1 超限帰納法
順序数αは、属する関係によって整列された推移的集合である(§E1.16 定義 2.1)。したがってαの空でない部分集合は最小元をもつ。この一点から帰納法の原理が出る。
定理 1.1.Pを順序数に対する性質とし、Pは集合を値とするパラメータを含んでよい論理式によって与えられているとする。基礎とする体系は分出公理スキーマを含むとする。このとき次が成り立つ。
- αを順序数とする。β<αを満たす任意の順序数βについて「ξ<βを満たすすべての順序数ξでP(ξ)が成り立つならばP(β)が成り立つ」が成り立つならば、β<αを満たすすべての順序数βについてP(β)が成り立つ。
- 任意の順序数βについて「ξ<βを満たすすべての順序数ξでP(ξ)が成り立つならばP(β)が成り立つ」が成り立つならば、すべての順序数βについてP(β)が成り立つ。
- (1)と(2)の仮定は、β=0の場合、βが後続順序数である場合、およびβが極限順序数である場合の三つに分けて確かめてよい。β=0の場合、ξ<0を満たす順序数は存在しないので前提は空虚に成り立ち、P(0)を無条件に示すことが要求される。
本定理は、性質Pを一つ固定するごとに一つの主張を与える。Pの全体を対象として量化した主張ではない。
証明.(1)を示す。仮定のもとで、β<αかつP(β)が成り立たない順序数βが存在するとする。Pを与える論理式に分出公理スキーマを適用して、部分集合
S={β∈α∣P(β) が成り立たない}を作る。仮定によりSは空でない。Sは順序数αの部分集合であるから、§E1.16 定義 2.1により最小元β0をもつ。ξ<β0を満たす順序数ξを取る。ξ∈β0∈αでありαは推移的であるからξ∈αである。β0の最小性によりξ∈/SであるからP(ξ)が成り立つ。β0<αに仮定を適用するとP(β0)が成り立ち、β0∈Sに反する。よってSは空であり、β<αを満たすすべてのβでP(β)が成り立つ。
(2)を示す。順序数βを任意に取る。順序数β+1に対する(1)の仮定は、いま仮定した条件の特別な場合である。β<β+1であるから(1)によりP(β)が成り立つ。
(3)を示す。§E1.16 命題 4.2 (4)により、順序数はいずれも0、後続順序数、極限順序数のちょうど一つに当たる。したがって仮定の含意を三つの場合に分けて確かめれば、すべてのβについて確かめたことになる。β=0についてはξ<0を満たす順序数が存在しないので、前提「ξ<0を満たすすべてのξでP(ξ)が成り立つ」は空虚に成り立ち、含意はP(0)と同じ内容になる。▨
順序数の帰納法では、0の段と後続の段を確かめても極限段は埋まらない。次の性質がその証人である。
例 1.3. 「順序数」の§E1.16 命題 4.8が与える有限順序数の全体をωと書く。§E1.16 命題 4.8 (1)によりωは極限順序数である。順序数の性質Pを「β<ω」と定める。
0は有限順序数であるから0∈ωであり、P(0)が成り立つ。P(β)が成り立つとするとβ<ωであり、§E1.16 系 4.3によりβ+1<ω、すなわちP(β+1)が成り立つ。
一方でP(ω)は成り立たない。§E1.16 命題 2.3 (2)によりω∈/ωだからである。
したがって、P(0)と「P(β)ならばP(β+1)」を確かめただけでは、すべての順序数についてPが成り立つとは結論しない。定理 1.1 (3)の三つの場合のうち、極限順序数の場合を落とすことはできない。
2 超限再帰
値を定める側へ移る。ここで用いるGは集合とは限らない。Gは、条件を満たす関数gの各々に対して集合G(g)をただ一つ指定する対応であり、論理式によって与えられているものとする。以下ではこの対応を規則と呼ぶ。
定理 2.1.αを順序数とする。β<αを満たす順序数βを定義域とする関数gの各々に対して、規則Gが集合G(g)をただ一つ定めるとする。ここにはβ=0の場合、すなわちgが空関数∅である場合を含む。基礎とする体系は置換公理スキーマを含むとする。このとき次が成り立つ。
