1 完備性から Archimedes 性を導く
定義 1.1. 順序体Kが完備順序体 (complete ordered field) であるとは、Kの上に有界で空でない任意の部分集合がKの中に上限をもつことをいう。本記事では、この性質を上限の性質ともいう。
環の元を整数倍する記法を先に固定する。整数倍は環の乗法ではなく加法の反復であり、以後の計算はすべてこの記法の上で行う。
定義 1.2.Rを単位元1Rをもつ環とし、a∈Rとする。非負整数nに対して
0⋅a=0,(n+1)⋅a=n⋅a+aと定め、正の整数nに対して
(−n)⋅a=−(n⋅a)と定める。整数nに対してこうして定まるRの元n⋅aをaの整数倍 (integer multiple) という。
命題 1.3.Rを単位元1Rをもつ環とし、a∈R、m,n∈Zとする。
- (−n)⋅a=−(n⋅a)であり、(m+n)⋅a=m⋅a+n⋅aである。
- (mn)⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)である。
- R′を単位元をもつ環とし、f:R→R′が加法を保つならば、f(n⋅a)=n⋅f(a)である。
- (R,≤)が順序環ならば、m<nのときm⋅1R<n⋅1Rである。とくに正の整数nに対して0<n⋅1Rであり、写像n↦n⋅1Rは単射である。
証明.(1)前半の主張は、nが正の整数の場合には定義そのものであり、n=0の場合には両辺がともに0である。nが負の整数の場合は、n=−pを満たす正の整数pを取ると(−n)⋅a=p⋅aであり、−(n⋅a)=−(−(p⋅a))=p⋅aである。
すべての整数kについて(k+1)⋅a=k⋅a+aが成り立つ。k≥0の場合は定義そのものである。kが負の整数の場合、k=−pを満たす正の整数pを取ると、p=1ならば(k+1)⋅a=0⋅a=0であり、k⋅a+a=−(1⋅a)+a=−a+a=0である。p>1ならば、定義のp⋅a=(p−1)⋅a+aから(p−1)⋅a=p⋅a−aであるから
(k+1)⋅a=(−(p−1))⋅a=−((p−1)⋅a)=−(p⋅a)+a=k⋅a+aである。この等式でkをk−1に取り替えると、すべての整数kについて(k−1)⋅a=k⋅a−aを得る。
mを固定し、T={n∈Z∣(m+n)⋅a=m⋅a+n⋅a}とおく。(m+0)⋅a=m⋅a=m⋅a+0⋅aであるから0∈Tである。n∈Tとすると、いま示した二つの等式から
(m+n+1)⋅a=(m+n)⋅a+a=m⋅a+n⋅a+a=m⋅a+(n+1)⋅a,(m+n−1)⋅a=(m+n)⋅a−a=m⋅a+n⋅a−a=m⋅a+(n−1)⋅aとなるのでn+1∈Tかつn−1∈Tである。Tは0を含み、各元の直後と直前を含むのでT=Zである。
(2)mを固定し、U={n∈Z∣(mn)⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)}とおく。n=0のときmn=0であるから(mn)⋅1R=0⋅1R=0であり、(m⋅1R)(0⋅1R)=(m⋅1R)0=0である。よって0∈Uである。n∈Uとすると、(1)と(k±1)⋅1R=k⋅1R±1Rから
(m(n+1))⋅1R=(mn)⋅1R+m⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)+(m⋅1R)1R=(m⋅1R)((n+1)⋅1R),(m(n−1))⋅1R=(mn)⋅1R−m⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)−(m⋅1R)1R=(m⋅1R)((n−1)⋅1R)となるのでn+1∈Uかつn−1∈Uである。よってU=Zである。
(3)fは加法を保つのでf(0)=0であり、f(−b)=−f(b)である。V={n∈Z∣f(n⋅a)=n⋅f(a)}とおくと0∈Vである。n∈Vならば
f((n+1)⋅a)=f(n⋅a+a)=f(n⋅a)+f(a)=n⋅f(a)+f(a)=(n+1)⋅f(a)であり、同様にf((n−1)⋅a)=f(n⋅a)−f(a)=(n−1)⋅f(a)である。よってV=Zである。
