1 平方和と次数
定義 1.1 (平方和).n∈N≥1とし、p∈R[x1,…,xn]とする。
- 整数m≥0とf1,…,fm∈R[x1,…,xn]が存在してp=∑i=1mfi2を満たすとき、pは 平方和 (sum of squares) であるという。m=0のときの和は零多項式とする。
- すべてのa∈Rnに対してp(a)≥0であるとき、pは 非負 (nonnegative) であるという。
- p∈Q[x1,…,xn]とする。整数m≥0、d1,…,dm∈Q≥0、g1,…,gm∈Q[x1,…,xn]によるQ[x1,…,xn]の等式p=∑t=1mdtgt2を、pの 有理平方和表示 (rational weighted sum-of-squares representation) という。
補題 1.2.n∈N≥1とする。
- 平方和であるp∈R[x1,…,xn]は非負である。
- 有理平方和表示をもつp∈Q[x1,…,xn]は、R[x1,…,xn]の元として平方和である。
- 可換環の任意の元f1,f2,g1,g2に対して
(f12+f22)(g12+g22)=(f1g1−f2g2)2+(f1g2+f2g1)2
が成り立つ。
証明.p=∑i=1mfi2ならば、すべてのa∈Rnに対してp(a)=∑i=1mfi(a)2≥0であるから、(1)が成り立つ。p=∑t=1mdtgt2が有理平方和表示ならば、dt≥0であるからp=∑t=1m(dtgt)2であり、(2)が成り立つ。(3)の両辺はともにf12g12+f12g22+f22g12+f22g22に展開される。▨
補題 1.3.n∈N≥1、m∈N≥0とし、f1,…,fm∈R[x1,…,xn]とする。
- ∑i=1mfi2=0であるための必要十分条件は、すべてのiに対してfi=0であることである。
- あるfiが零でないとし、零でないfiの次数の最大値をeとする。このとき∑i=1mfi2の次数は2eである。さらにn=1のとき、∑i=1mfi2の最高次係数は次数eのfiの最高次係数の平方の和であり、正である。
- d∈N≥0とし、∑i=1mfi2は零であるか次数2d以下であるとする。このとき零でないすべてのfiの次数はd以下である。
証明.α∈N≥0nに対して∣α∣=α1+⋯+αnとおく。N≥0n上の全順序≺を、∣α∣<∣β∣であるか、∣α∣=∣β∣かつβ−αの零でない最初の成分が正であるときα≺βと定める。∣α+γ∣−∣β+γ∣=∣α∣−∣β∣かつ(β+γ)−(α+γ)=β−αであるから、α≺βならば任意のγ∈N≥0nに対してα+γ≺β+γである。fi=∑αciαxαと書く。
(2)を示す。零でないfiに対して、ciα=0を満たすαの≺に関する最大元をμiとする。≺はまず∣⋅∣を比べるので∣μi∣=degfiである。μiの最大元をμとし、I={i∣fi=0, μi=μ}とおく。Iは空でなく、∣μ∣=eである。fi=0とし、α+β=2μかつciαciβ=0とする。α⪯μi⪯μかつβ⪯μである。α≺μならばα+β≺μ+β⪯2μとなり、α+β=2μと両立しない。したがってα=μであり、同様にβ=μである。よってfi2のx2μの係数はciμ2であり、ciμ=0はi∈Iと同値である。ゆえに∑i=1mfi2のx2μの係数は∑i∈Iciμ2>0である。一方、fi2に現れる単項式xα+βは∣α+β∣≤2degfi≤2eを満たす。∣2μ∣=2eであるから∑i=1mfi2の次数は2eである。n=1のときμ=eであり、Iは次数eのfiの添字の集合であるから、最高次係数∑i∈Icie2は正である。
(1)を示す。すべてのfiが零ならば∑i=1mfi2=0である。あるfiが零でないならば、(2)の証明により∑i=1mfi2のx2μの係数は正であり、∑i=1mfi2=0である。
(3)を示す。∑i=1mfi2=0ならば(1)によりすべてのfiは零である。そうでなければ、あるfiは零でなく、(2)により2e≤2dである。▨
2 一変数の多項式
