1 2次・3次の計算
det(acbd)=ad−bc
3次はサラスの方法(右下がりの積を足し、右上がりの積を引く)で計算することができます。これらは、以下で与える一般の定義の特別な場合です(例 4.3)。
2 行列式を特徴づける
n次正方行列Aを、その行a1,…,anを縦に並べたものとみなし、A=(a1;…;an)と書きます。行列式は、このn個の行の関数として特徴づけます。
定義 2.1 (行列式).KをRまたはCとする。関数D:(Kn)n→Kが次の3条件を満たすとき、DをK上のn次の行列式 (determinant) という。
- 各行について線形である。すなわち各kについて、他の行を固定すると、任意のα,β∈Kとx,y∈Knに対して
D(…;αx+βy;…)=αD(…;x;…)+βD(…;y;…)
が成り立つ。
- 二つの行が等しければ値は0である。すなわちp=qかつap=aqならばD(A)=0である。
- 単位行列での値は1である。すなわちD(In)=1である。
条件 (a)と条件 (b)を満たす関数を交代多重線形形式 (alternating multilinear form) という。
補題 2.2 (行の入れ替えと符号).KをRまたはCとする。F:(Kn)n→Kが交代多重線形形式であるとき、二つの行を入れ替えるとFの値の符号が変わる。
証明.p=qを固定し、第p行と第q行の双方にx+yを置いた行列を考える。二つの行が等しいので、定義 2.1 条件 (b)より値は0である。第p行と第q行のそれぞれについて定義 2.1 条件 (a)で展開すると
0=F(…;x;…;x;…)+F(…;x;…;y;…)+F(…;y;…;x;…)+F(…;y;…;y;…)となる。右辺の第1項と第4項は二つの行が等しいので0である。したがって
F(…;x;…;y;…)=−F(…;y;…;x;…)であり、第p行と第q行を入れ替えると符号が変わる。▨
定義 2.1 条件 (c)を落としても、他の二つの条件から導かれる帰結は変わらず、失われるのは一意性だけです。この記事では、その二つだけを仮定した主張を交代多重線形形式について述べ、行列式そのものへは定義 2.1 条件 (c)を課して適用します。
3 置換とその符号
行列式の値を成分の式として書き下すには、行の番号と列の番号を対応させる置換が必要になります。
定義 3.1 (置換・互換).{1,2,…,n}からそれ自身への全単射を置換 (permutation) といい、置換全体の集合をSnと書く。相異なるp,qについて、pとqを入れ替え、他をすべて動かさない置換を互換 (transposition) といい(pq)と書く。恒等写像を恒等置換 (identity permutation) といいidと書く。
定義 3.2 (置換の符号).σ∈Snに対し
sgn(σ)=1≤i<j≤n∏j−iσ(j)−σ(i)をσの符号 (sign) という。
命題 3.3 (符号の基本性質).σ,τ∈Snについて次が成り立つ。
- sgn(σ)∈{1,−1}である。
- sgn(στ)=sgn(σ)sgn(τ)である。とくにsgn(σ−1)=sgn(σ)である。
- 互換の符号は−1である。
- 任意の置換は有限個の互換の積として表される(恒等置換は0個の積とする)。σがr個の互換の積で表されるならsgn(σ)=(−1)rであり、とくにrの偶奇は表し方によらない。
証明.(1)を示す。σは全単射なので、対応{i,j}↦{σ(i),σ(j)}は{1,…,n}の2元部分集合全体の上の全単射である。したがって
i<j∏∣σ(j)−σ(i)∣=i<j∏∣j−i∣であり、両辺は0でないから∣sgn(σ)∣=1である。
(2)を示す。比(σ(l)−σ(k))/(l−k)はkとlを入れ替えても変わらないので、
2元部分集合{k,l}だけで決まる。この値をRσ({k,l})と書くとsgn(σ)=∏{k,l}Rσ({k,l})である。ここで