(4)§E1.12 命題 2.1により0<1Rである。1⋅1R=1Rであり、正の整数nについて0<n⋅1Rが成り立つとすると、§E1.12 命題 1.2 (1)により0<1Rの両辺へn⋅1Rを加えてn⋅1R<(n+1)⋅1Rを得るので、推移律から0<(n+1)⋅1Rである。したがって帰納法により、すべての正の整数nについて0<n⋅1Rである。m<nならばn−mは正の整数であり、(1)により
n⋅1R−m⋅1R=(n−m)⋅1R>0であるから、§E1.12 命題 1.2 (2)によりm⋅1R<n⋅1Rである。よってn↦n⋅1Rは狭義単調であり、単射である。▨
定義 1.4. 順序体KがArchimedes 的 (Archimedean) であるとは、集合
{n⋅1K∣n∈Z>0}がKの中で上に有界でないことをいう。すなわち、任意のx∈Kに対してx<n⋅1Kを満たす正の整数nが存在することをいう。
定理 1.5. 完備順序体は Archimedes 的である。
証明.Kを完備順序体とし、あるx∈Kに対して、すべての正の整数nがn⋅1K≤xを満たすと仮定する。集合
S={n⋅1K∣n∈Z>0}は空でなく、xを上界にもつので、a=supSが存在する。§E1.12 命題 2.1により0<1Kであるからa−1K<aであり、aはSの最小の上界であるからa−1KはSの上界ではない。したがって、ある正の整数nが
a−1K<n⋅1Kを満たす。両辺に1Kを加えるとa<n⋅1K+1K=(n+1)⋅1Kとなる。しかし(n+1)⋅1K∈Sであるため、この不等式はaがSの上界であることに反する。したがって、仮定したxは存在しない。▨
例 1.6 (非 Archimedes 的な順序体). 有理数係数の一変数多項式環Q[t]の商体をQ(t)と書く。非零多項式pの最高次係数をlc(p)と書き、
P={qp∈Q(t)p=0, q=0, lc(p)lc(q)>0}とおく。
Pの条件は分数の表示に依存しない。非零の元f∈Q(t)の二つの表示f=p/q=p′/q′ではp,q,p′,q′がすべて非零であり、pq′=p′qであるから、§E1.7 命題 2.2 (4)により
lc(p)lc(q′)=lc(p′)lc(q)である。両辺へlc(q)lc(q′)を掛けると
(lc(p)lc(q))lc(q′)2=(lc(p′)lc(q′))lc(q)2となり、§E1.12 命題 2.1によりlc(q)2とlc(q′)2は正であるから、lc(p)lc(q)とlc(p′)lc(q′)の符号は一致する。
PはQ(t)の正錐である。分子と分母に−1を掛けることでlc(q)>0となる表示を取ることができ、この表示のもとでp/q∈Pはlc(p)>0と同値である。p/qとp′/q′をそのような表示で取ると、積pp′/(qq′)については§E1.7 命題 2.2 (4)によりlc(pp′)=lc(p)lc(p′)かつlc(qq′)=lc(q)lc(q′)であるから、p/q,p′/q′∈Pならばpp′/(qq′)∈Pである。和(pq′+p′q)/(qq′)については、lc(pq′)=lc(p)lc(q′)とlc(p′q)=lc(p′)lc(q)がともに正であり、pq′とp′qの次数が異なるならば高いほうの最高次係数が、次数が等しいならば二つの正の有理数の和がpq′+p′qの最高次係数になるので、いずれの場合もpq′+p′q=0かつlc(pq′+p′q)>0である。したがってP+P⊆PかつPP⊆Pである。さらにf=p/q=0ならばlc(p)lc(q)=0であり、−f=(−p)/qでは最高次係数の積の符号が反転するので、f∈P、f=0、−f∈Pのちょうど一つが成り立つ。
§E1.12 命題 1.4により、PはQ(t)の演算と両立する全順序を定め、Q(t)は順序体である。定数としてQ⊆Q(t)であるから、正の整数nに対してn⋅1Q(t)は定数nであり、t−nの最高次係数は1であるからn⋅1Q(t)<tである。よって{n⋅1Q(t)∣n∈Z>0}はtを上界にもち、Q(t)は Archimedes 的でない。定理 1.5の対偶により、Q(t)は完備順序体でもない。
例 1.7 (Archimedes 的だが完備でない順序体). 有理数体Qは Archimedes 的である。q∈Qを整数mと正の整数nによりq=m/nと表すと、m≤0のときq≤0≤∣m∣であり、m>0のときn≥1からq≤m=∣m∣であるから、いずれの場合もq<∣m∣+1である。∣m∣+1は正の整数である。