補題 2.1.KをRまたはCとし、f∈K[x]、a∈Kとする。このときf=(x−a)h+f(a)を満たすh∈K[x]が存在する。
証明.f=∑k=0mckxkと書く。k≥1に対してxk−ak=(x−a)∑j=0k−1ajxk−1−jであるから、h=∑k=1mck∑j=0k−1ajxk−1−jとおけばf−f(a)=∑k=1mck(xk−ak)=(x−a)hである。▨
定理 2.2.p∈R[x]とする。次の三条件は同値である。
- pは非負である。
- あるA,B∈R[x]が存在してp=A2+B2である。
- pは平方和である。
証明.条件 (b)⇒(c)は平方和の定義から、条件 (c)⇒(a)は補題 1.2 (1)から従う。
条件 (a)⇒(b)を示す。p=0ならばp=02+02である。零でない非負多項式pについて、degpに関する帰納法でpが二平方の和であることを示す。degp=0ならばpは定数cであり、c=p(0)≥0かつc=0であるからp=(c)2+02である。degp≥1とし、次数がdegpより小さい零でない非負多項式は二平方の和であると仮定する。
pが実根aをもつ場合を考える。補題 2.1によりp=(x−a)qを満たすq∈R[x]が存在する。q(a)=0と仮定する。qは連続であるから、あるδ>0が存在して、∣s∣<δを満たすすべてのs∈Rに対してq(a+s)q(a)>0である。このときq(a+δ/2)q(a−δ/2)>0であり、
p(a+δ/2)p(a−δ/2)=−4δ2q(a+δ/2)q(a−δ/2)<0である。一方でpは非負であるからp(a+δ/2)p(a−δ/2)≥0であり、二つの不等式は両立しない。したがってq(a)=0であり、補題 2.1によりq=(x−a)rを満たすr∈R[x]が存在してp=(x−a)2rである。p=0であるからr=0であり、degr=degp−2である。b=aを満たすb∈Rに対してr(b)=p(b)/(b−a)2≥0であり、rは連続であるからr(a)=limb→ar(b)≥0である。したがってrは零でない非負多項式であり、帰納法の仮定によりr=A12+B12を満たすA1,B1∈R[x]が存在する。このときp=((x−a)A1)2+((x−a)B1)2である。
pが実根をもたない場合を考える。pを複素係数多項式とみなすと、degp≥1であるから§E5.9 系 4.2によりp(w)=0を満たすw∈Cが存在する。pは実根をもたないから、u,v∈R、v=0によりw=u+ivと書かれる。pの係数は実数であるからp(wˉ)=p(w)=0である。補題 2.1によりp=(x−w)q1を満たすq1∈C[x]が存在し、0=p(wˉ)=(wˉ−w)q1(wˉ)とwˉ−w=−2iv=0からq1(wˉ)=0である。再び補題 2.1によりq1=(x−wˉ)rを満たすr∈C[x]が存在する。s=(x−w)(x−wˉ)=(x−u)2+v2∈R[x]とおくとp=srである。rの各係数を複素共役で置き換えた多項式をrˉとすると、pとsの係数は実数であるからp=srˉであり、s(r−rˉ)=0である。C[x]の零でない二元の積は零でないから、s=0よりr=rˉ、すなわちr∈R[x]である。p=0であるからr=0であり、degr=degp−2である。すべてのb∈Rに対してs(b)≥v2>0であるからr(b)=p(b)/s(b)≥0である。したがってrは零でない非負多項式であり、帰納法の仮定によりr=A12+B12を満たすA1,B1∈R[x]が存在する。補題 1.2 (3)をf1=x−u、f2=v、g1=A1、g2=B1に適用すると
p=((x−u)A1−vB1)2+((x−u)B1+vA1)2である。▨
系 2.3.p∈R[x]を零でない非負多項式とする。このときdegpは偶数であり、pの最高次係数は正である。さらに、任意のa∈Rに対して、整数k≥0とg(a)=0を満たすg∈R[x]が存在してp=(x−a)2kgである。
証明.定理 2.2によりp=A2+B2を満たすA,B∈R[x]が存在し、補題 1.3 (2)によりdegpは偶数であり、最高次係数は正である。
