1 実数を有理数で近似する
指数を実数へ広げる作業は、実数を有理数で近似することから始まります。近似する列として、小数第n位までを取った有限小数を用いることができます。
定理 1.1 (有限小数による近似).xを実数とする。各正の整数nについて、10nxを超えない最大の整数をknとし、rn=10nknと定める。このとき次が成り立つ。
- rnは有理数であり、rn≤x<rn+10−nを満たす。
- {rn}は広義単調増加であり、xに収束する。
- u<vを満たす実数u、vに対して、u<r<vを満たす有理数rが存在する。
証明. 1 を示します。knの取り方からkn≤10nx<kn+1です。各辺を正の数10nで割るとrn≤x<rn+10−nを得ます。knは整数、10nは正の整数ですからrnは有理数です。
2 を示します。10n+1x=10⋅10nx≥10knであり、10knは整数です。kn+1は10n+1xを超えない最大の整数ですからkn+1≥10knであり、
rn+1=10n+1kn+1≥10n+110kn=rnです。よって{rn}は広義単調増加です。また 1 により0≤x−rn<10−nであり、10−nはnを限りなく大きくすると0に近づくので、はさみうちの原理(§B1.11 定理 1.1)によりrnはxに収束します。
3 を示します。10−n<v−uを満たす正の整数nを取ります。1 を実数uに適用して得られる有限小数をwとすると、wは有理数でw≤u<w+10−nを満たします。r=w+10−nと置くと、rは有理数であり、右側の不等式からu<rであり、左側の不等式からr≤u+10−n<u+(v−u)=vです。▨
2 指数を動かしたときの有理数乗の変動
a≥1とし、指数を有理数の範囲で少しだけ動かします。値の変わり方は、§B3.2 定理 2.1によって上から押さえることができます。
定理 2.1 (有理数乗の変動の評価).a≥1とし、Nを正の整数とする。r≤r′かつr′−r≤N1を満たす有理数r、r′について
0≤ar′−ar≤ar⋅Na−1が成り立つ。
証明.t=r′−rと置くと、tは0≤t≤N1を満たす有理数です。§B3.1 定理 4.1の 1 によりar′=aratですから
ar′−ar=ar(at−1)です。a=1のときは両辺とも0であり、主張の二つの不等式はいずれも等号で成り立ちます。
a>1とします。§B3.1 定理 4.2の 1 により、0≤t≤N1から1=a0≤at≤a1/Nです。ar>0ですから
0≤ar(at−1)≤ar(a1/N−1)であり、§B3.2 定理 2.1によりa1/N−1≤Na−1ですから、ar′−ar≤ar⋅Na−1を得ます。▨
3 有理数乗の列の極限
定理 3.1 (有理数の列に沿う有理数乗の収束).a≥1とし、xを実数とする。
- xに収束する有理数の列{rn}について、{arn}は収束する。
- xに収束する有理数の列{rn}、{sn}について、limn→∞arn=limn→∞asnである。
- 1 の極限は正である。
証明.定理 1.1が実数xに対して定める有限小数の列を{tn}と書きます。はじめに、{atn}が収束することを示します。{tn}は広義単調増加ですから、§B3.1 定理 4.2とa≥1により{atn}も広義単調増加です。xより大きい整数Mを一つ取ると、定理 1.1の 1 によりtn≤x<Mですから、§B3.1 定理 4.2によりatn≤aMです。よって{atn}は広義単調増加であって上に有界です。
ここで、広義単調増加であって上に有界な数列が収束することを用います。この主張は「極限の存在について」が§B1.8 定理 3.1として、区間縮小法から証明しています。L=limn→∞atnと置きます。{atn}は広義単調増加ですからL≥at1>0であり、3 が成り立ちます。
次に、xに収束する任意の有理数の列{sn}についてasnがLに収束することを示します。これが示されれば、1 と 2 がともに従います。整数Mは上で取ったものを用います。正の整数Nを任意に取ります。{sn}と{tn}はともにxに収束し、x<Mですから、ある番号n0から先では∣sn−x∣≤2N1かつ∣tn−x∣≤2N1であり、かつsn≤Mかつtn≤Mです。n≥n0とし、un=min(sn,tn)、vn=max(sn,tn)と置くと、unとvnは有理数で、un≤vn≤Mかつvn−un≤∣sn−x∣+∣x−tn∣≤N1です。定理 2.1と§B3.1 定理 4.2により
asn−atn=avn−aun≤aun⋅Na−1≤aM⋅Na−1です。すなわち、どの正の整数Nについても、ある番号から先では∣asn−atn∣≤aM⋅Na−1が成り立ちます。右辺はNを大きくすると0に近づくので、asn−atnは0に収束します。したがってasn=atn+(asn−atn)はLに収束します。