一方、Qは完備でない。集合
S={q∈Q∣q>0, q2<2}は1を含んで空でなく、q≥2ならばq2≥4>2であるから2を上界にもつ。正の有理数qに対してq′=(2q+2)/(q+2)とおくとq′>0であり、
q′−q=q+22−q2,q′2−2=(q+2)22(q2−2)である。Sの上限sがQの中に存在すると仮定する。1∈Sからs≥1>0であり、二乗して2になる有理数は存在しないのでs2=2である。s2<2ならば上の二つの等式からs∈S、s′>sおよびs′2<2が従い、s′∈SはsがSの上界であることに反する。s2>2ならばs′<sかつs′2>2であり、q∈Sに対してq2<2<s′2とq,s′>0からq<s′が従うので、s′はsより小さいSの上界となり、sが最小の上界であることに反する。したがってSはQの中に上限をもたず、Qは完備順序体ではない。Archimedes 性は完備性を導かない。
補題 1.8.Kを完備順序体とする。任意のx∈Kに対して、
(m−1)⋅1K≤x<m⋅1Kを満たす整数mが存在する。
証明.定理 1.5を−xに適用し、x+N⋅1K>0を満たす正の整数Nを取る。さらに同じ定理により、x+N⋅1K<p⋅1Kを満たす正の整数pが存在する。この条件を満たす正の整数のうち最小のものをp0とする。p0=1ならば(p0−1)⋅1K=0≤x+N⋅1Kである。p0>1ならば、最小性によりp0−1は条件を満たさないので(p0−1)⋅1K≤x+N⋅1Kである。いずれの場合も
(p0−1)⋅1K≤x+N⋅1K<p0⋅1Kが成り立つ。m=p0−Nとおけば、命題 1.3 (1)により結論を得る。▨
2 有理数を各完備順序体へ入れる
定義 2.1.Kを順序体とする。整数mと正の整数nに対して
ιK(nm)=(m⋅1K)(n⋅1K)−1と定める写像ιK:Q→Kを、Kへの標準有理数埋め込み (canonical embedding of the rationals) という。
命題 2.2.Kを順序体とする。定義 2.1の式は有理数の表示に依存せず、ιKは単位元、加法、乗法および順序を保つ単射である。また、単位元を保つ体準同型Q→KはιKだけである。
証明.命題 1.3 (4)により、正の整数nに対してn⋅1K>0である。したがってn⋅1K=0であり、定義式の逆元は存在する。
m/n=m′/n′ならばmn′=m′nである。命題 1.3 (2)により
(m⋅1K)(n′⋅1K)=(mn′)⋅1K=(m′n)⋅1K=(m′⋅1K)(n⋅1K)となるため、両辺を正の元(n⋅1K)(n′⋅1K)で割れば、二つの表示から得られる値は一致する。また、m,m′∈Zとn,n′∈Z>0に対して、命題 1.3 (1)と命題 1.3 (2)により
ιK(nm+n′m′)ιK(nmn′m′)=((mn′+m′n)⋅1K)((nn′)⋅1K)−1=(m⋅1K)(n⋅1K)−1+(m′⋅1K)(n′⋅1K)−1,=((mm′)⋅1K)((nn′)⋅1K)−1=(m⋅1K)(n⋅1K)−1(m′⋅1K)(n′⋅1K)−1である。したがって加法と乗法が保たれ、定義からιK(1)=1Kである。
m/n>0ならばm>0である。命題 1.3 (4)によりm⋅1K>0かつn⋅1K>0であり、§E1.12 命題 3.2により(n⋅1K)−1>0であるから、正の元どうしの積として(m⋅1K)(n⋅1K)−1>0である。q<rならば0<r−qなので
0<ιK(r−q)=ιK(r)−ιK(q),すなわちιK(q)<ιK(r)である。また、q=0ならばqまたは−qが正であり、その像も正であるため、ιK(q)=0である。よってιKは単射である。
単位元を保つ体準同型f:Q→Kは加法を保つので、命題 1.3 (3)によりf(m)=f(m⋅1Q)=m⋅f(1Q)=m⋅1Kであり、逆元を保つため、m/nを必ず(m⋅1K)(n⋅1K)−1へ写す。したがってf=ιKである。▨
以後、誤解が生じない場合はιK(q)を単にqと書く。
定理 2.3.Kを完備順序体とし、x,y∈Kがx<yを満たすとする。このとき
x<ιK(q)<yを満たす有理数qが存在する。