a∈Rとし、零でない二平方の和p=A2+B2について、degpに関する帰納法でp=(x−a)2kg、g(a)=0を示す。p(a)=0ならばk=0、g=pとすればよい。p(a)=0ならばA(a)2+B(a)2=0からA(a)=B(a)=0であり、補題 2.1によりA=(x−a)A1、B=(x−a)B1を満たすA1,B1∈R[x]が存在する。p1=A12+B12とおくとp=(x−a)2p1であり、p1=0、degp1=degp−2である。帰納法の仮定によりp1=(x−a)2kg、g(a)=0を満たすkとgが存在し、p=(x−a)2k+2gである。▨
3 Gram 行列
定理 3.1.n∈N≥1、d∈N≥0とする。α∈N≥0nに対して∣α∣=α1+⋯+αn、xα=x1α1⋯xnαnとし、Md={α∈N≥0n∣∣α∣≤d}とおく。Mdで添字づけた列ベクトルz=(xα)α∈Mdをとる。p=∑γpγxγ∈R[x1,…,xn]は零であるか次数2d以下であるとする。
- 実対称行列Q=(Qαβ)α,β∈Mdについて、zTQzのxγの係数は
(α,β)∈Md×Mdα+β=γ∑Qαβ
である。この和は順序対にわたるので、α=βを満たす二つの順序対(α,β)、(β,α)はQの対称性によりあわせて2Qαβを与える。p=zTQzであるための必要十分条件は、∣γ∣≤2dを満たすすべてのγ∈N≥0nに対してこの和がpγに等しいことである。
- 半正定値な実対称行列Q=(Qαβ)α,β∈Md、すなわちすべてのv∈RMdに対してvTQv≥0を満たす実対称行列Qで、p=zTQzを満たすものが存在することは、pが平方和であるための必要十分条件である。
証明.(1)を示す。zTQz=∑α,β∈MdQαβxα+βであるから、xγの係数は与えた和であり、∣γ∣>2dのときこの和は空である。pは零であるか次数2d以下であるから、∣γ∣>2dに対してpγ=0である。多項式の等式は全係数の一致であるから、主張が従う。
(2)を示す。
必要性を示す。p=∑i=1mfi2とする。補題 1.3 (3)により零でない各fiの次数はd以下であるから、fi=ciTzを満たすci∈RMdが存在する。Q=∑i=1mciciTは実対称行列であり、zTQz=∑i=1m(ciTz)2=pである。すべてのv∈RMdに対してvTQv=∑i=1m(ciTv)2≥0であるから、Qは半正定値である。
十分性を示す。Qを半正定値な実対称行列とし、p=zTQzとする。Mdの元の個数をNとし、Mdに全順序を一つ固定する。RMd上の二次形式v↦vTQvに§E3.40 定理 1.1を適用すると、RMdの基底u1,…,uNと整数s,r≥0が存在して、すべてのy∈RNに対して
(k=1∑Nykuk)TQ(k=1∑Nykuk)=y12+⋯+ys2−ys+12−⋯−ys+r2が成り立つ。r≥1ならばus+1TQus+1=−1<0となり、Qが半正定値であることと両立しないから、r=0である。u1,…,uNを列とする行列をUとし、U−1の最初のs行からなる行列をCとする。v∈RMdに対してy=U−1vとおけばv=∑kykukであるから、vTQv=∑k=1syk2=vTCTCvである。実対称行列Q′は等式2vTQ′w=(v+w)TQ′(v+w)−vTQ′v−wTQ′wにより二次形式v↦vTQ′vから定まるので、Q=CTCである。Cの第k行をckTとするとp=zTCTCz=∑k=1s(ckTz)2であり、pは平方和である。▨
例 3.2.n=1、d=2、p=x4+1とし、z=(1,x,x2)Tの順に行と列を並べる。τ∈Rに対して
Qτ=10−τ/20τ0−τ/201とおく。x0、x2、x4の係数についての定理 3.1 (1)の等式は1=1、τ+2(−τ/2)=0、1=1であり、x、x3の係数についての等式は0=0である。したがって、すべてのτ∈Rに対してzTQτz=pであり、すべてのa∈Rに対してz(a)TQτz(a)=a4+1≥0である。一方、xに対応する標準基底ベクトルexについてexTQ−2ex=−2<0であるから、Q−2は半正定値でない。Q0=diag(1,0,1)は半正定値であり、p=12+(x2)2を与える。
