1 冪集合の階層と極大鎖
以下、nは正の整数とし、[n]={1,…,n}とする。冪集合2[n]に包含関係⊆を入れると半順序集合になる。すなわち、包含関係は反射的、反対称的かつ推移的である。
定義 1.1.nを正の整数とし、[n]={1,…,n}とする。0≤k≤nに対し(k[n])={A⊆[n]: ∣A∣=k}を(2[n],⊆)の第k階層 (level) という。
(2[n],⊆)の鎖C⊆2[n]が極大鎖 (maximal chain) であるとは、Cを真に含む鎖が存在しないことをいう。すなわち、包含に関して極大な鎖を極大鎖という。
§D2.2 命題 3.1より(k[n])=(kn)である。以下ではこの等式を断りなく用いる。
極大鎖は、空集合から出発して一度に一つずつ元を加え、[n]に到達する列にほかならない。この形を確定してから、極大鎖の個数を数える。
命題 1.2.nを正の整数とする。
- C⊆2[n]が極大鎖であることと、C={C0,C1,…,Cn}かつC0⊊C1⊊⋯⊊Cnかつ∣Ci∣=i(0≤i≤n)という形に表されることは同値である。
- 極大鎖の全体と[n]の順列の全体の間に全単射が存在する。とくに極大鎖の総数はn!である。
- A⊆[n]が∣A∣=kを満たすとき、Aを元としてもつ極大鎖の総数はk!(n−k)!である。
証明. (1)の必要性.Cを極大鎖とする。Cの任意の二元は包含に関して比較可能であるから、Cの元を濃度の小さい順にC0⊊C1⊊⋯⊊Crと並べることができる。
C0=∅である。実際、C0=∅ならば∅はCのすべての元に含まれるのでC∪{∅}は鎖であり、∅∈/C(Cの元のうち濃度が最小のものがC0=∅である)とあわせてCを真に含む鎖となり、極大性に反する。同様にCr=[n]である。
各iについて∣Ci+1∣=∣Ci∣+1である。実際、∣Ci+1∣≥∣Ci∣+2と仮定してx∈Ci+1∖Ciを一つ取り、D=Ci∪{x}と置くと、Ci⊊D⊊Ci+1である。j≤iのときCj⊆Ci⊆Dであり、j≥i+1のときD⊆Ci+1⊆Cjであるから、DはCのすべての元と比較可能であり、C∪{D}は鎖である。さらにD∈/Cである。実際、Cの元の濃度は∣C0∣<∣C1∣<⋯<∣Cr∣と狭義単調に並び、∣Ci∣<∣D∣<∣Ci+1∣を満たす濃度をもつCの元は存在しないからである。ゆえにC∪{D}はCを真に含む鎖であり、極大性に反する。
∣C0∣=0、∣Cr∣=n、および濃度が一つずつ増えることからr=nかつ∣Ci∣=iを得る。
(1)の十分性.C={C0,…,Cn}がC0⊊⋯⊊Cnかつ∣Ci∣=iを満たすとする。Cは鎖である。極大性を示すために、B⊆[n]がCのすべての元と比較可能であるとする。k=∣B∣と置くと0≤k≤nであり、BとCkは比較可能であるからB⊆CkまたはCk⊆Bが成り立つ。いずれの場合も∣B∣=∣Ck∣=kと有限性からB=Ck∈Cである。ゆえにCを真に含む鎖は存在しない。
(2)を示す。 極大鎖C={C0,…,Cn}に対し、Ci∖Ci−1は(1)より一元集合であるから、その元をσ(i)と書いて写像σ:[n]→[n]を定める。集合C1∖C0,…,Cn∖Cn−1は互いに素であるからσは単射であり、これらの合併がCn∖C0=[n]に等しいからσは全射である。ゆえにσは[n]の順列である。
逆に[n]の順列σに対しCi={σ(1),…,σ(i)}(C0=∅)と定めると、∣Ci∣=iかつCi−1⊊Ciであるから(1)より{C0,…,Cn}は極大鎖である。二つの対応が互いに逆であることは、いずれの向きもCi={σ(1),…,σ(i)}という関係で結ばれることから従う。ゆえに極大鎖の全体と順列の全体の間に全単射が存在する。