- 定義域がαであり、β<αを満たすすべての順序数βについてf(β)=G(f∣β)を満たす関数fが、ただ一つ存在する。
- このfは集合であり、その値域{f(β)∣β<α}は集合である。
値G(g)は任意の集合でよく、順序数に限らない。α=θ+1に適用した場合にはθ<θ+1であるから、上端の値f(θ)=G(f∣θ)自身が得られる。
規則Gは、gの定義域が0であるか、後続順序数であるか、極限順序数であるかに応じて場合分けして与えてよい。この三つの場合は尽くしていて互いに排反である(§E1.16 命題 4.2 (4))から、各場合において値がただ一つの集合として定まれば、Gは上の仮定を満たす。
証明. 順序数β≤αと関数gについて、gがβ段の解であるとは、gの定義域がβであり、γ<βを満たすすべての順序数γについてg(γ)=G(g∣γ)が成り立つことをいう。β≤αかつγ<βならばγ<αであるから、G(g∣γ)は定まっている。
主張 2.1.1.β≤β′≤αとし、gをβ段の解、hをβ′段の解とする。このときγ<βを満たすすべての順序数γについてg(γ)=h(γ)である。
証明.P(γ)を「g(γ)=h(γ)」と定める。この性質はgとhを集合を値とするパラメータとして含む論理式で与えられている。γ<βを取り、ξ<γを満たすすべてのξでP(ξ)が成り立つとすると、g∣γ=h∣γである。γ<β≤β′であるから
g(γ)=G(g∣γ)=G(h∣γ)=h(γ)となり、P(γ)が成り立つ。順序数βに対して定理 1.1 (1)を適用すると、γ<βを満たすすべてのγでP(γ)が成り立つ。▨
順序数どうしは大小について比較可能である(§E1.16 命題 2.5 (2))から、主張 2.1.1により、二つの段の解は共通の定義域で一致する。とくに、同じ定義域をもつ二つの段の解は等しい。
主張 2.1.2.β≤αを満たすすべての順序数βに対して、β段の解が存在する。
証明.P(β)を「β段の解が存在する」と定める。§E1.16 命題 4.2によりβ<α+1とβ≤αは同値であるから、順序数α+1に対して定理 1.1 (1)を適用すればよい。β<α+1を取り、γ<βを満たすすべてのγでγ段の解が存在するとする。定理 1.1 (3)に従い、三つの場合を確かめる。
β=0の場合、空関数∅の定義域は0であり、条件は空虚に成り立つので、∅は0段の解である。
β=γ+1の場合、γ<β≤αであるからγ<αであり、仮定によりγ段の解hが存在する。G(h)は集合であるから、対の公理と和集合の公理により
g=h∪{(γ,G(h))}は集合である。その定義域はγ∪{γ}=βである。ξ<γについてはg∣ξ=h∣ξであるからg(ξ)=h(ξ)=G(h∣ξ)=G(g∣ξ)であり、ξ=γについてはg∣γ=hであるからg(γ)=G(h)=G(g∣γ)である。よってgはβ段の解である。
βが極限順序数である場合、γ<βを満たす各γに対してγ段の解が存在し、主張 2.1.1によりそれはただ一つである。これをhγと書く。したがって論理式「yはγ段の解である」は、集合βの各元γに対して集合yをただ一つ定める。この論理式と集合βへ置換公理スキーマを適用すると、集合{hγ∣γ<β}が得られる。和集合の公理により
g=γ<β⋃hγは集合である。主張 2.1.1によりhγたちは共通の定義域で一致するから、gは関数であり、その定義域は⋃γ<βγ=⋃βである。§E1.16 命題 4.5 (2)によりこれはβに等しい。ξ<βを取ると§E1.16 系 4.3によりξ+1<βであり、g∣ξ=hξ+1∣ξであるから
g(ξ)=hξ+1(ξ)=G(hξ+1∣ξ)=G(g∣ξ)となる。よってgはβ段の解である。▨
主張 2.1.2をβ=αに適用するとα段の解fが得られ、これは定義域αをもちf(β)=G(f∣β)を満たす。主張 2.1.1により、そのような関数は一つしかない。以上が(1)である。