4 Motzkin 多項式
定理 4.1.M=x4y2+x2y4−3x2y2+1∈R[x,y]とする。
- Mは非負である。
- 任意のλ∈Rに対して、M−λは平方和でない。特にMは平方和でない。
証明.(1)を示す。(a,b)∈R2とし、s,t≥0をs3=a4b2、t3=a2b4を満たす実数とする。(st)3=(a2b2)3かつst≥0、a2b2≥0であるからst=a2b2である。実数s,t,rに対する恒等式
s3+t3+r3−3str=21(s+t+r)((s−t)2+(t−r)2+(r−s)2)をr=1に適用すると、s+t+1>0であるからM(a,b)=s3+t3+1−3st≥0である。
(2)を示す。λ∈Rとし、M−λ=∑i=1mfi2を満たすm∈N≥0とf1,…,fm∈R[x,y]が存在すると仮定する。M−λは次数6の多項式であるから、補題 1.3 (3)により零でない各fiの次数は3以下である。M3={α∈N≥02∣α1+α2≤3}とし、fi=∑α∈M3ciαxα1yα2と書く。fi2=∑α,β∈M3ciαciβxα1+β1yα2+β2であるから、γ∈N≥02に対して∑i=1mfi2のxγ1yγ2の係数は
sγ=i=1∑mα,β∈M3α+β=γ∑ciαciβである。M−λの係数と比べると、s(6,0)=s(4,0)=s(2,0)=0、s(0,6)=s(0,4)=s(0,2)=0、s(2,2)=−3である。
α+β=(6,0)を満たすα,β∈M3はα=β=(3,0)だけであるから、0=s(6,0)=∑ici(3,0)2であり、すべてのiに対してci(3,0)=0である。α+β=(4,0)を満たすα,β∈M3は{α,β}={(1,0),(3,0)}とα=β=(2,0)だけであるから、ci(3,0)=0より0=s(4,0)=∑ici(2,0)2であり、すべてのiに対してci(2,0)=0である。α+β=(2,0)を満たすα,β∈M3は{α,β}={(0,0),(2,0)}とα=β=(1,0)だけであるから、ci(2,0)=0より0=s(2,0)=∑ici(1,0)2であり、すべてのiに対してci(1,0)=0である。xとyを入れ替えた同じ議論をs(0,6)、s(0,4)、s(0,2)に順に適用すると、すべてのiに対してci(0,3)=ci(0,2)=ci(0,1)=0である。
したがって、ciα=0を満たすαはE={(0,0),(1,1),(2,1),(1,2)}に属し、各fiは
fi=ci(1,2)xy2+ci(2,1)x2y+ci(1,1)xy+ci(0,0)の形である。s(2,2)の和のうちα∈/Eまたはβ∈/Eの項は零であり、α+β=(2,2)を満たすα,β∈Eはα=β=(1,1)だけであるから、s(2,2)=∑ici(1,1)2≥0である。これはs(2,2)=−3と両立しない。したがってM−λは平方和でなく、λ=0とすればMは平方和でない。▨
5 半正定値性の有理検算
補題 5.1.Jを空でない有限集合、R=(Rik)i,k∈Jを実対称行列とし、j∈J、J′=J∖{j}とする。i∈Jに対してeiでRJの標準基底ベクトルを表し、v∈RJのJ′への制限をvJ′と書く。
- Rjj<0ならばejTRej<0であり、Rは半正定値でない。
- Rjj=0であり、あるl∈J′に対してRlj=0であるとする。このときτ=−(Rll+1)/(2Rlj)とv=τej+elについてvTRv=−1であり、Rは半正定値でない。
- Rjj>0であるか、Rjj=0かつすべてのi∈J′に対してRij=0であるとする。d=Rjjとおく。ℓ∈RJを、ℓj=1とし、i∈J′に対してRjj>0ならばℓi=Rij/Rjj、Rjj=0ならばℓi=0と定める。S=(Rik−dℓiℓk)i,k∈J′とし、SをJ′の外で零と延長したJ×J行列をS~とする。このときR=dℓℓT+S~である。さらに、Rが半正定値であるための必要十分条件はSが半正定値であることであり、任意のw∈RJ′に対して、vJ′=w、vj=−∑i∈J′ℓiwiで定まるv∈RJはvTRv=wTSwを満たす。
