1 六角形の辺と、一つおきの三直線
証明では、六角形の辺を一つおきに取った二つの三つ組を繰り返し使います。そこで、辺に番号を付けておきます。
定義 1.1 (六角形の辺と、一つおきの三直線).定理 1の六角形A1B2A3B1A2B3の六本の辺を含む直線を、頂点の順にs1,…,s6と書く。すなわち
s1s4=A1B2,=B1A2,s2s5=B2A3,=A2B3,s3s6=A3B1,=B3A1とする。{s1,s3,s5}を奇数側の三直線、{s2,s4,s6}を偶数側の三直線という。
向かい合う辺の組は、番号が3だけ離れた二本です。三つの交点は
X3=s1∩s4,X1=s2∩s5,X2=s3∩s6
であり、どれも奇数側の一本と偶数側の一本との交点です。
この配置は、次の二つの置き換えについて形を変えません。第一に、AiとBiをすべてのiについて入れ替える置き換えは、s1,s3,s5をそれぞれs4,s6,s2へ移すので、奇数側と偶数側を入れ替えます。この置き換えは、X1,X2,X3のそれぞれを自分自身へ移します。第二に、添字を1→2→3→1と巡回させる置き換えは、s1→s5→s3→s1とs2→s6→s4→s2、およびX3→X1→X2→X3という対応を与えます。以下では、この二つの置き換えを使って場合の数を減らします。
2 証明の方針
出発点。X1,X2,X3は、それぞれs5,s3,s1上にあります。奇数側の三直線s1,s3,s5が三角形の三辺をなすならば、三つの交点はその三角形の三辺上に一点ずつ乗ることになるので、共線の判定にメネラウスの定理の逆(§A5.9 定理 6.3)を用いることができます。示すべきことは、三つの有向線分比の積が−1になることです。
中間目標。この三角形に対して、偶数側の三直線s2,s4,s6と、もとの二直線ℓ1,ℓ2の、合わせて五本を横切る直線と見なし、メネラウスの定理(§A5.9 定理 6.2)を五回用います。偶数側の三本から得た三つの等式の積を、ℓ1,ℓ2から得た二つの等式の積で割ると、AiとBjに関する六つの比がすべて約分で消え、X1,X2,X3に関する三つの比の積だけが残ります。
片づけておく二つのこと。この筋を通すには、二つの障害を先に取り除く必要があります。
第一に、向かい合う辺が平行になると交点が有限の位置になく、三角形の頂点も無限に遠ざかることがあります。この定理の主張は入射関係だけで書かれているので、射影変換で配置を移してから証明し、逆変換で戻すことができます(§A5.17 定理 6.1)。そこで、必要な点がすべて有限点になる配置へ移します。
第二に、奇数側の三直線が三角形をなさず、一点で交わることがあります。この配置は、射影変換で移しても解消しません。そこで、奇数側と偶数側が同時に一点で交わることはない、という定理を先に証明します。この証明で、一点からの射影が複比を保つことを用います。
3 配置を有限な位置へ移す
パップスの六角形定理の主張は、「指定した三点が同一の直線上にある」という入射関係だけで書かれています。射影変換は入射関係と複比を保ち、逆変換も同じものを保つので、射影変換で移した先で主張を証明すれば、もとの配置での主張が得られます(§A5.17 定理 6.1)。長さや角による結論であれば、この運び方をすることはできません。
必要なのは、配置に現れる有限個の点を、すべて無限遠点でない位置へ移すことです。
定理 3.1 (配置を有限な位置へ移すことができる). 射影平面上に有限個の点が与えられているとする。このとき、その有限個の点をすべて有限点へ移す射影変換が存在する。
証明. 与えられた点のうち、無限遠点であるものは有限個です。無限遠点は平面の一つの方向に対応するので(§A5.17 定義 1)、対応する方向も有限個です。原点のまわりの回転は可逆な行列で表されるので射影変換であり(§A5.17 定理 5.5)、あらかじめ適当な回転を行うことによって、これらの方向のどれもx軸の方向と一致しないようにすることができます。
次に、§A5.17 定理 5.7で用いた行列
