§B2.7単射・全射・全単射と逆写像

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これまでの記事では、関数を定義域の各要素に値をただ一つ対応させる規則として扱ってきました。本記事では、これに終域という第三の要素を加えて写像として捉え直します。そのうえで、異なる入力が異なる値をとることを単射、終域のどの要素も値としてあらわれることを全射と定め、その両方が成り立つ写像には、対応を逆向きにたどる写像がただ一つ定まることを示します。最後に、定義域を狭めるか、終域を値域に取り替えることで、全単射でない写像から全単射を作る操作を確かめます。

1 写像、終域、値域

関数を式だけで与えると、値が動く先の集合が定まりません。f(x)=x2f(x) = x^2という式は、値が実数全体を動く対応とも、00以上の実数を動く対応とも読むことができます。以下で扱う単射と全射の区別は、この「値が動く先の集合」をどう定めたかによって変わるので、はじめに三つの集合を分けて名前を付けます。

定義 1.1 (写像・定義域・終域・値域).XX、YYを空でない集合とする。XXの各要素xxに対してYYの要素をただ一つ定める規則ffを、XXからYYへの写像といい、f:X→Yf : X \to Yと書く。xxに定まるYYの要素をf(x)f(x)と書く。このときXXをffの定義域、YYをffの終域という。また、XXの要素xxの全体に対するf(x)f(x)を集めた集合

f(X)={ f(x)∣x∈X }f(X) = \{\,f(x) \mid x \in X\,\}

をffの値域という。値域は終域の部分集合である。

注意 1.2 (終域と値域は別のものである). 終域は、写像を与えるときに書き手が定める集合であり、値域は、定義域のすべての要素から実際に定まる値を集めた集合である。値域は終域に含まれるが、等しいとは限らない。したがって、同じ式で与えられる対応であっても、終域の取り方が違えば別の写像として扱う。

例 1.3 (終域を変えると別の写像になる).f:R→Rf : \mathbb{R} \to \mathbb{R}をf(x)=x2f(x) = x^2で定める。すべての実数xxについてx2≥0x^2 \ge 0であり、00以上の実数yyに対してはx=yx = \sqrt{y}がx2=yx^2 = yを満たすので、値域はf(R)=[0, ∞)f(\mathbb{R}) = [0,\,\infty)である。終域R\mathbb{R}と値域[0, ∞)[0,\,\infty)は一致しない。

同じ式でg:R→[0, ∞)g : \mathbb{R} \to [0,\,\infty)をg(x)=x2g(x) = x^2と定めると、ggの終域は[0, ∞)[0,\,\infty)であり、値域と一致する。ffとggは、終域が異なるので別の写像である。

2 単射・全射・全単射

定義 2.1 (単射・全射・全単射).f:X→Yf : X \to Yを写像とする。

  1. XXのどの二つの要素x1x_1、x2x_2についても、x1≠x2x_1 \ne x_2ならばf(x1)≠f(x2)f(x_1) \ne f(x_2)が成り立つとき、ffは単射であるという。
  2. YYのどの要素yyについても、f(x)=yf(x) = yを満たすXXの要素xxが少なくとも一つ存在するとき、ffは全射であるという。
  3. ffが単射であり、かつ全射であるとき、ffは全単射であるという。

単射の条件は、対偶をとると「f(x1)=f(x2)f(x_1) = f(x_2)ならばx1=x2x_1 = x_2」となります。値が等しいことから入力が等しいことを導く形なので、証明ではこちらを用いることが多くあります。全射の条件は、値域を用いるとf(X)=Yf(X) = Yと書き直すことができます。値域はつねに終域に含まれるので、全射であることは、終域の側が値域に含まれること、すなわちY⊆f(X)Y \subseteq f(X)と同じです。

XXとYYがどちらも実数の部分集合である場合には、この二つの条件をグラフから読み取ることができます。YYの要素ccをとり、水平な直線y=cy = cとffのグラフとの共有点を数えます。ffが単射であることは、YYのどの要素ccについても共有点が多くとも1個であることにあたり、ffが全射であることは、YYのどの要素ccについても共有点が少なくとも1個あることにあたります。

この図は、f(x)=x2f(x) = x^2について、値44を与えるxxが22と−2-2の二つあること、値−1-1を与える実数xxが無いことを示しています。前者はf:R→Rf : \mathbb{R} \to \mathbb{R}が単射でないことに、後者は全射でないことに対応します。ただし、図は表示範囲の外を描いていないので、これらは次の例で式によって確かめます。