j−iστ(j)−στ(i)=τ(j)−τ(i)σ(τ(j))−σ(τ(i))⋅j−iτ(j)−τ(i)=Rσ({τ(i),τ(j)})⋅Rτ({i,j})であり、{i,j}↦{τ(i),τ(j)}が2元部分集合全体の上の全単射であることから、すべての2元部分集合にわたる積をとるとsgn(στ)=sgn(σ)sgn(τ)を得る。σσ−1=idとsgn(id)=1および(1)から、sgn(σ−1)=sgn(σ)が従う。
(3)を示す。まず隣接する二つの数の互換ρ=(kk+1)を考え、sgn(ρ)=∏{i,j}Rρ({i,j})を2元部分集合の種類ごとに分けて計算する。
- {k,k+1}:因子は(ρ(k+1)−ρ(k))/((k+1)−k)=(k−(k+1))/1=−1である。
- kとk+1のどちらも含まない2元部分集合:ρは両方の数を動かさないので因子は1である。
- kとk+1のちょうど一方を含む2元部分集合:i<kについて{i,k}と{i,k+1}が組になり、因子の積は
k−i(k+1)−i⋅(k+1)−ik−i=1
である。j>k+1について{k,j}と{k+1,j}が組になり、因子の積は
j−kj−(k+1)⋅j−(k+1)j−k=1
である。この2種類の組で、一方だけを含む2元部分集合はすべて尽くされる。
したがってsgn((kk+1))=−1である。次にp<qについて
(pq)=(pp+1)(p+1p+2)⋯(q−1q)⋯(p+1p+2)(pp+1)と、隣接互換2(q−p)−1個の積で表す。(2)によりsgn((pq))=(−1)2(q−p)−1=−1である。
(4)を示す。σが動かす点の個数m=#{k:σ(k)=k}についての帰納法による。m=0ならσ=idで、0個の互換の積である。m>0とし、σ(k)=l=kとなるkをとる。τ=(kl)とおくとτσはkを固定する。またσが固定する点はτσも固定する(σ(j)=jかつj=k,lならτσ(j)=jであり、j=lはσ(k)=l=lと全単射性からσが固定しない)。よってτσが動かす点の個数はmより真に小さく、帰納法の仮定からτσは互換の積である。τ−1=τなのでσ=τ(τσ)も互換の積である。符号については、(2)と(3)からr個の互換の積の符号が(−1)rになる。sgn(σ)は表し方によらない値なので、rの偶奇も表し方によらない。▨
4 存在と一意性、置換にわたる和
定理 4.1 (交代多重線形形式の決定と置換にわたる和).KをRまたはCとする。F:(Kn)n→Kが交代多重線形形式であるとき、成分がKに属する任意のn次正方行列A=(aij)について
F(A)=(σ∈Sn∑sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)⋯anσ(n))F(I).
証明.e1,…,enをKnの標準基底とすると、Aの第i行はai=∑j=1naijejと書くことができる。定義 2.1 条件 (a)を各行について順に用いて展開すると
F(A)=j1=1∑n⋯jn=1∑na1j1a2j2⋯anjnF(ej1;ej2;…;ejn)となる。j1,…,jnのうち二つが等しい項では、対応する二つの行が等しいので定義 2.1 条件 (b)によりF(ej1;…;ejn)=0である。したがって残るのは、i↦jiが全単射である項、すなわちji=σ(i)となる置換σ∈Snに対応する項だけである。
σを命題 3.3 (4)によりr個の互換の積として表す。行の入れ替えをr回行うと(eσ(1);…;eσ(n))を(e1;…;en)=Iへ移すことができ、補題 2.2により1回ごとに符号が変わるので
F(eσ(1);…;eσ(n))=(−1)rF(I)=sgn(σ)F(I)である。以上を代入すると主張の等式を得る。▨
定理 4.2 (行列式の存在と一意性).KをRまたはCとする。定義 2.1の3条件を満たす関数D:(Kn)n→Kはただ一つ存在し、成分がKに属する任意のn次正方行列A=(aij)に対して
で与えられる。したがって、交代多重線形形式FはすべてF(A)=det(A)F(I)と書くことができる。
証明. 一意性と最後の主張は定理 4.1から従う。実際、3条件を満たすDについてF=Dとすると、定義 2.1 条件 (c)によりD(I)=1であるから、定理 4.1の等式は式 (4.2.1)に一致する。