fは順序対の集合であるから集合である。その値域は、和集合の公理で作った⋃⋃fから、論理式「あるβについて(β,y)∈fが成り立つ」によって分出公理スキーマで取り出すことができる。よって(2)が成り立つ。▨
規則が意図した入力に対してだけ与えられている場合には、次の一手で仮定を満たす形に直すことができる。
命題 2.3.αを順序数とする。β<αを満たす順序数βを定義域とする関数のうちどれを意図した入力とするかを、一つの論理式が指定しているとする。意図した入力であるgの各々に対して、規則G0が集合G0(g)をただ一つ定めるとする。β<αを満たす順序数βを定義域とする関数gに対して
G(g)={G0(g)∅(g が意図した入力である場合),(それ以外の場合)と定めると、次が成り立つ。
- Gは、β<αを満たす順序数βを定義域とする関数の各々に対して集合をただ一つ定める。したがって、定義域がαであり、β<αを満たすすべてのβについてf(β)=G(f∣β)を満たす関数fがただ一つ存在する。
- さらに、β<αを満たすすべてのβについてf∣βが意図した入力であるならば、fはβ<αを満たすすべてのβについてf(β)=G0(f∣β)を満たす。
証明.β<αを満たす順序数βを定義域とする関数gを取る。gが意図した入力であるか否かのいずれか一方だけが成り立ち、前者ではG0(g)が、後者では∅が、それぞれただ一つの集合である。よってGは規則としての条件を満たし、定理 2.1 (1)がfを与える。これが(1)である。
(2)の仮定のもとでは、β<αを満たす各βについてf∣βが意図した入力であるからG(f∣β)=G0(f∣β)であり、f(β)=G0(f∣β)を得る。▨
(2)の仮定、すなわち各制限f∣βが意図した入力であることは、多くの場合定理 1.1 (1)で確かめる。既定値は∅でなくてもよく、任意の集合に置き換えても同じ結論が成り立つ。
場合分けで規則を与える形を、独立した主張として取り出しておく。
系 2.4.αを順序数、aを集合とする。順序数βと集合uの各々に対して集合H(β,u)をただ一つ定める規則Hと、極限順序数λと定義域λをもつ関数uの各々に対して集合L(λ,u)をただ一つ定める規則Lが与えられたとする。このとき、定義域がαである関数fがただ一つ存在して、次の三つを満たす。
- 0<αならばf(0)=aである。
- β+1<αならばf(β+1)=H(β,f(β))である。
- λ<αが極限順序数ならばf(λ)=L(λ,f∣λ)である。
証明.β<αを満たす順序数βを定義域とする関数gに対して、規則Gを次で定める。β=0のときG(g)=a、β=γ+1のときG(g)=H(γ,g(γ))、βが極限順序数のときG(g)=L(β,g)とする。§E1.16 命題 4.2 (4)により三つの場合は尽くしていて互いに排反であり、各場合の値はただ一つの集合であるから、Gは規則としての条件を満たす。定理 2.1 (1)が与える関数をfとする。
0<αならばf(0)=G(f∣0)であり、f∣0の定義域は0であるからf(0)=aである。β+1<αならばf(β+1)=G(f∣(β+1))であり、f∣(β+1)の定義域は後続順序数β+1であるからf(β+1)=H(β,f(β))である。λ<αが極限順序数ならばf(λ)=G(f∣λ)=L(λ,f∣λ)である。
一意性を示す。定義域αの関数f′が三つの等式を満たすとする。β<αを取ると、βが0、後続順序数、極限順序数のいずれであるかに応じて、f′(β)=G(f′∣β)が成り立つ。よってf′は定理 2.1 (1)の条件を満たし、f′=fである。▨
0の段と後続の段だけを指定しても、関数は定まらない。
例 2.5.α=ω+1とし、定義域ω+1の関数fに、f(0)=0および「β+1<ω+1ならばf(β+1)=f(β)+1」の二つだけを課す。
β+1<ω+1は§E1.16 命題 4.2によりβ+1≤ωと同値であり、ωは極限順序数(§E1.16 命題 4.8 (1))であるからβ+1=ωである。したがって課した等式はすべてωより小さい段に関するものであり、f(ω)には何の条件も課されていない。
