§E13.6Sperner の定理と LYM 不等式

最終更新

前の記事では、有限半順序集合の鎖分割と反鎖の関係を一般の形で扱った。本記事では、有限集合の冪集合という具体的な有限半順序集合を対象として、反鎖の濃度がどこまで大きくなることができるかを決定する。

答えは、[n]={1,…,n}[n]=\{1,\dots,n\}の部分集合からなる反鎖の濃度が(n⌊n/2⌋)\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}を超えないというものであり、これが Sperner の定理である。証明の道具は、冪集合の極大鎖と反鎖の間の二重計数であり、そこから Sperner の定理より強い LYM 不等式が得られる。さらに、濃度が(n⌊n/2⌋)\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}に達する反鎖が中央の階層に限ることを証明する。

半順序集合(P,≤)(P,\le)、鎖および反鎖については§D2.5 定義 3.1の定義を用いる。本記事は Dilworth の定理を用いず、二重計数によって独立に議論を進める。

1 冪集合の階層と極大鎖

以下、nnは正の整数とし、[n]={1,…,n}[n]=\{1,\dots,n\}とする。冪集合2[n]2^{[n]}に包含関係⊆\subseteqを入れると半順序集合になる。すなわち、包含関係は反射的、反対称的かつ推移的である。

定義 1.1.nnを正の整数とし、[n]={1,…,n}[n]=\{1,\dots,n\}とする。0≤k≤n0\le k\le nに対し([n]k)={A⊆[n]: ∣A∣=k}\binom{[n]}{k}=\{A\subseteq[n]:\ \lvert A\rvert=k\}を(2[n],⊆)(2^{[n]},\subseteq)の第kk階層 (level) という。

(2[n],⊆)(2^{[n]},\subseteq)の鎖C⊆2[n]\mathcal C\subseteq2^{[n]}が極大鎖 (maximal chain) であるとは、C\mathcal Cを真に含む鎖が存在しないことをいう。すなわち、包含に関して極大な鎖を極大鎖という。

§D2.2 命題 3.1より∣([n]k)∣=(nk)\left\lvert\binom{[n]}{k}\right\rvert=\binom nkである。以下ではこの等式を断りなく用いる。

極大鎖は、空集合から出発して一度に一つずつ元を加え、[n][n]に到達する列にほかならない。この形を確定してから、極大鎖の個数を数える。

命題 1.2.nnを正の整数とする。

  1. C⊆2[n]\mathcal C\subseteq2^{[n]}が極大鎖であることと、C={C0,C1,…,Cn}\mathcal C=\{C_0,C_1,\dots,C_n\}かつC0⊊C1⊊⋯⊊CnC_0\subsetneq C_1\subsetneq\dots\subsetneq C_nかつ∣Ci∣=i\lvert C_i\rvert=i(0≤i≤n)(0\le i\le n)という形に表されることは同値である。
  2. 極大鎖の全体と[n][n]の順列の全体の間に全単射が存在する。とくに極大鎖の総数はn!n!である。
  3. A⊆[n]A\subseteq[n]が∣A∣=k\lvert A\rvert=kを満たすとき、AAを元としてもつ極大鎖の総数はk! (n−k)!k!\,(n-k)!である。

証明. (1)の必要性.C\mathcal Cを極大鎖とする。C\mathcal Cの任意の二元は包含に関して比較可能であるから、C\mathcal Cの元を濃度の小さい順にC0⊊C1⊊⋯⊊CrC_0\subsetneq C_1\subsetneq\dots\subsetneq C_rと並べることができる。

C0=∅C_0=\varnothingである。実際、C0≠∅C_0\ne\varnothingならば∅\varnothingはC\mathcal Cのすべての元に含まれるのでC∪{∅}\mathcal C\cup\{\varnothing\}は鎖であり、∅∉C\varnothing\notin\mathcal C(C\mathcal Cの元のうち濃度が最小のものがC0≠∅C_0\ne\varnothingである)とあわせてC\mathcal Cを真に含む鎖となり、極大性に反する。同様にCr=[n]C_r=[n]である。

各iiについて∣Ci+1∣=∣Ci∣+1\lvert C_{i+1}\rvert=\lvert C_i\rvert+1である。実際、∣Ci+1∣≥∣Ci∣+2\lvert C_{i+1}\rvert\ge\lvert C_i\rvert+2と仮定してx∈Ci+1∖Cix\in C_{i+1}\setminus C_iを一つ取り、D=Ci∪{x}D=C_i\cup\{x\}と置くと、Ci⊊D⊊Ci+1C_i\subsetneq D\subsetneq C_{i+1}である。j≤ij\le iのときCj⊆Ci⊆DC_j\subseteq C_i\subseteq Dであり、j≥i+1j\ge i+1のときD⊆Ci+1⊆CjD\subseteq C_{i+1}\subseteq C_jであるから、DDはC\mathcal Cのすべての元と比較可能であり、C∪{D}\mathcal C\cup\{D\}は鎖である。さらにD∉CD\notin\mathcal Cである。実際、C\mathcal Cの元の濃度は∣C0∣<∣C1∣<⋯<∣Cr∣\lvert C_0\rvert<\lvert C_1\rvert<\dots<\lvert C_r\rvertと狭義単調に並び、∣Ci∣<∣D∣<∣Ci+1∣\lvert C_i\rvert<\lvert D\rvert<\lvert C_{i+1}\rvertを満たす濃度をもつC\mathcal Cの元は存在しないからである。ゆえにC∪{D}\mathcal C\cup\{D\}はC\mathcal Cを真に含む鎖であり、極大性に反する。