証明.(1)はejTRej=Rjjから従う。(2)はvTRv=τ2Rjj+2τRlj+Rll=−(Rll+1)+Rll=−1から従う。
(3)を示す。dℓℓT+S~の(j,j)成分はd=Rjjである。i∈J′に対して、(i,j)成分はdℓiであり、Rjj>0ならばdℓi=Rij、Rjj=0ならばdℓi=0=Rijである。i,k∈J′に対して、(i,k)成分はdℓiℓk+Sik=Rikである。したがってR=dℓℓT+S~であり、すべてのv∈RJに対して
vTRv=d(ℓTv)2+vJ′TSvJ′である。Sが半正定値ならば、d≥0であるからRは半正定値である。w∈RJ′とし、vを主張のとおりに定めるとℓTv=vj+∑i∈J′ℓiwi=0であるから、vTRv=wTSwである。したがってRが半正定値ならばSは半正定値である。▨
定理 5.2.N∈N≥0とし、Q∈MN(Q)を対称行列とする。J1={1,…,N}、R(1)=Qとおき、t=1,2,…の順に次を行う。Jt=∅ならば停止し、このとき手続きは完了したという。Jt=∅ならばjt∈Jtを一つ選び、R=R(t)、j=jt、J′=Jt∖{j}とする。
- Rjj>0であるか、Rjj=0かつすべてのi∈J′に対してRij=0であるとき、Rとjに補題 5.1 (3)を適用して得るd、ℓ、Sについて、dt=dとし、ℓをJtの外で零と延長したQNの元をℓtとし、R(t+1)=S、Jt+1=J′とする。
- Rjj<0であるか、Rjj=0かつあるi∈J′に対してRij=0であるとき、停止する。
このとき次が成り立つ。
- jtの選び方によらず、手続きは高々N+1回の段で停止し、有理数の四則演算と零との大小比較だけを用いる。すべてのR(t)、dt、ℓtの成分は有理数である。
- 手続きが完了したとき、d1,…,dN∈Q≥0であり、Q=∑t=1NdtℓtℓtTである。さらに、Pet=ejtで定まる置換行列P、L=PT(ℓ1 ⋯ ℓN)、D=diag(d1,…,dN)について、Lは対角成分がすべて1の有理下三角行列であり、PTQP=LDLTである。
- 手続きが段tで(2)によって停止したとき、R(t)に補題 5.1 (1)または補題 5.1 (2)を適用して得るw(t)∈QJtから、s=t−1,…,1の順に、w(s)∈QJsをJs+1への制限がw(s+1)でありwjs(s)=−∑i∈Js+1(ℓs)iwi(s+1)であるものと定める。このときv=w(1)∈QNはvTQv<0を満たす。
- Qが半正定値であるための必要十分条件は、手続きが完了することである。
証明.(1)を示す。(1)が実行された段tではJt+1の元の個数はJtの元の個数より1だけ少ないから、(1)は高々N回実行され、手続きは高々N+1回の段で停止する。補題 5.1 (3)のℓとSはRの成分から、零でないRjjによる除算と積と差で得られるから、すべてのR(t)、dt、ℓtの成分は有理数である。
(1)が段1,…,t−1で実行されたとし、1≤s≤tに対してR(s)をJs×Jsの外で零と延長したN×N行列をR~(s)とする。1≤s<tに対して、補題 5.1 (3)の等式はJs×Js成分についてR~(s)=dsℓsℓsT+R~(s+1)を与え、ℓsはJsの外で零であるから、この等式はN×N行列の等式として成り立つ。sについて足し合わせると
Q=s=1∑t−1dsℓsℓsT+R~(t)である。
(2)を示す。手続きが完了したときJN+1=∅であるから、R~(N+1)=0でありQ=∑t=1NdtℓtℓtTである。dt=Rjtjt(t)≥0である。Lの(s,t)成分は(ℓt)jsである。s<tならばjs∈/Jtであるから(ℓt)js=0であり、(ℓt)jt=1である。したがってLは対角成分がすべて1の下三角行列であり、PTQP=∑t=1Ndt(PTℓt)(PTℓt)T=LDLTである。