Ms=10001s001(s=0)が定める射影変換TMsをとります。Msは[X:Y:Z]を[X:Y:sY+Z]へ移します。したがって無限遠点[X:Y:0]は、Y=0であれば[X:Y:sY]という有限点へ移ります。回転によってx軸の方向を避けてあるので、与えられた無限遠点はすべてY=0を満たします。また、有限点[x:y:1]の像は[x:y:sy+1]であり、sy+1=0であるかぎり有限点のままです。与えられた有限点は有限個なので、sの絶対値を十分小さくとれば、そのすべてについてsy+1=0が成り立ちます。このsに対するTMsと、先の回転との合成が、求める射影変換です。▨
4 奇数側と偶数側が同時に一点で交わることはない
一点からの射影は、同一直線上の四点の複比を変えません(§A5.14 定理 2)。三本の直線が一点で交わるという条件は、この不変性を通して、二直線上の六点の位置についての等式に書き換えられます。
定理 4.1 (奇数側の三直線が一点で交わるときの複比の等式).定理 1の仮定のもとで、ℓ1とℓ2は点Oで交わるとする。奇数側の三直線s1,s3,s5が一点Tで交わるならば
(A1,A2;A3,O)=(B2,B3;B1,O)が成り立つ。
証明. はじめに、Tがℓ1上にもℓ2上にもないことを示します。Tがℓ1上にあるとします。Tはs1=A1B2上にあり、s1はℓ1と一致しません(一致すればB2がℓ1上に来てB2=Oとなります)。相異なる二直線の共有点は一つなのでT=A1です。ところがTはs5=A2B3上にもあるので、A1がs5上に来て、注意 1.2の事実に反します。Tがℓ2上にあるとした場合も、s1がℓ2と一致しないことからT=B2となり、B2がs5上に来て同じ事実に反します。
そこで、Tを中心としてℓ1上の点をℓ2へ射影します。Tはℓ1,ℓ2のどちらの上にもないので、この射影はℓ1上の各点に対して定まります。Tはs1上にあるので直線TA1はs1に一致し、s1とℓ2の共有点はB2です。したがってA1の像はB2です。同じ理由で、s5からA2の像はB3となり、s3からA3の像はB1となります。またOはℓ1とℓ2の共有点なので、Oの像はOです。
一点からの射影は複比を変えないので(§A5.14 定理 2)、四点A1,A2,A3,Oとその像B2,B3,B1,Oについて、等式が成り立ちます。▨
この等式を、Oから測った有向線分の逆数で書き直すと、扱いやすい形になります。
定理 4.2 (奇数側と偶数側の少なくとも一方は三角形をなす).定理 1の仮定のもとで、ℓ1とℓ2は点Oで交わり、奇数側の三直線のどの二本も平行でなく、偶数側の三直線のどの二本も平行でないとする。このとき、奇数側の三直線s1,s3,s5と偶数側の三直線s2,s4,s6のうち、少なくとも一方は三角形の三辺をなす。
証明. 三本の直線のどの二本も平行でないとき、そのうちの二本は一点で交わります。三本が三角形をなさないのは、残りの一本がその交点を通る場合、すなわち三本が一点で交わる場合に限ります。そこで、奇数側も偶数側も一点で交わると仮定して、矛盾を導きます。
ℓ1に、Oを原点とする座標を一つ入れ、αi=OAiとおきます。同様にℓ2についてβj=OBjとおきます。六点はOと異なるので、αiとβjはいずれも0ではありません。また、A1,A2,A3が相異なるのでα1,α2,α3は相異なり、β1,β2,β3も相異なります。
複比の座標表示(§A5.14 定義 1)により、Oの座標が0であることを使うと
(A1,A2;A3,O)=(α3−α2)(0−α1)(α3−α1)(0−α2)=(α3−α2)α1(α3−α1)α2です。ここでui=1/αi、vj=1/βjとおきます。α3−α1=α1α3(u1−u3)およびα3−α2=α2α3(u2−u3)を代入すると、α1,α2,α3が約分されて
(A1,A2;A3,O)=u2−u3u1−u3,(B2,B3;B1,O)=v3−v1v2−v1を得ます。後者についても、β1−β2=β1β2(v2−v1)とβ1−β3=β1β3(v3−v1)を用いて、同じ計算を行います。
奇数側が一点で交わるので、定理 4.1より
u2−u3u1−u3=v3−v1v2−v1(1)が成り立ちます。AiとBiを入れ替える置き換えは、奇数側の三直線と偶数側の三直線を入れ替え、OをOへ移し、uiとviを入れ替えます。偶数側も一点で交わるので、同じ定理をこの置き換えの後の配置へ適用して
v2−v3v1−v3=u3−u1u2−u1(2)を得ます。
