1 線形写像の評価
補題 1.1.B:Rn→Rnを線形写像とし、
q=∥I−B∥op<1とする。このときBは可逆であり、
∥B−1∥op≤1−q1が成り立つ。
証明.y∈Rnを任意に取り、Sy:Rn→Rnを
Sy(x)=(I−B)x+yによって定める。任意のx,z∈Rnに対して
∥Sy(x)−Sy(z)∥≤q∥x−z∥である。§E2.5 命題 4.2によりRnは完備であり、空でないから、§E2.7 定理 2.2をSyへ適用することができる。したがって、Sy(x)=xを満たすxがただ一つ存在する。この方程式はBx=yと同値であるから、Bは全単射である。任意のz1,z2∈Rnとα,β∈Rに対して、B−1(αz1+βz2)とαB−1z1+βB−1z2はBによる像が等しいため、Bの単射性から両者は等しい。ゆえに逆写像B−1は線形である。
y=Bxとおくと、§E4.2 命題 1.4によって
∥y∥=∥x−(I−B)x∥≥(1−q)∥x∥である。x=B−1yとしてy=0を動かせば、
∥y∥∥B−1y∥≤1−q1となるため、主張する作用素ノルムの評価を得る。▨
2 局所逆写像
定理 2.1 (逆関数定理).n∈Z≥1とし、U⊂Rnを開集合、f:U→RnをC1級の写像とする。a∈Uにおける全微分Df(a)が可逆ならば、aの開近傍U0⊂Uとf(a)の開近傍V0⊂Rnが存在し、制限写像
f∣U0:U0⟶V0は全単射である。その逆写像g:V0→U0はC1級であり、任意のy∈V0に対して
Dg(y)=Df(g(y))−1が成り立つ。
証明. 証明では、方程式f(x)=yを、yに依存しない一つの閉球上の不動点方程式へ変換する。
A=Df(a)とおき、0<q<1を一つ固定する。Uは開集合であり、Dfはaで作用素ノルムについて連続である。したがって、十分小さいr>0を取ればB(a,r)⊂Uであり、任意のx∈B(a,r)に対して
∥Df(x)−A∥op≤∥A−1∥opqとなる。作用素ノルムの積に対する評価により、
∥I−A−1Df(x)∥op=∥A−1(A−Df(x))∥op≤q(x∈B(a,r))が成り立つ。以下、このqとrを固定する。
H:U→Rnを
H(x)=x−A−1f(x)によって定める。x∈Uとx+h∈Uに対して
H(x+h)−H(x)−(I−A−1Df(x))h=−A−1(f(x+h)−f(x)−Df(x)h)であるから、Hは全微分可能であり、
DH(x)=I−A−1Df(x)を満たす。x,z∈B(a,r)を取ると、閉球の凸性により[x,z]⊂B(a,r)⊂Uである。したがって§E4.3 定理 2.1をHへ適用して、
∥H(x)−H(z)∥≤q∥x−z∥を得る。
σ=∥A−1∥op(1−q)r,V0=B(f(a),σ)とおく。A−1は零写像でないからσ>0であり、V0はf(a)の開近傍である。各y∈V0に対して、閉球B(a,r)上の写像を
Ty(x)=x−A−1(f(x)−y)=H(x)+A−1yによって定める。x,z∈B(a,r)に対して
∥Ty(x)−Ty(z)∥=∥H(x)−H(z)∥≤q∥x−z∥である。またx∈B(a,r)ならば、
∥Ty(x)−a∥≤∥Ty(x)−Ty(a)∥+∥Ty(a)−a∥≤q∥x−a∥+∥A−1(y−f(a))∥≤qr+∥A−1∥op∥y−f(a)∥<r.ゆえに、TyはB(a,r)を自身へ写す縮小比qの縮小写像である。
§E2.5 命題 4.2と§E2.5 定理 3.2により、B(a,r)は完備距離空間である。この閉球はaを含むため空でない。したがって§E2.7 定理 2.2により、各y∈V0に対してTyはただ一つの不動点xy∈B(a,r)をもつ。不動点方程式は
Ty(xy)=xy⟺f(xy)=yと同値である。上の自己写像性の評価は∥xy−a∥<rも与える。
U0=B(a,r)∩f−1(V0)とおく。fは全微分可能であるため§E4.2 命題 1.5により連続であり、U0はaを含む開集合である。各y∈V0に対応するxyはU0に属するから、f∣U0はV0上への全射である。一方、x,z∈U0がf(x)=f(z)を満たすならば、
∥x−z∥=∥H(x)−H(z)∥≤q∥x−z∥である。q<1であるからx=zであり、f∣U0は単射でもある。逆写像をg:V0→U0と書く。
y1,y2∈V0とし、xi=g(yi)とおく。不動点方程式xi=H(xi)+A−1yiから、