∣C0∣=0\lvert C_0\rvert=0、∣Cr∣=n\lvert C_r\rvert=n、および濃度が一つずつ増えることからr=nr=nかつ∣Ci∣=i\lvert C_i\rvert=iを得る。

(1)の十分性.C={C0,…,Cn}\mathcal C=\{C_0,\dots,C_n\}がC0⊊⋯⊊CnC_0\subsetneq\dots\subsetneq C_nかつ∣Ci∣=i\lvert C_i\rvert=iを満たすとする。C\mathcal Cは鎖である。極大性を示すために、B⊆[n]B\subseteq[n]がC\mathcal Cのすべての元と比較可能であるとする。k=∣B∣k=\lvert B\rvertと置くと0≤k≤n0\le k\le nであり、BBとCkC_kは比較可能であるからB⊆CkB\subseteq C_kまたはCk⊆BC_k\subseteq Bが成り立つ。いずれの場合も∣B∣=∣Ck∣=k\lvert B\rvert=\lvert C_k\rvert=kと有限性からB=Ck∈CB=C_k\in\mathcal Cである。ゆえにC\mathcal Cを真に含む鎖は存在しない。

(2)を示す。 極大鎖C={C0,…,Cn}\mathcal C=\{C_0,\dots,C_n\}に対し、Ci∖Ci−1C_i\setminus C_{i-1}は(1)(1)より一元集合であるから、その元をσ(i)\sigma(i)と書いて写像σ ⁣:[n]→[n]\sigma\colon[n]\to[n]を定める。集合C1∖C0,…,Cn∖Cn−1C_1\setminus C_0,\dots,C_n\setminus C_{n-1}は互いに素であるからσ\sigmaは単射であり、これらの合併がCn∖C0=[n]C_n\setminus C_0=[n]に等しいからσ\sigmaは全射である。ゆえにσ\sigmaは[n][n]の順列である。

逆に[n][n]の順列σ\sigmaに対しCi={σ(1),…,σ(i)}C_i=\{\sigma(1),\dots,\sigma(i)\}(C0=∅C_0=\varnothing)と定めると、∣Ci∣=i\lvert C_i\rvert=iかつCi−1⊊CiC_{i-1}\subsetneq C_iであるから(1)(1)より{C0,…,Cn}\{C_0,\dots,C_n\}は極大鎖である。二つの対応が互いに逆であることは、いずれの向きもCi={σ(1),…,σ(i)}C_i=\{\sigma(1),\dots,\sigma(i)\}という関係で結ばれることから従う。ゆえに極大鎖の全体と順列の全体の間に全単射が存在する。

§D2.2 命題 3.1より[n][n]の順列の総数はn!n!であり、§D2.2 命題 1.5より極大鎖の総数もn!n!である。

(3)を示す。 極大鎖C\mathcal CがAAを元としてもつこととCk=AC_k=Aが成り立つことは同値である。実際、A∈CA\in\mathcal CならばA=C∣A∣=CkA=C_{\lvert A\rvert}=C_kであり、逆は明らかである。(2)(2)の全単射のもとで、条件Ck=AC_k=Aは「σ\sigmaが{1,…,k}\{1,\dots,k\}をAAの上へ写す」ことと同値である。

このような順列σ\sigmaは、{1,…,k}\{1,\dots,k\}からAAへの全単射と、{k+1,…,n}\{k+1,\dots,n\}から[n]∖A[n]\setminus Aへの全単射の対によって定まり、逆にその対からσ\sigmaが定まる。§D2.2 命題 3.1より前者はk!k!個、後者は(n−k)!(n-k)!個であるから、§D2.2 定理 2.3と§D2.2 命題 1.5より、条件を満たす順列はk! (n−k)!k!\,(n-k)!個である。▨

2 二重計数の原理

同じ有限集合を二通りの方法で数えて等式を得る論法を二重計数という。以下で繰り返し用いるので、加法原理から明示的に導いておく。

命題 2.1 (二重計数の原理).XXとYYを有限集合とし、S⊆X×YS\subseteq X\times Yとする。x∈Xx\in Xに対しSx={y∈Y: (x,y)∈S}S_x=\{y\in Y:\ (x,y)\in S\}、y∈Yy\in Yに対しSy={x∈X: (x,y)∈S}S^y=\{x\in X:\ (x,y)\in S\}と定めると∣S∣=∑x∈X∣Sx∣=∑y∈Y∣Sy∣\lvert S\rvert=\sum_{x\in X}\lvert S_x\rvert=\sum_{y\in Y}\lvert S^y\rvertが成り立つ。

