. S. R. Murty, Graph Theory, Graduate Texts in Mathematics 244, Springer, London, 2008.連結度と分離集合の語彙、および辺に関する版と頂点に関する版の関係を参考にした。

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