例 2.2 (単射性と全射性の判定).f:R→Rf : \mathbb{R} \to \mathbb{R}をf(x)=2x+1f(x) = 2x + 1で定める。f(x1)=f(x2)f(x_1) = f(x_2)とすると2x1+1=2x2+12x_1 + 1 = 2x_2 + 1からx1=x2x_1 = x_2となるので、ffは単射である。また、実数yyを任意にとるとx=y−12x = \dfrac{y-1}{2}は実数であってf(x)=yf(x) = yを満たすので、ffは全射である。よってffは全単射である。

g:R→Rg : \mathbb{R} \to \mathbb{R}をg(x)=x2g(x) = x^2で定める。2≠−22 \ne -2であるのにg(2)=g(−2)=4g(2) = g(-2) = 4であるから、ggは単射でない。また、y=−1y = -1に対しては、すべての実数xxがx2≥0>−1x^2 \ge 0 > -1を満たすのでg(x)=−1g(x) = -1となるxxは存在せず、ggは全射でない。

3 逆写像

全単射である写像については、値から入力をただ一つ定めることができます。この対応が写像になることを示すのが、次の定理です。単射性は、値を与える入力が多くとも一つであることを保証し、全射性は、値を与える入力が少なくとも一つ存在することを保証します。両方が成り立つときにはじめて、値を与える入力がただ一つであると述べることができます。

定理 3.1 (全単射である写像の逆写像).f:X→Yf : X \to Yを全単射とする。このとき、

g(f(x))=x(すべての x∈X),f(g(y))=y(すべての y∈Y)g(f(x)) = x \quad (\text{すべての } x \in X), \qquad f(g(y)) = y \quad (\text{すべての } y \in Y)

をともに満たす写像g:Y→Xg : Y \to Xがただ一つ存在する。このggをffの逆写像といい、f−1f^{-1}と書く。さらに、f−1f^{-1}も全単射であり、f−1f^{-1}の逆写像はffである。

証明. はじめに、条件を満たす写像が存在することを示します。YYの要素yyを任意にとります。ffは全射であるから、f(x)=yf(x) = yを満たすXXの要素xxが少なくとも一つ存在します。また、f(x1)=yf(x_1) = yとf(x2)=yf(x_2) = yを満たすXXの要素x1x_1、x2x_2があればf(x1)=f(x2)f(x_1) = f(x_2)であり、ffは単射であるからx1=x2x_1 = x_2です。したがって、f(x)=yf(x) = yを満たすXXの要素xxはただ一つに定まります。そこで、各y∈Yy \in Yに対してこの唯一のxxを対応させる規則をggと書くと、ggはYYからXXへの写像です。定め方から、すべてのy∈Yy \in Yについてf(g(y))=yf(g(y)) = yが成り立ちます。また、XXの要素xxを任意にとってy=f(x)y = f(x)と置くと、g(y)g(y)はffによる値がyyとなる唯一の要素であり、xxもその条件を満たすのでg(y)=xg(y) = x、すなわちg(f(x))=xg(f(x)) = xです。

次に、条件を満たす写像がただ一つであることを示します。g1:Y→Xg_1 : Y \to Xとg2:Y→Xg_2 : Y \to Xがともに二つの条件を満たすとします。YYの要素yyを任意にとると、g1g_1についての条件からf(g1(y))=yf(g_1(y)) = yです。g2g_2についての条件をXXの要素g1(y)g_1(y)に適用するとg2(f(g1(y)))=g1(y)g_2(f(g_1(y))) = g_1(y)となり、左辺はg2(y)g_2(y)に等しいのでg2(y)=g1(y)g_2(y) = g_1(y)です。yyはYYの任意の要素であったから、g1g_1とg2g_2は写像として等しくなります。

最後に、f−1f^{-1}が全単射であることを示します。YYの要素y1y_1、y2y_2についてf−1(y1)=f−1(y2)f^{-1}(y_1) = f^{-1}(y_2)とすると、両辺にffを施してy1=f(f−1(y1))=f(f−1(y2))=y2y_1 = f(f^{-1}(y_1)) = f(f^{-1}(y_2)) = y_2となるので、f−1f^{-1}は単射です。また、XXの要素xxを任意にとってy=f(x)y = f(x)と置くとf−1(y)=f−1(f(x))=xf^{-1}(y) = f^{-1}(f(x)) = xとなるので、f−1f^{-1}は全射です。よってf−1f^{-1}は全単射です。f−1f^{-1}の逆写像については、上の二つの条件でffとf−1f^{-1}の役割を入れ替えた式が、いま示した二つの等式そのものです。逆写像はただ一つであるから、f−1f^{-1}の逆写像はffです。▨

注意 3.2 (合成を用いた言い換え). 集合XXの各要素xxにxx自身を対応させる写像X→XX \to Xを、XX上の恒等写像といい、idX\mathrm{id}_Xと書く。定理 3.1の二つの条件は、合成を用いると

f−1∘f=idX,f∘f−1=idYf^{-1} \circ f = \mathrm{id}_X, \qquad f \circ f^{-1} = \mathrm{id}_Y

と書くことができる。すなわち逆写像とは、ffと合成すると恒等写像になる写像である。二つの条件のうち一方だけでは逆写像を定めることができない。実際、f:X→Yf : X \to Yが単射であって全射でないとき、写像g:Y→Xg : Y \to Xについての条件g∘f=idXg \circ f = \mathrm{id}_Xは、値域に入らないy∈Yy \in Yにおけるg(y)g(y)の値を何も定めない。したがって、XXが二つ以上の要素をもつかぎり、この条件を満たす写像ggは複数存在する。

