§E1.14実数体の構成

最終更新

有理数だけで長さや面積を測ろうとすると、一辺が11の正方形の対角線のように、どの有理数とも一致しない量が現れる。有理数の全体は四則について閉じており、二つの有理数の間には必ず別の有理数があるという意味で隙間なく詰まっている。それでもなお、上に有界な部分集合が上限をもつとは限らない。極限や連続性を扱う議論を有理数の上でそのまま行うことができないのは、この欠落による。

境界そのものが数として存在しないならば、境界より小さい有理数を集めた下方集合を数とみなせばよい。この着想が Dedekind 切断であり、切断の全体には有理数の順序と四則がそのまま持ち上がったうえで、上限が常に存在する。ただし切断を作るには有理数が要り、有理数を作るには整数が要り、整数を作るには自然数が要るので、出発点は集合を作ってよい規則まで遡る。本記事は無限公理から自然数を作り、整数、有理数、実数および複素数を順に構成して、各段階で演算と順序が定まることを証明する。

1 自然数・整数・有理数

集合xxの後続集合をS(x)=x∪{x}S(x)=x\cup\{x\}と書く。集合IIが帰納的であるとは、∅∈I\emptyset\in Iであり、x∈Ix\in IならばS(x)∈IS(x)\in Iとなることをいう。

命題 1.1. 無限公理のもとで空集合がただ一つ存在する。また、任意の集合xxに対して後続集合S(x)S(x)が存在する。

証明. 「集合の存在原理」の無限公理は一つの帰納的集合IIを与える。分出公理スキーマをIIと条件y≠yy\neq yに適用すると、空集合{y∈I∣y≠y}=∅\{y\in I\mid y\neq y\}=\emptysetが得られる。二つの空集合は同じ元を一つももたないので、外延性(§E1.13 定義 1.1)によって等しい。任意の集合xxに対して、対の公理は単集合{x}={x,x}\{x\}=\{x,x\}を与える。さらに対の公理で{x,{x}}\{x,\{x\}\}を作り、和集合の公理を適用すると、その和集合x∪{x}=S(x)x\cup\{x\}=S(x)が得られる。▨

命題 1.2. すべての帰納的集合に含まれる帰納的集合ω\omegaがただ一つ存在する。N≥0=ω\mathbb N_{\geq 0}=\omega、0=∅0=\emptysetとおき、n∈N≥0n\in\mathbb N_{\geq 0}の後続集合S(n)S(n)をnnの次の自然数とすると、N≥0\mathbb N_{\geq 0}は Peano の公理を満たし、N≥0\mathbb N_{\geq 0}の任意の部分集合に対する帰納法が成り立つ。

さらに、再帰によってN≥0\mathbb N_{\geq 0}上の加法と乗法がただ一組定まり、m≤nm\leq nをm+k=nm+k=nを満たすk∈N≥0k\in\mathbb N_{\geq 0}の存在によって定めると、次が成り立つ。

  1. 加法は可換かつ結合的であり、00を単位元とし、a+c=b+ca+c=b+cならばa=ba=bという消去律を満たす。
  2. 乗法は可換かつ結合的であり、1=S(0)1=S(0)を単位元とし、加法に分配する。
  3. m≠0m\neq0かつn≠0n\neq0ならばm⋅n≠0m\cdot n\neq0である。
  4. ≤\leqはN≥0\mathbb N_{\geq 0}上の全順序であり、m≤nm\leq nならば任意のc∈N≥0c\in\mathbb N_{\geq 0}についてm+c≤n+cm+c\leq n+cおよびm⋅c≤n⋅cm\cdot c\leq n\cdot cが成り立つ。

証明. 無限公理で得た帰納的集合IIの部分集合として

ω={x∈I∣I の任意の帰納的部分集合 J に対して x∈J}\omega=\{x\in I\mid I\text{ の任意の帰納的部分集合 }J\text{ に対して }x\in J\}

を分出する。IIのすべての帰納的部分集合は00を含むので0∈ω0\in\omegaである。x∈ωx\in\omegaならば、そのような各JJはS(x)S(x)も含み、II自身も帰納的であるからS(x)∈IS(x)\in Iである。したがってS(x)∈ωS(x)\in\omegaであり、ω\omegaは帰納的である。

KKを任意の帰納的集合とする。I∩KI\cap KはIIの帰納的部分集合なので、定義からω⊆I∩K⊆K\omega\subseteq I\cap K\subseteq Kである。よってω\omegaはすべての帰納的集合に含まれる。この性質をもつ二つの集合は互いに含まれるため、一意性も従う。

ω\omegaの部分集合XXが00を含み、後続に関して閉じていればXX自身が帰納的なので、最小性からX=ωX=\omegaである。この推論が、ω\omegaの任意の部分集合に対する帰納法である。

帰納法によって、各n∈ωn\in\omegaは推移的で、その元が所属関係によって狭義全順序づけられることが分かる。実際、00では明らかであり、この二条件を満たすnnに対してS(n)=n∪{n}S(n)=n\cup\{n\}も同じ二条件を満たす。したがってS(m)=S(n)S(m)=S(n)ならば、m=nm=nでない場合にはm∈nm\in nとn∈mn\in mが同時に生じて狭義順序性に反するので、m=nm=nである。さらにS(n)S(n)はnnを含むため空でなく、S(n)≠0S(n)\neq0である。

分出で作った集合Y={x∈ω∣x=0 または ∃n∈ω (x=S(n))}Y=\{x\in\omega\mid x=0\text{ または }\exists n\in\omega\ (x=S(n))\}は帰納的でω\omegaに含まれるため、各自然数は00または一意な後続の形である。以上が集合としての Peano の公理である。

いま示した Peano の公理により、N≥0\mathbb N_{\geq 0}は00と一項演算SSから自由に生成されている。m∈N≥0m\in\mathbb N_{\geq 0}を固定し、「帰納法と再帰的な定義」の§D2.1 定理 4.4をV=N≥0V=\mathbb N_{\geq 0}、g(0)=mg(0)=m、hS=Sh_S=Sに適用すると、

σm(0)=m,σm(S(n))=S(σm(n))\sigma_m(0)=m,\qquad \sigma_m(S(n))=S(\sigma_m(n))

を満たす写像σm ⁣:N≥0→N≥0\sigma_m\colon\mathbb N_{\geq 0}\to\mathbb N_{\geq 0}がただ一つ定まる。各mmごとに得たこの族を一つの集合へまとめる。分出公理スキーマをN≥0×N≥0×N≥0\mathbb N_{\geq 0}\times\mathbb N_{\geq 0}\times\mathbb N_{\geq 0}と条件「ψ(0)=m\psi(0)=mおよび任意のjjについてψ(S(j))=S(ψ(j))\psi(S(j))=S(\psi(j))を満たす写像ψ ⁣:N≥0→N≥0\psi\colon\mathbb N_{\geq 0}\to\mathbb N_{\geq 0}が存在してψ(n)=k\psi(n)=kとなる」に適用すると、部分集合Γ\Gammaが得られる。各σm\sigma_mの一意性により、Γ\Gammaは各対(m,n)(m,n)にちょうど一つのkkを対応させるので、写像N≥0×N≥0→N≥0\mathbb N_{\geq 0}\times\mathbb N_{\geq 0}\to\mathbb N_{\geq 0}のグラフである。この写像を加法とし、σm(n)=m+n\sigma_m(n)=m+nと書く。この記法のもとでm+0=mm+0=mおよびm+S(n)=S(m+n)m+S(n)=S(m+n)である。

同じ手順をg(0)=0g(0)=0、hS(v)=v+mh_S(v)=v+mに対して行うと、

m⋅0=0,m⋅S(n)=m⋅n+mm\cdot0=0,\qquad m\cdot S(n)=m\cdot n+m

を満たす乗法N≥0×N≥0→N≥0\mathbb N_{\geq 0}\times\mathbb N_{\geq 0}\to\mathbb N_{\geq 0}が一意に定まる。