§D2.2 命題 3.1より[n]の順列の総数はn!であり、§D2.2 命題 1.5より極大鎖の総数もn!である。
(3)を示す。 極大鎖CがAを元としてもつこととCk=Aが成り立つことは同値である。実際、A∈CならばA=C∣A∣=Ckであり、逆は明らかである。(2)の全単射のもとで、条件Ck=Aは「σが{1,…,k}をAの上へ写す」ことと同値である。
このような順列σは、{1,…,k}からAへの全単射と、{k+1,…,n}から[n]∖Aへの全単射の対によって定まり、逆にその対からσが定まる。§D2.2 命題 3.1より前者はk!個、後者は(n−k)!個であるから、§D2.2 定理 2.3と§D2.2 命題 1.5より、条件を満たす順列はk!(n−k)!個である。▨
2 二重計数の原理
同じ有限集合を二通りの方法で数えて等式を得る論法を二重計数という。以下で繰り返し用いるので、加法原理から明示的に導いておく。
命題 2.1 (二重計数の原理).XとYを有限集合とし、S⊆X×Yとする。x∈Xに対しSx={y∈Y: (x,y)∈S}、y∈Yに対しSy={x∈X: (x,y)∈S}と定めると∣S∣=∑x∈X∣Sx∣=∑y∈Y∣Sy∣が成り立つ。
証明. 各x∈Xに対しS∩({x}×Y)={x}×Sxである。相異なるxに対するこれらの集合は互いに素であり、その合併はSに等しい。写像y↦(x,y)はSxから{x}×Sxへの全単射であるから、§D2.2 命題 1.5より∣{x}×Sx∣=∣Sx∣である。Xは有限であるから§D2.2 定理 2.1を適用して∣S∣=∑x∈X∣{x}×Sx∣=∑x∈X∣Sx∣を得る。Yの側についても、S∩(X×{y})=Sy×{y}として同じ議論を行えば∣S∣=∑y∈Y∣Sy∣を得る。▨
3 LYM 不等式
3.1 証明方針
極大鎖の全体をX、考えている反鎖をAとし、対の集合S={(C,A)∈X×A: A∈C}を二通りに数える。極大鎖の側から数えると、鎖の二元は比較可能であり反鎖の相異なる二元は比較不能であるから、一つの極大鎖が含むAの元は高々一つである。したがって∣S∣≤∣X∣=n!となる。反鎖の側から数えると、命題 1.2 (3)により、A∈Aごとの項は∣A∣!(n−∣A∣)!である。二つの表示を比べ、両辺をn!で割ると主張の形になる。
定理 3.1 (LYM 不等式).nを正の整数とし、Aを[n]の部分集合からなる反鎖、すなわち(2[n],⊆)の反鎖とする。このとき∑A∈A(∣A∣n)−1≤1が成り立つ。
証明.Xを(2[n],⊆)の極大鎖の全体とする。命題 1.2 (2)よりXは有限集合であり∣X∣=n!である。A⊆2[n]も有限集合である。S={(C,A)∈X×A: A∈C}と置き、命題 2.1を適用する。
極大鎖ごとの計数.C∈Xを固定する。SC={A∈A: A∈C}はC∩Aに等しい。Cは鎖であるからその二元は比較可能であり、Aは反鎖であるからその相異なる二元は比較不能である。ゆえにC∩Aが相異なる二元をもつことはなく、∣SC∣≤1である。したがって∣S∣=∑C∈X∣SC∣≤∣X∣=n!.
反鎖の元ごとの計数.A∈Aを固定し、k=∣A∣と置く。SA={C∈X: A∈C}であるから、命題 1.2 (3)より∣SA∣=k!(n−k)!である。したがって∣S∣=∑A∈A∣A∣!(n−∣A∣)!.