n<ωについては定理 1.1 (1)を順序数ωに対して用いるとf(n)=nが定まる。§E1.16 命題 4.8 (2)によりどの極限順序数もω以上であるからω未満の順序数に極限順序数は無く、定理 1.1 (3)の三つの場合のうち極限順序数の場合は空虚に成り立つ。残る二つは、f(0)=0であり、f(n)=nならばf(n+1)=f(n)+1=n+1であることによる。一方で
f1={(n,n)∣n<ω}∪{(ω,0)},f2={(n,n)∣n<ω}∪{(ω,ω)}はいずれも定義域ω+1をもち、課した二つの条件を満たし、f1(ω)=0=ω=f2(ω)であるから互いに異なる。
したがって系 2.4 (3)の極限段の規則を落とすことはできない。超限再帰が直前の値ではなく制限f∣βの全体を規則へ渡す形をとるのは、この段に値を与えるためである。
長さを伸ばして得た関数どうしは、共通の定義域で一致する。この整合性が、順序数を添字とする族を与える。
系 2.6. 順序数を定義域とする関数gの各々に対して、規則Gが集合G(g)をただ一つ定めるとする。順序数αの各々に対して、定理 2.1 (1)が与える定義域αの関数をfαと書く。このとき次が成り立つ。
- 順序数α≤α′に対してfα′∣α=fαである。
- 順序数βの各々に対して、値fα(β)はβ<αを満たす順序数αの取り方に依存しない。この値をF(β)と書き、順序数αについてF∣α={(β,F(β))∣β<α}と定める。任意の順序数αについてF∣α=fαであり、任意の順序数βについてF(β)=G(F∣β)が成り立つ。
証明.(1)を示す。fα′∣αの定義域はαである。β<αを取るとβ<α′であり、(fα′∣α)∣β=fα′∣βであるから
(fα′∣α)(β)=fα′(β)=G(fα′∣β)=G((fα′∣α)∣β)である。よってfα′∣αは、定理 2.1 (1)が定義域αについて述べる条件を満たす。一意性からfα′∣α=fαである。
(2)を示す。β<αかつβ<α′とする。順序数どうしは大小について比較可能である(§E1.16 命題 2.5 (2))からα≤α′としてよく、(1)によりfα′(β)=(fα′∣α)(β)=fα(β)である。よって値はαの取り方に依存せず、F(β)と書くことができる。順序数αとβ<αに対してF(β)=fα(β)であるからF∣α=fαである。最後に、順序数βに対してα=β+1を取ると
F(β)=fβ+1(β)=G(fβ+1∣β)=G(F∣β)である。▨
3 極限段と置換公理スキーマ
例 3.2.α=ω+1、a=ω、H(β,u)=P(u)、L(λ,u)=⋃{u(γ)∣γ<λ}として系 2.4を適用すると、定義域ω+1の関数fがただ一つ得られ、
f(0)=ω,f(n+1)=P(f(n))(n<ω),f(ω)=n<ω⋃f(n)を満たす。
極限段ωに値を与えるためには、{f(n)∣n<ω}が集合であることが要る。注意 3.1が名指すとおり、この集合を与えるものが置換公理スキーマである。f(n)をすべて含む集合はあらかじめ与えられていないので、この族を分出公理スキーマで取り出すことはできない。
4 順序数の和と積
「順序数」は、整列集合を並べることによって順序数の和と積を定めた(§E1.16 定義 5.2)。術語「順序数の和」「順序数の積」と記号α+β、α⋅βはそこが所有する。同じ二つの演算を、超限再帰による定義として述べ直す。以下で再帰によって定める値がそこで定めた値に一致することは、命題 4.4が示す。
設定 順序数αを固定する。順序数を定義域とする関数gに対して、規則Gαを、gの定義域が0のときGα(g)=α、後続順序数γ+1のときGα(g)=g(γ)∪{g(γ)}、極限順序数λのときGα(g)=⋃{g(γ)∣γ<λ}と定める。この三つの場合は尽くしていて互いに排反である(§E1.16 命題 4.2 (4))。三つの値はいずれも任意の集合g(γ)に対して定まるので、Gαは順序数を定義域とする関数の各々に対して集合をただ一つ定める。系 2.6 (2)が与えるFの値F(β)をα+βと書く。