加法の法則を、帰納に用いる変数を明記して確かめる。nnに関する帰納法から

0+n=n,S(m)+n=S(m+n)0+n=n,\qquad S(m)+n=S(m+n)

を得る。m+S(n)=S(m+n)m+S(n)=S(m+n)と合わせ、nnに関する帰納法をもう一度用いるとm+n=n+mm+n=n+mが従う。また、ppに関する帰納法により

(m+n)+p=m+(n+p)(m+n)+p=m+(n+p)

となる。a+c=b+ca+c=b+cからa=ba=bが従うことはccに関する帰納法で示される。基底c=0c=0は明らかであり、後続段ではS(a+c)=S(b+c)S(a+c)=S(b+c)と後続写像の単射性から帰納法の仮定へ戻る。

乗法について、nnに関する帰納法から

0⋅n=0,S(m)⋅n=m⋅n+n0\cdot n=0,\qquad S(m)\cdot n=m\cdot n+n

を得る。またm⋅S(0)=m⋅0+m=mm\cdot S(0)=m\cdot0+m=mなので、1=S(0)1=S(0)は乗法の単位元である。これらの式と再帰式を用いる帰納法により、順に

m⋅n=n⋅m,m⋅(n+p)=m⋅n+m⋅p,m\cdot n=n\cdot m,\qquad m\cdot(n+p)=m\cdot n+m\cdot p,(m+n)⋅p=m⋅p+n⋅p,(m⋅n)⋅p=m⋅(n⋅p)(m+n)\cdot p=m\cdot p+n\cdot p,\qquad (m\cdot n)\cdot p=m\cdot(n\cdot p)

が従う。たとえば最後の等式の後続段では

(m⋅n)⋅S(p)=m⋅(n⋅p)+m⋅n=m⋅(n⋅p+n)=m⋅(n⋅S(p))(m\cdot n)\cdot S(p) =m\cdot(n\cdot p)+m\cdot n =m\cdot(n\cdot p+n) =m\cdot(n\cdot S(p))

となる。m≠0m\neq0とn≠0n\neq0ならばm=S(a)m=S(a)、n=S(b)n=S(b)と書くことができ、

m⋅n=m⋅b+mm\cdot n=m\cdot b+m

は後続数である。したがってm⋅n≠0m\cdot n\neq0であり、自然数の積に零因子はない。

最後に

m≤n⟺∃k∈N≥0 (m+k=n)m\leq n\Longleftrightarrow \exists k\in\mathbb N_{\geq 0}\ (m+k=n)

と定める。k=0k=0により反射律が成り立ち、m+k=nm+k=nとn+l=pn+l=pからm+(k+l)=pm+(k+l)=pとなるので推移律が成り立つ。m+k=nm+k=nかつn+l=mn+l=mならば、消去律からk+l=0k+l=0を得る。和が零ならば両項が零であるためm=nm=nとなり、反対称律も成り立つ。

比較可能性は二つの自然数についての帰納法で得られる。0≤n0\leq nは常に成り立ち、S(m)≤S(n)S(m)\leq S(n)はm≤nm\leq nと同値であるため、後続どうしの比較は一段前の比較へ戻る。m+k=nm+k=nならば

(m+c)+k=n+c,m⋅c+k⋅c=n⋅c(m+c)+k=n+c,\qquad m\cdot c+k\cdot c=n\cdot c

である。したがって加法と非負の自然数による乗法は順序を保存する。以上により、≤\leqは加法と乗法に両立する全順序である。▨

Peano の帰納法はN≥0\mathbb N_{\geq 0}の任意の部分集合に量化する。一方、PA の帰納法公理スキーマは、PA の言語で一つの式φ(n,aˉ)\varphi(n,\bar a)を選ぶたびに、その母数aˉ\bar aを自由に動かして

∀aˉ ((φ(0,aˉ)∧∀n (φ(n,aˉ)⇒φ(S(n),aˉ)))⇒∀n φ(n,aˉ))\forall\bar a\, \Bigl(\bigl(\varphi(0,\bar a)\land\forall n\,(\varphi(n,\bar a)\Rightarrow\varphi(S(n),\bar a))\bigr) \Rightarrow \forall n\,\varphi(n,\bar a)\Bigr)

を一つの公理として課す。集合論の中では、式φ\varphiと母数aˉ\bar aを固定してX={n∈N≥0∣φ(n,aˉ)}X=\{n\in\mathbb N_{\geq 0}\mid\varphi(n,\bar a)\}を分出すると、命題 1.2の部分集合に対する帰納法からこの公理の各場合が従う。逆に、公理スキーマが直接扱うのは言語の式で指定された性質だけであり、任意の部分集合を一つの公理で量化するわけではない。本記事では、この関係より先の PA の構文、充足関係および非標準モデルの構成へは進まない。

定義 1.3.N≥02\mathbb N_{\geq 0}^2上の二項演算を

(a,b)⊕(c,d)=(a+c, b+d),(a,b)⊗(c,d)=(ac+bd, ad+bc)(a,b)\oplus(c,d)=(a+c,\ b+d), \qquad (a,b)\otimes(c,d)=(ac+bd,\ ad+bc)

と定め、N≥02\mathbb N_{\geq 0}^2上の関係∼Z\sim_{\mathbb Z}を

(a,b)∼Z(c,d)⟺a+d=b+c(a,b)\sim_{\mathbb Z}(c,d)\Longleftrightarrow a+d=b+c

と定める。「同値関係と商」の商集合の構成(§E1.3 定義 2.1)による商N≥02/∼Z\mathbb N_{\geq 0}^2/{\sim_{\mathbb Z}}をZ\mathbb Zと書き、その元を整数 (integer) という。(a,b)(a,b)の同値類を[a,b]Z[a,b]_{\mathbb Z}と書き、Z\mathbb Z上の加法、乗法、加法逆元および順序を

[a,b]Z+[c,d]Z=[(a,b)⊕(c,d)]Z,[a,b]Z[c,d]Z=[(a,b)⊗(c,d)]Z,−[a,b]Z=[b,a]Z,[a,b]Z≤[c,d]Z⟺a+d≤b+c\begin{aligned} [a,b]_{\mathbb Z}+[c,d]_{\mathbb Z}&=[(a,b)\oplus(c,d)]_{\mathbb Z},\\ [a,b]_{\mathbb Z}[c,d]_{\mathbb Z}&=[(a,b)\otimes(c,d)]_{\mathbb Z},\\ -[a,b]_{\mathbb Z}&=[b,a]_{\mathbb Z},\\ [a,b]_{\mathbb Z}\leq[c,d]_{\mathbb Z}&\Longleftrightarrow a+d\leq b+c \end{aligned}

と定める。

命題 1.4.∼Z\sim_{\mathbb Z}は⊕\oplusおよび⊗\otimesと両立するN≥02\mathbb N_{\geq 0}^2上の同値関係であり、定義 1.3の加法、乗法、加法逆元および順序は代表元の選び方に依存しない。この演算と順序について次が成り立つ。

  1. Z\mathbb Zは零元[0,0]Z[0,0]_{\mathbb Z}と単位元[1,0]Z[1,0]_{\mathbb Z}をもつ可換環である。
  2. ≤\leqはZ\mathbb Z上の全順序であって環の演算と両立する。したがってZ\mathbb Zは順序環であり、乗法が可換であるから整域である。
  3. 写像n↦[n,0]Zn\mapsto[n,0]_{\mathbb Z}はN≥0\mathbb N_{\geq 0}からZ\mathbb Zへの単射であり、加法、乗法および順序を保つ。

証明.∼Z\sim_{\mathbb Z}の反射律と対称律は自然数の等号から従う。a+d=b+ca+d=b+cかつc+f=d+ec+f=d+eならば、両式を加え、命題 1.2 (1)の消去律でc,dc,dを消去することによりa+f=b+ea+f=b+eを得るので、推移律も成り立つ。

a+b′=b+a′a+b'=b+a'とc+d′=d+c′c+d'=d+c'を仮定すると、二式を加えることにより

(a+c)+(b′+d′)=(b+d)+(a′+c′)(a+c)+(b'+d')=(b+d)+(a'+c')

