1 指数関数の逆関数として定める
全単射である写像には逆写像が定まります(§B2.7 定理 3.1)。そこで、指数関数が全単射であることを先に確かめます。
定理 1.1 (指数関数は全単射である).a>0、a=1とする。指数関数expa:R→(0,∞)は全単射である。
証明.§B3.4 定理 4.1により、a>1のときexpaは狭義単調増加であり、0<a<1のときexpaは狭義単調減少です。x1<x2を満たす二つの実数x1、x2をとると、a>1のときはax1<ax2、0<a<1のときはax1>ax2となるので、どちらの場合もexpa(x1)=expa(x2)です。相異なる二つの実数の像がつねに相異なるので、expaは単射です。また§B3.4 定理 4.1によりexpaの値域は正の数全体(0,∞)に一致するので、expaは(0,∞)への全射です。単射でありかつ全射なので、§B2.7 定義 2.1の意味でexpaは全単射です。▨
定義 1.2 (対数関数).a>0、a=1とする。定理 1.1と§B2.7 定理 3.1により、指数関数expa:R→(0,∞)には逆写像が定まる。この逆写像を、aを底とする対数関数といい
loga:(0,∞)→Rと書く。正の数Mに対する値logaMを、aを底とするMの対数といい、Mを真数という。逆写像の定義により、正の数Mと実数pについて
logaM=p⟺ap=Mが成り立つ。
この定義には、二つの条件が伴います。
底の条件はa>0かつa=1です。§B3.3 定義 4.1は底が正の数である場合にだけaxを定めているので、a≤0のときは指数関数そのものがありません。a=1のときは、すべての実数xについて1x=1となり、exp1の値域は1だけからなる集合なので、exp1は(0,∞)への全射ではありません。したがって、a=1のときも逆写像は定まりません。
真数条件はM>0です。定義 1.2によりlogaの定義域は(0,∞)なので、loga0と、負の数を真数とする対数は、実数の範囲では定まりません。式の中にloga(x−1)が現れる場合、その式が定義されるためにはx>1が必要です。この条件を落とすと、元の式が定義されない値を解として答えることになります。
例 1.3 (対数の値).定義 1.2の同値関係を用いると、次の値が求まる。
- 23=8なのでlog28=3である。
- 2−3=81なのでlog281=−3である。
- 101/2=10なのでlog1010=21である。
- 93/2=(9)3=27なのでlog927=23である。
- どの底aについてもa0=1、a1=aなので、loga1=0、logaa=1である。
2 積、商、累乗についての性質
指数法則§B3.3 定理 6.1を、定義 1.2の同値関係を通して読み直すと、対数についての三つの等式が得られます。
定理 2.1 (対数の性質).a>0、a=1とする。すべての正の数M、Nと、すべての実数rについて次が成り立つ。
- loga(MN)=logaM+logaN
- logaNM=logaM−logaN
- loga(Mr)=rlogaM
証明.p=logaM、q=logaNと置きます。定義 1.2によりap=M、aq=Nです。
1 について。§B3.3 定理 6.1の指数法則によりap+q=apaq=MNです。MとNが正の数なのでMNも正の数であり、定義 1.2によりloga(MN)=p+qです。
2 について。同じくap−q=aqap=NMであり、NMは正の数なのでlogaNM=p−qです。
3 について。Mが正の数なので、実数rに対するMrは§B3.3 定義 4.1によって定まり、その値は正の数です。§B3.3 定理 6.1の指数法則によりapr=(ap)r=Mrなので、定義 1.2によりloga(Mr)=prです。▨
3 の等式は、M>0という仮定の下でのものです。Mが負の数のときはMrが実数の範囲で定まるとは限らず、logaMも定まりません。とくにr=2の場合、M=0であればM2>0なのでloga(M2)は定まりますが、その値が2logaMに等しいのはM>0のときだけです。M<0のときは∣M∣>0からloga(M2)=loga(∣M∣2)=2loga∣M∣となります。
底の変換公式は、3 の等式から導かれます。
証明.p=logaMと置くと、定義 1.2によりap=Mです。両辺のbを底とする対数をとり、定理 2.1の 3 を用いると
logbM=logb(ap)=plogbaとなります。ここでlogba=0です。実際、logba=0とすると定義 1.2によりa=b0=1となり、仮定a=1に反します。したがって両辺をlogbaで割ることができて、p=logbalogbMを得ます。▨
例 2.3 (底の変換公式の使い方). 底を2にそろえると、25=32と23=8からlog232=5、log28=3なので
log832=log28log232=35である。また、公式 2.2でM=bと置くとlogab=logbalogbb=logba1となるので、logabとlogbaは互いに逆数である。
底をa1に取り替えた場合も同じ公式から求まる。logaa1=−1なので
log1/aM=logaa1logaM=−logaMである。すなわち、底を逆数に取り替えると、対数の値は符号だけが変わる。
3 グラフ
定義 1.2によりlogaはexpaの逆写像なので、点(x,y)がy=axのグラフの上にあることと、点(y,x)がy=logaxのグラフの上にあることは同値です。座標平面において点(x,y)を点(y,x)に移す操作は直線y=xについての対称移動なので、y=logaxのグラフは、y=axのグラフを直線y=xについて対称に移したものです。
横軸は真数x、縦軸は対数の値yです。この図は表示範囲の内側だけを描いており、0<x<0.002の部分と表示範囲の外は描かれていません。また、スライダーが動く範囲は1.2≤a≤4なので、この図はa>1の場合だけを表しています。定義域が(0,∞)であることと値域がRであることは定義 1.2から従い、増減の向きは次の定理から従います。