証明. 各x∈Xx\in Xに対しS∩({x}×Y)={x}×SxS\cap(\{x\}\times Y)=\{x\}\times S_xである。相異なるxxに対するこれらの集合は互いに素であり、その合併はSSに等しい。写像y↦(x,y)y\mapsto(x,y)はSxS_xから{x}×Sx\{x\}\times S_xへの全単射であるから、§D2.2 命題 1.5より∣{x}×Sx∣=∣Sx∣\lvert\{x\}\times S_x\rvert=\lvert S_x\rvertである。XXは有限であるから§D2.2 定理 2.1を適用して∣S∣=∑x∈X∣{x}×Sx∣=∑x∈X∣Sx∣\lvert S\rvert=\sum_{x\in X}\lvert\{x\}\times S_x\rvert=\sum_{x\in X}\lvert S_x\rvertを得る。YYの側についても、S∩(X×{y})=Sy×{y}S\cap(X\times\{y\})=S^y\times\{y\}として同じ議論を行えば∣S∣=∑y∈Y∣Sy∣\lvert S\rvert=\sum_{y\in Y}\lvert S^y\rvertを得る。▨

3 LYM 不等式

3.1 証明方針

極大鎖の全体をXX、考えている反鎖をA\mathcal Aとし、対の集合S={(C,A)∈X×A: A∈C}S=\{(\mathcal C,A)\in X\times\mathcal A:\ A\in\mathcal C\}を二通りに数える。極大鎖の側から数えると、鎖の二元は比較可能であり反鎖の相異なる二元は比較不能であるから、一つの極大鎖が含むA\mathcal Aの元は高々一つである。したがって∣S∣≤∣X∣=n!\lvert S\rvert\le\lvert X\rvert=n!となる。反鎖の側から数えると、命題 1.2 (3)により、A∈AA\in\mathcal Aごとの項は∣A∣! (n−∣A∣)!\lvert A\rvert!\,(n-\lvert A\rvert)!である。二つの表示を比べ、両辺をn!n!で割ると主張の形になる。

定理 3.1 (LYM 不等式).nnを正の整数とし、A\mathcal Aを[n][n]の部分集合からなる反鎖、すなわち(2[n],⊆)(2^{[n]},\subseteq)の反鎖とする。このとき∑A∈A(n∣A∣)−1≤1\sum_{A\in\mathcal A}\binom{n}{\lvert A\rvert}^{-1}\le1が成り立つ。

証明.XXを(2[n],⊆)(2^{[n]},\subseteq)の極大鎖の全体とする。命題 1.2 (2)よりXXは有限集合であり∣X∣=n!\lvert X\rvert=n!である。A⊆2[n]\mathcal A\subseteq2^{[n]}も有限集合である。S={(C,A)∈X×A: A∈C}S=\{(\mathcal C,A)\in X\times\mathcal A:\ A\in\mathcal C\}と置き、命題 2.1を適用する。

極大鎖ごとの計数.C∈X\mathcal C\in Xを固定する。SC={A∈A: A∈C}S_{\mathcal C}=\{A\in\mathcal A:\ A\in\mathcal C\}はC∩A\mathcal C\cap\mathcal Aに等しい。C\mathcal Cは鎖であるからその二元は比較可能であり、A\mathcal Aは反鎖であるからその相異なる二元は比較不能である。ゆえにC∩A\mathcal C\cap\mathcal Aが相異なる二元をもつことはなく、∣SC∣≤1\lvert S_{\mathcal C}\rvert\le1である。したがって∣S∣=∑C∈X∣SC∣≤∣X∣=n!.\lvert S\rvert=\sum_{\mathcal C\in X}\lvert S_{\mathcal C}\rvert\le\lvert X\rvert=n!.

反鎖の元ごとの計数.A∈AA\in\mathcal Aを固定し、k=∣A∣k=\lvert A\rvertと置く。SA={C∈X: A∈C}S^{A}=\{\mathcal C\in X:\ A\in\mathcal C\}であるから、命題 1.2 (3)より∣SA∣=k! (n−k)!\lvert S^{A}\rvert=k!\,(n-k)!である。したがって∣S∣=∑A∈A∣A∣! (n−∣A∣)!.\lvert S\rvert=\sum_{A\in\mathcal A}\lvert A\rvert!\,(n-\lvert A\rvert)!.

二つの表示を比べると∑A∈A∣A∣! (n−∣A∣)!≤n!\sum_{A\in\mathcal A}\lvert A\rvert!\,(n-\lvert A\rvert)!\le n!である。両辺を正の数n!n!で割り、§D2.2 命題 3.1の公式(nk)=n!k! (n−k)!,すなわちk! (n−k)!n!=(nk)−1\binom{n}{k}=\frac{n!}{k!\,(n-k)!},\qquad\text{すなわち}\qquad\frac{k!\,(n-k)!}{n!}=\binom{n}{k}^{-1}を用いると、主張の不等式を得る。▨

4 Sperner の定理

LYM 不等式から反鎖の濃度の上界を得るには、二項係数の最大値を知ればよい。

補題 4.1.nnを正の整数とし、0≤k≤n0\le k\le nとする。このとき(nk)≤(n⌊n/2⌋)\binom nk\le\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}が成り立つ。等号が成立するのは、nnが偶数のときk=n/2k=n/2の場合に限り、nnが奇数のときk=(n−1)/2k=(n-1)/2またはk=(n+1)/2k=(n+1)/2の場合に限る。