を得るので、∼Z\sim_{\mathbb Z}は⊕\oplusと両立する。⊗\otimesについては、§E1.3 命題 4.4により各変数を別々に取り替えた場合を見れば足りる。第一の対だけを取り替えると

ac+bd+a′d+b′c=c(a+b′)+d(b+a′)=c(b+a′)+d(a+b′)=ad+bc+a′c+b′dac+bd+a'd+b'c=c(a+b')+d(b+a')=c(b+a')+d(a+b')=ad+bc+a'c+b'd

となるので、(a,b)⊗(c,d)∼Z(a′,b′)⊗(c,d)(a,b)\otimes(c,d)\sim_{\mathbb Z}(a',b')\otimes(c,d)である。⊗\otimesは成分の対称性から可換なので、第二の対についても同じ式を用いることができる。

a+d≤b+ca+d\leq b+cの両辺にb′b'を加えてa+b′=b+a′a+b'=b+a'を代入し、消去律でbbを消去するとa′+d≤b′+ca'+d\leq b'+cを得る。第二の対も同様に取り替えることができ、逆向きも対称なので、順序も代表元に依存しない。

(1)N≥02\mathbb N_{\geq 0}^2において⊕\oplusは可換かつ結合的で(0,0)(0,0)を単位元とし、⊗\otimesは可換かつ結合的で(1,0)(1,0)を単位元とし、⊗\otimesは⊕\oplusに分配する。いずれも成分を展開して命題 1.2 (1)と命題 1.2 (2)を適用すると両辺が同じ和になる。したがって「準同型と商」の§E1.6 定理 3.2により、Z\mathbb Zの加法と乗法は代表元に依存せずに定まり、可換律、結合律、分配律および二つの単位元が商へ移る。加法逆元はN≥02\mathbb N_{\geq 0}^2に存在しないので商へは移らないが、[a,b]Z+[b,a]Z=[a+b,a+b]Z=[0,0]Z[a,b]_{\mathbb Z}+[b,a]_{\mathbb Z}=[a+b,a+b]_{\mathbb Z}=[0,0]_{\mathbb Z}であり、a+b′=b+a′a+b'=b+a'からb+a′=a+b′b+a'=a+b'が従うので−[a,b]Z-[a,b]_{\mathbb Z}も代表元に依存しない。

(2)二つの整数の比較可能性はa+da+dとb+cb+cの比較可能性から従い、両向きの不等式はa+d=b+ca+d=b+c、すなわち同値類の等号を与える。またa+d≤b+ca+d\leq b+cとc+f≤d+ec+f\leq d+eを加えてc,dc,dを消去するとa+f≤b+ea+f\leq b+eとなるため、推移律も成り立つ。両辺に同じ整数を加えたときの順序保存は、代表元の不等式の両辺へ同じ自然数の和を加えることに等しい。

任意の類は、b≤ab\leq aならばa=b+na=b+nを満たすnnを用いて[n,0]Z[n,0]_{\mathbb Z}と書くことができ、a≤ba\leq bならば[0,n]Z[0,n]_{\mathbb Z}と書くことができる。正の整数はこの標準形のうち[n,0]Z[n,0]_{\mathbb Z}、n≠0n\neq0の形であり、命題 1.2 (3)からこの形どうしの積も正である。したがって≤\leqは「順序環と順序体」の§E1.12 定義 1.1の二条件を満たす。[0,0]Z≠[1,0]Z[0,0]_{\mathbb Z}\neq[1,0]_{\mathbb Z}なのでZ\mathbb Zは零環ではなく、順序環である。乗法が可換であることとあわせ、§E1.12 命題 2.2によりZ\mathbb Zは整域である。

(3)写像n↦[n,0]Zn\mapsto[n,0]_{\mathbb Z}は定義式から加法、乗法および順序を保ち、[n,0]Z=[m,0]Z[n,0]_{\mathbb Z}=[m,0]_{\mathbb Z}ならばn+0=0+mn+0=0+mからn=mn=mなので単射である。▨

定義 1.5.Z≠0=Z∖{0}\mathbb Z_{\neq0}=\mathbb Z\setminus\{0\}とおき、Z×Z≠0\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0}上の二項演算を

(a,b)⊕(c,d)=(ad+bc, bd),(a,b)⊗(c,d)=(ac, bd)(a,b)\oplus(c,d)=(ad+bc,\ bd), \qquad (a,b)\otimes(c,d)=(ac,\ bd)

と定める。命題 1.4 (2)によりZ\mathbb Zは整域なので、b,d≠0b,d\neq0からbd≠0bd\neq0が従い、右辺は再びZ×Z≠0\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0}の元である。同じ集合の上の関係∼Q\sim_{\mathbb Q}を

(a,b)∼Q(c,d)⟺ad=bc(a,b)\sim_{\mathbb Q}(c,d)\Longleftrightarrow ad=bc

と定め、商(Z×Z≠0)/∼Q(\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0})/{\sim_{\mathbb Q}}をQ\mathbb Qと書き、その元を有理数 (rational number) という。(a,b)(a,b)の同値類を[a,b]Q[a,b]_{\mathbb Q}と書き、

[a,b]Q+[c,d]Q=[(a,b)⊕(c,d)]Q,[a,b]Q[c,d]Q=[(a,b)⊗(c,d)]Q,−[a,b]Q=[−a,b]Q\begin{aligned} [a,b]_{\mathbb Q}+[c,d]_{\mathbb Q}&=[(a,b)\oplus(c,d)]_{\mathbb Q},\\ [a,b]_{\mathbb Q}[c,d]_{\mathbb Q}&=[(a,b)\otimes(c,d)]_{\mathbb Q},\\ -[a,b]_{\mathbb Q}&=[-a,b]_{\mathbb Q} \end{aligned}

と定める。また、b,d>0b,d>0を満たす代表元に対して

[a,b]Q≤[c,d]Q⟺ad≤bc[a,b]_{\mathbb Q}\leq[c,d]_{\mathbb Q}\Longleftrightarrow ad\leq bc

と定める。

命題 1.6.∼Q\sim_{\mathbb Q}は⊕\oplusおよび⊗\otimesと両立するZ×Z≠0\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0}上の同値関係であり、各類は分母が正の代表元をもつ。定義 1.5の加法、乗法、加法逆元および順序は代表元の選び方に依存せず、次が成り立つ。

  1. Q\mathbb Qは零元[0,1]Q[0,1]_{\mathbb Q}と単位元[1,1]Q[1,1]_{\mathbb Q}をもつ可換体であり、≤\leqは環の演算と両立する全順序である。したがって(Q,≤)(\mathbb Q,\leq)は順序体である。
  2. 写像a↦[a,1]Qa\mapsto[a,1]_{\mathbb Q}はZ\mathbb ZからQ\mathbb Qへの単射であり、加法、乗法および順序を保つ。
  3. Q\mathbb Qは端点をもたない。すなわち各q∈Qq\in\mathbb Qに対してp<q<rp<q<rを満たすp,r∈Qp,r\in\mathbb Qが存在する。またq<rq<rならばq<s<rq<s<rを満たすs∈Qs\in\mathbb Qが存在する。
  4. 任意のq∈Qq\in\mathbb Qに対して、q<ν(n)q<\nu(n)を満たすn∈N≥0n\in\mathbb N_{\geq 0}が存在する。ここでν\nuは命題 1.4 (3)と(2)の合成である。