(3)を示す。(2)の条件は補題 5.1 (1)または補題 5.1 (2)の仮定であるから、w(t)はejtまたはτejt+elであり、τは有理数であって、w(t)TR(t)w(t)<0である。1≤s<tに対して、w(s)はR(s)とjsについて補題 5.1 (3)がw=w(s+1)から定めるベクトルであるから、w(s)TR(s)w(s)=w(s+1)TR(s+1)w(s+1)である。したがってvTQv=w(t)TR(t)w(t)<0であり、vの成分は有理数である。
(4)を示す。手続きが完了したならば、(2)によりすべてのv∈RNに対してvTQv=∑t=1Ndt(ℓtTv)2≥0であり、Qは半正定値である。手続きが完了しないならば、(1)により(2)によって停止し、(3)によりQは半正定値でない。▨
系 5.4.n∈N≥1、d∈N≥0とし、Md、zを定理 3.1のとおりとする。p∈Q[x1,…,xn]は零であるか次数2d以下であるとし、有理対称行列Q=(Qαβ)α,β∈Mdは∣γ∣≤2dを満たすすべてのγについて定理 3.1 (1)の等式を満たすとする。Mdに全順序を一つ固定してQに定理 5.2の手続きを適用する。手続きが完了したならば、gt=ℓtTz∈Q[x1,…,xn]についてp=∑tdtgt2はpの有理平方和表示であり、pは平方和であって非負である。手続きが完了しないならば、Qは半正定値でない。
証明.定理 3.1 (1)によりp=zTQzである。手続きが完了したならば、定理 5.2 (2)によりp=∑tdt(ℓtTz)2であり、dt∈Q≥0、ℓt∈QMdである。補題 1.2 (2)と補題 1.2 (1)によりpは平方和であって非負である。最後の主張は定理 5.2 (4)から従う。▨
命題 5.5.n∈N≥1、d∈N≥0とし、Md、zを定理 3.1のとおりとする。p=∑γpγxγ∈Q[x1,…,xn]は零であるか次数2d以下であるとする。∣γ∣≤2dを満たすγに対してPγ={(α,β)∈Md×Md∣α+β=γ}とし、その元の個数をNγとする。p=zTQzを満たす実対称行列Q=(Qαβ)α,β∈Md全体の集合をApとする。
- ∣γ∣≤2dを満たすすべてのγに対してNγ≥1である。有理対称行列Q^に対して
Qαβ∗=Q^αβ+Nα+β1(pα+β−(α′,β′)∈Pα+β∑Q^α′β′)(α,β∈Md)
と定めると、Q∗はApに属する有理対称行列である。
- 整数K≥0と有理対称行列Q0,B1,…,BKが存在して、Ap={Q0+∑k=1KτkBk∣τ∈RK}である。
証明.(1)を示す。∣γ∣≤2dとする。0≤⌈∣γ∣/2⌉≤∣γ∣であるから、成分ごとに0≤α≤γかつ∣α∣=⌈∣γ∣/2⌉を満たすαが存在し、β=γ−αは∣β∣=⌊∣γ∣/2⌋を満たす。∣α∣,∣β∣≤dであるから(α,β)∈Pγであり、Nγ≥1である。(α,β)∈Pγと(β,α)∈Pγは同値であるからQ∗は対称であり、成分は有理数である。(α,β)∈Pγならばα+β=γであるから、
(α,β)∈Pγ∑Qαβ∗=(α,β)∈Pγ∑Q^αβ+Nγ⋅Nγ1(pγ−(α′,β′)∈Pγ∑Q^α′β′)=pγである。定理 3.1 (1)によりQ∗∈Apである。
(2)を示す。定理 3.1 (1)により、Apは未知数(Qαβ)({α,β}ごとに一つ)についての、係数が1または2で右辺がpγ∈Qの連立一次方程式の実数解の集合である。Q上の行基本変形で被約階段形へ変形しても実数解の集合は変わらない。(1)をQ^=0に適用すればAp=∅であるから、被約階段形の方程式は、ピボットでない未知数τ1,…,τKを任意の実数とし、ピボットの未知数をτの有理係数一次式に有理定数を加えたものとする解の表示を与える。τ=0に対応する解をQ0、τの第k成分だけが1で他が0のときの解からQ0を引いたものをBkとすればよい。▨
例 5.6.