積の側では、値がすべて順序数であるgを意図した入力とし、意図した入力であるgに対して規則G0,α′を、gの定義域が0のときG0,α′(g)=0、後続順序数γ+1のときG0,α′(g)=g(γ)+α、極限順序数λのときG0,α′(g)=⋃{g(γ)∣γ<λ}と定める。後続の場合のg(γ)+αは、g(γ)が順序数であることによって定まっている。命題 2.3が用いる一手により、規則Gα′を、意図した入力であるgに対してGα′(g)=G0,α′(g)、それ以外のgに対してGα′(g)=∅と定める。gが意図した入力であるか否かのいずれか一方だけが成り立つから、Gα′もまた順序数を定義域とする関数の各々に対して集合をただ一つ定める。系 2.6 (2)がGα′に対して与えるものをF′と書き、その値F′(β)をα⋅βと書く。
和の側の漸化式は、規則の三つの場合をそのまま読めば得られる。
命題 4.1.αを順序数とする。次が成り立つ。
- 順序数βと極限順序数λについて、α+0=α、α+(β+1)=(α+β)+1、およびα+λ=⋃γ<λ(α+γ)が成り立つ。ここでu+1は§E1.16 定義 4.1の後続u∪{u}を表す。
- α+1=α∪{α}である。すなわち、和としてのα+1はαの後続に一致する。
証明.(1)を示す。系 2.6 (2)により、順序数βについてα+β=Gα(F∣β)である。F∣βの定義域はβであるから、βが0、後続順序数γ+1、極限順序数λのそれぞれについてGαの定め方を読むと、α+0=α、α+(γ+1)=(α+γ)∪{α+γ}=(α+γ)+1、α+λ=⋃{α+γ∣γ<λ}を得る。
(2)を示す。1は0の後続であるから、いま示した第二の等式をβ=0に適用するとα+1=(α+0)+1であり、第一の等式によりα+0=αであるからα+1=α∪{α}である。▨
命題 4.2.αとβを順序数とすると、次が成り立つ。
- α+βは順序数である。極限順序数λについては、α+λは{α+γ∣γ<λ}の最小上界である。
- α⋅βは順序数である。極限順序数λについては、α⋅λは{α⋅γ∣γ<λ}の最小上界である。
- 積を与えるF′の制限F′∣βはどれも意図した入力であり、α⋅0=0、α⋅(β+1)=α⋅β+α、および極限順序数λについてα⋅λ=⋃γ<λ(α⋅γ)が成り立つ。
証明.αを固定し、(1)をβに関する定理 1.1 (2)で示す。αは任意に取ったので、すべての対(α,β)について主張が従う。定理 1.1 (3)に従って三つの場合を確かめる。
β=0では命題 4.1 (1)によりα+0=αが順序数である。
β=γ+1では、帰納の仮定によりα+γが順序数であり、命題 4.1 (1)と§E1.16 命題 4.2 (1)によりその後続(α+γ)+1=α+βも順序数である。
βが極限順序数λである場合、帰納の仮定により各α+γ(γ<λ)は順序数である。定理 2.1 (2)によりA={α+γ∣γ<λ}は集合であり、順序数からなる。§E1.16 補題 4.4により⋃Aは順序数であってAの最小上界である。命題 4.1 (1)によりα+λ=⋃Aであるから、主張が成り立つ。
(2)と(3)を、αを固定してβに関する同じ帰納法で同時に示す。性質を「α⋅βは順序数である」と定める。βを取り、γ<βを満たすすべてのγについてα⋅γが順序数であるとすると、F′∣βの値はすべて順序数であるからF′∣βは意図した入力であり、系 2.6 (2)によりα⋅β=Gα′(F′∣β)=G0,α′(F′∣β)である。
β=0ではα⋅0=0が順序数である。
β=γ+1ではα⋅β=(α⋅γ)+αであり、いま示した(1)を第一引数α⋅γと第二引数αに適用すると、これは順序数である。
βが極限順序数λである場合はα⋅λ=⋃{α⋅γ∣γ<λ}であり、和の場合と同じ議論により、α⋅λは{α⋅γ∣γ<λ}の最小上界である順序数である。