証明.∼Q\sim_{\mathbb Q}の反射律と対称律は明らかである。ad=bcad=bcかつcf=decf=deならばadf=bdeadf=bdeとなり、d≠0d\neq0と命題 1.4 (2)の整域性からaf=beaf=beを得るので、推移律も成り立つ。b<0b<0ならば(a,b)∼Q(−a,−b)(a,b)\sim_{\mathbb Q}(-a,-b)であるから、各類は分母が正の代表元をもつ。

ab′=a′bab'=a'bかつcd′=c′dcd'=c'dならば

(ad+bc)b′d′=a′bdd′+bb′c′d=(a′d′+b′c′)bd,acb′d′=a′c′bd(ad+bc)b'd'=a'bdd'+bb'c'd=(a'd'+b'c')bd, \qquad acb'd'=a'c'bd

が成り立つので、∼Q\sim_{\mathbb Q}は⊕\oplusと⊗\otimesの双方と両立する。Z×Z≠0\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0}において⊕\oplusと⊗\otimesはともに可換かつ結合的であり、(0,1)(0,1)は⊕\oplusの単位元、(1,1)(1,1)は⊗\otimesの単位元である。実際、三つの元に対して⊕\oplusの二つの括り方はともに(adf+bcf+bde, bdf)(adf+bcf+bde,\ bdf)となり、⊗\otimesの二つの括り方はともに(ace, bdf)(ace,\ bdf)となる。したがって§E1.6 定理 3.2により、Q\mathbb Qの加法と乗法は代表元に依存せずに定まり、可換律、結合律および二つの単位元が商へ移る。

b,b′,d,d′>0b,b',d,d'>0、ab′=a′bab'=a'bおよびcd′=c′dcd'=c'dのもとで、ad≤bcad\leq bcに正のb′d′b'd'を掛けるとa′bdd′≤bb′c′da'bdd'\leq bb'c'dとなり、正のbdbdを消去してa′d′≤b′c′a'd'\leq b'c'を得る。逆向きも同じなので、順序も代表元に依存しない。

(1)Z×Z≠0\mathbb Z\times\mathbb Z_{\neq0}では分配律が成り立たず、⊕\oplusと⊗\otimesの逆元も一般には存在しないので、これらは商へ移らない。分配律の左辺は[a(cf+de),bdf]Q[a(cf+de),bdf]_{\mathbb Q}、右辺は[ab(cf+de),b2df]Q[ab(cf+de),b^2df]_{\mathbb Q}であり、二つの交差積はともにab2df(cf+de)ab^2df(cf+de)となるので二つの類は等しい。[a,b]Q+[−a,b]Q=[ab−ab,b2]Q=[0,1]Q[a,b]_{\mathbb Q}+[-a,b]_{\mathbb Q}=[ab-ab,b^2]_{\mathbb Q}=[0,1]_{\mathbb Q}なので[−a,b]Q[-a,b]_{\mathbb Q}は加法逆元であり、ab′=a′bab'=a'bから(−a)b′=(−a′)b(-a)b'=(-a')bが従うので代表元にも依存しない。零でない[a,b]Q[a,b]_{\mathbb Q}ではa≠0a\neq0であり、

[a,b]Q−1=[b,a]Q,[a,b]Q[b,a]Q=[ab,ab]Q=[1,1]Q[a,b]_{\mathbb Q}^{-1}=[b,a]_{\mathbb Q}, \qquad [a,b]_{\mathbb Q}[b,a]_{\mathbb Q}=[ab,ab]_{\mathbb Q}=[1,1]_{\mathbb Q}

である。ab′=a′bab'=a'bならばba′=b′aba'=b'aなので、逆元も代表元に依存しない。以上によりQ\mathbb Qは可換体である。

分母が正の代表元について、三分律はadadとbcbcの三分律から従う。ad≤bcad\leq bcかつcf≤decf\leq deならば、前者に正のff、後者に正のbbを掛けてつなぎ、正のddを消去するとaf≤beaf\leq beとなるため、推移律も成り立つ。[e,f]Q[e,f]_{\mathbb Q}をf>0f>0と表示して両辺へ加えるときは、ad≤bcad\leq bcの両辺に正のf2f^2を掛け、両辺へbdefbdefを加えると、加法の定義式が要求する交差積の不等式(af+be)df≤(cf+de)bf(af+be)df\leq(cf+de)bfが得られる。正の有理数は正の分母と正の分子で表示することができるので、正の元どうしの積も正である。よって≤\leqは§E1.12 定義 1.1の二条件を満たし、§E1.12 定義 3.1により(Q,≤)(\mathbb Q,\leq)は順序体である。

(2)写像a↦[a,1]Qa\mapsto[a,1]_{\mathbb Q}は定義式から加法、乗法および順序を保ち、[a,1]Q=[a′,1]Q[a,1]_{\mathbb Q}=[a',1]_{\mathbb Q}ならばa=a′a=a'なので単射である。

(3)q∈Qq\in\mathbb Qに対してq−1<q<q+1q-1<q<q+1であり、q<rq<rのときはq<(q+r)/2<rq<(q+r)/2<rである。

(4)q=[a,b]Qq=[a,b]_{\mathbb Q}をb>0b>0と表示する。a≤0a\leq0ならばq≤[0,1]Q<[1,1]Q=ν(1)q\leq[0,1]_{\mathbb Q}<[1,1]_{\mathbb Q}=\nu(1)である。0<a0<aならば命題 1.4 (3)によりaaはあるm∈N≥0m\in\mathbb N_{\geq 0}の像であり、bbは正の整数なので[1,0]Z≤b[1,0]_{\mathbb Z}\leq bである。したがってa<a+[1,0]Z≤(a+[1,0]Z)ba<a+[1,0]_{\mathbb Z}\leq(a+[1,0]_{\mathbb Z})bとなり、q<ν(m+1)q<\nu(m+1)である。▨

設定 以後、命題 1.4 (3)と(2)によってN≥0\mathbb N_{\geq 0}とZ\mathbb Zをそれぞれの像と同一視し、N≥0⊆Z⊆Q\mathbb N_{\geq 0}\subseteq\mathbb Z\subseteq\mathbb Qと書く。この同一視のもとで(4)は、任意の有理数qqに対してq<nq<nを満たす自然数nnが存在すること、と読む。また、「Dedekind–MacNeille 完備化」がQ\mathbb Qについて述べる主張は、すべて命題 1.6で構成したQ\mathbb Qについての主張として読む。

命題 1.7. 構成したQ\mathbb Qの Dedekind–MacNeille 完備化は、空集合とQ\mathbb Q自身を含む拡張切断全体と包含順序に関して順序同型である。二つの improper cut∅,Q\emptyset,\mathbb Qを除くと Dedekind 切断全体D\mathcal Dが得られ、q∈Qq\in\mathbb Qの主下方集合の像はq∗={r∈Q∣r<q}q^*=\{r\in\mathbb Q\mid r<q\}である。

証明.Q\mathbb Qは命題 1.6 (3)により端点をもたない稠密全順序集合なので、§E1.11 系 3.10を適用することができる。D=QD=\mathbb Qに対する§E1.11 命題 3.8の写像

σ(C)={x∈Q∣∃c∈C (x<c)}\sigma(C)=\{x\in\mathbb Q\mid \exists c\in C\ (x<c)\}

は Dedekind–MacNeille 切断全体を拡張切断全体へ移す。Q\mathbb Qに下端がないため∅ul=∅\emptyset^{ul}=\emptysetであり、上端がないためσ(Q)=Q\sigma(\mathbb Q)=\mathbb Qである。したがって完備束の下端と上端は、それぞれ二つの improper cut に対応する。

残る拡張切断は、空でない真の下方閉集合であって最大元をもたない集合、すなわち§E1.11 定義 3.2の Dedekind 切断である。また§E1.11 命題 2.2の主下方集合↓q\mathord\downarrow qに対して

σ(↓q)={x∣∃c≤q (x<c)}={x∣x<q}=q∗\sigma(\mathord\downarrow q)=\{x\mid \exists c\leq q\ (x<c)\}=\{x\mid x<q\}=q^*