二つの表示を比べると∑A∈A∣A∣!(n−∣A∣)!≤n!である。両辺を正の数n!で割り、§D2.2 命題 3.1の公式(kn)=k!(n−k)!n!,すなわちn!k!(n−k)!=(kn)−1を用いると、主張の不等式を得る。▨
4 Sperner の定理
LYM 不等式から反鎖の濃度の上界を得るには、二項係数の最大値を知ればよい。
補題 4.1.nを正の整数とし、0≤k≤nとする。このとき(kn)≤(⌊n/2⌋n)が成り立つ。等号が成立するのは、nが偶数のときk=n/2の場合に限り、nが奇数のときk=(n−1)/2またはk=(n+1)/2の場合に限る。
証明.1≤k≤nとすると、§D2.2 命題 3.1の公式より(k−1n)(kn)=k!(n−k)!n!n!(k−1)!(n−k+1)!=kn−k+1である。分母kは正であるから、(kn)>(k−1n)⟺k<2n+1,(kn)=(k−1n)⟺k=2n+1,(kn)<(k−1n)⟺k>2n+1が成り立つ。
nが偶数のとき.n=2mと書くと(n+1)/2=m+21は整数ではない。したがって1≤k≤mでは(kn)>(k−1n)、m+1≤k≤nでは(kn)<(k−1n)である。ゆえに(0n)<(1n)<⋯<(mn)かつ(mn)>(m+1n)>⋯>(nn)であり、最大値はk=m=n/2=⌊n/2⌋でのみ達成される。
nが奇数のとき.n=2m+1と書くと(n+1)/2=m+1である。したがって1≤k≤mでは(kn)>(k−1n)、k=m+1では(m+1n)=(mn)、m+2≤k≤nでは(kn)<(k−1n)である。ゆえに最大値はk=mとk=m+1でのみ達成される。m=(n−1)/2=⌊n/2⌋かつm+1=(n+1)/2であるから、主張の形になる。▨
系 4.2 (Sperner の定理).nを正の整数とし、Aを[n]の部分集合からなる反鎖とすると∣A∣≤(⌊n/2⌋n)が成り立つ。
証明.N=(⌊n/2⌋n)と置く。補題 4.1より、各A∈Aについて(∣A∣n)≤Nであり、両辺は正であるから(∣A∣n)−1≥N−1が成り立つ。これをA∈Aについて加えると∣A∣⋅N−1≤∑A∈A(∣A∣n)−1となり、右辺は定理 3.1より1以下である。ゆえに∣A∣≤Nを得る。▨
5 最大反鎖の決定
濃度が(⌊n/2⌋n)に達する反鎖を決定する。nが偶数のときは LYM 不等式だけで済むが、nが奇数のときは中央の二つの階層が同じ大きさをもつため、階層の間の包含関係をもう一段細かく数える必要がある。そのための二つの補題を先に用意する。
補題 5.1.nを正の整数、0≤k≤n−1とし、F⊆(k[n])とする。∇F={B∈(k+1[n]): A⊆B を満たす A∈F が存在する}と定めると(n−k)∣F∣≤(k+1)∣∇F∣が成り立つ。等号が成立することと、∇Fのすべての元BについてBのk元部分集合がすべてFに属することは、同値である。
証明.S={(A,B)∈F×∇F: A⊆B}と置き、命題 2.1を適用する。
A∈Fを固定する。A⊆Bかつ∣B∣=k+1を満たすBは、B=A∪{x}(x∈[n]∖A)の形のものに限り、相異なるxは相異なるBを与える。∣[n]∖A∣=n−kであるから、そのようなBはちょうどn−k個ある。これらはいずれもA∈Fを含むので∇Fに属する。ゆえに∣SA∣=n−kであり∣S∣=∑A∈F∣SA∣=(n−k)∣F∣.
B∈∇Fを固定する。SB={A∈F: A⊆B}はBのk元部分集合のうちFに属するものの全体である。Bのk元部分集合はBから一元を取り除いたものに限るから、ちょうどk+1個ある。ゆえに∣SB∣≤k+1であり∣S∣=∑B∈∇F∣SB∣≤(k+1)∣∇F∣.
二つを合わせて(n−k)∣F∣≤(k+1)∣∇F∣を得る。等号が成立することは、すべてのB∈∇Fについて∣SB∣=k+1が成り立つこと、すなわちBのk元部分集合がすべてFに属することと同値である。▨
補題 5.2.nを正の整数、0≤k≤nとし、F⊆(k[n])は空でないとする。さらに、A∈FとA′∈(k[n])が∣A∩A′∣=k−1を満たすならばA′∈Fが成り立つと仮定する。このときF=(k[n])である。
証明. 非負整数dについての累積帰納法(§D2.1 命題 1.2)で、次の主張を示す。
A∈F、A′∈(k[n])かつ∣A′∖A∣=dならばA′∈Fである。
d=0のとき、A′⊆Aかつ∣A′∣=∣A∣=kであるからA′=A∈Fである。