以上により、すべての順序数βについてα⋅βは順序数である。したがってF′∣βはどれも意図した入力であり、上の三つの場合で読んだ等式がそのまま(3)の三つの等式である。▨
整列集合(W,<)の順序型ot(W)は、§E1.16 定理 3.1と§E1.16 定義 3.2が与える。次の補題が、極限段で順序型と上限を結ぶ。
補題 4.3.Wを整列集合、λを極限順序数とし、Wの始切片の族(Wγ)γ<λが、γ≤δ<λのときWγ⊆Wδを満たし、かつW=⋃γ<λWγを満たすとする。このとき{ot(Wγ)∣γ<λ}は順序数からなる集合であり、ot(W)はその最小上界である。
証明.φ:W→ot(W)を順序同型とし、γ<λを取る。Wγ=Wの場合はφ(Wγ)=ot(Wγ)=ot(W)である。WγがWの真の始切片である場合は、§E1.16 補題 1.3によりWγ=W<aを満たすa∈Wがあり、§E1.16 系 3.3によりot(Wγ)=φ(a)∈ot(W)である。φは順序同型であるからφ(Wγ)={ζ∈ot(W)∣ζ<φ(a)}であり、§E1.16 命題 2.3 (3)によりこれはφ(a)に等しい。いずれの場合もot(Wγ)=φ(Wγ)であり、ot(Wγ)は順序数であってot(Wγ)≤ot(W)である。よってB={ot(Wγ)∣γ<λ}はot(W)+1の部分集合であり、§E1.13 定義 2.1により集合である。
ot(W)がBの上界であることは既に示した。Bの上界δを任意に取る。ζ<ot(W)とするとζ=φ(w)を満たすw∈Wがあり、仮定によりw∈Wγを満たすγ<λがある。よってζ∈φ(Wγ)=ot(Wγ)、すなわちζ<ot(Wγ)≤δである。したがってot(W)⊆δ、すなわちot(W)≤δである。以上によりot(W)はBの最小上界である。▨
命題 4.4.αとβを順序数とし、§E1.16 命題 5.1の二つの整列集合(S(α,β),≺)と(β×α,<lex)を取る。このとき次が成り立つ。
- ot(S(α,β),≺)=α+βである。
- ot(β×α,<lex)=α⋅βである。
証明.αを固定し、(1)をβに関する定理 1.1 (2)で示す。αは任意に取ったので、すべての対(α,β)について主張が従う。
β=0の場合、S(α,0)={0}×αであり、ξ↦(0,ξ)はαからの順序同型であるから、命題 4.1 (1)によりot(S(α,0))=α=α+0である。
β=γ+1の場合、S(α,γ+1)=S(α,γ)∪{(1,γ)}であり、(1,γ)は最大元、S(α,γ)は始切片である。帰納の仮定により順序同型ψ:S(α,γ)→α+γがある。α+γは(α+γ)+1=(α+γ)∪{α+γ}の最大元であり、§E1.16 命題 2.3 (2)によりα+γ∈/α+γであるから、ψに(1,γ)↦α+γを付け加えると、S(α,γ+1)から(α+γ)+1への順序同型を得る。命題 4.1 (1)によりot(S(α,γ+1))=(α+γ)+1=α+(γ+1)である。
βが極限順序数λの場合、γ<λに対してS(α,γ)はS(α,λ)の始切片であり、γ≤δ<λならばS(α,γ)⊆S(α,δ)である。§E1.16 命題 4.5 (2)によりλ=⋃λ=⋃γ<λγであるからS(α,λ)=⋃γ<λS(α,γ)である。補題 4.3によりot(S(α,λ))は{ot(S(α,γ))∣γ<λ}の最小上界であり、帰納の仮定によりこの集合は{α+γ∣γ<λ}である。命題 4.2 (1)によりその最小上界はα+λであり、最小上界は一つしかないからot(S(α,λ))=α+λである。
(2)も、αを固定してβに関する同じ帰納法で示す。
β=0の場合、0×α=∅であるから、命題 4.2 (3)によりot(0×α)=0=α⋅0である。
β=γ+1の場合、(γ+1)×α=(γ×α)∪({γ}×α)であり、γ×αは始切片である。帰納の仮定により順序同型χ:γ×α→α⋅γがある。写像