である。最後の二つの等号では、x<qx<qのときc=qc=qとすることができることを用いた。▨

2 拡張切断から実数の演算へ

定義 2.1.A,B∈DA,B\in\mathcal Dに対して

A+B={a+b∣a∈A, b∈B}A+B=\{a+b\mid a\in A,\ b\in B\}

を切断の加法 (addition of cuts) という。また、

−A={q∈Q∣∃r∉A (q<−r)}-A=\{q\in\mathbb Q\mid \exists r\notin A\ (q<-r)\}

をAAの加法逆元 (additive inverse of a cut) という。

補題 2.2.A∈DA\in\mathcal D、c∈Ac\in A、ε>0\varepsilon>0とする。このとき、c≤a<rc\leq a<r、a∈Aa\in A、r∉Ar\notin Aおよびr−a<εr-a<\varepsilonを満たす有理数a,ra,rが存在する。

証明.c<s∉Ac<s\notin Aを取る。命題 1.6 (4)により1/ε<n1/\varepsilon<nを満たす自然数nnを取ると、0<n0<nかつ1/n<ε1/n<\varepsilonである。同じ主張により(s−c)n<k(s-c)n<kを満たす自然数kkを取るとs<c+k/ns<c+k/nであり、ss以上の有理数はAAに属さないのでc+k/n∉Ac+k/n\notin Aである。0<(s−c)n<k0<(s-c)n<kから1≤k1\leq kなので、c+j/n∉Ac+j/n\notin Aを満たすj≥1j\geq1が存在する。N≥0\mathbb N_{\geq 0}の空でない部分集合が最小元をもつこと(「数学的帰納法の論理構造」の§A3.10 定理 2.1。命題 1.2の部分集合に対する帰納法から従う)により、そのような最小のjjを取る。a=c+(j−1)/na=c+(j-1)/n、r=c+j/nr=c+j/nとおくと、jjの最小性とc∈Ac\in Aからa∈Aa\in Aであり、r∉Ar\notin Aかつr−a=1/n<εr-a=1/n<\varepsilonである。▨

補題 2.3.A+BA+Bと−A-Aは Dedekind 切断である。さらに切断の加法は可換群をなし、零元は0∗0^*で、A+(−A)=0∗A+(-A)=0^*である。

証明.a0∈Aa_0\in A、b0∈Bb_0\in Bならばa0+b0∈A+Ba_0+b_0\in A+Bである。u∉Au\notin A、v∉Bv\notin Bならば、すべてのa∈Aa\in A、b∈Bb\in Bについてa<ua<u、b<vb<vなのでA+B⊆(u+v)∗A+B\subseteq(u+v)^*である。q<a+bq<a+bならばq−b<aq-b<aなのでq−b∈Aq-b\in Aかつq=(q−b)+bq=(q-b)+bであり、下方閉性が従う。a+b∈A+Ba+b\in A+Bに対してa<a′∈Aa<a'\in Aを取ればa+b<a′+b∈A+Ba+b<a'+b\in A+Bとなるため、最大元もない。

r0∉Ar_0\notin Aを取れば−r0−1∈−A-r_0-1\in-Aである。a0∈Aa_0\in Aを固定すると、r∉Ar\notin Aならばa0<ra_0<rなので、−A⊆(−a0)∗-A\subseteq(-a_0)^*である。定義から下方閉性が従い、q<−rq<-rの間に有理数を取れば最大元もない。よって−A-Aも切断である。

和の交換律と結合律は有理数の対応する等式から直ちに従う。A+0∗⊆AA+0^*\subseteq Aはb<0b<0ならa+b<aa+b<aであることから従う。逆にx∈Ax\in Aに対してx<a∈Ax<a\in Aを取り、b=x−a<0b=x-a<0とすればx=a+b∈A+0∗x=a+b\in A+0^*である。

a∈Aa\in A、q<−rq<-r、r∉Ar\notin Aならばa<ra<rなのでa+q<0a+q<0であり、A+(−A)⊆0∗A+(-A)\subseteq0^*である。逆にx<0x<0ならば補題 2.2をε=−x\varepsilon=-xに適用し、a∈Aa\in A、r∉Ar\notin A、r−a<−xr-a<-xを取る。このときx−a<−rx-a<-rなのでx−a∈−Ax-a\in-Aであり、x=a+(x−a)∈A+(−A)x=a+(x-a)\in A+(-A)である。したがってA+(−A)=0∗A+(-A)=0^*であり、可換群の公理がすべて成り立つ。▨

定義 2.4.§E1.11 系 3.10によりD\mathcal Dの順序は全順序であるから、A∈DA\in\mathcal DはA≥0∗A\geq0^*とA<0∗A<0^*のちょうど一方を満たす。AAの正の部分A∩Q>0A\cap\mathbb Q_{>0}をA+A_+と書く。

A,B≥0∗A,B\geq0^*に対して

A⊙B=0∗∪{q∈Q∣∃a∈A+ ∃b∈B+ (q<ab)}A\odot B=0^*\cup\{q\in\mathbb Q\mid \exists a\in A_+\ \exists b\in B_+\ (q<ab)\}

を切断の非負乗法 (nonnegative multiplication of cuts) という。∣A∣=A|A|=A(A≥0∗A\geq0^*の場合)、∣A∣=−A|A|=-A(A<0∗A<0^*の場合)とする。A,BA,Bがともに非負であるか、ともに負である場合にはAB=∣A∣⊙∣B∣AB=|A|\odot|B|と定める。A,BA,Bのちょうど一方が負である場合にはAB=−(∣A∣⊙∣B∣)AB=-(|A|\odot|B|)と定める。この演算を符号付き乗法 (signed multiplication of cuts) という。

注意 2.5. 素朴に{ab∣a∈A, b∈B}\{ab\mid a\in A,\ b\in B\}と定めると、A=B=0∗A=B=0^*の場合にこの集合は正の有理数全体になる。実際、a<0a<0かつb<0b<0ならば0<ab0<abであり、逆に0<p0<pはa=−1a=-1、b=−pb=-pの積として得られる。正の有理数全体は00を含まないので下方集合ではなく、Dedekind 切断でもない。符号によって場合を分けるのは、この破綻を避けるためである。

定義 2.6.A>0∗A>0^*に対して

A−1={q∈Q∣q≤0 または ∃r>0 (r∉A∧q<1/r)}A^{-1}=\{q\in\mathbb Q\mid q\leq0\text{ または }\exists r>0\ (r\notin A\land q<1/r)\}

と定める。A<0∗A<0^*ならばA−1=−((−A)−1)A^{-1}=-((-A)^{-1})と定め、これを非零切断AAの乗法逆元 (multiplicative inverse of a cut) という。

補題 2.7. 非負乗法、符号付き乗法および非零切断の逆元は、いずれも Dedekind 切断を与える。

証明.A=0∗A=0^*またはB=0∗B=0^*ならばA⊙B=0∗A\odot B=0^*である。A,B>0∗A,B>0^*とする。正のu∉Au\notin A、v∉Bv\notin Bを取ると、積の定義に現れるa,ba,bは0<a<u0<a<u、0<b<v0<b<vを満たすため、A⊙B⊆(uv)∗A\odot B\subseteq(uv)^*である。0∗0^*を含むので空ではない。q<abq<abを満たす証人a,ba,bは、より小さい有理数の証人にもなるので下方閉性が従い、qqとababの間の有理数を取れば最大元がないことも分かる。したがってA⊙BA\odot Bは切断である。補題 2.3により、その加法逆元も切断なので、符号付き乗法も閉じている。