証明.1≤k≤n1\le k\le nとすると、§D2.2 命題 3.1の公式より(nk)(nk−1)=n! (k−1)! (n−k+1)!k! (n−k)! n!=n−k+1k\frac{\binom nk}{\binom{n}{k-1}}=\frac{n!\,(k-1)!\,(n-k+1)!}{k!\,(n-k)!\,n!}=\frac{n-k+1}{k}である。分母kkは正であるから、(nk)>(nk−1)  ⟺  k<n+12,(nk)=(nk−1)  ⟺  k=n+12,(nk)<(nk−1)  ⟺  k>n+12\binom nk>\binom{n}{k-1}\iff k<\frac{n+1}{2},\qquad\binom nk=\binom{n}{k-1}\iff k=\frac{n+1}{2},\qquad\binom nk<\binom{n}{k-1}\iff k>\frac{n+1}{2}が成り立つ。

nnが偶数のとき.n=2mn=2mと書くと(n+1)/2=m+12(n+1)/2=m+\tfrac12は整数ではない。したがって1≤k≤m1\le k\le mでは(nk)>(nk−1)\binom nk>\binom n{k-1}、m+1≤k≤nm+1\le k\le nでは(nk)<(nk−1)\binom nk<\binom n{k-1}である。ゆえに(n0)<(n1)<⋯<(nm)\binom n0<\binom n1<\dots<\binom nmかつ(nm)>(nm+1)>⋯>(nn)\binom nm>\binom n{m+1}>\dots>\binom nnであり、最大値はk=m=n/2=⌊n/2⌋k=m=n/2=\lfloor n/2\rfloorでのみ達成される。

nnが奇数のとき.n=2m+1n=2m+1と書くと(n+1)/2=m+1(n+1)/2=m+1である。したがって1≤k≤m1\le k\le mでは(nk)>(nk−1)\binom nk>\binom n{k-1}、k=m+1k=m+1では(nm+1)=(nm)\binom n{m+1}=\binom nm、m+2≤k≤nm+2\le k\le nでは(nk)<(nk−1)\binom nk<\binom n{k-1}である。ゆえに最大値はk=mk=mとk=m+1k=m+1でのみ達成される。m=(n−1)/2=⌊n/2⌋m=(n-1)/2=\lfloor n/2\rfloorかつm+1=(n+1)/2m+1=(n+1)/2であるから、主張の形になる。▨

系 4.2 (Sperner の定理).nnを正の整数とし、A\mathcal Aを[n][n]の部分集合からなる反鎖とすると∣A∣≤(n⌊n/2⌋)\lvert\mathcal A\rvert\le\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}が成り立つ。

証明.N=(n⌊n/2⌋)N=\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}と置く。補題 4.1より、各A∈AA\in\mathcal Aについて(n∣A∣)≤N\binom{n}{\lvert A\rvert}\le Nであり、両辺は正であるから(n∣A∣)−1≥N−1\binom{n}{\lvert A\rvert}^{-1}\ge N^{-1}が成り立つ。これをA∈AA\in\mathcal Aについて加えると∣A∣⋅N−1≤∑A∈A(n∣A∣)−1\lvert\mathcal A\rvert\cdot N^{-1}\le\sum_{A\in\mathcal A}\binom{n}{\lvert A\rvert}^{-1}となり、右辺は定理 3.1より11以下である。ゆえに∣A∣≤N\lvert\mathcal A\rvert\le Nを得る。▨

5 最大反鎖の決定

濃度が(n⌊n/2⌋)\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}に達する反鎖を決定する。nnが偶数のときは LYM 不等式だけで済むが、nnが奇数のときは中央の二つの階層が同じ大きさをもつため、階層の間の包含関係をもう一段細かく数える必要がある。そのための二つの補題を先に用意する。

補題 5.1.nnを正の整数、0≤k≤n−10\le k\le n-1とし、F⊆([n]k)\mathcal F\subseteq\binom{[n]}{k}とする。∇F={B∈([n]k+1): A⊆B を満たす A∈F が存在する}\nabla\mathcal F=\left\{B\in\binom{[n]}{k+1}:\ A\subseteq B\ \text{を満たす}\ A\in\mathcal F\ \text{が存在する}\right\}と定めると(n−k)∣F∣≤(k+1)∣∇F∣(n-k)\lvert\mathcal F\rvert\le(k+1)\lvert\nabla\mathcal F\rvertが成り立つ。等号が成立することと、∇F\nabla\mathcal Fのすべての元BBについてBBのkk元部分集合がすべてF\mathcal Fに属することは、同値である。

証明.S={(A,B)∈F×∇F: A⊆B}S=\{(A,B)\in\mathcal F\times\nabla\mathcal F:\ A\subseteq B\}と置き、命題 2.1を適用する。

A∈FA\in\mathcal Fを固定する。A⊆BA\subseteq Bかつ∣B∣=k+1\lvert B\rvert=k+1を満たすBBは、B=A∪{x}B=A\cup\{x\}(x∈[n]∖Ax\in[n]\setminus A)の形のものに限り、相異なるxxは相異なるBBを与える。∣[n]∖A∣=n−k\lvert[n]\setminus A\rvert=n-kであるから、そのようなBBはちょうどn−kn-k個ある。これらはいずれもA∈FA\in\mathcal Fを含むので∇F\nabla\mathcal Fに属する。ゆえに∣SA∣=n−k\lvert S_A\rvert=n-kであり∣S∣=∑A∈F∣SA∣=(n−k)∣F∣.\lvert S\rvert=\sum_{A\in\mathcal F}\lvert S_A\rvert=(n-k)\lvert\mathcal F\rvert.

