1 逆関数の微分法
fの逆関数をgとすると、fの定義域のすべての点xについてg(f(x))=xが成り立ちます。この等式の両辺を合成関数の微分法によって微分すると、gの導関数をfの導関数から求める式が得られます。
定理 1.1 (逆関数の微分法).I、Jを開区間とし、f:I→Jを全単射とし、g:J→Iをその逆関数とする。aをIの点とし、b=f(a)と置く。fがaで微分可能であり、gがbで微分可能であるとする。このときf′(a)=0であり
g′(b)=f′(a)1が成り立つ。
証明.gはfの逆関数ですから、§B2.7 定理 3.1により、Iのすべての点xについてg(f(x))=xです。左辺は、Iで定義されたfとJで定義されたgの合成であり、Iのすべての点xについてf(x)∈Jです。fはaで微分可能であり、gはf(a)=bで微分可能ですから、§B2.10 定理 4.1により合成関数はaで微分可能であり、その微分係数はg′(f(a))f′(a)=g′(b)f′(a)です。
等式g(f(x))=xの右辺は、xにx自身を対応させる関数です。§B2.10 定理 5.1をn=1に適用すると、その導関数は1ですから、点aにおける微分係数も1です。二つの微分係数は等しいので
g′(b)f′(a)=1です。積が1であり1=0ですから、f′(a)=0です。両辺をf′(a)で割ると結論を得ます。▨
定理 1.1は、逆関数gが微分可能であることを仮定したうえで、その導関数の値を与えるものです。本記事は、自然対数の導関数を、この定理を経由せずに差の商から直接求めます。そのために必要なのは、対数関数が連続であることだけです。逆関数が連続であることは、狭義単調性と、中間値の定理から得られる全射性から従います。
定理 1.2 (狭義単調な全単射の逆関数は連続である).I、Jを開区間とし、f:I→Jを狭義単調増加な全単射とする。このとき、逆関数g:J→Iは狭義単調増加であり、Jのすべての点で連続である。
証明.gが狭義単調増加であることを示します。y1<y2をJの点とし、x1=g(y1)、x2=g(y2)と置きます。もしx1≥x2ならば、fが狭義単調増加であることからy1=f(x1)≥f(x2)=y2となり、y1<y2に反します。よってx1<x2です。
次に連続性を示します。Jの点bを取り、c=g(b)と置きます。c−δとc+δがともにIに属するように正の数δを取ります。fは狭義単調増加ですからf(c−δ)<b<f(c+δ)です。yがこの二つの値のあいだにあるとき、gが狭義単調増加であることから
c−δ=g(f(c−δ))<g(y)<g(f(c+δ))=c+δ
です。すなわち、bに十分近いyについてはg(y)がcからδ未満しか離れません。δはいくらでも小さく取ることができるので、yをbに近づけるとg(y)はc=g(b)に近づきます。よってgはbで連続です。▨
2 自然対数の導関数
定理 2.1 (自然対数の導関数).logは(0,∞)のすべての点で微分可能であり、すべての正の数xについて
(logx)′=x1が成り立つ。
証明.expeを、実数tにetを対応させる関数とします。eは1でない正の数ですから(§B3.7 注意 2.4)、§B3.5 定理 1.1を底eに適用するとexpe:R→(0,∞)は全単射であり、その逆関数はlog:(0,∞)→Rです(§B3.9 定義 1.1)。expeは狭義単調増加ですから、定理 1.2によりlogは(0,∞)で連続です。
正の数aを取ります。h=0がa+h>0を満たすとき、§B3.5 定理 2.1により
hlog(a+h)−loga=h1logaa+h=h1log(1+ah)です。ここでu=log(1+ah)と置きます。§B3.9 定理 1.3によりeu=1+ahですからh=a(eu−1)であり、
hlog(a+h)−loga=a(eu−1)u=a1⋅eu−1uと書き直すことができます。h=0のとき1+ah=1であり、logは単射ですからu=0です。したがってこの変形で0による割り算は起こりません。
hを0に近づけると1+ahは1に近づき、logが1で連続であることとlog1=0(§B3.9 例 1.4)からuは0に近づきます。eの定め方(§B3.7 定義 2.3)により
u→0limueu−1=1ですから、その逆数は1に近づきます。よって
(loga)′=h→0limhlog(a+h)−loga=a1⋅1=a1です。aは任意の正の数ですから、結論を得ます。▨
正の数の範囲ではxが大きいほどx1は小さくなるので、y=logxのグラフの接線の傾きは、xが大きいほど小さくなります。傾きは正の数xについてつねに正であり、この符号は§B3.5 定理 3.1が述べた狭義単調増加と一致します。
例 2.3 (y=logxの接線). 点(1,0)におけるy=logxの接線を求める。§B3.9 例 1.4によりlog1=0なので、点(1,0)はこの曲線の上にある。定理 2.1により接線の傾きは11=1であるから、接線の方程式はy=0+1⋅(x−1)、すなわちy=x−1である。
「指数関数の微分」の§B3.8 例 1.5は、点(0,1)におけるy=exの接線がy=x+1であることを求めていた。点(1,0)と点(0,1)は直線y=xについて対称であり、二つの接線y=x−1とy=x+1も直線y=xについて対称である。これは、y=logxのグラフがy=exのグラフを直線y=xについて対称に移したものであること(「対数関数」)と対応している。
点(e,1)における接線も求める。loge=1であり、傾きはe1であるから、接線の方程式はy=1+e1(x−e)、すなわちy=exである。この接線は原点を通る。
例 2.4 (対数を含む式の微分).