存在を示すため、式 (4.2.1)の右辺をΔ(A)とおく。
定義 2.1 条件 (a)を示す。各項a1σ(1)⋯anσ(n)は、各行から成分をちょうど一つずつ取った積である。したがって第k行の成分akσ(k)について1次であり、他の行の成分を含む因子は第k行を動かしても変わらない。よってΔは第k行について線形である。
定義 2.1 条件 (c)を示す。A=Iのときaiσ(i)はσ(i)=iのとき1、そうでなければ0である。積が0でないのはσ=idの項だけで、その値はsgn(id)=1である。よってΔ(I)=1である。
定義 2.1 条件 (b)を示す。p=qかつ第p行と第q行が等しいとする。すなわちすべてのjについてapj=aqjである。τ=(pq)とおくと、σ↦στはSnの全単射であり、στ=σである。この対応で移り合う二つの項を比べる。στはpをσ(q)へ、qをσ(p)へ移し、他のiではσと一致するので
i=1∏naiστ(i)=apσ(q)aqσ(p)i=p,q∏aiσ(i)=aqσ(q)apσ(p)i=p,q∏aiσ(i)=i=1∏naiσ(i)となる。2つめの等号でapj=aqjを用いた。一方sgn(στ)=−sgn(σ)である。したがってSnを{σ,στ}という対に分けると、各対の寄与は打ち消し合いΔ(A)=0を得る。▨
式 (4.2.1)を行列式の置換にわたる和による表示といいます。項の個数はn!です。この表示は有限和なので値を求めることができますが、次数が上がると計算する項が急速に増えて非効率になります。次数が大きい行列の計算には、次の節以降で導く行基本変形と余因子展開を使います。
例 4.3 (2次と3次の場合).KをRまたはCとし、行列の成分はKに属するとする。n=2のときS2={id,(12)}で、符号はそれぞれ1と−1である。式 (4.2.1)は
det(acbd)=ad−bcとなり、冒頭の式に一致する。n=3のときS3の6個の置換のうち、恒等置換と2つの巡回置換が符号+1、3つの互換が符号−1である。式 (4.2.1)は
a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32−a13a22a31−a11a23a32−a12a21a33となり、これはサラスの方法が並べる6個の積にほかならない。
5 行基本変形と行列式
命題 5.1 (行基本変形と行列式).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列、cをKの元とする。次が成り立つ。
- 二つの行を入れ替えると、行列式は符号が変わる。
- 一つの行をc倍すると、行列式はc倍になる。
- ある行に他の行のc倍を加えても、行列式は変わらない。
証明.(1)は補題 2.2にほかならない。(2)は、定義 2.1 条件 (a)においてy=x、α=c、β=0とした場合である。(3)を示す。第p行に第q行(q=p)のc倍を加えた行列の行列式は、第p行についての線形性から
det(…;ap+caq;…)=det(…;ap;…)+cdet(…;aq;…)である。右辺の第2項は、第p行と第q行がともにaqである行列の行列式なので、定義 2.1 条件 (b)により0である。▨
命題 5.2 (三角行列の行列式).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。Aが上三角行列(i>jのときaij=0)または下三角行列(i<jのときaij=0)なら、detA=a11a22⋯annである。
証明.Aが上三角であるとする。式 (4.2.1)の項a1σ(1)⋯anσ(n)が0でないためには、すべてのiについてσ(i)≥iが必要である。ところが∑i=1nσ(i)=∑i=1niなので、すべてのiでσ(i)≥iが成り立つならすべてのiで等号、すなわちσ=idである。よって残る項はa11⋯annのみである。下三角の場合も、σ(i)≤iとして同じ議論による。▨
例 5.3 (行基本変形で値を求める).