B∈∇FB\in\nabla\mathcal Fを固定する。SB={A∈F: A⊆B}S^{B}=\{A\in\mathcal F:\ A\subseteq B\}はBBのkk元部分集合のうちF\mathcal Fに属するものの全体である。BBのkk元部分集合はBBから一元を取り除いたものに限るから、ちょうどk+1k+1個ある。ゆえに∣SB∣≤k+1\lvert S^{B}\rvert\le k+1であり∣S∣=∑B∈∇F∣SB∣≤(k+1)∣∇F∣.\lvert S\rvert=\sum_{B\in\nabla\mathcal F}\lvert S^{B}\rvert\le(k+1)\lvert\nabla\mathcal F\rvert.

二つを合わせて(n−k)∣F∣≤(k+1)∣∇F∣(n-k)\lvert\mathcal F\rvert\le(k+1)\lvert\nabla\mathcal F\rvertを得る。等号が成立することは、すべてのB∈∇FB\in\nabla\mathcal Fについて∣SB∣=k+1\lvert S^{B}\rvert=k+1が成り立つこと、すなわちBBのkk元部分集合がすべてF\mathcal Fに属することと同値である。▨

補題 5.2.nnを正の整数、0≤k≤n0\le k\le nとし、F⊆([n]k)\mathcal F\subseteq\binom{[n]}{k}は空でないとする。さらに、A∈FA\in\mathcal FとA′∈([n]k)A'\in\binom{[n]}{k}が∣A∩A′∣=k−1\lvert A\cap A'\rvert=k-1を満たすならばA′∈FA'\in\mathcal Fが成り立つと仮定する。このときF=([n]k)\mathcal F=\binom{[n]}{k}である。

証明. 非負整数ddについての累積帰納法(§D2.1 命題 1.2)で、次の主張を示す。

A∈FA\in\mathcal F、A′∈([n]k)A'\in\binom{[n]}{k}かつ∣A′∖A∣=d\lvert A'\setminus A\rvert=dならばA′∈FA'\in\mathcal Fである。

d=0d=0のとき、A′⊆AA'\subseteq Aかつ∣A′∣=∣A∣=k\lvert A'\rvert=\lvert A\rvert=kであるからA′=A∈FA'=A\in\mathcal Fである。

d≥1d\ge1とする。∣A∣=∣A′∣\lvert A\rvert=\lvert A'\rvertより∣A∖A′∣=∣A′∖A∣=d≥1\lvert A\setminus A'\rvert=\lvert A'\setminus A\rvert=d\ge1であるから、y∈A′∖Ay\in A'\setminus Aとx∈A∖A′x\in A\setminus A'を取ることができる。A′′=(A∖{x})∪{y}A''=(A\setminus\{x\})\cup\{y\}と置くと、x∈Ax\in Aかつy∉Ay\notin Aより∣A′′∣=k\lvert A''\rvert=kであり、A∩A′′=A∖{x}A\cap A''=A\setminus\{x\}より∣A∩A′′∣=k−1\lvert A\cap A''\rvert=k-1である。仮定よりA′′∈FA''\in\mathcal Fである。

x∉A′x\notin A'であるからA′∖(A∖{x})=A′∖AA'\setminus(A\setminus\{x\})=A'\setminus Aであり、y∈A′y\in A'であるからA′∖A′′=(A′∖A)∖{y}A'\setminus A''=(A'\setminus A)\setminus\{y\}となって∣A′∖A′′∣=d−1\lvert A'\setminus A''\rvert=d-1である。帰納法の仮定をA′′∈FA''\in\mathcal FとA′A'に適用するとA′∈FA'\in\mathcal Fを得る。

以上で主張が示された。F\mathcal Fは空でないのでA∈FA\in\mathcal Fを一つ取ることができ、任意のA′∈([n]k)A'\in\binom{[n]}{k}に対し∣A′∖A∣\lvert A'\setminus A\rvertは00以上kk以下の整数であるから、主張よりA′∈FA'\in\mathcal Fである。ゆえにF=([n]k)\mathcal F=\binom{[n]}{k}である。▨

5.1 証明方針

濃度が(n⌊n/2⌋)\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}である反鎖A\mathcal Aをとる。まず系 4.2の証明で用いた二つの不等式が同時に等号になることから、A\mathcal Aのすべての元の濃度が補題 4.1の等号を与える値に限られることを示す。nnが偶数のときは中央の階層がただ一つなので、濃度の比較だけで結論に到る。

nnが奇数のとき、n=2m+1n=2m+1と書き、A\mathcal Aを第mm階層の部分A1\mathcal A_1と第m+1m+1階層の部分A2\mathcal A_2へ分ける。反鎖であることから∇A1\nabla\mathcal A_1とA2\mathcal A_2は互いに素であり、いずれも第m+1m+1階層に含まれる。ここで補題 5.1をk=mk=mに対して用いるとn−k=k+1n-k=k+1となって∣A1∣≤∣∇A1∣\lvert\mathcal A_1\rvert\le\lvert\nabla\mathcal A_1\rvertが得られ、二つを合わせて∣A∣≤(nm+1)\lvert\mathcal A\rvert\le\binom{n}{m+1}を得る。仮定よりこれは等号であり、A1\mathcal A_1が補題 5.2の仮定を満たすことが従う。あとはA1\mathcal A_1が空であるかどうかで場合を分ければよい。