証明.y−x>0である。定理 1.5を(y−x)−1に適用し、n>(y−x)−1を満たす正の整数nを取る。この不等式からn(y−x)>1を得る。
補題 1.8をnxに適用し、
m−1≤nx<mを満たす整数mを取る。m≤nx+1<nyであるため、nx<m<nyである。q=m/nとおく。命題 1.3 (4)によりn⋅1K>0であり、§E1.12 命題 3.2により(n⋅1K)−1>0であるから、§E1.12 命題 2.1によりnx<m<nyの各辺へ(n⋅1K)−1を掛けてx<q<yを得る。▨
3 元を有理下切断で記述する
定義 3.1.Kを完備順序体とし、x∈Kとする。集合
CK(x)={q∈Q∣ιK(q)<x}をxの有理下切断 (rational lower cut) という。
命題 3.2.Kを完備順序体とする。各x∈Kに対してCK(x)は§E1.11 定義 3.2の意味での Dedekind 切断である。また、x<yであることとCK(x)⊊CK(y)であることは同値である。
証明.§E1.12 命題 2.1により0<1Kであるからx−1K<x<x+1Kであり、定理 2.3をこの二つの不等式へ適用すると、xより小さい有理数とxより大きい有理数が存在する。したがってCK(x)は空でない真部分集合である。q∈CK(x)かつr<qならばr<xであるため、r∈CK(x)であり、CK(x)はQの下方集合である。さらにq∈CK(x)に対してq<xであるから、その間に有理数rが存在し、q<rかつr∈CK(x)となるので、CK(x)は最大元をもたない。よってCK(x)は Dedekind 切断である。
x<yならばCK(x)⊆CK(y)であり、xとyの間の有理数はCK(y)∖CK(x)に属する。したがって包含は真である。逆にCK(x)⊊CK(y)ならば、ある有理数qがq<yかつq<xを満たす。よってx≤q<yであり、x<yである。▨
定理 3.3.Kを完備順序体とし、Aを§E1.11 定義 3.2の意味での Dedekind 切断とする。このときCK(x)=Aを満たすx∈Kがただ一つ存在する。
証明.r∈Q∖Aを取る。任意のq∈Aについてq<rである。実際、r≤qならば下方閉性からr∈Aとなり、rの選び方に反する。したがって
SA={ιK(q)∣q∈A}は空でなく、ιK(r)を上界にもつので、x=supSAが存在する。
q∈Aとする。Aは最大元をもたないため、q<q′を満たすq′∈Aが存在する。するとq<q′≤xであるためq<x、すなわちq∈CK(x)である。逆にq∈/Aならば、上と同じ議論によりqはAのすべての元以上であり、ιK(q)はSAの上界である。よってx≤qとなり、q∈/CK(x)である。以上からCK(x)=Aを得る。
一意性は命題 3.2から従う。▨
4 一意な順序体同型を構成する
命題 4.1.KとLを完備順序体とする。各x∈Kに対してCL(Φ(x))=CK(x)を満たすΦ(x)∈Lがただ一つ存在する。こうして定まる写像Φ:K→Lは全単射であり、任意のx,y∈Kとq∈Qに対して
x<y⟺Φ(x)<Φ(y),Φ(ιK(q))=ιL(q)を満たす。
証明.命題 3.2によりCK(x)は Dedekind 切断であるから、定理 3.3をLに対して適用することができ、CL(Φ(x))=CK(x)を満たすΦ(x)∈Lがただ一つ存在する。命題 3.2により、x<yとΦ(x)<Φ(y)はともにCK(x)⊊CK(y)と同値である。
KとLを入れ替えて同じ構成を行い、CK(Ψ0(y))=CL(y)を満たす写像Ψ0:L→Kを得る。各x∈Kについて
CK(Ψ0(Φ(x)))=CL(Φ(x))=CK(x)であり、各y∈Lについて
CL(Φ(Ψ0(y)))=CK(Ψ0(y))=CL(y)であるから、定理 3.3の一意性によりΨ0∘ΦとΦ∘Ψ0はともに恒等写像である。すなわちΨ0はΦの逆写像であり、§E1.1 命題 3.8によりΦは全単射である。
各有理数qについて命題 2.2により
CK(ιK(q))={r∈Q∣r<q}=CL(ιL(q))であるから、Φ(x)の一意な定め方によりΦ(ιK(q))=ιL(q)である。▨