d≥1とする。∣A∣=∣A′∣より∣A∖A′∣=∣A′∖A∣=d≥1であるから、y∈A′∖Aとx∈A∖A′を取ることができる。A′′=(A∖{x})∪{y}と置くと、x∈Aかつy∈/Aより∣A′′∣=kであり、A∩A′′=A∖{x}より∣A∩A′′∣=k−1である。仮定よりA′′∈Fである。
x∈/A′であるからA′∖(A∖{x})=A′∖Aであり、y∈A′であるからA′∖A′′=(A′∖A)∖{y}となって∣A′∖A′′∣=d−1である。帰納法の仮定をA′′∈FとA′に適用するとA′∈Fを得る。
以上で主張が示された。Fは空でないのでA∈Fを一つ取ることができ、任意のA′∈(k[n])に対し∣A′∖A∣は0以上k以下の整数であるから、主張よりA′∈Fである。ゆえにF=(k[n])である。▨
5.1 証明方針
濃度が(⌊n/2⌋n)である反鎖Aをとる。まず系 4.2の証明で用いた二つの不等式が同時に等号になることから、Aのすべての元の濃度が補題 4.1の等号を与える値に限られることを示す。nが偶数のときは中央の階層がただ一つなので、濃度の比較だけで結論に到る。
nが奇数のとき、n=2m+1と書き、Aを第m階層の部分A1と第m+1階層の部分A2へ分ける。反鎖であることから∇A1とA2は互いに素であり、いずれも第m+1階層に含まれる。ここで補題 5.1をk=mに対して用いるとn−k=k+1となって∣A1∣≤∣∇A1∣が得られ、二つを合わせて∣A∣≤(m+1n)を得る。仮定よりこれは等号であり、A1が補題 5.2の仮定を満たすことが従う。あとはA1が空であるかどうかで場合を分ければよい。
定理 5.3.nを正の整数とし、Aを[n]の部分集合からなる反鎖とする。∣A∣=(⌊n/2⌋n)が成り立つことと、次が成り立つことは同値である。
- nが偶数のとき、A=(n/2[n])である。
- nが奇数のとき、A=((n−1)/2[n])またはA=((n+1)/2[n])である。
証明.N=(⌊n/2⌋n)と置く。
十分性. 階層(k[n])は反鎖である。実際、濃度の等しい相異なる二集合は、いずれも他方を含まないから比較不能である。nが偶数のとき(n/2[n])=(n/2n)=Nである。nが奇数のとき、⌊n/2⌋=(n−1)/2であり、§D2.2 命題 3.1の公式から((n+1)/2n)=(2n+1)!(2n−1)!n!=((n−1)/2n)=Nであるから、いずれの階層も濃度Nの反鎖である。
必要性.∣A∣=Nとする。系 4.2の証明に現れる二つの不等式を並べると1≥∑A∈A(∣A∣n)−1≥∣A∣⋅N−1=1であるから、両方が等号である。とくに右側の等号は、各A∈Aについて(∣A∣n)−1=N−1、すなわち(∣A∣n)=Nが成り立つことを意味する。補題 4.1の等号成立条件より、nが偶数ならばすべてのA∈Aが∣A∣=n/2を満たし、nが奇数ならばすべてのA∈Aが∣A∣∈{(n−1)/2,(n+1)/2}を満たす。
nが偶数の場合.A⊆(n/2[n])であり、両者の濃度はともにNである。有限集合であるからA=(n/2[n])を得る。
nが奇数の場合.n=2m+1と書く。⌊n/2⌋=mであり、上で見たとおり(mn)=(m+1n)=Nである。A1=A∩(m[n]),A2=A∩(m+1[n])と置くと、上で示したことからA=A1∪A2であり、二つは互いに素であるから§D2.2 定理 2.1より∣A∣=∣A1∣+∣A2∣である。
∇A1∩A2=∅である。実際、Bが両方に属するとすると、A⊆Bを満たすA∈A1が存在し、∣A∣=m<m+1=∣B∣よりA⊊Bである。AとBはともにAに属するから、これはAが反鎖であることに反する。
∇A1とA2はいずれも(m+1[n])に含まれ互いに素であるから∣∇A1∣+∣A2∣≤(m+1n)=Nである。また補題 5.1をk=mに対して適用すると、n−k=(2m+1)−m=m+1=k+1であるから(m+1)∣A1∣≤(m+1)∣∇A1∣,すなわち∣A1∣≤∣∇A1∣を得る。以上を合わせるとN=∣A∣=∣A1∣+∣A2∣≤∣∇A1∣+∣A2∣≤Nであるから、二つの不等号はいずれも等号である。
A1=∅の場合、∣A2∣=N=(m+1n)でありA2⊆(m+1[n])であるからA=A2=(m+1[n])=((n+1)/2[n])である。