定理 5.3.nnを正の整数とし、A\mathcal Aを[n][n]の部分集合からなる反鎖とする。∣A∣=(n⌊n/2⌋)\lvert\mathcal A\rvert=\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}が成り立つことと、次が成り立つことは同値である。

  1. nnが偶数のとき、A=([n]n/2)\mathcal A=\binom{[n]}{n/2}である。
  2. nnが奇数のとき、A=([n](n−1)/2)\mathcal A=\binom{[n]}{(n-1)/2}またはA=([n](n+1)/2)\mathcal A=\binom{[n]}{(n+1)/2}である。

証明.N=(n⌊n/2⌋)N=\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}と置く。

十分性. 階層([n]k)\binom{[n]}{k}は反鎖である。実際、濃度の等しい相異なる二集合は、いずれも他方を含まないから比較不能である。nnが偶数のとき∣([n]n/2)∣=(nn/2)=N\left\lvert\binom{[n]}{n/2}\right\rvert=\binom{n}{n/2}=Nである。nnが奇数のとき、⌊n/2⌋=(n−1)/2\lfloor n/2\rfloor=(n-1)/2であり、§D2.2 命題 3.1の公式から(n(n+1)/2)=n!(n+12)!(n−12)!=(n(n−1)/2)=N\binom{n}{(n+1)/2}=\frac{n!}{\left(\frac{n+1}{2}\right)!\left(\frac{n-1}{2}\right)!}=\binom{n}{(n-1)/2}=Nであるから、いずれの階層も濃度NNの反鎖である。

必要性.∣A∣=N\lvert\mathcal A\rvert=Nとする。系 4.2の証明に現れる二つの不等式を並べると1≥∑A∈A(n∣A∣)−1≥∣A∣⋅N−1=11\ge\sum_{A\in\mathcal A}\binom{n}{\lvert A\rvert}^{-1}\ge\lvert\mathcal A\rvert\cdot N^{-1}=1であるから、両方が等号である。とくに右側の等号は、各A∈AA\in\mathcal Aについて(n∣A∣)−1=N−1\binom{n}{\lvert A\rvert}^{-1}=N^{-1}、すなわち(n∣A∣)=N\binom{n}{\lvert A\rvert}=Nが成り立つことを意味する。補題 4.1の等号成立条件より、nnが偶数ならばすべてのA∈AA\in\mathcal Aが∣A∣=n/2\lvert A\rvert=n/2を満たし、nnが奇数ならばすべてのA∈AA\in\mathcal Aが∣A∣∈{(n−1)/2,(n+1)/2}\lvert A\rvert\in\{(n-1)/2,(n+1)/2\}を満たす。

nnが偶数の場合.A⊆([n]n/2)\mathcal A\subseteq\binom{[n]}{n/2}であり、両者の濃度はともにNNである。有限集合であるからA=([n]n/2)\mathcal A=\binom{[n]}{n/2}を得る。

nnが奇数の場合.n=2m+1n=2m+1と書く。⌊n/2⌋=m\lfloor n/2\rfloor=mであり、上で見たとおり(nm)=(nm+1)=N\binom nm=\binom n{m+1}=Nである。A1=A∩([n]m),A2=A∩([n]m+1)\mathcal A_1=\mathcal A\cap\binom{[n]}{m},\qquad\mathcal A_2=\mathcal A\cap\binom{[n]}{m+1}と置くと、上で示したことからA=A1∪A2\mathcal A=\mathcal A_1\cup\mathcal A_2であり、二つは互いに素であるから§D2.2 定理 2.1より∣A∣=∣A1∣+∣A2∣\lvert\mathcal A\rvert=\lvert\mathcal A_1\rvert+\lvert\mathcal A_2\rvertである。

∇A1∩A2=∅\nabla\mathcal A_1\cap\mathcal A_2=\varnothingである。実際、BBが両方に属するとすると、A⊆BA\subseteq Bを満たすA∈A1A\in\mathcal A_1が存在し、∣A∣=m<m+1=∣B∣\lvert A\rvert=m<m+1=\lvert B\rvertよりA⊊BA\subsetneq Bである。AAとBBはともにA\mathcal Aに属するから、これはA\mathcal Aが反鎖であることに反する。