ここで
P=u2−u1,Q=u3−u2,R=u1−u3,p=v2−v1,q=v3−v2,r=v1−v3とおきます。α1,α2,α3は相異なる0でない数なのでu1,u2,u3は相異なり、同じ理由でv1,v2,v3も相異なります。したがって、この六つの値はいずれも0ではありません。また、定義から
P+Q+R=0,p+q+r=0が成り立ちます。式(1)はR/(−Q)=p/(−r)すなわちRr=Qpと書き直され、式(2)はr/(−q)=P/(−R)すなわちRr=Pqと書き直されます。したがって
Qp=Pq=Rrです。この共通の値をkとおくと、Q=0かつp=0なのでk=0です。よってp=k/Q、q=k/P、r=k/Rと書くことができ、p+q+r=0から
k(P1+Q1+R1)=0が従います。k=0なので両辺をkで割り、さらにPQR=0を掛けて
PQ+QR+RP=0を得ます。一方P+Q+R=0なので
0=(P+Q+R)2=P2+Q2+R2+2(PQ+QR+RP)=P2+Q2+R2となります。実数の平方の和が0になるのは、三つの実数がすべて0である場合に限るのでP=Q=R=0となりますが、これはP=0に反します。したがって、奇数側と偶数側が同時に一点で交わることはありません。▨
5 メネラウスの定理を五回用いる
準備が済んだので、主定理を証明します。
証明 (パップスの六角形定理の証明). 第1段(有限な配置へ移す)。主張は入射関係だけで書かれているので、射影変換で移した配置で結論を示せば、逆変換によってもとの配置の結論が得られます(§A5.17 定理 6.1)。そこで定理 3.1を、次の有限個の点へ適用します。六点A1,A2,A3,B1,B2,B3、ℓ1とℓ2の共有点、三つの交点X1,X2,X3、および一つおきの三直線どうしの六つの交点s1∩s3,s3∩s5,s5∩s1,s2∩s4,s4∩s6,s6∩s2です。以後、これらがすべて有限点である配置を扱います。とくにℓ1とℓ2は有限な点Oで交わり、奇数側の三直線のどの二本も平行でなく、偶数側についても同じです。
第2段(三角形を選ぶ)。定理 4.2により、奇数側と偶数側の少なくとも一方は三角形の三辺をなします。AiとBiを入れ替える置き換えは、奇数側と偶数側を入れ替え、X1,X2,X3をそれぞれ自分自身へ移し、定理の仮定も保ちます。したがって、必要ならこの置き換えを行うことによって、奇数側の三直線s1,s3,s5が三角形をなすとしてよいことになります。この三角形の頂点を
U=s1∩s5,V=s5∩s3,W=s3∩s1とします。各辺を含む直線は、辺VWがs3、辺WUがs1、辺UVがs5です。
第3段(各辺上の三点が頂点と異なること)。辺WUを含むs1の上には、A1,B2,X3の三点があります。この三点がUともWとも異なることを確かめます。Uはs5=A2B3上にあるので、U=A1またはU=B2とするとA1またはB2がs5上に来て、注意 1.2の事実に反します。Wはs3=A3B1上にあるので、同じ議論がWについても通ります。次にX3を見ます。X3はs4=B1A2上にあります。s4とs5はどちらもA2を通り、一致しません。仮に一致すればB1がs5=A2B3上に来て、注意 1.2の事実に反するからです。相異なる二直線の共有点は一つなので、X3=UとするとU=A2となり、A2がs1=A1B2上に来て同じ事実に反します。同様に、s4とs3はどちらもB1を通り、一致すればA2がs3=A3B1上に来るので、一致しません。したがってX3=WとするとW=B1となり、B1がs1上に来て同じ事実に反します。添字を1→2→3→1と巡回させる置き換えは、s1→s5→s3→s1、U→V→W→U、X3→X1→X2→X3という対応で配置全体を保つので、残りの二辺についても同じ議論が通ります。
第4段(メネラウスの定理を五回用いる)。三角形△UVWに対して、§A5.9 定理 6.2を五本の直線について用います。ここで比の順序は、辺VW、WU、UVの順にそろえます。
偶数側の三直線は、三角形△UVWの各辺を含む直線と、次のように交わります。s6=B3A1は、s3とX2で、s1とA1で、s5とB3で交わります。s4=B1A2は、s3とB1で、s1とX3で、s5とA2で交わります。s2=B2A3は、s3とA3で、s1とB2で、s5とX1で交わります。したがって