4 全単射になるように定義域と終域を取り替える

全単射でない写像であっても、定義域を狭めるか、終域を値域に取り替えることで、全単射である写像を作ることができます。どちらの操作も、もとの写像とは別の写像を作る操作です。

定義 4.1 (定義域の制限と終域の取り替え).f:X→Yf : X \to Yを写像とする。

  1. AAをXXの空でない部分集合とする。AAの各要素xxにf(x)f(x)を対応させる写像A→YA \to Yを、ffのAAへの制限といい、f∣Af|_Aと書く。
  2. XXの各要素xxにf(x)f(x)を対応させる写像X→f(X)X \to f(X)を、ffの終域を値域に取り替えた写像という。

定理 4.2 (終域を値域に取り替えると全射になる).f:X→Yf : X \to Yを写像とし、f~:X→f(X)\tilde{f} : X \to f(X)をffの終域を値域に取り替えた写像とする。このときf~\tilde{f}は全射である。さらに、ffが単射ならばf~\tilde{f}は全単射である。

証明.f(X)f(X)の要素yyを任意にとります。値域の定め方から、y=f(x)y = f(x)を満たすXXの要素xxが存在し、このxxについてf~(x)=f(x)=y\tilde{f}(x) = f(x) = yです。よってf~\tilde{f}は全射です。

ffが単射であるとします。XXの要素x1x_1、x2x_2についてf~(x1)=f~(x2)\tilde{f}(x_1) = \tilde{f}(x_2)とするとf(x1)=f(x2)f(x_1) = f(x_2)であり、ffが単射であるからx1=x2x_1 = x_2です。よってf~\tilde{f}は単射であり、いま示した全射性と合わせて全単射です。▨

例 4.3 (xxの2乗を全単射にする).f:R→Rf : \mathbb{R} \to \mathbb{R}をf(x)=x2f(x) = x^2で定める。例 2.2のとおり、ffは単射でも全射でもない。定義域と終域を次のように取り替えると、単射性と全射性が変わる。

定義域 終域 単射 全射
R\mathbb{R} R\mathbb{R} 成り立たない 成り立たない
R\mathbb{R} [0, ∞)[0,\,\infty) 成り立たない 成り立つ
[0, ∞)[0,\,\infty) R\mathbb{R} 成り立つ 成り立たない
[0, ∞)[0,\,\infty) [0, ∞)[0,\,\infty) 成り立つ 成り立つ

終域を値域[0, ∞)[0,\,\infty)に取り替えると、定理 4.2により全射になる。定義域を[0, ∞)[0,\,\infty)に制限すると、0≤x10 \le x_1、0≤x20 \le x_2かつx12=x22x_1^2 = x_2^2のとき(x1−x2)(x1+x2)=0(x_1 - x_2)(x_1 + x_2) = 0であり、x1+x2=0x_1 + x_2 = 0となるのはx1=x2=0x_1 = x_2 = 0の場合だけなので、いずれにしてもx1=x2x_1 = x_2となって単射になる。両方を行ったh:[0, ∞)→[0, ∞)h : [0,\,\infty) \to [0,\,\infty)、h(x)=x2h(x) = x^2は全単射であり、定理 3.1により逆写像h−1h^{-1}がただ一つ定まる。このh−1h^{-1}を関数として調べ、平方根として書き表すことは、逆関数 が扱う。

注意 4.4 (制限の仕方によって逆写像が変わる).例 4.3で定義域を(−∞, 0](-\infty,\,0]に制限し、終域を[0, ∞)[0,\,\infty)にとっても全単射になる。この写像の逆写像は、00以上の実数yyに対してx2=yx^2 = yを満たす00以下の実数xxを対応させる写像である。y>0y > 0のときこのxxは負であり、定義域を[0, ∞)[0,\,\infty)に制限した場合の逆写像が与える値は正であるから、二つの逆写像は異なる。したがって「xxの2乗の逆写像」という言い方は、どの部分集合へ制限したかを述べなければ定まらない。

6 演習

次を示しなさい。f:X→Yf:X\to Yが単射であることと、任意のx1,x2∈Xx_1,x_2\in Xについてf(x1)=f(x2)f(x_1)=f(x_2)ならばx1=x2x_1=x_2であることは同値である。

証明 (演習の要点). 単射の定義はx1≠x2x_1\ne x_2ならばf(x1)≠f(x2)f(x_1)\ne f(x_2)である。対偶をとると、f(x1)=f(x2)f(x_1)=f(x_2)ならばx1=x2x_1=x_2となる。逆向きも同じ二つの命題が対偶の関係にあることから従う。▨

  • 定理 4.2は、終域を値域に取り替えれば全射になることを述べているだけです。単射性は、この操作では変わりません。単射でない写像は、終域を値域に取り替えても単射になりません。

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