∇A1\nabla\mathcal A_1とA2\mathcal A_2はいずれも([n]m+1)\binom{[n]}{m+1}に含まれ互いに素であるから∣∇A1∣+∣A2∣≤(nm+1)=N\lvert\nabla\mathcal A_1\rvert+\lvert\mathcal A_2\rvert\le\binom{n}{m+1}=Nである。また補題 5.1をk=mk=mに対して適用すると、n−k=(2m+1)−m=m+1=k+1n-k=(2m+1)-m=m+1=k+1であるから(m+1)∣A1∣≤(m+1)∣∇A1∣,すなわち∣A1∣≤∣∇A1∣(m+1)\lvert\mathcal A_1\rvert\le(m+1)\lvert\nabla\mathcal A_1\rvert,\qquad\text{すなわち}\qquad\lvert\mathcal A_1\rvert\le\lvert\nabla\mathcal A_1\rvertを得る。以上を合わせるとN=∣A∣=∣A1∣+∣A2∣≤∣∇A1∣+∣A2∣≤NN=\lvert\mathcal A\rvert=\lvert\mathcal A_1\rvert+\lvert\mathcal A_2\rvert\le\lvert\nabla\mathcal A_1\rvert+\lvert\mathcal A_2\rvert\le Nであるから、二つの不等号はいずれも等号である。

A1=∅\mathcal A_1=\varnothingの場合、∣A2∣=N=(nm+1)\lvert\mathcal A_2\rvert=N=\binom n{m+1}でありA2⊆([n]m+1)\mathcal A_2\subseteq\binom{[n]}{m+1}であるからA=A2=([n]m+1)=([n](n+1)/2)\mathcal A=\mathcal A_2=\binom{[n]}{m+1}=\binom{[n]}{(n+1)/2}である。

A1≠∅\mathcal A_1\ne\varnothingの場合、∣A1∣=∣∇A1∣\lvert\mathcal A_1\rvert=\lvert\nabla\mathcal A_1\rvertが成り立つので、補題 5.1の等号成立条件より、∇A1\nabla\mathcal A_1のすべての元BBについてBBのmm元部分集合はすべてA1\mathcal A_1に属する。これを用いてA1\mathcal A_1が補題 5.2の仮定を満たすことを示す。A∈A1A\in\mathcal A_1とA′∈([n]m)A'\in\binom{[n]}{m}が∣A∩A′∣=m−1\lvert A\cap A'\rvert=m-1を満たすとする。このとき∣A∪A′∣=∣A∣+∣A′∣−∣A∩A′∣=m+m−(m−1)=m+1\lvert A\cup A'\rvert=\lvert A\rvert+\lvert A'\rvert-\lvert A\cap A'\rvert=m+m-(m-1)=m+1であり、B=A∪A′B=A\cup A'はA∈A1A\in\mathcal A_1を含むからB∈∇A1B\in\nabla\mathcal A_1である。A′A'はBBのmm元部分集合であるからA′∈A1A'\in\mathcal A_1である。

ゆえに補題 5.2よりA1=([n]m)\mathcal A_1=\binom{[n]}{m}である。このとき([n]m+1)\binom{[n]}{m+1}の任意の元BBはmm元部分集合をもち、それはA1\mathcal A_1に属するからB∈∇A1B\in\nabla\mathcal A_1であり、∇A1=([n]m+1)\nabla\mathcal A_1=\binom{[n]}{m+1}となる。A2\mathcal A_2は([n]m+1)\binom{[n]}{m+1}に含まれ∇A1\nabla\mathcal A_1と互いに素であるからA2=∅\mathcal A_2=\varnothingであり、A=A1=([n]m)=([n](n−1)/2)\mathcal A=\mathcal A_1=\binom{[n]}{m}=\binom{[n]}{(n-1)/2}を得る。▨

6 具体例

例 6.1 (n=3n=3とn=4n=4での検算). n=3n=3の場合.⌊3/2⌋=1\lfloor3/2\rfloor=1であり(31)=3\binom31=3である。極大鎖の総数は3!=63!=6であり、実際に∅⊂{1}⊂{1,2}⊂{1,2,3},∅⊂{1}⊂{1,3}⊂{1,2,3},∅⊂{2}⊂{1,2}⊂{1,2,3},\varnothing\subset\{1\}\subset\{1,2\}\subset\{1,2,3\},\qquad\varnothing\subset\{1\}\subset\{1,3\}\subset\{1,2,3\},\qquad\varnothing\subset\{2\}\subset\{1,2\}\subset\{1,2,3\},∅⊂{2}⊂{2,3}⊂{1,2,3},∅⊂{3}⊂{1,3}⊂{1,2,3},∅⊂{3}⊂{2,3}⊂{1,2,3}\varnothing\subset\{2\}\subset\{2,3\}\subset\{1,2,3\},\qquad\varnothing\subset\{3\}\subset\{1,3\}\subset\{1,2,3\},\qquad\varnothing\subset\{3\}\subset\{2,3\}\subset\{1,2,3\}の66本である。A={1}A=\{1\}を含む極大鎖は上の第1と第2の22本であり、∣A∣! (n−∣A∣)!=1!⋅2!=2\lvert A\rvert!\,(n-\lvert A\rvert)!=1!\cdot2!=2と一致する。