(log(2x+1))′=2x+12,(xlogx)′=logx+1,(xlogx)′=x21−logxである。ここで一つ目はx>−21、二つ目と三つ目はx>0で考える。
一つ目は§B2.10 定理 4.1による。内側の関数をg(x)=2x+1、外側の関数をf(u)=loguとすると、x>−21のときg(x)>0であり、定理 2.1によりf′(u)=u1であるから、f′(g(x))g′(x)=2x+11⋅2を得る。
二つ目は§B2.10 定理 2.1により1⋅logx+x⋅x1=logx+1である。三つ目は§B2.10 定理 3.1によりx2x1⋅x−logx⋅1=x21−logxである。
3 指数関数と対数関数の基本極限
定理 2.1をx=1で読むと、対数関数の差の商についての極限が得られます。この極限と、eを定めた極限(§B3.7 定義 2.3)とを並べて書きます。
証明. はじめの等式を示します。log1=0ですから、x>−1かつx=0のとき
xlog(1+x)=xlog(1+x)−log1です。右辺は、関数logの点1における差の商です。定理 2.1によりlogは点1で微分可能で、その微分係数は11=1ですから、xを0に近づけたときの右辺の極限は1です。
二つ目の等式は、§B3.7 定義 2.3がeを定めた等式そのものです。▨
4 底がeでない場合
§B3.8 公式 2.2は、a>0に対してec=aを満たすただ一つの実数cを取り、(ax)′=caxと述べていました。「指数関数の微分」の段階では自然対数の記号をまだ定めていなかったので、このcをcのまま書いていました。いまlogが定まっているので、cが何であるかを確かめます。
証明.eは1でない正の数ですから、§B3.5 定義 1.2を底eに適用すると、正の数aと実数cについて、logea=cであることとec=aであることは同値です。§B3.9 定義 1.1によりlogea=logaですから、ec=aを満たすただ一つの実数cはlogaです。これを§B3.8 公式 2.2へ代入すると、(ax)′=axlogaを得ます。▨
例 4.2 (底がeでない指数関数の場合).a>0とする。hを0に近づけたときのhah−1の極限はlogaである。
a=1のときは、どのhについてもh1h−1=0であり、log1=0であるから、主張が成り立つ。
a=1とする。§B3.9 定理 1.3によりa=elogaであり、§B3.3 定理 6.1の 4 によりah=ehlogaである。a=1と§B3.5 定理 3.1によりloga=0であるから、h=0のとき
hah−1=hlogaehloga−1⋅logaと書くことができる。t=hlogaと置くと、hを0に近づけたときtは0でない値をとって0に近づく。公式 3.1の二つ目の等式によりtet−1は1に近づくので、右辺はlogaに近づく。ここでは、変数を取り替えて極限を計算する手続きを認めて用いた。この手続きをε-δ論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱う。
この極限は、§B3.7 定理 1.1のL(a)にほかならない。同じ定理により(ax)′=L(a)axであるから、いま求めたL(a)=logaは公式 4.1と一致する。
底がeでない対数の導関数は、§B3.9 公式 2.1によって自然対数へ直してから求めます。
証明.§B3.9 公式 2.1により、すべての正の数xについてlogax=logalogxです。a=1と§B3.5 定理 3.1によりloga=0ですから、loga1はxによらない定数です。したがって、定理 2.1により
(logax)′=loga1⋅(logx)′=loga1⋅x1=xloga1です。▨
例 4.4 (底が10と2の場合).公式 4.3により、正の数xについて
(log10x)′=xlog101,(log2x)′=xlog21である。§B3.9 例 1.4によりlog1=0であり、§B3.5 定理 3.1によりlog1<log2<log10であるから0<log2<log10である。したがって、同じ正の数xにおける接線の傾きは、底が2のときのほうが底が10のときより大きい。
a=eと置くとloge=1であるから、公式 4.3は(logx)′=x1となり、定理 2.1に一致する。
5 対数微分法
積、商、累乗が入り混じった式の対数は、§B3.5 定理 2.1により、各因数の対数の和、差、定数倍に等しくなります。指数に変数が現れる式についても、§B3.5 定理 2.1の 3 により、その指数が対数の係数になります。そこで、対数をとってから微分し、最後にもとの関数を掛けます。この手順を対数微分法といいます。