A=213437245の行列式を求める。第1行を2で括ると、命題 5.1 (2)によりdetA=2detBである。ここでBは第1行が(1,2,1)で他はAと同じ行列である。Bの第2行から第1行を引き、第3行から第1行の3倍を引くと、命題 5.1 (3)により行列式は変わらず
detB=det100211132である。さらに第3行から第2行を引くと
detB=det10021013−1=1⋅1⋅(−1)=−1である(最後の等号は命題 5.2)。したがってdetA=2⋅(−1)=−2である。
6 転置と、列についての性質
命題 6.1 (転置の行列式).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。このときdetA⊤=detA。
証明.A⊤の(i,j)成分はajiなので、式 (4.2.1)から
detA⊤=σ∈Sn∑sgn(σ)aσ(1)1aσ(2)2⋯aσ(n)n.各項でk=σ(i)と置き換えるとi=σ−1(k)であり、積は因子の順序によらないので
i=1∏naσ(i)i=k=1∏nakσ−1(k)である。また命題 3.3 (2)からsgn(σ)=sgn(σ−1)であり、σ↦σ−1はSnの全単射である。したがってτ=σ−1と書き換えると
detA⊤=τ∈Sn∑sgn(τ)a1τ(1)⋯anτ(n)=detA.▨
系 6.2 (列についての線形性と交代性).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。Aの行列式は各列についても線形であり、二つの列が等しければ値は0である。また、二つの列を入れ替えると符号が変わり、ある列に他の列の定数倍を加えても値は変わらない。
証明. 列に関する操作は、転置した行列の行に関する同じ操作である。命題 6.1により行列式の値は転置で変わらないので、定義 2.1と命題 5.1の各主張がそのまま列についても成り立つ。▨
7 余因子展開
定義 7.1 (小行列式・余因子).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。Aから第i行と第j列を除いて得られるn−1次正方行列をMij、その行列式detMijを小行列式 (minor) という。
Aij=(−1)i+jdetMijをAの(i,j)余因子 (cofactor) という。
定理 7.2 (余因子展開).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。n≥2ならば、各iについて
detA=j=1∑naijAij(第i行についての展開)であり、各jについて
detA=i=1∑naijAij(第j列についての展開)である。
証明. 第i行について示す。ai=∑jaijejと書き、第i行についての線形性を使うと
detA=j=1∑naijDij,Dij=det(a1;…;ai−1;ej;ai+1;…;an)となる。Dij=(−1)i+jdetMijを示せばよい。
Dijの行列で、第i行を隣接する行とi−1回入れ替えて第1行へ移し、続いて第j列を隣接する列とj−1回入れ替えて第1列へ移す。行の入れ替えは補題 2.2、列の入れ替えは系 6.2により、1回ごとに符号が変わる。これらの入れ替えは、除かれる行と列以外の行・列の相対的な順序を変えないので、得られる行列は
C=(1c0⊤Mij)の形であり
Dij=(−1)(i−1)+(j−1)detC=(−1)i+jdetCとなる。ここでc∈Kn−1は第1列の残りの成分である。Cの第1行は(1,0,…,0)なので、k≥2について第k行から第1行のck−1倍を引くと、命題 5.1 (3)により行列式は変わらず、第1列はc=0となる。すなわち
detC=det(100⊤Mij).最後に、n−1次正方行列Xに対して
G(X)=det(100⊤X)と定めると、GはXの各行について線形であり、Xの二つの行が等しければ値は0である。さらにG(In−1)=detIn=1である。よってGはn−1次の行列式の3条件を満たすので、定理 4.2の一意性からG(X)=detXである。したがってdetC=detMij、すなわちDij=(−1)i+jdetMijを得る。
列についての展開は、命題 6.1を用いてA⊤の行についての展開へ帰着する。A⊤の(j,i)余因子はAの(i,j)余因子に等しいので、主張の形になる。▨
例 7.3 (余因子展開による計算). 行列
A=104030205の第2行には0が二つある。第2行について定理 7.2を用いると
detA=0⋅A21+3⋅A22+0⋅A23=3(−1)2+2det(1425)=3(5−8)=−9である。
aij=0である項は和に寄与しないので、0の多い行または列について展開すると、値を求めるために計算する小行列式の個数が減ります。