- n=1、d=1、p=x2+32x+1とし、z=(1,x)Tの順に行と列を並べる。定理 3.1 (1)の等式はQ1,1=1、2Q1,x=32、Qx,x=1であるから、Apはただ一つの行列Q=(11/31/31)からなる。各成分を小数第3位へ丸めたQ^=(1333/1000333/10001)はzTQ^z=x2+500333x+1=pを満たし、Apに属さない。命題 5.5 (1)ではN(1)=2であり、Q^1,xとQ^x,1に21(32−500333)=30001を加えてQ∗=Qを得る。Q∗にjt=minJtで手続きを適用すると、d1=1、ℓ1=(1,31)T、R(2)=(1−91)=(98)、d2=98、ℓ2=e2であり、有理平方和表示p=(1+31x)2+98x2を得る。
- n=1、d=2、p=x4とし、z=(1,x,x2)Tの順に行と列を並べる。ε∈Q>0とし、
Q^=00−ε03ε0−ε01
とする。x2の係数についての等式だけが成り立たず、N(2)=3であるから、命題 5.5 (1)はQx,x∗=38ε、Q1,x2∗=Qx2,1∗=−34εとし、他の成分を変えない。Q∗にj1=1で手続きを適用すると、Q1,1∗=0かつQx2,1∗=0であるから段1で定理 5.2 (2)により停止し、補題 5.1 (2)はv=(4ε3,0,1)T、vTQ∗v=−1を与える。一方、Apに属するex2ex2Tは半正定値であり、p=(x2)2を与える。
6 下界の証明書
命題 6.1.n∈N≥1、k∈N≥0とし、p,g1,…,gk∈R[x1,…,xn]、λ∈Rとする。S={a∈Rn∣g1(a)≥0,…,gk(a)≥0}とおく。k=0のときS=Rnである。平方和σ0,σ1,…,σk∈R[x1,…,xn]が存在して
p−λ=σ0+j=1∑kσjgjが成り立つとする。
- すべてのa∈Sに対してp(a)≥λである。
- さらにp(a0)=λを満たすa0∈Sが存在するならば、pのS上の最小値は存在してλに等しい。
証明.(1)を示す。a∈Sとする。補題 1.2 (1)によりσj(a)≥0(0≤j≤k)であり、gj(a)≥0(1≤j≤k)であるから、p(a)−λ=σ0(a)+∑j=1kσj(a)gj(a)≥0である。
(2)は(1)とa0∈S、p(a0)=λから従う。▨
例 6.2.p=(x2+y2−1)2+x2=x4+2x2y2+y4−x2−2y2+1∈Q[x,y]とし、d=2、z=(1,x,y,x2,xy,y2)Tの順に行と列を並べる。v=(−1,0,0,1,0,1)T、exをxに対応する標準基底ベクトルとし、
Q=vvT+exexT=100−10−1010000000000−100101000000−100101とおく。定理 3.1 (1)の等式のうちQの零でない成分が現れるものは
x0: Q1,1=1,x4: Qx2,x2=1,x2: Qx,x+2Q1,x2=1−2=−1,x2y2: Qxy,xy+2Qx2,y2=0+2=2,y2: Qy,y+2Q1,y2=0−2=−2,y4: Qy2,y2=1であり、右辺はpの係数に等しい。∣γ∣≤4を満たす他のγに対する和はQの零の成分だけからなり、pγ=0に等しい。Qにjt=minJtで定理 5.2の手続きを適用すると、段1でd1=1、ℓ1=(1,0,0,−1,0,−1)Tであり、R(2)は(x,x)成分だけが1で他の成分が0の行列である。段2でd2=1、ℓ2=exであり、段3から段6では零の行と列が除かれてd3=⋯=d6=0である。系 5.4により、有理平方和表示
p=1⋅(1−x2−y2)2+1⋅x2を得る。命題 6.1をk=0、λ=0に適用するとp≥0であり、p(0,±1)=0であるからpの最小値は0である。p+1=(1−x2−y2)2+x2+12も平方和であり、λ=−1の下界を与えるが、p≥0>−1であるからp(a0)=−1を満たすa0は存在せず、−1は最小値でない。
例 6.3.p=−x4∈Q[x]、g1=1−x2とすると、S={a∈R∣1−a2≥0}=[−1,1]である。σ0=0、σ1=1+x2=12+x2とおくと
p−(−1)=1−x4=(1+x2)(1−x2)=σ0+σ1g1であるから、命題 6.1により[−1,1]上でp≥−1であり、p(±1)=−1であるからpの[−1,1]上の最小値は−1である。p(2)=−16<−1であるから、p+1はR上で非負でなく、補題 1.2 (1)により平方和でない。