定理 3.1 (対数関数の狭義単調性).a>0、a=1とする。a>1のときlogaは(0,∞)で狭義単調増加であり、0<a<1のときlogaは(0,∞)で狭義単調減少である。
証明.a>1の場合を示します。0<M<Nを満たす二つの正の数M、Nをとり、p=logaM、q=logaNと置きます。定義 1.2によりap=M、aq=Nです。ここでp≥qと仮定すると、§B3.4 定理 4.1によりexpaは狭義単調増加ですからap≥aq、すなわちM≥Nとなり、M<Nに反します。したがってp<q、すなわちlogaM<logaNです。
0<a<1の場合は、§B3.4 定理 4.1によりexpaが狭義単調減少ですから、同じ形の議論でp≤qを仮定するとM≥Nが出て矛盾します。したがってp>q、すなわちlogaM>logaNです。▨
a>1のときと0<a<1のときのグラフの関係は、例 2.3で確かめたlog1/aM=−logaMから従います。すなわち、y=log1/axのグラフは、y=logaxのグラフをx軸について対称に移したものです。
4 対数を含む方程式と不等式
対数を含む方程式や不等式を解くときは、変形を始める前に真数条件と底の条件を書き出します。定理 2.1を用いる変形は真数がすべて正の数である場合の等式に基づくので、最後に、得られた候補が真数条件を満たすかどうかを確かめます。
例 4.1 (対数を含む方程式). 方程式log2(x−1)+log2(x−3)=3を解く。
真数条件はx−1>0かつx−3>0、すなわちx>3である。この範囲で定理 2.1の 1 により左辺はlog2{(x−1)(x−3)}に等しい。定義 1.2により
(x−1)(x−3)=23=8であり、整理するとx2−4x−5=0、すなわち(x−5)(x+1)=0である。したがってx=5またはx=−1が候補となる。真数条件x>3を満たすのはx=5だけなので、解はx=5である。
x=5を元の方程式へ代入するとlog24+log22=2+1=3となり、確かに成り立つ。
例 4.2 (対数を含む不等式). 不等式log1/3(x−2)>−1を解く。
真数条件はx−2>0、すなわちx>2である。(31)−1=3なので定義 1.2により−1=log1/33であり、不等式はlog1/3(x−2)>log1/33と書き直される。底は31であって0<31<1を満たすので、定理 3.1によりlog1/3は狭義単調減少である。したがって、真数条件x−2>0の下で、この不等式はx−2<3と同値である。すなわちx<5である。真数条件と合わせて、解は2<x<5である。
底が1より大きい場合は不等号の向きが変わらない。たとえばlog3(x−2)>−1の解は、−1=log331と定理 3.1からx−2>31、すなわちx>37である。
5 性質を用いた変形で定義域が変わる
定理 2.1の等式は、真数がすべて正の数であるという仮定の下でのものです。この仮定を確かめずに式を変形すると、変形の前後で定義域が変わります。
例 5.1 (変形の前後で定義域が変わる例). 式log10x+log10(x−1)が定義されるのは、x>0かつx−1>0、すなわちx>1のときである。一方、式log10{x(x−1)}が定義されるのはx(x−1)>0、すなわちx<0またはx>1のときである。定理 2.1の 1 は真数がともに正の数である場合の等式なので、二つの式が等しいのはx>1の範囲に限られる。
この差は解の個数に現れる。方程式log10{x(x−1)}=log102は、真数条件x(x−1)>0の下でx(x−1)=2と同値であり、x2−x−2=0からx=2とx=−1が得られる。x=2ではx(x−1)=2>0、x=−1でもx(x−1)=2>0なので、どちらも真数条件を満たし、解は二つである。
一方、方程式log10x+log10(x−1)=log102の真数条件はx>1である。x=−1はこの条件を満たさないので、解はx=2だけである。
対数の和を一つの対数へまとめる変形は、このように、式が定義される範囲を広げる場合があります。そこで、変形を始める前に書き出した真数条件を最後まで保ち、得られた候補を必ずその条件と照合します。
閑話休題:対数を尺度に用いる 対数は、量そのものではなく、同じ種類の量の比を表す尺度にも用いられます。BIPM の SI Brochure は、参照値X0に対する比X/X0を用いる対数比量について
LX=10log10X0X dBという読み方を示しています。ただし、何の量Xを比較するかと参照値X0を併記しなければ、数値だけでは尺度が定まりません。音響で振幅に相当する量を用いる場合には係数が20となる表し方もあるため、「デシベルは常に一つの量の常用対数を10倍する」と一般化することはできません。
IUPAC は pH を、水溶液中の水素イオンの相対活量a(H+)によって
pH=−log10a(H+)と定義しています。濃度だけの負の常用対数とする式は、活量係数を省略する近似であって、pH の定義そのものではありません。
地震のマグニチュードにも複数の種類があります。USGS が示す表では、実体波マグニチュードは振幅と周期の比の常用対数に距離と震源の深さによる補正を加え、モーメントマグニチュードは地震モーメントの常用対数から定めます。したがって、「観測振幅の常用対数」という説明だけでは、適用する方式と観測条件が不足します。
対数を積の計算へ用いる構想は、ネイピアが1614年に刊行した
Mirifici logarithmorum canonis descriptio に、説明と数表を伴う形で示されています。定理 2.1の 1 により、積の計算を二つの対数の和へ置き換えることができます。ここで述べた標準上の定義、測定条件、および刊行年は、frontmatter に掲げた資料で2026年7月29日に確認しました。