証明.AAの(i,k)成分は∑jaijAkjである。i=kのときは定理 7.2の第i行についての展開そのもので、値はdetAである。
i=kとする。Aの第k行を第i行で置き換えた行列をA′とおく。A′の第k行以外の行はAと同じであり、(k,j)余因子は第k行を除いて作るので、A′の(k,j)余因子はAの(k,j)余因子Akjに等しい。A′を第k行について展開すると
detA′=j∑akj′Akj=j∑aijAkjである。一方A′は第i行と第k行がともにaiなので、定義 2.1 条件 (b)によりdetA′=0である。したがってi=kのとき∑jaijAkj=0であり、AA=(detA)Iを得る。
AAの(i,k)成分は∑jAijajk=∑jajkAjiである。i=kのときは定理 7.2の第i列についての展開そのもので、値はdetAである。i=kのときは、Aの第i列を第k列で置き換えた行列を第i列について展開した式であり(第i列を除いて作る余因子は置き換えで変わらない)、その行列は第i列と第k列が等しいので、系 6.2により行列式は0である。よってAA=(detA)Iも成り立つ。▨
例 7.5 (2次の余因子行列と逆行列).a,b,c,dを実数とし、A=(acbd)とする。Aの余因子は
A11=d,A12=−c,A21=−b,A22=aであるから
A=(d−c−ba)である。detA=ad−bc=0ならば、定理 7.4の両辺をdetAで割ることにより
A−1=detA1A=ad−bc1(d−c−ba)を得る。この式は§D3.3 公式 4.1と一致する。
8 基本行列
定義 8.1 (基本行列).KをRまたはCとする。成分がKに属する単位行列Iに1回だけ行基本変形を施して得られる行列を基本行列 (elementary matrix) という。次の3種類がある。
- 第p行と第q行を入れ替えたもの(p=q)をPpqと書く。
- 第p行をc倍したもの(c∈K、c=0)をDp(c)と書く。
- 第p行に第q行のc倍を加えたもの(c∈K、p=q)をNpq(c)と書く。
命題 8.2 (基本行列の作用と行列式).KをRまたはCとし、EをK上の基本行列、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。このときEAはAにEの作られ方と同じ行基本変形を施した行列である。また
detPpq=−1,detDp(c)=c,detNpq(c)=1.
証明.EAの(i,j)成分は行列の積の定義により∑k=1neikakjであるから、EAの第i行は、Eの第i行の成分ei1,…,einを係数とするAの第1行から第n行までの一次結合である。3種類それぞれについてEの行を調べる。
- Ppqの第p行はeq、第q行はep、それ以外の第i行はeiである。よってPpqAはAの第p行と第q行を入れ替えた行列である。
- Dp(c)の第p行はcep、それ以外の第i行はeiである。よってDp(c)AはAの第p行をc倍した行列である。
- Npq(c)の第p行はep+ceq、それ以外の第i行はeiである。よってNpq(c)AはAの第p行に第q行のc倍を加えた行列である。
行列式の値は、E=EIとみて上の作用を単位行列へ適用し、detI=1と命題 5.1 (1)、命題 5.1 (2)、命題 5.1 (3)をそれぞれ用いれば得られる。▨
9 積の行列式
定理 9.1 (積の行列式).KをRまたはCとし、A,Bを成分がKに属するn次正方行列とする。このときdet(AB)=detA⋅detBである。
証明.Bを固定し、F(A)=det(AB)と定める。行列の積の定義により、ABの第i行はAの第i行aiを用いてaiBと書くことができる。写像x↦xBは線形なので、FはAの各行について線形である。またAの第p行と第q行が等しければ、ABの第p行と第q行も等しいので、定義 2.1 条件 (b)によりF(A)=det(AB)=0である。よってFは交代多重線形形式であり、定理 4.2から
F(A)=det(A)F(I)=det(A)det(IB)=detA⋅detBを得る。▨
10 行列式と正則性
定理 10.1 (行列式が0でないことと正則であること).KをRまたはCとし、Aを成分がKに属するn次正方行列とする。次の3つは同値である。
- detA=0である。
- Aは正則である。すなわち、AB=BA=Iを満たす、成分がKに属するn次正方行列Bが存在する。
- Ax=0を満たすx∈Knはx=0のみである。
さらにAが正則ならdet(A−1)=(detA)−1であり、n≥2のときはA−1=(detA)−1Aと余因子行列によって書き表される。K=Rのときは、上の3つは§D3.3 定理 2.2の各条件とも同値である。