この最後の段で用いた、どのNについても差がaMNa−1以下であることから収束を結論する手続きを、ε-N論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□
4 実数乗の定義
定義 4.1 (実数乗).a>0とし、xを実数とする。
- a≥1のとき、xに収束する有理数の列{rn}を一つ取り、
ax=n→∞limarn
と定める。定理 3.1により、この極限は存在し、列{rn}の取り方によらない。またax>0である。
- 0<a<1のとき、a1>1であるから上の定め方によって(a1)xが正の値として定まっている。そこで
ax=(1/a)x1
と定める。
定理 4.2 (有理数乗との一致と、有理数の列による近似).a>0とする。
- xが有理数のとき、定義 4.1が定めるaxは、§B3.1 定義 3.1が定める有理数乗の値に等しい。
- xを実数とするとax>0であり、xに収束するどの有理数の列{rn}についてもlimn→∞arn=axである。
証明.a≥1の場合を示します。定義 4.1は、xに収束する有理数の列を一つ取り、その列に沿う極限をaxと定めています。定理 3.1の 2 により、この極限は列の取り方によりませんから、xに収束するどの有理数の列{rn}についてもlimn→∞arn=axです。正であることは定理 3.1の 3 によります。よって 2 が成り立ちます。1 については、xが有理数ならば、すべての項がxに等しい列はxに収束する有理数の列ですから、その列で極限を取ると、値は有理数乗axに等しくなります。
0<a<1の場合を示します。b=a1と置くとb>1です。有理数rについて、§B3.1 定理 4.1の 3 によりarbr=(ab)r=1r=1ですから、有理数乗についてはar=br1です。いま{rn}をxに収束する有理数の列とすると、すでに示した場合によりbrnはbxに収束し、bx>0です。極限の商の規則により
n→∞limarn=n→∞limbrn1=bx1=axであり、この値は正です。よって 2 が成り立ちます。xが有理数のときは、すべての項がxに等しい列を取ると、左辺の各項が有理数乗axに等しいので、1 が成り立ちます。▨
5 指数についての大小関係と連続性
定理 5.1 (指数についての大小関係と連続性).a>0とする。
- a≥1のとき、u≤vを満たす実数u、vについてau≤avである。
- 実数の列{tn}が実数tに収束するならば、limn→∞atn=atである。
証明. 1 を示します。a≥1とします。はじめに、実数zと有理数rについて、r≤zならばar≤azであり、z≤rならばaz≤arであることを示します。zに収束する有理数の列{cn}を一つ取ります。r≤zの場合、dn=max(r,cn)は有理数であり、∣max(r,cn)−max(r,z)∣≤∣cn−z∣がmaxの定め方から成り立ちますから、{dn}はmax(r,z)=zに収束します。dn≥rと§B3.1 定理 4.2によりadn≥arであり、定理 4.2の 2 によりadnはazに収束しますから、az≥arです。z≤rの場合は、min(r,cn)を取って同じ議論を行います。
実数u≤vとします。u=vのときは両辺が等しいです。u<vのときは、定理 1.1の 3 によりu<r<vを満たす有理数rを取ることができ、いま示したことからau≤ar≤avです。
2 を示します。a=1のときは、有理数rについて1r=1ですから、定義 4.1により実数tについても1t=1であり、1tn=1t=1です。0<a<1のときは、b=a1>1について 2 が成り立てば、定義 4.1と極限の商の規則によりatn=btn1はbt1=atに収束します。よってa>1の場合を示せば足ります。
a>1とします。正の整数Nを任意に取ります。{tn}はtに収束するので、ある番号n0から先では∣tn−t∣≤4N1です。定理 1.1の 3 により、t−2N1<α<t−4N1を満たす有理数αと、t+4N1<β<t+2N1を満たす有理数βを取ることができます。n≥n0のとき、tnとtはいずれもα以上β以下ですから、1 により
aα≤atn≤aβ,aα≤at≤aβであり、∣atn−at∣≤aβ−aαです。αとβは有理数でβ−α<N1ですから、定理 2.1により
aβ−aα≤aα⋅Na−1≤at⋅Na−1です。最後の不等号は、α<tと 1 によります。したがって、どの正の整数Nについても、ある番号から先では∣atn−at∣≤at⋅Na−1が成り立ちます。右辺はNを大きくすると0に近づくので、atnはatに収束します。