(ξ,ζ)↦(0,χ(ξ,ζ))(ξ<γ),(γ,ζ)↦(1,ζ)は(γ+1)×αからS(α⋅γ,α)への全単射である。第一成分がともにγより小さい二元の比較はχが順序同型であることから移り、第一成分がともにγである二元の比較は第二成分の比較であって(1,⋅)どうしの比較に移り、第一成分がγより小さい元とγである元の比較は前者が小さいことであって(0,⋅)と(1,⋅)の比較に移る。よって順序を保ち反映する。したがって(1)と命題 4.2 (3)により
ot((γ+1)×α)=ot(S(α⋅γ,α))=α⋅γ+α=α⋅(γ+1)である。
βが極限順序数λの場合、γ<λに対してγ×αはλ×αの始切片であり、γ≤δ<λならばγ×α⊆δ×αである。§E1.16 命題 4.5 (2)によりλ×α=⋃γ<λ(γ×α)である。補題 4.3と帰納の仮定によりot(λ×α)は{α⋅γ∣γ<λ}の最小上界であり、命題 4.2 (2)によりこれはα⋅λである。▨
この二つの等式は、§E1.16 定義 5.2が順序型として定めた和と積が、本節が超限再帰で定めた値にほかならないことを述べている。
和も積も、二つの引数を入れ替えると値が変わる。
例 4.5.§E1.16 命題 4.8 (1)によりωは極限順序数であり、§E1.16 命題 4.8 (2)によりωより小さい順序数に極限順序数は無い。
n<ωについて1+n=n+1が成り立つ。これは定理 1.1 (1)を順序数ωに対して用いれば従う。ωより小さい順序数に極限順序数は無いので、定理 1.1 (3)の三つの場合のうち極限順序数の場合は空虚に成り立つ。残る二つは、1+0=1=0+1であり、1+n=n+1ならば1+(n+1)=(1+n)+1=(n+1)+1であることによる。したがって命題 4.1 (1)により
1+ω=n<ω⋃(1+n)=n<ω⋃(n+1)である。n<ωのとき§E1.16 命題 4.2 (2)によりn+1≤ωであるから、ωはこの集合の上界である。またm<ωに対してm∈m+1でありm+1はこの集合の元であるから、ωより小さい上界は存在しない。命題 4.2 (1)により1+ωはこの集合の最小上界であるから1+ω=ωである。一方命題 4.1 (2)によりω+1=ω∪{ω}であり、§E1.16 命題 2.3 (2)によりω∈/ωであるからω+1=ωである。よって1+ω=ω+1である。
積についても同様である。以下の二つの帰納法はいずれも順序数ωに対する定理 1.1 (1)であり、ωより小さい順序数に極限順序数は無いので、定理 1.1 (3)の極限順序数の場合はどちらも空虚に成り立つ。まずn<ωについて2⋅n<ωが成り立つ。2⋅0=0∈ωであり、2=1+1から命題 4.2 (3)により2⋅(n+1)=2⋅n+2=((2⋅n)+1)+1となって、§E1.16 系 4.3を二度用いるとこれはωに属するからである。次にn≤2⋅nがnに関する帰納法で従う。0≤0であり、n≤2⋅nからn<(2⋅n)+1、したがって§E1.16 命題 4.2 (2)によりn+1≤(2⋅n)+1<2⋅(n+1)が得られるからである。よってm<ωに対してm<m+1≤2⋅(m+1)であり、{2⋅n∣n<ω}の上界のうちωより小さいものは存在しない。ω自身は上界であるから、命題 4.2 (2)により2⋅ω=ωである。
他方、命題 4.2 (3)によりω⋅2=ω⋅1+ω=(ω⋅0+ω)+ω=(0+ω)+ωである。0+β=βはすべての順序数βについて成り立つ(§E1.16 命題 5.3 (1)と命題 4.4)からω⋅2=ω+ωである。命題 4.2 (1)によりω+ωは{ω+n∣n<ω}の上界であり、ω<ω+1であるからω<ω+ωである。よって2⋅ω=ω=ω+ω=ω⋅2である。
5 演習
問題 5.1. すべての順序数βについて0+β=βが成り立つことを、本記事の超限再帰による定義から証明せよ。同じ主張は「順序数」が§E1.16 命題 5.3 (1)として順序型による定義から示している。
解答.