A>0∗A>0^*とする。正のa∈Aa\in Aを一つ固定し、r0∉Ar_0\notin Aを一つ取ると0<a<r00<a<r_0である。逆元候補はすべての非正有理数を含むので空ではない。その正の元qqに対しては定義の証人rqr_qがあり、0<rq0<r_q、rq∉Ar_q\notin Aおよびq<1/rqq<1/r_qが成り立つ。a<rqa<r_qから1/rq<1/a1/r_q<1/aが従うのでq<1/aq<1/aである。したがって1/a1/aは逆元候補に属さず、逆元候補はQ\mathbb Qの真の部分集合である。qqの証人rqr_qはより小さい有理数の証人にもなるので、下方閉性が従う。q<0q<0のときはq<q′<0q<q'<0を取り、q=0q=0のときは0<q′<1/r00<q'<1/r_0を取り、0<q0<qのときはq<q′<1/rqq<q'<1/r_qを取る。いずれの場合にも候補内のより大きい元が得られるので、最大元はない。負の切断の逆元は加法逆元の閉性へ帰着する。▨

補題 2.8. 切断の加法、符号付き乗法および逆元は切断という集合だけから一意に定まる。乗法は可換かつ結合的で1∗1^*を単位元とし、加法に分配する。またA≠0∗A\neq0^*ならばAA−1=1∗AA^{-1}=1^*である。

証明. 加法と非負乗法の定義は元の存在だけで書かれており、代表表示を用いない。包含順序が全順序なので、各切断の符号も一意である。よって符号付き乗法と逆元の場合分けは互いに重ならず、演算は一意に定まる。

交換律はab=baab=baから従う。A,B,C≥0∗A,B,C\geq0^*とq>0q>0に対して、q∈(A⊙B)⊙Cq\in(A\odot B)\odot Cであることは

∃a∈A+ ∃b∈B+ ∃c∈C+ (q<abc)\exists a\in A_+\ \exists b\in B_+\ \exists c\in C_+\ (q<abc)

と同値である。実際、左辺の二段の証人から右辺を得る。逆にq<abcq<abcならばq/c<x<abq/c<x<abを満たす有理数xxを取り、x∈(A⊙B)+x\in(A\odot B)_+を証人として左辺を得る。同じ条件はA⊙(B⊙C)A\odot(B\odot C)も特徴づけるため、結合律が成り立つ。

A⊙1∗⊆AA\odot1^*\subseteq Aは、a>0a>0、0<b<10<b<1ならばab<aab<aであることから従う。逆にq∈Aq\in Aが正ならばq<a∈Aq<a\in Aを取り、q/a<b<1q/a<b<1となる有理数bbを取ればq<abq<abである。非正のqqは定義から積に属する。したがってA⊙1∗=AA\odot1^*=Aである。

零切断を含む場合は直接確認することができるのでA,B,C>0∗A,B,C>0^*とする。q>0q>0かつq∈A⊙(B+C)q\in A\odot(B+C)ならば、a∈A+a\in A_+とs=b0+c0∈(B+C)+s=b_0+c_0\in(B+C)_+を取りq<asq<asとすることができる。b0,c0b_0,c_0がともに正なら、そのままb=b0,c=c0b=b_0,c=c_0とする。b0≤0b_0\leq0ならば0<b<min⁡{s,β}0<b<\min\{s,\beta\}となるβ∈B+\beta\in B_+とb∈Qb\in\mathbb Qを取り、c=s−bc=s-bとすれば0<c<c00<c<c_0なのでc∈Cc\in Cである。c0≤0c_0\leq0の場合も対称である。よって、いずれの場合にもs=b+cs=b+c、b∈B+b\in B_+、c∈C+c\in C_+とすることができる。q−ac<x<abq-ac<x<abとなる有理数xxを取りy=q−xy=q-xとすれば、q=x+yq=x+y、x<abx<ab、y<acy<acである。したがってx∈A⊙Bx\in A\odot B、y∈A⊙Cy\in A\odot Cであり、q∈A⊙B+A⊙Cq\in A\odot B+A\odot Cとなる。

逆にq=x+y>0q=x+y>0、x∈A⊙Bx\in A\odot B、y∈A⊙Cy\in A\odot Cとする。正のx,yx,yに必要な積の証人を取り、非正のものには任意の正の証人を取る。二つのAA側の証人の大きい方をa∈A+a\in A_+とすれば、あるb∈B+b\in B_+、c∈C+c\in C_+についてx<abx<ab、y<acy<acである。よってq<a(b+c)q<a(b+c)となり、q∈A⊙(B+C)q\in A\odot(B+C)である。

加法逆元の一意性から−(−A)=A-(-A)=Aである。したがって、符号付き乗法では(−A)B=−(AB)(-A)B=-(AB)と(−A)(−B)=AB(-A)(-B)=ABが定義から従う。結合律は絶対値に対する結合律と符号の積へ帰着する。分配律について、三つの切断が非負の場合は証明済みである。負号を移す等式と加法群の消去律により、B≥C≥0∗B\geq C\geq0^*のとき

A⊙B=A⊙C+A⊙(B−C)A\odot B=A\odot C+A\odot(B-C)

からA(B−C)=AB−ACA(B-C)=AB-ACが従う。ここでまずA≥0∗A\geq0^*とする。B,CB,Cがともに非負なら証明済みであり、ともに非正ならB=−B′B=-B'、C=−C′C=-C'と書いて非負の場合に帰着する。B≥0∗B\geq0^*、C=−C′≤0∗C=-C'\leq0^*の場合、B≥C′B\geq C'なら上の差の等式をB−C′B-C'に適用し、B<C′B<C'ならB−C′=−(C′−B)B-C'=-(C'-B)として差の等式をC′−BC'-Bに適用する。符号を交換した場合も同様である。これでA≥0∗A\geq0^*の場合が尽くされる。A<0∗A<0^*ならばA=−A′A=-A'と書き、A′(B+C)=A′B+A′CA'(B+C)=A'B+A'Cの両辺に負号を付ければよい。したがって符号付き乗法は全域で分配的である。

最後にA>0∗A>0^*とする。a∈A+a\in A_+、r∉Ar\notin Aならばa<ra<rなので、b<1/rb<1/rからab<1ab<1が従う。よってAA−1⊆1∗AA^{-1}\subseteq1^*である。逆に0<t<10<t<1と正のc∈Ac\in Aを取る。補題 2.2をε=(1−t)c/t\varepsilon=(1-t)c/tに適用して、c≤a<rc\leq a<r、a∈Aa\in A、r∉Ar\notin Aおよび

r−a<(1−t)c/t≤(1−t)a/tr-a<(1-t)c/t\leq(1-t)a/t

を得る。この不等式はt/a<1/rt/a<1/rと同値である。その間の有理数bbを取ればb∈A−1b\in A^{-1}かつt<abt<abなのでt∈AA−1t\in AA^{-1}である。非正の有理数も積の定義から属するためAA−1=1∗AA^{-1}=1^*である。A<0∗A<0^*の場合は二つの負号が相殺される。▨

3 実数の順序体構造と上限

定理 3.1.D\mathcal Dは、以上の加法と乗法、零元0∗0^*、単位元1∗1^*および包含順序によって上限の性質をもつ順序体である。また、ι ⁣:Q→D\iota\colon\mathbb Q\to\mathcal D、ι(q)=q∗\iota(q)=q^*は順序を保つ体の埋め込みである。

証明.補題 2.3と補題 2.8により、D\mathcal Dは単位元をもつ可換体である。A⊆BA\subseteq Bならば定義からA+C⊆B+CA+C\subseteq B+Cであり、等号ならばCCの加法逆元を加えてA=BA=Bとなるので、狭義包含も加法で保たれる。0∗<A,B0^*<A,Bならば正のa∈Aa\in A、b∈Bb\in Bが存在し、0<q<ab0<q<abを取るとq∈AB∖0∗q\in AB\setminus0^*である。したがって0∗<AB0^*<ABである。とくにA<BA<B、0∗<C0^*<Cならば0∗<(B−A)C=BC−AC0^*<(B-A)C=BC-ACなのでAC<BCAC<BCである。よって包含順序は体の演算と両立する。