補題 4.2.命題 4.1のΦは加法を保つ。すなわち、任意のx,y∈Kに対してΦ(x+y)=Φ(x)+Φ(y)である。とくにΦ(0)=0かつΦ(−x)=−Φ(x)である。
証明.x,y∈Kとq∈Qを取る。q<x+yならば、δ=x+y−q>0とおき、定理 2.3によりx−δ/2<r<xおよびy−δ/2<s<yを満たす有理数r,sを取ることができる。このときr+s>x+y−δ=qである。切断の一致からr<Φ(x)かつs<Φ(y)となるため、q<Φ(x)+Φ(y)である。
逆にq<Φ(x)+Φ(y)ならば、同じ議論をLで行い、r<Φ(x)、s<Φ(y)、q<r+sを満たす有理数r,sを得る。切断の一致からr<xかつs<yとなるため、q<x+yである。したがって
CL(Φ(x)+Φ(y))=CK(x+y)=CL(Φ(x+y))であり、定理 3.3の一意性からΦ(x+y)=Φ(x)+Φ(y)である。Φ(0)=Φ(0)+Φ(0)からΦ(0)=0であり、Φ(x)+Φ(−x)=Φ(0)=0からΦ(−x)=−Φ(x)である。▨
補題 4.3.命題 4.1のΦは乗法を保つ。すなわち、任意のx,y∈Kに対してΦ(xy)=Φ(x)Φ(y)である。
証明.x>0かつy>0とする。q<xyでq≥0ならば、δ=xy−q>0とおく。命題 1.3 (4)により0<2⋅1Kであり、0<y<y+1かつ0<x<x+1であるから2(y+1)と2(x+1)は正であり、§E1.12 命題 3.2によりそれらの逆元も正である。よってδ/(2(y+1))>0かつδ/(2(x+1))>0である。定理 2.3により、有理数r,sを
max{0,x−2(y+1)δ}<r<x,max{0,y−2(x+1)δ}<s<yとなるように取ることができる。0<y<y+1および0<r<x<x+1なので
xy−rs=y(x−r)+r(y−s)<2δ+2δ=δとなり、q<rsである。切断の一致からr<Φ(x)かつs<Φ(y)であるため、q<Φ(x)Φ(y)である。補題 4.2のΦ(0)=0と命題 4.1の順序の同値性によりΦ(x)>0かつΦ(y)>0であるから、q<0の場合もq<xyとq<Φ(x)Φ(y)がともに成り立つ。逆向きの含意は、KとLを入れ替えた同じ議論から従う。よって
CL(Φ(x)Φ(y))=CK(xy)=CL(Φ(xy))であり、定理 3.3の一意性からΦ(xy)=Φ(x)Φ(y)である。
xまたはyが0の場合は補題 4.2のΦ(0)=0から直ちに従う。負の元を含む場合は補題 4.2のΦ(−z)=−Φ(z)と正の元の場合を用いると、すべてのx,y∈Kについて乗法が保たれる。▨
定理 4.4 (完備順序体の一意性).KとLを完備順序体とする。このとき、単位元を保ち、x≤yならばΦ(x)≤Φ(y)を満たす体準同型
Φ:K⟶Lがただ一つ存在する。このΦは加法、乗法および順序を保つ全単射である。
証明.命題 4.1のΦは全単射であり、x<yとΦ(x)<Φ(y)が同値であるから順序を保つ。補題 4.2と補題 4.3によりΦは加法と乗法を保ち、命題 2.2と命題 4.1によりΦ(1K)=Φ(ιK(1))=ιL(1)=1Lである。よってΦは単位元と順序を保つ体準同型であり、全単射である。
Ψ:K→Lを単位元を保ち順序を保つ体準同型とする。x=yとするとx−y=0であり、Ψ(x)=Ψ(y)と仮定するとΨ(x−y)=0から
1L=Ψ(1K)=Ψ((x−y)(x−y)−1)=Ψ(x−y)Ψ((x−y)−1)=0となり、Lが体であることに反する。したがってΨは単射であり、x<yならばΨ(x)≤Ψ(y)とΨ(x)=Ψ(y)からΨ(x)<Ψ(y)である。
Ψ∘ιKは単位元を保つ体準同型Q→Lであるから、命題 2.2によりΨ∘ιK=ιLである。各x∈Kとq∈Qについて、ιK(q)<xならばιL(q)=Ψ(ιK(q))<Ψ(x)であり、x≤ιK(q)ならばΨ(x)≤Ψ(ιK(q))=ιL(q)であるから
ιK(q)<x⟺ιL(q)<Ψ(x)が成り立ち、CL(Ψ(x))=CK(x)である。命題 4.1におけるΦ(x)の一意な定め方からΨ(x)=Φ(x)を得るため、Ψ=Φである。▨
5 問題
問題 5.1 (完備性を用いる箇所). 本記事の証明全体において、上限の性質を直接用いる箇所と、定理 1.5および定理 2.3を介して用いる箇所を特定せよ。
解答.