定理 3.1の証明と同じく、この最後の段をε-N論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□
6 指数法則と狭義単調性
定理 6.1 (実数乗の指数法則と狭義単調性).a>0、b>0とし、x、yを実数とする。このとき次が成り立つ。
- ax>0である。
- ax+y=axayである。
- (ab)x=axbxである。
- (ax)y=axyである。
- x<yとする。a>1ならばax<ay、a=1ならば1x=1y=1、0<a<1ならばax>ayである。
証明. 1 は定理 4.2の 2 です。
2 を示します。xに収束する有理数の列{rn}と、yに収束する有理数の列{sn}を取ります。{rn+sn}は有理数の列で、x+yに収束します。§B3.1 定理 4.1の 1 によりarn+sn=arnasnです。定理 4.2の 2 により、左辺はax+yに収束し、右辺は極限の積の規則によりaxayに収束します。収束する数列の極限は一つに定まるのでax+y=axayです。
3 を示します。同じく{rn}をxに収束する有理数の列とすると、§B3.1 定理 4.1の 3 により(ab)rn=arnbrnです。両辺で極限を取ると(ab)x=axbxを得ます。
5 を示します。a>1とし、x<yとします。定理 1.1の 3 を二度用いて、x<r<yを満たす有理数rと、r<s<yを満たす有理数sを取ります。定理 5.1の 1 によりax≤arかつas≤ayであり、§B3.1 定理 4.2の 1 によりar<asですからax<ayです。a=1のときは、有理数rについて1r=1ですから、定義 4.1により1x=1y=1です。0<a<1のときは、b=a1>1についてbx<byであり、両辺は正ですから、逆数を取ると不等号の向きが変わってax=bx1>by1=ayです。
4 を示します。三つの段に分けます。
第一段として、実数zと整数kについて(az)k=akzを示します。ここで左辺は、正の数azの整数乗(§B3.1 定義 1.1)です。kが正の整数のときはkについての数学的帰納法によります。k=1のときは両辺ともazです。(az)k=akzを仮定すると、2 により(az)k+1=(az)kaz=akzaz=a(k+1)zです。k=0のときは、左辺は1であり、右辺は定理 4.2の 1 によりa0=1です。kが負の整数のときは、k=−l(lは正の整数)と置きます。2 によりaza−z=a0=1ですからa−z=az1であり、
(az)−l=(az)l1=alz1=a−lzです。
第二段として、実数xと有理数s=qp(pは整数、qは正の整数)について(ax)s=axsを示します。第一段により(ax/q)q=axであり、ax/q>0ですから、§B3.1 定理 2.1の一意性によりax/q=qaxです。したがって、§B3.1 定義 3.1と第一段により
(ax)s=(qax)p=(ax/q)p=apx/q=axsです。
第三段として、実数yの場合を示します。yに収束する有理数の列{sn}を取ります。定理 4.2の 2 を底axに適用すると、(ax)snは(ax)yに収束します。第二段により(ax)sn=axsnです。実数の列{xsn}はxyに収束するので、定理 5.1の 2 によりaxsnはaxyに収束します。極限は一つに定まるので(ax)y=axyです。▨
例 6.2 (22の近似).2=1.41421356…の小数第n位までを取った有限小数の列
1,1.4,1.41,1.414,…は、定理 1.1が与える列である。対応する有理数乗の値は
21=2,21.4=2.63901…,21.41=2.65737…,21.414=2.66474…であり、22=2.66514…に近づいている。ここで21.41は2141/100=(1002)141という有理数乗である。
誤差の大きさは定理 2.1から評価することができる。1.414≤2≤1.414+10−3であり、2より大きい有理数r′を1.414≤r′≤1.415の範囲で取ると0≤2r′−21.414≤21.414⋅10002−1≤0.00267である。定理 5.1の 1 により21.414≤22≤2r′であるから、22と21.414の差は0.00267以下である。実際の差は0.0004程度である。
7 演習
- a≥1とし、実数xに収束する二つの有理数列{rn}、{sn}に対して、定理 2.1と§B1.11 定理 1.1を用い、∣arn−asn∣→0を証明してください。
- 定理 4.2の証明を、a≥1の場合と0<a<1の場合に分けて再構成してください。
- 定理 6.1の 4 について、指数を整数、有理数、実数の順に広げる各段で、どの定理を用いているかを示してください。