§E1.11 命題 3.12によりι\iotaは順序埋め込みである。x<p+qx<p+qならばx=a+bx=a+b、a<pa<p、b<qb<qとなる有理数a,ba,bを取ることができるので、定義からp∗+q∗=(p+q)∗p^*+q^*=(p+q)^*である。p,q>0p,q>0のとき、積の一方の包含はa<pa<p、b<qb<qからab<pqab<pqによって従う。逆に0<x<pq0<x<pqならばx/q<a<px/q<a<p、x/a<b<qx/a<b<qとなる正有理数a,ba,bを順に取るとx<abx<abである。非正の元は双方に属するためp∗q∗=(pq)∗p^*q^*=(pq)^*となる。零または負のp,qp,qについても、p∗+(−p)∗=0∗p^*+(-p)^*=0^*と加法逆元の一意性、および符号付き乗法の定義から同じ等式が従う。p>0p>0ならば、逆元の定義でr∉p∗r\notin p^*がp≤rp\leq rと同値であることから(p∗)−1=(1/p)∗(p^*)^{-1}=(1/p)^*となり、負のppも符号の定義へ帰着する。よってι\iotaは体の埋め込みである。

空でなく上に有界なA⊆D\mathcal A\subseteq\mathcal Dに対して、§E1.11 定理 3.14は

sup⁡A=⋃A∈AA\sup\mathcal A=\bigcup_{A\in\mathcal A}A

を与える。したがってD\mathcal Dは上限の性質をもつ。▨

定義 3.2.定理 3.1の加法、乗法および包含順序を備えたD\mathcal Dを実数体 (field of real numbers) といい、R\mathbb Rと書く。R\mathbb Rの元を実数 (real number) という。零元0∗0^*と単位元1∗1^*を、それぞれ00、11とも書く。

命題 3.3.c∈Rc\in\mathbb Rが0≤c0\leq cを満たすとする。このとき0≤x0\leq xかつx2=cx^2=cを満たす実数xxがただ一つ存在する。このxxをc\sqrt cと書く。

証明.S={t∈R∣0≤t, t2≤c}S=\{t\in\mathbb R\mid 0\leq t,\ t^2\leq c\}とおく。02=0≤c0^2=0\leq cなので0∈S0\in Sであり、SSは空ではない。1+c<t1+c<tならば1≤1+c<t1\leq1+c<tからt<t2t<t^2が従い、c<1+c<t<t2c<1+c<t<t^2となるのでt∉St\notin Sである。よって1+c1+cはSSの上界であり、定理 3.1の上限の性質によりx=sup⁡Sx=\sup Sが存在する。0∈S0\in Sから0≤x0\leq xである。

x2<cx^2<cと仮定する。0≤x0\leq xから0<2x+10<2x+1なのでh=min⁡{1,(c−x2)/(2x+1)}h=\min\{1,(c-x^2)/(2x+1)\}は正であり、h≤1h\leq1からh2≤hh^2\leq hが従うので

(x+h)2=x2+2xh+h2≤x2+h(2x+1)≤x2+(c−x2)=c(x+h)^2=x^2+2xh+h^2\leq x^2+h(2x+1)\leq x^2+(c-x^2)=c

となる。0≤x+h0\leq x+hとあわせてx+h∈Sx+h\in Sであるが、x<x+hx<x+hはxxがSSの上界であることに反する。

c<x2c<x^2と仮定する。x=0x=0ならばx2=0≤cx^2=0\leq cとなって仮定に反するので0<x0<xである。k=(x2−c)/(2x)k=(x^2-c)/(2x)とおくと0<k0<kであり、

x−k=x2+c2x>0,(x−k)2=x2−(x2−c)+k2=c+k2>cx-k=\frac{x^2+c}{2x}>0, \qquad (x-k)^2=x^2-(x^2-c)+k^2=c+k^2>c

である。t∈St\in Sに対してx−k≤tx-k\leq tとすると、0<x−k0<x-kから(x−k)2≤t2≤c(x-k)^2\leq t^2\leq cとなって上の不等式に反する。よってx−kx-kはSSの上界であるが、x−k<xx-k<xはxxが最小上界であることに反する。

以上よりx2=cx^2=cである。0≤y0\leq yかつy2=cy^2=cを満たすyyがxxと異なるとし、x<yx<yとしてよい。0<y−x0<y-xと0<y+x0<y+xから0<(y−x)(y+x)=y2−x2=00<(y-x)(y+x)=y^2-x^2=0となって矛盾する。よってxxは一意である。▨

例 3.4.

α={q∈Q∣q<0 または q2<2}\alpha=\{q\in\mathbb Q\mid q<0\ \text{または}\ q^2<2\}

とおく。02=0<20^2=0<2なので0∈α0\in\alphaであり、22=42^2=4なので2∉α2\notin\alphaである。q∈αq\in\alphaとp<qp<qを取る。p<0p<0ならばp∈αp\in\alphaである。0≤p0\leq pならば0<q0<qなのでq2<2q^2<2であり、p2≤pq<q2<2p^2\leq pq<q^2<2からp∈αp\in\alphaである。よってα\alphaは空でない真の下方集合である。

q∈αq\in\alphaが負ならばq<0∈αq<0\in\alphaである。0≤q0\leq qならば0<2q+10<2q+1かつ0<2−q20<2-q^2なので、命題 1.6 (3)により0<h<min⁡{1,(2−q2)/(2q+1)}0<h<\min\{1,(2-q^2)/(2q+1)\}を満たす有理数hhを取ることができる。h≤1h\leq1からh2≤hh^2\leq hが従うので

(q+h)2≤q2+h(2q+1)<q2+(2−q2)=2(q+h)^2\leq q^2+h(2q+1)<q^2+(2-q^2)=2

となり、q<q+h∈αq<q+h\in\alphaである。したがってα\alphaは最大元をもたず、α∈D\alpha\in\mathcal Dである。0∗⊆α0^*\subseteq\alphaかつ0∈α∖0∗0\in\alpha\setminus0^*なので0∗<α0^*<\alphaであり、12=1<21^2=1<2から1∈α+1\in\alpha_+である。

このα\alphaの平方は2∗2^*である。0∗<α0^*<\alphaなのでαα=α⊙α\alpha\alpha=\alpha\odot\alphaである。a,b∈α+a,b\in\alpha_+に対してa≤ba\leq bとしてよく、このときab≤b2<2ab\leq b^2<2なのでα⊙α⊆2∗\alpha\odot\alpha\subseteq2^*である。逆にt<2t<2とする。t≤0t\leq0ならばt<1⋅1t<1\cdot1と1∈α+1\in\alpha_+からt∈α⊙αt\in\alpha\odot\alphaである。0<t0<tの場合には、補題 2.2をA=αA=\alpha、c=1c=1、ε=(2−t)/5\varepsilon=(2-t)/5に適用して、1≤a<r1\leq a<r、a∈αa\in\alpha、r∉αr\notin\alphaおよびr−a<εr-a<\varepsilonを満たす有理数a,ra,rを取る。1≤a1\leq aとa∈αa\in\alphaからa2<2a^2<2であり、2≤a2\leq aならば4≤a24\leq a^2となるのでa<2a<2である。r∉αr\notin\alphaは0≤r0\leq rかつ2≤r22\leq r^2を意味する。0<t0<tからε<2/5\varepsilon<2/5なのでr<a+ε<3r<a+\varepsilon<3であり、r+a<5r+a<5である。よって

a2=r2−(r−a)(r+a)>2−5ε=ta^2=r^2-(r-a)(r+a)>2-5\varepsilon=t

となり、aaを二つの証人としてt∈α⊙αt\in\alpha\odot\alphaを得る。したがってαα=α⊙α=2∗\alpha\alpha=\alpha\odot\alpha=2^*であり、命題 3.3によりα\alphaは2∗2^*の唯一の非負平方根である。