上限の性質は、最初に定理 1.5で集合{n⋅1K∣n∈Z>0}の上限を取る箇所と、定理 3.3で{ιK(q)∣q∈A}の上限を取る箇所に直接現れる。前者から整数による挟み撃ちと有理数の稠密性が導かれ、後者から任意の Dedekind 切断に対応する元が得られる。命題 4.1の全単射性と補題 4.2・補題 4.3の演算の保存は、これら二つの帰結を介して上限の性質を用いている。定理 4.4の証明自体は、これらの結果の適用と命題 2.2だけからなり、上限の性質を直接には用いない。▨
問題 5.2 (非負の元と平方元).Kを完備順序体とする。x∈Kについて、0≤xであることと、x=y2を満たすy∈Kが存在することが同値であることを示せ。また、これを用いて、完備順序体のあいだの単位元を保つ体準同型は必ず順序を保つことを示せ。
解答.
x=y2とする。y=0ならばx=0であり、y=0ならば§E1.12 命題 2.1により0<xである。いずれの場合も0≤xである。
逆に0≤xとする。x=0ならばy=0が条件を満たす。0<xとして
T={t∈K∣0≤t, t2≤x}とおくと、0∈TであるからTは空でない。t>1K+xならばt>1Kであり、§E1.12 命題 2.1によりt2>tである。t>xとあわせてt2>xとなるのでt∈/Tである。したがって1K+xはTの上界であり、s=supTが存在する。x<1Kならば§E1.12 命題 2.1によりx2<xであるからx∈Tであり、1K≤xならば1K2=1K≤xであるから1K∈Tである。いずれの場合もs>0である。
s2<xと仮定する。2s+1K>0であるから§E1.12 命題 3.2によりその逆元は正であり、h=min{1K,(x−s2)(2s+1K)−1}は正である。0<h≤1Kからh2≤hであり、h(2s+1K)≤x−s2であるから
(s+h)2=s2+2sh+h2≤s2+h(2s+1K)≤xとなる。よってs+h∈Tであるが、s+h>sはsがTの上界であることに反する。
s2>xと仮定する。2s>0であるから§E1.12 命題 3.2によりその逆元は正であり、k=(s2−x)(2s)−1は正である。2sk=s2−xであるから
s−k=2ss2+x>0,(s−k)2=s2−2sk+k2=x+k2>xである。t∈Tに対してt2≤x<(s−k)2であり、s−k≤tとすると0<s−kから(s−k)2≤t(s−k)≤t2となって矛盾するので、t<s−kである。よってs−kはTの上界であるが、s−k<sはsが最小の上界であることに反する。
したがってs2=xであり、y=sが条件を満たす。
KとLを完備順序体とし、Ψ:K→Lを単位元を保つ体準同型とする。x≤yならば0≤y−xであるから、いま示したことによりy−x=z2を満たすz∈Kが存在する。すると
Ψ(y)−Ψ(x)=Ψ(y−x)=Ψ(z)2であり、右辺はΨ(z)=0ならば0、そうでなければ§E1.12 命題 2.1により正である。よってΨ(x)≤Ψ(y)であり、Ψは順序を保つ。定理 4.4とあわせると、完備順序体のあいだの単位元を保つ体準同型はただ一つであり、K=Lの場合には恒等写像に限る。▨