証明.(1)⇒(2)を示す。n=1のときA=(a)と書くとdetA=a=0であり、H=(a−1)がAH=HA=Iを満たす。n≥2のとき、定理 7.4のAA=AA=(detA)Iの両辺をdetA=0で割ると、H=(detA)−1AがAH=HA=Iを満たす。
(2)⇒(1)を示す。AH=HA=Iを満たすHを取る。定理 9.1により
1=detI=det(AH)=detAdetHであるから、detA=0である。
(2)⇒(3)を示す。AH=HA=Iを満たすHを取る。Ax=0ならばx=Ix=H(Ax)=H0=0である。
(3)⇒(1)を対偶で示す。detA=0と仮定し、nについての帰納法によりAx=0を満たす0でないx∈Knが存在することを示す。n=1ならばA=(0)であるから、x=(1)と取ることができる。
n≥2とし、n−1次正方行列について主張が成り立つと仮定する。Aの第1列が零ベクトルならばx=e1と取ることができる。第1列が零ベクトルでないならば、ap1=0を満たすpを取る。p=1ならば第1行と第p行を入れ替え、得られた第1列の第1成分をαとして第1行をα−1倍する。続いて、得られた第1列の第i成分をuiとして、各i=2,…,nについて第i行へ第1行の−ui倍を加える。
これらの行基本変形に対応する基本行列を、操作した順にE1,…,Emとし、E=Em⋯E1とおくと、EAの第1列はe1である。各Eiに対応する行基本変形には逆向きの行基本変形があり、その基本行列をEi′とすればEi′Ei=EiEi′=Iである。したがってE1′⋯Em′はEの両側逆行列であり、Eは正則である。
EA=(10r⊤B)と書くことができる。ここでBは成分がKに属するn−1次正方行列である。定理 9.1によりdet(EA)=detEdetA=0であり、定理 7.2をEAの第1列へ適用するとdet(EA)=detBである。したがってdetB=0である。
帰納法の仮定により、By=0を満たす0でないy∈Kn−1が存在する。第1成分が−r⊤yであり、残りの成分を並べたベクトルがyであるx∈Knを取ると、x=0かつ(EA)x=0である。Eは正則なので、左からE−1を掛けるとAx=0を得る。よって対偶が成り立つ。
Aが正則であるとし、AH=HA=Iを満たすHを取る。AC=CA=Iを満たす行列CがあればH=H(AC)=(HA)C=Cであるから、このようなHは一意である。これをA−1と書く。定理 9.1によりdetA⋅det(A−1)=detI=1であり、とくにdetA=0であってdet(A−1)=(detA)−1である。n≥2のときは、(1)⇒(2)の証明で構成した行列(detA)−1AがAとの積を両側でIにするので、一意性によりA−1=(detA)−1Aである。
K=Rとする。(2)は§D3.3 定理 2.2 (1)と同じ主張であり、(3)は§D3.3 定理 2.2 (2)と同じ主張である。よって§D3.3 定理 2.2の各条件は、上の3つと同値である。▨
定理 10.2 (正則行列は基本行列の積である).Aを実数を成分とするn次正則行列とすると、有限個の実数を成分とする基本行列E1,…,Emが存在して
A=E1E2⋯Emと書くことができる。
証明.§D3.2 定理 3.2により、Aに有限回の行基本変形を続けて簡約階段形Rへ変形することができる。命題 8.2により、各段の行基本変形は基本行列を左から掛けることに等しいので、基本行列F1,…,Fmを用いて
Fm⋯F1A=Rと書くことができる。
Aは正則であるから、定理 10.1 (2)⇒(3)によりAx=0の解はx=0のみである。RはAに有限回の行基本変形を続けて得られる簡約階段形であるから、§D3.2 系 4.2 (1)⇒(3)によりR=Iであり
Fm⋯F1A=Iが成り立つ。
基本行列は正則であり、その逆行列もまた基本行列である。実際、命題 8.2により基本行列を左から掛けることは対応する行基本変形を施すことであり、第p行と第q行の入れ替えを二度続けると元の行列に戻り、第p行をc倍したのちc−1倍すると元の行列に戻り、第p行に第q行のc倍を加えたのち−c倍を加えると元の行列に戻る。よってEを基本行列、E′を逆向きの操作に対応する基本行列とするとE′E=E′(EI)=IかつEE′=E(E′I)=Iであり、Ppq−1=Ppq、Dp(c)−1=Dp(c−1)(c=0)、Npq(c)−1=Npq(−c)であって、いずれも定義 8.1 (1)、定義 8.1 (2)、定義 8.1 (3)のいずれかの形である。したがってFm⋯F1A=Iの両辺へ左からF1−1F2−1⋯Fm−1を掛けると
A=F1−1F2−1⋯Fm−1を得る。右辺は基本行列の積である。▨
幾何的には、∣detA∣はAによる面積(体積)の拡大率で、detA=0は「面積が0につぶれる(次元が落ちる)」ことを意味します。次項でこの見方を図で確認します。