α=ι(q)\alpha=\iota(q)を満たすq∈Qq\in\mathbb Qがあれば、ι\iotaが体の埋め込みであることからι(q2)=αα=ι(2)\iota(q^2)=\alpha\alpha=\iota(2)となり、ι\iotaの単射性からq2=2q^2=2となる。「Dedekind–MacNeille 完備化」の§E1.11 注意 3.1が述べるとおり、そのような有理数は存在しない。したがってα\alphaはι(Q)\iota(\mathbb Q)に属さず、D\mathcal Dは有理数の像より真に大きい。

定理 3.5. 実数の全体R\mathbb Rは、定義 3.2の和と積について単位元をもつ可換体をなす。狭義包含で定めた<<は狭義全順序であり、次の四つが成り立つ。

  1. 任意のx∈Rx\in\mathbb Rについてx<xx<xは成り立たない。
  2. x<yx<yかつy<zy<zならばx<zx<zである。
  3. 任意のx,y∈Rx,y\in\mathbb Rについて、x<yx<y、x=yx=y、y<xy<xのちょうど一つが成り立つ。
  4. x<yx<yならば任意のz∈Rz\in\mathbb Rについてx+z<y+zx+z<y+zであり、さらに0<z0<zならばxz<yzxz<yzである。

証明. 可換体であることは補題 2.3と補題 2.8が与える。包含の狭義関係は非反射的かつ推移的なので(1)と(2)が成り立ち、§E1.11 系 3.10の全順序性から(3)が従う。定理 3.1により(R,≤)(\mathbb R,\leq)は順序体なので、§E1.12 命題 1.2 (1)と§E1.12 命題 2.1を適用すると(4)が従う。▨

定理 3.6. 自然数の像はR\mathbb Rで上に有界ではない。また、A<BA<BならばA<q∗<BA<q^*<Bを満たすq∈Qq\in\mathbb Qが存在する。

証明. 自然数の像が上に有界で、その上限がSSであると仮定する。S−1∗S-1^*も上界ならばSSより小さい上界となるので、上限の最小性に反する。したがって、ある自然数nnについてS−1∗<n∗S-1^*<n^*である。両辺に1∗1^*を加えるとS<(n+1)∗S<(n+1)^*となり、SSが上界であることに反する。

A<BA<Bとする。q∈B∖Aq\in B\setminus Aを取り、BBが最大元をもたないことからq<r∈Bq<r\in Bを取る。q<t<rq<t<rとなる有理数ttを取ると、A⊆t∗⊆BA\subseteq t^*\subseteq Bである。q<s<tq<s<tとなるssはs∉As\notin Aかつs∈t∗s\in t^*であり、t∈B∖t∗t\in B\setminus t^*である。よって両方の包含は狭義であり、A<t∗<BA<t^*<Bである。▨

注意 3.7.R=D\mathbb R=\mathcal Dの順序は、有理数の Dedekind–MacNeille 完備化に対応する拡張切断から∅\emptysetとQ\mathbb Qを除いて得られる。端点を含む完備化は完備束であるが、端点を除いたD\mathcal Dは完備束ではなく、空でなく上に有界な部分集合に上限を与える順序体である。また、主下方集合↓q\mathord\downarrow qは対応のもとで厳密下集合q∗q^*へ移る。したがって、順序完備化との関係を保ちながら、体の零元と単位元を0∗,1∗0^*,1^*として実現している。

問題 3.8.A=(−1)∗A=(-1)^*、B=1∗B=1^*とする。素朴な積{ab∣a∈A, b∈B}\{ab\mid a\in A,\ b\in B\}がQ\mathbb Qに等しいことを示せ。

解答.

この集合がQ\mathbb Qに含まれることは定義から従う。逆にp∈Qp\in\mathbb Qを取り、a=min⁡{−1,p}−1a=\min\{-1,p\}-1とおく。a≤−2a\leq-2なのでa∈Aa\in Aであり、とくにa<0a<0である。b=p/ab=p/aとおくとab=pab=pである。a≤p−1<pa\leq p-1<pの両辺を負のaaで割ると不等号の向きが変わるのでp/a<1p/a<1、すなわちb∈Bb\in Bとなる。よってppは素朴な積に属する。▨

4 複素数体

定義 4.1 (複素数、複素絶対値). 実数の組(x,y)∈R2(x,y)\in\mathbb R^2をx+iyx+iyと書き、複素数 (complex number) と呼ぶ。複素数全体の集合、すなわちR2\mathbb R^2をC\mathbb Cと書く。z=x+iyz=x+iyとw=s+itw=s+itに対して

z+w=(x+s)+i(y+t),−z=−x−iy,zw=(xs−yt)+i(xt+ys)z+w=(x+s)+i(y+t),\qquad -z=-x-iy,\qquad zw=(xs-yt)+i(xt+ys)

と定め、z−w=z+(−w)z-w=z+(-w)と定める。w≠0w\ne0の場合には

zw=xs+yts2+t2+iys−xts2+t2\frac zw=\frac{xs+yt}{s^2+t^2}+i\frac{ys-xt}{s^2+t^2}

と定める。§E1.12 命題 2.1は零でない実数の平方が正であることを与えるので、02=00^2=0とあわせて0≤x20\leq x^2かつ0≤y20\leq y^2、したがって0≤x2+y20\leq x^2+y^2である。よって命題 3.3はその非負平方根をただ一つ与える。これを∣z∣=x2+y2|z|=\sqrt{x^2+y^2}と書き、zzの 複素絶対値 (complex modulus) と呼ぶ。0=0+i00=0+i0、1=1+i01=1+i0と定め、正の整数乗は乗法の反復によって定める。

命題 4.2.定義 4.1の和と積によって、C\mathbb Cは零元(0,0)(0,0)と単位元(1,0)(1,0)をもつ体である。埋め込みa↦(a,0)a\mapsto(a,0)によってR\mathbb Rを部分体とみなすことができる。しかし、C\mathbb Cにはこの体演算と両立する全順序が存在しない。

証明. 加法についての可換群の公理は成分ごとにR\mathbb Rの公理から従い、(a,b)(a,b)の加法逆元は(−a,−b)(-a,-b)である。積の交換律と分配律は定義式を展開してR\mathbb Rの交換律と分配律を適用すれば従う。結合律は

((a,b)(c,d))(e,f)=(ace−adf−bde−bcf, acf+ade+bce−bdf),(a,b)((c,d)(e,f))=(ace−adf−bde−bcf, acf+ade+bce−bdf)\begin{aligned} ((a,b)(c,d))(e,f) &=(ace-adf-bde-bcf,\ acf+ade+bce-bdf),\\ (a,b)((c,d)(e,f)) &=(ace-adf-bde-bcf,\ acf+ade+bce-bdf) \end{aligned}

から従う。また(1,0)(1,0)は積の単位元である。

(a,b)≠(0,0)(a,b)\neq(0,0)とする。定理 3.1と§E1.12 命題 2.1によりa2+b2>0a^2+b^2>0なので、この元は零でなく、逆元をもつ。直接計算すると

(a,b)−1=(aa2+b2,−ba2+b2)(a,b)^{-1}=\left(\frac{a}{a^2+b^2},\frac{-b}{a^2+b^2}\right)

である。したがってC\mathbb Cは体である。写像a↦(a,0)a\mapsto(a,0)が単射で和、積、零元および単位元を保つことは定義式から従う。

i=(0,1)i=(0,1)とおくとi≠0i\neq0かつi2=(−1,0)i^2=(-1,0)である。もしC\mathbb Cに体演算と両立する全順序があれば、§E1.12 命題 2.1により0<i20<i^2である。一方、同じ命題から0<10<1であるから−1<0-1<0であり、i2=−1i^2=-1と矛盾する。よってそのような全順序は存在しない。▨

参考文献

  1. Richard Dedekind, Essays on the Theory of Numbers, translated by Wooster Woodruff Beman, Dover Publications, New York, 1963, originally published 1901.
  2. Edmund Landau, Foundations of Analysis, translated by F. Steinhardt, 3rd ed., Chelsea Publishing Company, 1966.

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