反鎖A={{1},{2,3}}\mathcal A=\{\{1\},\{2,3\}\}に対する LYM 不等式の左辺は(31)−1+(32)−1=13+13=23≤1\binom31^{-1}+\binom32^{-1}=\frac13+\frac13=\frac23\le1であり、濃度は2≤32\le3である。この反鎖に{2}\{2\}を加えることはできない。{2}⊊{2,3}\{2\}\subsetneq\{2,3\}となるからである。二つの階層にまたがる反鎖が濃度33に達しないことは、定理 5.3から従う。一方、階層そのものであるA={{1},{2},{3}}\mathcal A=\{\{1\},\{2\},\{3\}\}とA={{1,2},{1,3},{2,3}}\mathcal A=\{\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}\}は、いずれも濃度33の反鎖であり、LYM 不等式の左辺は3⋅13=13\cdot\frac13=1となって等号が成立する。n=3n=3は奇数であるから、定理 5.3が主張するとおり最大反鎖はこの二つに限る。

n=4n=4の場合.⌊4/2⌋=2\lfloor4/2\rfloor=2であり(42)=6\binom42=6である。第22階層{1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4}\{1,2\},\{1,3\},\{1,4\},\{2,3\},\{2,4\},\{3,4\}は濃度66の反鎖であり、LYM 不等式の左辺は6⋅(42)−1=6⋅16=16\cdot\binom42^{-1}=6\cdot\frac16=1で等号が成立する。一方、反鎖A={{1},{2,3},{2,4},{3,4}}\mathcal A=\{\{1\},\{2,3\},\{2,4\},\{3,4\}\}の左辺は(41)−1+3⋅(42)−1=14+36=14+12=34≤1\binom41^{-1}+3\cdot\binom42^{-1}=\frac14+\frac36=\frac14+\frac12=\frac34\le1であり、濃度は4≤64\le6である。n=4n=4は偶数であるから、濃度66の反鎖は第22階層に限る。

補題 5.1の検算.n=3n=3、k=1k=1、F={{1},{2}}\mathcal F=\{\{1\},\{2\}\}とすると∇F={{1,2},{1,3},{2,3}}\nabla\mathcal F=\{\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}\}である。不等式の左辺は(n−k)∣F∣=2⋅2=4(n-k)\lvert\mathcal F\rvert=2\cdot2=4、右辺は(k+1)∣∇F∣=2⋅3=6(k+1)\lvert\nabla\mathcal F\rvert=2\cdot3=6であり4≤64\le6が成り立つ。等号は成立しない。実際、{1,3}\{1,3\}の11元部分集合{3}\{3\}はF\mathcal Fに属さない。

7 演習

問題 7.1.

  1. 定理 3.1の証明で、∣SC∣≤1\lvert S_{\mathcal C}\rvert\le1を示す一手を書き下せ。さらに、A\mathcal Aが反鎖であるという仮定を「A\mathcal Aは2[n]2^{[n]}の部分族である」に弱めると、この一手のどこが破綻するかを述べよ。
  2. 命題 1.2 (3)を、(2)(2)の全単射を用いずに、極大鎖をAAの内側と外側へ分けて数える方法で証明せよ。
  3. 系 4.2の証明を、LYM 不等式を経由せずに、極大鎖との二重計数から直接∣A∣≤(n⌊n/2⌋)\lvert\mathcal A\rvert\le\binom{n}{\lfloor n/2\rfloor}を導く形へ書き換えよ。どの段階で補題 4.1を用いることになるかを明示せよ。
  4. 定理 5.3の証明のうち、nnが奇数でA1≠∅\mathcal A_1\ne\varnothingの場合を、A2\mathcal A_2の側から出発する形へ設計し直せ。すなわち、第m+1m+1階層から第mm階層へ下げる操作に対する補題 5.1の類似を定式化して証明し、それを用いて同じ結論を導け。
  5. 補題 5.1を一般の0≤k≤n−10\le k\le n-1について、∣∇F∣(nk+1)≥∣F∣(nk)\dfrac{\lvert\nabla\mathcal F\rvert}{\binom{n}{k+1}}\ge\dfrac{\lvert\mathcal F\rvert}{\binom nk}の形へ書き直せ。この形が定理 3.1の別証明を与える道筋を説明せよ。
  6. n=5n=5について、濃度(52)=10\binom52=10の反鎖をすべて求め、定理 5.3と一致することを確かめよ。

9 扱った範囲と次の記事

本記事では、有限集合の冪集合における極大鎖との二重計数によって LYM 不等式を証明し、そこから Sperner の定理と最大反鎖の決定を導いた。無限集合の族、kk本の鎖で覆われない族に関する一般化、および交わりに条件を課す極値集合論の結果は扱っていない。次の記事では、対象をグラフへ移し、次数についての条件からすべての頂点を通る閉路の存在を導く。

参考文献

  1. J. H. van Lint and R. M. Wilson, A Course in Combinatorics, 2nd ed., Cambridge University Press, 2001.反鎖に関する極値問題、LYM 不等式および Sperner の定理の定式化を参考にした。
  2. Ian Anderson, Combinatorics of Finite Sets, Dover Publications, Mineola, N.Y., 2002, originally published 1987.Sperner の定理、LYM 不等式、最大反鎖の等号成立条件、階層の間の包含関係に対する二重計数、および正規化マッチング性を参考にした。
  3. Martin Aigner and Günter M. Ziegler, Proofs from THE BOOK, 6th ed., Springer, Berlin, 2018.極大鎖との二重計数による Sperner の定理の証明の構成を参考にした。

前提記事