1 指数関数を微分すると何が現れるか
導関数の定義に従って差の商を作り、指数法則で整理します。
定理 1.1 (指数関数の差の商).a>0とし、f(x)=axとする。0でない実数hとすべての実数xについて
hf(x+h)−f(x)=ax⋅hah−1が成り立つ。したがって、極限
L(a)=h→0limhah−1が存在するならば、fはすべての実数xで微分可能であり、f′(x)=L(a)axである。
証明.§B3.3 定理 6.1の 2 によりax+h=axahです。したがって
hf(x+h)−f(x)=haxah−ax=ax⋅hah−1です。右辺の因数axはhによりません。よって、hを0に近づけたときにhah−1がL(a)に近づくならば、極限の積の規則により差の商はaxL(a)に近づきます。これがf′(x)=L(a)axという主張です。▨
定理 1.1が述べているのは、指数関数の微分が、xを含まない一つの極限L(a)に帰着するということです。L(a)の値は底aだけで決まります。そこで、L(a)がどのような値を取るかを、いくつかの底について数値で見ます。
例 1.2 (小さいhに対する差の商の値).a=2とa=3について、hah−1の値を小数第5位まで求めると次のようになる。
hh2h−1h3h−10.10.717731.161230.010.695561.104670.0010.693391.09922h2h−1の値は1より小さい範囲に、h3h−1の値は1より大きい範囲に並んでいる。この数値は、極限が存在するならばL(2)<1<L(3)であり、L(a)=1となる底aが2と3の間にあるという予想を与える。ただし、これは有限個のhについての計算であって、極限が存在することの証明にも、L(a)=1となる底が存在することの証明にもならない。
2 底eを定める
定理 2.1 (極限が1になる底). 等式
h→0limhah−1=1を満たす正の数aが、ただ一つ存在する。
証明. この存在と一意性の証明は、「初等関数の厳密な定義」へ委ねます。同記事は、任意のa>0について差商の極限が存在してlogaに等しいことを§D1.24 定理 5.1で証明し、その値が1となる底がa=exp1だけであることを§D1.24 系 5.2で証明しています。したがって、本定理の存在と一意性がともに従います。▨
定義 2.3 (ネイピア数).定理 2.1が存在と一意性を保証する底、すなわち
h→0limheh−1=1を満たすただ一つの正の数をeと書き、ネイピア数という。その値はべき級数で定めたexp1と一致する。
定理 1.1と定義 2.3を合わせると、exの導関数がex自身に等しいことが従います。この計算と、一般の底a>0についての導関数は「指数関数の微分」が扱います。
3 (1+n1)nの極限
eを数列(1+n1)nの極限として定義する流儀があります。その極限値が、本記事が定めたeと一致することを示します。
定理 3.1 ((1+n1)nの極限).
n→∞lim(1+n1)n=eが成り立つ。
証明.e>1です(注意 2.4)。したがって§B3.4 定理 4.1の 3 を底eに適用すると、正の数yに対してes=yを満たす実数sがただ一つ定まります。各正の整数nについて、etn=1+n1を満たす実数tnを取ります。
はじめにtnが0に収束することを示します。1+n1>1=e0ですから、§B3.4 定理 4.1の 1 によりtn>0です。正の整数Nを任意に取ると、e>1よりe1/N>1ですからe1/N−1>0です。n01<e1/N−1を満たす正の整数n0を取ると、n≥n0を満たす番号nについて1+n1<e1/Nであり、§B3.4 定理 4.1の 1 によりtn<N1です。すなわち、どの正の整数Nについても、ある番号から先では0<tn<N1が成り立ちます。よってtnは0に収束します。
次にntnが1に収束することを示します。etn−1=n1ですから
tnetn−1=ntn1です。{tn}は0でない値をとって0に収束するので、定義 2.3により左辺は1に収束します。1=0ですから、極限の商の規則によりntnは1に収束します。
最後に、§B3.3 定理 6.1の 4 により
(1+n1)n=(etn)n=entnです。実数の列{ntn}は1に収束するので、§B3.3 定理 5.1の 2 を底eに適用すると、entnはe1=eに収束します。
この証明では、関数の極限を、0でない値をとって0に収束する数列に沿った極限へ読み替える手続きを認めて用いました。この読み替えをε-δ論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□
指数を整数に限らず実数まで広げても、同じ極限が得られます。
定理 3.2 (変数を実数に広げた極限).
t→0lim(1+t)t1=e,x→∞lim(1+x1)x=e,x→−∞lim(1+x1)x=eが成り立つ。ここで(1+t)t1はt>−1かつt=0の範囲で定義され、(1+x1)xについては、1+x1>0が成り立つ∣x∣>1の範囲で考える。
証明. はじめの等式を示します。t>−1かつt=0とすると1+t>0かつ1+t=1ですから、§B3.4 定理 4.1の 3 により、es=1+tを満たす実数sがただ一つ定まり、s=0です。逆に、0でない実数sに対してt=es−1と置けば、t>−1かつt=0です。したがって、tにsを対応させる規則は、t>−1かつt=0を満たす実数の全体と、0でない実数の全体との間の一対一の対応です。
この対応のもとで、tを0に近づけることとsを0に近づけることが対応します。実際、正の整数Nに対してδ=min(e1/N−1, 1−e−1/N)と置くとδ>0であり、∣t∣<δのときe−1/N<1+t<e1/Nですから、§B3.4 定理 4.1の 1 により−N1<s<N1です。
§B3.3 定理 6.1の 4 により(1+t)t1=(es)t1=es/tです。またt=es−1ですから
ts=es−1sであり、定義 2.3により、sを0に近づけるとses−1は1に近づきます。1=0ですから、その逆数であるtsは1に近づきます。§B3.4 定理 3.1を底eに適用すると、es/tはe1=eに近づきます。よってlimt→0(1+t)t1=eです。
残りの二つを示します。∣x∣>1のときt=x1と置くと∣t∣<1かつt=0であり、(1+x1)x=(1+t)t1です。xを限りなく大きくするとtは正の値をとって0に近づき、xを負の側で絶対値が限りなく大きくなるように動かすとtは負の値をとって0に近づきます。どちらの場合も、いま示した等式により(1+t)t1はeに近づきます。
この証明では、変数を取り替えて極限を計算する手続きを認めて用いました。この手続きをε-δ論法として精密に述べることは「ε-論法と基礎解析」が扱います。□