∥x1−x2∥≤∥H(x1)−H(x2)∥+∥A−1(y1−y2)∥≤q∥x1−x2∥+∥A−1∥op∥y1−y2∥を得る。したがって
∥g(y1)−g(y2)∥≤1−q∥A−1∥op∥y1−y2∥であり、gは Lipschitz 連続である。
x∈U0に対してBx=A−1Df(x)とおけば、
∥I−Bx∥op≤q<1である。補題 1.1によりBxは可逆であり、Df(x)=ABxも可逆である。さらに
∥Df(x)−1∥op=∥Bx−1A−1∥op≤1−q∥A−1∥opが成り立つ。
y0∈V0とし、x0=g(y0)とおく。y0+k∈V0を満たすkに対して
h=g(y0+k)−g(y0)とおく。上の Lipschitz 評価により、k→0ならばh→0であり、
∥h∥≤1−q∥A−1∥op∥k∥である。fのx0における全微分可能性から、
k=f(x0+h)−f(x0)=Df(x0)h+R(h),∥h∥∥R(h)∥⟶0と書くことができる。k=0ならば、gの単射性によりh=0である。したがって
∥k∥∥h−Df(x0)−1k∥≤∥Df(x0)−1∥op∥h∥∥R(h)∥∥k∥∥h∥⟶0.ゆえにgはy0で全微分可能であり、
Dg(y0)=Df(x0)−1=Df(g(y0))−1である。
最後にDgの連続性を示す。y∈V0に対してCy=Df(g(y))とおく。gとDfは連続であるから、y→y0のときCy→Cy0である。また、既に得た一様評価により
∥Cy−1∥op≤1−q∥A−1∥opである。恒等式
Cy−1−Cy0−1=Cy−1(Cy0−Cy)Cy0−1からCy−1→Cy0−1が従う。したがってDg(y)=Cy−1はV0上で連続であり、gはC1級である。▨
3 局所性
例 3.1 (局所逆写像と全域的な単射性). 写像f:R2→R2を
f(x,y)=(excosy,exsiny)によって定める。その全微分の表現行列は
Df(x,y)=ex(cosysiny−sinycosy)であり、行列式はe2x>0である。したがって、定理 2.1により、すべての点でC1級の局所逆写像が存在する。
(0,0)の近傍を∣y∣<π/2に制限すると、(1,0)=f(0,0)の近傍における逆写像は
g(u,v)=(21log(u2+v2),arctanuv)である。ただし、像の近傍はu>0を満たすように取る。これに対して
f(x,y+2π)=f(x,y)であるから、fはR2全体では単射でない。各点における微分の可逆性は局所逆写像を与えるが、全域的な単射性を与えない。
4 演習
問題 4.1 (不動点反復による逆像の近似).f:R→Rをf(x)=x+x3によって定める。∣y∣<3/8とし、閉区間[−1/2,1/2]上で
Ty(x)=y−x3とおく。次を示せ。
- Tyは[−1/2,1/2]を自身へ写す縮小比3/4の縮小写像である。
- 反復列x0=0、xm+1=Ty(xm)は、f(g(y))=yを満たす唯一のg(y)∈[−1/2,1/2]へ収束し、
∣xm−g(y)∣≤4(43)m∣y∣
を満たす。
- gの微分をg(y)を用いて表せ。
解答.
∣x∣≤1/2ならば
∣Ty(x)∣≤∣y∣+∣x∣3<83+81=21である。さらにx,z∈[−1/2,1/2]に対して
∣Ty(x)−Ty(z)∣=∣x3−z3∣=∣x−z∣∣x2+xz+z2∣≤43∣x−z∣である。したがって 1 が成り立つ。
§E2.5 命題 4.2と§E2.5 定理 3.2により、閉区間[−1/2,1/2]は完備である。したがって、§E2.7 定理 2.2によりTyはただ一つの不動点g(y)をもち、反復列はg(y)へ収束する。不動点方程式g(y)=y−g(y)3はf(g(y))=yと同値である。§E2.7 系 2.3の事前評価をq=3/4、∣x1−x0∣=∣y∣として適用すると、
∣xm−g(y)∣≤1−3/4(3/4)m∣y∣=4(43)m∣y∣を得る。
f′(x)=1+3x2>0であるから、定理 2.1により各g(y)の近傍で局所逆写像が存在する。g(y)∈(−1/2,1/2)であり、方程式f(x)=yの[−1/2,1/2]における解は一意であるから、この局所逆写像はgの制限に一致する。したがって、同定理の微分公式により
g′(y)=f′(g(y))1=1+3g(y)21である。▨