証明. 1 を示します。§B3.8 定理 1.1により、実数uにeuを対応させる関数は実数全体で微分可能であり、その導関数はeuです。§B2.10 定理 4.1を、内側の関数g、外側の関数u↦euに適用すると、fはIで微分可能でf′(x)=eg(x)g′(x)=f(x)g′(x)です。§B3.3 定理 6.1の 1 によりf(x)=eg(x)>0であり、§B3.9 定理 1.3によりlogf(x)=log(eg(x))=g(x)です。
2 を示します。仮定により、Iのすべての点xについてf(x)は(0,∞)に属します。定理 2.1により、logは(0,∞)で微分可能で導関数はu1です。§B2.10 定理 4.1を、内側の関数f、外側の関数logに適用すると(logf(x))′=f(x)1⋅f′(x)です。▨
微分する関数がすでに微分可能であることが分かっている場合は、2 を用いてyy′を求め、y′=y⋅yy′として導関数を得ます。指数に変数が現れる式のように、微分可能であること自体がまだ分かっていない場合は、その式をeg(x)の形に書き直して 1 を用います。
例 5.2 (積、商、累乗が入り混じった式).x>−1の範囲で
y=(x+3)3(x+1)2x+2の導関数を求める。x>−1のときx+1>0、x+2>0、x+3>0であるからy>0である。また、x+2=(x+2)1/2は§B3.1 定理 5.2と§B2.10 定理 4.1によりx>−2で微分可能であるから、yは§B2.10 定理 2.1と§B2.10 定理 3.1によりx>−1で微分可能である。
§B3.5 定理 2.1を底eに適用し、x+2=(x+2)1/2であることを用いると
logy=2log(x+1)+21log(x+2)−3log(x+3)である。両辺をxで微分する。左辺は公式 5.1の 2 によりyy′であり、右辺の各項は§B2.10 定理 4.1と定理 2.1によって計算すると
yy′=x+12+2(x+2)1−x+33である。したがって
y′=(x+3)3(x+1)2x+2(x+12+2(x+2)1−x+33)である。x=0で値を確かめる。y=271⋅2であり、括弧の中は2+41−1=45であるからy′=10852=0.06547…である。もとの式に数値を入れるとx=0ではy=0.05237…、x=0.1ではy=0.05885…であり、二つの差を0.1で割ると0.0648…である。いま求めた導関数の値に近い。
例 5.3 (指数に変数が現れる式).x>0の範囲でy=xxの導関数を求める。§B3.9 定理 1.3によりx=elogxであるから、§B3.3 定理 6.1の 4 により
xx=(elogx)x=exlogxである。例 2.4のとおりg(x)=xlogxはx>0で微分可能でg′(x)=logx+1であるから、公式 5.1の 1 によりyはx>0で微分可能であり
y′=xx(logx+1)である。
値を確かめる。x=1ではlog1=0であるからy′=1⋅(0+1)=1である。x=e1ではlogx=−1であるからy′=0である。§B3.5 定理 3.1により、0<x<e1ではlogx+1<0、x>e1ではlogx+1>0であり、§B3.3 定理 6.1の 1 によりxx>0であるから、導関数の符号はx=e1で負から正へ変わる。したがってyはこの点で極小値をとる。
例 5.4 (指数が実数である累乗の導関数).αを実数とする。x>0の範囲でy=xαの導関数を求める。前の例と同じくx=elogxと§B3.3 定理 6.1の 4 によりxα=eαlogxである。g(x)=αlogxはx>0で微分可能でg′(x)=xαであるから、公式 5.1の 1 により
(xα)′=xα⋅xα=αxα−1である。最後の等号は§B3.3 定理 6.1の 2 による。
「有理数乗」の§B3.1 定理 5.2は、この式を指数が有理数である場合について示していた。指数が無理数である場合も同じ式になることが、いま分かった。たとえば(x2)′=2x2−1である。
注意 5.5 (対数をとる前に確かめること). 対数微分法は、logyを作るところから始まる。したがって、用いる区間のすべての点でy>0であることを先に確かめる。
例 5.2の式を例に取る。x+2が実数の範囲で定まるのはx≥−2のときであり、分母が0にならないのはx=−3のときであるから、この式が値をもつのはx≥−2の範囲である。この範囲でy=0となるのはx=−2とx=−1の二つの点であり、その二つの点ではlogyを作ることができない。残る−2<x<−1の範囲ではy>0なので、同じ手順で導関数を求めることができる。例 5.2がx>−1の範囲を扱ったのは、y>0が成り立つ区間の一方を取ったためである。
真数に負の数を許したlog∣x∣の導関数は、本記事では扱わない。