X2WVX2A1UWA1B3VUB3B1WVB1X3UWX3A2VUA2A3WVA3B2UWB2X1VUX1=−1,=−1,=−1が成り立ちます。もとの二直線については、ℓ1がs3,s1,s5とそれぞれA3,A1,A2で交わり、ℓ2がs3,s1,s5とそれぞれB1,B2,B3で交わるので
A3WVA3A1UWA1A2VUA2=−1,B1WVB1B2UWB2B3VUB3=−1が成り立ちます。
第5段(約分と結論)。はじめの三つの等式の辺々を掛けると左辺の積は(−1)3=−1になり、あとの二つの等式の辺々を掛けると左辺の積は(−1)2=1になります。前者を後者で割ります。A1,A2,A3,B1,B2,B3を含む六つの比は、分子側にも分母側にもちょうど一度ずつ現れるので、すべて約分で消えます。残るのは
X2WVX2X3UWX3X1VUX1=1−1=−1です。X2はVW上、X3はWU上、X1はUV上にあり、いずれも頂点と異なるので、§A5.9 定理 6.3によりX1,X2,X3は一直線上にあります。第1段の射影変換の逆変換で戻せば、もとの配置でも三点は一直線上にあります。▨
6 平行な組がある場合
主定理は、向かい合う辺の三つの組がそれぞれ交わることを仮定しています。この仮定を外すと、平行な組が現れます。無限遠点を導入すると、この場合も同じ主張に含めることができます。
定理 6.1 (平行な組を含む形).定理 1の六点をとる。向かい合う辺の組が平行である場合には、その組の交点を、その方向の無限遠点(§A5.17 定義 1)と定める。このとき、三つの交点X1,X2,X3は、射影平面の一本の直線上にある。
証明.定理 1の証明の第1段では、三つの交点を含む有限個の点を、定理 3.1によってすべて有限点へ移しました。この段は、三つの交点がもとの配置で無限遠点であっても、そのまま通ります。第2段以降は、移した先の有限な配置だけを扱うので、変更は要りません。したがって移した先で三点は一直線上にあり、逆変換で戻すと、もとの配置でも三点は射影平面の一本の直線上にあります。▨
平行な組が二つあると、三つ目の組も平行になります。
定理 6.2 (二組が平行ならば残りの組も平行).定理 1の六点について、A1B2とB1A2が平行で、かつB2A3とA2B3が平行であるとする。このときA3B1とB3A1も平行である。
証明. 仮定により、X3はs1の方向の無限遠点であり、X1はs2の方向の無限遠点です。この二点は相異なります。実際、s1=A1B2とs2=B2A3はB2を共有するので、方向が一致すれば二直線は一致し、A1がs2上に来て注意 1.2の事実に反します。
X3とX1は相異なる無限遠点なので、この二点を通る射影直線は無限遠直線ただ一本です(§A5.17 定理 1.1)。定理 6.1によりX2もこの直線上にあるので、X2は無限遠点です。すなわちs3とs6は交点をもたず、平行です。▨
7 具体的な配置で確かめる
三つの交点を実際に求めてみます。
例 7.1 (六点を座標で与えて三つの交点を求める).ℓ1をx軸、ℓ2をy軸とし、六点を
A1(−6,0),A2(2,0),A3(3,0),B1(0,1),B2(0,3),B3(0,4)とします。二直線の交点は原点であり、六点はいずれも原点と異なります。六本の辺を含む直線の方程式は
s1s4: −x+2y=6,: x+2y=2,s2s5: x+y=3,: 2x+y=4,s3s6: x+3y=3,: −2x+3y=12です。向かい合う辺の交点を求めると
X3=s1∩s4=(−2,2),X1=s2∩s5=(1,2),X2=s3∩s6=(−3,2)となり、三点はいずれも直線y=2の上にあります。
この例は、一つの配置について主定理の結論が成り立つことを確かめたものです。一つの配置で確かめても、すべての配置についての証明にはなりません。すべての配置についての証明は、前節までのメネラウスの定理による議論が与えています。
8 円に内接する六角形の場合
パップスの六角形定理は、六点が二本の直線の上にある場合の定理です。六点が一つの円周上にある場合にも、向かい合う辺の交点となる三点が一直線上に並びます。この主張をパスカルの定理といいます。