A1=∅の場合、∣A1∣=∣∇A1∣が成り立つので、補題 5.1の等号成立条件より、∇A1のすべての元BについてBのm元部分集合はすべてA1に属する。これを用いてA1が補題 5.2の仮定を満たすことを示す。A∈A1とA′∈(m[n])が∣A∩A′∣=m−1を満たすとする。このとき∣A∪A′∣=∣A∣+∣A′∣−∣A∩A′∣=m+m−(m−1)=m+1であり、B=A∪A′はA∈A1を含むからB∈∇A1である。A′はBのm元部分集合であるからA′∈A1である。
ゆえに補題 5.2よりA1=(m[n])である。このとき(m+1[n])の任意の元Bはm元部分集合をもち、それはA1に属するからB∈∇A1であり、∇A1=(m+1[n])となる。A2は(m+1[n])に含まれ∇A1と互いに素であるからA2=∅であり、A=A1=(m[n])=((n−1)/2[n])を得る。▨
6 具体例
例 6.1 (n=3とn=4での検算). n=3の場合.⌊3/2⌋=1であり(13)=3である。極大鎖の総数は3!=6であり、実際に∅⊂{1}⊂{1,2}⊂{1,2,3},∅⊂{1}⊂{1,3}⊂{1,2,3},∅⊂{2}⊂{1,2}⊂{1,2,3},∅⊂{2}⊂{2,3}⊂{1,2,3},∅⊂{3}⊂{1,3}⊂{1,2,3},∅⊂{3}⊂{2,3}⊂{1,2,3}の6本である。A={1}を含む極大鎖は上の第1と第2の2本であり、∣A∣!(n−∣A∣)!=1!⋅2!=2と一致する。
反鎖A={{1},{2,3}}に対する LYM 不等式の左辺は(13)−1+(23)−1=31+31=32≤1であり、濃度は2≤3である。この反鎖に{2}を加えることはできない。{2}⊊{2,3}となるからである。二つの階層にまたがる反鎖が濃度3に達しないことは、定理 5.3から従う。一方、階層そのものであるA={{1},{2},{3}}とA={{1,2},{1,3},{2,3}}は、いずれも濃度3の反鎖であり、LYM 不等式の左辺は3⋅31=1となって等号が成立する。n=3は奇数であるから、定理 5.3が主張するとおり最大反鎖はこの二つに限る。
n=4の場合.⌊4/2⌋=2であり(24)=6である。第2階層{1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4}は濃度6の反鎖であり、LYM 不等式の左辺は6⋅(24)−1=6⋅61=1で等号が成立する。一方、反鎖A={{1},{2,3},{2,4},{3,4}}の左辺は(14)−1+3⋅(24)−1=41+63=41+21=43≤1であり、濃度は4≤6である。n=4は偶数であるから、濃度6の反鎖は第2階層に限る。
補題 5.1の検算.n=3、k=1、F={{1},{2}}とすると∇F={{1,2},{1,3},{2,3}}である。不等式の左辺は(n−k)∣F∣=2⋅2=4、右辺は(k+1)∣∇F∣=2⋅3=6であり4≤6が成り立つ。等号は成立しない。実際、{1,3}の1元部分集合{3}はFに属さない。
7 演習
問題 7.1.
- 定理 3.1の証明で、∣SC∣≤1を示す一手を書き下せ。さらに、Aが反鎖であるという仮定を「Aは2[n]の部分族である」に弱めると、この一手のどこが破綻するかを述べよ。
- 命題 1.2 (3)を、(2)の全単射を用いずに、極大鎖をAの内側と外側へ分けて数える方法で証明せよ。
- 系 4.2の証明を、LYM 不等式を経由せずに、極大鎖との二重計数から直接∣A∣≤(⌊n/2⌋n)を導く形へ書き換えよ。どの段階で補題 4.1を用いることになるかを明示せよ。
- 定理 5.3の証明のうち、nが奇数でA1=∅の場合を、A2の側から出発する形へ設計し直せ。すなわち、第m+1階層から第m階層へ下げる操作に対する補題 5.1の類似を定式化して証明し、それを用いて同じ結論を導け。
- 補題 5.1を一般の0≤k≤n−1について、(k+1n)∣∇F∣≥(kn)∣F∣の形へ書き直せ。この形が定理 3.1の別証明を与える道筋を説明せよ。
- n=5について、濃度(25)=10の反鎖をすべて求め、定理 5.3と一致することを確かめよ。
9 扱った範囲と次の記事
本記事では、有限集合の冪集合における極大鎖との二重計数によって LYM 不等式を証明し、そこから Sperner の定理と最大反鎖の決定を導いた。無限集合の族、k本の鎖で覆われない族に関する一般化、および交わりに条件を課す極値集合論の結果は扱っていない。次の記事では、対象をグラフへ移し、次数についての条件からすべての頂点を通る閉路の存在を導く。