定理 1.1 (2)を、性質「0+β=β」に対して用いる。定理 1.1 (3)に従って三つの場合を確かめる。
β=0の場合、命題 4.1 (1)により0+0=0である。
β=γ+1の場合、命題 4.1 (1)と帰納の仮定0+γ=γから0+(γ+1)=(0+γ)+1=γ+1である。
βが極限順序数λの場合、命題 4.1 (1)と帰納の仮定0+γ=γ(γ<λ)により
0+λ=γ<λ⋃(0+γ)=γ<λ⋃γであり、⋃γ<λγ=⋃λであるから§E1.16 命題 4.5 (2)によりこれはλに等しい。▨
問題 5.2. 順序数α,γ,δについて、γ<δならばα+γ<α+δが成り立つことを、本記事の超限再帰による定義から証明せよ。同じ主張は「順序数」が§E1.16 命題 5.3 (4)として順序型による定義から示している。
解答.
αを固定し、性質P(δ)を「γ<δを満たすすべての順序数γについてα+γ<α+δが成り立つ」と定めて定理 1.1 (2)を用いる。定理 1.1 (3)に従って三つの場合を確かめる。
δ=0の場合、γ<0を満たす順序数は存在しないのでP(0)は空虚に成り立つ。
δ=η+1の場合、γ<η+1は§E1.16 命題 4.2によりγ≤ηと同値である。γ=ηならば、命題 4.2 (1)によりα+ηは順序数であり、§E1.16 命題 4.2により
α+γ=α+η<(α+η)+1=α+δである。γ<ηならば、帰納の仮定P(η)からα+γ<α+ηであり、いま示したα+η<α+δとあわせてα+γ<α+δを得る。
δが極限順序数λの場合、γ<λを取る。§E1.16 系 4.3によりγ+1<λである。命題 4.2 (1)によりα+λは{α+ζ∣ζ<λ}の上界であるからα+(γ+1)≤α+λであり、
α+γ<(α+γ)+1=α+(γ+1)≤α+λとなる。▨
問題 5.3.αを順序数とし、値が順序数である関数g(定義域はαより小さい順序数)に対してだけ
G0(g)=⋃{g(γ)+1∣γ∈domg}が定められているとする。命題 2.3によって定義域αの関数fを得たとき、β<αを満たすすべてのβについてf(β)=βが成り立つことを証明せよ。
解答.
値が順序数である関数を意図した入力とし、それ以外のgに対してはG(g)=∅と定める。命題 2.3 (1)により、定義域αの関数fがただ一つ定まる。
性質P(β)を「f(β)=β」と定めて定理 1.1 (1)を用いる。β<αを取り、ξ<βを満たすすべてのξについてf(ξ)=ξが成り立つとする。このときf∣βの値はすべて順序数であるから、f∣βは意図した入力であり、f(β)=G0(f∣β)である。よって
f(β)=⋃{f(γ)+1∣γ<β}=⋃{γ+1∣γ<β}である。γ<βのとき§E1.16 命題 4.2によりγ+1≤β、すなわちγ+1⊆βであるから、この和集合はβに含まれる。逆にξ<βならばξ∈ξ+1でありξ+1はこの族の元であるから、ξは和集合に属する。よってf(β)=βである。定理 1.1 (1)により、β<αを満たすすべてのβについてf(β)=βが成り立つ。▨
この記事が与えた二つの原理は、以降の記事が構成の道具として用いる。「選択公理と Zorn の補題」は、選択公理から従属選択公理を導くときに列を再帰的に定義する。「基数とアレフ」は、注意 2.7の形でアレフ階層を定義し、極限の段で上限を取る。「基数算術」は、無限基数の和と積の評価を超限帰納法で証明する。順序数の全体を対象とする議論を、集合でない集まりの言語で形式的に扱うことは「公理的集合論」が行う。